第1 準確定申告の対象と最初に確認する事項
1 準確定申告とは
準確定申告とは,所得税の確定申告をすべき人が死亡した場合に,相続人等が被相続人に代わって行う所得税の申告である。
死亡年分については,その年の1月1日から死亡日までに確定した所得金額と税額を計算する。
本記事は,令和8年9月7日現在の日本法を前提として,国内に居住していた人が死亡した場合の所得税及び復興特別所得税を扱う。
消費税の申告,国外転出時課税,非居住者の国際税務及び相続税額の具体的計算は対象外である。
2 最初に四つの日付と資料を固定する
準確定申告の作業では,①死亡日,②各相続人が相続開始を知った日,③被相続人が前年分の確定申告書を提出済みかどうか,④被相続人の死亡当時の納税地を最初に確認する。
期限と対象年分はこの四点によって決まり,提出先も相続人の住所地ではなく,被相続人の死亡当時の納税地を基準に決まる。
次に,給与・年金・事業・不動産・配当・譲渡等の収入資料,源泉徴収税額,予定納税額及び控除資料を集める。
死亡したという事実だけで申告義務が生じるわけではないため,被相続人について通常の確定申告義務があったかを計算できる資料が必要である。
第2 準確定申告が必要な場合と還付だけを受ける場合
1 申告要否は被相続人の所得から判定する
所得税法120条の確定申告義務が被相続人に生じる場合は,相続人等が準確定申告をしなければならない。
事業所得,不動産所得,譲渡所得等があるだけで常に申告義務が生じるわけではなく,各種所得,所得控除,税額控除,源泉徴収税額及び予定納税額を通じて判定する必要がある。
2 給与所得者について確認する基準
国税庁の「給与所得者で確定申告が必要な人」によれば,給与収入が2000万円を超える場合,1か所から源泉徴収対象の給与を受けていて給与・退職所得以外の所得金額が20万円を超える場合,2か所以上から給与を受けて一定の基準を超える場合等は確定申告が必要となる。
20万円の基準は収入金額ではなく,原則として必要経費等を反映した所得金額で判定する。
死亡によって退職した給与所得者は,年の中途でも年末調整の対象となることがある。
したがって,給与所得者については,勤務先から交付された源泉徴収票で年末調整の有無と源泉徴収税額を確認した上で,他の所得を合算して申告要否を判断する。
3 公的年金等の受給者について確認する基準
公的年金等の収入金額が400万円以下で,その全部が源泉徴収の対象となり,公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合は,所得税の確定申告を要しない制度がある。
ただし,源泉徴収の対象とならない一定の外国年金を受給している場合はこの制度を利用できず,所得税の申告が不要でも住民税の申告が必要となることがあるため,年金額だけで一律に判断できない。
4 申告義務がなくても還付申告はできる
源泉徴収税額又は予定納税額が計算上の所得税額を上回るときは,申告義務がなくても還付を受けるための申告ができる。
所得税法125条2項には,同条1項のような4か月の期限が規定されていない。
国税庁の「還付申告」は,一般の還付申告を対象年の翌年1月1日から5年間提出できると説明している。
もっとも,期限内申告が適用要件となる青色申告特別控除等もあるため,還付見込みであっても4か月以内に申告内容を確認するのが安全である。
第3 4か月の期限と二年分の申告が必要となる場合
1 期限は相続開始を知った日の翌日から4か月以内である
所得税法125条1項は,死亡年分の準確定申告について,相続人が相続開始を知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに申告書を提出するよう定めている。
国税庁の「納税者が死亡したときの確定申告」も,申告と納税の期限を相続開始を知った日の翌日から4か月以内としている。
通常は死亡を知った日と死亡日が一致するが,相続人ごとに知った日が異なる場合には,各相続人について起算日を確認する必要がある。
相続税の10か月という期限とは別であるため,相続税申告の準備と同じ日程で考えてはならない。
2 前年分と死亡年分の両方が対象となる場合がある
確定申告義務がある人が,翌年1月1日から通常の確定申告期限までの間に前年分の申告書を提出しないで死亡した場合,所得税法124条により前年分も準確定申告の対象となる。
この場合,前年分と死亡年分の双方について,相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をする。
3 期限を過ぎた場合は放置しない
申告義務があるのに期限を過ぎた場合は,確認できた資料で税額を計算し,できるだけ早く期限後申告と納付を行う。
国税庁の「確定申告を忘れたとき」によれば,期限後申告では申告内容等に応じて無申告加算税が課され,納付日までの延滞税を納付する場合がある。
ただし,申告義務がなく還付を受けるだけの申告まで,4か月を過ぎたことだけで期限後申告になるわけではない。
納付申告,還付申告及び損失申告では期限の扱いが異なるため,まず申告の法的類型を分ける必要がある。
第4 申告する人,複数の相続人及び提出先
1 相続人には包括受遺者を含む
所得税法上の相続人には包括受遺者が含まれるため,相続人又は包括受遺者が準確定申告を行う。
民法上の相続人も包括受遺者もいない場合は,相続財産清算人の確定日を基準とする特別な取扱いがあるため,通常の共同相続の場合とは分けて確認する。
2 相続人等が複数いる場合
相続人等が2人以上いる場合は,連署により一つの準確定申告書を提出できる。
他の相続人等の氏名を付記して各人が別々に提出することもできるが,その場合,提出した相続人等は他の相続人等に申告内容を通知しなければならない。
納付税額又は還付金額は,準確定申告書の付表で各相続人等に配分して記載する。
還付金を相続人代表がまとめて受領する場合は,付表とは別に委任状が必要となる。
3 提出先は被相続人の死亡当時の納税地である
準確定申告書は,被相続人の死亡当時の納税地を所轄する税務署長へ提出する。
相続人代表の現在の住所地を所轄する税務署へ当然に提出するものではない。
第5 必要書類と書き方
1 提出書類と計算資料を区別する
準確定申告では,税務署へ提出又は提示する書類と,金額を計算するために手元で確認・保存する資料を区別する必要がある。
源泉徴収票は申告書への添付又は提示が原則として不要であるが,給与・年金の収入額,源泉徴収税額及び年末調整の有無を確認する計算資料として必要になる。
| 区分 | 主な書類・資料 | 確認点 |
|---|---|---|
| 基本の提出書類 | 所得税及び復興特別所得税の申告書,準確定申告書の付表 | 付表には相続人等の氏名,住所,続柄,相続分,納付・還付額等を記載する |
| 所得計算の資料 | 給与・年金の源泉徴収票,事業帳簿,家賃明細,配当資料,売買契約書等 | 死亡日までに確定した所得と源泉徴収税額を集計する |
| 所得に応じた添付書類 | 青色申告決算書,収支内訳書,申告書第三表又は第四表等 | 所得の種類,申告の種類及び従前の申告方法に応じて選ぶ |
| 控除に応じた添付・保存資料 | 医療費控除の明細書,社会保険料・生命保険料等の控除証明書,寄附金の証明書等 | 死亡日までの支払額と各控除の添付・保存要件を確認する |
| 本人確認関係 | 各相続人等の個人番号確認・身元確認に関する書類 | 書面又はe-Taxの提出方法に応じて現年分の手引きを確認する |
| 還付金の委任 | 委任状 | 複数の相続人等の還付金を代表者が受領する場合に提出する |
必要書類は,被相続人の所得と利用する控除によって変わる。
国税庁の「申告書に添付・提示する書類」及び準確定申告の案内を用い,対象年分ごとに照合する必要がある。
2 所得控除は死亡日までの支払と死亡日の現況で判定する
医療費控除の対象となるのは,死亡日までに被相続人が支払った医療費であり,死亡後に相続人等が支払った医療費を被相続人の準確定申告に含めることはできない。
社会保険料,小規模企業共済等掛金,生命保険料及び地震保険料の各控除は死亡日までに被相続人が支払った額,寄附金控除は死亡日までに支出した特定寄附金を対象とする。
配偶者控除,扶養控除等の適用の有無は死亡日の現況により判定し,控除額の月割計算は行わない。
医療費を死亡後に相続人が支払った場合は,被相続人の準確定申告ではなく,国税庁の「死亡した父親の医療費」が示すように,治療時に生計を一にしていたか等により,支払った相続人自身の医療費控除の対象となるかを別に検討する。
3 申告書と付表を作る順序
①被相続人について死亡日までの各所得と必要経費を集計する。
②死亡日までに支払った所得控除,死亡日の現況で判定する人的控除,税額控除,源泉徴収税額及び予定納税額を反映する。
③通常の申告書様式により税額又は還付額を計算し,氏名欄等は国税庁の準確定申告の記載例に従って記載する。
④付表へ被相続人と各相続人等の情報,相続分,納付税額又は還付金額及び還付先を記載する。
⑤提出方法に応じ,確認書,委任状及び所得・控除に応じた添付書類をそろえる。
遺産分割が終わっていないことだけを理由に,準確定申告の4か月期限が延びるわけではない。
付表の相続分と相続財産価額の記載方法を確認し,申告日までに確定していない事項は当時確認できる前提に基づいて処理する。
第6 書面提出とe-Taxの違い
1 確定申告書等作成コーナーでは作成できない
令和2年分以後の死亡による準確定申告はe-Taxに対応している。
ただし,通常の確定申告書等作成コーナーでは準確定申告書を作成できないため,e-Taxソフト等を利用する。
2 e-Taxで提出する書類と認証
国税庁の「準確定申告のe-Tax対応」によれば,e-Taxでは次のように提出する。
| 条件 | 提出するもの | 形式・留意点 |
|---|---|---|
| 全てのe-Tax申告 | 準確定申告書 | XML形式 |
| 全てのe-Tax申告 | 準確定申告書の付表 | XML形式。相続人が1人でも必要 |
| 相続人等が2人以上 | 準確定申告の確認書 | 各相続人等が内容を確認して署名し,PDF形式で送信 |
| 還付金を代表者が受領 | 委任状 | 該当する各相続人等が署名し,PDF形式で送信 |
相続人代表が送信する場合は,代表者1人の利用者識別番号と電子証明書を使用する。
税理士が代理送信する場合は,税理士と相続人代表の利用者識別番号を使用し,税理士の電子証明書を添付すれば相続人代表の電子証明書を省略できる。
3 提出方法を決める基準
相続人等が複数の地域にいる場合や,期限直前に郵送日程を確保しにくい場合は,e-Taxを選択肢にできる。
もっとも,e-Taxソフトの準備,利用者識別番号,電子証明書,確認書の署名・PDF化等が必要であるため,初めて利用する場合は準備時間も見込む必要がある。
書面提出では,申告書,付表,本人確認関係及び所得・控除に応じた添付書類を確認する。
いずれの方法でも,提出した申告データ,受信通知又は送付記録,計算資料及び各相続人等への通知内容を保存するのが相当である。
第7 令和8年分の準確定申告に固有の注意
1 令和8年11月30日以前に提出する場合
令和8年度税制改正による基礎控除の引上げ,給与所得控除の最低保障額の引上げ及び扶養親族等の所得要件の改正は,令和8年12月1日に施行され,令和8年分以後の所得税に適用される。
国税庁の「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」10頁によれば,令和8年11月30日以前に令和8年分の準確定申告書を提出するときは,提出時点では改正後の控除等を適用できない。
同日前に提出した人は,令和8年12月1日から令和13年12月1日までに更正の請求を行うことにより,改正後の控除等の適用を受けることができる。
ただし,既に提出した準確定申告書の法定申告期限がまだ到来していない場合は,訂正申告書を提出する方法による。
2 令和8年12月1日以後にe-Taxで提出する場合
令和8年12月1日以後に令和8年分の準確定申告書を提出するときは,改正後の基礎控除等を適用する。
同年中にe-Taxソフトを利用する場合は入力欄が改正後の基礎控除額へ完全対応していないため,国税庁Q&A10頁が示す入力方法と,申告書等送信票の特記事項欄への記載方法に従う必要がある。
この取扱いは令和8年分の制度移行に伴うものであり,将来の申告ではソフト及び様式の更新状況を改めて確認する。
令和8年中の死亡に伴う給与又は年金の源泉徴収税額についても,12月の年末調整又は年金支払時の精算を受けていないことがあるため,還付の有無を確認する。
第8 還付金・納付税額と相続税の関係
1 準確定申告の還付金は相続財産になる
準確定申告によって生じる所得税の還付金は,被相続人に帰属する財産として相続税の課税対象となる。
相続税申告を先に作成するときは,還付見込額を財産計上から落とさないようにする。
2 準確定申告の納付税額は債務控除の対象となり得る
被相続人に課され,死亡後に相続人等が納付又は徴収される所得税は,死亡時に税額が確定していない場合でも,相続税の計算上,遺産総額から差し引く債務となり得る。
これに対し,相続人等の責任に基づいて納付することになった延滞税又は加算税は,遺産総額から差し引くことができない。
3 4か月と10か月を一つの工程表で管理する
相続税の申告・納税期限は,通常,被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内である。
準確定申告で確定する還付金又は納付税額は相続税の財産・債務に影響し得るため,4か月の準確定申告を先行工程とし,10か月の相続税申告へ数値を引き継ぐ必要がある。
第9 実務上の確認手順
1 申告までの六段階
①死亡日,相続開始を知った日,前年分の申告状況,被相続人の納税地及び相続人等を確定する。
②勤務先,年金支払者,金融機関,賃借人,証券会社等から死亡日までの所得資料を収集する。
③通常の確定申告基準により,納付申告,還付申告又は損失申告のいずれに当たるかを判定する。
④死亡日までの支払と死亡日の現況に基づいて所得控除等を計算し,申告書と付表を作成する。
⑤書面又はe-Taxを選び,確認書,委任状及び所得・控除に応じた添付書類をそろえる。
⑥4か月以内に申告と納付を行い,還付金又は納付税額を相続税の財産・債務へ反映する。
2 早期に専門家へ確認する場面
①事業所得又は不動産所得があり,帳簿・決算書が未完成である場合,②不動産・株式その他の譲渡所得がある場合,③国外財産又は外国所得がある場合,④相続人間で申告内容又は税額負担に争いがある場合,⑤期限を既に過ぎている場合,⑥令和8年分の改正前後の処理が必要な場合は,早期に税務署又は税理士へ確認するのが相当である。
準確定申告は申告期限が相続税より先に到来するため,資料不足を把握した時点で作業分担と照会先を決める必要がある。
第10 関連記事
通常の確定申告義務,所得控除及び所得税の全体像については,所得税の確定申告に関するメモ書き(AIリライト)を参照されたい。
e-Taxの種類と一般的な利用の流れについては,e-tax(国税電子申告・納税システム)に関するメモ書きを参照されたい。
第11 出典・参考資料
1 法令
① 所得税法2条2項,16条,85条,120条~125条。
2 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料
① 国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」(令和7年4月1日現在法令等)。
② 国税庁「所得税及び復興特別所得税の準確定申告のe-Tax対応について」。
③ 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」(令和7年4月1日現在法令等)。
④ 国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(令和7年4月1日現在法令等)。
⑤ 国税庁「No.2665 年末調整の対象となる人」(令和7年4月1日現在法令等)。
⑥ 国税庁「No.2030 還付申告」(令和7年4月1日現在法令等)。
⑦ 国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」(令和7年4月1日現在法令等)。
⑧ 国税庁「申告書に添付・提示する書類」(令和7年分)。
⑨ 国税庁「所得税及び復興特別所得税の準確定申告書の付表」1頁。
⑩ 国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」10頁。
⑪ 国税庁「No.4126 相続財産から控除できる債務」(令和8年4月1日現在法令等)。
⑫ 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」(令和8年4月1日現在法令等)。
⑬ 国税庁「誤りやすい事例⑦-申告書第11表の付表4関係-」1頁。
⑭ 国税庁「民法上の相続人が不存在の場合の準確定申告の手続」(令和7年8月1日現在の法令・通達等)。
⑮ 国税庁「死亡した父親の医療費」(令和7年8月1日現在の法令・通達等)。