刑事事件とは,犯罪の疑いについて捜査を行い,起訴するかどうか,有罪か無罪か,どのような刑罰を科すかなどを扱う事件である。逮捕される事件だけを意味するわけではなく,身柄を拘束せずに捜査が進む事件もある。
警察から連絡を受けた人,家族が逮捕された人,被害を受けた人では,確認すべき事項が異なる。本記事では,主に成人の刑事事件について,民事事件との違いと手続の分岐を整理し,それぞれの場面に応じた詳しい解説を案内する。少年事件は家庭裁判所での手続などが異なるため,同じ流れをそのまま当てはめない。
第1 刑事事件と民事事件の違い
1 何を決める手続か
刑事手続では,犯罪の疑いを捜査し,検察官が起訴・不起訴を判断し,起訴された事件について裁判所が有罪・無罪や刑罰を判断する。捜査の対象となる人を被疑者,起訴された人を被告人という。
民事手続では,貸金の返還,損害賠償などの権利・義務に関する紛争を扱う。刑事事件の被害者が当然に刑事裁判の原告になるわけではなく,損害の回復には民事上の請求や被害者のための制度も検討する必要がある。
| 比較する点 | 刑事事件 | 民事事件 |
|---|---|---|
| 主な問題 | 犯罪の成立,有罪・無罪,刑罰 | お金の支払などの権利・義務 |
| 手続を進める者 | 捜査機関が捜査し,原則として検察官が起訴する | 請求する当事者が訴えを起こすなどして進める |
| 裁判の結論の例 | 有罪判決,無罪判決,略式命令 | 支払を命じる判決,請求棄却,和解 |
2 同じ出来事について両方が問題となる場合
例えば,人を負傷させた出来事については,刑事責任と,被害者への治療費・慰謝料などの損害賠償責任が併せて問題となり得る。刑事処分の結果と民事上の賠償額は,別々の要件と手続に基づいて検討する。
示談や被害弁償は刑事処分・量刑の判断で考慮され得るが,示談が成立すればすべての事件で必ず不起訴になるという関係ではない。親告罪における告訴取消しの効果など,罪名や手続段階によって確認すべき点も異なる。詳しくは被害弁償は刑事処分・量刑にどう影響するかを参照されたい。
第2 刑事事件の流れ―逮捕されない経路もある
1 捜査の開始と身柄・在宅の分岐
被害の申告などをきっかけに,警察や検察が事情聴取,資料の収集などの捜査を行う。被疑者の身柄を拘束して進める事件と,拘束せずに進める在宅事件がある。身柄を拘束されているかどうかと,犯罪が成立するかどうかは別の問題である。
逮捕と勾留も別の手続である。逮捕後に必ず勾留されるわけではなく,釈放後に在宅で捜査が続くこともある。身柄手続には期間の制限があり,起訴前と起訴後では勾留の制度が異なる。
身柄を拘束されていない事件の進み方や,連絡がない場合の処分確認については,在宅事件とは―身柄事件との違い,捜査から処分までの流れと結果の確認を参照されたい。
2 送致と検察官の判断
警察から検察官へ事件を送ることを送致といい,一般に送検とも呼ばれる。送致されたこと自体が,起訴又は有罪の決定を意味するわけではない。検察官は必要な捜査を行い,証拠と事情を検討して起訴・不起訴を判断する。
不起訴には,嫌疑がない場合,嫌疑が不十分な場合,起訴猶予などがある。不起訴は裁判所が言い渡す無罪判決とは異なる。処分の有無や理由を確認する方法も,確認する人の立場によって異なる。
検察庁から連絡を受けた場合の確認事項は,検察庁から呼び出されたら―理由・持ち物・日程変更と当日の流れで整理している。
3 起訴後の公判と略式手続
起訴には,公開の法廷で審理する公判請求と,一定の要件の下で書面審理を求める略式命令請求がある。略式命令請求も起訴であり,不起訴ではない。略式手続では,簡易裁判所が100万円以下の罰金又は科料を科すことができる。
公判では,起訴された事実について証拠を調べ,検察官・弁護人の意見や被告人の陳述などを経て,裁判所が判断する。検察官の求刑は検察官の意見であり,裁判所の判決そのものではない。
刑事事件の略式手続には,略式命令と正式裁判請求の詳しい説明がある。起訴後に勾留されている場合の釈放については,被告人の保釈を参照されたい。保釈は起訴前の被疑者を対象とする制度ではない。
4 判決,上訴と記録の確認
第一審の判決に対する控訴など,不服申立てには手続と期間の定めがある。判決書や略式命令を受け取った場合は,告知・言渡しの時期と書面の内容を確認し,必要な相談を早めに行う。刑事事件の上訴・不服申立ても参照されたい。
事件の進み方をまとめると,「捜査〔身柄を拘束する場合/拘束しない場合〕→検察官の処分〔不起訴/起訴〕→起訴の場合の裁判〔公判/略式〕→確定又は不服申立て」という分岐になる。すべての事件が「逮捕→有罪判決」と進むわけではない。
第3 立場別に最初に確認する事項
1 疑いをかけられた本人
呼出しを受けた場合は,連絡してきた機関,担当者,対象となる出来事,自分がどの立場で呼ばれているか,日時・場所を確認する。自分の記憶,客観的な資料,他人から聞いた話を分けて整理しておくと,事実関係を確認しやすい。
被疑者には自己の意思に反して供述する必要がないことが告げられる。供述調書については,内容を確認し,誤りがあれば増減変更を申し立てることができ,署名押印を拒むこともできる。詳しくは警察及び検察の取調べを参照されたい。
2 家族が逮捕・勾留された場合
まず,扱っている警察署などの機関,逮捕された時点,分かっている罪名,弁護人の有無を整理する。家族による面会と弁護士の接見は別の制度であるため,「家族が会えない」ことから「弁護士も会えない」と判断しない。
弁護人の選任,当番弁護士,国選弁護人,家族からの選任については,弁護人の選任,国選弁護人及び接見交通権に詳しい説明がある。本人が置かれている手続段階を伝えて,利用できる制度と費用を確認する。
3 被害者・参考人
被害を受けた人は,被害の状況を示す資料,支出や受診の記録,捜査機関への申告内容を整理する。被害届の提出と告訴は同じものではなく,処分通知を受ける仕組みや記録を利用する制度も立場によって異なる。
刑事手続における被害者の権利では,通知,記録の閲覧,被害者参加などを扱っている。参考人として呼ばれた人は,見聞きしたことと推測を区別し,呼出しの目的や確認したい事項を担当者に尋ねる。
第4 弁護士に相談する場面と準備するもの
身体拘束がある場合,供述内容に争いがある場合,示談を検討する場合,起訴状・略式命令・判決を受け取った場合などには,手続段階に応じた相談が必要となる。被害者としての相談と,被疑者・被告人としての弁護では,目的や立場が異なる。
相談時には,出来事と連絡の経過,受け取った書面,次の期日,担当機関と連絡先,関係資料をまとめる。覚えていないことを埋めるために推測を事実として書いたり,資料を改変したりせず,不明な点は不明として伝える。
費用は,私選弁護,国選弁護,当番弁護士などの制度を区別して確認する。保釈保証金と弁護士費用も別であり,保証金の納付だけで弁護人が選任されるわけではない。
第5 よくある疑問
1 逮捕・送検されたら有罪になるのか
逮捕は身柄の拘束,送致は事件を検察官に送る手続であり,有罪の判断ではない。検察官の処分と,起訴された場合の裁判所の判断を区別する必要がある。
2 在宅事件なら軽い処分で終わるのか
在宅は身柄を拘束せずに進めるという区分である。処分結果を約束するものではなく,在宅のまま起訴される場合もある。連絡がないという事情だけで事件の終了を判断しない。
3 刑事事件の判決書はインターネットで読めるのか
裁判所の裁判例検索では掲載された裁判例を調べられるが,すべての事件の判決書が掲載されるわけではない。掲載が見つからないことと,判決が存在しないことは同じではない。
個別事件の記録を利用したい場合は,事件の段階,必要な文書,請求する人の立場を区別する。刑事記録の入手方法と,判決確定後の刑事記録の入手方法を参照されたい。閲覧,謄写,裁判書の謄本交付には,それぞれ要件や制限がある。
第6 主な一次資料
検察庁「刑事事件の手続について」/検察庁「逮捕から起訴まで」/検察庁「捜査について」
刑事訴訟法(弁護人・接見について30条・39条,取調べについて198条,起訴について247条・248条,略式手続について461条以下など)