目次第1 この記事が扱う対象と時点第2 国税庁の1,378社試算の対象と前提1 試算の対象2 試算の前提と資料の注記第3 会社規模別の評価額の増減1 現行の申告評価額の中央値に対する増減2 純資産価額を100とした評価水準3 現行の申告評価額以下となる会社の割合第4 現行の評価水準が会社規模で違う理由1 会計検査院の指摘と国税庁の再検証2 規模区分が評価額を分ける仕組み3 規模区分の廃止が大会社の評価額を大きく動かす理由第5 国税庁の試算を読むときの注意点1 中央値の比較であって個々の会社の予測ではない2 還元率・しんしゃく率は仮定であり,次回以降に議論される3 子会社株式等の個別調整は反映されていない4 日本商工会議所の「2倍から5倍近く」とは直接比べない5 経済産業省・中小企業庁の批判第6 自社の評価額がどうなるかを考える手掛かり1 ROEと還元率の関係2 上がりやすい会社と下がりやすい会社3 事業承継税制の期限との関係第7 関連記事第8 出典1 法令・通達2 有識者会議の資料3 その他の公的資料
第1 この記事が扱う対象と時点
国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第6回(令和8年9月16日)の資料によれば,残余利益方式による評価額は,現行の申告評価額の中央値と比べて,大会社で+50.3%~+114.7%,中会社で▲1.9%~+40.2%,小会社で▲31.6%~▲1.9%となる(第6回資料9頁)。
この幅は,しんしゃく率を0.7から1.0まで動かした場合のものであり,還元率8%,加算期間5年という前提も含めて,いずれも試算のための仮定値である。
つまり,見直しによって評価額が上がるのは主に大会社であり,小会社の中央値はむしろ下がる,というのが国税庁自身の試算の示す方向である。
本記事は,この1,378社の試算を中心に,試算の前提,会社規模別の増減,現行の評価水準が規模によって違う理由,試算を読むときの注意点を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日現在であり,第6回会議の議事要旨はこの時点で公表されていない。
有識者会議の全体像と第1回から第6回までの経過は,親記事である取引相場のない株式の評価に関する有識者会議で扱っている。
見直しは,国税庁事務局がたたき台として示した段階にとどまり,決定されたものではない。
第5回会議の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」自身が,「評価水準・税負担の在り方等も含め、最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」と書いている(第5回机上配付資料1頁)。
したがって,本記事の数値は「国税庁案をある仮定の下で当てはめるとこうなる」という目安であり,改正後の評価額を示すものではない。
第2 国税庁の1,378社試算の対象と前提
1 試算の対象
試算の対象は,令和2年分から令和5年分までの相続税及び贈与税の申告のうち,取得した財産に取引相場のない株式がある申告の中から無作為に抽出した評価会社のうち,類似業種比準価額及び純資産価額の両方を算出している評価会社である(第6回資料9頁)。
資料は,これを「会計検査院及び国税庁が実施した実態把握の対象申告データ(4年間分)」と説明している(同頁)。
会計検査院が検査した令和2年分・令和3年分と,国税庁が独自に実態把握した令和4年分・令和5年分を合わせたものである(第1回資料4頁・6頁)。
会社規模別の内訳とROE(自己資本利益率)の中央値は,次のとおりである(第6回資料9頁)。
区分社数ROEの中央値全体1,378社1.8%大会社128社3.9%中会社820社2.1%小会社430社0.6%
大会社・中会社・小会社の社数を足すと1,378社になる。
対象の約6割は中会社であり,大会社は約9%にとどまる(本記事の計算では,大会社9.3%,中会社59.5%,小会社31.2%)。
2 試算の前提と資料の注記
試算の前提として資料が明記しているのは,次の3点である(第6回資料9頁の注記)。
①残余利益方式の評価額は,加算期間5年,還元率8%と仮定したこと
②申告における類似業種比準方式の算出に用いる1株当たりの配当金額(Ⓑ),利益金額(Ⓒ)及び純資産価額(Ⓓ)を使用したこと
③完全子会社株式の修正等の個別調整事項は考慮していないこと
②は見落としやすいが重要である。
国税庁案の算式は,課税時期前5年の正常利益の平均を年利益金額とし(第6回資料6頁・8頁),直前期末の簿価純資産に5年分の残余利益の割引現在価値を加えて,しんしゃく率を掛けるものである(同資料7頁・8頁)。
これに対し試算は,現行の申告書に記載された類似業種比準方式の比準要素を流用している。
したがって,試算は,法人税申告書の数値を基に5年平均の利益を用いる国税庁案の算式どおりに計算したものではなく,手元の申告データで近似したものと理解すべきである。
残余利益方式の算式そのもの,還元率及びしんしゃく率の意味は,姉妹記事の残余利益方式とはで扱う。
(続きを読む...)非上場株式の相続税評価は見直しでどれだけ上がるか――国税庁の1,378社試算と会社規模別の増減(AI作成)