第1 本記事の範囲
本記事は,証拠物を飲み込んだ疑いがある被疑者について,CT検査により体内の異物の有無及び位置を確認するときの令状を整理する。
CT撮影だけを行う処分,医師に専門的判断を求める処分,及び異物を取り出して押収する処分は,目的と侵襲の程度が異なるため,分けて検討する必要がある。
第2 確認・取出し・押収を分ける
第一段階は,X線を用いて身体内部を撮影し,異物の有無及び位置を画像として確認する処分である。
第二段階は,下剤,内視鏡,手術その他の方法で異物を身体外へ出す処分である。
第三段階は,排出又は取り出された物を証拠物として差し押さえる処分である。
一つの令状が当然に全段階を包含すると考えず,各処分の法的性質,必要性,方法及び身体への負担を明示しなければならない。
第3 候補となる令状
1 身体検査令状
刑事訴訟法218条1項後段は,身体の検査について身体検査令状を要求する。
CT撮影が身体内部の状態を直接観察して記録することを目的とする場合,身体検査として身体検査令状を用いるとの整理が基本となる。
裁判所の参考書式も,身体検査令状について,検査すべき身体の部位及び方法を特定する構造を採っているため,撮影部位,方法,医師による実施及び必要な条件を令状請求時に具体化する必要がある。
宅配便荷物のエックス線検査について,最高裁平成21年9月28日第三小法廷決定(平成19年(あ)第798号,刑集63巻7号868頁)は,射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができ,荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから,「検証としての性質を有する強制処分に当たる」とした。
人の体内をX線で撮影するCT検査も,身体内部の状態を画像によって認識する処分であり,同決定の考え方からすれば,検証(身体検査)の性質を有すると考えられる。
2 鑑定処分許可状
医師に鑑定を嘱託し,医学的専門知識に基づいて画像を作成・読影させ,異物の位置,性状又は自然排出の見込みについて意見を求める場合は,刑事訴訟法225条により準用される168条の鑑定処分許可状が問題となる。
単なる撮影の執行補助にとどまるのか,専門的判断を伴う鑑定なのかを,依頼内容及び取得しようとする証拠の性質から区別する。
もっとも,X線を人体に照射することは,医師,歯科医師又は診療放射線技師でなければ業として行うことができない(診療放射線技師法2条2項・24条)。
捜査官自身が撮影することはできないから,CT検査は,医師に鑑定を嘱託し(刑事訴訟法223条1項),医師に撮影と読影を行わせる形になると考えられる。
ただし,鑑定処分としての身体検査には,身体の検査を拒む者に対してそのまま身体の検査を行うことを定めた同法139条が準用されていない(同法225条4項・168条6項)。
被疑者が検査を拒むことが予想されるときは,直接強制ができるよう,身体検査令状(同法218条1項後段,222条1項・139条)を併せて得ておく必要がある。
3 捜索差押許可状
体内又は排出後の異物を証拠物として捜索し,差し押さえるには,刑事訴訟法218条1項前段の捜索差押許可状が問題となる。
もっとも,CT画像を得ることと異物を取り出すことは同じ処分ではないため,異物の取出しまで予定するのであれば,その具体的方法及び限界を令状と疎明資料に明記する必要がある。
第4 CT検査だけを行う場合の考え方
CT検査は,内視鏡を体腔内に挿入して異物を把持する処分より一般に侵襲が小さいが,身体内部の情報を本人の意思に反して取得する強制処分である。
したがって,無令状で当然に許されるとはいえず,少なくとも身体検査令状による部位・方法の特定を検討する。
さらに,医師の専門的読影を独立の鑑定結果として用いるときは鑑定処分許可状を検討し,後に異物の取出し又は押収へ進むときは,その段階に対応する捜索差押許可状その他の令状を改めて確認する。
令状名を抽象的に一つ選ぶだけでなく,捜査機関が医師に何をさせ,何を証拠として取得するのかを基準に処分を分解することが重要である。
身体の拘束を受けている被疑者であっても,令状によらずに行えるのは,被疑者を裸にしない限りでの指紋・足型の採取,身長・体重の測定及び写真の撮影である(刑事訴訟法218条4項)。
体内のX線撮影はこれに当たらないから,身柄拘束中であっても令状が必要である。
令和8年司法試験の論文式試験の刑事系科目第2問では,マイクロSDカードを飲み込んだとみられる被疑者に対するCT検査の令状の種類が問われた。
同問の参考答案では,物の占有の取得を目的としない点で捜索差押許可状は適合せず,検証(身体検査)と鑑定の性質を併せ持つことから,鑑定処分許可状と身体検査令状の併用とする構成を示している。
第5 必要性及び相当性
令状がある場合でも,具体的な執行方法が必要かつ相当でなければならない。
異物が数日内に自然排出される見込みが高く,留置によって排出を待つことができ,健康上の危険や証拠変質のおそれが小さい場合は,侵襲の大きい取出しを急ぐ必要性は低くなる。
反対に,異物が健康を害する危険,体内で破損する危険又は証拠価値が失われる具体的危険がある場合は,より早い処置の必要性を個別に疎明する。
第6 内視鏡による取出しとの違い
東京高裁令和3年10月29日判決は,飲み込まれたマイクロSDカードを大腸内視鏡で取り出した処分について,侵襲の程度,事件の重大性,証拠の重要性,自然排出を待つ代替手段及び疎明資料の内容を検討し,違法とした。
同判決はCT撮影だけを扱ったものではないため,CT検査に内視鏡採取と同一の令状の組合せ又は違法判断を機械的に当てはめてはならない。
一方で,撮影後に内視鏡等による取出しへ進む場合には,同判決が示した必要性・相当性の検討が重要となる。
第7 令状請求・弁護で確認する事項
1 目的が異物の所在確認,医学的鑑定,取出し又は押収のいずれか。
2 撮影部位,撮影方法,造影剤又は鎮静剤の使用及び被曝量。
3 実施する医師の専門性及び医師に求める判断内容。
4 異物の性状,健康への危険及び自然排出の見込み。
5 撮影結果,読影結果及び異物そのもののうち,何を証拠化するか。
6 取出しへ進む条件と,その段階を対象とする令状の有無。
7 より侵襲の小さい代替手段及び待機の可否。
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第9 出典・確認範囲
1 e-Gov法令検索「刑事訴訟法」139条,168条,218条,222条,223条及び225条(令和8年9月28日確認)。
2 裁判所「刑事事件に関する書類の参考書式について」(身体検査令状等の参考書式。令和8年9月28日確認)。
3 東京高裁令和3年10月29日判決(令和2年(う)第806号,判例秘書の判例番号L07620534。裁判所ウェブサイト未掲載)。
4 名古屋地方裁判所刑事書記官室・名古屋簡易裁判所刑事書記官室「令状事務処理の手引(七訂版)」(令和6年2月補訂)。
5 法務省「令和8年司法試験の試験問題」(刑事系科目。令和8年9月28日確認)。
6 令和8年9月28日現在,CT検査の令状種類を直接判示した最高裁判例は確認できていないため,本記事は条文,参考書式及び処分の機能に基づく整理であり,確定判例が一義的に令状名を定めたものとはしていない。
7 最高裁平成21年9月28日第三小法廷決定(平成19年(あ)第798号,刑集63巻7号868頁)。
8 e-Gov法令検索「診療放射線技師法」2条2項及び24条(令和8年9月28日確認)。