第1 連携を考える場面とこの記事の対象
1 手続が変わると担当と委任を確認する
税務調査への対応,課税処分への不服申立て及び裁判所への訴えは,手続も必要な準備も異なる。
帳簿や取引を把握している税理士と,法的争点や裁判手続を担当する弁護士が連携する場合には,誰がどの範囲を受任し,どの期限までに何を行うのかを具体化する必要がある。
本記事は,令和8年10月7日に確認した法令と公的資料に基づき,通常の国税の課税処分に関する連携の基本を整理する。
地方税,国税犯則調査,刑事手続及び滞納処分に固有の不服申立期間を網羅するものではなく,具体的な税額計算や個別事件の勝敗は扱わない。
2 顧問契約だけで次の手続まで受任済みとしない
記帳・申告又は調査対応の依頼が,審査請求や訴訟の受任まで含むかは,契約と委任内容による。
処分通知を受けてから新たな担当を探している間にも期間は進むため,争いが見込まれる段階で,移行先の担当,費用,判断の期限及び資料共有の方法を確認しておくのがよい。
以下の担当表や引継ぎ項目は,連携のための運用例である。
法定の様式や,職種ごとの排他的な業務分担を定めるものではない。
第2 税務代理・不服申立ての代理・訴訟の補佐人
1 税務代理と不服申立ての代理
税理士法2条1項1号の税務代理には,税務官公署に対する申告等や不服申立て,調査・処分に関する主張又は陳述についての代理・代行が含まれる。
税務代理をする税理士は,同法30条に基づき,権限を証する書面を提出する必要がある。
国税通則法107条は,不服申立人が弁護士,税理士その他適当と認める者を代理人に選任できると定める。
ただし,不服申立ての取下げと代理人の選任は特別の委任が必要であり,税理士法31条にも同旨の規定がある。
手続上の代理人資格と,税理士業務を業として行う場合の業務制限は,別の問題として確認する必要がある。
弁護士が税理士法51条の通知によって税理士業務を行う場合には,所属弁護士会を経由した国税局長への通知と,管轄区域を含む同条の条件を確認する。
弁護士であることだけを理由に,税務代理の手続や通知の確認を省略することはできない。
2 訴訟の補佐人は訴訟代理人と異なる
税理士法2条の2第1項は,租税に関する事項について,税理士が裁判所で補佐人として,弁護士である訴訟代理人とともに出頭し,陳述することを認めている。
この規定は,税理士が弁護士の訴訟代理人に代わって単独で訴訟を代理する制度ではない。
同条2項によれば,補佐人の陳述は当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなされる。
ただし,当事者又は訴訟代理人が直ちに取り消し,又は更正したときは例外となる。
税額計算の説明も主張の一部になり得るため,出頭前に,帳簿・計算表・準備書面の数値と事実の説明を照合し,確認した事実と推測を分けておくことが重要である。
3 税理士法人の受託と自然人の選任
税理士法48条の6は,税理士法人が,補佐人の事務を社員又は使用人である税理士に行わせる事務の委託を受けることを認める。
その場合は,委託者に,社員等の中から補佐人を選任させなければならない。
国税庁の税理士制度Q&A問7-3も,補佐人の資格は開業・社員・所属の形態を問わず自然人の税理士に付与されると説明している。
法人が受託したことと,法廷で陳述する税理士個人が選任されたことを区別し,契約,選任,担当者の氏名及び弁護士との連絡体制を確認する必要がある。
第3 税務調査から処分への移行
1 資料,回答及び判断を分けて管理する
| 担当・管理事項 | 具体的に確認すること |
|---|---|
| 納税者・会社 | 原取引,証憑の所在,説明できる担当者,経営上の判断,納付資金を確認する。 |
| 税務担当 | 申告と帳簿の照合,計算根拠,指摘事項,修正の要否及び税務代理の範囲を確認する。 |
| 法的争点の担当 | 事実と証拠の対応,処分の法的根拠,争い方及び次の手続への移行を検討する。 |
| 共通管理 | 回答・提出履歴,未確認事項,判断する者,提出前の確認者及び各期限を一覧にする。 |
帳簿に記載があることと,取引が実際にあったことは同じではない。
取引事実,記帳,申告上の処理及び法的評価を分け,税務署へ既に説明した内容と,新たに確認できた事実の違いを記録するのがよい。
2 修正申告前に争い方を確認する
国税通則法74条の11第3項は,調査結果について修正申告等を勧奨する場合,申告書を提出すると不服申立てをすることはできないが,更正の請求をすることはできる旨を説明し,その旨の書面を交付することを求めている。
修正申告をするか,処分を受けて争うかは,納付資金,税額計算,主張と証拠及び各手続の条件を踏まえて検討する必要がある。
「まず修正申告をして,後で同じ手続で争えばよい」という説明では,手続の違いを伝えられない。
判断前に,争いの対象となる本税と加算税等を区別し,更正の請求の可否・期限も別に確認するのがよい。
3 更正の請求が未処理・返送の場合の連携
更正の請求に返事がない場合は,提出版,到達日,補足資料の要求・回答,返送文書及び取下げの有無を確認する。未処理の請求,理由がない旨の通知後,その通知を争う審査請求の裁決待ちは,別の段階である。
国税通則法23条4項が調査と更正又は理由がない旨の通知を定める一方,同法74条の14により行政手続法第2章の多くは適用除外となる。行政手続法7条をそのまま根拠として説明しないことが必要である。未処分の不作為については行政不服審査法3条・4条による国税庁長官への審査請求等を,通知処分後は国税通則法上の不服申立て等を検討する。
申告担当の税理士が申告・請求の内容と提出経過を確認し,弁護士と救済類型,相当期間,期間制限,求める処分及び次の担当を具体化する運用が有用である。詳しくは,更正の請求に返事がないときを参照されたい。
第4 不服申立てと取消訴訟の期間
1 一般的な期間と例外
国税通則法75条1項1号では,通常,税務署長等の処分について,再調査の請求又は国税不服審判所長への直接の審査請求を選択できる。
どちらの手続を選ぶか,何の処分を争うか,提出先はどこかを確定してから期限を計算する必要がある。
| 手続 | 一般的な期間・条件 |
|---|---|
| 再調査の請求・直接の審査請求 | 処分を知った日(通知を受けた場合はその受領日)の翌日から3か月。処分の日の翌日から1年という期間もある(国税通則法77条1項・3項)。 |
| 再調査の決定後の審査請求 | 再調査決定書の謄本が送達された日の翌日から1か月(同条2項)。 |
| 審査請求後の取消訴訟 | 原則として裁決を経る。審査請求をした者については,裁決を知った日から6か月,又は裁決の日から1年を経過すると提起できない(国税通則法115条,行政事件訴訟法14条3項)。 |
期間制限には正当な理由がある場合の例外があるが,例外の適用を見込んで提出を遅らせるべきではない。
国税不服審判所の提出期限の説明は,差押えや公売等には別の早い期限がある場合も示している。
休日,送達,郵送・電子提出及び処分に固有の規定も確認し,表だけで期限を断定しないことが必要である。
2 裁決を待たずに提訴できる場合
国税通則法115条1項は,不服申立てができる国税の処分の取消訴訟について,原則として裁決を経ることを求める。
審査請求がされた日の翌日から3か月を経過しても裁決がない場合,著しい損害を避けるため緊急の必要がある場合その他の同項所定の場合には,裁決を経ない提訴が認められる。
裁決がない場合の提訴と,裁決後の出訴期間の計算は別の論点である。
審査請求の提出日,補正の経過,裁決の有無及び緊急性を弁護士に共有し,裁決待ちを続けるかを検討する必要がある。
3 争うことと納付・徴収の停止を分ける
国税通則法105条は,不服申立てが処分の効力や執行等を当然には妨げないとする一方,差押財産の換価に関する制限や,徴収猶予・滞納処分の続行停止等の仕組みを定める。
行政事件訴訟法25条1項も,取消訴訟の提起だけでは処分の効力や執行等を妨げないとしている。
したがって,争う方針が決まっても,納付資金や徴収への対応を放置することはできない。
納付,猶予,徴収手続への対応及び裁判所への執行停止の申立てについて,それぞれの要件と窓口を確認する必要がある。
第5 資料と期限を引き継ぐための記録
1 移行時の引継ぎ項目
①処分通知書,決定書・裁決書,封筒,送達・受領の記録及び提出済みの申立書。
②委任契約,税務代理権限証書,委任状,補佐人の選任関係及び連絡先。
③税目・年度・処分ごとの争点,税額計算,税務署の説明及び未確認事項。
④帳簿・証憑の原本の所在,提出済み資料,提出日,版,ファイルの抽出条件及び回答履歴。
⑤法定期限,提出予定日,作成・確認・提出の担当者及び依頼者が判断する日。
引継ぎは,資料を一度送れば終わりというものではない。
受け取った担当者が資料と期限を確認し,依頼範囲を確定して受任したか,誰が提出するかまで記録するのがよい。
資料不足がある場合には,未取得資料,取得担当者及び必要な期限も共有する。
更正の請求を引き継ぐ場合は,請求書と添付資料の提出版,e-Tax受信通知等の到達証拠,補足資料の要求と回答,請求を維持・変更・取下げした経過,納付・徴収の状況を追加する。未処理への対応中に通知処分が届いたときの共有先と,期間を再計算する担当も定める。これは提出漏れを防ぐ運用例であり,顧問契約の受任範囲や各職種の代理資格を当然に広げるものではない。
2 依頼者の判断と費用を明らかにする
税理士と弁護士が連携する場合でも,手続を進めるか,修正申告をするか,どの範囲を争うかについて,依頼者が理解して判断できる説明が必要である。
税理士の調査対応,審査請求の代理,弁護士の訴訟代理及び税理士の補佐人業務について,受任主体,費用,実費及び追加費用の条件を分けて確認するのがよい。
納税者本人と法人の担当者,税理士法人と税理士個人,弁護士法人と担当弁護士を同一視しない。
誰が契約を受け,誰が出頭・提出し,誰が最終判断するのかを明らかにすることが,手続移行時の空白を防ぐ。
第6 関連記事
①税務調査に関するメモ書き-事前通知,帳簿データ,質問応答記録書及びAI活用
②弁護士法人の仕組み――設立,社員の責任,退社,支店及び税務
国税庁長官に対する審査請求手続(不作為用)及び行政不服審査法3条・4条も,未処理の更正請求に関する説明の確認に用いた。
第7 出典
①e-Gov法令検索・税理士法(昭和26年法律第237号)2条,2条の2,30条,31条,48条の6,51条及び52条。
②e-Gov法令検索・国税通則法(昭和37年法律第66号)74条の11,75条,77条,105条,107条及び115条。
③e-Gov法令検索・行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)14条及び25条。
④国税庁「税理士制度Q&A」問7-3。
⑤国税不服審判所「審査請求書の提出期限は?」。