前科や別の犯罪事実があることから,直ちに今回の犯人だと推認することはできない。刑事弁護では,証拠書類としての証拠能力,その証拠で何を証明するのか,そこから犯人性を導く推論が許されるかを順に確認する。本記事は,最高裁の二つの裁判例を踏まえ,類似事実の証拠請求・採否・事実認定を点検する手順を整理する。
第1 最初に立証趣旨と証拠の種類を分ける
1 前科調書が使えることと犯人性の推認を区別する
有罪の確定裁判を受けた事実を示す前科調書と,前の事件の手口や動機を示す判決書・供述調書は,同じ内容を証明する資料ではない。また,前科を量刑事情として示す場合と,起訴された事件の犯人が被告人であることを示す場合では,推論の対象が異なる。
証拠書類の伝聞例外等が認められるとしても,そのことだけで前科を使った犯人性の立証が許されるわけではない。前科調書自体の作成・証拠能力については,前科調書とは-現行の5様式,刑事裁判での証拠能力及び取扱いで説明している。
2 前科・併合審理中の事件・未起訴の余罪を混同しない
確定した前科,併合審理されている他の起訴事実,起訴されていない余罪は,手続上の位置付けが異なる。未起訴の行為を前科と呼んだり,起訴されたという理由だけで他の犯罪事実が証明されたものとして扱ったりしてはならない。
資料を読む際は,別の出来事の存在,その行為者が被告人であること,その出来事が本件の犯人性を示すことをそれぞれ確認する。疑いのある別件を出発点にして本件を推認し,本件の疑いで別件を裏付けるという循環を避けることが,実務上の点検となる。
第2 最高裁平成24年9月7日判決が示した制限
1 自然的関連性だけでは採用を決められない
最高裁平成24年9月7日第二小法廷判決(平成23年(あ)第670号)は,前科には一般的な証拠価値があり得る一方,同種前科から実証的根拠の乏しい犯罪性向の評価へ進み,誤った事実認定に至る危険を指摘した。また,その危険を避けるために前科の内容を細かく争うことが,争点の拡散を招く点も指摘している。
したがって,何らかの関連があるというだけで採用するのではなく,証明しようとする事実と推論の内容を確かめる必要がある。証拠の証明力を裁判官の判断に委ねる刑事訴訟法318条の規定も,この採用上の制限を省略する理由にはならない。
2 顕著な特徴と相当程度の類似性を推論へつなぐ
同判決は,前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に使う場合,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を持ち,起訴に係る犯罪事実と相当程度類似し,その特徴自体から犯人が同一であると合理的に推認できることを要求した。
「以前も同じ種類の犯罪をしたから今回もした」という推論と,特徴の一致から犯人の同一性を導く推論は,区別しなければならない。比較するのは罪名の一致や漠然とした性格評価ではなく,犯行の特徴が他の者による犯行の可能性をどの程度下げるかである。この最後の説明は,判決の基準を証拠検討に用いるための整理である。
同判決では,前の犯罪と本件に動機・態様の類似があっても,その特徴がさほど特殊ではないことなどを検討した上で,犯人性の立証に前科証拠を使うことを認めなかった。単なる反復から行動傾向が強固に定着したと認定することにも,慎重な判断を示している。
第3 平成25年決定の射程と補足意見
1 前科以外の他の犯罪事実にも制限が及ぶ
最高裁平成25年2月20日第一小法廷決定(平成23年(あ)第1789号)の法廷意見は,平成24年判決の基準が,前科以外の被告人の他の犯罪事実を犯人の同一性の証明に用いる場合にも同様に当てはまるとした。実際の事案には,前科と,併合審理されている被告人が自認する他の起訴事実が含まれている。
したがって,「前科ではなく別の起訴事実だから,犯罪性向を介して犯人性を推認してよい」とはならない。同決定は,原審が採った特徴の一致に基づく推論を違法としたが,その間接事実を除外しても他の証拠による事実認定が維持できるとして,上告を棄却した。
この点から,類似事実による推論を排除すべきことと,残りの証拠では犯罪事実を認定できないことは,別に論じる必要がある。証拠の使用方法に誤りがあることだけで,無罪や原判決の破棄が当然に導かれるものではない。
2 併合審理の総合評価に関する補足意見を分けて読む
同決定には,金築誠志裁判官の補足意見がある。補足意見は,複数事件についての場所・時間の関係や他の証拠による立証を踏まえた総合的な認定と,犯罪傾向を認定して犯人性の間接事実にする推論を区別し,事案に応じた検討を述べている。
これは法廷意見の基準を一律に緩和した最高裁の一般的な結論として扱うべきものではない。他の事件を含めた評価を主張する際は,何が独立の証拠で既に裏付けられ,どの事実間の関係を評価しようとしているかを明らかにする。未起訴の余罪を検討する場合にも,疑いだけを確定した犯罪事実と同じように扱わず,資料の裏付けと推論を区別する必要がある。
第4 証拠請求と弁護人の確認手順
1 証拠ごとの検討表を作る
次の表は,上記裁判例を踏まえた実務上の点検方法である。裁判所が統一的に指定した様式や法定の記載事項ではない。
| 確認対象 | 確認する内容 | 記録する結果 |
|---|---|---|
| 立証趣旨 | 情状,犯人性など,何を証明するための資料か | 証明対象と証拠番号 |
| 別件の基礎 | 出来事の存在と行為者が何で裏付けられるか | 証拠と争いのある部分 |
| 特徴 | 手段・方法等のどこに顕著な特徴があるとされるか | 特徴を示す具体的記載 |
| 類似性 | 本件との一致点と相違点をどう評価するか | 類似の程度と反対事情 |
| 推論の経路 | 特徴自体から同一性が導かれるか,犯罪性向を介するか | 採用への賛否と理由 |
| 残りの証拠 | 類似事実による推論を除いた立証がどうなるか | なお争うべき認定事項 |
特徴の「数」が多いことだけで,識別力が高いとはいえない。一般的な犯行でも共通し得る事項を並べたのか,組合せに意味があるのかを検討する。また,一致する事項だけを拾わず,相違や類似しない出来事も確認する。
2 証拠能力への異議と証明力の反論を分ける
刑事訴訟法298条は当事者による証拠調べの請求を,309条は証拠調べに関する異議を定める。証拠請求への意見を準備する際は,立証趣旨,証明対象,顕著な特徴の有無,類似の程度及び推論の経路を具体的に示し,採用を争うのか,採用後の証明力を争うのかを明確にする。
書面であれば,伝聞例外等の要件も別途点検する。証人尋問が請求されている場合には,調書が不同意であることだけで検討を終えず,その証人が証明する事実と,それを犯人性に用いることの可否を検討する。
実務上は,証拠番号と該当箇所,検察官の推論,自分が争う段階,裁判所の採否及びその理由を対応させて残すと,後の弁論で同じ問題を取り違えにくい。手続段階に応じた提出時期や異議の方法は,当該事件の進行と適用される規定を確認する。
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3 令和2年司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目
第6 出典と対象範囲
1 最高裁平成24年9月7日第二小法廷判決,平成23年(あ)第670号。前科証拠の採用基準はPDF4~5頁,具体的評価と結論は5~7頁。
2 最高裁平成25年2月20日第一小法廷決定,平成23年(あ)第1789号。法廷意見はPDF1~4頁,補足意見は4~9頁。両者を区別している。
3 e-Gov法令検索「刑事訴訟法」,298条,309条,317条及び318条。令和8年10月9日時点の施行条文を確認した。
本記事は,前科・他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場面を中心とする。前科のあらゆる使用目的の可否,個別事件での証拠開示の範囲又は異議申立ての時期・方法を一律に定めるものではない。検討表及び記録の残し方は,判例を踏まえた実務上の提案である。