弁護人


目次
第1 弁護人選任権
1 弁護人選任権者
2 弁護人の種類
3 弁護人選任の効力
4 弁護人の数
5 主任弁護人
第2 弁護人選任の申出,並びに当番弁護士制度及び私選紹介弁護士制度
1 弁護人選任の申出
2 当番弁護士制度及び私選紹介弁護士制度
第3 国選弁護人の選任
1 総論
2 被告人国選弁護人
3 被疑者国選弁護人
第4 弁護人と被疑者・被告人との接見交通
1 接見交通権
2 接見指定権
3 最高検察庁の接見対応通達
4 面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音
5 弁護人になろうとする者としての接見には制限があること
6 接見指定権に関する判例
第5 被疑者国選対象事件,国選付添人対象事件及び裁判員裁判対象事件
1 総論
2 被疑者国選対象事件
3 国選付添人対象事件
4 裁判員裁判対象事件
第5の2 精神鑑定結果の採用に関する最高裁判例
第6 刑事弁護における弁護士倫理
第7 刑事弁護に関する弁護士職務基本規程の条文
第8 関連記事その他

第1 弁護人選任権
1 弁護人選任権者
(1) 被告人又は被疑者は,何時でも弁護人を選任することができます(刑訴法30条1項)。
(2)ア 被告人又は被疑者の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹は,独立して弁護人を選任することができます(刑訴法30条2項)。
イ 原判決後被告人のために上訴をする権限を有しない選任権者によって選任された弁護人も,同法351条1項による被告人の上訴申立てを代理して行うことができます(最高裁大法廷昭和63年2月17日判決)。
2 弁護人の種類
(1) 刑訴法が認める弁護人には,①弁護士である弁護人(刑訴法31条1項,憲法37条3項「資格を有する弁護人」参照)及び②弁護士でない特別弁護人(刑訴法31条2項)があり,弁護士たる弁護人には私選弁護人及び国選弁護人があります。
(2) 刑訴法30条によって選任される弁護人は私選弁護人です。
3 弁護人選任の効力
(1)ア 公訴の提起前にした弁護人の選任は,弁護人と連署した書面を当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に差し出した場合に限り,第一審においてもその効力を有します(刑訴法32条1項,刑訴規則17条,犯罪捜査規範133条)。
イ 公訴の提起後における弁護人の選任は,弁護人と連署した書面を差し出してこれをしなければなりません(刑訴規則18条)。
ウ 連署とは、弁護人になろうとする者と被告人とがそれぞれ自己の氏名を自書し押印することであります(最高裁昭和40年7月20日決定及び最高裁昭和44年6月11日決定)ものの,裁判所に提出する弁護人選任届に対する弁護人の署名押印については,記名押印で足ります(刑訴規則60条の2第2項2号・第1項)。
(2) 一の事件についてした弁護人の選任は,その事件の公訴の提起後同一裁判所に公訴が提起され,かつ,これと併合された他の事件についても,原則としてその効力を有します(刑訴規則18条の2)。
(3) 公訴の提起後における弁護人の選任は,審級ごとにこれをしなければなりません(刑訴法32条2項)。
(4)   差戻し前の第一審においてした弁護人の選任が,差戻し後の第一審においても効力を有するものとすることはできません(最高裁昭和27年10月26日決定)。
4 弁護人の数
(1) 被疑者の弁護人の数は,特別の事情があるものとして裁判所が弁護人の人数超過許可決定を出した場合を除き,各被疑者について3人を超えることができません(刑訴規則27条1項)。
(2) 刑訴規則27条1項ただし書に定める特別の事情については,被疑者弁護の意義を踏まえると,事案が複雑で,頻繁な接見の必要性が認められるなど,広範な弁護活動が求められ,3人を超える数の弁護人を選任する必要があり,かつ,それに伴う支障が想定されない場合には,これがあるものと解されます(最高裁平成24年5月10日決定)。
(3) 裁判所は,特別の事情があるときは,弁護人の数を各被告人について3人までに制限することができます(刑訴法35条,刑訴規則26条)。
5 主任弁護人
(1) 被告人に数人の弁護人があるときは,主任弁護人を定める必要があります(刑訴法33条,刑訴規則19条及び20条)。
(2)   主任弁護人に事故がある場合に備えて,副主任弁護人が指定されることがあります(刑訴規則23条)。


第2 弁護人選任の申出,並びに当番弁護士制度及び私選紹介弁護士制度
1 弁護人選任の申出
(1) 弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は,弁護士会に対し,弁護人の選任の申出をすることができます(刑訴法31条の2第1項)。
    この場合,弁護士会は,速やかに,所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を紹介しなければなりません(刑訴法31条の2第2項)。
(2) 弁護士会は,弁護人となろうとする者がないときは,当該申出をした者に対し,その旨を通知しなければなりません(刑訴法31条の2第3項前段)。
    また,紹介した弁護士が被告人又は被疑者がした弁護人の選任の申込みを拒んだときも,同様です(刑訴法31条の2第3項後段)。
(3) 刑事収容施設(例えば,警察署留置場及び拘置所)に収容され,又は留置されている被告人又は被疑者に対する刑訴法31条の2第3項の通知は,留置業務管理者等にします(刑訴規則18条の3第1項)。
    この場合,直ちに被疑者にその旨が告げられます(刑訴規則18条の3第2項)。

2 当番弁護士制度及び私選弁護人照会制度
(1)ア 当番弁護士制度とは,身体を拘束されている刑事事件(少年事件を含む。)の被疑者の要請に基づき,弁護士会が弁護士を1回,無料で派遣する制度をいい,平成2年9月14日に大分県弁護士会が全国に先駆けて開始し,その後,全国の弁護士会に広がりました(最高裁平成5年10月19日決定の裁判官大野正男の補足意見参照)。
    これに対して私選弁護人紹介制度とは,私選弁護人の選任を希望する被疑者又は被告人の要請に基づき,弁護士会が弁護士を1回,無料で派遣する制度をいい,被疑者国選制度(刑訴法37条の2参照)が導入された平成18年10月2日に開始しました(刑訴法31条の2参照)。
イ   大阪弁護士会の場合,当番弁護士制度と私選弁護人紹介制度はワンセットで運用しています。
(2)ア 刑訴法31条2項に基づく特別弁護人の選任が許可されるのは,裁判所に公訴が提起された後に限られます(最高裁平成5年10月19日決定)から,被疑者段階で弁護人になれるのは弁護士だけです。
イ 外国法事務弁護士はここでいう「弁護士」に含まれません(外国法事務弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法3条1項2号参照)。


第3 国選弁護人の選任
1 総論
(1)ア 国選弁護人は弁護士の中から選任されます(刑訴法38条1項)。
イ 被告人国選弁護人を弁護士の中から選任することは憲法37条3項前段の要請です。
(2) 国選弁護人は,裁判所が解任しない限りその地位を失うものではありませんから,国選弁護人が辞任の申出をした場合であっても,裁判所が辞任の申出について正当な理由があると認めて解任しない限り,弁護人の地位を失うものではありません(最高裁昭和54年7月24日判決)。
(3) 裁判所は,以下の場合,国選弁護人を解任することができます(刑訴法38条の3)。
① 30条の規定により弁護人が選任されたことその他の事由により弁護人を付する必要がなくなったとき。
② 被告人と弁護人との利益が相反する状況にあり弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき。
③ 心身の故障その他の事由により,弁護人が職務を行うことができず,又は職務を行うことが困難となったとき。
④ 弁護人がその任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でないとき。
⑤ 弁護人に対する暴行,脅迫その他の被告人の責めに帰すべき事由により弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき。
(4) 刑事事件の複数の共犯者の弁護を同時に引き受けると,犯罪への加功の程度や誰が主導的役割を演じたかなど,共犯者間で利益相反が生じた場合,弁護人は身動きがとれなくなります。
    そのため,国選弁護人は,被告人又は被疑者の利害が相反しないときに限り,数人の弁護をすることができます(刑訴規則29条5項)。
    また,受任段階で共犯者らの話を聞いた段階ではそのような危険が危惧されなかった場合でも記録を閲覧するなどして初めて利益相反が判明するということもありますところ,利益相反が判明した場合,一方だけ辞任すればよいとは限りません。
    よって,できる限り,当初より共犯者の同時受任をすることは避けるべきであると解されています。
2 被告人国選弁護人
(1) 総論
ア 被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは,裁判所は,その請求により,被告人に国選弁護人を付けてくれます(刑訴法36条本文)。
    ただし,被告人が国選弁護人の選任請求をする場合,①資力申告書を提出するか,又は事前に②私選弁護人紹介制度を利用しておく必要があります(刑訴法36条の2及び3)。
イ 国選弁護人の選任を請求する場合,その理由を示す必要があります(刑訴規則28条)。
ウ 積極的請求があるときだけに限るのは合理的でないから,選任請求権を告知することとし(勾引された被告人につき刑訴法76条,勾留された被告人につき刑訴法77条,公訴提起時につき刑訴法272条及び刑訴規則177条),さらに,公訴提起後遅滞なく請求するかどうかを照会し,一定期間内に回答を求めることにしています(刑訴規則178条)。
    ただし,刑訴規則178条により裁判所がなす弁護人選任の照会手続は,憲法37条3項前段の要請に基づくものではありません(最高裁大法廷昭和28年4月1日判決)。
エ 刑訴法36条本文に基づく制度は,被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任できない場合に,被告人の請求により裁判所が弁護人を付する制度であり,憲法37条3項後段の要請に基づくものです(最高裁大法廷昭和32年7月17日決定参照)。
(2) 必要的弁護事件
ア 死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件を審理する場合,弁護人がなければ開廷することができません(刑訴法289条1項。必要的弁護事件)。
そのため,被告人が弁護人を選任していないとき,裁判長は,直ちに被告人のため弁護人を選任しなければなりません(刑訴規則178条3項)。
イ 被告人が判決宣告期日の2日前に私選弁護人全員を解任し,その翌日国選弁護人選任の請求をした場合において,被告人がその時期に私選弁護人を解任するのもやむを得ないとする事情がなく,裁判所が判決宣告期日に間に合うように国選弁護人を選任するのが困難であったときは,裁判所が国選弁護人を選任しないまま判決の宣告をしても,憲法31条,37条3項に違反しません(最高裁昭和63年7月8日判決)。
なお,訴訟法上の権利は誠実にこれを行使し濫用してはならないものであることは刑訴規則1条2項の明定するところであり,被告人がその権利を濫用するときは,それが憲法に規定されている権利を行使する形をとるものであっても,その効力を認めないことができます(最高裁昭和54年7月24日判決)。
(3) 任意的弁護事件
   必要的弁護事件以外の事件を任意的弁護事件といい,刑訴法37条所定の以下の事由がない限り,弁護人の選任がないまま,公判期日を開廷することとなります。
① 被告人が未成年者であるとき。
→ ただし,少年の被告人に弁護人がないときは,裁判所は,なるべく,職権で弁護人を付す必要があります(刑訴規則279条)。
② 被告人が年齢70歳以上の者であるとき。
③ 被告人が耳の聞こえない者又は口のきけない者であるとき。
④ 被告人が心神喪失者又は心神耗弱者である疑いがあるとき。
⑤ その他必要と認めたとき。
(4) 被告人国選弁護人の報酬及び費用
ア 憲法37条3項後段は,刑事被告人に資格を有する弁護人を国が付することを保障していますから,刑訴法38条1項が,被告人の国選弁護人は弁護士から選任すべきことを定めるのは,憲法の要請を受けたものです。
    ただし,国選弁護人の報酬及び費用を何人に負担させるかという問題は,憲法37条3項後段が関知するところではありません(最高裁大法廷昭和25年6月7日判決参照)。
イ 国選弁護人は,裁判所が解任しない限りその地位を失うものではありませんから,国選弁護人が辞任の申出をした場合であっても,裁判所が辞任の申出について正当な理由があると認めて解任しない限り,弁護人の地位を失うものではありません(最高裁昭和54年7月24日判決)。
    なお,国選弁護人の解任理由を定めた,平成16年5月28日法律第62号による改正後の刑訴法38条の3は,平成18年10月2日に施行されました。
ウ 刑事訴訟費用の主たるものは,刑事事件における被疑者国選弁護人及び被告人国選弁護人の報酬及び費用のことです(総合法律支援法5条及び39条2項参照)。
エ 報酬及び費用が事件ごとに定められる契約を締結している国選弁護人等契約弁護士(=普通国選弁護人契約弁護士)の場合,法テラスが査定した報酬及び費用が訴訟費用となります(総合法律支援法39条2項1号)。
    そのため,①刑訴法38条2項及び②刑事訴訟費用等に関する法律(=刑訴費用法)2条3号の適用が排除されています(総合法律支援法39条1項)。
オ 司法支援センター(=法テラス)との一般国選弁護人契約(=基本契約)には,以下の2種類があります。
① 普通国選弁護人契約(国選弁護人の事務に関する契約約款2条4号)
→ 事件ごとに報酬及び費用が定まる契約のことであり,基本契約の締結を希望するすべての弁護士が結びます。
② 一括国選弁護人契約(国選弁護人の事務に関する契約約款2条6号)
→ 複数の即決被告事件について一括して,報酬及び費用が定まる契約のことであり,被告人段階で即決裁判を一度に複数件を受任する意思のある弁護士が,普通国選弁護人契約とは別に結ぶものです。
カ 国選弁護人に支給される報酬及び費用は,国選弁護人の事務に関する契約約款別紙「報酬及び費用の算定基準」において,算定基準が詳細に定められています(国選弁護人の事務に関する契約約款14条)。
キ 総合法律支援法(平成16年6月2日法律第74号)に基づき,司法支援センター(=法テラス)が平成18年10月2日に業務を開始する以前は,裁判所が,刑訴法38条2項に基づき,国選弁護人の旅費,日当,宿泊料及び報酬を定めていました。
    そして,国選弁護人の旅費,報酬等は,裁判所が相当と認めるところによるものとされ(刑訴費用法8条),刑訴法に準拠する不服申立ては許されませんでした(最高裁昭和63年11月29日決定)。


3 被疑者国選弁護人
(1) 裁判員法が施行された平成21年5月21日以降,死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件について被疑者に対して勾留を請求され,又は勾留状が発せられている場合において,被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは,裁判所は,その請求により,被疑者に国選弁護人を付けてくれます(刑訴法37条の2)。
    ただし,被疑者が国選弁護人の選任請求をする場合,①資力申告書を提出するか,又は事前に②私選弁護人紹介制度を利用しておく必要があります(刑訴法37条の3第1項及び第2項)。
(2) 被疑者国選事件の範囲は,弁護人がなければ開廷することができない必要的弁護事件の範囲(刑訴法289条1項)と同じです。
(3) 裁判官は,特に必要があると認めるときは,被疑者に対し,職権で更に国選弁護人1人を付けることができます(刑訴法37条の5本文)。
(4) 被疑者の国選弁護人は,被疑者がその選任に係る事件について釈放されたときは,その効力を失います(刑訴法38条の2)。
(5) 平成18年10月2日から平成21年5月20日までは,被疑者国選弁護人の対象事件は,「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件」でした。
(6) 被疑者国選対象事件が平成18年10月2日に開始し,平成21年5月21日に拡大することは,平成16年5月28日法律第62号によって定められていました。

第4 弁護人と被疑者・被告人との接見交通
1 接見交通権
(1) 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は,①弁護人又は②弁護人を選任することができる者(刑訴法30条)の依頼により弁護人となろうとする者と立会人なくして接見し,又は書類若しくは物の授受をすることができ(刑訴法39条1項),これを接見交通権といいます。
(2) 刑訴法39条1項は,身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり,憲法34条の補償に由来するものです(最高裁大法廷平成11年3月24日判決。なお,先例として,最高裁昭和53年7月10日判決,最高裁平成3年5月10日判決参照)。
(3) 依頼により弁護人となろうとする者とは,弁護人としての選任の依頼,委嘱の申込みを受けてから弁護人としての選任手続を完了するまでの者をいいます。
(4) 接見交通については,法令で,被告人又は被疑者の逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができます(刑訴法39条2項)。
   そのため,裁判所は,身体の拘束を受けている被告人又は被疑者が裁判所の構内にいる場合においてこれらの者の逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要があるときは,これらの者と弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者との接見については,その日時,場所及び時間を指定し,又,書類若しくは物の授受については,これを禁止することができます(刑訴規則30条)。
2 接見指定権
   検察官,検察事務官又は司法警察職員は,捜査のため必要があるときは,公訴の提起前に限り,接見交通に関し,その日時,場所及び時間を指定することができます。
   ただし,その指定は,被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものであってはなりません(刑訴法39条3項)。
3 最高検察庁の接見対応通達
(1) 平成20年5月1日付の接見対応通達(次長検事通達),及び同日付の接見対応通達(総務部長通知)を掲載しています。
(2) 接見対応通達等の運用状況については,法務省が平成23年8月に作成した「取調べに関する国内調査結果報告書」に記載されています。
4 面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音
(1)   日弁連は,平成23年1月20日,「面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書」を法務大臣及び警察庁長官に提出しており,PDFファイルには「意見の趣旨」として以下の記載があります。
   弁護士が弁護人,弁護人となろうとする者もしくは付添人として,被疑者,被告人もしくは観護措置を受けた少年と接見もしくは面会を行う際に,面会室内において写真撮影(録画を含む)及び録音を行うことは憲法・刑事訴訟法上保障された弁護活動の一環であって,接見・秘密交通権で保障されており,制限なく認められるものであり,刑事施設,留置施設もしくは鑑別所が,制限することや検査することは認められない。
   よって,刑事施設,留置施設もしくは鑑別所における,上記行為の制限及び検査を撤廃し,また上記行為を禁止する旨の掲示物を直ちに撤去することを求める。
(2) 最高裁は,平成28年6月15日,いわゆる竹内国家賠償請求訴訟の上告審で,原告一部勝訴の第一審判決を取り消し,請求をすべて棄却するとの東京高裁平成27年7月9日判決に対する上告及び上告受理申立を退ける決定をしました(日弁連HPの「面会室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟の最高裁決定についての会長談話」(平成28年6月17日付))。


5 弁護人になろうとする者としての接見には制限があること
    平成21年12月16日付の日弁連綱紀委員会議決の議決要旨は以下のとおりです(弁護士自治を考える会HPの「「立場濫用」で再審査を要求 日弁連,京都弁護士会に」参照)。
    対象弁護士は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人になろうとする者に該当せず,かつ,「弁護人又は弁護人となろうとする者」以外の者との接見や書類の授受が禁止されていたにもかかわらず,自己が依頼を受けた被告人以外の利害対立のおそれがある他の共犯者と当該共犯者からの依頼がないにもかかわらず単に弁護人となる可能性があるとして接見した行為は,接見交通権の濫用であり,品位を失うべき非行に該当する。


6 接見指定権に関する判例
(1) 捜査機関は,弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは,原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり,同条3項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは,右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ,右要件が具備され,接見等の日時等の指定をする場合には,捜査機関は,弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し,被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければなりません。

   そして,弁護人等から接見等の申出を受けた時に,捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分,検証等に立ち会わせている場合,また,間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって,弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは,右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは,原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たりますす(最高裁大法廷平成11年3月24日判決。なお,先例として,最高裁昭和53年7月10日判決,最高裁平成3年5月10日判決,最高裁平成3年5月31日判決参照)。
(2) 弁護人の事務所,検察庁及び被疑者が勾留されている警察署の位置関係などから,検察庁において接見指定書を受領して右警察署に持参することが弁護人にとって過重な負担となるものではなく,弁護人が申し出た接見の日時までに相当の時間があるために,弁護人が検察庁まで接見指定書を受け取りに行くことにしても接見の開始が遅れることはなく,検察庁から弁護人の事務所に対して接見指定書をファクシミリで送付することができないなどといった事情の下においては,接見指定書を交付する方法により接見の日時等を指定しようとして,弁護人に対し検察庁において接見指定書を受領するよう求め,その間右指定をしなかった検察官の措置に違法があるとはいえません(最高裁平成12年2月22日判決)。
(3) 弁護人が警察署に赴き勾留中の被疑者との接見の申出をしたのに対し,申出を受けた留置担当官が,接見の日時等を指定する権限のある検察官から被疑者と弁護人との接見についていわゆる一般的指定書が送付されていたのに,具体的指定書を所持しているか否かを確認しないまま接見を開始させたが,その一,二分後に弁護人が具体的指定書を所持していないことに気付き,接見を中止させるとともに直ちに右検察官に電話で連絡したところ,右検察官から具体的指定書によって接見の日時等を指定するのでその日時まで接見をさせてはならない旨の指示を受けたなどといった事実関係の下においては,接見を中止させた上,右検察官から具体的指定書が届けられるまでの間弁護人を待機させた留置担当官の措置に違法があるとはいえません(最高裁平成12年3月17日判決)。
(4) 弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては,弁護人の選任を目的とし,かつ,今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって,直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから,これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要です。
   したがって,右のような接見の申出を受けた捜査機関としては,接見指定の要件が具備された場合でも,その指定に当たっては,弁護人となろうとする者と協議して,即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうかを検討し,これが可能なときは,留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り,犯罪事実の要旨の告知等被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取,写真撮影等所要の手続を終えた後において,たとい比較的短時間であっても,時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべきであり,このような場合に,被疑者の取調べを理由として右時点での接見を拒否するような指定をし,被疑者と弁護人となろうとする者との初回の接見の機会を遅らせることは,被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものとなります(最高裁平成12年6月13日判決)。
(5) 同一人につき被告事件の勾留とその余罪である被疑事件の勾留が競合している場合,検察官は,被告事件について防御権の不当な制限にわたらない限り,被告事件についてだけ弁護人に選任された者に対しても,刑訴法39条3項の接見等の指定権を行使することができます(最高裁平成13年2月7日決定。なお,先例として,最高裁昭和55年4月28日決定)。
(6) 弁護人等から接見等の申出を受けた者が、接見等のための日時等の指定につき権限のある捜査機関(=権限のある捜査機関)でないため,指定の要件の存否を判断できないときは,権限のある捜査機関に対して申出のあったことを連絡し,その具体的措置について指示を受ける等の手続を採る必要があり,こうした手続を要することにより,弁護人等が待機することになり,又はそれだけ接見等が遅れることがあったとしても,それが合理的な範囲内にとどまる限り,許容されています(最高裁平成16年9月7日判決)。
(7)  保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあった場合に,その旨を未決拘禁者に告げないまま,保護室収容を理由に面会を許さない刑事施設の長の措置は,特段の事情がない限り,国家賠償法上違法となります(最高裁平成30年10月25日判決)。


第5 被疑者国選対象事件,国選付添人対象事件及び裁判員裁判対象事件
1 総論

(1) 罪名別各制度対象事件早見表(平成21年5月当時のもの)
    外部HPの「罪名別各制度対象事件早見表」を見れば,被疑者国選対象事件が拡大したり,裁判員制度が導入されたりした平成21年5月21日時点において,どの罪名の事件が,①被疑者国選対象事件(死刑,無期又は長期3年を超える懲役・禁錮),②国選付添人対象事件(死刑,無期若しくは短期2年以上の懲役・禁錮,又は故意犯の死亡結果)及び③裁判員裁判対象事件(死刑,無期の懲役・禁錮又は法定合議かつ故意犯の死亡結果)に該当するかが分かります。
(2) 少年が犯罪を犯した場合の適用される弁護制度
    少年が犯罪を犯した場合,以下の制度の対象となります(法務省HPの「現行法による国選弁護・国選付添製度の概要」参照)。
① 捜査段階
・   被疑者国選弁護制度(刑訴法37条の2)
② 家庭裁判所に事件が係属している段階
・   国選付添人制度
→ (a)検察官関与決定に伴うものにつき少年法22条の3第1項,(b)家庭裁判所の裁量によるものにつき少年法22条の3第2項,(c)被害者等の審判傍聴に伴うものにつき少年法22条の5第2項
③ 検察官送致決定後,起訴される前の段階
・   被疑者国選弁護制度(刑訴法37条の2)
④ 起訴された後の段階
・ (被告人)国選弁護制度(刑訴法36条,37条)
2 被疑者国選対象事件
(1) 被疑者国選弁護制度は,日本司法支援センターが本格的に業務を開始した平成18年10月2日に開始しました。
開始当時の被疑者国選対象事件は,死刑,無期又は短期1年を超える懲役・禁錮だけでした。
(2) 平成21年5月21日,被疑者国選対象事件が死刑,無期又は長期3年を超える懲役・禁錮となりました。
(3) 平成30年6月1日, 勾留状が発せられている身柄事件の全部が被疑者国選弁護人対象事件となりました。
3 国選付添人対象事件
(1) 平成13年4月1日,検察官関与決定があった場合,必ず国選付添人が付されることとなりました(少年法22条の3第1項・22条の2第1項)。
    ただし,平成13年4月1日から平成18年3月31日までにつき,検察官関与決定があった100人中,国選付添人が付されたのは25人だけです(最高裁HPの「平成12年改正少年法の運用の概況」8頁)。
(2) 平成19年11月1日,死刑,無期若しくは短期2年以上の懲役・禁錮,又は故意犯の死亡結果が,「裁量的な」国選付添人対象事件となりました(少年法22条の3第2項及び第1項・22条の2第1項)。
    ただし,その選任数は年間300人から500人程度に過ぎず(少年鑑別所に収容された少年は年間約1万人以上),被疑者国選対象事件と国選付添人対象事件の範囲が異なるため,家裁送致後,被疑者国選弁護人が引き続き国選付添人として活動できないという問題が生じていました(日弁連HPの「全面的国選付添人制度の実現(全面的国選付添人制度実現本部)参照」参照)。
(3)ア 平成26年6月18日, 死刑,無期又は長期3年を超える懲役・禁錮が,「裁量的な」国選付添人対象事件となりました(少年法22条の3第2項及び第1項・22条の2第1項)。   これにより,被疑者国選対象事件と国選付添人対象事件の範囲が一致することとなりました。
イ  日弁連によれば,少年鑑別所に収容され身体拘束された少年の約8割について,裁量的に国選付添人が選任されることとなりました(日弁連HPの「全面的国選付添人制度の実現(全面的国選付添人制度実現本部)」参照)。
4 裁判員裁判対象事件
(1) 裁判員裁判は平成21年5月21日に開始しました。
(2) 裁判員裁判対象事件は, 死刑,無期の懲役・禁錮又は法定合議かつ故意犯の死亡結果です(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条1項)。


第5の2 精神鑑定結果の採用に関する最高裁判例
1(1) 刑法39条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかの法律判断の前提となる生物学的,心理学的要素についての評価は,右法律判断との関係で究極的には裁判所に委ねられるべき問題です(最高裁昭和58年9月13日決定)。
(2) 責任能力判断の前提となる生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について,専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には,鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり,鑑定の前提条件に問題があったりするなど,これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り,裁判所は,その意見を十分に尊重して認定すべきです(最高裁平成20年4月25日判決)。
(3) 裁判所は,特定の精神鑑定の意見の一部を採用した場合においても,責任能力の有無・程度について,当該意見の他の部分に拘束されることなく,被告人の犯行当時の病状,犯行前の生活状態,犯行の動機・態様等を総合して判定することができます(最高裁平成21年12月8日決定)。
2 東弁リブラ2023年12月号「令和5年3月24日実施 講演録及びパネルディスカッション録「精神科医から見た責任能力が問題となる裁判員裁判」」には以下の記載があります。
(山中注:精神鑑定の結果に関する最高裁判例を)まとめると、基本的には鑑定人の意見を尊重しつつも、責任能力の判断は専ら裁判所に委ねられ、裁判所は精神鑑定の意見の一部を採用したとしても、他の部分には拘束されずに、犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機、態様等を総合して判定できるというふうにされています。

第6 刑事弁護における弁護士倫理
1 弁護士は,被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ,その権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に努めます(弁護士職務基本規程46条)。
2 弁護士は,被疑者及び被告人に対し,黙秘権その他の防御権について適切な説明及び助言を行い,防御権及び弁護権に対する違法又は不当な制限に対し,必要な対抗措置をとるように努めます(弁護士職務基本規程48条)。
3 弁護士は,国選弁護人に選任された事件について,名目のいかんを問わず,被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領してはなりません(弁護士職務基本規程49条1項)。
4 日弁連又は所属弁護士会の会則に別段の定めがある場合を除き,弁護士は,国選弁護人に選任された事件について,被告人その他の関係者に対し,その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはなりません(弁護士職務基本規程49条2項)。
5 最高裁平成17年11月29日決定は,殺人,死体遺棄の公訴事実について被告人が第1審公判の終盤において従前の供述を翻し全面的に否認する供述をするようになったが弁護人が被告人の従前の供述を前提にした有罪を基調とする最終弁論をして裁判所がそのまま審理を終結した第1審の訴訟手続に法令違反は存しないとされた事例です。


第7 関連記事その他
1(1) 憲法34条前段は,身柄拘束被疑者の弁護人選任権を定めていますところ,刑訴法30条1項は,身柄拘束の有無を問わず,被疑者及び被告人の弁護人選任権を定めています。
(2) 刑訴法31条2項によりいわゆる特別弁護人を選任することができるのは公訴が提起された後に限られます(最高裁平成5年10月19日決定)。
2 日弁連HPに「被疑者ノート」(令和5年10月・第6版補訂3版)が載っている他,日弁連の会員用HPに「弁護人ノート」が載っています。
3(1) 刑訴法207条の2第1項は「検察官は、第二百一条の二第一項第一号又は第二号に掲げる者の個人特定事項について、必要と認めるときは、前条第一項の勾留の請求と同時に、裁判官に対し、勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げるに当たつては当該個人特定事項を明らかにしない方法によること及び被疑者に示すものとして当該個人特定事項の記載がない勾留状の抄本その他の勾留状に代わるものを交付することを請求することができる。」と定めています。
(2) 最高裁令和6年4月24日決定は,刑訴法207条の2の規定について,被疑者を勾留するに当たり,その理由を被疑事件を特定して告げるものとはいえず,また,被疑者が弁護人に依頼する権利を侵害するから憲法34条に違反するとの主張が,欠前提処理された事例です。
4(1) 以下の文書を掲載しています。
① 刑事事件に関する書類の参考書式について(平成18年5月22日付の最高裁判所事務総局刑事局長,総務局長,家庭局長送付)
② 夜間及び休日の未決拘禁者と弁護人等との面会等の取扱いについて(平成19年5月25日付の法務省矯正局長通達)
→ 二弁フロンティア2018年11月号の「国選日誌 刑事弁護の「かゆいところ」、お答えします」によれば,(a)「当該面会希望日から起算して5日以内に公判期日が指定されている場合」及び(b)「上訴期限又は控訴趣意書等の提出期限が当該面会希望日から起算して5日以内に迫っている場合」でいうところの「5日以内」に土日祝日は含まれないのであって,5営業日以内であるとのことです。
③ 弁護人選任権の告知及び弁護人の選任に係る事項の教示等について(平成28年6月28日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 被疑者の逮捕
・ 被疑者及び被告人の勾留
・ 被告人の保釈


広告
スポンサーリンク