第1 改善基準告示と労働基準法を分ける
1 タクシー運転者は1日何時間働けるか
タクシー運転者は1日何時間働けるかという問いには,勤務形態を分け,労働時間と拘束時間を区別して答える必要がある。
通常の日勤では拘束時間が1日13時間以内を基本とし,延長しても15時間が上限である。
隔日勤務では2暦日の拘束時間が22時間以内で,2回平均1回当たり21時間以内という基準もある。
これらは休憩を含む時間であり,実働時間の上限や平均実績をそのまま示す数字ではない。
タクシー・ハイヤー運転者の労働時間管理では,労働基準法の法定労働時間・休憩・休日・割増賃金と,改善基準告示の拘束時間・休息期間を分けて確認する必要がある。
一方を満たせば他方も当然に満たすという関係ではない。
2 日勤・隔日勤務の拘束時間と休息期間の比較
次の表は,令和6年4月1日以降の通常のタクシー勤務に関する主な基準である。
車庫待ち等の特例は第5で区別して扱う。
| 確認事項 | 日勤勤務 | 隔日勤務 |
|---|---|---|
| 勤務形態 | 始業・終業が同一の日に属する勤務 | 始業・終業が同一の日に属さない勤務 |
| 1か月の拘束時間 | 288時間以内 | 262時間以内。地域的事情等と労使協定がある場合は年6か月まで270時間 |
| 1日・2暦日の拘束時間 | 始業から24時間について13時間以内。延長時の上限15時間。14時間超は週3回までが目安 | 2暦日22時間以内,かつ2回平均1回当たり21時間以内 |
| 勤務終了後の休息期間 | 継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし,9時間を下回らない | 継続24時間以上与えるよう努めることを基本とし,22時間を下回らない |
表の根拠は,厚生労働省「タクシー・ハイヤー運転者の労働時間等の改善基準のポイント」の4頁~9頁である。
ハイヤーには,この表のタクシーの拘束時間・休息期間の規定は適用されず,時間外労働の上限規制や必要な睡眠を確保するための休息を別に確認する必要がある(同パンフレット14頁)。
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準は,令和4年12月に改正され,令和6年4月1日から新基準が適用されている。
古い解説にある日勤の月299時間等の数字は,現在の基準ではない。
第2 拘束時間・労働時間・休憩・休息期間
拘束時間は,始業から終業までの使用者に拘束される全時間であり,労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む。)の合計である。
客待ち・手待ちが使用者の指揮命令下にある場合は労働時間に当たり得るため,「走行していない時間」を一律に休憩時間と扱うことはできない。
休憩時間は一つの勤務の途中に置かれ,労働者が自由に利用できる時間である。
これに対し,休息期間は一つの勤務の終業から次の勤務の始業までの,使用者の拘束を受けない生活時間である。
したがって,日報の「休憩」欄だけでなく,配車指示への応答義務,車両から離れられるか,呼出しへの対応が必要かという実態を確認する。
仮眠設備があっても,直ちにその全時間が休憩又は休息期間になるわけではない。
1 客待ち・配車待機は休憩になるか
客が乗っていない時間でも,配車指示があれば直ちに対応する義務があり,労働から離れることが保障されていなければ,労働時間として扱う必要がある。
日報に「休憩」と入力されていることや,車両が停止していることだけでは判断できない。
会社の指示,配車への応答義務,休憩場所を離れる自由及び実際の対応を確認する。
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の2頁は,指示があれば即時に業務に従事することを求められ,労働から離れることが保障されていない待機時間を労働時間として扱うとしている。
2 仮眠はすべて休憩になるか
仮眠中でも,呼出しや配車に直ちに対応する義務があり,労働からの解放が保障されていない場合は,実作業がない時間も労働時間となり得る。
反対に,対応義務から解放され,自由に利用できる時間であれば,休憩として扱えるかをその実態に即して確認する。
最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決(平成9年(オ)第608号・第609号,民集56巻2号361頁)は,ビル管理業務の仮眠について,待機と警報・電話への即時対応が義務付けられていた事情の下で労働時間性を認めた。
タクシーの仮眠を直接判断した事件ではないため,すべての仮眠へ結論を一律に当てはめず,会社の指示と実際の対応義務を確認する。
3 点検・洗車・納金は乗務時間の外なら除外できるか
会社の指示で行う業務上必要な点検,洗車,納金又は引継ぎは,乗客を運んでいる時間の外にあるという理由だけで労働時間から除外できない。
何を,いつ,どこで行うよう指示されていたかと,その作業に社会通念上必要な時間を確認する。
最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決(平成7年(オ)第2029号,民集54巻3号801頁)は,事業所内で義務付けられ,又は余儀なくされた準備行為等の時間について,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかにより判断している。
タクシーの点検・洗車・納金等についても,打刻や日報の名称だけでなく,業務の指示と実態を確認することが必要である。
第3 日勤勤務者の上限
日勤勤務者について,令和6年4月適用の主な基準は次のとおりである。
①一箇月の拘束時間は288時間以内
②一日の拘束時間は13時間以内を基本とし,延長しても15時間が上限
③一日14時間を超える回数は週3回までが目安
④勤務終了後の休息期間は継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし,9時間を下回らない
ここでいう一日は,始業時刻から起算する24時間で確認する。
月の拘束時間だけが288時間以内でも,一日の上限又は休息期間を満たさなければ適合しない。
例えば,月曜日8時に始業し21時に終業した勤務は,始業から終業まで13時間である。
そのうち労働から解放され自由に利用できた休憩が2時間なら,実労働時間は11時間となるが,拘束時間は13時間のままである。
この例だけで勤務全体の適法性が決まるわけではなく,法定労働時間,勤務制度及び三六協定を別に確認する。
翌日の火曜日に6時から勤務を始める場合,月曜日8時からの24時間には,火曜日6時~8時の2時間も含まれる。
そのため,月曜日の始業から24時間の拘束時間は13時間+2時間=15時間となり,一勤務の13時間だけで判定してはならない。
1か月の拘束時間は各勤務の始業から終業までを合計するため,この24時間計算とは集計方法を区別する(厚生労働省パンフレット4頁・6頁)。
第4 隔日勤務者の上限
隔日勤務は,始業と終業が同一の日に属さない勤務である。
主な基準は次のとおりである。
①一箇月の拘束時間は262時間以内
②地域的事情その他の特別な事情があり,労使協定を締結した場合は,一箇月270時間まで延長できる月を年6箇月まで設けられる
③二暦日の拘束時間は22時間以内,かつ,二回の隔日勤務を平均して一回当たり21時間以内
④勤務終了後の休息期間は継続24時間以上与えるよう努めることを基本とし,22時間を下回らない
隔日勤務では一回の勤務が二つの暦日にまたがるため,日勤と同じ「一日」の計算を当てはめない。
勤務ごとの拘束時間,2回平均及び月間合計をそれぞれ確認する。
厚生労働省パンフレット9頁は,特定の隔日勤務について,前の隔日勤務との平均と,次の隔日勤務との平均のいずれもが21時間を超えた場合に,平均の基準への違反と判断すると説明している。
例えば,前の勤務20時間,対象勤務22時間,次の勤務21時間なら,対象勤務と前の勤務の平均は21時間,次の勤務との平均は21.5時間であり,片方だけの平均で直ちに違反と判定しない。
ただし,各勤務の22時間以内,月間拘束時間及び休息期間等の基準は別に満たす必要がある。
第5 車庫待ち等・予期し得ない事象・休日労働
1 車庫待ち等の自動車運転者
人口規模,流し営業の割合,夜間仮眠及び事業場内休憩の実態など所定の要件を満たす「車庫待ち等の自動車運転者」には,労使協定等を前提とする特例がある。
単に駅や営業所で客待ちをすることがあるというだけで,特例の対象になるわけではない。
特例には月間又は勤務ごとの延長と追加要件が組み合わされているため,数字だけを抜き出さず,厚生労働省パンフレットの該当類型と労使協定を照合する必要がある。
2 予期し得ない事象
車両の予期しない故障,運転中に遭遇した災害・事故による道路封鎖又は渋滞,警報発表時の異常気象等への対応時間は,所定の条件で一日又は二暦日の拘束時間から除くことができる。
運転日報上の記録に加え,公的機関の道路情報等の客観的な記録が必要である。
予期し得ない事象への対応時間を除く取扱いは,1日又は2暦日の拘束時間の基準に関するものであり,1か月の拘束時間からも同じ時間を差し引けるという意味ではない。
また,その対応時間を割増賃金の計算に用いる労働時間から当然に除外できるわけでもない(厚生労働省パンフレット12頁~13頁)。
道路の渋滞というだけで通常の混雑まで一律に除外せず,事象の内容,発生時刻,遅延時間及び客観的資料を照合する。
3 休日労働
休日労働は二週間に一回を超えず,休日労働によって各拘束時間の上限を超えないようにする。
自動車運転者の休日は,原則として,休息期間に24時間を加算した連続した労働義務のない時間として確認する。
4 明け番と公休日は同じか
「明け番」「明け休み」等の呼び方だけで,改善基準告示上の休日が確保されたとは判断できない。
通常の日勤の休日は継続33時間以上,隔日勤務の休日は継続46時間以上の労働義務のない時間を確保する必要がある(厚生労働省パンフレット15頁)。
例えば,隔日勤務が火曜日6時に終わり,水曜日4時に次の勤務を始める場合,勤務間の時間は22時間である。
これは休息期間の最低時間の確認と,休日として必要な連続時間の確認とが別であることを示す例であり,その22時間を休日1日と数えることはできない。
勤務表では,終業から次の始業までの実際の時間と,その間の呼出しや業務の有無を確認する。
第6 時間外労働年960時間との関係
令和6年4月1日から,自動車運転の業務には,臨時的な特別の事情がある場合でも時間外労働を年960時間までとする上限規制が適用されている。
三六協定では,原則として月45時間・年360時間までとし,特別条項を用いる場合でも年960時間を超えることはできない。
年960時間は時間外労働の上限であり,拘束時間の上限を年960時間分だけ延ばせるという意味ではない。
三六協定,法定労働時間,改善基準告示の拘束時間及び必要な休息期間を,それぞれ満たす必要がある。
変形労働時間制を適法に導入すると,特定の日又は週に法定労働時間を超える所定労働時間を設定できるが,勤務をあらかじめ特定する等の要件がある。
変形労働時間制を採用しても,改善基準告示,三六協定及び割増賃金の検討は残る。
第7 勤務表と実績で確認する事項
労務監査又は未払残業代の検討では,就業規則と三六協定だけでなく,実際の勤務を示す資料を確認する。
①勤務割表,出勤簿及び賃金台帳
②乗務記録,日報及び点呼記録
③運行記録計,配車システム及びGPSの記録
④休憩・仮眠の開始終了時刻と呼出しの有無
⑤始業・終業時の洗車,点検,納金及び引継ぎの時間
⑥労使協定に基づく延長月と対象運転者
⑦予期し得ない事象の内容と客観資料
改善基準告示への適合は,予定表だけでなく実績で判定する。
拘束時間の集計と割増賃金の計算は目的が異なるため,同じ集計表の一列だけで済ませず,法定時間外,所定時間外,深夜及び休日を区別する。
記録を整理するときは,乗務日ごとに「日報上の表示」「実際の作業・対応義務」「裏付け資料」を対応させると,拘束時間の違反と未払賃金の問題を区別しやすい。
次の表は確認のための例であり,記録の名称だけで労働時間性を決めるものではない。
| 場面 | 確認する実態 | 照合する資料の例 |
|---|---|---|
| 客待ち・配車待機 | 即時対応義務,場所の指定,労働から離れる自由 | 日報,配車指示・応答記録,会社の運用説明 |
| 休憩・仮眠 | 自由に使える開始・終了時刻,呼出し義務と実際の対応 | 休憩記録,通話・配車記録,勤務割表 |
| 点検・洗車・納金・引継ぎ | 会社の指示,実施時刻,作業に必要な時間 | 点呼・点検記録,納金記録,入退場・引継ぎ記録 |
| 始業・終業と勤務間 | 打刻外の業務,次の始業時刻,途中の業務 | 出勤簿,日報,点呼記録,適法に保有する業務連絡 |
GPSや車両の停止記録は,他の記録との照合には役立つが,停止していた全時間が休憩であったことを直接示すものではない。
労働者は適法に保有できる手元資料を早期に保存し,会社側の記録は対象期間と必要な項目を明確にして開示を求めることが考えられる。
会社側は,自己申告と客観的な記録に著しい差がある場合,実態を調査して必要な補正をすることが求められる(労働時間適正把握ガイドライン3頁)。
歩合給でも残業代の検討が不要になるわけではない。
固定給と歩合給を分けた計算例は,時間外労働,休日労働及び深夜労働と残業代請求(AIリライト)の第5の3,歩合給から割増金を控除する賃金制度の判断は,固定残業代が有効になる要件(AI作成)の第3の2を参照されたい。
第8 関連記事
時間外・休日・深夜労働及び割増賃金の一般論は,時間外労働,休日労働及び深夜労働と残業代請求(AIリライト)を参照されたい。
固定残業代とタクシー歩合給をめぐる最高裁判例は,固定残業代が有効になる要件―判別可能性・対価性と最高裁7判決,職務手当型の規程の点検(AI作成)を参照されたい。
運行管理者の選任,点呼及び過労防止措置は,自動車運送事業の運行管理者―選任人数・資格・点呼・補助者(AIリライト)を参照されたい。
タクシー事業全体の規制については,タクシー事業の法規制・労務・事故対応の全体像(AIリライト)を参照されたい。
第9 出典
①厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」
②厚生労働省「タクシー・ハイヤー運転者の改善基準告示」
③厚生労働省「ハイヤー・タクシー運転者の改善基準告示」
④令和4年12月23日基発1223第3号「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の一部改正等について」
⑤厚生労働省「改善基準告示(令和6年4月1日適用)に関するQ&A(タクシー関係抜粋・令和7年3月11日追補)」
⑥労働基準法(e-Gov法令検索)
⑦厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)1頁~3頁
⑧最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決(平成7年(オ)第2029号,民集54巻3号801頁)
⑨最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決(平成9年(オ)第608号・第609号,民集56巻2号361頁)