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出向中の社員が定年を迎える場合の再雇用―出向継続・業務変更・内示書・条件不合意の実務(AI作成)

第1 最初に雇用主体と契約の組合せを確定する

出向中の社員が定年を迎える場合は,定年前の出向をそのまま延長すると考えるのではなく,定年後に誰が雇用主となり,どの契約に基づいて出向先で働くのかを先に確定する必要がある。
同じ職場で同じ上司の指示を受け続ける場合でも,契約の組合せによって必要書類,労働条件の決定主体及び高年齢者雇用安定法上の位置付けが異なるからである。

1 出向元が再雇用し,出向を継続する場合

出向元が定年退職者と再雇用契約を締結し,出向元との労働契約を存続させたまま出向先で勤務させる場合は,在籍出向が継続する。
この場合は,①出向元と本人との再雇用契約,②定年後の出向条件を示す書面,③出向元と出向先との出向契約を整合させる必要がある。

再雇用によって契約期間,賃金,勤務日数又は業務が変わるときは,定年前の出向命令だけで処理せず,新しい契約期間に対応する労働条件を明示するべきである。
令和6年4月1日以後の労働条件明示では,雇入れ直後の就業場所・業務だけでなく,契約期間中における就業場所・業務の変更の範囲も書面等で示す必要があり,厚生労働省の解説は在籍型出向先の場所及び業務も変更の範囲に含まれ得るとしている。

2 出向先が直接雇用する場合

出向先が定年退職者と直接に再雇用契約を締結し,出向元との雇用関係が終了する場合は,定年前と同じ職場で働いても,定年後の関係は在籍出向ではない。
高年齢者雇用安定法9条2項の特殊関係事業主による継続雇用制度を利用するのであれば,元の事業主と特殊関係事業主との間で,対象者を定年後に引き続いて雇用することを約する契約が必要である。

特殊関係事業主が提示する労働条件も,関係法令を守り,労働時間,賃金及び待遇について本人と十分に話し合って決める必要がある。
出向継続と直接雇用を曖昧にしたまま,給与の支払者,社会保険手続,指揮命令,懲戒,安全配慮及び退職金負担だけを個別に決めるべきではない。

第2 定年前の内示書が定年後にもつ意味

1 記載された業務は予測可能性を支える資料になる

定年前の出向内示書に複数の作業が記載され,その中に定年後に予定する作業も含まれている場合,その記載は,当該作業が従来の出向で予定され得た業務であることを説明する資料にはなる。
本人がその作業を実際に担当した経験,必要な教育,作業環境及び出向規程の内容も併せて確認すれば,業務変更の予測可能性を検討しやすい。

もっとも,「旧内示書に記載があるから,定年後も当然に同じ命令ができる」と説明するのは適切でない。
内示書が示すのは,原則として当時の労働契約及び出向期間における人事上の予定であり,定年によって終了する契約の後に新たに成立する再雇用契約の労働条件を自動的に確定するものではないからである。

2 旧内示書だけを根拠にしない

旧内示書に予定作業が含まれていても,①当初の出向期間,②出向延長に関する規程,③業務を変更できる範囲,④再雇用契約の業務・勤務地,⑤出向元と出向先との契約を改めて確認する必要がある。
定年前の出向命令が有効であることと,定年後の新しい有期労働契約が同じ条件で成立することは別問題である。

実務上は,旧内示書を廃棄又は無視するのではなく,新しい書面の前提資料として保存する。
その上で,再雇用契約書又は労働条件通知書に,雇入れ直後の業務,変更の範囲,就業場所,契約期間,更新基準,勤務日数・時間,賃金及び退職に関する事項を記載し,必要に応じて定年後の出向辞令又は出向条件通知書を別に交付するのが分かりやすい。

第3 再雇用時に業務を変更できるか

1 定年前と異なる業務を提示すること自体は可能である

厚生労働省の高年齢者雇用安定法Q&Aは,継続雇用後の労働条件を定年前から変更すること自体を否定していない。
ただし,高年齢者の安定した雇用を確保するという法の趣旨を踏まえ,各種労働法令を守った上で,労働時間,賃金及び待遇について十分に話し合うことが重要であるとしている。

したがって,減産,業務量の減少,組織変更,安全性,技能,身体的負担及び他の社員との分担を踏まえ,定年後の担当業務を見直すことは可能である。
他方,定年後であることだけを理由に,実際には必要のない単純作業へ一律に移すことや,退職を促す目的で不利益な業務だけを提示することは,合理的な条件提示とは評価されにくい。

2 賃金率を先に決めて仕事を後付けしない

高年齢者雇用安定法は,定年前賃金の何%を支払えばよいという基準を定めていない。
就業規則に定年前賃金の一定割合を定めている場合も,その割合だけで労働条件全体の適法性が決まるわけではない。

定年後再雇用者が有期雇用労働者又は短時間労働者であるときは,短時間・有期雇用労働法8条・9条により,同じ使用者に雇用される通常の労働者との待遇差を,基本給,賞与及び各種手当ごとに検討する。
出向元が再雇用する場合の比較対象は出向元に雇用される通常の労働者であり,出向先で直接雇用される場合の比較対象は出向先に雇用される通常の労働者である。
もっとも,実際に出向先で担当する作業,責任,権限,勤務時間及び配置変更の範囲は,待遇差の合理性を判断する重要な事実である。

業務を単純化したことが賃金差の説明に関係する場合は,どの責任又は役割が消滅し,それがどの賃金項目に反映されたのかを具体化する必要がある。
「賃金を定年前の一定割合にするから単純作業に変える」という順序ではなく,定年後に必要な業務と責任を設計し,その実態に対応する賃金を待遇項目ごとに説明する順序が望ましい。

3 作業の安全性と適性を確認する

機械の操作を伴う作業へ変更する場合は,作業名だけで「単純」と評価せず,挟まれ・巻き込まれ等の危険,重量物の取扱い,立作業,反復動作,必要な技能及び教育を確認する必要がある。
本人の経験,健康状態及び作業能力を確認し,必要な教育,保護具,作業手順及び監督体制を定めることは,合理的な業務設計の一部である。

第4 提示条件に本人が同意しない場合

1 合理的な条件の提示と十分な話合いを分けて考える

厚生労働省の高年齢者雇用安定法Q&AのQ1-7は,事業主が自社の状況等を踏まえ,合理的な裁量の範囲で労働条件を提示したにもかかわらず合意に至らず,結果として本人が継続雇用を拒否した場合は,直ちに同法違反となるものではないとしている。
ただし,同Q&Aは,各種法令を守った上で,労働時間,賃金及び待遇について十分に話し合って決めることが重要であるともしている。

したがって,本人が最初の提示に同意しなかったという一点だけで「再雇用を拒否した」と処理するべきではない。
業務の必要性,業務変更の理由,契約期間,勤務日数・時間,賃金の算定,変更の範囲,安全面の配慮及び代替案の有無を説明し,本人の希望と不同意の理由を記録する必要がある。

2 複数の選択肢は常に法的義務ではない

高年齢者雇用安定法は,事業主に対し,常に複数の職務又は勤務形態を選択肢として提示することまで一律に義務付けていない。
一つの職務しか用意できない場合でも,その職務が実在し,条件が合理的な裁量の範囲にあり,関係法令に適合し,十分な話合いを経ているのであれば,複数案がないことだけで直ちに違法とはならない。

もっとも,勤務日数,勤務時間,担当工程,教育期間又は段階的な業務移行について複数案を現実に用意できる場合は,選択肢を示すことが合意形成と紛争予防に役立つ。
代替案を提示しないときも,業務量,人員配置,設備又は安全上の理由から他の案が困難であった経過を残しておくとよい。

3 行政法上の違反と個別契約の成否は同じではない

高年齢者雇用安定法上の雇用確保措置が適切かという問題と,本人との再雇用契約がどの条件で成立したかという私法上の問題は区別する必要がある。
就業規則,再雇用規程,会社が交付した書面,従前の運用及び交渉経過によっては,単に「合意しなかった」と整理できない場合がある。
提示条件に不同意であることを理由に再雇用しない判断をする前に,規程との整合性と,条件提示が合理的な裁量の範囲にあるかを個別に点検する必要がある。

第5 実務で作成・更新する書類

出向元が再雇用して出向を継続する場合は,少なくとも次の書類と事実を相互に照合する。

①就業規則,再雇用規程,賃金規程,退職金規程及び出向規程
②本人の定年前の雇用契約書,出向内示書・辞令及び出向条件通知書
③再雇用契約書又は労働条件通知書
④定年後の出向辞令又は出向条件通知書
⑤出向元・出向先間の出向契約書及び費用負担の合意
⑥定年前後の業務分担表,職務記述書,作業量及び人員配置の資料
⑦賃金項目別の算定資料及び比較対象者との待遇差の説明資料
⑧本人との面談記録,不同意理由,会社の回答及び代替案の検討記録

出向先が直接雇用する場合は,これらに代えて,特殊関係事業主による継続雇用制度の事業主間契約と,出向先を使用者とする労働条件通知書・雇用契約書を整える。
書面の名称よりも,誰が雇用主で,誰が賃金を支払い,誰が指揮命令・評価・懲戒を行い,退職金及び社会保険をどのように扱うかが一貫していることが重要である。

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第7 出典・参考資料

①e-Gov法令検索・高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
②厚生労働省・高年齢者雇用安定法Q&A
③e-Gov法令検索・労働契約法
④厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」
⑤厚生労働省・同一労働同一賃金特集ページ
⑥最高裁平成15年4月18日第二小法廷判決・平成11年(受)第805号