目次
- 第1 被害者等通知制度
- 第2 告訴及び告発
- 第3 不起訴処分に対する被害者側の手段
- 第4 最高検察庁の通達と刑事記録へのアクセス
- 第5 被害者参加制度と弁護士費用の援助
- 第6 心情等の意見陳述と被害者論告・証言の違い
- 第7 少年審判における被害者の権利
- 第8 捜査・起訴を求める利益と国家賠償請求の限界
- 第9 犯罪被害者等給付金の支給制度
- 第10 氏名等の秘匿と損害回復の制度
- 第11 刑の執行・保護観察段階における心情等の聴取・伝達
- 第12 関連記事及び出典
第1 被害者等通知制度
1 本記事で扱う制度
本記事は,令和8年8月31日を基準として,犯罪被害者が刑事手続及び少年審判で利用できる主な制度を説明するものである。
被害者等通知制度,告訴・告発,不起訴処分後の対応,被害者参加,心情等の意見陳述及び少年事件の被害者保護は,それぞれ対象者,申出先及び要件が異なる。
弁護士費用の援助,損害賠償及び犯罪被害給付も別の制度であり,一つの制度の利用要件を満たすことが,他の制度の利用を当然に意味するわけではない。
以下では,刑事訴訟法を「刑訴法」,犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律を「犯罪被害者等保護法」と表記する。
2 通知の対象者と内容
法務省の被害者等通知制度実施要領は,令和7年5月29日最終改正,同年6月1日施行のものが公開されている。
同要領第2は,被害者,その親族若しくはこれに準ずる者又は弁護士であるその代理人のほか,目撃者その他の参考人等を通知の対象者としている。
被害者等に対する主な通知内容は,次のとおりである(同要領第3)。
① 公判請求,略式命令請求,不起訴,家庭裁判所送致等の処理結果及び処理年月日
② 係属裁判所及び公判日時
③ 刑事裁判の主文,裁判年月日,確定及び上訴に関する事項
④ 公訴事実の要旨,不起訴理由の骨子,勾留・保釈等の身柄の状況及び公判経過等
⑤ 有罪裁判確定後の刑の執行終了予定時期,受刑中の処遇状況,仮釈放・釈放等に関する事項
同要領には,死刑を執行した事実の通知も定められている。
3 通知の希望と留意点
検察官等による取調べ等の際に通知を希望することや,被害者等又は代理人弁護士から照会することが,通知を受けるための入口となる(同要領第4)。
ただし,①から③までの通知,④の事項の通知及び有罪裁判確定後の通知では取扱いが異なり,希望すれば全事項が無条件で通知されるという制度ではない。
通知が相当でない場合や困難な場合の定めもあるため,希望する事項を具体的に伝え,担当検察庁に取扱いを確認する必要がある。
現在の要領では刑の名称が「拘禁刑」に改められているが,第10の経過措置により,旧法上の懲役・禁錮も対象に含まれる。
なお,告訴人・告発人等に対する刑訴法260条の処分通知及び261条の不起訴理由の告知は,この通知制度と根拠が異なる。
第2 告訴及び告発
1 方法と処分の通知
告訴は,被害者その他の告訴権者が犯罪事実を申告し,処罰を求めるものである(刑訴法230条以下)。
告発については,同法239条1項が,何人でも犯罪があると思料するときに行うことができると定めている。
告訴・告発は,書面又は口頭で検察官又は司法警察員に行い,口頭で受けた場合には調書を作成することとされている(同法241条)。
司法警察員が告訴・告発を受けたときは,速やかに関係書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない(同法242条)。
告訴及び告訴の取消しは,代理人によって行うこともできる(同法240条)。
検察官が告訴・告発等のあった事件を起訴又は不起訴としたときは,告訴人・告発人等に通知しなければならず,不起訴の場合にこれらの者から請求があれば,その理由を告げなければならない(同法260条・261条)。
書面で不起訴処分の理由を告知する場合の根拠は,事件事務規程76条2項であり,様式第119号の不起訴処分理由告知書による。
2 告訴を取り消す場合の注意
告訴は公訴の提起があるまで取り消すことができるが,取消しをした者は再び告訴することができない(刑訴法237条1項・2項)。
したがって,示談書等に告訴取消しの条項を設ける場合は,その法的効果を確認する必要がある。
もっとも,親告罪でない犯罪については,告訴の取消しによって当然に捜査又は訴追が終了するものではない。
3 公務員の告発と守秘義務
刑訴法239条2項は,公務員が職務を行うことにより犯罪があると思料するときの告発義務を定めている。
令和2年6月26日付の政府答弁書は,この義務に違反して告発しなかった場合に,国家公務員法82条1項2号の職務上の義務違反等に該当するとの考え方を示している。
また,平成16年6月11日の参議院内閣委員会における政府答弁は,正当な手続に従って法定の告発義務を履行する場合には,守秘義務違反は成立しないと説明している。
これは適法な告発義務の履行についての説明であり,報道機関への情報提供その他の外部公表すべてが許されるという意味ではない。
4 弁護士会による告発と警察の取扱資料
最高裁第三小法廷昭和36年12月26日決定(昭和33年(あ)第2187号,刑集15巻12号2058頁)は,人権侵害に関する犯罪について,弁護士会による告発及び付審判請求がその目的の範囲内にあるとしたものである。
警察の取扱資料の例として,京都府警察が公開する「告訴,告発事件の取扱要領について(例規)」がある。
同資料の第4は,管轄区域内の事件かどうかにかかわらず受理することを定めているが,京都府警察の例規と,全国共通の法令上の要件とは区別して読む必要がある。
第3 不起訴処分に対する被害者側の手段
1 三つの手続を区別すること
不起訴処分に納得できない場合の主な対応は,次の三つである。
| 手続 | 判断主体・申出先 | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 検察審査会への審査申立て | 検察審査会 | 検察官の不起訴処分の当否を審査する制度である。 |
| 検察庁への不服の申立て・申入れ | 処分庁又は上級検察庁の監督者 | 指揮監督権の発動を促すものであり,行政不服審査法上の審査請求ではない。 |
| 付審判請求 | 不起訴処分をした検察官を経由して地方裁判所 | 対象となる罪が限定され,通知を受けた日から7日以内という期間がある。 |
2 検察審査会への審査申立て
検察審査会法2条・30条等に基づき,被害者,告訴人,告発人等は,不起訴処分の当否について審査を申し立てることができる。
検察審査会は検察庁への単なる陳情窓口ではなく,市民から選ばれた検察審査員によって審査する機関である。
起訴相当の議決がされても直ちに起訴されるわけではなく,検察官による再検討や,所定の場合の再審査・起訴議決等の手続を区別する必要がある(同法41条の2以下)。
申立ての方法及び管轄は,裁判所の「検察審査会Q&A」で確認できる。
3 検察庁の指揮監督権の発動を促す申入れ
検察官の不起訴処分については,行政不服審査法4条により,同法の審査請求制度は適用されない。
他方,検察庁法8条の指揮監督権の発動を促すため,処分庁又は上級検察庁に不服を申し立てることが考えられる。
事件事務規程191条は,地方検察庁又は区検察庁の検察官の不起訴処分に対する不服申立事件を事件簿に登載し,処理後に処分をした検察官及び申立人へ結果を通知する取扱いを定めている。
これは,被害者に起訴又は処分変更を必ず実現させる権利を認めるという意味ではない。
4 付審判請求
付審判請求は,公務員職権濫用罪,特別公務員暴行陵虐罪等,刑訴法262条1項に列挙された罪について告訴又は告発をした者が利用できる手続である。
請求書は,刑訴法260条の通知を受けた日から7日以内に,不起訴処分をした検察官に差し出す必要がある(同法262条2項)。
通常の過失運転致死傷事件について利用できる制度ではない。
裁判所が事件を審判に付する決定をした場合には,指定された弁護士が検察官の職務を行う(同法266条2号・268条)。
最高裁大法廷昭和28年12月22日決定(昭和26年(し)第71号,刑集7巻13号2595頁)は,付審判請求の棄却決定が通常抗告の対象となることを前提に,高等裁判所への通常抗告を経ずに直接行われた特別抗告を不適法として棄却したものである。
5 申立ての準備と供述調書の確認
申立てに際しては,不起訴理由のどの点に問題があるのか,未検討の証拠や捜査の不足が何かを,資料と対応させて示すことが有用と考えられる。
ただし,申立てをすれば必ず再捜査・再聴取が行われるわけではなく,その有無及び範囲は事件ごとの判断による。
後遺障害等級が認定されたという事実だけで,再捜査,起訴又は罰金刑の見通しを判断することもできない。
また,検察審査会への申立てと検察庁への申入れについて,どちらが早く処分変更につながるかを一律にいうことはできない。
供述調書の読み聞かせ又は閲覧の際には,自分の供述と一致しているかを確認し,相違があれば増減変更を申し立てることが重要である(刑訴法223条2項が準用する198条3項から5項まで)。
この確認手続は,希望する内容がすべてそのまま調書に記載されることを保障するものではない。
第4 最高検察庁の通達と刑事記録へのアクセス
1 平成26年の通達の内容と位置付け
本ブログには,「犯罪被害者等の権利利益の尊重について(依命通達)」(平成26年10月21日付け最高検企第436号)の写しを掲載している。
同通達は,被害者等との意思疎通,事件処理や公判での主張・立証に関する説明,要望への配慮及び監督権の発動を促す申立てへの対応等を求めている。
特に9項は,監督者が不服の申立てを受けたときに所要の調査を行い,事案の内容等を勘案して,必要に応じ判断の適否を再検討するなどの対応を求めている(4頁)。
同日付の発出通知の写しも,監督者による説明や指揮・指導について記載している(12頁)。
ただし,これらは本記事で確認した平成26年文書の内容であり,その後の改廃の全履歴まで確認できたものではない。
また,通達上の配慮を求める記述と,法律が被害者に付与する手続上の権限とは区別する必要がある。
2 初回公判前の証拠開示
平成26年通達は,その1頁において,平成20年9月5日付け最高検判第60号の証拠開示に関する依命通達を含む旧3通達を廃止している。
したがって,廃止された平成20年通達を現行の取扱いの根拠として紹介することは適切でない。
平成26年通達3(2)は,被害者参加制度の対象となる事件を公判請求した場合,当該事件の被害者等,法定代理人又は委託を受けた弁護士からの求めに応じ,検察官が証拠調べを請求する予定の証拠について,閲覧を認めるなどの弾力的な運用を求めている(2頁~3頁)。
この記述の対象は,既に被害者参加を申し出た者や参加を許可された者だけに限定されていない。
初回公判前の準備にも関わる取扱いであるが,すべての捜査記録の開示を保障するものではなく,捜査・公判への支障や関係者の名誉・プライバシー等が考慮される。
3 記録の種類によって窓口と要件が異なること
| 手続段階・記録 | 主な窓口・根拠 | 留意点 |
|---|---|---|
| 初回公判前の検察官保管証拠 | 担当検察官。刑訴法47条ただし書及び前記通達 | 公判提出予定証拠等の開示を相談する取扱いであり,全記録の取得権ではない。 |
| 初回公判期日後から事件終結までの公判記録 | 事件の係属する裁判所。犯罪被害者等保護法3条 | 被害者等からの申出に対し,理由が正当でない場合や相当でない場合等を除き閲覧・謄写を認める。被害者参加の許可は必要条件ではない。 |
| 同種余罪の被害者等による公判記録の取得 | 検察官を経由して裁判所。同法4条 | 同条所定の対象者であることの疎明,損害賠償請求権の行使のための必要性及び相当性等が必要となる。 |
| 刑事裁判確定後の訴訟記録 | 記録を保管する検察庁。刑訴法53条等 | 公判中の制度とは区別して,閲覧等の可否と手続を確認する。 |
| 少年事件の記録 | 家庭裁判所。少年法5条の2 | 社会記録は対象外であり,時期及び利用方法にも制約がある。第7参照。 |
取得した記録については,使用目的の制限,関係者の名誉・生活の平穏及び捜査・公判への支障にも注意する必要がある(犯罪被害者等保護法3条2項・3項,4条4項)。
第5 被害者参加制度と弁護士費用の援助
1 被害者参加の対象と申出
被害者参加制度は,所定の犯罪の被害者等又は法定代理人が,裁判所の許可を受けて刑事裁判の手続に参加する制度である(刑訴法316条の33)。
対象には,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪,不同意わいせつ・不同意性交等,業務上過失致死傷等,逮捕・監禁,略取・誘拐等及び同条に掲げる自動車運転死傷処罰法の罪などが含まれる。
自動車事故については,同法4条,5条又は6条3項・4項の罪が列挙されており,現在の説明では旧法上の「自動車運転過失致死傷罪」という名称だけで対象を示すことは適切でない。
未遂罪についても刑訴法316条の33第1項5号の定めがあるため,具体的な罰条を確認する必要がある。
刑訴法上の「被害者等」は,被害者,又は被害者が死亡した場合若しくは心身に重大な故障がある場合の配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう(同法201条の2第1項1号ハ(1))。
法定代理人については,これとは別に参加の申出等が規定されている。
申出はあらかじめ検察官に行い,検察官が意見を付して裁判所に通知する(同法316条の33第2項)。
2 参加によってできることと限界
① 公判期日に出席することができるが,人数や審理の状況等に応じた制限がある(刑訴法316条の34)。
② 検察官の権限行使について意見を述べることができ,検察官は必要に応じ,権限を行使し,又は行使しない理由を説明する(同法316条の35)。
③ 裁判所の許可の下で,犯罪事実に関するものを除く情状事項について,証人の供述の証明力を争うために必要な尋問を行うことができる(同法316条の36)。
④ 法律上の意見陳述に必要がある場合に,裁判所の許可の下で被告人に質問することができる(同法316条の37)。
⑤ 検察官の論告・求刑の後に,訴因として特定された事実の範囲内で,事実又は法律の適用について意見を述べることができる(同法316条の38)。
証人尋問と被告人質問では許される事項が異なり,被告人質問では犯罪事実に関する事項も対象となり得るが,必要性及び相当性等の要件がある。
被害者参加人は公判前整理手続に直接参加する立場にはないが,公判準備における証人尋問又は検証への出席には同法316条の34第5項があるため,関与できるのは初回公判期日以後に限るという説明も正確ではない。
3 弁護士への委託の届出
公判期日への出席,証人尋問,被告人質問及び意見陳述等を弁護士に委託して行わせる場合は,あらかじめ,被害者参加人と弁護士が連署した書面を裁判所へ届け出る(刑事訴訟規則217条の35第1項)。
届出は審級ごとに行い,委託行為を特定する記載がなければ,同条所定のすべての行為を委託したものとみなされる(同条2項・3項)。
4 国選被害者参加弁護士
国選被害者参加弁護士の制度は,犯罪被害者等保護法11条~18条に定められている。
被害者参加人本人の現金・預金等の資力から,当該犯罪を原因として請求の日から6か月以内に支出すると認められる療養費等を控除した額が,200万円未満である場合に,裁判所に選定を請求することができる(同法11条,同法施行令8条)。
請求は法テラスを経由して行い,法テラスが本人の意見を聴いて候補を指名し,裁判所へ通知する(同法11条2項・12条)。
裁判所は,請求が不適法である場合,法11条1項所定の者に該当しない場合又は本人の責めに帰すべき事由で選定を取り消された場合を除き,被害者参加弁護士を選定する(同法13条)。
申込みについては,法テラスの「被害者参加人」のための国選弁護制度を参照。
なお,同法5条~10条は被害者参加旅費等の支給に関する規定であり,弁護士の選定とは別の制度である。
5 令和8年開始の犯罪被害者等法律援助
犯罪被害者等法律援助(犯罪被害者等支援弁護士制度)は,令和8年1月13日以降の所定の犯罪被害について,刑事・民事・行政その他の手続に関する弁護士の支援を受けるための制度である。
被害者参加のための国選弁護士だけを対象とする制度ではなく,法律相談,捜査機関への同行,損害賠償請求及び給付金の申請等が援助の対象となり得る。
法テラスの案内が示す主な対象犯罪は,次のとおりである。
① 故意の犯罪行為により人を死亡させた罪及びその未遂罪
② 一定の性犯罪等及びその未遂罪
③ 故意の犯罪行為により人を負傷させた罪で,治療期間が3か月以上又は所定の後遺障害(障害等級第1級~第14級)の被害があるもの
危険運転致死傷は対象となり得るが,通常の過失運転致死傷事件がすべて含まれるわけではない。
資力要件は,申込者と配偶者の現金・預金・有価証券等の合計を基礎とし,所定の控除後の額が300万円以下であることなどである。
犯罪を原因として申込日から1年以内に支出すると認められる一定の療養費等や,当該被害による犯罪被害者等給付金等は控除の対象となる。
配偶者が事件の相手方である場合等の例外や,未成年者の法定代理人の資力に関する定めもあるため,具体的な算入範囲は申込み時に確認する必要がある(法テラス業務方法書80条の7等及び別表9,65頁~67頁,153頁~154頁)。
利用は原則無料であるが,相手方からの金銭等の回収に伴う成果報酬その他の費用負担が生じる場合があり,常に一切の自己負担がないという意味ではない(同書80条の8・80条の31,65頁~66頁,76頁~78頁)。
犯罪被害者等給付金等は,この費用負担の基礎となる入手金銭等から除かれる。
6 二つの資力基準と他の援助
| 比較事項 | 国選被害者参加弁護士 | 犯罪被害者等法律援助 |
|---|---|---|
| 主な援助範囲 | 刑事裁判の被害者参加 | 所定の被害に関する刑事・民事・行政等の支援 |
| 資力判定の基本 | 被害者参加人本人 | 申込者と配偶者。未成年者等には別途の定めがある。 |
| 基準額 | 控除後200万円未満 | 控除後300万円以下 |
| 犯罪に伴う費用の控除期間 | 請求の日から6か月以内 | 申込みの日から1年以内 |
| 対象事件 | 被害者参加を許可された事件 | 令和8年1月13日以降の所定の犯罪被害 |
二つの金額は異なる制度の基準であり,国選被害者参加弁護士の基準が300万円に引き上げられたという意味ではない。
また,法テラスの新制度の案内では,被害者本人が死亡又は心身に重大な故障がある場合の家族の相談に関し,「配偶者」に事実婚・内縁関係を含めないとしている(同案内Q2)。
後記の犯罪被害給付に関する同性パートナーの最高裁判決から,別の援助制度の対象者を当然に導くことはできない。
未成年者については,無料法律相談と代理援助で法定代理人の同意の取扱いが異なり,代理援助では原則としてすべての法定代理人の同意を要するが,相当な理由による例外も案内されている(同案内Q3)。
これらの制度の対象外であっても,直ちに弁護士費用の援助がないと判断せず,日弁連委託援助や民事法律扶助等の利用可能性を,それぞれの要件に従って確認することが必要である。
7 制度開始当時の利用実績
以下は過去の公表資料に基づく制度開始当時の実績であり,現在の利用件数を示すものではない。
| 集計期間 | 被害者参加の申出 | 参加の許可 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 平成20年12月1日からの1年間 | 552件・926名 | 522件・850名 | 平成22年版犯罪被害者白書概要13頁~15頁 |
| 制度開始から平成22年5月末まで | 867件・1,445名 | 847件・1,375名 | 平成23年版犯罪被害者白書83頁 |
また,平成22年度法テラス業務実績報告書174頁の国選被害者参加弁護士の選定請求受付件数・人員は,平成20年度が29件・32人,平成21年度が204件・238人,平成22年度が231件・299人で,累計464件・569人である。
この数値は選定請求の「受付」であり,選定された件数や,被害者参加制度全体の利用件数と混同してはならない。
第6 心情等の意見陳述と被害者論告・証言の違い
1 刑訴法292条の2による意見陳述
被害者等又は被害者の法定代理人は,被害者参加をしていない場合でも,公判期日において,被害に関する心情その他の被告事件に関する意見を述べることができる(刑訴法292条の2第1項)。
申出はあらかじめ検察官に行い,検察官が意見を付して裁判所に通知する(同条2項)。
ただし,裁判所は審理の状況その他の事情を考慮し,相当でないと認めるときは,書面の提出に代えさせ,又は陳述させないことができる(同条7項)。
書面が提出された場合には,裁判長がその旨を公判期日に明らかにし,相当と認めるときは朗読又は要旨の告知をすることができる(同条8項)。
裁判長による時間の指定については,刑事訴訟規則210条の4の定めがある。
2 発言の資格と証拠上の扱い
| 発言の種類 | 主な内容・資格 | 証拠上の扱い |
|---|---|---|
| 心情等の意見陳述 | 刑訴法292条の2に基づく被害者等の心情・意見。参加許可は不要である。 | 量刑の資料となり得るが,犯罪事実認定の証拠にはできない(同条9項)。 |
| 被害者参加人の意見陳述(被害者論告) | 同法316条の38に基づく,事実又は法律の適用についての意見 | 証拠とはならない(同条4項)。 |
| 証人としての証言 | 証人尋問の手続における供述 | 証拠として取り調べられ,その信用性等が判断される。 |
心情意見陳述と被害者論告は,証人として事実を証言する手続とは異なり,前者と後者でも証拠上の取扱いが異なる。
3 付添い・遮へい・ビデオリンク
心情等の意見陳述については,付添い,遮へい及びビデオリンクに関する規定が所定の範囲で準用される(刑訴法292条の2第6項)。
現在の条番号は,付添いが157条の4,遮へいが157条の5,ビデオリンクが157条の6である。
適用される要件や方式が異なるため,不安や負担の内容を具体的に伝え,担当検察官を通じて必要な措置を相談することが考えられる。
第7 少年審判における被害者の権利
1 五つの制度と申出先
少年事件では,記録の閲覧・謄写,心情等の意見聴取,審判の傍聴,審判状況の説明及び結果の通知を区別する必要がある。
窓口は事件を扱う家庭裁判所であり,具体的な手続は裁判所の「裁判手続 少年事件Q&A」第2でも案内されている。
| 制度 | 主な時期・役割 | 根拠 |
|---|---|---|
| 記録の閲覧・謄写 | 審判開始決定後から終局決定確定後3年を経過するまで。法律記録の確認 | 少年法5条の2 |
| 心情等の意見聴取 | 事件の調査・審判中に,被害に関する心情等を伝える | 同法9条の2 |
| 審判の傍聴 | 所定の重大事件について,審判期日の傍聴を申し出る | 同法22条の4・22条の5 |
| 審判状況の説明 | 審判期日における状況の説明を受ける。申出は終局決定確定後3年を経過するまで | 同法22条の6 |
| 結果等の通知 | 終局決定の内容等の通知を受ける。申出は確定後3年を経過するまで | 同法31条の2 |
各制度にはそれぞれ相当性等の要件があり,申出をすれば無条件にすべての情報を取得できるものではない。
2 少年事件記録の閲覧又は謄写
少年法5条の2は,犯罪少年又は触法少年に係る保護事件について,審判開始決定後,被害者等又はその委託を受けた弁護士からの申出に基づき,原則として記録の閲覧又は謄写を認める制度を定めている。
ただし,理由が正当でない場合や,少年の健全な育成への影響その他の事情から相当でない場合は除かれる。
家庭裁判所が少年の要保護性の判断のために収集した資料や,家庭裁判所調査官がその判断に資するために作成・収集した資料,いわゆる社会記録は対象とならない。
申出は,保護事件を終局させる決定が確定した後3年を経過するとできなくなる。
なお,審判不開始事件等についても裁判所の裁量による閲覧・謄写の余地が案内されているため,審判開始決定がないという理由だけで一切取得できないと決め付けることは適切でない(少年事件Q&A第2)。
3 心情等の意見聴取
家庭裁判所は,被害者等から心情その他の事件に関する意見の陳述の申出があるときは,自ら聴取し,又は家庭裁判所調査官に聴取させる(少年法9条の2)。
ただし,事件の性質,調査・審判の状況等を考慮して相当でない場合の例外がある。
この制度によって意見を聴いてもらうことと,審判期日を傍聴することは別である。
4 少年審判の傍聴
傍聴の対象は,故意の犯罪行為により被害者を死傷させた罪,刑法211条の業務上過失致死傷等及び少年法22条の4第1項3号所定の自動車運転死傷処罰法の罪等に係る事件である。
傷害の場合には,その傷害によって被害者の生命に重大な危険を生じさせたことが必要であり,軽傷を含むすべての傷害事件が対象となるわけではない。
また,行為当時12歳未満の少年に係る事件は対象から除かれる。
家庭裁判所は,少年の年齢・心身の状態,事件の性質及び審判の状況等を考慮し,健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認めるときに,傍聴を許可することができる。
触法少年については,精神的に特に未成熟であることへの十分な考慮が必要とされる(同条2項)。
家庭裁判所は,傍聴を許すに当たり,原則として少年側の弁護士である付添人の意見を聴き,その付添人がいなければ付す必要がある(同法22条の5第1項・2項)。
ただし,少年及び保護者が付添人を必要としない旨を所定の方法で明示した場合には,同条3項の例外がある。
ここでいう少年側の付添人と,被害者を援助する弁護士とは立場が異なる。
5 審判状況の説明と結果の通知
家庭裁判所は,申出があり,少年の健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認めるときは,審判期日における審判の状況を説明する(少年法22条の6)。
また,終局決定について申出があった場合には,原則として,少年及び法定代理人の氏名・住居等並びに決定年月日,主文及び理由の要旨を通知するが,相当でない場合の例外がある(同法31条の2)。
記録取得,傍聴,説明又は通知によって知った少年の身上等の情報は,正当な理由なく漏らしたり,みだりに利用して少年の健全な育成や関係者の名誉等を害したりしてはならない(同法5条の2第3項及び各準用規定)。
6 抗告との関係及び特定少年
被害者であるという理由だけで,少年審判の保護処分に抗告する権利が認められるものではない(少年法32条)。
18歳・19歳の特定少年も少年法の対象である。
家庭裁判所から検察官へ送致された後に刑事裁判となる場合は,刑事手続の被害者参加等を改めて検討することになる(少年事件Q&A第3)。
第8 捜査・起訴を求める利益と国家賠償請求の限界
1 最高裁判例が判断した利益
最高裁第三小法廷平成2年2月20日判決(平成元年(オ)第825号,集民159号161頁)は,犯罪の捜査及び公訴の提起によって被害者が受ける利益を,公益の実現に伴う事実上の利益とした。
最高裁第一小法廷平成17年4月21日判決(平成16年(受)第2030号,集民216号579頁)は,被害者が証拠物を任意提出して所有権を放棄した後,警察がこれを廃棄した事案について,廃棄が単に適正を欠くというだけでは国家賠償請求をすることができないと判断した。
同判決は,証拠物の所有権侵害が主張されていないことなどを前提とするものであり,被害者に対する捜査機関の行為がいかなる場合にも違法とならないと述べたものではない。
2 被害者の手続上の権利との区別
平成17年判決には,証拠品の適切な管理等に関わる被害者の人格的利益を重視する反対意見も付されている(判決本文3頁~4頁)。
上記判例が扱う捜査・訴追による利益と,本記事で説明した通知,記録取得,参加又は意見陳述等の個別の制度は,区別しなければならない。
国家賠償請求を検討する場合には,捜査結果への不満だけでなく,どの具体的行為によって,どの権利又は法律上保護された利益が侵害されたと主張するのかを特定する必要がある。
第9 犯罪被害者等給付金の支給制度
1 給付の種類と申請の入口
犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律に基づく給付には,遺族給付金,重傷病給付金及び障害給付金がある(同法4条)。
具体的な支給には,犯罪被害及び受給者についての要件があり,親族関係等による不支給・減額や,他の給付・損害賠償との調整もあるため,加害者からの賠償と同じものではない(同法3条,6条~9条)。
申請は,申請者の住所地を管轄する都道府県公安委員会に対して行い,裁定を受ける必要がある(同法10条1項)。
制度の案内は,警察庁の「犯罪被害給付制度」を参照。
2 申請期間
原則として,犯罪行為による死亡,重傷病又は障害の発生を知った日から2年を経過した場合,又はそれらが発生した日から7年を経過した場合には,申請できなくなる(同法10条2項)。
ただし,加害者による身体の不当な拘束等,やむを得ない理由で期間内に申請できなかった場合は,その理由がやんだ日から6か月以内の申請を認める例外がある(同条3項)。
「犯罪の日」と各給付の基礎となる死亡・重傷病・障害の発生日を機械的に同一視せず,起算点を個別に確認する必要がある。
3 同性の共同生活者に関する最高裁判決
最高裁第三小法廷令和6年3月26日判決(令和4年(行ツ)第318号・同年(行ヒ)第360号,民集78巻1号99頁)は,犯罪被害者と同性の者も,同法5条1項1号の事実上婚姻関係と同様の事情にあった者に該当し得ると判断した。
同性であることだけを理由に該当可能性を排除するのは,遺族の精神的・経済的打撃の軽減等を図る制度の趣旨に照らして相当でないとしたものである。
最高裁は原判決を破棄して事件を名古屋高等裁判所に差し戻しており,この判決自体が給付金の支給を命じたわけではない。
補足意見も,他の法令にある同一又は類似の文言の解釈は,各制度の趣旨・目的等を踏まえて検討すべきことを説明している(判決本文5頁~6頁)。
したがって,この判決の結論を,すべての制度の「配偶者」要件にそのまま当てはめることはできない。
第10 氏名等の秘匿と損害回復の制度
1 公開法廷での秘匿と被疑者・被告人に対する秘匿
被害者の情報保護では,公開の法廷で氏名等を明らかにしない措置と,被疑者・被告人に個人特定事項が知られないようにする措置を区別する必要がある。
公開法廷での被害者特定事項の秘匿は,刑訴法290条の2に基づき,対象事件,申出及び裁判所の相当性判断等を要する。
これに対し,逮捕状の抄本等や起訴状抄本等を用いる措置は,同法201条の2,271条の2等に定められている。
後者の仕組みは,刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和5年法律第28号)によって整備されたものである。
これらは,防御の準備との関係等にも配慮した制度であり,あらゆる相手方に対して無条件の匿名性を保障するものではない(刑訴法271条の3等)。
情報が誰に,どの段階で知られるおそれがあるかを具体的に伝え,適用可能な措置を確認することが必要である。
2 刑事手続における和解
被告人と被害者等の間で,当該被害に関する民事上の争いを含む合意が成立した場合には,刑事事件を扱う第一審又は控訴審の裁判所に,共同して公判調書への記載を申し立てる制度がある(犯罪被害者等保護法19条)。
弁論終結までに所定の手続をとる必要があり,公判調書に記載された合意は,裁判上の和解と同一の効力を有する。
合意の成立と,実際に賠償金を回収できるかどうかは別の問題である。
3 損害賠償命令
損害賠償命令は,所定の対象犯罪の被害者又は一般承継人が,刑事事件の係属する地方裁判所に対し,訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく賠償を申し立てる制度である(同法24条)。
申立ては,刑事事件の弁論が終結するまでに行う必要がある。
対象は,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪や所定の性犯罪,逮捕・監禁,略取・誘拐等であり,被害者参加の対象犯罪とは一致しない。
例えば,通常の過失運転致死傷事件は,被害者参加の対象となり得る一方,当然に損害賠償命令の対象となるものではない。
制度の概要は,裁判所の「刑事手続における犯罪被害者のための制度」を参照。
第11 刑の執行・保護観察段階における心情等の聴取・伝達
判決前の意見陳述とは別に,刑事施設,少年院,仮釈放の審理及び保護観察の段階にも,被害者等の心情や意見を聴く制度がある。
① 刑事施設については,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律85条3項・103条4項に,所定の受刑者に関する心情等の聴取及び伝達の定めがある。
② 少年院については,少年院法23条の2第2項・24条5項に,心情等の聴取及び伝達の定めがある。
③ 仮釈放を許すかどうかの審理については,更生保護法38条に,地方更生保護委員会による被害者等の意見・心情の聴取の定めがある。
④ 保護観察については,同法65条に,保護観察所による心情等の聴取及び保護観察対象者への伝達の定めがある。
これらは被害者等の申出等に基づく制度であり,対象,申出先,相当性及び改善更生への影響等の要件を個別に確認する必要がある。
加害者の処遇状況等を知らせてもらう被害者等通知制度とも別であり,一つの申出によってすべての手続が自動的に行われると考えるべきではない。
第12 関連記事及び出典
1 関連記事と公的案内
④ 裁判所「裁判手続 少年事件Q&A」
⑤ 法テラス「犯罪被害者等法律援助」
2 出典
本記事の条文説明はe-Gov掲載法令,規則の説明は裁判所公表資料,裁判例の説明は裁判所公表の判決・決定本文を基礎とする。
最高検察庁の平成26年通達等は本ブログ掲載の写しを確認した範囲で紹介し,改廃履歴を含む現行性がすべて確認済みであるとの意味では用いていない。
③ 検察審査会法,検察庁法,行政不服審査法,事件事務規程(76条2項・191条等)
④ 法務省「被害者等通知制度実施要領」(令和7年5月29日最終改正,第2~第4,第7,第10)
⑤ 最高検察庁平成26年10月21日付け依命通達(写し,1頁~4頁)及び同日付け発出通知(写し,5頁~7頁・12頁)
⑥ 総合法律支援法,法テラス業務方法書(80条の7~80条の11,80条の31,別表9・10),新制度の利用案内,国選被害者参加弁護士の案内及び日弁連委託援助の案内
⑦ 犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律及び警察庁「犯罪被害給付制度」
⑧ 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律,少年院法及び更生保護法
⑨ 最高裁昭和36年12月26日決定,最高裁大法廷昭和28年12月22日決定,最高裁平成2年2月20日判決,最高裁平成17年4月21日判決及び最高裁令和6年3月26日判決(事件番号及び掲載誌は各節記載)
⑩ 平成22年版犯罪被害者白書概要13頁~15頁,平成23年版犯罪被害者白書83頁及び平成22年度法テラス業務実績報告書174頁(過去の利用実績)
⑪ 令和2年6月26日付の政府答弁書,平成16年6月11日参議院内閣委員会答弁及び京都府警察「告訴,告発事件の取扱要領について(例規)」