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捜査報告書に書かれた警察官の意見・説明の証拠能力―刑訴法321条3項の「検証の結果」と4項の「鑑定」の限界(AI作成)

第1 本記事の範囲

本記事は,刑事裁判で検察官が請求する捜査報告書,実況見分調書及び写真撮影報告書について,捜査官が観察した結果の部分,写真・動画の部分及び捜査官の意見・説明の部分を分け,それぞれがどの条文によって証拠となるかを整理するものである。
令和8年9月28日現在の刑事訴訟法の条文と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判所の判例等を基にしている。

捜査報告書という名称は刑事訴訟法の条文上の用語ではなく,その書面が刑事訴訟法321条3項の「検証の結果を記載した書面」に当たるか,同条4項の鑑定書に当たるか,それ以外の供述書に当たるかは,記載された内容ごとに決まる。
特に,写真に添えられた「この写真の注射器は,覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である」といった捜査官の説明文は,捜査官が見た物の状態の記載ではなく,捜査官の経験に基づく意見であるから,写真や観察結果と同じ条文で証拠になるわけではない。

第2 捜査報告書を部分に分ける

1 分けて考える理由

刑事訴訟法320条1項は,同法321条から328条までに規定する場合を除いては,公判期日における供述に代えて書面を証拠とすることができないと定めている。
捜査報告書は捜査官が公判期日外に作成した書面であるから,被告人側が証拠とすることに同意しない限り(刑事訴訟法326条1項),伝聞例外のいずれかに当たらなければ証拠とすることができない。

一通の報告書の中に,捜査官が五官で認識した物の状態,機械的に記録された写真,立会人や関係者の発言,及び捜査官自身の意見・評価が混在していることは珍しくない。
これらは,内容の真実性を証明するために用いるかどうか,誰の知覚・記憶・叙述の正確性が問題となるかが異なるため,部分ごとに要証事実との関係を確かめ,それぞれに当てはまる条文を選ぶ必要がある。

2 部分ごとの整理

本記事では,捜査報告書の記載を次のように分けて整理する。

部分例伝聞性根拠となる規定・判例
捜査官が観察した物の状態押収したスマートフォンを見分し,動画の一場面を静止画として出力したこと検証の結果として伝聞例外による刑訴法321条3項,最高裁昭和35年9月8日判決
立会人の指示説明被害者が「ここで衝突した」と指し示した地点見分の手段として記載する限り見分の結果の一部最高裁昭和36年5月26日判決
写真・動画床上に未開封の注射器12本が置かれた静止画非供述証拠(関連性で足りる)最高裁昭和59年12月21日決定
再現者の説明・動作被害者・被疑者が犯行状況を再現した写真と説明要証事実によっては供述証拠最高裁平成17年9月27日決定
捜査官の意見・評価「この写真の注射器は,覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である」との説明文内容の真実性を用いるなら供述証拠刑訴法321条3項・4項・1項3号,最高裁平成20年8月27日決定,広島高裁岡山支部平成30年1月12日判決

第3 捜査官の観察部分―刑事訴訟法321条3項

1 条文

刑事訴訟法321条3項は,「検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。」と定めている。
作成者は,公判で証人として尋問を受ける際に,書面を自分が作成したことだけでなく,見分した結果を正確に記載したかどうかについても反対尋問を受けることになる。
後記の広島高裁岡山支部平成30年1月12日判決も,同条4項(鑑定書)について,作成者の証人尋問により「作成の真正や記載の正確性」に加えて鑑定内容の真実性についても反対尋問の機会が与えられる点に同項の趣旨があるとしている。

2 実況見分調書も含まれる

最高裁昭和35年9月8日第一小法廷判決(昭和35年(あ)第887号,刑集14巻11号1437頁)は,「刑訴三二一条三項所定の書面には捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も包含するものと解するを相当」とした。
最高裁昭和36年5月26日第二小法廷判決(昭和36年(あ)第149号,刑集15巻5号893頁)も同判決を引用し,実況見分調書は,被告人側が同意しなくても,作成者が公判期日において証人として尋問を受け,その真正に作成されたものであることを供述したときは,証拠とすることができるとした。

令状による検証か任意処分としての実況見分かは,書面の証拠能力の要件を左右しない。
押収した物(スマートフォン内の動画データ等)を捜査官が見分し,その状態を記載した捜査報告書も,見分の結果を記載した部分については,同じ考え方で刑事訴訟法321条3項の要件を検討することになると考えられる。

3 立会人の指示説明

前掲最高裁昭和36年5月26日判決は,捜査機関は実況見分に当たり必要があると認めるときは被疑者,被害者その他の者を立ち会わせ,実況見分の目的物その他必要な状態を任意に指示,説明させることができ,その指示,説明を実況見分調書に記載することができるとした。
その上で,立会人の指示,説明を求めるのは「実況見分の一つの手段であるに過ぎず」,それを記載するのは「結局実況見分の結果を記載するに外ならず」,被疑者や参考人の供述として録取するのとは異なるとして,立会人の署名押印は必要でないとした。
さらに,指示説明を含む実況見分調書を一体として証拠とする場合も,指示説明に基づく見分の結果を記載した書面として採証するものであり,立会人の供述記載自体を採証するわけではないから,改めて立会人を証人として喚問する必要はないとした。

逆にいえば,立会人の説明を,その説明内容どおりの事実(例えば「被告人がここで被害者を突き飛ばした」こと)を証明するために用いるのであれば,それは見分の手段としての指示説明ではなく,立会人の供述そのものを証拠とすることになる。
この区別は,次の第4の3で述べる再現写真の判例で具体化されている。

第4 写真・動画の部分

1 現場写真は非供述証拠

最高裁昭和59年12月21日第二小法廷決定(昭和57年(あ)第1504号,刑集38巻12号3071頁)は,「犯行の状況等を撮影したいわゆる現場写真は、非供述証拠に属し、当該写真自体又はその他の証拠により事件との関連性を認めうる限り証拠能力を具備する」とし,これを証拠として採用するためには,必ずしも撮影者に現場写真の作成過程ないし事件との関連性を証言させることを要しないとした。
この判示は,同決定の中で「なお、」に続けて述べられた部分である。

写真や動画は,カメラやスマートフォンが機械的に光景を記録したものであり,人の知覚・記憶・叙述の過程を経ないから,写っている光景を証明するために用いる限り伝聞法則の適用を受けない。
問題となるのは,その写真がいつ・どこで・何を撮影したものか(事件との関連性),及び複製・静止画化の過程で改変がないか(同一性)である。
捜査報告書に添付された静止画については,元の動画の撮影日時・場所・撮影機器の使用者と,静止画に切り出して出力した過程を,報告書の記載,作成者の証言その他の証拠で示すことになる。

2 写真に写っていないことは写真からは分からない

写真から直接認定できるのは,写っている物の外観,数量及び位置関係である。
その物を誰が所持していたか,写っている場所が誰の住居か,撮影時点が事件とどう関係するかは,写真の外にある証拠との組合せで推認されることになり,写真の証拠能力とは別の証明力の問題となる。

3 再現写真は再現者の供述になり得る

最高裁平成17年9月27日第二小法廷決定(平成17年(あ)第684号,刑集59巻7号753頁)は,被害者や被疑者に犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書・写真撮影報告書について,立証趣旨が「被害再現状況」「犯行再現状況」とされていても,実質においては「再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になる」とした。
その上で,同意が得られない場合には,刑事訴訟法321条3項の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者であれば同法321条1項2号ないし3号,被告人であれば同法322条1項の要件を満たす必要があるとし,写真については撮影,現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから再現者の署名押印は不要と解されるとした。

同じ写真でも,現場の状況を記録したものか,人が過去の出来事を動作で再現したもの(動作による供述)かによって,適用される条文が変わる。
写真であるという形式だけで非供述証拠になるわけではなく,何を証明するために用いるのかを先に確定する必要がある。

第5 捜査官の意見・評価の部分

1 「検証の結果」には当たらない

刑事訴訟法321条3項が捜査官の作成した書面に証拠能力を認めるのは,検証の結果,すなわち捜査官が五官の作用で認識した物の状態を記載した書面である。
「この写真の注射器は,覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である」という説明は,写真に写った物の状態(個別に包装された未開封の注射器であること,本数,置かれた場所)を超えて,その物が一般にどのような用途に用いられるかという捜査官の経験則・評価を述べるものである。
このような説明を,説明の内容どおりの事実(例えば,その注射器が密売用のものであること)を証明するために用いるのであれば,捜査官の供述を内容の真実性の証明に用いることになり,検証の結果の記載として同項で証拠能力を得ることはできないと考えられる。

2 刑事訴訟法321条4項の「鑑定」に当たるか

刑事訴訟法321条4項は,「鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。」と定めている。
捜査官の説明が専門的な知見に基づくものであれば同項によることができないかが問題となるが,裁判例は,鑑定書としての扱いを,特別の学識経験に基づく判断に限っている。

(1) 私人の燃焼実験報告書を4項の書面に準ずるとした最高裁決定

最高裁平成20年8月27日第二小法廷決定(平成19年(あ)第2207号,刑集62巻7号2702頁)は,放火事件の火災原因に関する「燃焼実験報告書」の抄本について判断した。
同決定が引く原判決の認定によれば,この報告書は,火災原因の調査を多数行ってきた会社が福岡県消防学校の依頼を受けて燃焼実験を行い,その考察結果を報告したもので,作成者は実験を担当した私人であり,消防士として15年間の勤務経験があり,通算約20年にわたって火災原因の調査,判定に携わってきた者であった。
同決定は,刑事訴訟法321条3項の書面の作成主体は「検察官,検察事務官又は司法警察職員」とされているから,私人作成の書面に同項を準用することはできないとした。
他方で,作成者が「火災原因の調査,判定に関して特別の学識経験を有するもの」であり,その学識経験に基づいて燃焼実験を行い,その考察結果を報告したものであって,作成の真正も立証されているとして,同条4項の書面に準ずるものとして同項により証拠能力を認めた。
同決定が同項の適用を認めた理由は,作成者が特別の学識経験を有し,それに基づいて実験・考察をしたことにある。

(2) 査察官報告書を鑑定書面に当たらないとした高裁判決

広島高等裁判所岡山支部平成30年1月12日判決(平成29年(う)第24号,裁判所ウェブサイト)は,法人税法違反幇助等の事件で,第一審が同条4項の鑑定書面として採用した査察官報告書等について,証拠能力を否定した。
同判決は,捜査活動に当たって捜査官に法律の知識が必要であることは当然であり,これをもって特別の知識経験と評価することはできないとし,査察官が収集した資料を分析して必要な情報を抽出し,一定の判断を形成することは「通常の捜査活動と変わらない作業」であって,鑑定と評価することはできないとした。
また,同条4項が作成者の証言によって鑑定書面に証拠能力を与える趣旨は,鑑定をした者が公判廷で証人尋問を受けることにより,作成の真正や記載の正確性のみならず,鑑定内容の真実性についても反対尋問の機会が与えられるところにあるとして,実質的に鑑定の作業をしていない者が作成の真正を証言しても証拠能力は生じないとした。
他方で,原資料の記載内容をそのまま転記した部分については,作成者の証人尋問によって作成の真正及び転記の正確性が立証され,かつ,原資料に証拠能力があることが立証されるならば,同条3項の書面に当たる可能性があるとしている。

(3) 捜査官の経験に基づく説明の扱い

これらの裁判例に照らすと,薬物事犯の捜査経験から得た「密売人がよく用いる物である」といった知識は,捜査官が捜査の過程で得た一般的な経験則であり,特別の学識経験に基づく鑑定とはいい難い。
その説明を記載した部分は,同条4項の鑑定書面として証拠能力を得ることも難しいと考えられる。

3 残るのは刑事訴訟法321条1項3号

検証の結果(3項)にも鑑定(4項)にも当たらない捜査官の意見の記載は,捜査官が作成した供述書として,刑事訴訟法321条1項3号の要件(供述不能,犯罪事実の存否の証明に欠くことができないこと,特に信用すべき情況)を満たさない限り,証拠とすることができない。
作成者の捜査官が生存し公判で証言できる通常の場合には,供述不能の要件を欠くから,その部分は証拠能力を持たないことになる。
この場合,裁判所は,捜査報告書のうち観察結果と写真の部分だけを採用し,意見の部分を除いて証拠とすることになる。

4 公判での証言という方法

捜査官の経験に基づく判断を立証に用いたいのであれば,その捜査官を証人として尋問し,公判廷で供述させる方法がある。
刑事訴訟法156条1項は,「証人には、その実験した事実により推測した事項を供述させることができる。」と定め,同条2項は,その供述が鑑定に属するものでも証言としての効力を妨げられないとしている。
公判廷の証言であれば,被告人側は,捜査官がどのような経験からその判断に至ったのか,その経験則がどの程度一般化できるのかを反対尋問で吟味することができる。

第6 具体例―令和8年司法試験刑事系第2問

令和8年司法試験の論文式試験の刑事系科目第2問(刑事訴訟法)の設問2の2は,警察官が被告人のスマートフォン内の動画から床上の未開封の注射器12本が写った場面を静止画として保存し,その写真に「この写真の注射器は,覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である。」との説明文を付けた捜査報告書について,弁護人が不同意とした場合の証拠能力を問うものであった。
検察官の立証趣旨は「覚醒剤の密売人が客に交付することの多い未使用の注射器12本を乙が所持していたこと」とされていた。

本記事の整理によれば,スマートフォンを見分して静止画を出力したとする部分は刑事訴訟法321条3項により作成者の真正作成の供述を条件に証拠となり,写真は関連性が認められれば非供述証拠として証拠となる。
これに対し,説明文は,立証趣旨に含まれる「密売人が客に交付することの多い」という性質を証明するために用いられるから伝聞証拠であり,同条3項にも4項にも当たらず,作成者が証言できる以上は同条1項3号の要件も満たさないから,その部分は証拠とすることができないことになる。
この問題の模範解答と予想される評価項目は,令和8年度司法試験刑事系第2問の模範解答と予想される評価項目で示している。

第7 弁護人・検察官が確認する事項

捜査報告書の証拠意見を述べ,又は証拠請求をするときは,次の点を部分ごとに確認することになる。

① 報告書の各部分が,捜査官の観察結果,機械的な記録(写真・動画),立会人・関係者の発言,捜査官の意見・評価のいずれに当たるか。
② 立証趣旨と,その部分の内容の真実性を用いるかどうか(実質的な要証事実)。
③ 観察結果の部分について,作成者が公判で真正作成を供述できるか。
④ 写真・動画について,撮影日時・場所・撮影者,複製・切出しの過程と同一性。
⑤ 意見・評価の部分について,特別の学識経験に基づく鑑定といえるか,実質的に判断をした者が作成者か。
⑥ 意見・評価の部分を除いた一部同意,又は立証趣旨の限定で対応できるか。
⑦ 意見・評価を立証に用いる必要があるなら,作成者の証人尋問(刑事訴訟法156条)によるべきではないか。

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第9 出典・確認状態

1 法令

e-Gov法令検索「刑事訴訟法」156条,320条,321条,322条及び326条(令和8年6月24日施行版の条文を確認)。

2 裁判例

①最高裁昭和35年9月8日第一小法廷判決(昭和35年(あ)第887号,刑集14巻11号1437頁)
②最高裁昭和36年5月26日第二小法廷判決(昭和36年(あ)第149号,刑集15巻5号893頁)
③最高裁昭和59年12月21日第二小法廷決定(昭和57年(あ)第1504号,刑集38巻12号3071頁)
④最高裁平成17年9月27日第二小法廷決定(平成17年(あ)第684号,刑集59巻7号753頁)
⑤最高裁平成20年8月27日第二小法廷決定(平成19年(あ)第2207号,刑集62巻7号2702頁)
⑥広島高等裁判所岡山支部平成30年1月12日判決(平成29年(う)第24号)

3 公式資料

法務省「令和8年司法試験問題」(論文式試験問題・刑事系科目第2問)

4 確認状態

裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,本記事で用いた判示を確認した。
判例秘書等の有料データベースは用いていない。