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人身傷害保険金に税金はかかるか―死亡・後遺障害・医療保険金の課税関係(AIリライト)

第1 人身傷害保険金の課税関係の結論

1 最初に区別する4つの事項

人身傷害保険金の課税関係は,①死亡により支払われる保険金か,負傷又は後遺障害により支払われる保険金か,②実際の損害を填補する給付か,定額給付か,③死亡時の保険金請求権が受取人に直接生じる約款か,被保険者の相続財産に属する約款か,④誰が保険料を実質的に負担したかによって異なる。

死亡保険金については,国税庁の平成11年公表取扱いによれば,保険金のうち損害賠償金として認められる部分は非課税であり,それ以外の部分について相続税,所得税又は贈与税の課税関係が生じる。

もっとも,最高裁令和7年10月30日判決は,同判決の対象となった約款に基づく死亡保険金請求権が被保険者の相続財産に属すると判断したため,同様の約款については,従来の公表取扱いをそのまま当てはめることができるかを個別に確認する必要がある。

負傷した被保険者が身体の傷害に基因して受け取る後遺障害保険金,医療保険金及び休業による収益の補償に相当する保険金は,原則として非課税である。

死亡時に定額で支払われる人身傷害定額給付金又は搭乗者傷害死亡保険金は,実際の損害を填補する給付と区別して判定する必要がある。

第2 死亡保険金の課税関係

1 保険金総額から損害賠償金として認められる額を除く

国税庁は,平成11年に公表した文書回答において,人身傷害補償保険の死亡保険金のうち,賠償義務者が本来負担すべき額を,所得税,相続税及び贈与税のいずれについても非課税となる損害賠償金として取り扱っている。

したがって,課税関係を判定する出発点は,自己過失割合そのものではなく,支払保険金の総額から損害賠償金として認められる額を控除した残額である。

(1) 通常の二者間事故

通常の二者間事故では,相手方の責任割合に応じる額が損害賠償金として認められ,被害者側の過失割合に応じる残額が課税対象となることが多い。

もっとも,「被保険者自身の過失割合に相当する部分が常に課税対象になる」と説明すると,次の同乗者事故及び親族間事故を正確に扱えない。

(2) 同乗者事故及び親族間事故

被保険自動車の同乗者が死亡した場合には,同乗車両の運転者又は保有者が本来負担すべき損害賠償額も,損害賠償金として認められ得る。

ただし,死亡した同乗者本人にも過失がある場合又は好意同乗による減額がある場合には,その減額部分を除いて判断する必要がある。

また,被保険者の親族が死亡した事故では,自動車損害賠償保障法16条に基づいて自賠責保険会社に直接請求できる額が,損害賠償金として認められ得る。

これらの取扱いは,国税庁「人身傷害補償保険金に係る所得税,相続税及び贈与税の取扱い等について」に示されている。

2 国税庁の公表取扱いでは保険料負担者によって税目が決まる

国税庁の平成11年公表取扱いでは,保険金請求権者が死亡保険金を取得することを前提として,死亡保険金から損害賠償金として認められる額を除いた残額について,保険料を実質的に負担した者と保険金を取得した者との関係により,次の税目が問題となるとしている。

  • ① 死亡した被保険者が保険料を負担していた場合は,相続税の対象となる。
  • ② 保険金を取得した者が保険料を負担していた場合は,所得税の対象となる。
  • ③ 死亡した被保険者及び保険金を取得した者以外の者が保険料を負担していた場合は,贈与税の対象となる。

保険契約者の名義と,保険料を実際に負担した者とが異なることがあるため,保険証券の契約者欄だけで判断すべきではない。

保険料負担者が一括で死亡保険金を受け取った場合は,一般に一時所得となる。

一時所得は,課税対象となる保険金からその収入を得るために支出した保険料等及び最高50万円の特別控除額を控除し,その残額の2分の1を総所得金額へ算入して計算するが,特別控除額は他の一時所得と共通である。

国税庁「No.1750 死亡保険金を受け取ったとき」は,保険料負担者,被保険者及び受取人の関係ごとに税目を整理している。

3 人身傷害定額給付金及び搭乗者傷害死亡保険金

人身傷害定額給付金又は搭乗者傷害死亡保険金のように,実際の損害額とは別に定額で支払われる死亡給付には,実損填補型の人身傷害死亡保険金と同じ損害賠償金性は認められない。

そのため,受取人が死亡定額給付金を直接取得する約款では,自己過失相当額だけではなく,その全額について保険料負担者に応じた課税関係を判定する必要がある。

もっとも,定額給付金についても,事故に適用される約款により保険金請求権の帰属を先に確認する必要がある。

最高裁平成7年1月30日第二小法廷判決(平成3年(オ)第1038号・民集49巻1号211頁)は,搭乗者傷害死亡保険金が定額給付であることを理由に,遺族の損害額から控除しないと判示した。

同判決は損害賠償額からの控除を判断したものであり,税法上の課税関係を直接判断したものではない。

死亡定額給付金の税務上の取扱いについては,新井宏『税務の専門家も参考にする 相続税質疑応答集 第4版』308頁~310頁が,定額給付金の全額を課税対象となる死亡保険金として説明している。

4 みなし相続財産となる死亡保険金の非課税限度額

保険金受取人が死亡保険金を直接取得し,死亡した被保険者が保険料の全部又は一部を負担していた場合,その保険金は,相続税法3条1項1号により相続又は遺贈によって取得したものとみなされる。

国税庁の平成11年公表取扱いを前提とすると,人身傷害死亡保険金のうち損害賠償金として認められる額を除いた部分が,このみなし相続財産に当たる。

保険金を取得した者が相続人である場合には,みなし相続財産となる死亡保険金について,次の非課税限度額が適用される。

500万円×法定相続人の数

相続を放棄した者自身が取得した死亡保険金には非課税限度額が適用されないが,法定相続人の数を計算するときは,相続放棄がなかったものとして相続放棄者も人数に含める。

相続人以外の者が取得した死亡保険金には,この非課税限度額は適用されない。

養子については,法定相続人の数に算入できる人数に制限があり,複数の保険契約又は複数の受取人があるときは,課税対象となる死亡保険金の合計額を基礎として非課税限度額を配分する。

詳細は,国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」に記載されている。

第3 後遺障害保険金・医療保険金等の課税関係

1 負傷した被保険者が受け取る保険金は原則として非課税である

負傷した被保険者本人が身体の傷害に基因して取得する人身傷害保険金は,所得税法9条1項18号及び所得税法施行令30条1項1号により,原則として非課税である。

この取扱いには,治療費,慰謝料,後遺障害による損害及び休業による収益の補償に相当する給付が含まれる。

事故について被保険者本人に過失があっても,身体の傷害に基因する保険金であることは変わらないため,自己過失割合に応じる部分も原則として非課税である。

2 負傷者と受取人が異なる場合

非課税となるのは,原則として傷害を受けた本人が保険金を取得する場合である。

もっとも,所得税基本通達9-20は,受取人が負傷者の配偶者若しくは直系血族又は生計を一にするその他の親族である場合にも,身体の傷害に基因する保険金として非課税の取扱いを認めている。

これらに該当しない者が固有の受取権に基づいて取得する保険金まで,常に非課税になるわけではない。

3 医療費控除及び必要経費との関係

治療費を填補する保険金は非課税であっても,医療費控除の計算では,その給付の目的となった医療費から控除する必要がある。

ただし,ある治療について受け取った保険金がその治療費を上回っても,その余剰額を他の医療費から控除する必要はない。

この取扱いは,国税庁「No.1700 加害者から治療費,慰謝料及び損害賠償金などを受け取ったとき」に記載されている。

また,事業所得等の必要経費に算入される支出を填補する保険金については,その必要経費を填補する部分が所得税法施行令30条1項の非課税対象から除かれる。

4 後遺障害保険金の未払分を相続人が受け取る場合

被保険者が後遺障害保険金のうち逸失利益の補償部分を定期金で受け取っている途中に死亡し,相続人が未払分の一時金を受け取る場合には,負傷者本人が受け取る保険金と同じ取扱いにはならない。

国税庁は,被相続人が有していた未払保険金請求権を相続人が承継するため,その権利は本来の相続財産として相続税の対象となり,その価額は一時金の額によるとしている。

詳細は,国税庁「人身傷害補償保険の後遺障害保険金を定期金により受け取っていた者が死亡した場合に支払われる一時金」に記載されている。

第4 最高裁令和7年10月30日判決と税務上の取扱い

1 最高裁が判断した保険金請求権の帰属

最高裁令和7年10月30日第一小法廷判決(令和6年(受)第120号・民集79巻7号2794頁)は,自損事故により被保険者が死亡した事案を扱った。

同判決は,約款が保険金請求権者を「被保険者。ただし,被保険者が死亡した場合はその法定相続人」と定めていた場合,死亡した被保険者に係る人身傷害保険金請求権は,被保険者の相続財産に属すると判示した。

また,同判決は,約款に保険金額の調整条項がない限り,被保険者の父母,配偶者又は子が固有の精神的損害を被ったことを理由として,死亡した被保険者本人の精神的損害に係る保険金額を減額しないと判示した。

2 最高裁判決後は約款を確認して税務上の取扱いを判定する

最高裁令和7年10月30日判決が判断したのは,特定の約款の下における保険金請求権の帰属及び保険金額の算定であり,相続税,所得税又は贈与税の課税関係ではない。

したがって,同判決だけを根拠として,自損事故の人身傷害死亡保険金がすべて非課税になると結論付けることはできない。

もっとも,同判決の対象となった約款では,死亡保険金請求権が死亡した被保険者の相続財産に属するため,相続人はその請求権を本来の相続財産として取得することになる。

相続税法12条1項5号の「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額は,同法3条1項1号により相続又は遺贈によって取得したものとみなされる保険金を対象としている。

そのため,死亡保険金請求権が本来の相続財産となる場合にまで,同じ非課税限度額を当然に適用できるわけではない。

国税庁の「No.4111 交通事故の損害賠償金」は「令和7年4月1日現在法令等」の資料であり,平成11年の文書回答とともに,最高裁令和7年10月30日判決後の取扱いを明示したものではない。

最高裁判決後の個別の課税関係については,適用される約款の保険金請求権者条項,保険金の内訳及び保険料負担関係を示した上で,申告前に所轄税務署又は税理士に確認する必要がある。

3 自損事故の人身傷害死亡保険金を全部非課税とする見解

自損事故の人身傷害死亡保険金を全部非課税とする見解を紹介した記事は,最高裁令和7年10月30日判決が自損事故の死亡保険金についても被保険者の損害を填補する給付であることを前提としたことから,平成11年の国税庁公表取扱いの前提が崩れ,自損事故の人身傷害死亡保険金は全額を相続税の課税対象外とすべきであるとの見解を紹介している。
最高裁判決により,少なくとも同判決の対象となった約款について,死亡保険金請求権を法定相続人が直接取得するとの構成は採用できなくなったため,平成11年の国税庁公表取扱いとの関係を再検討する必要が生じたという問題提起には理由がある。
しかし,保険法上,被保険者の損害を填補する給付であることと,相続税法上,相続財産の課税価格に算入されないことは同じ問題ではない。
相続税法11条の2第1項及び12条は,相続又は遺贈により取得した財産の価額を原則として課税価格に算入した上で,非課税財産を列挙しているが,本来の相続財産となる損害填補請求権一般を非課税とする規定はない。
また,国税庁「No.4111 交通事故の損害賠償金」は,被害者の死亡に伴って遺族が直接受け取る損害賠償金は相続税の対象とならない一方,被相続人が生前に取得した損害賠償金請求権が確定している場合は,その請求権を本来の相続財産として相続税の対象にすると説明している。
この説明は人身傷害死亡保険金そのものを扱ったものではないが,損害填補の性質を有することだけで,相続人が承継する請求権が常に相続税の対象外になるわけではないことを示している。
したがって,最高裁判決後の解釈として,自損事故の人身傷害死亡保険金がすべて非課税になった,又は既に納付した相続税について当然に更正の請求が認められると断定することはできない。
実際の申告,更正の請求又は税務署への照会に当たっては,同判決と同一又は類似の約款であるか,保険金の各費目が誰の損害を填補するものか,及び本来の相続財産とみなし相続財産のいずれに当たるかを区別して検討する必要がある。

第5 申告前に確認すべき資料

1 保険会社に確認する事項

死亡保険金の支払案内に「自己過失分」又は「人身傷害保険金」とだけ記載されている場合には,その表示だけで課税額を確定できないことがある。

保険会社には,少なくとも次の事項を確認すべきである。

  • ① 事故に適用される普通保険約款及び特約の名称,版並びに保険金請求権者条項
  • ② 支払保険金の総額及び給付名
  • ③ 実損填補型の保険金と定額給付金の内訳
  • ④ 保険会社が損害賠償金として認めた額
  • ⑤ 総損害額,過失割合及び代位取得した請求権の額
  • ⑥ 同乗者事故又は親族間事故である場合の自賠責保険その他の賠償義務者負担額
  • ⑦ 治療費,休業損害その他の損害項目ごとの填補額

2 約款と保険料の実質的負担者を確認する

人身傷害保険の補償内容及び保険金請求権者は,保険会社及び契約時期によって異なるため,保険証券だけでなく,事故に適用される普通保険約款及び特約も確認する必要がある。

税目を判定する際には,契約者名義だけでなく,保険料の引落口座,家計の負担関係及び複数人による負担の有無から,保険料を実質的に負担した者を確認する必要がある。

第6 関連する記事

人身傷害補償保険では,人傷先行型と賠償先行型,保険代位及び保険金請求に必要な資料を説明している。

保険約款の文言の解釈方法では,人身傷害条項を含む保険約款の解釈原則及び近時の最高裁判例を説明している。

第7 出典

1 法令

2 裁判例

3 国税庁資料

4 文献

  • ① 新井宏『税務の専門家も参考にする 相続税質疑応答集 第4版』法令出版,2022年,308頁~310頁・312頁~313頁