第1 価格改定の対象と比較期間を決める
労務費が上昇しても、どの仕事の単価を、いつから、いくら改定したいかが伝わらないと、相手も具体的な検討に入りにくくなる。
まず、対象の製品又は役務、現行単価、前回の改定時期、今回の適用希望時期を決める。
賃金の比較期間は、前回改定時から今回までなど、価格への反映状況が分かるように設定する。
地域別最低賃金、春季労使交渉の妥結額、業種別の賃金統計から、対象工程や人員構成に関連する指標を選び、採用した理由を一行で説明できるようにする。
自社の原価は見積りの根拠、公表資料は賃金の変動を説明する資料として、それぞれ役割を分ける。
第2 労務費の上昇分を単価に換算する
1 現行単価が1,000円の例
製品Aの現行単価を1個1,000円、その単価の前提となった1個当たりの労務費を400円とする。
関連する指標から、対象工程の労務費が5%上昇したと仮定すると、400円×5%=20円で、労務費分を反映した改定希望単価は1,020円である。
この前提で単価全体に5%を掛けると、労務費以外にも同じ上昇率を適用する計算になる。
これは計算方法を説明するための仮例である。
工程別の工数、賃金の構成、発注数量が変わった場合には、同じ計算式を機械的に用いず、前提の違いを見積りに反映する。
原材料費や電力費も求める場合は費目を分け、すでに単価へ織り込んだ増加分との二重計上を避ける。
2 交渉に出す1枚の資料
対象品目と現行単価、希望単価、適用希望時期、費目別の改定額、基準時点と比較時点、参照した指標名をまとめる。
公表資料のURLと対象表を添えると、相手方も比較期間や指標を確認できる。
労務費転嫁指針の別添には、労務費の増加額や取引先向け売上比率を使う様式例もある。
第3 価格改定を申し入れるメール
以下は、前節の計算例に基づく架空の文例である。
件名 製品Aの単価改定に関する協議のお願い
「製品Aの次回発注分について、現行1個1,000円から1,020円への単価改定を協議させてください。
前回改定時からの労務費の変動について、対象工程、比較期間、参照した公表指標及び1個当たりの試算を別紙にまとめました。
適用開始日も含め、○日又は○日にお打合せをお願いできますでしょうか。」
合意した場合は、対象品目、税の扱い、単価、適用する発注分、次回の見直し時期を双方で確認し、注文書や合意書に反映する。
合意に至らない場合も、相手から示された理由と再協議の日時を記録しておくと、次の提案で争点を絞れる。
第4 埼玉県の支援ツールと公表資料の使い方
埼玉県の価格交渉支援ツールは、日本銀行の公表データを用いて原材料やサービス等の価格推移をグラフ化できる。
業種別の労務費の推移には、厚生労働省の毎月勤労統計調査のデータを使っている。
資料を添える際は、グラフの対象期間、業種、指標名を残し、自社のどの費目を説明する資料なのかを明記する。
同県の収支計画シミュレーターでは、価格転嫁する場合としない場合の収支を、設定した前提で5年間比較できる。
前者のグラフは交渉の背景説明、後者の試算は必要な改定幅を社内で検討するときに使い分ける。
配布ファイルや利用条件は、埼玉県の配布ページで確認できる。
第5 協議に応じてもらえない場合
費用の変動等があり、取適法の対象となる中小受託事業者が代金の協議を求めたのに、委託事業者が協議に応じず、又は求められた事項について必要な説明若しくは情報提供をせず、一方的に代金を決めて受注者の利益を不当に害する場合は、取適法第5条第2項第4号が問題となる。
申入れメール、見積書、公表資料、相手方の回答、発注日と発注単価を案件ごとに対応させておく。
交渉の進め方や取引上の悩みは、取引かけこみ寺や、よろず支援拠点の価格転嫁サポート窓口に相談できる。
公取委の労務費転嫁に関する匿名フォームは情報提供の窓口である。
具体的な違反事実を報告して個別事件の調査を求める場合は、公取委の申告窓口を利用する。
契約上の代金の請求や取引打切りに関する民事上の請求は、行政上の申告とは別に要件を検討する。
第6 関連記事と出典
①取適法の企業実務
②買いたたき・取引打切りの裁判例と民事上の請求
①労務費転嫁指針・本文と別添様式
②埼玉県・価格交渉に役立つ各種支援ツール
③中小企業庁・価格交渉ハンドブック
④中小企業庁・取引適正化に関する相談窓口
⑤公正取引委員会・労務費の転嫁に関する情報提供
⑥公正取引委員会・取適法運用基準(第4の9)