メインコンテンツへスキップ
       

海外の共同名義口座は遺産に含まれるか―生存者取得,遺留分と日本の相続税・贈与税(AI作成)

第1 共同名義だけでは帰属と税金は決まらない

海外の銀行口座に夫婦の名前が並んでいても,残高の半分ずつが各人の財産であるとは限らない。また,一方の死亡後に生存者が口座を取得できる制度であっても,日本で相続税・贈与税がかからないとは限らない。
確認する順序は,①生前の資金と権利の帰属,②死亡による権利の移転,③遺産・遺留分との関係,④日本と現地の課税である。銀行が払戻しを認める人と,相続人間で財産を取得できる人とを同一視しないことが出発点となる。

第2 生前の帰属と死亡後の取得を分ける

1 ハワイ州法の例

ハワイ州法のHRS §560:6-103(a)は,共同名義口座について,名義人全員の生存中は各人の純拠出額に応じて帰属し,異なる意思について明白かつ説得的な証拠がある場合を例外とする。名義人数だけで持分を均等にする規定ではない。

他方,HRS §560:6-104(a)は,一方の死亡時の残高について,口座開設時に異なる意思があったことの明白かつ説得的な証拠がない限り,被相続人の遺産との関係では生存名義人に帰属すると定める。同条(e)では,契約等に基づく生存者の権利を遺言によって変更できないとしている。

これはハワイ州の当該規定の説明である。他国,他州,証券口座,信託口座及び単なる払戻し代理人の登録へそのまま広げることはできない。

2 口座書類と資金履歴をそろえる

口座の名称に「joint」があるだけでは足りない。開設申込書,署名カード,口座契約,生存者取得条項,名義変更・受取人変更の履歴及び適用される約款の版を取得する。
その上で,各名義人が入れた資金,払戻し,払戻金の使途及び死亡前後の残高を確認する。銀行の「生存者へ支払う」という回答と,その支払の法的性質や日本の税務上の評価は別に記録する。

第3 日本での準拠法と遺留分

法の適用に関する通則法36条は,「相続は、被相続人の本国法による。」と定める。地域ごとに法が異なる国の本国法は,同法38条3項により,その国の規則に従って指定される地域の法を選び,そのような規則がなければ本人に最も密接な関係がある地域の法を選ぶ。同法41条の日本法への反致も確認する。

これとは別に,口座契約の成立・効力には同法7条以下,夫婦間の財産関係には同法26条などが問題となる。どの法律関係を判断しているかを明示し,銀行との契約について選択された法だけで相続全体を処理しない。消費者契約に当たる場合には同法11条の適用条件も検討する。

個別財産の準拠法と相続準拠法をどう適用して遺産の構成を決めるかは,争点となり得る。現地法上の生存者取得が認められることだけで,日本で遺留分の問題がなくなるとは断定できない。相続の準拠法を定め,遺留分に相当する制度の有無,対象となる処分,算定財産,請求の相手方及び期間を検討する。

国際裁判管轄,反致及び遺言方式の基本は,外国籍・国外財産がある相続と遺言で説明している。

第4 日本の課税は別に判定する

1 国外口座でも課税範囲を確認する

相続税法1条の3・1条の4等により,取得者の納税義務の範囲を確認する。取得者と被相続人・贈与者の住所,国籍,過去の日本居住期間及び在留資格が関係するため,「海外居住」「外国銀行」という情報だけで課税対象外と判断しない。
国税庁「相続人が外国に居住しているとき」も,日本に住所がない取得者であっても,一定の場合には国外財産が相続税の課税対象になると説明している。財産の所在は相続税法10条の財産別の基準で確認する。

2 遺産の外に移る場合にもみなし贈与を検討する

相続税法9条は,対価を支払わないで利益を受けた場合等について,原則として利益の価額相当額を贈与により取得したものとみなす規定であり,遺言による行為の場合には遺贈とみなす。死亡を契機とする取得であることだけから,常に遺贈と扱う規定ではない。
相続税法基本通達9-1は,「利益を受けた」場合について,おおむね財産の増加又は債務の減少があった場合等と説明している。

税務大学校の研究論文中澤直人「国外における夫婦間の多様な財産保有形態に対する相続税法上の取扱いについて」の要約は,想定したハワイ州の共同名義口座の生存者取得について,同条による贈与税課税が相当との見解を示す。相続開始時に夫婦が日本に住所を有し,相続人は生存配偶者のみ等の前提を置いた研究である。
国税庁のサイトに掲載された研究論文であることをもって,すべての共同名義口座について確定した行政上の取扱いが示されたとは扱わない。実際の契約,準拠法,拠出額,取得時点,他の相続財産及び納税義務の範囲に当てはめる必要がある。

第5 弁護士と税理士が共有する資料

① 名義人全員の国籍,住所履歴,在留資格及び夫婦財産契約
② 口座契約,生存者取得条項,署名カード及び変更履歴
③ 各人の拠出と払戻しの全履歴,死亡日残高及び現在残高
④ 遺言書,死亡証明,相続人関係資料及び現地手続の進行状況
⑤ 適用時点の外国法原文,翻訳及び現地専門家の意見
⑥ 生前贈与・相続の申告書,現地の課税資料及び納税記録

弁護士は,銀行との契約,名義人間の権利,遺産及び遺留分の争点を分けて整理する。税理士は,その整理を基礎に,課税される取得の種類・時点,納税義務の範囲,評価及び申告を検討する。外国税の控除・条約適用や現地税の申告義務は,税の種類と国ごとに別途確認する。
帰属が争われている口座は,税務申告と遺産分割の一方だけで確定したことにせず,確認できた事実,争点,追加資料の取得先及び各手続の期限を共有する。

第6 関連記事と出典

① 名義預金は誰の財産か―贈与・相続税と遺産分割の問題
② 被相続人の財産を調べる方法
③ 遺留分侵害額請求の計算方法と請求を受けた側の対応

法令の出典は,本文でリンクした通則法,相続税法及びハワイ州法である。日本の課税範囲については国税庁タックスアンサーも参照した。税務大学校論文については,リンク先の研究要約を参考として紹介している。外国の制度は対象地域・口座の種類ごとに確認する必要がある。