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成年被後見人に未納相続税がある場合の延納・納税の猶予・換価の猶予(AIリライト)

第1 本記事が扱う場面と手続選択

1 成年被後見人に未納相続税がある場合

本記事は,成年被後見人について相続税の納付が困難であり,成年後見人が本人を代理して納付方法を検討する場面を扱う。成年後見人は,本人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について本人を代表するため(民法859条1項),相続税の申告,納付及び猶予申請を後見事務として行うことができる。他方,成年被後見人であること自体は,国税通則法上の納税の猶予の要件ではない。

令和8年法律第45号による成年後見制度の見直しでは,後見及び保佐を廃止し,特定の行為について権限を付与する補助制度に基本的に一元化することとされた。ただし,成年後見制度に関する改正の施行日は公布日である令和8年6月24日から2年6月以内の政令で定める日であり,本記事は改正法施行前の現行制度を前提とする(法務省「民法等の一部を改正する法律案」)。

2 検討する順序

最初に,相続税法上の延納をなお申請できるかを確認する。延納を利用できない場合又は延納だけでは対応できない場合に,病気又は負傷を理由とする国税通則法上の納税の猶予と,生活維持困難を理由とする国税徴収法上の換価の猶予を比較する。この順序にしなければ,法定申告期限を経過したという理由だけで,本来利用できる延納を見落とす可能性がある。

第2 最初に相続税法上の延納を確認する

1 延納の要件

相続税法38条は,相続税額が10万円を超え,金銭で一時に納付することを困難とする事由があり,かつ,納期限まで又は納付すべき日に申請書を提出した場合に,その納付困難額を限度として延納を許可できるものとしている。一般の延納期間は最長5年であり,相続財産に占める不動産等の割合などによっては,より長い期間が設定される。延納中は延滞税ではなく利子税が課される。

延納税額が100万円以下で,かつ,延納期間が3年以下である場合は担保を要しない。それ以外の場合は,国債・地方債,不動産,税務署長が確実と認める保証人の保証その他の適格な担保を提供する必要がある。延納の要件及び担保については,国税庁タックスアンサー「No.4211 相続税の延納」に現行の概要が示されている。

2 法定申告期限を過ぎても延納申請が可能な場合

「相続税の法定申告期限を過ぎたから延納を申請できない」と一律に考えることは正確でない。相続税法基本通達39-1によれば,①期限内申告による相続税は申告期限,②期限後申告書又は通常の修正申告書による相続税は申告書の提出日,③更正又は決定による相続税は通知書が発せられた日の翌日から1か月を経過する日が,それぞれ延納申請期限となる。相続税法31条2項による修正申告には別の扱いがあるため,申告の種類を確認する必要がある。

既に期限内申告を済ませ,延納申請をしないまま当該申告期限を経過した場合には,その申告税額について後から通常の延納を申し立てることはできない。他方,期限後申告,修正申告,更正又は決定によって新たな納付税額が生じた場合には,法定申告期限後であっても前記の申請期限が残ることがある。相続事件に関するメモ書きでも,相続税の延納と担保に関する資料を整理している。

国税通則法11条の「災害その他やむを得ない理由」により,申告又は申請の期限が延長される場合もある。ただし,資金不足だけでは足りず,重傷病その他の本人の責めに帰すことができない事実によって,期限内の申告又は申請ができなかったという直接の関係が必要である。成年被後見人であることだけから期限延長が認められるものではなく,本人又は法定代理人が申請できなかった具体的事情を確認しなければならない。

3 物納及び特定物納との関係

相続税の物納は,延納によっても金銭で納付することが困難な場合に,一定の相続財産を国へ納付する制度である。原則として延納と同様に申請期限の制約があるため,期限経過後の一般的な救済制度ではない。ただし,延納許可後に条件履行が困難となった場合には,申告期限から10年以内の一定の範囲で,分納期限が到来していない税額について特定物納を検討できる。国庫帰属した不動産のその後で説明している相続土地国庫帰属制度は,相続税の物納とは目的及び要件が異なる。

第3 病気又は負傷を理由とする納税の猶予

1 成年被後見人であることだけでは足りない

国税通則法46条2項2号は,納税者又は納税者と生計を一にする親族が病気にかかり,又は負傷した場合に,その事実に基づいて国税を一時に納付できないと認められるとき,申請により納税を猶予できるものとしている。したがって,成年被後見人本人について検討するときも,①病気又は負傷,②そのために生じた医療費その他の不可避的な支出又は損失,③その支出等と相続税を一時納付できないこととの因果関係,④現在の納付困難額を順に確認する必要がある。

「病気がある」「施設に入所している」「成年被後見人である」という事情だけでは足りない。猶予できる金額も未納相続税の全額とは限らず,病気等に基づく支出又は損失と,手元資金・換価容易な財産・通常の生活費を踏まえた納付困難額の範囲で判断される。国税通則法基本通達46条関係12-2及び12-3は,猶予該当事実との因果関係と,一時納付困難の判定を分けて定めている。

2 必要となる立証資料

病気又は負傷については診断書,医療費の領収書,施設費・介護費その他病気等によって支出を余儀なくされた費用の資料を準備する。これに加えて,預貯金,現金,不動産,有価証券,保険その他の財産資料,月次収入,通常の生活費及び今後の支出見込みを示し,一時納付によってどの程度の生活資金が不足するかを具体化する必要がある。国税通則法基本通達46条の2関係も,診断書及び医療費領収書を猶予該当事実の証明書類として例示している。

国税不服審判所平成24年10月29日裁決は,納税者と生計を一にしない母の病気そのものは国税通則法46条2項2号に当たらないとしつつ,母の医療費等を現実に負担した事情について,同項5号の類似事実に当たる範囲と納付困難との因果関係を検討した。同裁決は,滞納が医療費支出より前から存在したという一事だけで因果関係を否定せず,支出額,預貯金及び当面の生活に必要な資金を個別に算定しており,申請時の資料の具体性が重要であることを示している。

3 申請時期と許可判断

病気等を理由とする国税通則法46条2項の納税の猶予は,後述する申請による換価の猶予のような「納期限から6か月以内」という申請期限を設けていない。国税庁税務大学校の『国税通則法(基礎編)令和8年度版』78頁は,猶予該当事実が生じた後は,納期限の前後又は滞納処分開始の有無を問わず申請できると説明している。ただし,申請しただけで徴収手続が当然に停止するわけではないため,事情が判明した段階で所轄税務署の徴収担当へ早期に相談する必要がある。

納税の猶予は,要件該当によって当然に発生するものではなく,税務署長等の許可を要する。名古屋地方裁判所平成25年4月26日判決・平成23年(行ウ)第71号は,国税通則法46条2項に基づく猶予の許否について税務署長等に一定の裁量があることを前提に,提出された帳簿,原資料及び納付能力調査の内容を具体的に審査している。同判決は病気又は成年後見の事案ではないが,財産・収支資料に基づく許可判断の性質を示すものとして参考になる。

第4 生活維持困難を理由とする換価の猶予

1 申請による換価の猶予

国税徴収法151条の2は,国税を一時に納付すると事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあり,納税について誠実な意思があると認められる場合に,申請による換価の猶予を認めている。病気に基づく医療費等の支出との因果関係は要件ではないため,成年被後見人の生活費・施設費・介護費を確保すると相続税を一時納付できないという場面では,国税通則法上の納税の猶予より直接的に適合することがある。

申請は原則として対象国税の納期限から6か月以内に行い,対象国税以外の国税を滞納していないこと,納税について誠実な意思があること及び原則として担保を提供することが必要である。猶予期間は1年以内の必要最短期間であり,原則として各月の分割納付となる。国税庁「猶予の申請の手引」は,申請要件,財産・収支の算定方法及び申請書の記載方法をまとめている。

2 税務署長の職権による換価の猶予

納期限から6か月を経過して申請による換価の猶予を利用できない場合や,他の国税の滞納がある場合でも,国税徴収法151条1項の職権による換価の猶予が検討されることがある。ただし,同項は納税者に許可処分を求める申請権を与えた規定ではないため,「職権猶予を申請できる」とは表現できない。成年後見人は,所轄税務署の徴収担当に本人の財産,収支,生活状況及び納付計画を説明し,職権による換価の猶予を含む対応を相談することになる。

3 納税の猶予との選択

病気又は負傷に伴う支出と納付困難との因果関係を資料で示せる場合は,国税通則法46条2項2号の納税の猶予を先に検討する。同号の猶予では,猶予期間に対応する延滞税が原則として全額免除されるためである。病気等との因果関係は示しにくいが,一時納付によって本人の最低限の生活費を確保できなくなる場合は,申請による換価の猶予を検討する。申請期限を過ぎている場合は,職権猶予を含めて税務署に相談する。この分岐は,制度名ではなく,証明できる事実と申請時点によって決まる。

第5 猶予期間,分割納付及び担保

1 1年及び2年は上限である

納税の猶予及び換価の猶予の期間は,いずれも原則として1年以内であり,申請者の財産及び収支からみて最も早く完納できる期間に限られる。1年間が当然に認められるわけではない。猶予額は,通常,納付能力に応じて合理的な額に分割されるが,病気等により資力が著しく低下している場合には,毎月均等の分割以外の計画が定められることもある。

当初の猶予期間内に完納できないやむを得ない理由があり,期間終了前に延長申請をして許可された場合は,当初期間と合わせて最長2年となる。当初から1年超を要すると見込まれ,資力がおおむね当初の見込みどおり推移している場合も延長理由となり得るが,自動的に2年間の分割納付となるわけではない。延長申請には,国税庁「納税の猶予期間の延長」の申請書を用いる。

2 担保が不要となる場合

国税通則法46条5項は担保を原則とし,国税徴収法152条3項及び4項は同項を換価の猶予に準用するが,①猶予税額が100万円以下である場合,②猶予期間が3か月以内である場合,③担保を提供できない特別の事情がある場合には,担保を要しない。したがって,生活維持への著しい支障を立証しなければ常に無担保にならないわけではなく,まず金額及び期間による例外を確認する必要がある。

国税通則法基本通達46条関係14は,特別の事情として,担保適格財産又は適当な保証人がない場合,担保余力がない場合,担保を徴すると事業継続又は生活維持に著しい支障を与える場合を例示している。これは担保を徴しないための判断であり,病気等の猶予該当事実,納付困難及び因果関係という納税の猶予自体の要件に代わるものではない。

3 居住用不動産に担保権を設定する場合

成年被後見人の居住用不動産に抵当権を設定して担保を提供する場合は,税務上の担保要件とは別に,民法859条の3による家庭裁判所の許可が必要である。対象には,現在居住している不動産だけでなく,施設入所前の住居など,将来本人が居住する可能性のある不動産が含まれることがある。裁判所「成年被後見人等の居住用不動産の処分についての許可」は,抵当権設定も許可対象となり,許可を得ない処分は無効になると案内している。

家庭裁判所の許可には審理期間を要する可能性があるため,税務署への申請期限直前になってから担保方法を決めるべきではない。無担保事由の有無,預貯金等の別担保,保証人及び居住用不動産の順に検討し,必要であれば税務署と家庭裁判所の手続を並行して準備する。

第6 猶予が認められた場合の効果と取消し

1 督促,差押え及び換価

国税通則法48条1項により,納税の猶予中は,猶予額に対応する国税について新たな督促及び滞納処分をすることができない。ただし,交付要求は除かれる。既に差し押さえられた財産は猶予許可だけで当然に解除されず,納税者の申請に基づき税務署長等が解除できるという扱いである。差押解除を求める場合は,国税庁「納税の猶予に伴う差押解除」の申請手続を別に確認する必要がある。

換価の猶予では,差押財産の換価が猶予され,必要があると認められる場合には差押えの猶予又は解除が行われることがある。いずれの制度でも,申請書を提出したというだけで,既存の差押えが消滅するわけではない。

2 延滞税

病気又は負傷を理由とする国税通則法46条2項2号の納税の猶予では,国税通則法63条1項により,猶予期間に対応する延滞税が原則として全額免除される。これに対し,換価の猶予では猶予期間に対応する延滞税の一部が免除される。猶予の類型により免除範囲が異なるため,「猶予されれば延滞税がなくなる」と一括して説明することはできない。

3 取消し及び計画変更

分割納付を履行しない,新たな国税を滞納する,増担保又は担保変更の求めに応じないなどの事情が生じれば,猶予が取り消され,又は期間が短縮されることがある。他方,やむを得ない事情によって分割納付が困難になったときは,放置せず,分割納付計画の変更又は猶予期間の延長を期間内に相談する必要がある。猶予許可は未納税額の免除ではなく,許可条件に従って完納するまでの徴収緩和措置である。

第7 成年後見人が確認・準備する事項

1 最初に確認する事実

成年後見人は,①相続税額が生じた申告又は処分の種類,②申告書提出日,通知書発出日及び納期限,③延納申請の有無,④病気又は負傷の時期及び医療・介護支出,⑤現預金その他の換価容易な財産,⑥毎月の収入及び本人の生活に不可欠な支出,⑦他の国税滞納,⑧差押えの有無,⑨担保候補となる財産を確認する。この確認により,延納,納税の猶予,申請による換価の猶予及び職権猶予のうち,現実に検討できる制度が絞られる。

2 申請書と添付資料

国税庁「猶予の申請の手引(令和8年4月1日現在)」27頁~28頁によれば,病気等を理由とする納税の猶予では,①納税の猶予申請書,②猶予該当事実を証明する診断書・医療費領収書等,③財産・収支資料,④必要な場合の担保関係書類を提出する。猶予を受けようとする金額が100万円以下なら財産収支状況書,100万円を超えるなら財産目録及び収支の明細書を使用する。

申請書には,「成年被後見人である」「病気である」とだけ記載せず,病気等によっていつ,何に,いくら支出し,その支出と現在の財産・収支に照らして,未納相続税のうちいくらを一時納付できないのかを記載する。将来の施設費・介護費等を見込む場合は,契約書,請求予定,料金表その他の算定根拠を付け,分割納付可能額と整合する月次収支表を作成する。

3 実務上の進め方

最初の相談時には,納税通知書・申告書,預貯金通帳,直近の収支及び医療費等の資料を用意し,所轄税務署の徴収担当に延納申請期限と猶予制度の適用可能性を確認する。次に,利用可能な制度の申請書,財産・収支資料及び証明資料を作成し,必要最短期間の納付計画を提示する。居住用不動産への担保設定が必要となる場合は,家庭裁判所の許可の見込み及び所要期間を確認する。

資料を提出しても,猶予該当事実との因果関係又は納付困難額を説明できず,税務署から追加資料を求められた場合は,何を証明するための資料かを確認して補充する。本人の財産から完納しても生活維持に支障がないことが明らかになった場合は,猶予許可を前提にせず,資産の任意売却その他の納付方法を検討する必要がある。

他方,資産・収支を精査しても実行可能な納付計画を立てられず,滞納処分の執行等をすることができる財産がない場合,又はその執行等によって本人の生活を著しく窮迫させるおそれがある場合には,国税徴収法153条1項1号又は2号による滞納処分の停止も検討する。国税庁の国税徴収法基本通達153-5は,停止を申請に基づかない職権処分としているため,成年後見人は,財産・収支及び生活状況の資料を示して,所轄税務署に職権による対応を求めることになる。生活窮迫を理由として停止した場合,同条3項により,その停止に係る国税について既にした差押えは解除しなければならない。

第8 資産別の相続税納税猶予との区別

「相続税の納税猶予」という名称は,農地等,非上場株式等,山林,医療法人の持分,個人の事業用資産又は特定美術品について,租税特別措置法が定める猶予・免除制度にも用いられる。これらは,特定資産の承継,継続保有又は事業継続等を条件とする特例であり,未納相続税について徴収を緩和する国税通則法及び国税徴収法上の猶予とは別制度である。

本記事が扱うのは,成年被後見人について既に納付すべき相続税があり,成年後見人が延納又は徴収手続上の猶予を検討する場面である。農地又は非上場株式等を相続した事案では,申告期限までに行う資産別特例の適用手続を別途確認しなければならない。

第9 出典・参考資料

1 法令

2 裁判例・裁決

3 国税庁及び裁判所の資料

4 文献

  • ①成田一正・岡田洋介編『目的別 相続対策 選択ガイドブック』新日本法規出版,令和3年,209頁~214頁
  • ②額田洋一『成年後見実務マスター―後見事務,後見監督人,任意後見,後見登記等―』新日本法規出版,令和5年,221頁及び282頁
  • ③酒井克彦『附帯税の理論と応用』日本法令,令和6年,57頁~58頁