第1 ワークスロップとは
ワークスロップとは,完成品らしく見えても,依頼された仕事を進めるだけの材料が足りないAI生成の業務資料などをいう。
例えば,契約更新についての稟議に選択肢が並んでいても,どの版の契約書を読んだのか,いつまでに決める必要があるのかが書かれていなければ,受け手は確認と判断の前提を組み立て直さなければならない。
BetterUp LabsとStanford Social Media Labが2025年に米国のフルタイムのデスクワーカー1,150人に行ったオンライン調査では,約4割が直近1か月にワークスロップを受け取ったと回答した。
同じ調査の公表資料では,1件への対応時間は平均約2時間と報告されている。
いずれも回答者の自己申告であり,調査の対象は米国のデスクワーカーである。
BetterUpの調査資料
第2 資料を受け取ったときの三つの対応
1 レビューに進む
決めてほしいこと,確認する資料の版と該当箇所,判断の期限が分かり,結論を左右する未確認事項がなければ,依頼された範囲のレビューに進む。
原資料を開き,重要な記載が原文と一致するか,その記載が提案を支えるかを確かめる。
判断の承認が必要なときは,レビュー結果を決裁者へ伝える。
返信例 「締結版第8条と別紙1を確認します。今回の回答範囲は条項の読み方と通知方針です。」
2 資料の補充を求める
根拠の版,該当箇所又は決める事項を特定できず,補充する時間を確保できるなら,起案者に不足を伝える。
どの資料が要るか,それがないと何を判断できないか,いつまでに戻してほしいかを示す。
返信例 「締結版と変更合意の有無を示してください。確認できるまで通知期限の判断を保留します。会議資料に反映するため,明日の正午までに共有してください。」
3 期限管理者に直ちに連絡する
外部通知や提出の期限が近い可能性があり,補充を待つ間に期限を逃し得るなら,起案者への依頼と並行して期限管理者に連絡する。
確定した期限と未確認の候補日を区別し,誰が原資料を確認し,次の措置を判断するかを決める。
返信例 「通知期限が近い可能性があります。変更合意と通知方法が未確認です。期限管理担当へ今連絡し,締結版と連絡記録の確認を並行して進めてください。」
第3 契約更新の稟議をどう確認するか
次は架空の契約更新の例である。
修正前 「更新リスクを整理しました。資料を確認してください。」
修正後 「次回会議で,自動更新を止める通知を出すか判断してください。起案者は通知案を先に準備することを提案します。根拠は締結版第8条と別紙1です。到達期限と送付先に影響する変更合意がないか,担当者が会議前に確認します。今回は第8条の読み方と通知方針を見てください。」
同じ資料でも,締結版と変更合意を照合し,通知方法・期限を含めて結論を左右する未確認事項がなければレビューに進める。
締結版しかなく,補充に必要な時間があるなら,変更合意と通知方法を確認してもらう。
通知期限まで余裕があるか自体が不明で,手元の資料から期限が近い可能性を否定できないときは,判断を保留したまま期限管理者に連絡する。
法務メモで裁判例を根拠に挙げる場合も,確認する対象は出典の名前と引用箇所の両方である。
例えば,判決本文にある当事者の主張を,裁判所自身の判断と取り違えると,実在する判決を示していても結論の根拠にならない。
判例秘書等で読む場合も,判決本文,編集者の要旨,解説を分けて確認する。
裁判所への提出に進むときの書証・原典の照合は,裁判所提出書面のハルシネーション防止方法を参照されたい。
第4 資料を渡すときのひな形
①今回決めたいことと判断の期限
②起案者の推奨案とその理由
③確認済みの原資料の名称・版・該当箇所
④未確認事項,結論への影響,確認の担当と期限
⑤今回レビューしてほしい箇所と問い
⑥決定後の作業,担当と期限
第5 手戻りが減ったかを測る
同じ種類・難度の資料について,起案者の時間と受け手のレビュー・修正・再確認の時間を合わせて比較する。
例えば,起案が30分から10分になっても,レビューと修正の合計が15分から40分に増えれば,関係者の作業時間は45分から50分に増える。
これは説明用の仮定である。
測定方法の詳細は,AIを使うほど仕事が増える理由を参照されたい。
第6 関連記事・出典
①法律事務所の生成AI利用ガイドラインの作り方
②生成AIが作る法律文書を短くしても根拠を落とさない方法
③HBRの原報告「AI-Generated “Workslop” Is Destroying Productivity」
④BetterUp Labs・Stanford Social Media Labの調査を紹介するBetterUp公式ページ