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税務

勤務先が負担した国民年金基金掛金相当額は給与所得となるか―東京地判平成16年11月24日と社会保険料控除(AI作成)

第1 結論
第2 東京地裁平成16年11月24日判決

1 事件と争点
2 判決の判断
3 判決の射程

第3 現行法上の整理

1 給与所得への算入
2 社会保険料控除
3 源泉徴収・年末調整

第4 法律事務所・企業の実務チェックリスト
第5 判決及び資料の確認範囲
第6 関連記事
第7 出典

第1 結論

勤務先が,本来は役員又は従業員本人が負担すべき国民年金基金の掛金又はその相当額を負担した場合,その勤務先負担額は,原則として本人に対する経済的利益,すなわち給与所得として取り扱われる。国民年金基金掛金が社会保険料控除の対象であることから,直ちに勤務先負担額が非課税になるわけではない。

東京地裁平成16年11月24日判決(平成13年(行ウ)第359号・所得税更正処分取消請求事件)は,使用者が被用者本人の負担すべき保険料又は掛金を支払った場合の所得区分を検討し,国民年金基金掛金の勤務先負担額を給与所得とする税務処理を是認した。ただし,この判決は,勤務先が別個の退職年金制度を設けた場合一般や,業務委託先が独立事業者の費用を支払った場合一般を判断したものではない。

実務では,①誰が法令上・契約上の掛金負担者か,②勤務先が基金へ直接納付したのか本人へ手当を支給したのか,③給与課税と源泉徴収をしたか,④社会保険料控除を誰がどの年に適用できるかを分けて確認する必要がある。

第2 東京地裁平成16年11月24日判決

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KSK2とは何か-令和8年9月24日の国税システム更改,AI活用,e-Tax変更及び障害(AI作成)

目次第1 KSK2の位置付け1 KSK2とは何か2 更改の三つの開発コンセプト3 分かることと公表資料の限界第2 KSK2が扱う事務と情報1 申告から債権管理までの主な機能2 外部システムとの連携3 ガバメントクラウドと外部ネットワーク非接続端末第3 AI-OCR,予測AI及びデータ分析1 AI-OCRによる書面のデータ化2 調査選定と滞納整理を支援するデータ分析3 予測AIと生成AIは別の用途であること第4 納税者及び事業者に見える変更1 申告書等の様式と控用2 13桁の「お問い合わせ番号」3 e-Taxの接続先と文字の取扱い4 提出年月日の表示と電子交付の一括同意第5 更改前後に公表された不具合等1 e-Taxの不具合と解消公表2 税務署窓口での手続遅延3 更改前に判明した仕様書の掲載誤り第6 税務実務で区別しておきたいこと1 システム更改と税法上の義務は別であること2 データの整合性が重要になること3 障害時に残しておく記録4 セキュリティ資料の読み方5 申告・納付期限の延長を確認する手順第7 関連する記事1 提出の証明と申告書の閲覧2 国税庁資料の法的な位置付け第8 出典1 国税庁による制度及び更改の説明2 個人情報,システム機能及び情報連携3 更改前後のお知らせ
第1 KSK2の位置付け
1 KSK2とは何か

KSK2は,国税総合管理システムの次世代版であり,全国の国税局と税務署を結び,申告・納税の事績,各種資料,国税債権等を地域や税目を越えて管理し,税務調査や滞納整理を含む国税事務に利用する基幹システムです。
国税庁は令和8年9月24日に国税システムを更改したと公表しており,本記事では同月27日を調査基準日として,国税庁の公表資料をAIで整理した上で原資料と照合しました。

KSK2は,納税者向けの一つの新サービスの名称ではありません。
内部の賦課・徴収事務,書面の収受・入力,e-Tax,マイナポータル,eLTAX等との連携を支えるシステム群として理解するのが適切です。

2 更改の三つの開発コンセプト

国税庁が開発段階で示したコンセプトは,紙を前提とした処理からデータ中心の事務処理へ移ること,税目別のデータベース及びアプリケーションを統合すること,独自OSのメインフレームから汎用的なOSを使うオープンシステムへ刷新することの三つです。
旧KSKも地域や税目を越えた情報の一元管理を目的とするシステムでしたが,KSK2では,その内部に残っていた税目別のデータベース及びアプリケーションを統合することが開発課題とされました。

3 分かることと公表資料の限界

公表資料からは,KSK2の目的,主な機能,取り扱う情報の類型,外部システムとの連携,AI-OCR及びデータ分析の概略を確認できます。
一方,個別の納税者について用いる抽出条件,モデルの重み,職員画面の具体的な表示内容その他の詳細な内部運用は,確認した公表資料だけでは分かりません。

第2 KSK2が扱う事務と情報
1 申告から債権管理までの主な機能

国税庁の全項目評価書は,主な機能として,納税者ごとの部内番号の確認・付番,申告書等の入力,納税者の基本情報及び関係者情報の管理,各税目の申告・申請・届出情報の管理,法定調書等の資料情報の管理,国税の債権債務の管理,納税証明書の作成並びに税務調査対象者の選定等を挙げています。
したがって,KSK2は単なる電子申告の受付システムではなく,収受後の処理,課税,徴収,証明及び調査選定を横断する基盤です。

2 外部システムとの連携

全項目評価書には,e-Tax,eLTAX,住民基本台帳ネットワークシステム,マイナポータル,口座情報登録システム,日本銀行のシステム等との情報連携が記載されています。
例えば,地方公共団体との間ではeLTAXを経由して課税・滞納情報を照会・提供し,マイナポータルとの関係ではお知らせの通知や自己情報の連携にKSK2が関与します。

外部連携があることは,すべての情報を無条件に共有することを意味しません。
どの情報をどの目的で取り扱うかは,税法,番号法その他の根拠と個別の連携仕様によって区別して読む必要があります。

3 ガバメントクラウドと外部ネットワーク非接続端末

全項目評価書は,KSK2に加え,ガバメントソリューションサービス,ガバメントクラウド及び外部ネットワークに接続しない高性能パソコンを併用してデータ分析を行う構成を示しています。
ガバメントクラウドでは各種納税者情報を含むデータを加工・分析し,高性能パソコンではKSK2内の各税目データや調査で取得したデータを分析するとされています。

この記載から分かるのは,国税事務の全情報が一つの公開クラウドへ単純に移されたということではなく,目的に応じて複数の環境を組み合わせる構成であることです。
外部ネットワーク非接続端末からデータを移動する場合の媒体限定,暗号化及び不要データ削除も,同評価書に記載されています。

第3 AI-OCR,予測AI及びデータ分析
1 AI-OCRによる書面のデータ化

令和8年9月24日の更改後は,一部の書面申告書,申請書等について,AI-OCRがフリーピッチ枠の文字を認識し,データ化及びイメージ化を行います。

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破産管財人による破産法人の消費税申告-不動産売却,課税期間,申告・納付及び無申告の問題(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 破産法人の消費税を取り上げます2 先に結論を示します第2 納税義務者と申告手続を行う者1 納税義務者は破産法人です2 申告・納付の手続は破産管財人が行います第3 不動産等を換価した場合の課税関係1 土地と建物は区分します2 任意売却であることだけでは課税関係は消えません3 課税売上げと控除対象仕入れを別々に確認します第4 課税期間,申告期限及び財団債権1 破産手続の開始日だけでは申告期限は決まりません2 財団債権となるかは発生原因と時期を確認します第5 無申告・期限後申告の問題1 本税だけで終わらないことがあります2 帳簿等の不備は税額計算にも影響します第6 破産管財人が作る確認表1 換価前に確認する事項2 換価後に確認する事項第7 懲戒事例を読む際の注意1 税務上の判断と懲戒判断は別です2 関連する記事第8 参照資料1 法令2 国税庁資料3 裁判例資料
第1 この記事の対象
1 破産法人の消費税を取り上げます

この記事は,法人の破産手続開始後に破産管財人が不動産その他の資産を換価した場合を中心に,消費税の納税義務者,課税・非課税の区分,申告・納付及び無申告となった場合の問題を整理したものです(令和8年9月27日現在)。

個人破産における所得税・消費税や,破産法人の法人税については,制度と計算構造が異なるため,必要な範囲を除いて扱いません。また,個別案件の課税関係は,基準期間,課税事業者選択,簡易課税,インボイス登録,売買契約及び換価費用等により変わります。

2 先に結論を示します

破産手続開始後も,破産法人が当然に消費税の納税義務者でなくなるわけではありません。国税庁は,破産財団に属する課税資産の譲渡等について,破産法人の基準期間により納税義務を判定し,破産管財人が申告・納付の手続を行うと説明しています。

したがって,管財実務では,換価時点で売買代金をそのまま配当原資とみなさず,土地・建物等の区分,課税期間,仕入税額控除に必要な帳簿・請求書等及び申告期限を早期に確認する必要があります。

第2 納税義務者と申告手続を行う者
1 納税義務者は破産法人です

国税庁の質疑応答事例は,破産財団は独立した法主体ではなく,破産財団に属する財産を課税資産として譲渡した場合の納税義務者は破産法人であると整理しています。納税義務の有無も,原則として破産法人の基準期間における課税売上高等によって判断します。

破産手続の開始は,財産の管理処分権を破産管財人に移しますが,破産法人とは別の納税主体として「破産財団」が新設されるわけではありません。

2 申告・納付の手続は破産管財人が行います

破産財団に属する課税資産の譲渡等について破産法人に消費税の申告・納付義務があるときは,その手続を破産管財人が行います。ここでは,「納税義務者」と「申告・納付の事務を担当する者」を区別する必要があります。

平成20年6月16日の名古屋高裁金沢支部判決は,破産会社の課税資産の譲渡に関する申告・納付について,破産管財人がその職務として行うべきことを前提に判断しました。この裁判例は,国税庁の「税務訴訟資料」に収録されています。

第3 不動産等を換価した場合の課税関係
1 土地と建物は区分します

土地の譲渡は消費税の非課税取引です。他方,事業者が事業として行う建物,機械,備品その他の資産の譲渡は,原則として課税取引となります。

土地と建物を一括して売却した場合でも,土地部分まで一律に課税されるわけではありません。国税庁は,契約で価額が区分されていない場合,譲渡時の時価や固定資産税評価額等を基礎とする合理的な方法で区分する必要があると説明しています。

2 任意売却であることだけでは課税関係は消えません

担保権者の同意を得て行う任意売却や,破産管財人による換価であっても,資産の譲渡に該当する限り,通常の消費税の判定から外れるわけではありません。裁判所の許可,担保権者との別除権協定及び配当見込みは,換価の適法性や経済性に関係しますが,それだけで消費税が非課税となるものではありません。

3 課税売上げと控除対象仕入れを別々に確認します

納付税額は,原則として課税売上げに係る消費税額から控除対象仕入税額を差し引いて計算します。そのため,売却代金だけでなく,仲介手数料,測量費,解体費その他の換価費用について,課税関係と保存書類を確認する必要があります。

仕入税額控除を受けるための帳簿・請求書等の要件は,取引時期やインボイス制度の適用関係によって異なります。破産開始前の経理資料が散逸している場合でも,保存資料の有無を確認しないまま控除可能であると扱うことはできません。

第4 課税期間,申告期限及び財団債権
1 破産手続の開始日だけでは申告期限は決まりません

法人の消費税の課税期間は,原則として事業年度です。確定申告と納付は,原則として課税期間の末日の翌日から2か月以内に行います。課税期間の特例や申告期限の延長がある場合は,それぞれ別に確認します。

破産手続が開始したことや,法人の営業を停止したことだけで,消費税の課税期間や申告期限が当然に消滅するわけではありません。開始決定日,事業年度末,換価日及び申告期限を同じ年表に置くと,確認漏れを防ぎやすくなります。

2 財団債権となるかは発生原因と時期を確認します

破産法148条1項は,一定の租税等の請求権及び破産管財人が破産財団に関してした行為によって生じた請求権を財団債権としています。

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生前贈与の加算は亡くなった年でどう変わるか―加算額の早見表,100万円の控除,贈与税額控除と還付されない贈与税(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 加算の仕組みと経過措置1 相続税法19条1項2 亡くなった年で加算対象期間が変わる3 加算対象期間の早見表第3 早見表―毎年300万円を5年間贈与した翌年に亡くなった場合1 設例と前提2 死亡年ごとの加算額3 贈与の日をいつとみるか4 毎年の贈与を続ける意味第4 加算された贈与の贈与税と,還付されない贈与税1 控除される贈与税の額2 控除しきれない贈与税は還付されない第5 贈与税を払ってでも移すことの損得1 贈与税の実効税率2 相続税の税率3 比べ方と前提第6 加算の対象になる人とならない人1 相続又は遺贈により財産を取得した人に限られる2 孫を生命保険金の受取人にした場合第7 相続時精算課税との違い1 年110万円の基礎控除と加算の範囲2 暦年課税との比較3 110万円と生前贈与加算についてよくある質問第8 民法上の扱いは税とは別の物差し1 特別受益と遺留分2 税の7年と民法の10年を混同しない第9 関連記事第10 出典1 法令2 通達・国税庁の解説3 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

令和5年度の税制改正により,相続税の計算に足し戻される生前贈与(暦年課税)の範囲は,相続開始前3年以内から7年以内へ広がった。
もっとも,7年がそのまま適用されるのは令和13年以後の相続であり,それまでは亡くなった年によって範囲が変わる。
本記事は,子に毎年300万円ずつ5年間贈与した翌年に親が亡くなった設例で死亡年ごとの加算額を計算し,加算時の贈与税の扱い,贈与税を払って多めに贈与する損得,孫への贈与及び相続時精算課税との違いを整理する。

調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索(未施行の規定は施行日の版)で,国税庁の解説はタックスアンサー及び相続税法基本通達で確認した。
税額は本記事の試算であり,実際の申告では個別の事情により結果が変わる。

本記事の加算対象期間を使う前に,その入金によって贈与が成立し,受贈者に財産が帰属したかを確認する。贈与が成立しておらず,死亡時にも被相続人に帰属する名義預金は,期間内の贈与を足し戻す問題ではなく,本来の相続財産の範囲の問題である。そのため,7年以上前の入金というだけで課税対象から外れるとはいえない。

2 結論

①足し戻される贈与は,死亡の日が令和8年12月31日までなら3年以内,令和9年から令和12年までなら令和6年1月1日以後,令和13年1月1日以後なら7年以内のものである。
②3年より前の贈与は,その合計額から100万円を控除した残額だけが加算される。
③設例の加算額は,令和9年の死亡で800万円又は900万円,令和10年の死亡で1100万円,令和11年以後の死亡で1400万円であり,1500万円全額が足し戻されることはない。
④加算された贈与の贈与税は相続税額から控除されるが,控除しきれない分は還付されない。
⑤足し戻しの対象は,原則として相続又は遺贈により財産を取得した人に限られるが,孫を生命保険金の受取人にすると対象になる。
⑥税の加算期間(最長7年)と,民法の遺留分算定の基礎(相続人への贈与は10年)及び特別受益(期間の限定なし)は別の物差しである。

第2 加算の仕組みと経過措置
1 相続税法19条1項
(1) 加算の対象と期間

相続税法19条1項は,「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、」その贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算すると定める。
加算するのは贈与の時の価額である。
タックスアンサー「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」は,「基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります。」としている。

(2) 3年より前の部分から控除する100万円

同項は,加算する価額を,「(加算対象贈与財産のうち当該相続の開始前三年以内に取得した財産以外の財産にあつては、当該財産の価額の合計額から百万円を控除した残額)」としている。
100万円は,毎年の贈与ごとではなく,3年より前の贈与の合計額から1回だけ控除される。
相続税法基本通達19-1の(注)は,財産を取得した者ごとに100万円を控除すること,合計額が100万円以下なら残額は零となることを明らかにしている。

2 亡くなった年で加算対象期間が変わる
(1) 附則19条1項・2項(現行)

7年への延長は,所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)附則19条の経過措置により段階的に適用される。

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名義預金とは―判断基準・生前贈与との違い・相続税と遺産分割(AI作成)

目次

第1 名義預金とは―判断の出発点1 名義だけで持ち主は決まらない2 結論3 判断材料と確認資料の対応第2 判断基準――東京地裁平成20年10月17日判決1 事案と判断の枠組み2 名義と管理運用の評価3 贈与の手続をした財産との対比4 控訴審――東京高裁平成21年4月16日判決第3 家族名義の口座で資金を回していた事案――東京地裁平成30年4月24日判決第4 国税不服審判所の裁決に見る贈与の成否1 令和3年9月17日裁決の事案2 知らされていなかった子の名義預金――贈与は不成立3 親権者の母が管理していた子の名義預金――贈与が成立4 被相続人名義の預金の移し替えと重加算税5 妻名義の口座への入金を贈与としなかった裁決6 家族名義でも相続財産と認められなかった預金第5 民法の贈与と名義預金第6 生前贈与と認められるための証拠1 証拠の組み方2 年110万円以下の贈与3 相続時精算課税を選ぶ場合第7 生前贈与加算と名義預金の違い1 生前贈与加算は贈与があったことが前提2 名義預金との違い3 手渡しで成立した贈与が加算された例第8 遺産分割調停の合意は税務署を拘束しない第9 遺産分割・遺留分での名義預金1 遺産の範囲の争いと遺産確認の訴え2 贈与と認められる場合の特別受益と遺留分3 税務の判断と民事の判断の関係4 税務調査で名義預金を指摘されたときの資料整理第10 名義預金についてのよくある質問1 子名義なら子の財産になるか2 110万円以下なら名義預金にならないか3 契約書や贈与税申告がないと贈与は無効か4 親が未成年者の通帳を保管していると名義預金か5 7年以上前の入金なら相続税の対象外か6 生前に元の口座へ戻せば必ず非課税か第11 関連記事第12 出典1 法令2 国税庁の資料3 裁判例4 裁決
第1 名義預金とは―判断の出発点
1 名義だけで持ち主は決まらない

名義預金とは,口座の名義人と実質的な財産の持ち主が異なる預金を指す実務上の呼び方であり,法令上の用語ではない。例えば,親が子名義の口座へ積み立てても,贈与の合意がなく,親が自分の財産として管理している場合には,親の財産として相続税の対象になることがある。反対に,贈与が成立して子に帰属している預金まで,一律に名義預金とすることはできない。

判断では,誰が出資したかだけでなく,贈与の申込みと受諾,管理の目的,収益・使用の実態及び名義を付けた経緯を確認する。本記事は,判断基準,贈与の証拠,相続税と遺産分割の関係を裁判例と裁決に即して説明する。生前に整理する具体的な手順は,名義預金を生前に解消する方法で扱う。

令和8年10月11日に定義・証拠の説明及び公開資料へのリンクを見直した。裁判所の判決,国税不服審判所の裁決及び国税庁の税務解説は,それぞれ資料の性質が異なる。

2 結論

①名義預金に当たるかは,出捐者,管理運用の状況,利益の帰属者,名義人との関係,名義の経緯等を総合考慮して判断される(東京地裁平成20年10月17日判決)。
②夫婦間では,妻名義の預金を妻が自ら管理運用していても,それだけでは妻の財産とはされなかった(同判決及びその控訴審判決)。
③受贈者が口座の存在を知らず,通帳等を贈与者が保管していた子の名義預金について,贈与の成立を否定した裁決がある(国税不服審判所令和3年9月17日裁決)。
④贈与契約書,受贈者自身による口座の管理,贈与税の申告及び受贈者による使用が,贈与を示す証拠になる。
⑤遺産分割調停での当事者の合意は,課税庁を拘束しない(前記東京地裁判決)。
⑥名義預金は「贈与がなかった」ために相続財産そのものとされるもので,「贈与があった」上で足し戻す生前贈与加算(相続税法19条)とは別の問題である。

3 判断材料と確認資料の対応

次の項目は点数式のチェックリストではなく,事実を総合して評価するための整理である。一つに該当すれば結論が決まるというものではない。

判断材料確認する資料と注意点資金の出所入金元の通帳,給与・相続・贈与等の資料。親の出資でも,贈与が成立していれば子の財産になり得る。贈与の合意契約書,手紙,メッセージ,受諾・引渡しの経緯。契約書がないことだけで不成立と決めない。管理・運用通帳・印章・カードの保管,取引の指示,代理の目的。未成年者のための親権者管理を区別する。利益と使用利息の入金先,払戻し,生活費・投資等の使途。貯蓄を続けること自体は贈与を否定しない。名義の経緯と申告口座開設資料,家族関係,贈与税・所得税・相続税の申告。名義・申告の一事情だけで帰属を決めない。
第2 判断基準――東京地裁平成20年10月17日判決
1 事案と判断の枠組み

東京地裁平成20年10月17日判決(平成19年(行ウ)第19号,税務訴訟資料258号順号11053)は,平成13年4月15日に亡くなった夫の相続について,妻名義の有価証券及び預金(以下「妻名義預金等」という。)が夫の相続財産に当たるかが争われた事案である。
夫は全財産を妻に相続させる遺言をしており,先妻との子2名が遺留分減殺を請求して遺産分割調停が成立した後,子らの相続税について税務署長が妻名義預金等を遺産に加えて更正処分をし,子らがその取消しを求めた。
妻名義預金等の原資がいずれも夫の出捐によるものであることには,争いがなかった。

同判決は,被相続人以外の者の名義の財産であっても,相続開始時に被相続人に帰属するものであれば相続税の課税対象となるとし,その判断は「当該財産又はその購入原資の出捐者、当該財産の管理及び運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等を総合考慮して判断するのが相当である」とした。

2 名義と管理運用の評価

同判決は,我が国においては「夫が自己の財産を、自己の扶養する妻名義の預金等の形態で保有するのも珍しいことではないというのが公知の事実である」として,妻名義であることの一事をもって妻の所有と断ずることはできないとした。
また,妻が自らの判断で主体的に取引をしていたこと自体は認めたが,妻は夫名義の財産の管理運用も同じようにしていたので,「夫婦間においては、妻が夫の財産について管理及び運用をすることがさほど不自然であるということはできないから、これを殊更重視することはできず」とした。
利息の一部が妻の年金の入金口座に入っていたことも,妻が預金を解約して他の用途に使用した事情がうかがわれないことから,結論を左右しなかった。

3 贈与の手続をした財産との対比

夫は平成2年に土地建物の持分の一部を妻に贈与しており,その際は贈与契約書を作り,妻が贈与税の申告書(納付すべき税額がない旨のもの)を提出していた。
同判決は,自分の死後の妻の生活を案じていた夫が,遺言とは別に財産を妻名義にしておこうと考えたとしても「あながち不自然とはいい難い」とし,妻名義預金等については「そのような手続を何ら採っていない」ことも考慮して,生前贈与を認めなかった。

4 控訴審――東京高裁平成21年4月16日判決

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親の賃貸建物だけを子の資産管理会社へ売る相続対策―無償返還届出,時価での売買,所得税・相続税・法人税及び遺留分(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事が扱う相続対策2 結論第2 この対策で減る部分と減らない部分1 減るのは将来の家賃の蓄積である2 売却の時点で評価額がむしろ増えることがある第3 土地の貸し借りと借地権の認定課税1 相当の地代と無償返還届出書2 親の相続のときの土地の評価3 借地権割合による控除を否定した裁判例第4 売買価額は時価による1 時価の2分の1未満なら親に譲渡所得課税2 2分の1以上でも課税を受けることがある3 死亡の6日前に同族会社へ不動産を売った事件4 時価をどう決めるか第5 同族会社の行為計算否認と評価通達61 相続税法64条と地上権の設定を否認した事件2 評価通達6と貸付用不動産の評価の見直し(案)第6 小規模宅地等の特例1 特定同族会社事業用宅地等には当たらない2 相続開始前3年以内の新たな貸付け第7 民法から見た注意点1 会社に積み上がる家賃は遺産に入らない2 不相当な対価による売買と負担付贈与3 会社の設立資金や株式を親が出した場合第8 実行前に確認する事項と専門家の説明義務1 確認する事項2 スキームを提案する税理士の説明義務第9 関連記事第10 出典1 法令2 通達・通達案3 国税庁の解説4 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事が扱う相続対策

アパート等の賃貸建物とその敷地を持つ親が,子が株主となる会社(いわゆる資産管理会社)を設立し,敷地は親が持ったまま,建物だけをその会社に売るという相続対策がある。
売却後の家賃は会社の収入になるので,親の手元に家賃が積み上がらず,将来の相続財産の増加を抑えられるというのがその狙いである。
本記事は,この対策の効果の範囲,土地の貸借と売買価額に関する課税,同族会社に関する否認規定,小規模宅地等の特例並びに遺留分及び特別受益を,条文,国税庁の通達及び裁判例で確認して整理するものである。

調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,通達は国税庁ウェブサイトで確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで全文を確認したもののほか,同ウェブサイト未掲載の2件は判例秘書で全文を確認した。
数値例は本記事の試算であり,個別の物件については税理士による評価と試算が必要である。

2 結論

①この対策で抑えられるのは売却後の家賃の蓄積だけであり,売却の時点では建物が現金に変わるだけである。
②相続税の評価額で比べると,貸家として低く評価されていた建物が額面どおりの現金に変わるので,売却の時点で親の課税財産はむしろ増えることがある。
③会社が親の土地の上に建物を持つので,相当の地代を支払うか「土地の無償返還に関する届出書」を提出して借地権の認定課税を避けるのが通常であり,届出書を提出した土地は,親の相続のときに自用地としての価額の80%(使用貸借なら100%)で評価される。
④売買価額は時価によるべきであり,時価の2分の1未満なら親に時価による譲渡所得課税が及び,2分の1以上でも会社の受贈益と株主である子へのみなし贈与の課税を受けることがある。
⑤会社の事業は不動産の貸付けなので,親の土地は特定同族会社事業用宅地等に当たらず,小規模宅地等の特例を使えるとしても貸付事業用宅地等(200㎡・50%減額)である。
⑥民法上は,会社に積み上がる家賃は遺産にも遺留分を算定するための財産にも入らないが,不相当な対価による売買は負担付贈与とみなされることがあり,会社の設立資金を親が出せば特別受益や遺留分の問題になる。

第2 この対策で減る部分と減らない部分
1 減るのは将来の家賃の蓄積である

建物を会社に売った後の家賃は会社の収入になり,経費,地代及び法人税等を差し引いた残りは会社の財産として積み上がる。
会社の株式を子が持っていれば,その価値は子に帰属し,その分だけ親の財産が将来増えることを抑えられる。
他方で,売却の時点では,親の財産のうち建物が売買代金に置き換わるだけであり,売却そのもので親の財産が減るわけではない。

2 売却の時点で評価額がむしろ増えることがある
(1) 建物と土地の相続税評価

財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)89は,家屋を固定資産税評価額に倍率を乗じて評価するとし,国税庁のタックスアンサー「建築中の家屋の評価」は,その倍率を原則として1.0と説明している。
タックスアンサー「土地家屋の評価」は,「課税時期において貸家の用に供されている家屋は、その家屋の固定資産税評価額に借家権割合と賃貸割合を乗じた価額を、その家屋の固定資産税評価額から控除して評価します。」としている(評価通達93・94)。
貸家の敷地(貸家建付地)は,自用地としての価額から,自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合を控除して評価する(評価通達26)。
建物を会社に売ると,親の側では,建物に代わって売買代金の現金が入り,敷地は貸家建付地から会社に貸している土地に変わる。

(2) 本記事の試算

固定資産税評価額2,000万円,時価3,000万円の賃貸建物(賃貸割合100%,借家権割合30%)と,自用地としての価額1億円,借地権割合60%の敷地を,時価で売った場合の親の財産の評価額は,次のとおりである(譲渡所得税と売却後の地代は考慮していない。)。

項目売却前売却後(無償返還届出・賃貸借)売却後(使用貸借)建物又は現金建物1,400万円(2,000万円×0.7)現金3,000万円現金3,000万円敷地8,200万円(貸家建付地)8,000万円(自用地の80%)1億円(自用地)合計9,600万円1億1,000万円1億3,000万円

(続きを読む...)親の賃貸建物だけを子の資産管理会社へ売る相続対策―無償返還届出,時価での売買,所得税・相続税・法人税及び遺留分(AI作成)

こどもNISAは令和9年から――0歳・年60万円・払出し・贈与税と離婚(AI作成)

目次第1 結論――子本人名義の口座を親権者が管理する制度1 制度の概要2 本記事の対象と基準日第2 制度の骨格1 成人と同じ非課税口座の中の勘定2 投資枠と上限3 対象商品4 施行日と政令・省令第3 払出しの制限と18歳以後の扱い1 12歳になるまで――災害等による全額の払出しだけ2 12歳以後――教育費又は生活費のための払出し3 売却代金や分配金の受け皿4 制限に反したとき5 18歳以後と金融機関の変更第4 旧ジュニアNISAとの違い第5 親権者による管理1 子本人の財産を親権者が管理する2 払出しの使い道第6 贈与税と名義預金1 親が出すお金は子への贈与2 名義預金とされないために第7 離婚・相続での注意1 離婚時の財産分与2 親が亡くなった場合3 子が亡くなった場合第8 関連記事第9 出典1 法令2 財務省・金融庁・国税庁の資料3 裁判例4 裁決
第1 結論――子本人名義の口座を親権者が管理する制度
1 制度の概要
(1) 法令上の名称と通称

令和8年度の税制改正(令和8年法律第12号)により,令和9年1月1日から,0歳から17歳までの子もNISAのつみたて投資枠を使えるようになる。
法令上の名称は「未成年者特定累積投資勘定」である。
いわゆる「こどもNISA」は証券会社や報道で使われている通称であり,財務省・金融庁の資料では「未成年者のつみたて投資枠」等と表現されている。

(2) 五つの要点

制度の要点は,次のとおりである。
①口座は子本人の名義であり,成人と同じ非課税口座の中に設けられる。
②年間の投資枠は60万円,非課税で保有できる上限は600万円で,成長投資枠は無い。
③子が12歳になるまでは,災害等の特別な事情による全額の払出ししかできない。
④12歳以後は,子の教育費又は生活費に充てるための払出しができる。
⑤18歳になった後は,成人のつみたて投資枠に移行する。

(3) 子の財産であることの意味

法律上は子の財産であるから,親が出したお金は子への贈与となり,その管理は親権者が子を代表して行うことになる。
そのため,贈与税,いわゆる名義預金,離婚時の財産分与及び相続の場面で,通常の親名義の投資とは違う注意が要る。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,令和8年10月16日現在の法令(令和9年1月1日施行の改正後の租税特別措置法,同法施行令及び同法施行規則を含む。)と,財務省・金融庁・国税庁の公表資料を基に整理するものである。
制度はまだ始まっていないが,金融庁のNISA特設ウェブサイトは,0歳から17歳までが利用できるのはつみたて投資枠のみであること,年間投資枠60万円・非課税保有限度額600万円,原則払出し禁止及び12歳以後の一定の払出しを説明している。
国税庁の租税特別措置法関係通達も,令和8年改正後の制度を前提とする取扱いを定めている。
他方,申出書・同意書の具体的様式,取扱開始日,対象商品及び親権者等の手続は金融機関ごとに確認する必要がある。

旧ジュニアNISAを含む,名義人が亡くなった場合のNISA口座の扱いは,NISAを相続するとどうなる?死亡届・課税口座への移管・相続税で整理している。

第2 制度の骨格
1 成人と同じ非課税口座の中の勘定
(1) 定義

改正後の租税特別措置法37条の14第4項1号は,未成年者特定累積投資勘定を,「特定累積投資勘定のうち、非課税口座を開設している居住者又は恒久的施設を有する非居住者がその年一月一日において十八歳未満である年及び出生した日の属する年の各年において設けられるもの」と定義している。
つまり,旧ジュニアNISAのような別の口座ではなく,成人と同じ「非課税口座」の中の,つみたて投資枠(特定累積投資勘定)のうち,18歳未満の年に設けられるものという位置付けである。

(2) 年齢の下限の撤廃

現行の同条5項1号は,非課税口座を開設できる者を「その年一月一日において十八歳以上である者に限る」としているが,改正後の同号からはこの括弧書が削られた。

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示談金・解決金・和解金に税金はかかるか―名目ではなく補填対象・所得区分・権利確定時期で判断する(AI作成)

目次

第1 結論―名称ではなく何を補填する金銭かを見る第2 最初に分ける五つの項目第3 個人が受け取る場合第4 法人が受け取る場合第5 所得が帰属する時期第6 解決金・和解金の源泉徴収は必要か1 支払金の実質に即して判断する2 総額・控除額・振込額を別々に確認する3 和解条項と支払資料を対応させる4 退職パッケージの内訳を判定する第7 和解金・損害賠償金に消費税はかかるか第8 示談書・和解条項の作り方第9 確認資料と実務チェックリスト第10 調査範囲と限界第11 関連記事第12 出典・参考資料
第1 結論―名称ではなく何を補填する金銭かを見る

個人の受領者は,「所得税の課税対象か」「源泉徴収を受ける支払か」「どの年分に帰属するか」を別々に確認する。
課税所得になる金銭であっても必ず源泉徴収されるとは限らず,差引振込額だけで申告することもできない。
次の表は,本記事第3・第5・第6へ進むための確認順序である。

支払の実質個人の所得税の入口続けて確認する点心身の損害に対する慰謝料・治療費・負傷による休業損害原則として非課税の範囲を確認する治療費補填額と医療費控除との対応。給与の支払と混同しない商品損害や事業上の必要経費を補う部分収入金額となる部分を確認する所得区分,対応する経費及び帰属年分を確認する未払給与を精算する部分給与所得としての処理を検討する源泉徴収,給与の対象期間,権利確定・支払資料を確認する退職に伴う支払や資産・権利の対価実質に応じて所得区分を判定する合意成立日だけで計上年分を決めず,各所得の計上基準と条件を確認する

非課税等の例示は国税庁No.1700,源泉徴収の対象はNo.2502等による。
合意書,項目別計算表,支払明細を対応させ,課税・非課税,源泉徴収及び帰属年分をそれぞれ記録する方法は,これらの制度を具体的な資料確認へ用いるための実務上の整理である。
所得税全体の計算は,所得税とは―税率・計算方法・所得控除・住民税との違い,申告・訂正手続は,所得税の確定申告に関するメモ書きを参照されたい。

示談金,解決金又は和解金という名目だけで,所得税が課税されるか,非課税となるかは決まらない。受領者が誰か,どの権利・損害・費用を補う金銭か,役務や権利移転の対価を含むか,いつ権利が確定したかを項目ごとに判断する。

同じ一つの振込に,慰謝料,治療費,逸失利益,営業損失,未払賃金,退職金,弁護士費用,遅延損害金等が含まれることがある。税務上は,振込額全体を一括して扱うのではなく,各項目の実質に沿って所得区分,非課税,必要経費,源泉徴収及び消費税を検討する。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令及び国税庁公表資料に基づく。

第2 最初に分ける五つの項目
確認項目主な資料税務上の意味
受領者当事者表示,振込先,代理受領の有無個人と法人では非課税規定・益金算入が異なる。
発生原因事故,契約違反,退職,明渡し,知財侵害等心身又は資産の損害か,所得・費用・対価の補填かを決める。
内訳請求書,訴状,準備書面,計算表,和解条項課税・非課税及び所得区分を項目別に判断する。
権利確定時期示談成立日,判決確定日,条件,分割払条項どの年分・事業年度に計上するかを判断する。
支払方法支払日,源泉徴収,消費税,遅延条項控除額,納付義務及び受取額を確定する。

第3 個人が受け取る場合
1 心身に加えられた損害

所得税法9条1項18号及び所得税法施行令30条は,心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金等を非課税とする。国税庁タックスアンサーNo.1700は,事故による治療費,慰謝料及び負傷して働けないことによる収益の補償等を例示する。ただし,治療費の補填額は医療費控除の計算で支払医療費から控除する。

2 資産に加えられた損害

不法行為その他突発的な事故により,家財,自家用車,着衣その他の私用資産に加えられた損害を補う損害賠償金等は,所得税法施行令30条2号の範囲で原則として非課税となる。交通事故の携行品について,修理費又は事故直前の時価を基礎に賠償額を算定することは民事上の損害額の問題であり,所得税の減価償却費又は税務上の帳簿価額とは目的が異なる。民事上の事故時価を税務上の簿価だけで決めず,反対に,非課税であることから新品再調達額の全額が民事上の損害になるとも考えない。

事業用資産では,受領金の対象をさらに分ける。国税庁タックスアンサーNo.1700は,①棚卸資産の損害に対する賠償金は収入金額に代わる性質があるため事業所得の収入金額となること,②仮店舗の賃借料等の必要経費を補填する金額も事業所得の収入金額となること,③事業用車両を廃車にする場合の車両自体の損害賠償金は非課税である一方,資産損失の計算では補填額を損失額から控除することを示している。したがって,「事業用資産だから全額課税」又は「資産損害だから損失の全額控除と非課税収入を重ねられる」と一律に処理しない。

交通事故によるヘルメット,高機能ウェア,靴及び救助時切断衣類の民事上の査定は,交通事故のヘルメット・高機能ウェア・靴の損害を,事業用車両の修理費,保険金,全損・除却,休車損害及び消費税は,事業用車両の交通事故の会計・税務を参照されたい。

3 失われた所得,契約上の対価その他の経済的利益

本来所得となるべき金額,役務の対価,事業上の必要経費,借家権の消滅又は資産・権利の譲渡等を補う部分は,単に「解決金」と記載しても当然には非課税とならない。事業所得,給与所得,退職所得,譲渡所得,一時所得又は雑所得のいずれに該当するかを,紛争前の法律関係と補填対象から判定する。

立退きの合意で支払う金銭は,明渡しを得るための給付,借家権の消滅の対価,営業上の収入・費用の補填及び独立した損害賠償のどれに当たるかを分けて確認する。

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法人が資産を時価より低額で譲り受けた場合の税務―受贈益・時価・取得価額・相手方課税(AI作成)

目次

第1 結論と対象
第2 法人側に受贈益が生じる基本構造

1 買主法人の判定を先に分ける
2 時価の2分の1以上でも受贈益を確認する

第3 時価と取得価額
第4 完全支配関係がある法人間の例外
第5 売主が個人の場合

1 法人への著しい低額譲渡
2 自己創作の著作権を法人へ低額譲渡した場合
3 役員・株主から会社への移転

第6 売主が法人の場合
第7 実務上の確認資料
第8 個別取引で確認すべき事項
第9 出典・関連記事

第1 結論と対象

法人が資産を時価より低い対価で譲り受けた場合,買主法人には,原則として,取得時の適正な価額と実際の対価との差額に相当する受贈益が生じ得る。対価を支払っているため「贈与ではない」と直ちに処理することはできない。

検討の順序は,①取得した資産と取引単位,②取得時の時価,③実際の対価,④当事者の関係,⑤完全支配関係に関する益金不算入の有無,⑥売主側の課税,⑦買主側の取得価額である。本記事は令和8年9月28日現在の法令及び公表資料を基準とする。

第2 法人側に受贈益が生じる基本構造

法人税法22条2項は,各事業年度の所得計算上の益金に,有償又は無償による資産の譲渡,役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引に係る収益を含める。国税庁が公表する平成27年の税務訴訟資料(順号12643)は,適正な額より低い対価で資産を譲り受けた場合にも,対価と譲受時の適正な価額との差額が無償による資産の譲受けに類する受贈益として収益を構成すると判断している。

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身体障害者手帳で受けられる自動車税の減免その他のメリット――消費税・高速道路・駐車・改造助成(AI作成)

第1 結論

1 利用できる可能性がある制度
2 手帳があれば自動的に免除されるわけではない
3 令和8年に廃止された環境性能割

第2 自動車に関する税金

1 自動車税の減免
2 軽自動車税の免除・減免
3 身体障害者用自動車の消費税非課税
4 自動車重量税等

第3 有料道路料金の障害者割引

1 対象者と割引率
2 登録していない車両も利用できる場合
3 ETC利用と更新

第4 駐車に関する制度

1 駐車禁止除外指定車標章
2 公営・民間駐車場の料金割引

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保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の課税特例―所得税法64条2項・求償不能・役員保証(AI作成)

目次第1 所得税法64条2項の役割第2 適用要件を四段階に分ける第3 資産譲渡と保証債務履行のつながり第4 求償権が行使不能か第5 会社役員・代表者保証で争点になること第6 所得がなかったものとされる金額第7 申告時に保存・提出する資料第8 一次資料と確認範囲
第1 所得税法64条2項の役割

個人が会社その他の主債務者の保証人となり、保証債務を履行するために土地・建物等を譲渡しても、資産の値上がり益には原則として譲渡所得課税が生じる。もっとも、保証人が履行によって取得する求償権を回収できなければ、譲渡代金を実質的に享受していない部分が生じる。

所得税法64条2項は、保証債務を履行するために資産を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使できないこととなった場合に、その行使不能額に対応する部分を譲渡所得等の計算上なかったものとみなす特例である。保証債務を負担したこと自体や、主債務者が経営不振であることだけで適用される制度ではない。

第2 適用要件を四段階に分ける

実務では、少なくとも次の四段階を分けて確認する。

①民法上の保証・連帯保証又は物上保証等、履行により主債務者に対する求償権が生じる関係があること
②棚卸資産等を除く資産を譲渡したこと
③その譲渡が保証債務を履行するためのものであること
④履行に伴う求償権の全部又は一部を行使できないこととなったこと

国税庁の確定申告案内は、主債務者が既に弁済不能の状態にあるときに保証したものでないこと、保証債務履行のために資産を売却したこと、肩代りした金額の全部又は一部を将来も回収できないことを確認事項として示している。ただし、個別事件では条文、通達、保証締結時の事情及び裁判例を併せて検討する必要がある。

第3 資産譲渡と保証債務履行のつながり

売却代金を保証債務の弁済に直接充てた場合は、資金の流れを説明しやすい。売買契約書、決済明細、預金通帳、送金記録、代位弁済証書及び債権者の受領書を時系列で対応させる。

他方、手持預金で保証債務を履行した後に資産を譲渡して預金を補充しただけでは、国税庁の質疑事例は、その資産譲渡を保証債務履行のための譲渡とは扱わない。借入金で履行し、その借入金を返済するために資産を譲渡した場合とは区別される。資産譲渡、つなぎ融資、保証履行及び借入金返済の時期と金額を一つの資金繰表にする必要がある。

譲渡代金の一部だけを保証債務履行に充てた場合も、直ちに資産譲渡全体が特例対象又は対象外になるとは限らない。どの代金がどの債務に充てられたかを区分し、後述の上限計算につなげる。

第4 求償権が行使不能か

求償権の行使不能は、主債務者が破産又は解散した場合だけに限られない。国税庁の通知は、債務超過が相当期間継続し、支払能力がなく、他の債権者との関係からみても求償権の回収見込みがない場合など、客観的な事実に基づいて判定する考え方を示している。法人が事業を継続し、再建計画の一環として代表者が求償権を放棄する場合にも適用余地がある。

単に請求しなかった、主債務者との関係を悪化させたくなかった、又は任意に債権放棄したというだけでは足りない。決算書、資金繰表、債権者一覧、担保状況、滞納税額、再生・私的整理の資料、取締役会議事録、他の債権者の回収状況及び将来収益の見通しを保存する。

会社が事業を継続する場合には、平成14年12月25日付の国税庁の通知が示す条件を個別に確認する。
他の債権者の債権と同列に扱うことが困難である等の事情から、代表者等が求償権を放棄せざるを得なかったことと、放棄後もなお会社が債務超過であることの両方が必要となる。
債務超過の判定では、土地等と上場株式等を時価で評価する。
この取扱いは、経営継続のための任意の放棄をすべて行使不能とするものではない。

廃業型の私的整理についても、弁済計画の内容を確認する必要がある。
国税庁の令和4年4月1日付け文書回答は、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン(廃業型私的整理手続)」に基づく計画について、保証人が資産を譲渡して保証債務を履行し、その履行に伴い取得する求償権を会社側と保証人側の弁済計画に従って書面で放棄する場面を扱っている。
所定の前提を満たす計画に基づく取扱いであり、任意の求償権放棄が全て行使不能に当たるという説明ではない。

申告に備えて、資産譲渡契約、代金の入出金、保証履行額、求償権の発生及び弁済計画の放棄条項を時系列で対応させる。
保証債務そのものの免除に関する税務と、資産譲渡による所得について所得税法64条2項を適用する問題も分けて検討する必要がある。
根拠は、国税庁の文書回答 https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/220311_02/index.htm及び別紙のⅠ3・Ⅴ https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/220311_02/besshi.htmである。

第5 会社役員・代表者保証で争点になること

会社の取締役又は代表者が自社債務を保証した事案では、保証締結時に会社の弁済不能又は求償不能をどこまで予見していたかが争われることがある。保証人が通常期待する求償可能性を欠いたまま保証を引き受けたのであれば、本特例による救済を認めるべきでないという考え方がある。

他方、会社の資金繰りが厳しいことを役員が知っていたというだけで、直ちに将来の求償不能を予見していたとは限らない。借換えに伴う保証契約の更新、経営改善計画、融資継続の見込み、担保余力及び保証時点を具体的に確定する必要がある。さいたま地裁平成16年4月14日判決は、保証債務履行を余儀なくされ、主債務が期限到来又は履行遅滞となっていることを独立の要件として加える課税庁の主張を排斥したと紹介されている。

したがって、役員保証だから一律に適用される、又は一律に適用されないとはいえない。保証締結又は更新時、資産譲渡時、保証履行時及び求償不能判定時の四つの時点を分け、各時点の客観資料で説明する。

第6 所得がなかったものとされる金額

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ストックオプションの所得税――税制適格・非適格,付与・行使・売却,所得区分及び源泉徴収(AI作成)

目次

第1 結論
第2 付与・行使・売却を分ける
第3 税制非適格ストックオプション
第4 税制適格ストックオプション
第5 所得区分と源泉徴収
第6 実務で集める資料
第7 国外勤務・退職後行使等の注意点
第8 出典

第1 結論

ストックオプションの所得税は,①権利の付与,②権利行使による株式取得及び③取得株式の売却を分け,さらに税制適格か税制非適格かを確認する。

税制非適格の場合は,通常,権利行使時の経済的利益と売却時の値上がり益が別々に課税される。雇用契約又はこれに類する関係に基因して付与された権利の行使益は,原則として給与所得である。税制適格の場合は,一定の要件の下で行使時課税が繰り延べられ,売却時に,権利行使価額から売却価額までの利益が株式譲渡所得として課税される。

名称に「税制適格」と書かれているだけでは足りない。付与決議,付与契約,権利行使時期・金額,株式の管理及び売却の各要件を資料で確認する必要がある。

第2 付与・行使・売却を分ける
時点確認する事実課税関係の基本
付与付与決議,付与契約,対象者,行使価額,行使期間,譲渡制限一般に,無償付与だけでは直ちに課税関係が生じない
権利行使行使日,取得株数,行使価額,行使時の株価,適格要件非適格は行使益に課税。適格は要件を満たせば課税を繰延べ
売却売却日,売却価額,取得費,手数料,上場・非上場の別株式等の譲渡所得等として申告分離課税が基本

第3 税制非適格ストックオプション

国税庁タックスアンサーNo.1543は,税制非適格ストックオプションについて,権利行使時及び取得株式の譲渡時に課税されると説明している。

権利行使時の経済的利益は,おおむね「行使時の株価-権利行使価額」に取得株数を乗じて計算する。雇用関係又はこれに類する関係に基因して付与された場合は原則として給与所得となる。職務の遂行と関連しない利益と認められる場合,事業に関連して供与された場合その他の事実関係によって,雑所得又は事業所得となることがある。

取得株式を後に売却したときは,売却価額と,権利行使時の時価を基礎とする取得価額との差額が株式等の譲渡所得等となる。行使益と売却益を重ねて課税しないため,権利行使時の課税資料を保存することが重要である。

給与所得に分類される非適格の権利について,例えば1000株を1株500円で行使し,行使時の株価が1500円,売却時の株価が1800円,売却手数料が2万円であるとする。
行使益は100万円であり,給与所得の収入金額となる。

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役員社宅の99㎡・132㎡基準―小規模住宅,豪華社宅及び賃貸料相当額(AI作成)

目次第1 この記事の結論第2 判定の順序第3 小規模住宅の99㎡・132㎡基準1 法定耐用年数が30年以下の建物2 法定耐用年数が30年を超える建物3 マンションの共用部分第4 小規模住宅の賃貸料相当額第5 小規模住宅以外の賃貸料相当額1 会社所有の社宅2 会社が借りた住宅を役員に貸与する場合第6 豪華社宅第7 給与課税される範囲第8 実務上のチェックリスト第9 出典・根拠法令
第1 この記事の結論

会社が役員に社宅を貸与する場合,役員から毎月「賃貸料相当額」以上の家賃を受け取っていれば,原則として社宅による経済的利益は給与として課税されない。

計算の入口は,建物の法定耐用年数と床面積で小規模住宅に当たるかを判定することである。法定耐用年数が30年以下の建物は132平方メートル以下,30年を超える建物は99平方メートル以下が小規模住宅の基準である。区分所有建物では,共用部分の床面積を按分して専用部分に加えた床面積で判定する。

ただし,小規模住宅に当たるか否かとは別に,社会通念上一般に貸与される社宅とは認められない豪華社宅に当たる場合は通常の算式を使わず,通常支払うべき使用料相当額による。

第2 判定の順序

役員社宅の税務上の取扱いは,次の順序で確認すると整理しやすい。

① 会社が所有又は賃借した住宅を役員に貸与しているか。
② 豪華社宅に該当しないか。
③ 建物の法定耐用年数が30年以下か,30年を超えるか。
④ 共用部分を按分した後の床面積が132平方メートル又は99平方メートル以下か。
⑤ 小規模住宅又はそれ以外の住宅に対応する賃貸料相当額を計算する。
⑥ 役員から実際に受け取る家賃との差額を確認する。

入居者が家主と直接契約し,会社がその家賃を負担する場合又は会社が現金で住宅手当を支給する場合は,社宅の貸与とは扱われず,会社負担額は給与として課税される。

第3 小規模住宅の99㎡・132㎡基準
1 法定耐用年数が30年以下の建物

法定耐用年数が30年以下の建物は,床面積が132平方メートル以下であれば小規模住宅に該当する。典型的には木造住宅等が問題となるが,名称又は構造の印象だけで決めず,対象建物の法定耐用年数を確認する必要がある。

2 法定耐用年数が30年を超える建物

法定耐用年数が30年を超える建物は,床面積が99平方メートル以下であれば小規模住宅に該当する。鉄筋コンクリート造のマンション等では,この基準が問題となりやすい。

3 マンションの共用部分

区分所有建物では,専有部分の床面積だけではなく,共用部分の床面積を各戸に按分し,専有部分に加えた床面積によって99平方メートル又は132平方メートルの基準を判定する。

したがって,物件資料に表示された専有面積が99平方メートル以下であっても,共用部分の按分後には基準を超える場合がある。賃貸借契約書及び登記事項証明書だけでなく,共用部分の床面積及び按分方法を確認すべきである。

第4 小規模住宅の賃貸料相当額

小規模住宅の1か月当たりの賃貸料相当額は,次の3つの合計額である。

① その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
② 12円×建物の総床面積(平方メートル)÷3.3平方メートル
③ その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%

計算に用いるのは固定資産税評価額と常に同じとは限らず,「固定資産税の課税標準額」である。会社が物件を賃借している場合でも,計算に必要な課税標準額を家主等から入手する必要が生じる。

第5 小規模住宅以外の賃貸料相当額
1 会社所有の社宅

(続きを読む...)役員社宅の99㎡・132㎡基準―小規模住宅,豪華社宅及び賃貸料相当額(AI作成)

役員報酬を0円にして非課税世帯になれるか―内部留保、役員貸付金、社会保険、給付制度の区別(AI作成)

第1 本記事の対象と結論
第2 会社の財産と役員個人の所得・資産は別である
第3 住民税非課税世帯の判定

1 前年の個人所得で判定する
2 大阪市の令和8年度課税分以降の基準
3 会社の内部留保と自社株式

第4 会社から個人へ利益を移す主な方法

1 役員給与
2 配当及び役員退職給与
3 会社による私的費用の負担
4 会社から役員への貸付け

第5 役員報酬を0円にする場合の会社法・法人税
第6 社会保険は報酬0円だけで決まらない
第7 給付制度ごとに所得要件と資産要件を確認する

1 住民税非課税を参照する給付
2 生活保護
3 介護保険の補足給付その他の制度

第8 婚姻費用・養育費との関係
第9 弁護士が確認する資料
第10 まとめ
第11 出典・参考資料

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農地を生前贈与して納税猶予を受けた後に贈与者が死亡したとき――相続税のみなし相続と,民法上はあくまで生前贈与であること(AI作成)

目次第1 結論第2 農地等の贈与税の納税猶予1 制度の骨格2 対象から除かれる農地3 猶予の継続と届出4 猶予が打ち切られる場合第3 贈与者が死亡したとき1 相続により取得したものとみなす2 課税価格に算入する価額3 相続税の納税猶予へ引き継ぐ場合4 税務上の扱いと民法上の扱いの対照第4 民法上はあくまで生前贈与である1 所有権が移転した時期2 遺留分の基礎財産での扱い3 減殺又は負担の順序4 遺産分割の対象にならない5 特別受益としての持戻し第5 相続人が複数いる場合に起きること1 推定相続人の一人に集中する制度であること2 他の相続人との調整第6 実務で起きる取り違え第7 確認する資料第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 公的資料
第1 結論

農家では,後継者へ農地を生前に贈与し,租税特別措置法70条の4の贈与税の納税猶予を受けていることがある。
この制度の下では,贈与者が死亡したときに,その農地が相続税の課税対象に取り込まれる。

ここで,税務上の扱いと民法上の扱いがねじれる。
租税特別措置法70条の5第1項は,贈与者が死亡した場合に,受贈者が当該農地等を「その贈与者から相続…により取得したものとみなす」と定めている。
しかし,これは相続税の課税関係についてのみなし規定であって,民法上の性質を贈与から遺贈へ変えるものではない。
当該農地は,贈与の時に受贈者へ移転しており,相続開始の時に被相続人が有していた財産ではない。

この区別を誤ると,①遺産分割の対象に入れてしまう,②遺留分の場面で遺贈として扱い,減殺又は負担の順序を誤る,③相続開始時の価額に引き直す作業を落とす,という誤りが生じる。
本記事では,制度の骨格を条文で押さえた上で,民法上の扱いとの違いを整理する。

第2 農地等の贈与税の納税猶予
1 制度の骨格

租税特別措置法70条の4第1項は,農業を営む個人(贈与者)が,その農業の用に供している農地の全部及び採草放牧地のうち政令で定める部分並びに準農地のうち政令で定める部分を,「当該贈与者の推定相続人で政令で定める者のうちの一人の者に贈与した場合」について定めている。

この場合,受贈者の贈与の日の属する年分の贈与税のうち,当該農地等の価額に対応する部分(納税猶予分の贈与税額)に相当する贈与税については,「当該年分の贈与税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の贈与税額に相当する担保を提供した場合に限り,…当該贈与者の死亡の日まで,その納税を猶予する。」

要点は次のとおりである。
①贈与の相手方は推定相続人の一人に限られる。
②農地は全部を,採草放牧地及び準農地は政令で定める部分を贈与する。
③期限内申告と担保の提供が要件である。
④猶予の終期は,原則として贈与者の死亡の日である。
⑤贈与者が既にこの制度の適用に係る贈与をしている場合は,重ねて適用を受けられない。

2 対象から除かれる農地

同項のかっこ書は,特定市街化区域農地等に該当するものを対象から除いている。
また,農地法32条1項又は33条1項の利用意向調査に係るもののうち政令で定めるものも除かれる。

そのため,市街化区域内の農地については,この制度の適用を受けていないことがある。
相続の場面で農地が出てきたときは,所在地が市街化区域かどうかを先に確認する。

「特定市街化区域農地等」は,租税特別措置法70条の4第2項3号が定義している。
同号は,「都市計画法第七条第一項に規定する市街化区域内に所在する農地又は採草放牧地で,平成三年一月一日において次に掲げる区域内に所在するもの(都市営農農地等を除く。)をいう。」とし,イからハまでに,①都の区域(特別区の存する区域に限る。),②首都圏,近畿圏又は中部圏内にある地方自治法上の指定都市の区域,③その他の市でその区域の全部又は一部が既成市街地,近郊整備地帯,既成都市区域,近郊整備区域又は都市整備区域内にあるものの区域を掲げている。

すなわち,市街化区域内の農地が常に除かれるのではなく,三大都市圏の特定の区域内にあるものが除かれる。
それ以外の市町村の市街化区域内の農地は,「特定市街化区域農地等」に当たらない。

さらに,同項4号の「都市営農農地等」は,「特定市街化区域農地等」から除かれている。

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貸付用不動産・不動産小口化商品の相続税評価の見直し――国税庁の通達案(令和8年9月18日)と令和9年以後の相続・贈与(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象と時点1 対象とする見直し2 調査基準日と資料の段階第2 見直しに至る経緯1 国税庁が示した評価額と取引価額の開き2 令和8年度税制改正大綱3 通達案の公表と意見募集第3 課税時期前5年以内に取得等した貸付用不動産1 対象となる貸付用不動産2 評価の方法3 対象から除かれるもの4 同族会社の株式の純資産価額との関係第4 不動産小口化商品(特定小口化商品)1 対象となる権利2 評価の方法3 税務評価と契約・運用上の価格を区別する第5 適用時期と贈与・購入の関係1 令和9年1月1日以後の相続,遺贈又は贈与2 令和8年中の贈与――加算は贈与の時の価額3 令和8年中の購入――相続が令和9年以後なら対象4 相続時精算課税の基礎控除110万円第6 総則6項との関係1 通達案の対象外でも総則6項は残る2 相続直前の不動産取得に関する裁判例3 旧租税特別措置法69条の4との比較第7 相談の際に確認する事項第8 出典1 法令2 通達・通達案3 裁判例4 税制改正大綱・政府税制調査会の資料5 不動産特定共同事業の監督指針
第1 この記事が扱う対象と時点
1 対象とする見直し

この記事は,賃貸マンション等の貸付用不動産と,不動産小口化商品について,相続税・贈与税の評価方法を見直す国税庁の法令解釈通達案「貸付用不動産の評価について(案)」を扱う。
見直しの中心は,①課税時期前5年以内に取得・新築した貸付用不動産と,②不動産特定共同事業契約等による不動産小口化商品を,路線価等による評価ではなく,原則として課税時期における通常の取引価額で評価することにある。
通達案は,令和9年1月1日以後に相続,遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用するとしている。

2 調査基準日と資料の段階

本記事は,令和8年10月15日時点で,e-Govのパブリックコメント(案件番号410080055)に掲載された通達案・概要・実施要領,財務省の令和8年度税制改正大綱,政府税制調査会の資料及び議事録,e-Gov法令検索の相続税法・租税特別措置法・不動産特定共同事業法,裁判所ウェブサイトの裁判例を確認して作成した。
通達案は,国税庁が令和8年9月18日に意見募集を始めたものであり,意見提出期限は同年10月18日17時0分である。
令和8年10月15日現在,確定した通達ではないから,意見募集の結果によって文言が変わる可能性がある。
特に,経過措置の基準日となる「通達制定日」は,通達案では「令和8年●月●日」と空欄になっている。

第2 見直しに至る経緯
1 国税庁が示した評価額と取引価額の開き
(1) 一棟賃貸マンションの駆け込み取得の事例

国税庁は,令和7年11月13日の政府税制調査会「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」に,説明資料「財産評価を巡る諸問題」を提出した。
同資料5頁の事例②は,被相続人が相続開始の約2年8か月前に主宰法人から22億円を借り入れ,一棟賃貸マンションを21.0億円で購入したものである。
このマンションの通達評価額は4.2億円で,取得価額の約5分の1(資料の表記では「4.99倍」)にとどまり,相続税額は12.3億円から4.4億円に減ったとされている。
同資料7頁は,相続開始前の駆け込み取得の事例では,かい離が「3倍超(中央値)」であったとしている。

(2) 不動産小口化商品の贈与の事例

同資料6頁の事例③は,68歳の贈与者が不動産小口化商品(信託受益権)を3,000万円で購入し,約5か月後に9歳の受贈者に贈与した事例である。
通達評価額は480万円で,受贈者は贈与後にこれを取得価額とほぼ同額で売却して現金化したとされている。
同資料9頁は,不動産小口化商品の贈与事例3件を挙げ,評価額の減少割合を▲82.8%,▲83.8%,▲78.2%としている。
同会合の議事録によれば,国税庁の担当者は,事例②の評価額について「約80%減」と説明している(議事録7頁)。
いわゆる「8割減」は,これらの個別事例の数値であり,貸付用不動産全体の平均値として示されたものではない。

2 令和8年度税制改正大綱

令和7年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱は,資産課税の「相続税等の財産評価の適正化」として,「相続税法の時価主義の下、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、その取引実態等を考慮し、次の見直しを行う。」とした(大綱52頁)。
大綱は,被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産と,不動産特定共同事業契約又は信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産について,課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するとした。
また,大綱は,この改正を「通達に定める日」と書いており,法律の改正ではなく通達で行うことを前提としている。

3 通達案の公表と意見募集

国税庁は,令和8年9月18日,「貸付用不動産の評価について」の法令解釈通達(案)を公表し,意見募集を始めた。

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親の土地を子に使用貸借して賃料を子の所得にできるか―大阪地裁令和3年4月22日判決と大阪高裁令和4年7月20日判決(AI作成)

目次第1 親の土地の賃料を子へ移す方法と裁判所の判断第2 所得の帰属を決める所得税法12条1 実質所得者課税の原則2 所得税基本通達12-1第3 大阪地裁令和3年4月22日判決は子らの所得とした1 事案2 使用貸借は成立したとした3 子らは形式上も実質上も収益を享受しているとした第4 大阪高裁令和4年7月20日判決は親の所得とした1 使用貸借の成立は認めた2 子らを単なる名義人とした理由第5 両判決の分かれ目と,同じ方法が否認されやすい事情1 民法上の帰属を基準にするか,収益の支配を見るか2 控訴審の判断で重視された事情第6 既に同じ方法を取っている場合の手続と期間1 親に対する更正と加算税2 子が申告していた賃料の更正の請求3 契約をどうするか第7 出典1 法令・通達2 裁判例
第1 親の土地の賃料を子へ移す方法と裁判所の判断

親が所有する駐車場用地を子に無償で貸し(使用貸借),子が賃貸人となって第三者から賃料を受け取る形にすれば,賃料は子の不動産所得になるのか。
同じ事案について,大阪地裁令和3年4月22日判決は子らの所得と判断し,控訴審の大阪高裁令和4年7月20日判決は親の所得と判断した。

結論が分かれたのは,使用貸借が成立したかどうかではない。
控訴審も使用貸借の成立は認めた上で,子らは所得税法12条の「単なる名義人」に当たるとした。
相続税対策と所得税の節税を目的として,親の存命中は所有権を親に残したまま賃料だけを子へ移す方法は,控訴審の判断に従えば,親の所得として課税されることになる。

本記事は,令和8年9月19日を基準に,両判決の全文と所得税法12条を基に,判断の分かれ目と,同じ方法を取っている場合に確認すべき事項を説明する。
親族間の土地の貸し借りと贈与税・相続税の評価は親族間で土地を使わせる場合の課税-使用貸借と相当の地代で,地代の水準から使用貸借と賃貸借を見分ける方法は使用貸借と賃貸借の区別-固定資産税程度の支払,相場より安い地代・家賃は賃料かで扱っている。

第2 所得の帰属を決める所得税法12条
1 実質所得者課税の原則

所得税法12条は,次のとおり定める。
「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」

この規定は,見出しのとおり実質所得者課税の原則と呼ばれる。
問題になるのは,収益の法律上の帰属者(本件では賃貸人となった子)が「単なる名義人」に当たるかどうかである。

2 所得税基本通達12-1

国税庁の所得税基本通達12-1は,同条の適用について次のように定める。
「法第12条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定すべきであるが、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する。」

通達は国税庁長官が職員に示す法令解釈であり,裁判所を拘束するものではない。
後記のとおり,第一審は使用借主を「真実の権利者」とみてこの通達を当てはめ,控訴審は同じ通達を所有者に帰属させる方向で引用した。

第3 大阪地裁令和3年4月22日判決は子らの所得とした
1 事案

親は大阪府枚方市に多数の不動産を所有し,平成16年頃から4筆の土地を駐車場として賃貸していた。
駐車場の賃貸借契約の事務と賃料の受領は,管理会社2社に報酬を払って委託していた。
平成25年11月以降,長男が親の意向を受けて税理士法人に不動産の節税対策と相続税対策を相談した。

平成26年1月25日付けで,親と長男,親と長女の間でそれぞれ「使用貸借契約書」と題する契約書が作られた。
契約書には,期間を平成26年2月1日から10年間とし,子が固定資産税等の相当額を親に支払うこと,親の承諾により転貸できることが記載されていた。
同日,土地上のアスファルト舗装等を子に贈与する契約も結ばれ,平成26年2月以降の駐車場の賃料は子らの口座に振り込まれるようになった。

税務署長は,平成26年分の駐車場の賃料は親に帰属するとして,親に対し所得税等の増額更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分をした。
親がその取消しを求めたのが本件である。

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会社法の株式価格決定と相続税評価の違い――DCF法,非流動性ディスカウント及び最高裁決定(AI作成)

目次第1 会社法の株式価格決定と相続税評価の違い――この記事の対象と時点第2 場面ごとに異なる非上場株式の「時価」1 条文上の文言の違い2 場面ごとの比較3 評価の目的が違えば数値も違う第3 会社法の価格決定で使われる評価方法1 DCF法・収益還元法・純資産法・配当還元法2 DCF法が主流となった経過3 複数の手法を併用した決定例4 プロラタ価値を明示した横浜地裁の決定5 DCF評価書の前提を点検する第4 非流動性ディスカウントをめぐる最高裁の二つの決定1 最高裁平成27年3月26日決定――組織再編の買取請求では不可2 最高裁令和5年5月24日決定――譲渡制限株式の売買価格では可3 二つの決定の違い――「非上場株式は常に30%減」とはいえない4 公開買付け後のキャッシュアウトと評価通達6項5 最高裁令和8年9月30日決定――公正な交換比率と市場株価第5 相続税評価と会社法の価格決定の距離1 通達評価は「一定の割り切った評価」2 国税庁案が会社法の考え方に近づく面3 なお異なる面第6 実務上の使い分け――相続税評価額をそのまま使えない場面1 遺産分割と代償金2 財産分与3 譲渡制限株式の売買価格決定と株式買取請求第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 有識者会議の資料
第1 会社法の株式価格決定と相続税評価の違い――この記事の対象と時点

同じ非上場株式であっても,相続税評価と会社法上の価格決定とでは,評価の目的,方法及びディスカウントの扱いが異なる。
相続税評価は,大量の申告を法定の期限内に処理するため,財産評価基本通達の定める方式で画一的に評価するものであり,国税庁自身が「一定の割り切った評価」と位置付けている(第6回資料11頁)。
これに対し会社法上の価格決定は,譲渡制限株式の売買価格や反対株主の買取価格について,裁判所が制度の趣旨に従い個別の事情を考慮して定めるものであり,DCF法等の評価手法の選択も,非流動性ディスカウントの可否も,手続の種類と算定過程に応じて判断される。

この記事は,令和8年10月8日現在で公表されている資料に基づき,会社法上の株式価格決定と相続税評価の違いを,条文,最高裁決定及び下級審の決定例に即して整理するものである。
素材は,国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回から第6回までの会議資料,第5回までの議事要旨及び第5回当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」であり,第6回会議の議事要旨はこの記事の作成時点で公表されていない。
有識者会議で示されている見直し案は国税庁事務局のたたき台であり,決定したものではない。
骨子自身も,評価水準・税負担の在り方等を含め「最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」としている(骨子1頁)。

有識者会議の経緯と論点の全体は,親記事である取引相場のない株式の評価に関する有識者会議にまとめており,この記事はその第8「会社法における株式価格の決定との距離」を独立させて掘り下げたものである。

第2 場面ごとに異なる非上場株式の「時価」
1 条文上の文言の違い

相続税法22条は,「相続,遺贈又は贈与により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価により」と定めるだけで,評価の方法は財産評価基本通達に委ねられている。
これに対し会社法は,場面ごとに裁判所が価格を決定する手続を置いている。
譲渡制限株式の譲渡を会社が承認しなかった場合の買取りについて,会社法144条2項は株式会社又は譲渡等承認請求者が通知の日から20日以内に「裁判所に対し,売買価格の決定の申立てをすることができる」とし,同条3項は,裁判所は「譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」と定める。
吸収合併等に反対する株主は,会社法785条1項により「自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができ」,協議が調わないときは同法786条2項により裁判所に価格の決定の申立てをすることができる。
全部取得条項付種類株式の取得については,会社法172条1項が,反対株主等は裁判所に対し「取得の価格の決定の申立てをすることができる」と定めている。

吸収合併等に反対する株主の買取請求については,最高裁平成23年4月19日第三小法廷決定(平成22年(許)第30号,民集65巻3号1311頁)について裁判所ウェブサイトに掲載された裁判要旨が,吸収合併等によりシナジー(組織再編による相乗効果)その他の企業価値の増加が生じない場合の「公正な価格」は,「原則として,当該株式買取請求がされた日における,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいう。」としている。

2 場面ごとの比較

非上場株式の価額が問題となる主な場面を整理すると,次のとおりである。

場面根拠評価の目的・方法相続税・贈与税相続税法22条,財産評価基本通達大量の申告を期限内に処理するための画一的評価。類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式等の通達の方式による所得税・法人税所得税基本通達・法人税基本通達第4回資料8頁によれば,課税上弊害がない限り評価通達に準じて評価する譲渡制限株式の売買価格会社法144条2項・3項譲渡を希望する株主の投下資本回収の保障。裁判所が資産状態その他一切の事情を考慮して定める組織再編の反対株主の買取請求会社法785条1項・786条2項退出を選択した株主への企業価値の適切な分配。「公正な価格」全部取得条項付種類株式の取得価格会社法172条1項一般に公正と認められる手続による公開買付けの後に同額で取得した場合は,特段の事情がない限り公開買付価格と同額M&A(相対取引)当事者間の合意交渉で決まる価格であり,交換価値を反映しているとは限らない遺産分割・遺留分・財産分与民法等当事者間の公平。相続税評価額は当然には基準とならない(第6参照)

所得税・法人税の行は,第4回資料8頁が「相続税法,所得税法,法人税法のいずれにおいても『時価』は『客観的交換価値』と解されており,時価の概念という点においては共通するものの,課税の目的に応じ,所得税基本通達及び法人税基本通達において,課税上弊害がない限り,評価通達に準じて評価する旨定められている」と記載していることによる。
M&Aの行は,東京高等裁判所令和6年8月28日判決(令和6年(行コ)第36号。裁判所ホームページ未掲載であり,判例秘書で全文を確認した。)が,M&Aが行われる場合には高度な経営判断や双方の交渉の結果等により売買代金が決定されるのであって,売買代金が交換価値を反映しているとは限らないと述べていることによる。

3 評価の目的が違えば数値も違う

評価の目的が違えば評価額が違うことは,有識者会議でも前提とされている。
第4回会議では,委員から「目的によって評価が異なるのは一般的な考え方であり,会社法の裁判例や,M&Aの事例を,相続や贈与の時の評価の参考とするような,目的が違うものを並べて参考とすることには違和感がある」との意見が出ている(第4回議事要旨12頁)。
第4回資料8頁も,委員の意見の整理として「会社法やM&A価格との乖離を根拠に通達の見直しを論ずることには慎重であるべき」との意見を掲げている。
他方,事務局は,昭和30年代に作られた考え方が評価理論の進歩や社会経済情勢の変化の中で置き去りにされ,評価額圧縮スキームを跋扈させる温床となった側面があるとし,「進歩を遂げた会社法やM&Aの考え方を参考にしながら見直していくことが必要」と説明している(第4回議事要旨6頁)。
会社法の価格決定実務は,相続税評価の「正解」ではなく,見直しの方向を考える際の参照点という位置付けである。

第3 会社法の価格決定で使われる評価方法

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国税庁が例示した非上場株式の評価額圧縮スキーム8類型――会社規模の操作,配当還元株主の作出及びオペレーティング・リース(AI作成)

目次第1 国税庁が例示した評価額圧縮スキーム8類型とは――この記事の対象と時点1 結論2 記事の性質と基準日第2 評価額圧縮スキーム8類型の一覧1 8類型の一覧表2 表の読み方第3 5つの型に分けた現行通達上の仕組み1 本記事の分類2 会社規模・評価会社区分の操作3 配当還元方式の対象の作出4 比準要素の引下げ5 純資産・評価差額の人為的変動6 評価時点の数値を下げる行為第4 財産評価基本通達6項(総則6項)との関係1 総則6項の適用件数2 経済産業省・中小企業庁の意見書がいう「14件」3 判断の枠組みと近時の例第5 見直し案での対応1 類型ごとの対応案2 会社規模の操作と配当還元方式3 利益操作とグループ法人4 資産管理会社と3年以内取得の不動産第6 実務上の注意1 既に実行したスキームの見直し2 総則6項のリスク3 事業承継税制との関係第7 関連記事第8 出典1 通達2 有識者会議の資料3 行政機関の意見書4 裁判例・裁決
第1 国税庁が例示した評価額圧縮スキーム8類型とは――この記事の対象と時点
1 結論

国税庁は,令和8年7月3日の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第4回会議の資料の別添2に,取引相場のない株式(非上場株式)の相続税・贈与税の評価額を圧縮するスキームの事例を8類型掲げた(第4回資料32頁~39頁)。
その中身は,会社規模や評価会社の区分を人為的に動かすもの,配当還元方式で評価される株主を作り出すもの,オペレーティング・リース等で利益や純資産を一時的に下げるもの,債務や評価差額を膨らませるもの,通達上の期間の経過を待つものに分けられ,資料が示す圧縮額は評価額で最大100億円,割合で最大約98%である。
国税庁は,こうした事例への対応を,財産評価基本通達6項による個別の課税処分から,評価方法そのものの見直しへ移そうとしている。

2 記事の性質と基準日

この記事は,令和8年9月19日現在で国税庁が公表している第1回から第6回までの会議資料,第5回までの議事要旨及び第5回の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」に基づく。
第6回会議(令和8年9月16日)の議事要旨は,この記事の作成時点で公表されていない。

この記事は節税方法の解説ではない。
各事例の仕組みは,国税庁がどのような行為を問題視しているかを理解するのに必要な範囲でだけ紹介する。
別添2の事例は,資料自身が「事例を簡略化したもの」と題しているとおり(第4回資料31頁),制度の見直しを検討するために当局が示した例示である。
ここに挙げられた行為が当然に違法となるわけではなく,当然に財産評価基本通達6項の対象となるわけでもない。

また,後記第5の見直し案は,いずれも国税庁事務局が有識者会議に示したたたき台であり,決定したものではない。
骨子自身が「見直し内容のほか,評価水準・税負担の在り方等も含め,最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」としている(骨子1頁)。
会議全体の経緯は,親記事の取引相場のない株式の評価に関する有識者会議にまとめている。

第2 評価額圧縮スキーム8類型の一覧
1 8類型の一覧表

第4回資料別添2の8事例を,資料の記載どおりにまとめると次のとおりである。

事例(第4回資料の頁)仕組みの要点資料が示す圧縮額又は割合①子会社の会社規模操作(32頁)上場株式を現物出資して設立した会社の傘下の子会社に,買収した会社の従業員を転籍させて中会社から大会社(類似業種比準方式)へ変え,その子会社へ上場株式を寄附する評価額▲100億円,税額▲55億円②配当還元方式を利用できる株主の作出(33頁)持株会社化の際に無議決権株式を大量に発行し,議決権を後継者に集約した上で,孫を「中心的な同族株主以外の同族株主」として配当還元価額で贈与する評価額▲19億円,税額▲10億円(原則的評価方式の2.2%の額)③会社規模操作(純資産価額方式から類似業種比準方式へ)(34頁)事業会社は海外子会社からの配当による資金の吸上げで,持株会社は事業会社からの借入れで,それぞれ株式等保有特定会社の判定を外し,持株会社は吸収分割で管理部門と従業員を承継して小会社から大会社へ変わる評価額▲20億円,税額▲10億円④循環貸付と評価差額の作出(35頁)純資産価額方式で評価される持株会社と子会社との間で現金の寄附と借入れを循環させて持株会社の債務を膨らませ,さらに孫会社への債権の寄附で評価差額を作り出す評価額▲65億円,税額▲35億円⑤オペレーティング・リース(36頁)借入れで中古航空機を取得してリースし,翌期の多額の減価償却で利益と純資産が減った時点で株式を贈与し,リース終了後の売却益で回復させる評価額▲10億円,税額▲5億円⑥株主構成の操作(37頁)資産管理会社の株主を創業家と上場会社の元役員等に分散させ,どのグループも議決権の15%以上を持たない会社にして,全株式を配当還元方式で評価させる評価額約98%減(原則的評価方式の2%程度)⑦第三者の一時的な介在(38頁)同族関係にない第三者に株式の6割を配当還元価額で売却し,残りを子へ贈与した後,会社が第三者の株式を配当還元価額で自己株式として取得する評価額約60%減(贈与の評価額が200株分の80株分)⑧貸付用不動産の3年経過(39頁)持株会社が借入れで約10億円の貸付用不動産を購入し,取得後3年以内の取引価額評価の期間を過ぎた4年6か月後に株式を子へ贈与する評価額▲5.4億円,税額▲3.0億円
2 表の読み方

圧縮額は資料の記載であり,①から⑤及び⑧は評価額と税額の減少額で,⑥と⑦は割合で示されている。
⑦の約60%減は,甲が保有する200株のうち子へ贈与するのが80株となるため,贈与の評価額がスキーム前の5分の2(80株/200株)になることによる(第4回資料38頁)。
⑧の5.4億円は,貸付用不動産の取得価額約10億円と相続税評価額約4.6億円の差額であり,資料は持株会社の株式を「評価額0円として子へ贈与」すると記載している(同資料39頁)。
第4回議事要旨10頁~11頁は,事務局がこれらの事例を順に紹介したことを記録している。

第3 5つの型に分けた現行通達上の仕組み
1 本記事の分類

ここでは,8事例を,現行の財産評価基本通達のどの定めを利用しているかという観点から,次の5つの型に分ける。
この分類は本記事によるものであり,資料が示した分類ではない。
一つの事例が複数の型にまたがることがある。

(続きを読む...)国税庁が例示した非上場株式の評価額圧縮スキーム8類型――会社規模の操作,配当還元株主の作出及びオペレーティング・リース(AI作成)

配当還元方式の見直し案――少数株主の判定の3%基準,親族の範囲の縮小及び従業員持株会の固定価格評価(AI作成)

目次第1 配当還元方式の見直し案とは――この記事の対象と時点第2 現行の配当還元方式1 配当還元方式が適用される株主(財産評価基本通達188)2 配当還元価額の算式(財産評価基本通達188-2)3 還元率10%と2円50銭の意味第3 配当還元方式の見直しが検討される理由1 会計検査院が指摘した還元率10%2 市場平均収益率から見た還元率3 株主構成の操作による評価額の圧縮第4 配当還元方式の見直し案の内容1 同族関係者の「親族」の範囲の縮小2 3%基準――議決権保有割合と株式保有割合を用いる判定3 委任・代理契約のある者と一時的所有目的の者の除外4 計算方法の簡素化5 最低配当2円50銭と還元率をめぐる意見第5 従業員持株会の株式の固定価格評価1 第6回資料が示した案2 参考とされた最高裁平成21年2月17日判決第6 配当還元方式の見直しの実務への影響1 少数株主の相続・贈与2 親族の範囲の縮小は評価額を下げる方向にも働く3 現行のスキームへの依拠4 従業員持株会の規約の点検第7 関連記事第8 出典1 法令・通達2 裁判例3 有識者会議の資料4 公的資料5 関連記事
第1 配当還元方式の見直し案とは――この記事の対象と時点

国税庁は,取引相場のない株式(非上場株式)の相続税・贈与税の評価について,配当還元方式を廃止せずに「特別の例外的措置」として残した上で,適用される少数株主の範囲を絞り込む案を示している。
その柱は,①同族関係者の判定に用いる親族の範囲を配偶者,直系血族,兄弟姉妹及び1親等の姻族に狭めること,②議決権保有割合と株式保有割合を用いる3%基準に改めること,③前所有者と委任・代理契約を結んでいる者や一時的所有を目的とする者を除外すること,④計算を受取配当金と還元率によるものに簡素化することである。
あわせて,一定の要件を満たす従業員持株会の株式を固定価格で評価する案も示されている。

これらは,国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で事務局が示したたたき台であり,通達改正が決まったものではない。
第5回会議(令和8年8月20日)の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」は,冒頭で「評価水準・税負担の在り方等も含め,最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」としている(骨子1頁)。
また,第6回資料1頁は,配当還元方式(少数株主)を第7回会議以降の想定論点に位置付けており,議論はまだ途中である。

この記事は,令和8年9月19日現在で公表されている第5回までの議事要旨と第6回までの会議資料に基づき,配当還元方式に関する見直し案を整理するものである。
第6回会議の議事要旨は,この記事の作成時点で公表されていない。
会議全体の経緯と論点は,親記事の取引相場のない株式の評価に関する有識者会議にまとめている。

第2 現行の配当還元方式
1 配当還元方式が適用される株主(財産評価基本通達188)

取引相場のない株式は,株主の区分に応じて,同族株主等が取得した株式は原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式等)で,それ以外の少数株主等が取得した株式は特例的評価方式である配当還元方式で評価される(第1回資料1頁)。
配当還元方式が適用される「同族株主以外の株主等が取得した株式」は,財産評価基本通達188が次の4つに分けて定めている。

区分会社の状況配当還元方式の対象となる株主(1)同族株主のいる会社同族株主以外の株主(2)中心的な同族株主のいる会社中心的な同族株主以外の同族株主で,株式取得後の議決権が5%未満の者(役員及び法定申告期限までに役員となる者を除く)(3)同族株主のいない会社株主の1人及びその同族関係者の議決権の合計が15%未満である株主(4)中心的な株主がおり,同族株主のいない会社議決権の合計が15%以上のグループに属するが,株式取得後の議決権が5%未満の者(役員等を除く)

ここでいう「同族株主」とは,株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が議決権総数の30%以上(最も多いグループの議決権が50%超である会社では50%超)である場合のその株主及び同族関係者をいう(通達188(1))。
「同族関係者」は,法人税法施行令4条の「特殊の関係のある個人又は法人」とされている(同)。
「中心的な同族株主」は,同族株主の1人並びにその配偶者,直系血族,兄弟姉妹及び1親等の姻族の有する議決権の合計数が25%以上である場合のその株主をいう(通達188(2))。

評価明細書(第1表の1)でどのように判定するかは,取引相場のない株式(出資)の評価明細書の書き方で解説している。
議決権の数え方は種類株式があると変わる(通達188-5)ので,無議決権株式等がある会社については種類株式の相続税評価も参照されたい。

2 配当還元価額の算式(財産評価基本通達188-2)

財産評価基本通達188-2は,配当還元価額を次の算式で計算すると定めている。

(その株式に係る年配当金額)÷10%×(その株式の1株当たりの資本金等の額)÷50円

「年配当金額」は,通達183(1)の1株当たりの配当金額,すなわち直前期末以前2年間の剰余金の配当金額(将来毎期継続することが予想できない特別配当・記念配当等を除く。)の合計額の2分の1を,資本金等の額を50円で除した株数で割った金額である(通達183(1))。
そして,通達188-2は,年配当金額が「2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とする」と定め,算定した金額が原則的評価方式による価額を超える場合は原則的評価方式の価額によるとしている。
同項の注は,年配当金額が「1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額」であるため,1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数を乗じることに留意するよう求めている。

たとえば,1株当たりの資本金等の額が500円(50円の10倍)で,資本金等の額50円当たりの年配当金額が5円であれば,配当還元価額は5円÷10%×10=500円となる。
無配であれば年配当金額は2円50銭とされ,2円50銭÷10%×10=250円となる(本記事の試算)。

3 還元率10%と2円50銭の意味

(続きを読む...)配当還元方式の見直し案――少数株主の判定の3%基準,親族の範囲の縮小及び従業員持株会の固定価格評価(AI作成)

資産管理会社の株式評価の見直し案――特定の評価会社の再編,純資産価額方式及び20%評価減の廃止(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象と時点第2 現行の特定の評価会社と資産管理会社の株式評価1 財産評価基本通達189が定める6つの区分2 資産構成の変動を無視する定め3 純資産価額方式の算式と20%評価減第3 見直し案における特定の評価会社の4類型1 純資産価額方式は特定の評価会社の評価方式へ2 第6回資料が示した4類型3 現行の区分との対応第4 資産管理会社の形式基準1 資産管理会社の定義2 事業承継税制の資産保有型会社・資産運用型会社3 判定方法の変更――帳簿価額で判定し,時価に洗い替えない4 検討中の修正点5 不動産賃貸業と「財産を法人に入れただけの会社」第5 純資産価額方式そのものの見直し1 純資産価額方式の三つの位置付け2 退職給付引当金を負債とする方向3 20%評価減の廃止案4 評価差額に対する法人税額等相当額(38%)5 純資産価額による頭打ちの要否6 第7回以降に残された論点第6 資産管理会社のオーナーにとっての実務上の注意1 現時点では現行通達で評価する2 特定会社の判定を外す対策の意味が変わり得る3 組織再編直後の会社・開業間もない会社4 生前贈与の計画第7 関連記事第8 出典1 法令・通達2 有識者会議の資料3 裁判例
第1 この記事が扱う対象と時点

令和8年9月16日の第6回「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で,国税庁事務局は,現行の土地保有特定会社と株式等保有特定会社を「資産管理会社」に整理統合し,事業承継税制の資産保有型会社・資産運用型会社を参考にした形式基準により帳簿価額で判定した上で,純資産価額方式で評価する案を示した(第6回資料20頁)。
あわせて,純資産価額方式そのものについても,退職給付引当金を負債とする方向や,議決権割合50%以下の同族株主グループに属する株主等の20%評価減を「廃止せざるを得ないのではないか」とする考え方が示されている(第5回当日机上配付資料8頁)。
いずれも国税庁事務局のたたき台であり,決定した改正ではない。

本記事は,有識者会議の資料のうち,特定の評価会社,資産管理会社及び純資産価額方式に関する部分を取り上げ,現行の財産評価基本通達と対比して整理するものである。
基準日は令和8年9月19日現在であり,第6回会議の議事要旨は本記事の作成時点で公表されていない。
第5回の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」(以下「骨子」という。)は,見直し内容のほか評価水準・税負担の在り方等も含め「最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」としている(骨子1頁)。
本記事で紹介する基準や割合は,いずれも今後変わり得る。

有識者会議の全体像は,親記事の取引相場のない株式の評価に関する有識者会議で扱っている。

第2 現行の特定の評価会社と資産管理会社の株式評価
1 財産評価基本通達189が定める6つの区分

現行の財産評価基本通達189は,「特定の評価会社の株式」を,評価会社の資産の保有状況,営業の状態等に応じて定めた会社の株式とし,次の6区分を置いている。
各区分の評価方法は,同通達189-2から189-6までが定めている。

区分(通達189)判定の要点評価方法(1)比準要素数1の会社配当・利益・簿価純資産の3要素のうちいずれか2が0で,かつ直前々期末基準でもいずれか2以上が0純資産価額(納税義務者の選択でL=0.25の併用方式)(2)株式等保有特定会社相続税評価額による総資産価額に占める株式等の価額の割合が50%以上純資産価額(選択によりS1+S2方式)(3)土地保有特定会社土地保有割合が,大会社等は70%以上,中会社等は90%以上純資産価額(4)開業後3年未満の会社等開業後3年未満,又は3要素がいずれも0純資産価額(5)開業前又は休業中の会社開業前又は休業中純資産価額(6)清算中の会社清算中清算分配見込額の複利現価

株式等保有特定会社の判定について,通達189(2)は,課税時期において評価会社の有する各資産を「この通達に定めるところにより評価した価額の合計額」のうちに占める株式,出資及び新株予約権付社債の価額の合計額の割合が50%以上である会社としている。
土地保有特定会社の判定も,同(3)が,各資産を「この通達の定めるところにより評価した価額の合計額」のうちに占める土地等の価額の合計額の割合(土地保有割合)で行うとしている。
つまり,現行の判定は帳簿価額ではなく相続税評価額で行う。

2 資産構成の変動を無視する定め

通達189は,株式等保有特定会社又は土地保有特定会社に該当するかどうかを判定する場合において,「課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり,その変動が次の(2)又は(3)に該当する評価会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは,その変動はなかったものとして当該判定を行うものとする」と定めている。
比率基準による判定を外す行動を,現行通達自体が想定している。

3 純資産価額方式の算式と20%評価減

財産評価基本通達185本文は,1株当たりの純資産価額を,各資産の相続税評価額の合計額から各負債の金額及び評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除し,発行済株式数で除して計算するとしている。
その際,評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等・家屋等は,課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。

評価差額に対する法人税額等に相当する金額について,通達186-2は,相続税評価額による純資産価額と帳簿価額による純資産価額の差額に「38%」を乗じて計算すると定めている。
この割合は,令和8年の改正(令8課評2-28外)で防衛特別法人税の創設を受けて37%から38%に改められたものであり,国税庁の改正説明によれば,令和8年4月1日以後に相続,遺贈又は贈与により取得した取引相場のない株式等の評価に適用される。
計算手順は取引相場のない株式(出資)の評価明細書の書き方で整理している。

通達185ただし書は,株式の取得者とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の50%以下である場合には,中会社・小会社の算式で用いる1株当たりの純資産価額に「100分の80を乗じて計算した金額とする」と定めている。
この20%評価減は,比準要素数1の会社(通達189-2),株式等保有特定会社(同189-3),土地保有特定会社及び開業後3年未満の会社等(同189-4)の純資産価額にも及ぶ。
他方,開業前又は休業中の会社(同189-5)には,ただし書の準用がない。

(続きを読む...)資産管理会社の株式評価の見直し案――特定の評価会社の再編,純資産価額方式及び20%評価減の廃止(AI作成)

類似業種比準方式は廃止されるのか――有識者会議の論点と会社法の価格決定で使われない理由(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象と時点1 類似業種比準方式は廃止されるのか(結論)2 第4回から第6回までの経過第2 現行の類似業種比準方式の仕組み1 類似業種比準方式の算式と比準要素2 しんしゃく割合と会社規模第3 類似業種比準方式の見直しが俎上に載った理由1 会計検査院の指摘と国税庁の再検証2 配当という比準要素の機能不全3 しんしゃく率の導入と比重の変更第4 類似業種比準方式の廃止・格下げをめぐる賛否1 廃止を支持する論拠2 維持又は限定的な見直しを求める論拠3 非経常的な損失の扱い4 昭和58年度税制改正答申の読み方の対立第5 会社法の価格決定で類似業種比準方式が使われない理由1 京都地決昭和62年5月18日を最後に見当たらない2 会社法の価格決定で用いられる評価方法3 税務評価と私法上の価格の目的の違い第6 株価上昇局面での再検証をめぐる対立1 日本商工会議所の再調査要求2 事務局の反論と数値第7 今後の見通しと実務上の注意1 決定前のたたき台であること2 類似業種比準方式を前提とした計画の点検3 事業承継税制の期限第8 関連記事第9 出典1 法令・通達2 有識者会議の資料3 裁判例4 その他の公的資料
第1 この記事が扱う対象と時点
1 類似業種比準方式は廃止されるのか(結論)

令和8年9月19日現在,取引相場のない株式の評価に用いる類似業種比準方式の廃止は決定していない。
ただし,国税庁は,令和8年8月20日の第5回「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で,会社の規模区分と,類似業種比準方式・純資産価額方式による評価体系を廃止し,残余利益方式(インカムアプローチ)へ評価方式を原則一本化するたたき台を示している。
このたたき台は,見直し内容のほか評価水準・税負担の在り方も含めて「最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」と自ら書いており,廃止の有無と時期は今後の税制改正の過程で決まる。

本記事は,令和8年9月19日現在で国税庁が公表している第1回から第6回までの会議資料,第1回から第5回までの議事要旨,日本商工会議所の委員提出意見書及び第5回会議の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」のうち,類似業種比準方式の存廃に関係する部分を読んで整理するものである。
第6回会議(令和8年9月16日)の議事要旨は作成中であり,会議での発言は第5回議事要旨までしか確認できない。
生成AIを用いて公表資料を通読し,数値と発言を原資料の該当頁と照合した上で構成した。
会議全体の経過と論点の一覧は,取引相場のない株式の評価に関する有識者会議で整理している。

2 第4回から第6回までの経過

類似業種比準方式の扱いは,第4回と第5回の間で段階が変わっている。
第4回会議(令和8年7月3日)では,国税庁事務局が,報道で「類似業種比準方式は廃止する」と断定的に書かれていることを懸念した委員に対し,「類似業種比準方式を廃止するということを現時点で決定しているわけではない」と答えている(第4回議事要旨3頁)。
同じ回の終わりには,委員から有識者会議として合意や方向性が決まったわけではないという理解でよいかと問われた座長が,「現時点で評価方式を一本化するであるとか,類似業種方式を廃止するといった合意はない」とした上で,議論を進めるために事務局にたたき台を示してもらうという認識を述べている(同25頁)。

これを受けて第5回で示されたのが,国税庁事務局のたたき台である。
したがって,第5回以降の資料は「事務局の考え方」であって,有識者会議の合意でも,通達改正でもない。
経過をまとめると,次のとおりである。

時点資料類似業種比準方式についての記載第4回(令和8年7月3日)第4回資料16頁「今後の類似業種比準方式の在り方をどう考えるか」と委員に意見を求める第4回(同日)第4回議事要旨3頁・25頁事務局は廃止を決定していないと説明し,座長は一本化・廃止の合意はないと確認第5回(令和8年8月20日)第5回資料1頁「類似業種比準方式を存置することは困難ではないか?」第5回(同日)骨子1頁「類似業種比準方式と純資産価額方式に基づく評価体系を廃止し,評価方式を原則一本化」第6回(令和8年9月16日)第6回資料11頁類似業種比準方式には理論的な根拠や実証的な裏付けがなく,他分野でも徐々に使われなくなってきたと整理

骨子1頁は,冒頭で「抜本的に評価体系の見直しを行うことが考えられる」とした上で,「その1」として「規模に応じた評価体系の廃止と評価方式の一本化」を掲げており,類似業種比準方式だけを単独で廃止するという書き方ではなく,規模区分と二つの方式を組み合わせた現行の体系全体を廃止するという書き方になっている。

第2 現行の類似業種比準方式の仕組み
1 類似業種比準方式の算式と比準要素
(1) 財産評価基本通達180の算式

財産評価基本通達180は,類似業種比準価額を,「類似業種の株価並びに1株当たりの配当金額、年利益金額及び純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)を基とし」て計算した金額と定めている。
算式は,A×{(Ⓑ/B+Ⓒ/C+Ⓓ/D)÷3}×0.7である。
Aは類似業種の株価,Ⓑ・Ⓒ・Ⓓは評価会社の1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額(帳簿価額によって計算した金額),B・C・Dは課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの配当金額・年利益金額・純資産価額である。
Ⓑ・Ⓒ・Ⓓは,1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額として計算する(同項(1)の注)。

(2) 比準要素の計算期間

同通達183によれば,配当金額は直前期末以前2年間の平均であり,特別配当・記念配当等で将来毎期継続することが予想できない金額を除く。
利益金額は直前期末以前1年間の法人税の課税所得金額を基に計算し,「固定資産売却益、保険差益等の非経常的な利益の金額を除く」とされ,納税義務者の選択により直前期末以前2年間の平均によることもできる。
純資産価額は,直前期末の資本金等の額と利益積立金額に相当する金額の合計額による。

(続きを読む...)類似業種比準方式は廃止されるのか――有識者会議の論点と会社法の価格決定で使われない理由(AI作成)

非上場株式の相続税評価は見直しでどれだけ上がるか――国税庁の1,378社試算と会社規模別の増減(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象と時点第2 国税庁の1,378社試算の対象と前提1 試算の対象2 試算の前提と資料の注記第3 会社規模別の評価額の増減1 現行の申告評価額の中央値に対する増減2 純資産価額を100とした評価水準3 現行の申告評価額以下となる会社の割合第4 現行の評価水準が会社規模で違う理由1 会計検査院の指摘と国税庁の再検証2 規模区分が評価額を分ける仕組み3 規模区分の廃止が大会社の評価額を大きく動かす理由第5 国税庁の試算を読むときの注意点1 中央値の比較であって個々の会社の予測ではない2 還元率・しんしゃく率は仮定であり,次回以降に議論される3 子会社株式等の個別調整は反映されていない4 日本商工会議所の「2倍から5倍近く」とは直接比べない5 経済産業省・中小企業庁の批判第6 自社の評価額がどうなるかを考える手掛かり1 ROEと還元率の関係2 上がりやすい会社と下がりやすい会社3 事業承継税制の期限との関係第7 関連記事第8 出典1 法令・通達2 有識者会議の資料3 その他の公的資料
第1 この記事が扱う対象と時点

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第6回(令和8年9月16日)の資料によれば,残余利益方式による評価額は,現行の申告評価額の中央値と比べて,大会社で+50.3%~+114.7%,中会社で▲1.9%~+40.2%,小会社で▲31.6%~▲1.9%となる(第6回資料9頁)。
この幅は,しんしゃく率を0.7から1.0まで動かした場合のものであり,還元率8%,加算期間5年という前提も含めて,いずれも試算のための仮定値である。
つまり,見直しによって評価額が上がるのは主に大会社であり,小会社の中央値はむしろ下がる,というのが国税庁自身の試算の示す方向である。

本記事は,この1,378社の試算を中心に,試算の前提,会社規模別の増減,現行の評価水準が規模によって違う理由,試算を読むときの注意点を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日現在であり,第6回会議の議事要旨はこの時点で公表されていない。
有識者会議の全体像と第1回から第6回までの経過は,親記事である取引相場のない株式の評価に関する有識者会議で扱っている。

見直しは,国税庁事務局がたたき台として示した段階にとどまり,決定されたものではない。
第5回会議の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」自身が,「評価水準・税負担の在り方等も含め、最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」と書いている(第5回机上配付資料1頁)。
したがって,本記事の数値は「国税庁案をある仮定の下で当てはめるとこうなる」という目安であり,改正後の評価額を示すものではない。

第2 国税庁の1,378社試算の対象と前提
1 試算の対象

試算の対象は,令和2年分から令和5年分までの相続税及び贈与税の申告のうち,取得した財産に取引相場のない株式がある申告の中から無作為に抽出した評価会社のうち,類似業種比準価額及び純資産価額の両方を算出している評価会社である(第6回資料9頁)。
資料は,これを「会計検査院及び国税庁が実施した実態把握の対象申告データ(4年間分)」と説明している(同頁)。
会計検査院が検査した令和2年分・令和3年分と,国税庁が独自に実態把握した令和4年分・令和5年分を合わせたものである(第1回資料4頁・6頁)。

会社規模別の内訳とROE(自己資本利益率)の中央値は,次のとおりである(第6回資料9頁)。

区分社数ROEの中央値全体1,378社1.8%大会社128社3.9%中会社820社2.1%小会社430社0.6%

大会社・中会社・小会社の社数を足すと1,378社になる。
対象の約6割は中会社であり,大会社は約9%にとどまる(本記事の計算では,大会社9.3%,中会社59.5%,小会社31.2%)。

2 試算の前提と資料の注記

試算の前提として資料が明記しているのは,次の3点である(第6回資料9頁の注記)。
①残余利益方式の評価額は,加算期間5年,還元率8%と仮定したこと
②申告における類似業種比準方式の算出に用いる1株当たりの配当金額(Ⓑ),利益金額(Ⓒ)及び純資産価額(Ⓓ)を使用したこと
③完全子会社株式の修正等の個別調整事項は考慮していないこと

②は見落としやすいが重要である。
国税庁案の算式は,課税時期前5年の正常利益の平均を年利益金額とし(第6回資料6頁・8頁),直前期末の簿価純資産に5年分の残余利益の割引現在価値を加えて,しんしゃく率を掛けるものである(同資料7頁・8頁)。
これに対し試算は,現行の申告書に記載された類似業種比準方式の比準要素を流用している。
したがって,試算は,法人税申告書の数値を基に5年平均の利益を用いる国税庁案の算式どおりに計算したものではなく,手元の申告データで近似したものと理解すべきである。

残余利益方式の算式そのもの,還元率及びしんしゃく率の意味は,姉妹記事の残余利益方式とはで扱う。

(続きを読む...)非上場株式の相続税評価は見直しでどれだけ上がるか――国税庁の1,378社試算と会社規模別の増減(AI作成)

残余利益方式とは――国税庁案の算式(簿価純資産+5年分の残余利益×しんしゃく率)と計算例(AI作成)

目次第1 残余利益方式とは何か――この記事の対象と時点第2 残余利益モデルの考え方1 残余利益とクリーンサープラス関係2 配当還元モデル・DCF法との比較第3 国税庁案の残余利益方式の算式1 算式の全体2 直前期末の純資産価額(D′0)は法人税法上の簿価3 年利益金額と年配当金額4 還元率(re)5 加算期間を5年とする理由6 ターミナルバリューを加算しない理由7 しんしゃく率8 子会社株式と従業員持株会株式第4 国税庁が示した計算例1 計算例①(年利益金額1,000万円・年配当金額200万円)2 計算例②(年利益金額500万円・年配当金額100万円)3 利益ゼロ・無配の会社の水準――「事実上の評価減効果」第5 算式から読み取れる性質(本記事の試算)1 内部留保が多いほど評価額が下がる2 ROEと還元率の関係3 5年での打切りとしんしゃく率の意味第6 残された論点1 減損・利益操作・役員報酬2 子会社・持株会・純資産価額による頭打ち第7 関連記事第8 出典1 法令2 有識者会議の資料3 関連記事
第1 残余利益方式とは何か――この記事の対象と時点

残余利益方式とは,取引相場のない株式(非上場株式)の相続税評価について,国税庁が有識者会議に示している新しい評価方式の案である。
直前期末の法人税法上の簿価純資産に,将来5年分の残余利益(利益から株主が通常期待する収益を差し引いた超過収益)の現在価値を加え,その合計にしんしゃく率を乗じて評価額を求める。
これは国税庁事務局のたたき台であり,採用が決まったものではない。

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は,令和8年8月20日の第5回会議で,規模区分と類似業種比準方式・純資産価額方式による現行の評価体系を廃止し,原則的評価方式を残余利益方式に一本化する見直しの骨子を示した(第5回当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」1頁)。
続く令和8年9月16日の第6回会議では,残余利益方式の算式,加算期間及び計算例が具体的に示された(第6回資料6頁~8頁・26頁~27頁)。
もっとも,骨子自身が「評価水準・税負担の在り方等も含め,最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」と明記しており(骨子1頁),還元率やしんしゃく率の値も決まっていない。
国税庁は,収益力の高い会社ほど評価額が高くなるのは相続税法22条の「時価」として自然であり,事業承継への配慮は政策税制で行うべきとの立場である(第5回議事要旨3頁~4頁)。

この記事は,令和8年9月19日現在で公表されている第5回までの議事要旨と第6回までの会議資料に基づき,残余利益方式の考え方,国税庁案の算式及び資料の計算例を整理し,算式から読み取れる性質を試算で確かめるものである。
第6回会議の議事要旨は,この記事の作成時点で公表されていない。
会議全体の経緯と論点は,親記事である取引相場のない株式の評価に関する有識者会議にまとめている。
現行の評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式)の全体像は遺産相続における非上場株式の評価方法を参照されたい。

第2 残余利益モデルの考え方
1 残余利益とクリーンサープラス関係

残余利益とは,ある期の利益から,期首の純資産に株主が通常期待する収益率(資本コスト)を乗じた額を差し引いたものである。
第6回資料8頁は,これを,利益から前期の簿価純資産に期待収益率を乗じた額を差し引いたものとして表し,差し引く部分を「株主が通常期待する収益=企業が株主に払うべきコスト」と説明している。
残余利益がプラスであれば,企業は株主の期待を上回る利益を上げていることになる(同頁)。

残余利益モデルは,株式の価値を「期首の純資産+将来の残余利益の現在価値の合計」として求める。
この計算の前提となるのがクリーンサープラス関係であり,第6回資料5頁は,これを「期首の自己資本から期末の自己資本への変化額が,会社の株主との間の資本取引を除いて,すべて損益計算書によって説明されている関係」と説明している。
国税庁案では「前期末の純資産価額+年利益金額-年配当金額=当期末の純資産価額」という形で用いられる(同資料7頁)。

2 配当還元モデル・DCF法との比較

第3回会議で櫻井久勝委員は,インカム・アプローチの3モデル(配当割引モデル・割引キャッシュフローモデル・残余利益モデル)は将来の予測が正しい限り理論上は同じ評価額に到達するとした上で,実践的な観点から残余利益モデルが優れていると報告した(親記事の紹介による)。
国税庁は,第5回資料1頁で3つの方式を次のように比較している。

項目配当還元方式DCF法残余利益方式適用ができない企業配当を操作している企業,配当をゼロに抑制している企業等成長期(スタートアップ等)の企業,設備投資等によりFCFがマイナスの企業特には見あたらない予測期間以降の残存価値相対的に最も大きい相対的に大きい明らかに小さい(現時点の保有資産を評価するため,将来予測への依存が小さい)将来予測の難易度配当の時期は裁量的に決定できるため予測は困難FCFの予測は困難将来利益の予測は比較的容易(過去の実績から一定の予測可能)

骨子は,これを受けて「適用可能範囲・将来予測への依存度・執行可能性の観点から『残余利益モデル』を採用」するとしている(骨子1頁)。
残余利益方式では直前期末の簿価純資産が評価額の大部分を占めるため,将来予測の誤差の影響が相対的に小さいというのが国税庁の説明である。

第6回資料11頁は,類似業種比準方式には「理論的な根拠や実証的な裏付けがなく,他分野でも徐々に使われなくなってきた」とし,学術上の理論的根拠を持つ残余利益モデルに税務上の評価としての一定の修正を加えた方式への見直しは「現行制度に比べて,より合理的な評価方法への見直しであると考える」と位置付けている。
類似業種比準方式の見直しの行方は,類似業種比準方式は廃止されるのかで扱う。

第3 国税庁案の残余利益方式の算式

(続きを読む...)残余利益方式とは――国税庁案の算式(簿価純資産+5年分の残余利益×しんしゃく率)と計算例(AI作成)

経済産業省・中小企業庁の「取引相場のない株式の評価」見直し意見――令和8年9月16日の意見書と令和9年度税制改正要望(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象と時点1 意見書の要旨2 意見書の作成名義と位置付け3 基準日と資料の範囲第2 意見書が前提とする見直しの背景1 意見書による背景の整理2 会計検査院の指摘の読み方3 「過去10年間で14件」の出所第3 令和9年度税制改正要望の文言第4 意見書の二つの柱1 影響の分析と丁寧な議論2 国の政策的方向性との関係第5 有識者会議での議論との対応関係1 国税庁事務局の立場2 日本商工会議所の主張3 三者の主張の対比第6 今後の見通しと実務上の注意1 評価水準は税制改正プロセスで決まる2 事業承継税制の特例措置の期限3 意見書を読むときの注意第7 出典1 法令2 経済産業省・中小企業庁の資料3 有識者会議の資料4 その他の公的資料
第1 この記事が扱う対象と時点
1 意見書の要旨

経済産業省・中小企業庁は,令和8年9月16日付けの「『取引相場のない株式の評価』見直しに係る意見」において,国税庁の有識者会議で進められている非上場株式の相続税評価の見直しについて,影響の分析を尽くした丁寧な議論を求め,政府の政策の方向性に逆行する見直しとならないよう要望した。
意見書は,現在の見直し案が資産規模の大きい企業,収益性の高い企業及び子会社を保有する企業の評価額を大幅に増大させ,事業承継と成長投資を妨げるおそれがあるとし,これを「政府の政策の方向性に逆行するものであると言わざるを得ない」と述べている(意見書3頁)。
見直しに反対すると述べているのではなく,現行の評価方式の枠内でとり得る対応の検討と,業種や経営状況に応じた具体的な試算・検証を求める内容である。

2 意見書の作成名義と位置付け

意見書の作成名義は,経済産業省,中小企業庁,経済産業政策局及びイノベーション・環境局であり,本文は3頁である(中小企業庁ウェブサイト掲載のPDF)。
日付の令和8年9月16日は,国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第6回会議の開催日と同じである。
同会議の委員は研究者,日本商工会議所,日本税理士会連合会及び実務家から成り,中小企業庁は全国商工会連合会とともにオブザーバーとして参加している(国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」委員名簿)。
つまり,意見書は会議の委員の提出資料ではなく,会議の外から所管官庁が示した意見である。
意見書の構成は,前文(見直しの背景と税制改正要望),「(1)評価額の変動による事業承継への影響について,業種や経営状況等に応じた,個別具体的なケース別,類型別及びマクロでの分析・試算を示し,拙速ではなく丁寧に検証・議論すべき」及び「(2)国の政策的方向性に逆行するような見直しとならないこと」の三つに分かれる。

3 基準日と資料の範囲

この記事は,令和8年9月19日現在で公表されている資料に基づく。
有識者会議の資料は第6回まで,議事要旨は第5回まで公表されており,第6回の議事要旨は国税庁の会議ページで「作成中」とされている。
したがって,意見書が第6回会議でどのように扱われたか,委員や事務局がどう応じたかは,この記事の作成時点では確認できない。

有識者会議で議論されている見直しは,国税庁事務局のたたき台の段階であり,決定されたものではない。
第5回会議の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」自身が,「評価水準・税負担の在り方等も含め,最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」としている(骨子1頁)。
会議全体の経緯と論点は,親記事である取引相場のない株式の評価に関する有識者会議にまとめている。

第2 意見書が前提とする見直しの背景
1 意見書による背景の整理

意見書は,見直しの背景を二つに整理している。
第1は,会計検査院の令和5年度決算検査報告における指摘であり,意見書は,その趣旨を「類似業種比準方式では,特に規模の大きい企業ほど申告時の株式の評価額(対純資産価額)が相対的に低く算定される傾向があり,異なる規模区分間で株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとは言えない」旨の指摘として要約している。
第2は,「現行の評価体系が各種租税回避スキームの温床となっているとの国税庁の認識」である(いずれも意見書1頁)。
第2の点は,第4回会議で事務局が,見直しは現在の評価方法の枠組みが「各種租税回避スキームの温床」となっている状況を踏まえたものであり,「あくまで評価の適正化を目的としており,全体として相続税の増税を目的で行うものではない」と回答したことと対応する(第4回議事要旨2頁~3頁)。

2 会計検査院の指摘の読み方

意見書は,会計検査院の報告について,「異なる規模区分間の公平性に関する課題が指摘されているが,規模区分に応じて異なる評価方式を定めることや,現行の類似業種比準方式そのものが不適切であるとまでは指摘されていないものと認識している」と述べる(意見書1頁)。
この読み方を,会計検査院の報告の原文と照らし合わせる。

報告の所見は,各評価方式の間で評価額にかい離が生じていることにより,「類似業種比準価額を適用する割合がより高くなる規模の大きな区分の会社ほど評価額が相対的に低く算定されることになり,この状況は評価通達の改正等の影響により拡大したと思料される」とする。
その上で,「取引相場のない株式では各評価方式による評価額が同水準となることが必ずしも予定されていないことを考慮したとしてもなお」,異なる規模区分の株式を取得した者の間で「株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえないと思料される」と述べる。

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損害賠償金の遅延損害金に税金はかかるか―雑所得となる場合と非課税となる場合(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 遅延損害金の法的性質1 民法419条の損害賠償2 税務上問題になる点第3 非課税所得を定める条文と国税庁の資料1 所得税法9条1項18号2 所得税法施行令30条3 国税庁の通達・タックスアンサー第4 国税不服審判所平成22年4月22日裁決1 事案の概要2 賃金相当額の損害賠償金に係る遅延損害金は雑所得3 弁護士費用賠償金とその遅延損害金は非課税4 この裁決が判断していないこと第5 交通事故の慰謝料・休業損害等に係る遅延損害金1 元本の扱いは国税庁資料で確認できる2 遅延損害金の扱いを明示した国税庁資料は見当たらない3 考え方が分かれ得る理由4 実務上の留意点第6 雑所得となる場合の申告と源泉徴収1 雑所得の金額と年分2 確定申告が不要な場合(所得税法121条)3 源泉徴収はされないのが通常である第7 法人・個人事業者が受け取る場合第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例・裁決3 公的資料4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,個人が不法行為に基づく損害賠償金とともに遅延損害金の支払を受けた場合に,その遅延損害金に所得税がかかるかを説明する。
調査基準日は令和8年9月19日であり,法令はe-Gov法令検索の現行条文,国税庁の通達・質疑応答事例・タックスアンサー,国税不服審判所の公表裁決並びに裁判所HP及び国税庁の税務訴訟資料で確認した裁判例の範囲で書く。
遅延損害金がいつから発生するか,利率が年3%か年5%かといった民法上の論点は扱わず,関連記事へ送る。

損害賠償金の課税関係は,元本部分と遅延損害金部分を分けて考える必要がある。
元本が非課税であることと,遅延損害金が非課税であることは,別々に検討される問題だからである。

2 結論

結論は次のとおりである。
①賃金相当額の損害賠償金のように,元本そのものが本来の所得や得べかりし利益の補塡として非課税所得に当たらない場合,その遅延損害金は雑所得に当たるとされた(国税不服審判所平成22年4月22日裁決)。
②同じ裁決は,不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の賠償金とその遅延損害金は,支出を余儀なくされた弁護士費用という財産的損害を補塡するものとして,所得税法施行令30条2号の非課税所得に当たるとした。
③国税庁の質疑応答事例も,懲戒処分の取消しに伴って支払われる給与差額に付された遅延損害金を,支払われた日の属する年分の雑所得としている。
④交通事故の慰謝料,治療費,休業損害,逸失利益等の元本が非課税であることは,所得税法9条1項18号,同法施行令30条1号及び国税庁のタックスアンサー(No.1700・No.1705)で確認できる。
⑤しかし,それらの元本に係る遅延損害金が非課税か雑所得かを明示した国税庁の通達,質疑応答事例又はタックスアンサーは,本記事の調査では見当たらなかった。
⑥上記の裁決も,心身に加えられた損害の賠償金に係る遅延損害金については判断していない。
⑦資産に加えられた損害(商品先物取引の勧誘による損失)の賠償金については,元本を非課税所得としつつ,その遅延損害金を雑所得とした裁判例がある(大分地裁平成21年7月6日判決及びその控訴審の福岡高裁平成22年10月12日判決)が,心身に加えられた損害の賠償金に係る遅延損害金を判断したものではない。
⑧したがって,交通事故の慰謝料等に係る遅延損害金は,非課税と考える方向と雑所得と考える方向の双方があり得る論点であり,本記事では結論を断定しない。
⑨遅延損害金が雑所得となる場合,通常は支払の際に源泉徴収されないため,受け取った本人が確定申告の要否を判断する。
⑩給与等の収入金額が2,000万円以下で,1か所から給与を受け,その全部について源泉徴収又は年末調整がされる給与所得者は,給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であれば,所得税の確定申告は原則として不要である(所得税法121条1項1号)。
⑪法人が受け取る遅延損害金は,法人税法上の益金の額に算入される。

第2 遅延損害金の法的性質
1 民法419条の損害賠償

遅延損害金は,金銭債務の履行が遅れたことによる損害賠償である。
民法419条1項は,「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。」と定めている。
同条2項により,債権者は損害の証明を要しない。

不法行為に基づく損害賠償債務は,催告を要せず,損害の発生と同時に遅滞に陥る(最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決(昭和34年(オ)第117号,民集16巻9号1834頁))。
したがって,交通事故の損害賠償金を事故から数年後に受け取る場合,元本とは別に相当額の遅延損害金が付くことがある。
起算日の詳細は不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するか,利率は遅延損害金の利率は年3%か年5%かで説明している。

2 税務上問題になる点

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相続税の障害者控除―対象となる相続人,特別障害者の範囲,85歳までの年数の計算,扶養義務者からの控除及び所得税との違い(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論の要旨第2 障害者控除の仕組み1 条文と控除額2 障害者と特別障害者の定義第3 控除を受けられる人1 財産を取得した時に日本国内に住所がある人2 法定相続人であること3 財産を取得した時に障害者であること第4 障害者・特別障害者の範囲1 一般障害者2 特別障害者3 手帳の交付を受けていない場合4 成年被後見人5 要介護認定だけでは対象にならない第5 所得税の障害者控除との違い1 常に就床を要し,複雑な介護を要する者2 所得税で障害者控除を受けていたことの意味第6 控除額の計算1 本人の控除額2 引き切れない額は扶養義務者から控除する3 過去の相続で障害者控除を受けていた場合第7 申告と遺産分割の実務1 申告で確認する資料2 遺産分割との関係第8 出典1 法令2 通達3 国税庁の解説・文書回答
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,相続人に障害者がいる場合に相続税額から差し引かれる障害者控除(相続税法19条の4)について,対象となる人,障害者と特別障害者の範囲,控除額の計算,控除しきれない額の扱い及び所得税の障害者控除との違いを,条文,政令,通達及び国税庁の公表資料に基づいて整理するものであり,AIを用いて作成した。
法令は令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,通達及び国税庁の資料は同日に国税庁ウェブサイトで確認した内容による。
計算例は,条文の定めに当てはめた本記事の試算であり,国税庁が示した例ではない。

2 結論の要旨

相続税の障害者控除は,一定の要件を満たす障害者である相続人の相続税額から,85歳に達するまでの年数に応じた金額を差し引く制度である。
①控除額は,85歳に達するまでの年数1年につき10万円,特別障害者であれば20万円であり,1年未満の端数は1年に切り上げる。
②対象は,相続又は遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある人に限られ,放棄がなかったものとした場合の法定相続人でなければならない。
③成年被後見人のように精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人は,特別障害者に当たる。
④本人の相続税額から引き切れない控除額は,その人の扶養義務者の相続税額から差し引く。
⑤「常に就床を要し、複雑な介護を要する者」は,所得税では認定がなくても特別障害者とされるが,相続税では市町村長等の認定を受けていることが要件となるため,所得税で障害者控除を受けていたことだけで相続税の要件を満たすとは限らない。

第2 障害者控除の仕組み
1 条文と控除額
(1) 相続税法19条の4第1項

相続税法19条の4第1項は,「相続又は遺贈により財産を取得した者(第一条の三第一項第二号から第四号までの規定に該当する者を除く。)が当該相続又は遺贈に係る被相続人の前条第一項に規定する相続人に該当し、かつ、障害者である場合には、その者については、第十五条から前条までの規定により算出した金額から十万円(その者が特別障害者である場合には、二十万円)にその者が八十五歳に達するまでの年数(当該年数が一年未満であるとき、又はこれに一年未満の端数があるときは、これを一年とする。)を乗じて算出した金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。」と定めている。
国税庁の「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」は,年数を「相続開始の日からその人が満85歳に達するまでの年数」と説明している。

(2) 控除の順序

条文は,相続税法15条から19条の3までの規定により算出した金額から障害者控除額を差し引くとしている。
19条の2は配偶者に対する相続税額の軽減,19条の3は未成年者控除であるから,障害者控除は,これらの規定を適用した後の各人の相続税額から差し引くことになる。
配偶者の税額軽減の計算方法は,相続税における配偶者の税額の軽減で説明している。

2 障害者と特別障害者の定義

相続税法19条の4第2項は,障害者を「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者、失明者その他の精神又は身体に障害がある者で政令で定めるもの」とし,特別障害者を「同項の障害者のうち精神又は身体に重度の障害がある者で政令で定めるもの」としている。
これを受けた相続税法施行令4条の4は,所得税法施行令10条の障害者及び特別障害者の範囲を大部分でそのまま引用しつつ,後記第5で述べる点で異なる定めを置いている。

第3 控除を受けられる人
1 財産を取得した時に日本国内に住所がある人

障害者控除の条文は,相続税法1条の3第1項2号から4号までに該当する者を除いている。
そのため,控除を受けられるのは,同項1号に当たる者,すなわち相続又は遺贈により財産を取得した時に日本国内に住所を有する者に限られる。
国税庁のタックスアンサーも,対象者を「相続や遺贈で財産を取得したときに日本国内に住所がある人(一時居住者で、かつ、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除きます。)」としている。

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法人版事業承継税制の特例措置の期限――特例承継計画は令和9年9月30日,贈与・相続は同年12月31日まで(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象と時点1 対象とする制度2 調査基準日と資料第2 特例措置の概要1 一般措置との違い2 相続の「80%」の意味3 対象は議決権に制限のない株式に限られる4 対象となる会社は中小企業者に限られる第3 特例措置の三つの期限1 特例承継計画の提出期限――令和9年9月30日2 贈与・相続の期限――令和9年12月31日3 認定申請と申告の期限4 個人版事業承継税制の期限第4 延長の経緯と期限後の扱い1 計画の提出期限だけが1年6月延びた2 令和10年以降の扱い第5 猶予を受けた後に残る義務と免除1 猶予税額を納付することになる場合2 雇用確保要件3 免除される場合と贈与者の死亡第6 株式の評価見直しの動きとの関係1 猶予税額は株式の価額で決まる2 国税庁の有識者会議で示された方向3 期限と評価見直しを並べて考えるときの視点第7 出典1 法令2 国税庁・中小企業庁の資料3 税制改正大綱4 評価見直しに関する資料
第1 この記事が扱う対象と時点
1 対象とする制度

この記事は,非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例(いわゆる法人版事業承継税制の特例措置)の期限を扱う。
特例措置は,租税特別措置法70条の7の5(贈与)及び70条の7の6(相続)に定められ,平成30年度税制改正で10年間の時限措置として設けられた。
期限は,特例承継計画の提出期限,贈与・相続の期限,都道府県知事の認定申請の期限の三つが別々に定められており,令和8年度改正で延びたのは特例承継計画の提出期限だけである。
個人事業者の事業用資産を対象とする個人版事業承継税制については,期限の違いに触れるにとどめる。

2 調査基準日と資料

本記事は,令和8年9月17日時点で,e-Gov法令検索に掲載された租税特別措置法,中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」という。)及び同法施行規則(以下「円滑化規則」という。)の条文,中小企業庁及び国税庁の公表資料を確認して作成した。
国税庁の説明資料は「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」(令和8年7月)を,中小企業庁の資料は申請マニュアル第1章(令和8年6月改訂版)及び「特例承継計画に関する指導及び助言を行う機関における事務について」(令和8年4月改訂版)を用いた。
本記事は制度の期限と構造を説明するものであり,個別の会社が特例措置の要件を満たすか,どの時期に承継するのが有利かは,株主構成,財務内容及び後継者の状況によって異なる。

第2 特例措置の概要
1 一般措置との違い

法人版事業承継税制には,一般措置と,平成30年度改正で設けられた特例措置がある。
国税庁のあらまし資料上1頁の比較表によれば,主な違いは次のとおりである。

項目特例措置一般措置事前の計画策定等特例承継計画の提出(平成30年4月1日から令和9年9月30日まで)不要適用期限平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等なし対象株数全株式総株式数の最大3分の2まで納税猶予割合100%贈与100%,相続80%承継パターン複数の株主から最大3人の後継者複数の株主から1人の後継者雇用確保要件弾力化承継後5年間平均8割の雇用維持が必要事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除ありなし

一般措置の対象株式について,租税特別措置法70条の7の2第1項は「発行済株式又は出資(議決権に制限のない株式又は出資に限る。)の総数又は総額の三分の二に達するまでの部分」に限ると定めているが,特例措置の70条の7の6第1項にはこの限定がない。
後継者の人数についても,特例措置の条文は「二人又は三人までに限る。」とし(70条の7の5第2項6号,70条の7の6第2項7号),一般措置は「一の者に限る。」としている(70条の7の2第2項3号)。

2 相続の「80%」の意味

一般措置の相続で猶予されるのは,対象株式の価額を課税価格とみなして計算した相続税額から,価額の100分の20を課税価格とみなして計算した相続税額を控除した残額である(租税特別措置法70条の7の2第2項5号)。
相続税は累進税率であるから,この計算による猶予額は,相続税額の80%と一致するとは限らない。
特例措置の相続では,この控除の定めがなく,対象株式の価額を課税価格とみなして計算した相続税額そのものが猶予額となる(同法70条の7の6第2項8号)。

3 対象は議決権に制限のない株式に限られる

特例措置の対象となる株式は,条文上,議決権に制限のない株式等に限られる。
事業承継の設計で無議決権株式を後継者以外の相続人に取得させる方法を併用する場合,その無議決権株式は納税猶予の対象にならない。
種類株式の相続税評価については,種類株式の相続税評価で扱っている。

4 対象となる会社は中小企業者に限られる

特例措置の対象となる会社は,円滑化法2条に規定する「中小企業者」のうち,同法の認定を受けた会社である(租税特別措置法70条の7の5第2項1号)。
円滑化法2条1号は,製造業その他の業種について「資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人」と定め,卸売業は資本金1億円以下又は従業員100人以下,サービス業は資本金5000万円以下又は従業員100人以下,小売業は資本金5000万円以下又は従業員50人以下の会社としている(同条2号から4号まで。政令で定める業種は同条5号による。)。
資本金の基準と従業員数の基準は,どちらか一方を満たせば足りるので,資本金が基準を超えていても従業員数が基準以下であれば中小企業者に当たる。

(続きを読む...)法人版事業承継税制の特例措置の期限――特例承継計画は令和9年9月30日,贈与・相続は同年12月31日まで(AI作成)

種類株式の相続税評価――配当優先の無議決権株式・社債類似株式・拒否権付株式と国税庁の取扱い(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象と時点1 対象とする株式と税目2 調査基準日と資料第2 会社法上の種類株式1 内容の異なる9つの事項2 株主ごとの異なる取扱い3 導入の手続4 議決権制限株式の発行数の制限第3 評価の前提となる考え方1 議決権の有無は原則として評価額に影響しない2 株主区分は議決権で判定する第4 国税庁の文書回答が示す三つの類型1 文書回答の位置付け2 配当優先の無議決権株式3 社債類似株式4 拒否権付株式第5 三つの類型以外の株式と裁判例1 国税庁の公表資料で確認できない類型2 上場会社が発行した非上場の優先株式3 裁判例と公表裁決第6 評価見直しの議論と実務上の注意1 有識者会議で示された見直しの案2 設計の段階で確認すること第7 出典1 法令・通達2 国税庁の文書回答・情報・質疑応答事例3 公表裁決・裁判例の検索4 中小企業庁の資料5 評価見直しに関する資料
第1 この記事が扱う対象と時点
1 対象とする株式と税目

この記事は,非上場会社が発行する種類株式を相続,遺贈又は贈与により取得した場合に,相続税・贈与税の計算上その株式をどのように評価するかを扱う。
中心となるのは,国税庁が平成19年に文書回答で評価方法を示した三つの類型,すなわち配当優先の無議決権株式,社債類似株式及び拒否権付株式である。
それ以外の種類株式と,非公開会社が定款で定める株主ごとの異なる取扱い(いわゆる属人的株式)については,国税庁の公表資料で確認できる範囲を示す。
会社法上の価格決定や遺産分割における株式の評価は,相続税評価とは別の問題である。

2 調査基準日と資料

本記事は,令和8年9月17日時点で,e-Gov法令検索に掲載された会社法の条文,国税庁の財産評価基本通達,文書回答事例,情報及び質疑応答事例,中小企業庁の公表資料並びに国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の資料を確認して作成した。
裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,公表裁決は国税不服審判所の公表裁決事例で確認した。
個別の会社の株式の評価額は,株主構成,議決権の数,配当の実績及び財務内容によって異なる。

第2 会社法上の種類株式
1 内容の異なる9つの事項

会社法108条1項は,「株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。」と定めている。
その事項は,①剰余金の配当,②残余財産の分配,③株主総会において議決権を行使することができる事項,④譲渡による取得に会社の承認を要すること,⑤株主が会社に取得を請求できること,⑥一定の事由が生じたことを条件に会社が取得できること,⑦株主総会の決議によって会社が全部を取得すること,⑧株主総会等の決議のほか種類株主総会の決議を必要とすること,⑨種類株主総会において取締役又は監査役を選任することである。
同項ただし書により,指名委員会等設置会社及び公開会社は,⑨の定めがある種類の株式を発行することができない。
種類株式を発行するには,同条2項により,内容と発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。

2 株主ごとの異なる取扱い

会社法109条2項は,「公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。」と定めている。
対象となる権利は,剰余金の配当を受ける権利,残余財産の分配を受ける権利及び株主総会における議決権である(同法105条1項各号)。
この定めがある株式は,同法109条3項により,会社法の一部の規定の適用については内容の異なる種類の株式とみなされる。
中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版)資料上105頁は,「「株主ごとの異なる取扱い」は種類株式と異なって登記されないため、外部からその存在や内容を知られることがないという特徴がある。」と説明している。

3 導入の手続

会社の成立後に種類株式を設けるには,株主総会の決議による定款の変更が必要であり(会社法466条),その決議は特別決議である(同法309条2項11号)。
発行する各種類の株式の内容は登記事項である(同法911条3項7号)。
既に発行した普通株式を種類株式に変える場合について,事業承継ガイドライン(第3版)資料上106頁は,「登記実務上、当該株主との合意と、他の株主の利益を害するおそれがある場合には当該他の株主の同意が必要であるという取扱いである。」としている。

4 議決権制限株式の発行数の制限

会社法115条は,議決権制限株式の数が発行済株式の総数の2分の1を超えるに至ったときに,2分の1以下にするための措置をとらなければならないと定めている。
この規律は「種類株式発行会社が公開会社である場合」に限られるから,公開会社でない中小企業には及ばない。

第3 評価の前提となる考え方

(続きを読む...)種類株式の相続税評価――配当優先の無議決権株式・社債類似株式・拒否権付株式と国税庁の取扱い(AI作成)

財産評価基本通達6項(総則6項)の適用――最高裁令和4年判決の枠組みと不動産・株式の事例(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象と時点1 対象とする論点2 調査基準日と資料第2 相続税法22条と財産評価基本通達1 時価と通達の関係2 通達6項の文言第3 最高裁令和4年4月19日判決1 事案の概要2 判断の枠組み3 当てはめ4 相続直前に不動産を取得した下級審の事例第4 取引相場のない株式の事例1 国税不服審判所令和6年3月25日裁決2 配当と新株発行により評価額を下げた事案3 売却交渉中の相続で国側が敗訴した事案第5 適用の実情と国税庁の説明1 適用件数2 謙抑的な運用3 居住用の区分所有財産の評価との関係4 「貸付用不動産の評価について(案)」との関係第6 事例から読み取れる判断の要素第7 出典1 法令・通達2 裁判例・裁決3 国税庁の資料
第1 この記事が扱う対象と時点
1 対象とする論点

この記事は,財産評価基本通達6(いわゆる総則6項)により,課税庁が通達の定める方法によらずに財産を評価する場合の判断枠組みを扱う。
中心となるのは,不動産の事案で判断枠組みを示した最高裁令和4年4月19日判決及び相続直前に不動産を取得した下級審の事例と,その後に取引相場のない株式について判断した裁決・裁判例である。
納税者が通達の定める方法による評価額より低い評価を求める場面は,本記事の対象外とする。

2 調査基準日と資料

本記事は,令和8年9月17日時点で,e-Gov法令検索の相続税法,国税庁の財産評価基本通達及び公表資料,裁判所ウェブサイトの裁判例,国税庁「税務訴訟資料」,国税不服審判所の公表裁決事例を確認して作成した。
裁判所ウェブサイトに掲載されていない判決は,判例秘書及び国税庁「税務訴訟資料」で確認した。
個別の事案で通達6項が適用されるかどうかは,取引の経緯,評価額と時価の差,税負担の軽減の程度及びそれを裏付ける記録によって異なる。

第2 相続税法22条と財産評価基本通達
1 時価と通達の関係

相続税法22条は,相続等により取得した財産の価額は「当該財産の取得の時における時価により」と定めるだけで,評価の方法を定めていない。
財産評価基本通達1の(2)は,時価を「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」とし,「その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」としている。
課税実務はこの通達に従って行われているが,最高裁令和4年4月19日判決は,評価通達について「上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。」と述べている。
通達の法的性質一般は,通達の法的性質・拘束力と争い方で扱っている。

2 通達6項の文言

財産評価基本通達6は,「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定めている。
最高裁令和4年判決の事案では,札幌国税局長からの上申を受けた国税庁長官が,平成28年3月10日付けで,通達の定めによらず他の合理的な方法によって評価するよう指示している。
国税庁のウェブサイトの通達,事務運営指針及び財産評価に関する情報の各一覧には,通達6項の適用基準を定めた公表物は見当たらない。

第3 最高裁令和4年4月19日判決
1 事案の概要

最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)第283号,民集76巻4号411頁)は,被相続人が借入れにより購入した賃貸用不動産の評価が争われた事案である。
原審は東京高裁令和2年6月24日判決(令和元年(行コ)第239号),第一審は東京地裁令和元年8月27日判決(平成29年(行ウ)第539号)である。
判決が認定した主な数字は,次のとおりである。

事実判決の認定甲不動産平成21年1月に6億3000万円を借り入れ,8億3700万円で購入乙不動産平成21年12月に合計4億2500万円を借り入れ,5億5000万円で購入相続開始平成24年6月17日(被相続人は94歳)通達評価額甲不動産2億0004万1474円,乙不動産1億3366万4767円申告課税価格の合計額2826万1000円,基礎控除により相続税の総額0円鑑定評価額甲不動産7億5400万円,乙不動産5億1900万円更正処分課税価格の合計額8億8874万9000円,相続税の総額2億4049万8600円

判決によれば,購入・借入れがなければ課税価格の合計額は6億円を超えるものであり,乙不動産は相続開始の翌年に5億1500万円で売却されている。

2 判断の枠組み

判決は,まず相続税法22条との関係について,同条の時価は客観的な交換価値をいうとし,課税庁の評価額が客観的な交換価値としての時価を上回らない限り同条に違反しないとした。
その上で,平等原則について,「課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。」と述べた。

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「1億円の壁」の追加所得税とは――租税特別措置法41条の19の令和8年改正と自社株・不動産売却への影響(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象と時点1 対象とする制度と調査基準日2 「1億円の壁」と本特例の関係第2 本特例の仕組み1 追加の所得税額の計算式2 基準所得金額に含まれる所得3 基準所得税額と復興特別所得税第3 令和8年改正の内容1 控除額と税率の見直し2 適用開始は令和9年分から3 令和9年分以後の復興特別所得税と防衛特別所得税4 暗号資産の譲渡益の算入第4 追加税額の試算1 分離課税の所得だけがある場合2 試算の前提と限界第5 追加税額が問題となる場面1 M&A・事業承継による自社株式の譲渡2 不動産の売却3 離婚に伴う財産分与4 限定承認によるみなし譲渡5 相続後の換価第6 所得がどの年分になるか1 譲渡所得の収入すべき時期2 予定納税額の減額申請第7 裁判例及び裁決の状況第8 出典・参考資料1 法令2 国会提出法案・閣議決定3 財務省・国税庁の説明資料及び通達4 裁判例・裁決の検索
第1 この記事が扱う対象と時点
1 対象とする制度と調査基準日
(1) 対象とする制度

この記事は,租税特別措置法41条の19が定める「特定の基準所得金額の課税の特例」を扱う。
国税庁は,この制度を「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」と呼んでいる。
いわゆる「1億円の壁」への対応として令和5年度税制改正で設けられ,令和8年度税制改正で対象と税率が見直された。
記事の中心は,見直しの内容,適用が始まる年分及び弁護士業務で問題となる場面である。

(2) 調査基準日と改正の時点

本記事は,令和8年9月16日時点で,e-Gov法令検索に掲載された現行条文及び施行前の改正後条文,財務省及び国税庁の公表資料を確認して作成した。
改正法は,令和8年3月31日に公布された所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)である。
e-Gov法令検索では,本特例の控除額と税率を改める改正後の条文は令和9年1月1日施行の版として掲載されており,令和8年9月16日時点では施行前である。
本記事は税額の計算方法を条文と公表資料に基づいて説明するものであり,個別の申告額は,所得の構成,所得控除及び税額控除によって変わる。

2 「1億円の壁」と本特例の関係
(1) 所得が大きくなると負担率が下がる理由

給与所得や事業所得は累進税率の総合課税であるのに対し,株式等の譲渡所得と土地建物等の長期譲渡所得は,他の所得と区分して所得税15%を課す分離課税である(租税特別措置法31条1項,37条の10第1項)。
分離課税の所得の割合が大きいほど所得全体のうち税率15%で課税される部分が増えるため,合計所得金額が一定の水準を超えると,所得税の負担率がかえって下がることがある。
財務省のパンフレット「令和8年度 税制改正」4頁(PDF6頁)の図も,実際の申告実績データに基づく所得税負担率が,合計所得金額の増加につれて途中から下がる形を示している。

(2) 令和5年度改正による導入

国税庁の制度説明によれば,本特例は令和5年度税制改正で導入され,令和7年分の所得税等の確定申告から始まった。
国税庁は,導入時の対象を「おおむね平均的な水準として30億円を超える高い所得」と説明している。
すなわち,令和7年分及び令和8年分の本特例は,年に数十億円規模の所得がある人を主な対象とする制度であった。
令和8年度改正は,この対象の水準を大きく引き下げるものである。

第2 本特例の仕組み
1 追加の所得税額の計算式
(1) 現行の条文

現行の租税特別措置法41条の19第1項は,次のとおり定めている。
「個人でその者のその年分の基準所得金額が三億三千万円を超えるもの(第四項において「特例対象者」という。)については、当該超える部分の金額の百分の二十二・五に相当する金額からその年分の基準所得税額を控除した金額に相当する所得税を課する。」
計算式にすると,追加の所得税額=(基準所得金額-3億3000万円)×22.5%-基準所得税額であり,計算結果が0以下であれば追加の所得税は生じない。

(2) 判定の順序

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被相続人の生前申告書は相続人が単独で閲覧できるか-全相続人の委任状と準確定申告との違い(AI作成)

目次

最初に区別する三つの類型
類型別の閲覧範囲と委任状
被相続人の生前申告書の必要書類
準確定申告書の必要書類
相続税申告書の必要書類
状況別チェックリスト
窓口申請とオンライン取得の違い
一次資料と確認範囲

1 最初に区別する三つの類型

被相続人が生前に提出した申告書について、共同相続人の一人が、自分だけの権限で閲覧することはできない。
もっとも、一人だけで税務署へ行くことは可能であり、その場合は、来署しない相続人全員の委任状及び印鑑証明を持参する必要がある。
相続人が一人だけの場合は、その相続人が単独で申請できる。

これに対し、共同提出された準確定申告書は、共同提出者の一人だけでも申告書全体を閲覧できる。
この違いを理解するため、①被相続人の生前申告書、②共同相続人が提出した準確定申告書、③相続人等が提出した相続税申告書を区別する必要がある(令和8年9月16日確認)。

「被相続人の申告書」と一括りにすると、必要書類を誤りやすくなる。まず、次のどの書類を見たいのかを確定する。

被相続人が生前に提出した申告書(所得税、消費税等)
相続人が提出した準確定申告書(被相続人の死亡年分の所得税等)
相続人等が提出した相続税申告書

準確定申告の制度・期限については、準確定申告の期限・必要書類・e-Tax-相続税との違い(AI作成)も参照してください。

2 類型別の閲覧範囲と委任状

対象共同提出の有無閲覧範囲・委任状の考え方

被相続人の生前申告書―相続人が一人だけの場合は、その相続人が単独で申請できる。相続人が複数いる場合、一人だけで来署することはできるが、自分だけの権限では閲覧できない。来署しない相続人全員の委任状及び印鑑証明が必要である。相続放棄者については、放棄を証する書面を提出すれば、その者の委任は不要である。

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e-Taxの誤送信・訂正手続-利用者識別番号・年分・税目・申告内容(AI作成)

このページの要点 e-Taxの誤送信は、①受信通知のエラーの有無、②誤りの種類、③申告期限の前後、④納付・還付・振替納税の処理状況で対応が変わります。「正しいデータをもう一度送れば常に終わり」ではありません。まず証拠を保存し、下記フローで切り分けてください(2026年9月16日確認)。

目次

最初の5分で保存するもの
誤送信の基本判定フロー
誤った税務署へ送信した場合
利用者識別番号・年分・税目を誤った場合
申告内容を誤った場合
税目・手続別の訂正方法
納付・還付・振替納税が絡む場合
税務署へ伝える事項と記録様式
一次資料と確認範囲

1 最初の5分で保存するもの

訂正操作を始める前に、次の資料を保存してください。誤送信の事実、時刻、対象者及び税額処理を後から再現できる状態を作ることが先です。

受信通知(エラー情報を含む)
送信した申告・申請データ及び帳票PDF
受付番号、送信日時及び送信先税務署
使用した16桁の利用者識別番号と、その名義人
税目、年分・課税期間・事業年度、申告区分
納付額、還付額、納付方法、振替納税の依頼状況
メッセージボックスの通知、処理状況
税務署・ヘルプデスクとの通話日時、担当部署、回答要旨

個人番号、利用者識別番号、口座情報等を含む記録は、依頼者ごとに分離し、誤送信先の名義人のメッセージボックスを権限なく閲覧しないでください。

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申告書等閲覧サービスの委任状と写真撮影-弁護士代理の記載例(AI作成)

このページの要点 申告書等閲覧サービスを弁護士が代理利用する場合は、閲覧申請書だけでなく、委任事項を特定した委任状、委任者の印鑑登録証明書(発行後30日以内)、弁護士本人の身分証明書等が必要です。写真撮影をするなら、委任状にも写真撮影を認める旨を明記するのが安全です。以下は、国税庁の現行様式・事務運営指針を基にした記載例です(2026年9月16日確認)。

目次

申告書等閲覧サービスの位置付け
弁護士が持参する書類
委任状の具体的な記載例
閲覧申請書の具体的な記載例
写真撮影の条件と実務上の注意
窓口へ行く前のチェックリスト
一次資料と確認範囲

1 申告書等閲覧サービスの位置付け

申告書等閲覧サービスは、納税者が過去に提出した申告書等を、税務署の窓口で閲覧するための行政サービスです。法律上の情報公開請求や個人情報開示請求そのものではありません。

利用目的は、今後の申告書の作成、過去の申告事実・提出年月日の確認、申告書・給付金申請書等の内容確認などに限られます。銀行や地方公共団体から求められた「税務署の受付印がある控え」を取得するだけの目的には利用できません。また、税務署は原則としてコピーを交付せず、閲覧、書き写し又は条件付きの写真撮影によって内容を確認します。

全体像は、収受日付印廃止後の申告書提出証明と申告書等閲覧サービス-弁護士代理・相続人・e-Tax(AI作成)も参照してください。

2 弁護士が持参する書類

書類等実務上の確認点

申告書等閲覧申請書納税者、税目、年分・事業年度、対象書類、利用目的及び写真撮影の有無を特定します。
委任状(国税庁様式1-2)代理人、委任目的、税目、年分等、対象書類、書き写し又は写真撮影の別を具体的に記載します。
委任者の印鑑登録証明書閲覧申請日前30日以内に発行されたもの。委任状には登録印を押します。
弁護士の本人確認書類弁護士会発行の身分証明書。これを提示できない場合は、弁護士記章に加えて運転免許証等が必要です。
対象を特定するメモ所轄税務署、納税地、税目、年分・課税期間・事業年度、原始申告・修正申告等の別、添付書類名を整理します。

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収受日付印廃止後の申告書提出証明と申告書等閲覧サービス-弁護士代理・相続人・e-Tax(AI作成)

第1 この記事の対象と結論第2 収受日付印廃止後の提出時の証拠1 令和7年1月から収受日付印は押されない2 提出方法別に残す資料3 郵送時の提出日の判定第3 e-Taxの受信通知と提出事実の確認1 受信通知により確認できる事項2 提出・納付・還付は別に確認する3 利用者識別番号の取り違え等が疑われる場合第4 過去の申告書を確認する四つの方法1 制度の比較2 申告書等情報取得サービス3 保有個人情報開示請求と納税証明書第5 申告書等閲覧サービス1 制度の性質と利用目的2 対象書類・場所・所要時間3 写真撮影・コピー・原本証明第6 弁護士代理と相続人による閲覧1 存命の納税者の代理2 死亡した納税者の申告書3 写真撮影と補助者第7 弁護士事務所の実務チェックリスト1 申告書を提出するとき2 過去の申告書を確認するとき3 進行を止めて確認すべき場合第8 令和5年分確定申告期の大阪国税局文書1 文書から読み取れる当時の運用2 根拠として用いる際の限界第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 国税庁・e-Taxの公表資料3 当時の運用を示す資料
第1 この記事の対象と結論

この記事は,令和8年9月16日現在の法令及び国税庁の公表資料に基づき,収受日付印廃止後に申告書を提出した事実をどのように残すか,過去の申告書をどの制度で確認するか,弁護士が代理人として閲覧するときに何を準備するかを整理するものである。

結論として,提出時には後日の閲覧制度に頼るのではなく,e-Taxであれば受信通知と送信データ,郵送であれば申告書の写しと追跡可能な送付記録,窓口提出であれば提出直前の控えを保存するのが基本である。
過去の申告内容が必要になった場合は,本人がオンラインで取得できる「申告書等情報取得サービス」,税務署で確認する「申告書等閲覧サービス」,保有個人情報開示請求及び納税証明書を,目的に応じて使い分ける必要がある。

第2 収受日付印廃止後の提出時の証拠
1 令和7年1月から収受日付印は押されない

国税庁は,令和7年1月から,税務署等の窓口及び郵送で提出された申告書等の控えに収受日付印を押さない取扱いとしている(国税庁「令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて」)。
したがって,押印済みの控えを提出証明として将来取得できるという前提で事務を組み立てることはできない。

当分の間,窓口又は郵送で申告書等を提出した者が希望するときは,提出年月日及び税務署名等が記載されたリーフレットを交付する運用が案内されている。ただし,リーフレットは提出書類の名称,税目,課税期間又は記載内容を個別に証明するものではないため,申告書の写し及び送付記録を別に保存する必要がある。

2 提出方法別に残す資料
提出方法直ちに保存する資料注意点
e-Tax受信通知,受付日時・受付番号,送信データ,帳票イメージ,エラー情報送信操作,受付完了,添付書類の到達及び納付完了は同じ意味ではない。
郵便又は信書便提出した申告書一式の写し,封入物一覧,追跡番号,発送日・到達日の記録申告書は「信書」であり,宅配便等の荷物扱いで送付しない。
税務署窓口提出直前の申告書一式の写し,提出日・提出先・担当窓口の記録,希望した場合のリーフレット控えへの収受日付印は押されない。リーフレットだけでは提出内容を特定できない。

依頼者から提出を受任した場合は,税務署へ送った版をPDFで確定し,ファイル名,作成日時,提出先,税目,対象年分,添付書類,提出経路及び到達確認方法を案件記録に残すのがよい。

3 郵送時の提出日の判定

国税庁タックスアンサーNo.2036によれば,納税申告書が郵便又は信書便により提出された場合は,通信日付印により表示された日が提出日とみなされる。郵便又は信書便以外の方法で税務署へ送付した場合は,税務署に到達した日が提出日となる。
期限管理では,単に発送したという依頼者の記憶ではなく,どの送付手段を用い,いつ差し出し,どの書類を封入したかを確認する必要がある。

第3 e-Taxの受信通知と提出事実の確認
1 受信通知により確認できる事項

e-Taxで申告等データを送信すると,メッセージボックスの受信通知に受付日時,受付番号,申告・申請の名称及びエラー情報等が表示される。所得税の確定申告書等については,氏名又は名称,受付番号及び受付日時等が表示された受信通知と送信した申告書等のデータを組み合わせて保存することが,提出事実と提出内容の対応を示す基本となる。

電子申告等証明書の請求を利用できる場合もあるが,請求対象及び利用目的を確認する必要がある。受信通知だけを保存して申告書データを失う,または申告書PDFだけを保存して受信通知を失うという分断を避けるべきである。

2 提出・納付・還付は別に確認する

申告書が受け付けられたことは,税額が納付されたこと又は還付金の支払手続が完了したことを意味しない。納付については選択した納付方法の決済結果及び口座の出金を,還付についてはe-Taxの「還付金処理状況確認」等を別に確認する。

国税庁は,確定申告期の還付金について,書面申告ではおおむね1か月から1か月半程度,自宅等からのe-Taxではおおむね3週間程度を処理期間の目安として案内している。ただし,申告内容や添付書類の確認を要する場合,複数回提出した場合などはこの目安より時間を要することがある(国税庁「税金の還付」)。

3 利用者識別番号の取り違え等が疑われる場合

別人又は別法人の利用者識別番号で送信した疑い,重複した利用者識別番号を取得した疑い,提出先・税目・課税期間の誤り又は受信通知のエラーがある場合は,送信データ,受信通知,操作日時,利用したソフト及び関係者の説明を保全し,所轄税務署へ処理方法を確認する。
原因を確認しないまま同じ操作を繰り返すと,複数の申告データが残り,どの申告を有効なものとして扱うべきかが分かりにくくなる。

(続きを読む...)収受日付印廃止後の申告書提出証明と申告書等閲覧サービス-弁護士代理・相続人・e-Tax(AI作成)

建物の標準的な建築価額表は実際の建築費とどこまで一致するか(AI作成)

目次第1 個別建物の一致率を示す表ではない第2 標準的な建築価額は何を計算した金額か第3 予定単価と実施単価の差を示す統計1 令和6年分の調査対象と単価補正率2 この数値を個別建物へ読み替えられない理由第4 税務上の利用と実額との照合1 表を使う場合と使わない場合2 東京地裁が認めた按分方法としての合理性3 個別の実額と比べるときの条件第5 関連記事第6 出典1 国税庁の申告案内・解説資料2 国土交通省の統計・統計解説3 裁判例
第1 個別建物の一致率を示す表ではない

国税庁の「建物の標準的な建築価額表」は,建築年と構造に応じた全国の工事費予定額を基礎とする表である。
個々の建物について,完成後の支払額と何%一致するかを示した精度検証の結果ではない(国税庁の表,注1・注2)。

予定額と実施額の違いを知る参考として,国土交通省の建築工事費調査がある。
令和6年分の層別単価補正率を百分率に直すと,実施単価が予定単価を約7.86%~13.14%上回る数値となるが,これは国税庁の表の個別建物に対する誤差率ではない。
本記事では,令和8年9月14日を基準に,この数値の意味と,譲渡所得の計算における表の位置付けを説明する(国土交通省「建築工事費調査の概要(令和6年分)」,PDF3頁)。

第2 標準的な建築価額は何を計算した金額か

表の単価は,国土交通省の建築着工統計にある構造別の工事費予定額を,床面積の合計で割って算出される。
完成後の工事費の平均ではなく,また,各建物の単価を単純平均した数字でもない(国税庁の表,注1)。

例えば,令和5年建築の木造・木骨モルタル造の欄は,1㎡当たり204.1千円である。
床面積100㎡の建物を仮定すれば,表による計算額は20万4100円×100㎡=2041万円となるが,これはその建物に実際に2041万円を支払ったことを証明するものではない。
この単独表の最終掲載年は,令和8年9月14日の確認時点では令和5年であり,現在の新築見積額を直接示す数字として読むこともできない。

国税庁の計算表では,建築年に対応する単価に床面積を掛け,購入時に中古建物であった場合は,建築から購入までに減価した額を差し引く。
さらに,譲渡所得の計算に用いる建物の取得費は,こうして求めた取得価額から売却時までの償却費相当額を差し引くため,表の単価を掛けた金額と売却時の取得費を区別することになる(令和7年分「譲渡所得の申告のしかた」参考2,冊子29頁・PDF1頁)。

第3 予定単価と実施単価の差を示す統計
1 令和6年分の調査対象と単価補正率

国土交通省の建築工事費調査は,着工時に把握した建築物について,完成後の工事実施額と床面積を調べるものである。
令和6年分では調査票を9369棟に郵送して6443棟から回収し,審査・照会を経て,完成建築物5942棟と中止・未着工155棟を集計している(調査結果の公表,調査概要,PDF1頁~2頁)。

次の表は,同調査が公表する単価補正率と,それを「予定単価に対して何%高いか」に換算したものである。
右端の数値は,(単価補正率-1)×100により本記事で計算し,小数第3位を四捨五入した(調査概要PDF3頁)。

調査の層単価補正率予定単価に対する上昇率木造・1億円未満1.081078.11%木造・1億円以上1.098049.80%非木造・1億円未満1.1285012.85%非木造・1億円以上20億円未満1.1313513.14%非木造・20億円以上1.078617.86%

木造の20億円以上の層は回収数が少ないため,1億円以上20億円未満の層と統合されている。
また,調査概要は,中止・未着工を含む調査データの工事費予定額と工事実施額について,それぞれ対応する床面積の合計で割った単価を求め,実施単価を予定単価で割って補正率を算出すると説明している(同PDF2頁~3頁)。

2 この数値を個別建物へ読み替えられない理由
(1) 集計単価の差と個別建物の誤差

単価補正率は,金額と床面積をそれぞれ合計して求めた単価の比率である。
各建物の誤差率の平均,誤差の最大値・最小値,又は一定の誤差内に収まる建物の割合ではなく,個々の建物が同じ程度だけ高くなることを示すものでもない。
したがって,上表の約7.86%~13.14%を「この範囲に誤差が収まる」という意味で用いることはできない。

(2) 対象年と構造区分の違い

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準確定申告-4か月の期限・必要書類・書き方・e-Taxと相続税(AI作成)

第1 準確定申告の対象と最初に確認する事項1 準確定申告とは2 最初に四つの日付と資料を固定する第2 準確定申告が必要な場合と還付だけを受ける場合1 申告要否は被相続人の所得から判定する2 給与所得者について確認する基準3 公的年金等の受給者について確認する基準4 申告義務がなくても還付申告はできる第3 4か月の期限と二年分の申告が必要となる場合1 期限は相続開始を知った日の翌日から4か月以内である2 前年分と死亡年分の両方が対象となる場合がある3 期限を過ぎた場合は放置しない第4 申告する人,複数の相続人及び提出先1 相続人には包括受遺者を含む2 相続人等が複数いる場合3 提出先は被相続人の死亡当時の納税地である第5 必要書類と書き方1 提出書類と計算資料を区別する2 所得控除は死亡日までの支払と死亡日の現況で判定する3 申告書と付表を作る順序4 証明書,取引履歴及び申告用資料を目的別に集める第6 書面提出とe-Taxの違い1 確定申告書等作成コーナーでは作成できない2 e-Taxで提出する書類と認証3 提出方法を決める基準第7 令和8年分の準確定申告に固有の注意1 令和8年11月30日以前に提出する場合2 令和8年12月1日以後にe-Taxで提出する場合第8 還付金・納付税額と相続税の関係1 準確定申告の還付金は相続財産になる2 準確定申告の納付税額は債務控除の対象となり得る3 4か月と10か月を一つの工程表で管理する第9 実務上の確認手順1 申告までの六段階2 早期に専門家へ確認する場面第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料3 関連記事第1 準確定申告の対象と最初に確認する事項

1 準確定申告とは

準確定申告とは,所得税の確定申告をすべき人が死亡した場合に,相続人等が被相続人に代わって行う所得税の申告である。
死亡年分については,その年の1月1日から死亡日までに確定した所得金額と税額を計算する。

本記事は,令和8年9月7日現在の日本法を前提として,国内に居住していた人が死亡した場合の所得税及び復興特別所得税を扱う。
消費税の申告,国外転出時課税,非居住者の国際税務及び相続税額の具体的計算は対象外である。

2 最初に四つの日付と資料を固定する

準確定申告の作業では,①死亡日,②各相続人が相続開始を知った日,③被相続人が前年分の確定申告書を提出済みかどうか,④被相続人の死亡当時の納税地を最初に確認する。
期限と対象年分はこの四点によって決まり,提出先も相続人の住所地ではなく,被相続人の死亡当時の納税地を基準に決まる。

次に,給与・年金・事業・不動産・配当・譲渡等の収入資料,源泉徴収税額,予定納税額及び控除資料を集める。
死亡したという事実だけで申告義務が生じるわけではないため,被相続人について通常の確定申告義務があったかを計算できる資料が必要である。

第2 準確定申告が必要な場合と還付だけを受ける場合

1 申告要否は被相続人の所得から判定する

所得税法120条の確定申告義務が被相続人に生じる場合は,相続人等が準確定申告をしなければならない。
事業所得,不動産所得,譲渡所得等があるだけで常に申告義務が生じるわけではなく,各種所得,所得控除,税額控除,源泉徴収税額及び予定納税額を通じて判定する必要がある。

2 給与所得者について確認する基準

国税庁の「給与所得者で確定申告が必要な人」によれば,給与収入が2000万円を超える場合,1か所から源泉徴収対象の給与を受けていて給与・退職所得以外の所得金額が20万円を超える場合,2か所以上から給与を受けて一定の基準を超える場合等は確定申告が必要となる。
20万円の基準は収入金額ではなく,原則として必要経費等を反映した所得金額で判定する。

死亡によって退職した給与所得者は,年の中途でも年末調整の対象となることがある。
したがって,給与所得者については,勤務先から交付された源泉徴収票で年末調整の有無と源泉徴収税額を確認した上で,他の所得を合算して申告要否を判断する。

3 公的年金等の受給者について確認する基準

公的年金等の収入金額が400万円以下で,その全部が源泉徴収の対象となり,公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合は,所得税の確定申告を要しない制度がある。
ただし,源泉徴収の対象とならない一定の外国年金を受給している場合はこの制度を利用できず,所得税の申告が不要でも住民税の申告が必要となることがあるため,年金額だけで一律に判断できない。

4 申告義務がなくても還付申告はできる

源泉徴収税額又は予定納税額が計算上の所得税額を上回るときは,申告義務がなくても還付を受けるための申告ができる。
所得税法125条2項には,同条1項のような4か月の期限が規定されていない。

国税庁の「還付申告」は,一般の還付申告を対象年の翌年1月1日から5年間提出できると説明している。
もっとも,期限内申告が適用要件となる青色申告特別控除等もあるため,還付見込みであっても4か月以内に申告内容を確認するのが安全である。

第3 4か月の期限と二年分の申告が必要となる場合

1 期限は相続開始を知った日の翌日から4か月以内である

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税務調査に関するメモ書き-事前通知,帳簿データ,質問応答記録書及びAI活用(AI作成)

目次

第1 この記事の対象第2 税務調査と行政指導の区別1 連絡の法的な位置付けを先に確認する2 帳簿と申告の元の状態を保全する3 会社・税理士・弁護士の担当と判断の引継ぎ第3 事前通知と無予告調査1 実地調査の事前通知2 事前通知をしない場合3 通知範囲以外の確認と反面調査第4 質問検査権とその限界1 質問,検査及び提示・提出要求2 罰則と理解・協力による運用3 職業上の秘密と帳簿書類の留置き第5 帳簿・電子データの提示と提出1 電磁的記録の提示・提出方法2 提出範囲と再現性3 摘要欄と消費税の帳簿記載事項第6 質問応答記録書への対応1 署名・押印と質問への答弁を分ける2 記録内容を一文ずつ確認する第7 国税庁によるAI利用の公表範囲1 予測AIは調査選定を支援する2 独自の生成AI利用環境は令和8年度中の構築・利用開始予定である3 個別の判定語やモデル仕様は公表されていない4 異常値の検出と申告漏れの判断を分ける第8 調査終了時の手続1 更正等を要しない場合と要する場合2 新たな情報による再度の質問検査第9 調査手続と後の争い1 質問検査で得た資料の刑事手続での利用2 調査手続の瑕疵と課税処分の取消し第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例・行政裁決3 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料
第1 この記事の対象

本記事は,令和8年9月6日を調査基準日として,所得税,法人税,地方法人税及び消費税に関する通常の税務調査を中心に整理するものである。
国税犯則調査の強制処分,個別の税額計算及び不服申立ての具体的な期限は扱わない。

本文は,e-Gov法令検索,裁判所ウェブサイト,国税不服審判所及び国税庁の公表資料を照合し,その探索・整理と文章作成にAIを利用したものである。
予定納税,国税の納付方法,電子帳簿保存制度そのもの,記帳代行及び給与計算は税務調査と検索意図が異なるため,本記事では説明しない。

第2 税務調査と行政指導の区別
1 連絡の法的な位置付けを先に確認する

国税庁の税務調査手続に関するFAQ問2は,特定の納税者の税額等を認定する目的で質問検査等を行って申告内容を確認する「調査」と,自発的な見直しや修正申告を求める行政指導を区別している。
同FAQによれば,担当者は具体的な手続に入る前に,調査と行政指導のいずれに当たるかを明示する運用である。

同FAQ問22は,税務署への来署による確認など,実地調査以外の調査もあることを説明している。
訪問がないことや電話による連絡であることだけで,行政指導と判断してはならない。担当者の説明,対象税目・期間及び実際に求められた確認内容を記録する必要がある。

加算税との関係では,調査・行政指導の区別,所定の調査通知の有無と日時,更正予知に関する具体的な事実,修正申告の提出日を別に整理する。
国税通則法65条6項は,更正予知によるものではなく,かつ調査通知前に行われた修正申告について同条1項を適用しないとするため,通知と予知を一つの出来事として扱うことはできない。
修正申告の時期と加算税の関係は,修正申告と加算税―行政指導,調査通知及び更正予知の前後で何が変わるかで整理している。

行政手続法35条1項は,行政指導をする者に,その相手方に対して当該行政指導の趣旨・内容及び責任者を明確に示すことを求めている。他方,国税通則法74条の14第2項は,国税に関する行政指導について,行政手続法35条3項の書面交付規定及び同法36条を適用しないと定める。したがって,口頭の行政指導であっても趣旨・内容・責任者を確認して記録すべきであるが,行政指導の書面が常に法的に交付されると一般化することはできない。

連絡を受けたときは,①担当官署・部署・氏名・連絡先,②調査か行政指導か,③対象税目・期間・目的,④求められた資料・データ・期限・提出方法,⑤税務代理人への連絡の有無を記録するのがよい。
これは国税庁が列挙した法定様式ではなく,本記事が事実関係の取り違えを避けるために示す初動の整理である。

初動記録には,①接触方法,②調査又は行政指導という説明,③調査通知の内容・日時,④具体的な質問や指摘とそれに対する回答,⑤誤りの発見・修正判断・提出の各日,⑥資料の所在と担当者を別欄で残すのがよい。
これは実地調査だけを想定した記録ではなく,来署・電話・書面等による確認でも用いることができる実務上の提案である。

2 帳簿と申告の元の状態を保全する

事前通知又は行政指導を受けた後に,実在しない取引資料を作り,帳簿を事実と異なる内容に書き換え,又は応答対象の記録を削除してはならない。
申告又は記帳の誤りに気付いた場合は,元データを保全した上で,誤りの内容,発見日,根拠資料及び修正内容を別に記録するのが安全である。

3 会社・税理士・弁護士の担当と判断の引継ぎ

調査の窓口,事実資料の収集,会計と申告の照合,法的争点の検討及び会社の最終判断について,担当者と期限を最初に共有するのがよい。
以下は連携のための運用例であり,職種ごとに業務を排他的に分ける趣旨ではない。

担当共有・確認する事項会社の担当者取引の事実,原本の所在,調査への回答・提出履歴,意思決定者及び納付資金を確認する。税務を担当する専門家帳簿・証憑と申告の対応,税額計算,修正の要否,調査官の指摘及び代理権限の範囲を確認する。法的争点を担当する弁護士資料と説明の整合性,法的評価,不服申立て・訴訟への移行及び依頼範囲を検討する。共通の管理事項誰が何をいつまでに行うか,未確認事項,提出前の確認者,依頼者の判断及び次の手続への引継ぎを記録する。

税務調査への対応を依頼したことだけで,後の審査請求や訴訟も同じ担当者が受任したとは限らない。
処分通知を受けたときは通知書と受領日を直ちに共有し,担当の追加・変更,委任関係及び期限管理を確定する必要がある。

依頼者の承認は,「提出してよい」という連絡だけでなく,対象の文書名・版,添付資料,提出先及び承認日時と対応付けて残すのがよい。

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小規模宅地等の特例-貸付事業用宅地等の三年要件と例外(AI作成)

第1 三年要件は土地の所有期間を問うものではない第2 特定貸付事業の例外と五棟十室基準第3 相続による承継と購入・贈与の違い1 相続取得した宅地等を新規供用として扱わない特則2 先代の特定貸付事業の期間を後継者の期間とみなす特則3 売主の貸付歴と,贈与に関する留保第4 空室・建替え・再開発と貸付けの継続1 空室期間の短さだけでは判断できない2 建替え前後の継続と追加敷地3 再開発による中断を扱った東京国税局の文書回答第5 買換えで特定貸付事業が途切れる場合第6 経過措置と相続後の要件1 平成30年改正の経過措置は適用期間が限られる2 事業の承継・保有と申告を別に確認する第7 適用判断のために整理する資料第8 出典・参考資料1 法令2 国税庁の通達・解釈運用資料3 裁決4 個別執筆者による解説
第1 三年要件は土地の所有期間を問うものではない

貸付事業用宅地等の三年要件は,土地を三年間所有していなければ適用できないという要件ではない。
原則として問題になるのは,その宅地等が相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供されたかであり,三年を超えて継続している特定貸付事業や,相続による承継には別の取扱いがある。
本記事は,令和8年9月4日を基準として,この原則と例外,空室・建替え・買換えがある場合の判定を説明する。

租税特別措置法69条の4第3項4号は,相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を,原則として貸付事業用宅地等から除外している。
長年所有していた土地でも,貸付けを始めたのが最近であれば,この制限が問題になる。
登記上の取得日だけでなく,誰が,いつから,その宅地等を貸付事業に使っていたかを確認することになる。

以下では,建物又は構築物の敷地であることなどの基本要件を満たす宅地等を前提に,三年要件と主な例外の関係を整理する。
以下は三年制限についての整理であり,相続後の事業継続・保有など,他の要件の充足を前提とする。

貸付けの状況
三年制限との関係

三年を超えて引き続き貸付けに供している
事業的規模に達しない貸付けでも対象となり得る

三年以内に新たに貸付けを始めた
原則として対象外。ただし,特定貸付事業の例外や相続特則を確認する

三年を超えて特定貸付事業を継続し,その事業に新たな宅地等を追加した
追加した宅地等の貸付期間が三年以内でも対象となり得る

最近の相続で取得し,貸付けを継続している
相続取得した宅地等に関する特則を別途検討する

貸付事業用宅地等だけを選択する場合の限度面積は200㎡,減額割合は50%である。
減額するのは宅地等の課税価格への算入額であって,相続税額そのものが半分になるわけではなく,他の小規模宅地等と併用する場合には限度面積の調整がある(同条第1項・第2項)。

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親族間で土地を使わせる場合の課税-使用貸借と相当の地代(AI作成)

第1 親の土地を無償で借りても,借地権の贈与税は原則としてかからない第2 固定資産税相当額を負担する場合も使用貸借に含まれる第3 通常の地代と相当の地代の違い1 相場の地代を払うだけでは権利金の問題が残る2 相当の地代はおおむね年6%を基準とする3 相当の地代に満たない場合と地代を引き下げる場合第4 相続時の土地評価と小規模宅地等の特例1 子の家や貸家があっても,使用貸借地は原則として自用地評価となる2 相当の地代を収受する土地の80%評価3 使用貸借でも居住用の特例を検討できる場合がある第5 同族会社など法人が関係する土地貸借1 個人間の取扱いをそのまま当てはめない2 土地の無償返還に関する届出書の役割3 土地と同族会社株式の評価,裁判例の示す範囲第6 親族間の契約を決める前に確認する事項1 親の所有地か借地か,従前の借地権があるか2 返還条件と毎年の税負担を契約に合わせて確認する3 内縁の配偶者への地代は所得税法56条だけで否認されない第7 出典1 法令2 国税庁の法令解釈通達3 国税庁の制度説明・手続案内4 裁判例

第1 親の土地を無償で借りても,借地権の贈与税は原則としてかからない

親の所有する土地に子が自分の家を建て,権利金も地代も支払わずに使用する場合,国税庁は,土地を使用する権利の価額を零として取り扱っている。
そのため,子に借地権相当額の贈与税は課されない一方,後に親の土地を相続するときは,原則として自用地の価額で評価する(国税庁「親の土地に子供が家を建てたとき」)。

本記事は,令和8年9月28日を基準に,親子その他の個人間で,建物の所有を目的として土地を使わせる場合を中心に説明する。
次の表は,権利金その他の特別な経済的利益の授受がない場合の基本的な違いである。

土地の使わせ方借りる側の取扱い貸す側の土地評価使用貸借使用権は零評価原則として自用地価額通常の地代による賃貸借権利金授受の慣行がある地域では,借地権の贈与が問題となる通常の貸宅地の評価相当の地代による賃貸借借地権設定による利益はないものとして扱う原則として自用地価額の80%

表の賃貸借に関する取扱いは,国税庁の相当の地代に関する通達の趣旨,1項,2項注及び6項による。
法人が当事者となる場合,既存の借地権がある場合及び小規模宅地等の特例については,それぞれ別の条件を確認する必要がある。
親の土地や建物を無償で使わせたことが,相続の際に民法上の特別受益に当たるかについては,実家に独身のまま無償で住み続けた子は特別受益者になるか―同居・別居・土地利用で分かれる判断で説明している。

第2 固定資産税相当額を負担する場合も使用貸借に含まれる

民法593条及び601条は,無償で使用・収益して契約終了時に返還する使用貸借と,賃料を支払う賃貸借を区別している。
親族間でも,契約書の表題だけでなく,地代,権利金及びその他の利益の授受を確かめることになる。

国税庁の「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」1項は,土地の公租公課に相当する金額以下の授受があるにすぎない場合も,使用貸借に該当するとしている。
したがって,子が親にその土地の固定資産税・都市計画税相当額だけを支払っても,そのことだけで借地権の贈与税が生じるわけではない。
以下,この通達を「使用貸借通達」という。

反対に,毎月の地代がなくても,権利金や地代に代わる経済的利益を与えている場合は,同項の使用貸借には該当しない。
税額を少し超えたという数字だけで結論を出すのではなく,土地の使用の対価として何を約束し,何を支払っているかを検討する必要がある。
民法上,固定資産税相当額を超える地代や相場より安い地代が賃料に当たるかを判断した裁判例は,使用貸借と賃貸借の区別-固定資産税程度の支払,相場より安い地代・家賃は賃料かで整理している。

零評価になるのは,この土地使用権である。
親から土地の所有権そのものや建築資金の贈与を受ける場合まで,贈与税がかからないという意味ではない(相続税法,使用貸借通達1項)。

第3 通常の地代と相当の地代の違い

1 相場の地代を払うだけでは権利金の問題が残る

通常の地代とは,その地域の通常の賃貸借契約で支払われる地代である。
借地権設定時に権利金を授受する慣行がある地域で,権利金を払わず,通常の地代だけで借地権を設定すると,借地人が借地権相当の利益を受けたものとして,贈与税が問題となる。

これは,使用貸借の使用権を零評価とする取扱いとは異なる。
「無償では申し訳ないから相場の地代を払う」と決める前に,権利金の取扱いも含めて確認する必要がある(相当の地代に関する通達の趣旨及び2項注)。

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弁護士登録初年度の確定申告-給与・弁護士報酬・源泉徴収票・必要経費(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と確認時点1 本記事が扱う場面2 個人弁護士を前提とすること第2 最初に給与と弁護士報酬を分ける1 給与として受け取る金員2 個人名義で受け取る弁護士報酬第3 弁護士報酬と源泉徴収税額の集計1 源泉徴収は必要経費ではないこと2 支払者ごとに照合すること3 報酬と消費税等の区分第4 売上げを計上する年と預り金1 未収報酬も確認すること2 実費及び預り金を売上げと混同しないこと第5 必要経費と開業前後の支出1 必要経費の基本2 登録費用及び開業費
3 出張・宿泊とポイント利用の資料第6 申告前の実務チェックリスト1 収入資料2 経費及び申告区分第7 関連記事第8 出典

第1 本記事の対象と確認時点

1 本記事が扱う場面

本記事は,弁護士登録をした最初の暦年に,法律事務所等からの給与と個人名義の弁護士報酬が併存する場合の所得区分,源泉徴収及び必要経費を,令和8年9月2日現在の公表資料に基づいて整理するものである。
司法修習給付金を含む司法修習終了年全体の申告は,「司法修習終了翌年の確定申告―修習給付金・給与・弁護士報酬(AIリライト)」を参照されたい。

2 個人弁護士を前提とすること

本記事は,自然人である弁護士の確定申告を対象とする。
弁護士法人の収入及び経費は法人税等の問題となるため,個人弁護士の申告と混同してはならない。

第2 最初に給与と弁護士報酬を分ける

1 給与として受け取る金員

雇用契約等に基づき,勤務時間,勤務場所及び業務遂行について使用者の指揮命令を受けて支給される給与は,給与所得として申告する。
年の途中で勤務先が変わった場合又は退職後に独立した場合も,その年中の全ての勤務先から給与所得の源泉徴収票を集める必要がある。

給与所得の源泉徴収票は,現在,確定申告書への添付又は提示を要しないが,給与収入,源泉徴収税額及び社会保険料等を正確に入力するため保管すべき資料である。
前職分が年末調整に含まれているか,未済であるかも確認する必要がある。

2 個人名義で受け取る弁護士報酬

自己の計算と危険において独立性をもって継続的に行う弁護士業務の報酬は,通常,事業所得の総収入金額として整理される。
もっとも,給与か報酬かは契約書又は振込名義だけで決まるものではなく,指揮命令,勤務場所,報酬の定め方,費用負担その他の実態により判断する必要がある。

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弁護士の独立開業時の税務手続-開業届・青色申告・消費税・インボイス(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と確認時点1 本記事が扱う範囲2 弁護士会上の独立と税務上の開業日を区別すること第2 開業時に最初に決める事項1 事業の形態と納税地2 帳簿と請求書を開業日から整えること第3 個人事業の開業届1 令和8年から提出期限が変わったこと2 提出方法と保存第4 青色申告の承認申請1 提出期限2 控除額と記帳方法第5 従業員等へ給与を支払う場合1 給与支払事務所等の開設届出2 源泉所得税及び納期の特例第6 消費税とインボイスの選択1 新規開業時の原則と例外2 インボイス登録の効果3 請求書と源泉徴収の関係第7 最初の確定申告と地方税1 所得税の確定申告2 消費税,住民税及び個人事業税3 独立した年の予定納税第8 開業時のチェックリスト1 開業前後に確認する事項第9 関連記事第10 出典

第1 本記事の対象と確認時点

1 本記事が扱う範囲

本記事は,個人弁護士が独立開業するときに検討すべき所得税,源泉所得税,消費税,インボイス及び地方税の主な手続を,令和8年9月2日現在の公表資料に基づいて整理するものである。
弁護士法人を設立する場合の法人税,登記及び社会保険の手続は対象外である。

2 弁護士会上の独立と税務上の開業日を区別すること

所属事務所の変更日,事務所登録日,賃貸借契約日及び税務上の事業開始日は,必ずしも同じ日になるとは限らない。
開業日は,自己の計算と危険において継続的に業務を開始した実態を踏まえて決め,最初の受任,広告,設備購入,事務所使用開始その他の資料と整合させる必要がある。

第2 開業時に最初に決める事項

1 事業の形態と納税地

個人事業として開業するのか,弁護士法人を設立するのか,共同事務所で経費を分担するのかを最初に区別する。
個人事業の場合は,納税地,事務所所在地,屋号,開業日及び事業内容を整理し,所轄税務署を確認する。

共同事務所の賃料,人件費,複合機代その他の共通経費は,誰が契約者となり,誰が立替払いをし,どの基準で負担するかを文書化するのが望ましい。
依頼者から受け取る預り金は売上げと区分し,事業用口座,預り金口座及び私用口座を可能な範囲で分ける必要がある。

2 帳簿と請求書を開業日から整えること

青色申告の特別控除又は消費税の仕入税額控除を適切に検討するには,後日まとめて復元するのではなく,開業日から帳簿及び証憑を保存することが重要である。
請求書番号,事件又は顧客の管理番号,報酬,消費税等,源泉徴収税額,実費及び預り金を対応させると,確定申告時の照合が容易になる。

守秘義務の対象となる事件情報を会計ソフト又は外部サービスへ入力するときは,税務上必要な記録と事件情報を分け,サービスの権限,保存場所及び委託先を確認する必要がある。

(続きを読む...)弁護士の独立開業時の税務手続-開業届・青色申告・消費税・インボイス(AI作成)

税務・労働法・社会保険・フリーランス法における労働者性の判定(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 同じ人でも制度ごとに結論が異なる
2 調査の基準時と用語

第2 制度横断の判定地図

1 各制度が問うもの
2 判定を一つのチェック数で決めない

第3 労働基準法・労働契約法・労災保険法

1 条文と使用従属性
2 昭和60年報告の判断要素
3 最高裁判例が示す事実評価
4 令和8年の見直しは未確定である

第4 労働組合法

1 労働基準法より広い概念である
2 個人事業者の外観があっても肯定される

第5 所得税上の給与所得・事業所得・雑所得

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取引相場のない株式(出資)の評価明細書の書き方―令和8年様式の第1表から第7表の3まで(AI作成)

第1 令和8年様式の対象と表番号

1 令和8年様式を使う取得日と提出方法

2 令和8年様式には第8表がないこと

3 この記事が扱う株式と出資の範囲

第2 作成前に集める資料と実際の作成順序

1 各表に必要となる基礎資料

2 表番号順ではない実際の作成順序

3 単位,端数処理及び転記の共通ルール

第3 第1表及び第2表による評価方式の判定

1 第1表の1―取得後の株主,議決権及び株主グループ

2 第1表の2―少数株主判定,会社規模及びLの割合

3 第2表―特定の評価会社に当たるか

第4 一般の評価会社で使う第3表から第5表

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未分割遺産の分割後にする相続税の更正の請求―4か月の期限・要件・裁判例(AI作成)

第1 未分割遺産に関する更正の請求とは何か

1 未分割のまま申告した相続税を分割後に調整する制度

2 最初に4か月の期限を確認する必要がある

第2 相続税法55条・31条・32条・35条の関係

1 相続税法55条による未分割時の計算

2 分割後の減額・増額を処理する三つの経路

3 更正の請求が認められるための五つの確認事項

第3 「分割」と4か月の起算点

1 協議・調停・審判ごとに基準日が異なる

2 一部分割及び取得しないことの確定も対象になり得る

第4 分割後に直せる評価と直せない誤り

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相続税における配偶者の税額の軽減――計算方法,申告要件,未分割遺産及び隠蔽仮装(AI作成)

目次

第1 配偶者の税額の軽減の仕組み

1 制度の概要
2 対象となる配偶者

第2 軽減額の計算方法

1 基本となる計算式
2 1億6000万円と法定相続分の関係
3 法定相続分を超えて取得した場合

第3 適用を受けるための申告

1 税額が0円になる場合の申告
2 申告書への記載と添付書類
3 当初申告要件の廃止と更正の請求

第4 申告期限までに遺産が分割されていない場合

1 未分割財産には直ちに適用されないこと
2 分割見込書と3年以内の分割
3 3年を超える場合の承認申請
4 裁判例が示す期限管理

第5 一部分割,分割のやり直し及び配偶者死亡の問題

1 一部分割がされた場合

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個人事業主の死亡後に従業員へ支払う退職金と相続税の債務控除(AI作成)

目次

第1 結論と本記事の対象

1 支払っただけでは債務控除にならない

2 事業廃止と事業承継で結論が分かれる

第2 相続税法上の判定枠組み

1 相続開始の際に現に存在する確実な債務

2 実際に債務を負担する者

3 退職金請求権の発生根拠

第3 事実関係別の取扱い

1 事業を廃止し,従業員を解雇した場合

2 相続人が事業を承継し,従業員が継続勤務する場合

3 従業員であった相続人が事業主となる場合

4 規程がない場合及び功労加算がある場合

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国税不服審判所――組織,審査請求手続,裁決の効力及び裁判例(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 対象と基準時

2 主な結論

第2 国税不服審判所の法的位置付け

1 国税庁に置かれる特別の機関

2 国税庁長官がした処分との区別

3 行政部内の最終判断

第3 協議団から国税不服審判所への沿革

1 協議団の設置と審判所の発足

2 昭和45年の国会附帯決議

3 平成28年施行の制度改正

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成年被後見人に未納相続税がある場合の延納・納税の猶予・換価の猶予(AIリライト)

第1 本記事が扱う場面と手続選択

1 成年被後見人に未納相続税がある場合

2 検討する順序

第2 最初に相続税法上の延納を確認する

1 延納の要件

2 法定申告期限を過ぎても延納申請が可能な場合

3 物納及び特定物納との関係

第3 病気又は負傷を理由とする納税の猶予

1 成年被後見人であることだけでは足りない

2 必要となる立証資料

3 申請時期と許可判断

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取引相場のない株式の評価に関する有識者会議――国税庁が示した見直しの骨格と論点(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 検討の対象と時点
2 会議の構成と開催状況
3 公表資料の一覧

第2 見直しの契機となった数値

1 会計検査院の令和5年度決算検査報告
2 国税庁による再検証
3 国税庁が示したかい離の要因

第3 現行の評価方式と条文上の根拠

1 相続税法22条と財産評価基本通達
2 株主の区分と会社の規模による評価体系
3 純資産価額から控除する法人税額等相当額

第4 当局が示した見直しの骨格

1 「当局として御意見いただきたい事項」6項目
2 残余利益モデルという候補3 第5回資料が示した見直しの方向性4 残余利益方式(簿価純資産ベース)の設計イメージ5 第6回資料が示した算式,試算及び特定の評価会社

第5 委員の間で見解が分かれている論点

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