メインコンテンツへスキップ
       

入札しない卸業者も談合の当事者になるか―商流・情報調整,課徴金及び法人税務(AI作成)

入札資格がなく,自社で入札していない卸業者でも,供給予定者や価格を調整し,必ず自社を通して商品を販売する取決めに参加していれば,入札談合の当事者として責任を問われ得る。卸売差益が小さいことは,課徴金を差益だけで計算できる理由にはならない。本記事は,会社の法務・営業・経理担当者と,その会社を支援する弁護士・税理士が確認する事項を整理する。

第1 入札資格ではなく,合意と実際の商流を調べる

1 直接の入札者だけが問題になるわけではない

独占禁止法2条6項の不当な取引制限は,事業者が共同して相互の事業活動を拘束し,公共の利益に反して一定の取引分野の競争を実質的に制限することをいう。同法3条はこれを禁止している。契約書への署名や,競争者同士の直接の会合だけで判断するものではない。第三者を通じた意思の連絡や,供給予定者を決めて他社が協力する仕組みも検討対象になる。

卸業者については,情報を誰から集め,誰へ伝え,受注希望の重複を誰が調整したかを調べる。さらに,メーカーが落札業者へ直接販売できたのか,必ず卸業者を経由する取決めがあったのか,卸業者自身がどの販売条件に従っていたかを確認する。売上げや利益を得たという事実だけで,共同の合意への参加を認定することはできない。

2 本町化学工業事件の東京高裁判決

東京高裁令和6年10月16日判決(令和4年(行コ)第283号)は,活性炭の供給調整に関する卸業者の控訴を棄却した。判決は,受注者の決定と卸業者を経由する商流の取決めを含めて検討し,その卸業者が基本合意の対象となる取引の一部を自ら行っていたことを重視している(第3の2(1)~(5))。

この事件では,メーカーが受注者へ直接供給するか,卸業者を介して供給するかという選択も制限されていた。判決は,受注者へ供給する取引段階では卸業者とメーカーの競争関係を認めている。したがって,「入札者でない」「メーカーと同業でない」という説明だけでは足りず,どの取引段階の競争が制限されたかを調べる必要がある。

また,メーカーの供給力が強くても,卸業者が情報を一元管理し,希望の集約,予定者の提案・調整,了解の取得等を行った事情から,単なる連絡役やメーカーの手足との主張は退けられた。あらゆる仲介・取次行為を違法とする判決ではない。合意の内容と各社の関与を個別に確認することが必要である。

3 販売業者の責任も別に判断する

販売業者についても,入札名義と法人格だけで共同の合意への参加を決めない。独立して顧客や価格を決めていたのか,調整の内容を認識して他社との歩調を合わせたのか,単に指定価格を提出して一定率の手数料を受けていたのかを区別する。「指示に従った」という説明も,当然の免責理由にはならない。メール,価格承認の履歴,取引契約,請求書を照合することが有用である。

第2 課徴金は利益ではなく,法定の算定基礎から計算する

1 卸売差益と売上額を取り違えない

対価に係る入札談合等は,独占禁止法7条の2の課徴金対象となる。基本となるのは,対象商品・役務について法令に従って算定する実行期間の売上額又は購入額等である。粗利益や営業利益に率を掛ける制度ではない。密接関連業務の対価や,供給しないこと等に関して得た財産上の利益が問題になる場合もある。

例えば,課徴金の算定対象となる卸業者自身の売上額が10億円で,基本率10%,主導的役割による割増のみが適用され,減免等がないという前提なら,10億円×10%×1.5=1億5000万円となる。売上額の対象範囲,控除,期間,適用率は先に確定する必要があり,企業の総売上げに機械的に掛けるものではない。

2 旧法の卸売業の率を流用しない

公正取引委員会の課徴金制度の説明では,不当な取引制限の算定率は10%,違反事業者及びグループ会社が全て中小企業に当たる場合は4%とされている。卸売業という業種だけで,旧制度の低い算定率を当てはめない。古い事件には経過措置が関係するため,行為期間と適用法を確認する。

同説明では,繰返し又は主導的役割の場合はそれぞれ1.5倍,両方がある場合は2倍とされている。二つの1.5を掛けて2.25倍とするものではない。

3 主導的役割の要件を事実と対応させる

現行の独占禁止法7条の3第2項は,他社の求めに応じた継続的な価格・取引相手等の指定(2号)と,違反行為を容易にする重要な行為の類型(3号)等を定めている。3号ロは,自己の取引だけの指定を除き,他社の違反行為の実行としての事業活動について指定する行為を扱う。調整役という肩書だけで割増を決めず,指定の対象,継続性,情報の集中,調整の内容を条文に沿って検討する。

前記高裁判決の割増の判断は,旧法7条の2第8項2号に関するものである(第3の2(6))。旧条文の番号や課徴金率を現行案件へそのまま置き換えることはできない。

第3 離脱の意思と,調整が止まった事実を残す

一度だけ独自価格で入札したことと,基本合意から離脱したことは同じではない。弁護士は,離脱の意思が他の参加者へ明確に伝わったか,その後の受注・価格決定が独立しているかを時系列で確認する。一社が離脱しても,残りの参加者の取決めが当然に終わるわけではない。

会社の初動としては,法務責任者と弁護士の下で,問題となる情報交換・価格指示を停止し,既存のメール,チャット,入札表,契約書,請求書,価格決裁記録を保存することが有用である。離脱の通知方法と内容は,公正取引委員会への報告・課徴金減免制度の検討も含め,速やかに弁護士と決める。競争者と証拠の扱いや説明内容を相談したり,通知と称して今後の入札価格を伝えたりしない。

これは実務上の対応案である。個々の事案の終期は,通知の存在だけでなく,合意による拘束と競争制限的活動が実際に解消したかによって判断する。立入検査があった日を自動的に終期とすることもできない。

第4 法人税務では課徴金と損害賠償金を分ける

1 課徴金と延滞金は損金不算入

法人税法55条5項3号により,内国法人が納付する独占禁止法の課徴金及び延滞金は損金不算入となる。会計で費用計上した場合でも,法人税申告では加算調整が必要になる。粗利益が小さかったことや,課徴金の支払資金を借入れたことによって,課徴金自体が損金になるわけではない。

経理担当者と税理士は,納付命令,計算資料,納付書,費用計上の仕訳と申告調整を照合する。会計処理の時期と,税務上の損金算入の可否は分けて扱う。

2 損害賠償金は計上年度も確認する

被害者への民事上の損害賠償金は,行政上の課徴金とは別の支出であり,課徴金の損金不算入規定だけで処理しない。他方,「損害賠償金」という名称だけで,支払った年又は引当金を計上した年に当然に損金算入できるともいえない。法人税法22条3項等に基づき,支出の性質と債務の確定を確認する。

法人税基本通達2―2―12・2―2―13では,費用の債務確定について,期末までの債務成立,具体的給付の原因事実の発生,金額の合理的算定を求めている。また,業務関連の損害賠償について,額が未確定でも,期末までに相手方へ申し出た額等を未払金に計上した場合の取扱いを定めている。保険金等で補塡されることが明らかな部分は除かれる。社内で見積もっただけの引当額と混同しない。

弁護士から経理・税理士へは,請求の根拠,和解や合意の成立日,期末までの申出額と通知の証拠,支払予定,保険補塡の範囲を共有する。課徴金,延滞金,損害賠償金,弁護士費用を一つの科目だけで判定しない。本節は法人の処理を対象としており,個人事業者の損害賠償金に関する故意・重大な過失の規定を法人へそのまま適用するものではない。

第5 関連記事

①令和6年司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した34項目と5段階の重み付け(AI作成)
②業界団体・資格者団体の「参考料金」「報酬の目安」と独占禁止法―事実上の決定,割増料金,自主基準による取引制限及び課徴金の税務(AI作成)
③共同購入・購入価格カルテルと独占禁止法―購入市場、川下市場、共通費用及び一方向の情報提供(AI作成)

第6 出典と基準時

①独占禁止法(公正取引委員会):2条6項,3条,7条の2,7条の3等。
②法人税法(e-Gov法令検索):22条3項,55条5項3号。
③公正取引委員会「課徴金制度」。
④本町化学工業事件・東京高裁令和6年10月16日判決:第3の2(1)~(6)の判断と結論。
⑤国税庁「法人税基本通達・第2章第2節第2款」:2―2―12・2―2―13。

本記事は令和8年10月10日に確認した掲載条文・公式説明と判決本文に基づく現時点の実務解説である。前記高裁判決は令和6年司法試験の実施後の判決であり,試験当時の答案を作る根拠とは区別している。