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従業員から特別徴収した住民税に関するメモ書き(AIリライト)

第1 特別徴収制度の総論

1 制度の趣旨

個人住民税(道府県民税及び市町村民税の所得割及び均等割)は,本来,納税義務者本人が納付書等により納付する普通徴収の方法によるのが原則である。もっとも,給与所得者については,事業主(給与支払者)が所得税の源泉徴収と同様の方法で毎月の給与から住民税を天引きし,これを従業員に代わって市町村に納入する特別徴収の方法によることとされている。給与から天引きした税額を事業主が一時的に保管して納入するという仕組み自体は,賃金の全額払いの原則(労働基準法24条1項本文)に反するようにもみえるが,同項ただし書は「法令に別段の定めがある場合」には賃金の一部を控除して支払うことができると定めており,特別徴収は地方税法という法令に基づく控除であるから,労使協定を要することなく適法に行うことができる。

なお,本稿は,事業主が負担する特別徴収義務者としての実務を扱うものであり,個人事業主本人が負担する住民税の取扱いについては別稿「個人事業主本人の住民税に関するメモ書き」を,個人事業主の税金・労働保険及び社会保険全般については別稿「個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き」を,それぞれ参照されたい。

2 法的根拠となる条文

個人の市町村民税の徴収は,特別徴収の方法による場合を除き普通徴収の方法によらなければならないとされており(地方税法319条1項),給与所得者については,前年中に給与の支払を受けた者であり,かつ当該年度の初日において給与の支払を受けている者を対象として,特別徴収の方法によって徴収するものとすると定められている(同法321条の3第1項本文)。この特別徴収を実施するため,市町村は,所得税法183条により源泉徴収義務を負う給与支払者を特別徴収義務者として指定し,これに徴収させなければならない(同法321条の4第1項)。

大阪市の案内が「事業主や従業員等の意思で特別徴収するかどうかを選択することはできません」と説明するとおり,この指定は市町村の羈束的な義務であって,事業主・従業員のいずれの意思によっても左右されない。大阪府の案内によれば,大阪府は,平成30年度から,府内全43市町村において,原則として法定要件に該当するすべての事業主を特別徴収義務者に指定し,特別徴収を徹底する取組みを行っている。

3 特別徴収の対象となる従業員の範囲と年度途中の切替え

特別徴収の対象となる従業員等は,毎年4月1日現在に在職するすべての従業員等であり,前勤務先など他の給与支払者から前年中に支払を受けた給与を含めて,前年中の給与に対する個人住民税を特別徴収することになる。したがって,特別徴収義務者は,給与支払報告書についても適切に特別徴収の対象として提出する必要がある。

これに対し,4月1日以後に新たに雇用した従業員等については,納期限が過ぎていない普通徴収税額があっても,特別徴収切替届出(依頼)書を提出しない限り,翌年5月までの間は住民税の特別徴収をする必要がない。もっとも,同届出書を提出すれば,年度の途中であっても特別徴収に切り替えることができる。

4 森林環境税との一体徴収

令和6年度から,国税である森林環境税(年額1,000円)が個人住民税均等割と同じ枠組みで徴収されるようになった点に注意を要する。地方税法319条2項は,市町村が個人の市町村民税を賦課徴収する場合には,森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律に特別の定めがある場合を除き,個人の道府県民税及び森林環境税を併せて賦課徴収するものと定め,同法8条1項も,森林環境税に係る徴収金を市町村民税・道府県民税に係る徴収金と併せて納付・納入しなければならないと定めている。森林環境税は,東日本大震災の復興財源として平成26年度から令和5年度まで臨時的に上乗せされていた年額1,000円の均等割加算が終了したのと入れ替わりに導入されたものであり,特別徴収義務者にとっては,従来「住民税」として天引きしていた金額の内訳に国税である森林環境税が含まれることになった,という理解で足りる。この結果,現在の大阪市の案内でも,特別徴収の対象は「市民税・府民税・森林環境税」と三税一体で表記されている(制度の背景は総務省の解説を参照)。

5 特別徴収の対象外にできる場合

地方税法321条の3第1項は,支給期間が1月を超える給与のみの支払を受けているなど,特別徴収の方法によって徴収することが著しく困難であると認められる者を対象外とすることを認めている。大阪市大阪府は,この除外事由を実務上次の4類型に整理している。
① 前年中の退職者又は給与支払報告書を提出した年の5月31日までの退職予定者
② 給与が少なく,住民税を特別徴収しきれない者
③ 給与の支払期間が不定期の者(例えば毎月給与が支払われない場合)
④ 他の給与支払者から既に特別徴収されている者(いわゆる乙欄適用者)

これらに該当する場合であっても自動的に普通徴収となるわけではなく,給与支払報告書の提出時に普通徴収切替理由書(兼仕切紙)を添付して申し出る必要がある。

第2 特別徴収税額の通知及び納入

1 通知の時期と方法

市町村は,特別徴収の方法によって個人住民税を徴収する旨を,特別徴収義務者及び納税義務者の双方に通知しなければならない(地方税法321条の4第1項後段)。この通知は,当該年度の初日の属する年の5月31日までに行わなければならない(同条2項)。実務上は,「給与所得等に係る市民税・府民税・森林環境税 特別徴収税額の決定・変更通知書」として,特別徴収義務者用と納税義務者用の2種類が送付され,特別徴収義務者は,納税義務者用の通知書を,個人情報保護のためのシールを剥がさずに速やかに従業員へ配付しなければならない。特別徴収税額がない従業員についても同様に通知書が作成される。

2 電子データによる通知の受け取り

給与支払報告書を電子申告(eLTAX)で提出した特別徴収義務者は,特別徴収税額の決定・変更通知書(特別徴収義務者用・納税義務者用のいずれについても)を,書面によらず電子データで受け取ることを選択できる。この場合,地方税関係手続用電子情報処理組織を使用し,地方税共同機構を経由して電子データが送信され,書面による送付は行われない(地方税法321条の4第7項から第11項まで)。大阪市の案内によれば,eLTAXは給与支払報告書と源泉徴収票を市町村・税務署へ同時提出でき,全市町村への特別徴収税額の納入も一括で行えるため,事務負担の軽減に資するとされている。

3 納入の期限

特別徴収義務者は,通知された特別徴収税額の12分の1の額を毎月の給与支払の際に徴収し,徴収した月の翌月10日までに市町村に納入しなければならない(地方税法321条の5第1項)。特別徴収税額が均等割額に相当する金額以下であるときは,最初に徴収すべき月にその全額を徴収し,同様に翌月10日までに納入する。

第3 特別徴収税額の納期の特例

給与の支払を受ける従業員等が常時10人未満である特別徴収義務者は,納入すべき市町村の長の承認を受けたときは,毎月の納入に代えて,6月から11月までの分を12月10日までに,12月から翌年5月までの分を翌年6月10日までに,年2回にまとめて納入することができる(地方税法321条の5の2)。東京都主税局の案内が説明するとおり,この納期特例は,特別徴収した税額を天引きしなくてよいという制度ではなく,毎月の給与からの差引き自体は通常どおり行い,天引きした税額の納入のみを半年ごとにまとめて行うことができるにとどまる点に注意を要する。適用を受けるには,特別徴収義務者が承認申請書を市町村へ提出して承認を受ける必要があり(申請書の様式は例えば池田市の案内を参照),承認後に従業員が常時10人以上となるなど要件を満たさなくなった場合には,その旨の届出が必要になる。

第4 従業員が退職等をした場合の取扱い

1 給与所得者異動届出書の提出

従業員が転勤,退職,休職,死亡等により給与の支払を受けなくなった場合,特別徴収義務者は,異動があった月の翌月10日までに,従業員の住所地の市町村へ「給与所得者異動届出書」を提出しなければならない。この届出がされないと,特別徴収義務が形式上継続したものとして扱われ,督促状が送付されることがある。転職者について前職の給与支払者から異動届出書の写しが送付されてきた場合は,転職先が残りの欄を記入して提出する。

2 退職時期による一括徴収の要否

給与の支払を受けなくなった場合,原則として,その事由が発生した月の翌月以降の分については特別徴収の義務を負わなくなる(地方税法321条の5第2項本文)。もっとも,退職等の時期によって扱いが異なるため,届出書の提出とあわせて一括徴収の要否を確認する必要がある。

(1) 1月1日から4月30日までに退職した場合

翌年1月1日から4月30日までの間に退職した場合は,本人の申出の有無にかかわらず,その年の5月31日までに支払われる給与又は退職手当等から,未徴収の特別徴収税額の全額を一括して徴収しなければならない(地方税法321条の5第2項ただし書)。ただし,支払われる給与又は退職手当等の額が未徴収税額に満たないときは,その範囲内で徴収すれば足りる。この一括徴収を失念すると,市町村への納入義務違反となりうる点に留意する必要がある。

(2) 6月1日から12月31日までに退職した場合

6月1日から12月31日までの間に退職した場合は,一括徴収は任意である。従業員本人からの申出又は了解があれば,退職時に支払う給与又は退職手当等から一括して徴収することができるが,申出がなければ,残りの税額は普通徴収に切り替わり,従業員本人が直接納付することになる。

3 退職手当(退職金)自体に課される住民税の特別徴収

以上で述べた特別徴収は,あくまで給与所得に係る住民税についてのものであり,退職手当等(退職金)を支給する場合には,これとは別に,退職所得に係る住民税を分離課税として特別徴収する必要がある(地方税法328条以下)。給与所得の場合と異なり,退職所得に係る分離課税の所得割は,特別徴収の方法によることが法律上義務付けられており(同法328条の4),普通徴収による余地はない。また,退職手当等の支払をする者は,市町村への個別の届出を要することなく,法律上当然に特別徴収義務者となる(同法328条の5第1項)。

税額は,退職者から提出を受けた「退職所得の受給に関する申告書」(所得税の同申告書と兼用の様式)に基づき,課税退職所得金額に税率を乗じて算定する。税率は,市町村民税分が100分の6(同法328条の3),道府県民税分が100分の4(同法50条の4)であり,合計10分の1となる。特別徴収義務者は,退職手当等の支払をする際に税額を徴収し,徴収の日の属する月の翌月10日までに納入申告書を提出して市町村に納入しなければならない(同法328条の5第2項)。新名貴則『新版 退職金をめぐる税務』(清文社,2022年)49頁~60頁が実務の流れとして整理するとおり,退職者本人に対しては,退職日から1か月以内に,所得税分の源泉徴収票と住民税分の特別徴収票を一体の様式で交付する必要がある。

第5 給与所得等以外の所得に係る住民税の納付方法の選択

給与所得者に給与所得以外の所得(事業所得や譲渡所得等)がある場合,その所得に係る所得割額の徴収方法を選択することができる(地方税法321条の3第2項・第4項)。豊田市の案内が説明するとおり,所得税の確定申告書には,給与所得以外の所得に係る住民税の徴収方法を記載する欄が設けられており(地方税法施行規則2条の3第2項第2号),特別徴収を希望しない場合には「自分で納付」の欄にチェックを付けることで,普通徴収を選択できる。この欄に何も記載しない場合は,給与所得に係る特別徴収税額に給与所得以外の所得割額が加算されて特別徴収されることになるため,従業員に副業等がある場合には,この選択欄の記載について周知しておくことが望ましい。

第6 特別徴収した税額を納入しなかった場合の帰結

1 地方税法上の罰則

特別徴収義務者が,滞納処分の執行を免れる目的で財産を隠蔽し,若しくは損壊し,又は市町村の不利益に処分するなどの行為をしたときは,3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するとされている(地方税法332条1項)。この罰則は,あくまで滞納処分の執行を免れる目的での財産の隠蔽等を処罰するものであり,特別徴収税額を単に納入しなかったという事実だけで直ちに適用されるものではない点に注意を要する。

2 破産手続における取扱い

特別徴収義務者である会社が破産した場合,未納入の特別徴収税額を含む租税債権は,破産手続開始当時,まだ納期限が到来していないもの又は納期限から1年を経過していないものは財団債権として取り扱われ(破産法148条1項3号),それ以外のものは優先的破産債権として一般の破産債権に優先する(同法98条1項)。特別徴収義務者としては,天引きした税額を速やかに納入することが,従業員との関係のみならず,会社の資金繰りが悪化した場合の租税債権の扱いという観点からも重要である。

出典

法令

公的機関のウェブサイト

文献

  • 新名貴則『新版 退職金をめぐる税務』(清文社,2022年)49頁~60頁,71頁