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署名・押印のない私的メモは刑事裁判の証拠になるか―供述書と供述録取書,作成者,伝聞例外(AI作成)

第1 署名の有無だけで証拠能力を決めない

日記,手帳,業務上の備忘録などに署名・押印がない場合でも,それだけで刑事裁判の証拠にできないとはいえない。最初に,何を証明するための文書か,誰の供述を誰が記載したのか,その人は対象となる被告人との関係でどの地位にあるのかを整理する必要がある。

被告人以外の者が自ら作成した供述書について,最高裁昭和29年11月25日第一小法廷決定は,署名も押印も必要としないと判断した。ただし,作成者が確認できない文書を無条件で採用できるという判断ではない。伝聞例外の要件,任意性,作成者・同一性の立証及び採用後の信用性は,それぞれ別に検討する。

本記事は,令和8年10月8日に確認した刑事訴訟法の現在施行版と裁判所公開の決定原文を基礎に,紙の私的メモを主な対象として判断順序を整理する。電子データの署名方法や提出方式は,記録の形式と適用される手続を別途確認する必要がある。

第2 立証趣旨と情報の層を確定する

1 記載内容の真実性を使うか

刑事訴訟法320条1項は,原則として,公判供述に代えて書面を証拠とすることや,公判外の他人の供述を内容とする供述を証拠とすることを禁じている。メモに書かれた過去の出来事が実際にあったと認定するために用いるなら,通常はその内容の真実性が問題になる。

これに対し,文書が存在したこと,作成時期,所持場所,筆跡などを立証する場合は,記載内容の真実性を用いない限度で非伝聞として検討できる。ただし,立証趣旨を「文書の存在」と名付けても,実際の推論で内容が正しいことを前提としていれば,伝聞の問題は残る。

法務省の令和3年司法試験の出題の趣旨も,刑事系第2問のメモについて,記載内容の真実性を必要とする推論と,作成の事実等を用いる推論を分けて検討している。これは試験問題の解釈を説明する公的資料であり,全ての実務事件について非伝聞性を確定する裁判例ではない。

2 誰の体験・発言を証明するか

作成者が特定できたことと,記載された出来事が真実であることは別である。他人の言動が書かれている場合は,メモ作成者がその言動を経験したという報告の層と,そこに記された発言内容の層を分け,どの層の正確性を必要とするかを確認する。

他人の発言が含まれるという一事だけで,文書全体を供述録取書と決めてはならない。原供述者の供述を記録するための書面なのか,作成者自身の体験を記した供述書なのかを,作成経過から見極める。人を介した報告については,書面と公判での伝聞供述を区別し,後者であれば刑訴法324条の準用関係も確認する。

第3 供述書と供述録取書を区別する

1 署名・押印の要件がかかる範囲

刑訴法321条1項は,被告人以外の者が作成した供述書と,その者の供述を録取した書面を区別している。同項の「供述者の署名若しくは押印のあるもの」という要件は,後者の供述録取書にかかる。

昭和29年11月25日決定(昭和28年(あ)第5444号・刑集8巻11号1888頁)は,321条の供述書に署名・押印を要求しないとした。したがって,筆者自身の供述書に署名がないことと,別の人が録取した書面に原供述者の署名・押印がないことは,同じ問題として扱えない。

確認する点供述書供述録取書
誰の供述か作成者自身の供述原供述者の供述
誰が記載したか供述者自身別の録取者
321条1項の署名・押印供述録取書と同じ要件は課されない原供述者の署名又は押印を確認する
署名と別に調べる事項作成者,作成時期,同一性,改変,例外要件原供述者,録取経過,記載の正確性,例外要件

2 無署名と作成者不明を混同しない

無署名でも,筆跡,保管経緯,関係者の供述などにより作成者を立証できる場合がある。一方,誰が書いたか分からないままでは,適用条文や供述の生成状況を確定できないことがある。

実務上は,原本と写しの対応,追記・訂正の有無,前後の頁,入手・保管経過を確認する。これらは作成者や同一性,信用性を検討するための資料整理であり,最高裁が全事件について一定の証明方法を指定したものではない。

第4 作成者の地位から伝聞例外を選ぶ

1 被告人以外の者の私的メモ

記載内容の真実性を用いる私的メモが,被告人以外の者の供述書に当たり,裁判官面前調書や検察官面前調書ではない場合には,通常は刑訴法321条1項3号を検討する。同号では,供述不能,犯罪事実の存否の証明に欠くことができないこと,特に信用すべき情況の三つをそれぞれ確認する。

「他に同じ文書がない」「事件に関係する」「内容が詳しい」という説明だけで,三要件を一括して肯定してはならない。どの犯罪事実の立証に欠かせないのか,供述を得られない理由は何か,どのような作成状況が供述の正確性を支えるのかを分けて示す。刑訴法325条の任意性の調査も別に問題となる。

2 対象被告人自身のメモ

その事件の被告人自身が作成した供述書については,刑訴法322条1項を検討する。不利益な事実の承認か,特に信用すべき情況の下でされた供述かを確認し,同項ただし書や325条による任意性の問題を区別する。

別事件で被告人になっている人でも,現在審理している対象被告人との関係では「被告人以外の者」となる場合がある。文書を誰の事件で,誰に対する立証に使うかを先に固定する必要がある。

3 同意をした場合も証明力は別である

刑訴法326条1項は,検察官及び被告人が同意した書面等について,作成・供述時の情況を考慮し,相当と認めるときに証拠能力を認める。同意は,内容が真実であることまで承認するものではない。証拠能力に関する意見と,内容の信用性・証明力に関する主張を区別して記録する。

第5 提出・証拠意見の前に確認する事項

① 対象被告人と,証明したい事実を一文で特定する。
② 記載内容の真実性を必要とするか,推論の途中まで点検する。
③ 原供述者,記載者,作成目的を確認し,供述書と供述録取書を分類する。
④ 原本・写し,作成時期,追記・改変,保管経過を確認する。
⑤ 321条,322条又は326条などの根拠を示し,要件ごとの事実・資料を対応させる。
⑥ 任意性,収集手続の適法性及び採用後の信用性を別に検討する。

提出する側も異議を述べる側も,署名の有無だけで議論を終えず,どの文書のどの部分を,どの目的で使うかを具体化することが重要である。

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② 証人が証言を拒んだときの刑事弁護―供述不能の立証・再尋問・調書採用への異議
③ 令和3年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目

第7 出典と適用範囲

① e-Gov法令検索・刑事訴訟法:320条,321条1項,322条,324条,325条及び326条。令和8年10月8日に現在施行版(令和8年8月13日施行)を確認。
② 最高裁昭和29年11月25日第一小法廷決定:昭和28年(あ)第5444号・刑集8巻11号1888頁。原文1頁。被告人以外の者の供述書に署名・押印を要しないとの判断。
③ 法務省・令和3年司法試験論文式試験出題の趣旨:PDF18頁の刑事系第2問から20頁まで。メモの使用目的に即した伝聞・非伝聞の分析を参照した。

判例が直接判断した範囲と,本記事が示す資料整理・証拠意見の確認手順は区別する。署名・押印が不要という判断は,作成者の特定や他の証拠能力要件を不要とするものではない。