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株式交換の反対株主に支払われる株式買取代金の税務―みなし配当,譲渡所得及び収入時期(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

この記事は,株式交換完全子会社の個人株主が会社法785条に基づく株式買取請求をし,発行法人である完全子会社から金銭の支払を受ける場合の所得税上の取扱いを扱う。

通常の株式交換で完全親法人等の株式だけを受け取る株主には,一定の要件の下で所得税法57条の4による課税繰延べがある。他方,反対株主が買取請求によって発行法人へ自己の株式を買い取らせ,金銭を受け取る場合は,交付金銭の全額を単純な株式売却代金として処理するのではなく,みなし配当となる部分と株式等の譲渡所得等の収入金額となる部分に分ける必要がある。

収入時期は原則として株式交換の効力発生日であるが,国税局の文書回答は,価格が後日の協議で決まった場合は協議成立日,裁判所の決定で決まった場合は決定日を収入時期として差し支えないとしている。ただし,この文書回答は平成23年の個別照会に対するものであり,当時の税率や制度説明を現在の申告へそのまま使うことはできない。

第2 最初に会社法上の当事者を確定する

1 完全子会社の反対株主

会社法785条の株式買取請求では,株式交換完全子会社の反対株主が,自己の株式を発行法人である完全子会社に買い取らせる。買取りの効力は株式交換の効力発生日に生じる(会社法786条5項)。

この場面では発行法人が自己株式を取得するため,所得税法25条1項のみなし配当と株式等の譲渡所得等の区分が問題となる。

2 完全親会社の反対株主とは区別する

会社法797条は,株式交換完全親会社の反対株主の買取請求を定める。最高裁令和8年9月30日決定はこの完全親会社側の価格決定を扱ったものである。

完全親会社側と完全子会社側では,誰が誰の株式を取得するかという法的構造が異なる。大阪国税局の平成23年文書回答は完全子会社側の会社法785条の事例であり,最高裁令和8年決定の当事者へ結論をそのまま移すことはできない。

第3 通常の株式交換に関する課税繰延べとの関係

1 完全親法人等の株式を受け取る場合

国税庁タックスアンサーNo.1526によれば,居住者が旧株を株式交換完全親法人へ譲渡し,完全親法人又はこれと完全支配関係にある法人の株式だけを受け取る一定の株式交換では,その旧株の譲渡がなかったものとみなされる。課税を永久に免除するのではなく,受け取った株式へ旧株の取得価額を引き継ぐ課税繰延べである。

2 反対株主への買取代金は全体判定から除かれる

同タックスアンサーは,株式交換の際に株式以外の資産が交付されないという要件を説明するに当たり,反対株主の買取請求に基づいて支払われる金銭等を除外している。したがって,一部の反対株主へ買取代金を支払ったことだけで,他の株主に係る株式交換全体が直ちに課税繰延べの対象外となるわけではない。

しかし,この除外は,買取請求をした反対株主本人が受け取る金銭まで非課税又は繰延べになるという意味ではない。組織再編全体の要件判定と,金銭を受け取る個々の反対株主の課税を分けて考える必要がある。

第4 買取代金を二つの所得に分ける

1 みなし配当となる部分

発行法人が自己株式を取得し,株主へ金銭を交付した場合,交付金銭のうち,その株式に対応する資本金等の額を超える部分は,所得税法25条1項により配当等とみなされ得る。

大阪国税局の文書回答は,株式交換に反対する個人株主から完全子会社が自己株式を買い取る場合について,株式に対応する連結個別資本金等の額を超える部分を配当等とみなし,それ以外の部分を株式等の譲渡所得等の収入金額とする見解を示した。現行法では用語や参照条文の改正を確認した上で,対象株式に対応する資本金等の額を計算する必要がある。

2 株式等の譲渡所得等となる部分

交付金銭からみなし配当部分を除いた残額が,株式等の譲渡所得等の収入金額となる。譲渡所得等の金額は,この収入金額から取得費及び譲渡費用を控除して計算する。

したがって,裁判所が定めた買取価格と取得費との差額を全て譲渡益とする計算は適切でない場合がある。まずみなし配当部分を切り分け,残部について取得費を対応させる順序で検討する。

3 例示

例えば,買取代金が1000万円で,対象株式に対応する資本金等の額が200万円であると仮定すると,800万円がみなし配当部分となり,残る200万円が株式等の譲渡所得等の収入金額となる。さらに旧株の取得費を譲渡所得等の計算で控除する。

これは構造を示す単純な例である。実際には,資本金等の額の計算,株式数,取得費,口座区分,非居住者該当性,源泉徴収,住民税及び法人株主の場合の取扱いを個別に確認する必要がある。

第5 収入すべき時期

1 原則は株式交換の効力発生日

会社法786条5項により,株式買取りの効力は株式交換の効力発生日に生じる。大阪国税局の文書回答も,みなし配当と株式等の譲渡所得等の収入時期を,原則として効力発生日としている。

申告年分を判断するときは,現実の入金日だけを見るのではなく,株式交換契約,効力発生日,買取請求書,協議書,裁判所の決定及び支払明細を並べて確認する必要がある。

2 協議成立日又は裁判所の決定日

買取価格が効力発生日後の協議で確定した場合,文書回答は協議が調った日を収入時期として差し支えないとしている。裁判所が価格を決定した場合は,裁判所の決定日を収入時期として差し支えないとしている。

もっとも,申立て,決定,確定,支払の各日が異なる場合がある。文書回答が「決定日」としている点を踏まえつつ,個別事件では不服申立ての経過,価格の遡及的変更,追加支払及び利息の有無を税理士が確認する必要がある。

第6 上場株式であった場合の注意

平成23年文書回答は,株式交換の直前に上場廃止となった特定の上場会社を前提とし,当時の上場株式等に関する税率の特例を検討している。しかし,文書に記載された税率と適用期間は当時の制度によるものであり,現在の申告へ流用できない。

現在の処理では,買取請求時,効力発生日及び取得時における株式の区分,特定口座の対象となるか,上場廃止との関係,配当所得と譲渡所得等の申告方法,損益通算及び繰越控除の可否を現行法で確認する必要がある。

文書回答の価値は,税率の数字よりも,①発行法人による自己株式取得として所得を二分すること,②原則的な収入時期と価格確定が遅れる場合の取扱いを示した点にある。

第7 弁護士・司法書士・税理士の実務分担

1 弁護士実務

弁護士は,反対株主該当性,事前通知,総会での反対,買取請求期間,請求株式数,撤回制限,価格協議及び価格決定申立ての期限を管理する。和解又は協議書では,価格,支払日,遅延損害金又は利息,源泉徴収の扱い,税務資料の交付を明確にすることが望ましい。

価格主張と税額計算は別問題である。裁判所が定める会社法上の公正な価格が,税法上そのまま全額譲渡所得の収入になるとは限らないことを依頼者へ説明する必要がある。

2 司法書士実務

司法書士は,株式交換の効力発生日,登記関係書類,株主総会議事録及び株式交換契約を確認する。もっとも,反対株主への買取代金の所得区分は税務問題であり,商業登記が完了したことだけで課税関係が確定するわけではない。

税理士へ渡す資料として,効力発生日が確認できる登記事項証明書,株式交換契約,総会議事録,買取請求書及び価格確定資料を整える役割が重要である。

3 税理士実務

税理士は,①株主が個人か法人か,居住者か非居住者か,②完全子会社側か完全親会社側か,③取得者が発行法人か,④買取代金と対象株式に対応する資本金等の額,⑤取得費,⑥効力発生日・協議成立日・裁判所決定日・入金日,⑦上場・非上場と口座区分,⑧源泉徴収・支払調書その他の法定調書を確認する。

平成23年文書回答は個別照会の事実関係を前提とするため,現行条文,通達,申告年分の税率及び様式を改めて確認した上で適用する必要がある。

第8 証拠・資料のチェックリスト

①株式交換契約書と効力発生日
②株主総会招集通知,反対通知及び議決権行使の記録
③株式買取請求書,請求日,株式数及び到達資料
④価格協議書,和解書又は裁判所の価格決定
⑤不服申立ての有無と決定日・確定日
⑥買取代金,利息等及び実際の支払日が分かる資料
⑦対象株式の取得日,取得価額及び特定口座等の資料
⑧会社が計算した対象株式に対応する資本金等の額
⑨源泉徴収票・支払通知書・支払調書等の交付状況
⑩上場廃止日と株式区分を確認できる資料

これらを日付順に並べ,会社法上の効力,価格の確定,金銭の支払及び税務上の収入時期を一つの欄に混ぜないことが重要である。

第9 一次資料と資料の限界

①所得税法57条の4(e-Gov法令検索)
②所得税法施行令(e-Gov法令検索)
③国税庁タックスアンサーNo.1526「株式交換により株式を譲渡した場合の譲渡所得等の特例」(令和8年4月1日現在法令等)
④大阪国税局「株式交換に反対する個人株主の株式が買取請求に基づき買い取られた場合の課税関係について」(平成23年の文書回答)
⑤会社法785条・786条(e-Gov法令検索)

③は現行の一般的な株式交換の課税繰延べを確認する一次的な行政資料である。④は特定の事実関係に対する国税局の回答であり,現在の全事例を拘束する法令ではない。④に記載された旧税率は使用せず,所得区分と収入時期の考え方についても現行条文・通達で再確認する必要がある。