第1 ロシアが最終仕向地となる場合
日本から第三国の商社に商品を販売するとき,契約相手の所在地,船荷証券に記載された荷揚港,貨物の最終仕向地が一致するとは限らない。
対ロシア輸出規制を調べる際は,まずどこへ貨物が向かうかを確認し,次に品目と関係者を照合する。
最終仕向地がロシアである場合と,第三国を仕向地とする輸出が規制される場合では,見るべき要件が異なる。
本記事の記載は,令和8年11月8日時点で確認できた法令,経済産業省の公表資料及び裁判所ウェブサイト掲載の判決に基づく。
1 輸出貿易管理令による承認
外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)第48条第3項に基づき,輸出貿易管理令(以下「輸出令」という。)第2条第1項は一定の貨物の輸出に経済産業大臣の承認を求めている。
対ロシア措置としては,同項第1号の4が輸出令別表第2の3に掲げる貨物(一部の貨物を除く。)のロシアを仕向地とする輸出を,同項第1号の7がロシアを仕向地とする貨物(別表第2の3に掲げる貨物等を除く。)の輸出のうち経済産業大臣が告示で指定する者との直接又は間接の取引によるものを,それぞれ承認の対象としている。
該非の確認には,貨物の仕様とHSコードを用い,輸出時点の政令,省令及び告示を照合する。
輸出令別表第1等に基づく輸出許可や,技術の提供に係る許可が別に必要な場合もある。
2 第三国経由の迂回輸出
経済産業省は,ウクライナで発見されたロシア軍の兵器に使用されていた部品等を基にした品目リスト(Common High Priority Items。以下「CHPI」という。)を公表している。
同省は,CHPIを含むロシア向け輸出禁止対象の品目について,ロシア以外の国・地域に向けて輸出する場合であっても,最終仕向国,最終用途や最終需要者等をよく確認するよう求めている。
また,同省は,ロシア以外の国・地域を経由・通過してロシアに輸出する行為(迂回輸出)は,輸出禁止措置に違反することになると注意を促している。
CHPIは迂回リスクの確認に使う資料であり,承認の要否は輸出令・省令・告示の個別の要件を確認して判断する。
第2 第三国を仕向地とする指定者関与の輸出
輸出令第2条第1項第1号の8は,輸出令別表第2の3(第3号を除く。)に掲げる貨物(一部の貨物を除く。)の輸出令別表第2の4に掲げる地域を仕向地とする輸出で,経済産業大臣が告示で指定する者との直接又は間接の取引によるものを,承認の対象としている。
輸出令別表第2の4には,アラブ首長国連邦,アルメニア,中華人民共和国,インド,カザフスタン,キルギス,シリア,タイ,トルコ及びウズベキスタンが掲げられている。
対象地域に取引相手がいるという事実だけで承認の要否を判断せず,貨物,仕向地,指定者との取引関係を別々に確認する。
たとえば,日本の会社がウズベキスタンの商社に部品を販売する場合,その商社が現地で販売するのか,ロシアの購入者向けの取引を仲介するのかで確認すべき事実が変わる。
転売先が確定していない場合は,商社の説明を記録し,流通先を把握できる条件や出荷前に取得する証拠を契約で定める方法がある。
第3 釜山を最終仕向地と申告した事件
1 事案と判決の内容
大阪地裁令和6年10月31日判決(令和6年(わ)第2938号)は,関税法違反及び外為法違反の事件である。
判決が認定した罪となるべき事実によれば,自動車,バイク等の輸出入業を営む会社の代表取締役が,ロシアを仕向地としてバイク等を不正に輸出しようと考え,バイク18台等27点の貨物の輸出申告に際し,情を知らない通関業者の従業員に,最終仕向地がロシアであったにもかかわらず韓国の釜山である旨の虚偽の事実を入力させるなどして申告した上,貨物を釜山に向けて船積みさせ,ロシアを最終仕向地として輸出した。
判決は,偽った申告をして貨物を輸出したことと,経済産業大臣の承認を受けないで貨物をロシアを仕向地として輸出したことを罪となるべき事実に挙げ,会社に罰金500万円,代表取締役に懲役3年(執行猶予4年)を言い渡した。
量刑の理由では,ロシア向け輸出規制という日本の施策を軽視し,税関手続の適正も大きく損なった悪質な犯行であると評価されている。
2 判決から読み取れること
判決は,貨物が釜山に向けて船積みされた事実と,最終仕向地がロシアであった事実を区別して認定した。
船積港から向かう先が第三国であっても,最終仕向地がロシアであれば,ロシアを仕向地とする輸出として扱われたことになる。
もっとも,この事案では代表取締役がロシア向けの不正輸出を企図したと認定されている。
取引先が後日独自に転売した場合などに,この判決の結論をそのまま当てはめることはできない。
第4 出荷前の確認資料と承認手続
1 確認する資料
輸出者は,品名,型式,仕様,HSコード,購入者と最終需要者,使用場所,用途,運送経路を整理する。
注文書・契約書・用途説明書・出荷指示書・船荷証券等で,取引の説明と物流の記録が一致するかを確かめる。
フォワーダーと実運送人が異なるときは,実運送人,船舶の識別番号,積替港及び経路の変更も確認対象に含める。
現地パートナーや通関業者の説明を利用する場合は,確認した資料と説明の範囲を記録する。
2 注意を要する兆候と契約での手当て
通常と異なる輸送経路,最終需要者の説明の拒否,用途と品目の不一致があれば,出荷の前に説明と裏付けを求める。
出荷先の変更通知,資料提供,確認が終わるまでの出荷留保などを契約で具体化できる。
輸出承認の対象に当たる場合は,出荷前に経済産業省の該当する申請案内を確認し,承認の可否や適用される例外を確認する。
貨物を運べるか,運賃や保険料を支払えるか,事故時に保険金を受け取れるかも,貨物の承認とは別に確認する。
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第6 出典
1 法令
①外国為替及び外国貿易法(e-Gov法令検索)第48条第3項
②輸出貿易管理令(e-Gov法令検索)第2条第1項,別表第2の3,別表第2の4
2 裁判例
①大阪地裁令和6年10月31日判決(令和6年(わ)第2938号)
3 行政資料
①経済産業省「ロシア等への輸出」
②経済産業省「ロシア等への輸出入に関するFAQ」
③経済産業省貿易管理課「ロシア向け輸出禁止措置と「Common High Priority Items」等の輸出における注意について」(令和5年10月20日,令和6年2月22日一部変更)