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令和6年司法試験労働法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)

本記事は,令和6年司法試験の労働法第2問について,法務省の出題の趣旨及び採点実感から独自に抽出した40の評価項目と,2,329字の模範解答を示す。評価項目と1~5の重みは法務省の公式採点基準又は配点ではない。法令は令和6年1月1日の施行法を,判例は試験実施日である同年7月10日までのものを基準とする。

第1 この記事の対象と結論

対象は令和6年司法試験論文式試験問題(選択科目)の労働法第2問(PDF26~27頁)である。手当廃止・チェック・オフについての団交拒否と不誠実団交を労組法7条2号で,別組合との二つの協定による支配介入を同条3号で検討し,労働委員会への救済申立てと予想される命令を論ずる。

本答案は両号の不当労働行為を認め,2号では誠実交渉命令と再発防止の文書交付・掲示,3号ではポスト・ノーティス又は文書交付を求める構成を採る。ただし,公式資料が結論を一律に指定しているという意味ではない。チェック・オフに関する3号の否定構成も,交渉経緯を掘り下げた理由付けがあれば許容される。

40項目のうち重み5は12項目である。団交義務と実施・合意の義務,賃金控除協定の締結主体と便益を受ける組合,協定の民事上の効力と組織への事実上の作用,回復すべき状態と合意を直接命ずることを区別するのが答案の中心となる。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

一つの行につき一つの判定対象を置き,「必須/高評価/負例/許容分岐」の区分を評価項目欄に示した。負例は避けるべき記載を表し,許容分岐はその構成を採る場合だけ適用する。全項目を全答案へ累積的に要求するものではない。

根拠欄の頁は各PDFの頁数である。「記載なし」は本問の関連範囲を実読した上での表示,「間接」は公式の一般記述から当該基準への具体化が本記事の推論となる表示である。表に掲げる短い語句は引用箇所を探すための手掛かりであり,その語句だけを公式の判断内容全体と扱わない。

2 5段階の重み付けの基準

①重み5:採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格そのもの。
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項。
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け。
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強又は典型的な誤り。
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項。

本問では,重み4をすべて「高く評価された事項」と表現せず,両資料が取り上げた事項として付した。重み5のうち,規範・主体・救済の骨格に属する項目と,当てはめの評価を分ける項目は,第4の4で区別する。各段階への件数の割当ては行っていない。

第3 本問の概要

Y社は従業員約200名の食品製造会社で,月額3万円の業務手当を令和6年4月に廃止する方針を示した。地域合同労組のX組合はY社の労働者25名を組織し,手当廃止とチェック・オフについて団交を申し入れた。5回の交渉で,Y社は業績の概要1枚を示すのみで,削減効果や他の改善努力を説明せず,少数組合のチェック・オフは法律上困難と述べた。就業規則を変更して廃止を実施し,第6回の団交後は交渉を拒否した。

その後,150名を組織する企業内組合Aが結成され,手当廃止を受け入れた。Y社はAを歓迎し,最初の団交でチェック・オフ協定とユニオン・ショップ協定を締結した。協定内容は,従業員が持ち帰れるニューズレターで周知された。Y社はX組合に解雇意思はないと回答したが,X組合員10名がAへ移籍した。

設問はX組合の立場で,労組法7条2号と3号を分け,主張,求める救済及び労働委員会が発する命令を論ずるものである。労組法5条1項の資格要件は満たすとの仮定がある。手当廃止の私法上の有効性や個別の解雇無効請求を独立の主題としない。

第4 評価項目と重み

1 団交拒否・不誠実団交(労組法7条2号)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
17条2号と3号を分け,両交渉事項・両協定を検討する。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「2つの交渉事項」28頁 3⑵「2つの交渉事項」
2義務的団交事項を労働条件・待遇及び労使関係の運営事項で使用者が処分可能なものと示す。(必須)3間接:32頁 〔労働法第2問〕「義務的団交事項」28頁 3⑵「義務的団交事項の意義」
3業務手当の廃止が義務的団交事項であると確認する。(必須)432頁 〔労働法第2問〕「いずれも」28頁 3⑵「いずれも義務的団交事項」
4チェック・オフを団体的労使関係の運営事項として義務的団交事項とする。(必須)432頁 〔労働法第2問〕「義務的団交事項」28頁 3⑵「団体的労使関係の運営」
5実施の任意性や労基法24条の問題だけから義務的団交事項該当性を否定しない。(負例) 適用条件:全答案・該当誤記回避2記載なし(対象本問範囲実読)28頁 3⑵「これを否定」
6義務的団交事項の前提論に分量を割き過ぎて誠実性の検討を圧迫しない。(負例) 適用条件:全答案・分量監査2記載なし(対象本問範囲実読)28頁 3⑵「多くのスペースを割きすぎ」
7必要な論拠の説明と裏付け資料提示を含む誠実交渉義務を定立する。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「その裏付けとなる資料を提示」29頁 3⑵「その存在と内容」
8誠実な交渉を尽くした膠着状態なら打切りに正当理由があり得るという判断枠組みを示す。(必須) 適用条件:団交打切りの評価332頁 〔労働法第2問〕「膠着状態に陥った場合」記載なし(対象本問範囲実読)
9計6回という回数だけで誠実に交渉したと認定せず実質を評価する。(必須)432頁 〔労働法第2問〕「計6回」28頁 3⑵「計6回の団体交渉」
10廃止の必要性の説明・資料提示の十分さを中心に評価する。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「資料の提出」29頁 3⑵「十分な資料の提出」
11非公表を理由とする拒否,概要1枚,削減効果・他の改善努力の説明欠如を必要性判断につなげる。(高評価) 適用条件:全答案・公式要請を問題文事実で具体化4間接:32頁 〔労働法第2問〕「説明の十分さ」間接:29頁 3⑵「本件における当てはめ」
12就業規則変更による廃止後も撤回を求める団交が可能であると示す。(高評価)432頁 〔労働法第2問〕「その後の団体交渉義務」29頁 3⑵「その撤回を求めることは可能」
13組合費のチェック・オフにも労基法24条1項ただし書の賃金控除協定が必要と示す。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「労使協定が必要」29頁 3⑵「労使協定が必要」
14少数組合X自身は賃金控除協定の過半数組合としての締結主体になれないと指摘する。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「その締結主体とはなり得ない」29頁 3⑵「その締結主体とはなり得ない」
15過半数代表者を選出して賃金控除協定を結ぶ余地を示す。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「過半数代表者を選出」29頁 3⑵「過半数代表者を選出」
16法的制約と代替手続の双方からYの法律上無理との説明をXの主張と比較して評価する。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「X組合の側の主張」29頁 3⑵「評価に差がつく」
17委任契約は合意可能という説明だけで労基法24条の問題を飛ばさない。(負例) 適用条件:全答案・該当誤記回避2記載なし(対象本問範囲実読)29頁 3⑵「委任契約は合意により可能」
18不誠実団交・正当理由のない拒否があれば誠実交渉命令を求め発令を論ずる。(必須) 適用条件:不当労働行為肯定枝532頁 〔労働法第2問〕「誠実交渉命令を発し」29頁 3⑵「誠実交渉命令を発し」
19必要に応じポスト・ノーティス又は文書交付の救済を示す。(必須) 適用条件:不当労働行為肯定枝432頁 〔労働法第2問〕「ポスト・ノーティス」29頁 3⑵「ポスト・ノーティス」
20山形大学事件の判旨を踏まえ合意成立の見込みがなくても誠実交渉命令を発し得ると理由付ける。(高評価) 適用条件:発展的救済論を採る答案3間接:32頁 〔労働法第2問〕「誠実交渉命令」29頁 3⑵「相対的に高い評価」
212号違反への救済としてチェック・オフ協定の締結自体を直接命ずる構成を採らない。(負例) 適用条件:2号救済2記載なし(対象本問範囲実読)29頁 3⑵「チェック・オフ協定の締結命令」
22労働委員会の命令を団交に応ずべき地位確認という民事訴訟と混同しない。(負例) 適用条件:全答案・該当誤記回避2記載なし(対象本問範囲実読)29頁 3⑵「民事訴訟と混同」

2 支配介入(労組法7条3号)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
23支配介入の意思の要否について採用する立場を明示する。(必須)432頁 〔労働法第2問〕「支配介入の意思の要否」29頁 3⑵「支配介入の意思の要否」
24使用者は団交を含む全場面で各組合の団結権を平等に尊重し中立を保持するという規範を示す。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「中立的態度を保持」29頁 3⑵「中立的態度を保持」
25組合の性格・運動方針による差別は許されないと示す。(必須)432頁 〔労働法第2問〕「性格や運動方針」29頁 3⑵「性格や運動方針」
26各組合の組織力・交渉力に応じた合理的・合目的的対応は中立保持義務違反とならないと示す。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「合理的、合目的的な対応」29頁 3⑵「合理的、合目的的」
27A組合は過半数組合であるためAとのチェック・オフ協定が労基法24条に抵触しないことを確認する。(必須)532頁 〔労働法第2問〕「過半数で組織」30頁 3⑵「労働基準法第24条との抵触はなく」
28Aとの協定が適法に締結可能であることだけで3号の審査を終えない。(必須)433頁 〔労働法第2問〕「それで終わり」30頁 3⑵「掘り下げた検討」
29Xとの従来の拒否・交渉経緯を差別の合理性判断に用いる。(必須)433頁 〔労働法第2問〕「これを拒否してきたという経緯」30頁 3⑵「X組合に対する一連の対応」
30ユニオン・ショップ締結を含めAへの好意的態度を中立性判断に用いる。(必須)433頁 〔労働法第2問〕「明らかに好意的な態度」30頁 3⑵「明らかに」
31チェック・オフについて合理的対応として3号を否定する場合も,一連の経緯を掘り下げて理由付ける。(許容分岐) 適用条件:チェックオフ3号否定枝のみ332頁 〔労働法第2問〕「適切に評価」30頁 3⑵「このような評価はあり得る」
32他組合員への解雇義務を定めるユニオン・ショップ協定部分は無効という判例法理を示す。(必須)433頁 〔労働法第2問〕「他の組合に入っている労働者」30頁 3⑵「三井倉庫港運事件」
33実際に解雇しなくても協定が事実上Aへの加入を促進する機序を示す。(必須)533頁 〔労働法第2問〕「加入が促進される」30頁 3⑵「評価に差がつく」
34解雇しないというYの説明だけから支配介入不成立としない。(負例) 適用条件:全答案・該当誤記回避233頁 〔労働法第2問〕「解雇がなされなくても」30頁3⑵「不利益は生じない」
35会社の嫌悪・敵意の事実列挙だけで終わらず協定による組合選択への作用と結び付ける。(必須)433頁 〔労働法第2問〕「様々な事情や経緯」30頁 3⑵「協定に即した説明」
36合法なショップ制度に伴う加入促進として許容されるとの反論と,一連の事情からの弱体化評価を比較する。(必須)333頁 〔労働法第2問〕「やむを得ないこと」記載なし(対象本問範囲実読)
37いずれか又は両協定による支配介入を認めた枝ではポスト・ノーティス又は文書交付を求め発令を述べる。(必須) 適用条件:3号肯定枝433頁 〔労働法第2問〕「いずれか、又は両方」30頁 3⑵「ポスト・ノーティス又は文書交付」
383号救済を当然にXとのチェック・オフ協定締結命令へ結び付けない。(負例) 適用条件:3号救済2記載なし(対象本問範囲実読)30頁3⑵「労使関係への過度の介入」
393号救済を当然にAとのユニオン・ショップ協定破棄命令へ結び付けない。(負例) 適用条件:3号救済2記載なし(対象本問範囲実読)30頁 3⑵「協定の破棄」
40協定締結・破棄を直接命ずることは労使関係への過度の介入となり得ると説明する。(高評価) 適用条件:救済限界の発展論3記載なし(対象本問範囲実読)30頁 3⑵「労使関係への過度の介入」

3 答案全体に関する一般的な指摘

労働法全体の採点実感は,問題の所在,規範,当てはめを区別し,問題文の具体的事実を使って理由を示すことを求める。論点名だけの列挙や判例名の提示で終わらず,X組合の主張と救済へつなげる。これらの一般的な答案作法には独立の重みを付けず,40項目の集計へ混ぜていない。

4 重みの分布

重み5:12項目,重み4:14項目,重み3:6項目,重み2:8項目,重み1:0項目。総項目数は40,重みの合計は150である。区分は必須27,高評価4,負例8,許容分岐1であり,区分と重みは別の基準である。

重み5の12項目は次のとおりである。
①評価項目1:7条2号と3号を分け,両交渉事項・両協定を検討する。
②評価項目7:必要な論拠の説明と裏付け資料提示を含む誠実交渉義務を定立する。
③評価項目10:廃止の必要性の説明・資料提示の十分さを中心に評価する。
④評価項目13:組合費のチェック・オフにも労基法24条1項ただし書の賃金控除協定が必要と示す。
⑤評価項目14:少数組合X自身は賃金控除協定の過半数組合としての締結主体になれないと指摘する。
⑥評価項目15:過半数代表者を選出して賃金控除協定を結ぶ余地を示す。
⑦評価項目16:法的制約と代替手続の双方からYの法律上無理との説明をXの主張と比較して評価する。
⑧評価項目18:不誠実団交・正当理由のない拒否があれば誠実交渉命令を求め発令を論ずる。
⑨評価項目24:使用者は団交を含む全場面で各組合の団結権を平等に尊重し中立を保持するという規範を示す。
⑩評価項目26:各組合の組織力・交渉力に応じた合理的・合目的的対応は中立保持義務違反とならないと示す。
⑪評価項目27:A組合は過半数組合であるためAとのチェック・オフ協定が労基法24条に抵触しないことを確認する。
⑫評価項目33:実際に解雇しなくても協定が事実上Aへの加入を促進する機序を示す。

項目1・7・13~15・18・24・26・27は,設問構造,規範,主体又は救済の骨格に当たる。項目10は手当廃止の必要性に関する説明と資料の実質的評価,項目16は法的制約と代替手続を踏まえたY社の説明の評価,項目33は解雇がなくても加入を促進する作用の説明という,評価の分かれ目に当たる。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下は,X組合の立場で両号の不当労働行為を肯定する答案である。労組法7条2号・3号を分け,「1→(1)」の順に整理した。判例名は判断枠組みを示すために用い,公式資料の説明と原判決の確認範囲は第7で区別する。答案は見出し,句読点及び末尾「以上」を含み,改行を除いたUnicode文字数で2,329字である。

2 答案

1 労働組合法7条2号

(1) 団交事項と誠実交渉義務

X組合は,業務手当廃止とチェック・オフをめぐる不誠実団交及びその後の団交拒否を主張すべきである。X組合はY社の労働者25名を代表し,地域合同労組・少数組合であることは団交義務を免れる理由とならない。

義務的団交事項は,組合員の労働条件その他の待遇及び当該労使関係の運営に関する事項で,使用者が処分可能なものである。月額3万円の業務手当廃止は労働条件そのものであり,チェック・オフも組合費徴収に関する労使関係の運営事項で,Y社が対応できるから,いずれも該当する。

7条2号は,形式的な応諾だけでなく,合意達成の可能性を模索し,必要な説明や資料提示を行って誠実に交渉することを要求する。ただし,要求受諾や譲歩自体の義務ではなく,誠実な交渉を尽くしてなお膠着した場合には打切りの正当な理由があり得る。

(2) 業務手当について

Y社は5回交渉したが,7年前の一時的利益還元という由来と業績不振を繰り返すだけであった。現に長期間支給されてきた月3万円の喪失は生活に重大な影響を与える。概要1枚だけでは廃止の必要性を検討できず,経費削減効果や他の改善努力の説明もない。非上場会社として計算書類を外部に公表しないことと,交渉相手に必要な情報を示すことは別であり,秘密保持等の方法も検討できる。したがって誠実交渉義務違反である。

過半数代表者の反対しない意見書を添付して就業規則を届け出ても,労基法90条の意見聴取・届出手続はX組合との団交に代わらない。廃止実施後も撤回や代償措置を協議でき,それまで誠実交渉を尽くしていない以上,回数と実施済みを理由とする打切りには正当な理由がない。

(3) チェック・オフについて

チェック・オフは賃金全額払原則の例外となるため,労基法24条1項ただし書の過半数組合又は過半数代表者との書面協定が必要で,少数組合Xはその締結主体にはなれない。しかし,締結主体と便益を受ける組合は別である。X組合とのチェック・オフの合意と,過半数代表者との賃金控除協定を整えることは可能である。個々の組合員の控除・送金の授権も要する。

Y社に当然の実施義務がないことは団交義務を否定せず,少数組合だから法律上困難と誤解して要求を一蹴した対応は不誠実である。この誤解を理由とする後続の団交拒否にも正当な理由はない。

(4) 救済

X組合は,両事項について必要な資料・具体的説明を伴う誠実団交応諾と,再発防止の文書交付・掲示を求めるべきである。労働委員会は労組法27条の12によりこれらを命じ得る。山形大学事件(最判令和4年3月18日)のとおり,合意成立の見込みが乏しくても,情報提供,交渉力回復及び労使間の意思疎通の正常化という救済利益が残る。7条2号違反だけから手当の復活やチェック・オフ協定の締結自体を命ずることは適切でない。

2 労働組合法7条3号

(1) 組合間差別

支配介入とは組合の結成・運営の自主性を妨げる使用者の行為であり,少なくとも組合弱体化のおそれの認識・認容を要すると解する。

日産自動車事件(最判昭和60年4月23日)のとおり,複数組合が併存する場合,使用者は団交を含む全場面で各組合の団結権を平等に尊重し,中立を保持しなければならない。各組合の組織力・交渉力に応じた合理的・合目的的対応は許され,自由な交渉結果の差だけで支配介入とはならないが,組合の性格や運動路線を理由に弱体化を図る差別は許されない。

チェック・オフは組合の財政・組織基盤を安定させる便宜供与である。A組合は150名の過半数組合なので,Aとの協定締結は労基法24条に抵触しない。しかし,X組合のみ拒否する合理的理由が必要である。賃金控除協定は過半数代表者との締結で実現可能であり,A組合結成後には同組合との協定でX組合員分も控除対象とできるから,少数であることは絶対的障害ではない。

Y社はX組合との交渉を打ち切る一方,廃止を受け入れたA組合を「従業員の真の利益を考える」と歓迎し,一度の交渉で便宜を供与した。X組合も同じ便宜を求めており,交渉結果の相違というだけでは説明できない。ユニオン・ショップ協定も同時に締結した経緯と10名の移籍も併せ,協調的なA組合を優遇してX組合を弱体化させる支配介入と評価する。

(2) ユニオン・ショップ協定

A組合は150名で過半数を占めるため,7条1号ただし書による協定締結は原則として許される。しかし,労働者の組合選択の自由と他組合の団結権を侵害する解雇義務部分は憲法28条を踏まえ民法90条により無効であり,X組合員を解雇する義務は生じない。

確かに,適法なショップ制度に伴うAへの加入促進はやむを得ないとも考えられる。しかし,解雇の効力とは別に,締結・周知の組織への影響を評価すべきである。協定の文言には他組合員の除外がなく,誰でも持ち帰れるニューズレターで周知された。労働者にはA組合への加入を強制し,X組合員には解雇を恐れさせる効果がある。Y社のX組合宛て回答は一般の労働者への周知ではなく,10名が移籍した以上,侵害状態が解消されたとはいえない。解雇意思がないというだけでは締結による支配介入を否定できない。

(3) 救済

X組合は,いずれの協定についても支配介入を主張し,その再発を防止するポスト・ノーティス又は文書交付を求めるべきである。労働委員会は,X組合員がショップ協定による解雇対象でないことを明確にする内容を含む文書掲示・交付等を命ずると考える。他方,Xとのチェック・オフ協定締結やAとのショップ協定破棄を直接命ずることは,労使の自主的な合意関係への過度の介入となり得るから適切でない。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案1(1)は項目1~7,1(2)は項目8~12,1(3)は項目13~17,1(4)は項目18~22に対応する。答案2(1)は項目23~30,2(2)は項目32~36,2(3)は項目37~40に対応する。項目31はチェック・オフについて3号を否定する場合の条件付き分岐で,本答案には適用しない。負例は記載して充足する項目ではなく,答案がその誤りを避けているかを確認する。

(2) 団交義務,実施義務及び賃金控除の手続

チェック・オフを実施する義務が当然にあるとはいえないことと,団交に応じる義務がないことは異なる。済生会中央病院事件の判例法理は,組合費控除も労基法24条の協定を要するという前提であり,少数組合は過半数組合として協定を結べない。しかし,過半数代表者との協定により賃金控除の手続を整え,X組合が便益を受ける構成は可能である。委任契約だけを述べて賃金控除協定の問題を飛ばす答案も不十分となる。

交渉回数や就業規則変更の手続を挙げるだけでは誠実性を判定できない。必要性について何を説明し,どの資料を示したか,交渉の代替案を検討したかを評価する。山形大学事件は,合意成立の見込みの乏しさだけで誠実交渉命令の救済利益が失われないことを示す。手当の復活や協定締結を直接命ずることを,誠実交渉命令と同一視しない。

(3) 組合間差別の合理性と許容される別構成

日産自動車事件の中立保持義務は,形式的な同一待遇を常に要求するものではない。Aが過半数組合であることは労基法24条の適法性を支えるが,Xを拒否してAだけに便宜を与えたことの合理性は別に検討する。Xとの交渉経緯,Aの方針への好意的な発言,一度の交渉で両協定を締結したことを結び付け,本答案は差別による弱体化を認めた。

チェック・オフについて3号を否定する答案も許容される。ただし,Aの組織力・交渉力に応じた合理的対応として扱う理由を,一連の経緯と比較して示す必要がある。「過半数だから適法」で終わるものではない。支配介入の意思の要否も立場を示し,本答案では少なくとも弱体化のおそれの認識・認容を要すると解した。これは本記事の採用する解釈であり,公式資料がこの立場だけを指定したものではない。

(4) 解雇の効力と組織への作用

三井倉庫港運事件の法理により他組合員の解雇義務部分が無効であっても,協定の締結・周知による加入促進作用まで消えるとは限らない。適法なショップ制度に伴う加入促進という反論も比較した上で,Xの排除を明示しない協定文言,全従業員への周知,Xだけへの事後回答,10名の移籍を使い,組合選択への作用を説明する。敵意を示す事実の列挙だけで終わらず,協定が組織へ及ぼす影響との接続を示す。

(5) 救済の限界と答案で扱わなかった事項

2号では誠実団交を回復し,3号では弱体化を防ぎ組合間の中立を回復するための文書交付・掲示を示した。協定の締結・破棄を当然に直接命ずると,労使の自主的合意への過度の介入となり得る。労働委員会の救済命令と民事訴訟による団交応諾義務・地位の確認も区別する。

個別組合員の授権,秘密保持方法及び労基法90条との区別は,法令・判例による補足であり,独立の加重項目を増やしていない。資格審査や手当廃止の私法上の効力,現実には行われていない解雇の無効請求は,設問の主ルートを圧迫するため展開しない。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の別の模範解答

①令和6年度司法試験民事系第1問の模範解答
②令和6年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答

2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事

①チェック・オフと団体交渉-少数組合,賃金全額払の労使協定及び不当労働行為

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和6年司法試験問題」/選択科目の問題PDF(労働法第2問:26~27頁)
②法務省「令和6年司法試験の結果について」/令和6年司法試験論文式試験出題の趣旨(労働法第2問:31頁末尾の見出し~33頁の環境法見出し直前)
③法務省「令和6年司法試験の採点実感」/選択科目の採点実感PDF(労働法第2問:28~30頁,科目総論・一般指摘:26頁及び30~31頁)

2 法令

①労働組合法(e-Gov API・令和5年6月14日施行版):7条,27条の12等
②労働基準法(e-Gov API・令和5年4月1日施行版):24条,90条等

3 裁判例

①山形大学事件:最高裁第二小法廷令和4年3月18日判決(令和3年(行ヒ)第171号)。中央労働委員会掲載の判決PDF。
②日産自動車事件:最高裁第三小法廷昭和60年4月23日判決(昭和53年(行ツ)第40号)。中央労働委員会掲載の判決PDF。
③済生会中央病院事件:最高裁第二小法廷平成元年12月11日判決。賃金控除協定の要否は法務省公式資料の本問記載及び厚生労働省掲載の平成2年1月25日付通知で確認。
④三井倉庫港運事件:最高裁第一小法廷平成元年12月14日判決。他組合員の解雇義務部分について,法務省公式資料及び厚生労働省の裁判例紹介(ユニオン・ショップ協定による解雇)で確認。
⑤エッソ石油事件:最高裁第一小法廷平成5年3月25日判決。個別授権に関する補足は中央労働委員会掲載の佐田建設事件命令の判例引用部分で確認。

4 確認状態

法務省の問題,出題の趣旨及び採点実感は,本問の該当範囲を実読し,評価表の根拠語句が抽出テキストに実在することを照合した。労組法及び労基法はe-Govの改正履歴から令和6年1月1日時点の施行版を特定し,使用条文を確認した。

山形大学事件は判決本文を,日産自動車事件は判決本文の規範・判断部分(掲載PDF1~6頁)を確認した。山形大学事件の最高裁は事実上の不誠実性を自ら確定したものではなく,救済利益に関する判断を用いている。済生会中央病院,三井倉庫港運及びエッソ石油の各判決は公式説明・行政資料で骨子を確認したが,判決原文全文との照合は未了である。これらを原判決全文確認済みとは扱わず,確認できた規範の範囲で用いた。

当てはめ,両号を肯定する結論,評価項目への具体化及び重みは本記事の推論である。判例の原文未照合部分は細部の射程を断定することを制限するが,本問で法務省が求める主体・手続・救済の区別は公式記載及び法令から確認できる。