第1 運行管理者の位置付けと対象
1 運行管理者は営業所の安全管理を担う者である
運行管理者は,バス,タクシー,ハイヤー,トラック等の自動車運送事業において,営業所ごとの運行の安全を確保するために選任される者である。旅客運送では道路運送法第23条,貨物運送では貨物自動車運送事業法第16条が選任の根拠となり,具体的な選任基準と職務は各省令に定められている。
運行管理者は,単なる運転者の勤務表の作成者ではない。点呼による酒気帯び,疾病,疲労,睡眠不足等の確認,運転者等の配置,乗務記録の管理,過労運転の防止,事故時の記録,指導監督等を通じて,事業者の安全管理を現場で実施する立場である。他方,運行管理者を選任しても事業者の責任が運行管理者へ移るものではなく,事業者は必要な権限を与え,その助言を尊重しなければならない。
2 安全運転管理者等とは別の制度である
名称の近い制度は,対象車両と法的根拠を分けて理解する必要がある。
①安全運転管理者は,道路交通法第74条の3に基づき,一定台数以上の自家用自動車を使用する事業所等で選任される者である。事業者が事業用自動車とは別に自家用自動車も使用しているときは,それぞれの制度の適用を判定する必要がある。
②貨物軽自動車安全管理者は,貨物軽自動車運送事業の営業所ごとに選任される別制度であり,令和7年4月1日に選任・届出等が義務化された。一般貨物自動車運送事業等の運行管理者と同じ資格ではない。
③運送利用管理者は,運送委託の適正化を担う別制度である。令和8年4月1日から,前年度のトラック利用運送量が100万トンを超える貨物利用運送事業者にも運送利用管理規程の作成と選任が義務付けられたが,車両の運行の安全を管理する運行管理者とは役割が異なる。
第2 営業所ごとの選任義務と必要人数
1 旅客自動車運送事業の選任基準
旅客自動車運送事業運輸規則第47条の9は,事業の種類ごとに選任対象となる営業所,資格者証の種類及び最低人数を定めている。車両数は営業所が運行を管理する事業用自動車の数で判定する。
| 事業の種類 | 選任が必要な営業所 | 最低人数 |
|---|---|---|
| 一般乗合旅客自動車運送事業 | 定員11人以上の車両を管理する営業所,又は定員10人以下の車両を5両以上管理する営業所 | 車両数を40で除した整数部分に1を加えた人数 |
| 一般貸切旅客自動車運送事業 | 車両を管理する営業所 | 19両以下は2人。ただし,4両以下で地方運輸局長が安全確保に支障がないと認める場合は1人。20両以上99両以下は車両数を20で除した整数部分に1を加えた人数。100両以上は100両を超える数を30で除した整数部分に6を加えた人数 |
| 一般乗用旅客自動車運送事業 | 車両を5両以上管理する営業所 | 車両数を40で除した整数部分に1を加えた人数 |
| 特定旅客自動車運送事業 | 定員11人以上の車両を管理する営業所,又は定員10人以下の車両を5両以上管理する営業所 | 車両数を40で除した整数部分に1を加えた人数 |
一般貸切旅客自動車運送事業では,保有車両が少なくても原則2人を要する点,100両を境に算定方法が変わる点に注意を要する。また,事業の種類により使用できる資格者証の種類が異なり,一般貸切旅客自動車運送事業では旅客自動車運送事業の資格者証が必要である。
2 貨物自動車運送事業の選任基準
一般貨物自動車運送事業者等は,事業用自動車の運行を管理する営業所ごとに,車両数を30で除した整数部分に1を加えた人数以上の運行管理者を選任しなければならない。被けん引自動車は車両数から除かれるため,29両以下は1人,30両から59両までは2人,60両から89両までは3人となる。
ただし,5両未満の車両を管理する営業所について,地方運輸局長が車種,地理的条件その他の事情から安全確保に支障がないと認めたときは,選任を要しない。この例外は車両数だけで自動的に適用されるものではない。
3 統括運行管理者と選任・解任の届出
一つの営業所に複数の運行管理者を置く場合,事業者は,その業務を統括する統括運行管理者を選任しなければならない。統括運行管理者は別種類の資格ではなく,選任された運行管理者のうち統括業務を担う者である。
運行管理者を選任又は解任したときは,旅客運送では道路運送法第23条第3項,貨物運送では貨物自動車運送事業法第16条第3項により,遅滞なく届け出なければならない。地方運輸局等の案内では旅客は15日以内,貨物は1週間以内を提出時期の目安としている例があるため,所管運輸支局の最新様式と案内を確認するのが安全である。
第3 資格者証,試験及び講習
1 資格者証を取得する二つの経路
運行管理者として選任されるには,原則として事業の種類に対応する運行管理者資格者証が必要である。資格者証の取得経路には,①運行管理者試験に合格する方法と,②一定の実務経験と講習受講による方法がある。
実務経験と講習による方法では,原則として,同じ種類の事業用自動車について5年以上の運行管理実務経験があり,その間に基礎講習1回以上を含む所定の講習を5回以上受講することを要する。同じ年度に複数回受講しても資格要件上は1回と数えられる。旅客のうち一般貸切旅客自動車運送事業についてはこの経路がなく,旅客区分の運行管理者試験に合格して資格者証の交付を受ける必要がある。
2 運行管理者試験
運行管理者試験には旅客と貨物の区分があり,受験資格は,対応する事業用自動車の運行管理に関する1年以上の実務経験,又は国土交通大臣認定の基礎講習の修了等である。試験はCBT方式で実施され,法令分野と運行管理実務から30問が出題される。
合格には,総得点が30問中18問以上であることに加え,各法令分野で少なくとも1問,運行管理実務で少なくとも2問の正解を要する。申請期間,試験期間,受験資格を証明する書類等は回次により定められるため,公益財団法人運行管理者試験センターの試験案内で確認する必要がある。
3 選任後に必要となる講習
講習は,資格者証を得るためだけのものではない。選任された運行管理者には,原則として2年度ごとに一般講習を受講させる必要があり,新たに選任された場合,重大事故等が生じた場合又は行政処分を受けた場合には,一般講習又は特別講習の対象となることがある。対象者と受講時期は,旅客自動車運送事業運輸規則第48条の4及び貨物自動車運送事業輸送安全規則第23条並びに所管運輸支局の通知で確認すべきである。
独立行政法人自動車事故対策機構の運行管理者等指導講習には基礎講習,一般講習及び特別講習がある。補助者の選任要件となる講習と,選任された運行管理者の定期的な一般講習を混同してはならない。
第4 運行管理者の権限と主要な職務
1 事業者と運行管理者の関係
運行管理者は,法令に定められた事項について誠実に職務を行い,安全確保について事業者へ必要な助言をする。事業者は,その職務に必要な権限を与え,助言を尊重しなければならず,運転者その他の従業員は運行管理者の指導に従わなければならない。
したがって,資格者を名簿上だけ選任し,勤務実態,権限又は代務体制がない状態では制度の目的を満たさない。営業所では,運行管理規程に権限,指揮命令系統,不在時の補助体制,記録の作成・保存方法を具体化し,日常の運用と一致させる必要がある。
2 旅客運送と貨物運送の主な職務
旅客運送における職務は旅客自動車運送事業運輸規則第48条,貨物運送における職務は貨物自動車運送事業輸送安全規則第20条に列挙されている。両者に共通する中核は,運転者等の適切な選任,点呼,過労運転の防止,乗務記録等の管理,事故記録,運転者への指導監督及び異常時の措置であるが,事業特性に応じて細部が異なる。
記録の名称にも違いがある。旅客運送では乗務員台帳,貨物運送では運転者等台帳を作成して営業所に備え置くのであり,「乗務員台帳」や「乗務員証」が全ての貨物運送に一律に必要となるわけではない。帳票名だけを合わせるのではなく,各省令が求める記載事項と保存方法を確認する必要がある。
第5 点呼の方法と記録
1 業務前,業務後及び中間点呼
事業者は,運行管理者に,運転者等に対する業務前点呼と業務後点呼を行わせなければならない。貨物運送では,その両方を対面又は国土交通大臣が定める方法で行えない運行について,途中で少なくとも1回の点呼も必要となる。一般貸切旅客自動車運送事業では,夜間の長距離運行について,途中で少なくとも1回の点呼が別に義務付けられている。各点呼は,対面又は対面と同等の効果があるものとして国土交通大臣が定める方法によって行い,運行上やむを得ない場合に限って電話その他の方法を用いる。
業務前点呼では,酒気帯びの有無,疾病,疲労,睡眠不足その他安全運転ができないおそれの有無,車両の日常点検の状況等を確認し,必要な指示をする。業務後点呼では,酒気帯びの有無,車両,運行経路及び道路状況の異常,交替運転者への通告事項等を確認する。確認の結果,安全な運転ができないおそれがあるときは,乗務させない判断が必要である。
2 アルコール検知器と記録保存
酒気帯びの有無は,目視等による確認に加えてアルコール検知器を用いて確認し,検知器を常時有効に保持しなければならない。これは現在の旅客・貨物運送事業の義務であり,将来の開始予定として扱うべきものではない。
点呼記録には,実施者,運転者等,日時,方法,確認結果,指示事項その他所定事項を記録し,原則1年間保存する。一般貸切旅客自動車運送事業では,電磁的方法による点呼記録を3年間保存し,点呼時の録音・録画記録を90日間保存するなど,加重された記録義務がある。使用する方式ごとの告示,要領及び解釈通達にも追加の保存事項があるため,省令本文だけで運用を決めない方がよい。
第6 遠隔点呼,自動点呼及び運行管理業務の一元化
1 三つの仕組みを区別する必要がある
遠隔点呼は,運行管理者等がICT機器を介して運転者等とリアルタイムに応答し,必要事項を確認する仕組みである。自動点呼は,国土交通大臣の認定を受けた機器が確認,判断及び記録の全部又は一部を行う仕組みであり,現在は業務前と業務後の双方に制度がある。いずれも,単に市販のウェブ会議システム又はアルコール検知器を導入すれば足りるものではなく,告示上の要件,認定機器,施設・環境,監視・非常時対応及び保存記録を満たす必要がある。
運行管理業務の一元化は,同一事業者内の複数営業所について,一定の運行管理業務を集約する仕組みである。これに対し,事業者間遠隔点呼は別事業者へ点呼業務を委託する仕組みであり,旅客では道路運送法第35条,貨物では貨物自動車運送事業法第29条に基づく管理の受委託の許可が必要となる。これらを,運行管理者の選任義務そのものがなくなる制度と理解してはならない。
2 実施前の届出又は許可
国土交通省の現行案内では,遠隔点呼と自動点呼の実施届は,原則として実施予定日の10日前までに管轄運輸支局長等へ提出する。事業者間遠隔点呼に係る管理の受委託は,実施の2か月前までの許可申請が必要であり,契約書,細目,自己点検表等も用意されている。
告示,通達,認定機器一覧及び様式は改正・追加が続いているため,導入時には国土交通省「運行管理高度化ワーキンググループ」の遠隔点呼・自動点呼情報に掲載された最新版を確認する必要がある。旧通達や過去の認定機器一覧だけを基準にすると,現行要件とのずれが生じ得る。
第7 補助者を置く場合の限界
補助者は,運行管理者資格者証を有する者,又は国土交通大臣認定の基礎講習を修了した者等から選任できる。旅客の資格者証を持つ者が貨物の補助者となることや,貨物の資格者証を持つ者が旅客の補助者となることも省令上予定されているが,旅客では資格者証の返納命令を受けた日から5年を経過しない者を補助者に選任できない。
補助者は,運行管理者の指示の下で点呼等の業務を補助する者であり,運行管理者に代わって営業所の運行管理全体を引き受ける者ではない。補助者が行った点呼で異常が判明したときの報告・判断経路,補助できる業務の範囲,運行管理者への引継ぎ及び勤務割を運行管理規程に定め,運行管理者が補助業務を把握できる体制を作る必要がある。
補助者の選任・解任について,貸切バスでは届出が必要である一方,乗合バス,タクシー及び貨物では通常の運行管理者選任届と同じ届出を要しない。ただし,届出が不要であっても,選任要件の確認資料と運行管理規程上の位置付けは残すべきである。
第8 労働時間と健康管理との接続
運行管理は,点呼の瞬間だけで完結しない。自動車運転者の労働時間等の改善のための基準は,拘束時間,休息期間,運転時間,連続運転時間等を定めており,令和6年4月1日から改正基準が適用されている。厚生労働省は令和7年3月11日までに追加したQ&Aも公表しているため,勤務表と運行指示書は最新の基準に合わせて作成する必要がある。
また,運転者の疾病,疲労及び睡眠不足は点呼項目であると同時に,採用時・定期健康診断,精密検査,治療状況,適性診断,日常の自己申告をつなげて管理すべき事項である。国土交通省の事業用自動車の運転者の健康管理に関する情報には健康管理マニュアルや疾患別対策が掲載されている。医学的判断そのものは医師に委ねつつ,事業者と運行管理者は,乗務可否を判断するための情報が適時に届く手順を定める必要がある。
第9 監査,行政処分及び記録管理
運行管理者の未選任,必要人数の不足,名義だけの選任,点呼の未実施・不実記載,アルコール検知器の不使用,過労運転防止措置の不備,帳票の未作成等は,事業者に対する行政処分の対象となり得る。違反内容と処分日車数等は,国土交通省の自動車運送事業者に対する行政処分等の基準及び各地方運輸局の公示で確認できる。
監査対応では,帳票が存在することと,実際の運行管理が行われていたことを区別する必要がある。点呼記録,乗務記録,運行指示書,デジタル式運行記録計等のデータ,健康・指導記録及び勤務割の時系列が整合し,異常があった場合の判断と是正措置まで追跡できる状態にしておくことが,安全管理と説明可能性の双方に資する。
第10 関連する記事
貨物軽自動車運送事業は通常の運行管理者制度とは異なるため,貨物軽自動車運送事業に関するメモ書きを参照されたい。バス,タクシー及びトラックの事業区分の概略は,交通事故の専門サイト「自動車運送事業」で整理している。
第11 出典・参考資料
1 法令・通達
①道路運送法(昭和26年法律第183号)第23条,第23条の2,第23条の5及び第35条(e-Gov法令検索)
②旅客自動車運送事業運輸規則(昭和31年運輸省令第44号)第21条の2,第24条,第47条の9,第48条,第48条の4,第48条の5及び第48条の12(e-Gov法令検索)
③貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)第16条,第17条,第20条及び第29条(e-Gov法令検索)
④貨物自動車運送事業輸送安全規則(平成2年運輸省令第22号)第7条,第18条から第20条まで,第23条,第24条及び第31条(e-Gov法令検索)
⑤道路交通法(昭和35年法律第105号)第74条の3(e-Gov法令検索)
⑥国土交通省「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」(平成14年1月30日制定,令和8年6月26日最終改正)
⑦国土交通省「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」(平成15年3月10日制定,令和8年6月26日最終改正)
2 公的資料
①国土交通省「運行管理者について」
②国土交通省「運行管理高度化ワーキンググループ」(遠隔点呼・自動点呼の告示,通達,認定機器,届出様式等)
③中国運輸局「運行管理者について」(選任人数,資格要件及び補助者)
④公益財団法人運行管理者試験センター「試験概要」
⑤独立行政法人自動車事故対策機構「運行管理者等指導講習」
⑥厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」
⑦国土交通省「事業用自動車の運転者の健康管理」
⑧国土交通省「貨物軽自動車運送事業における安全対策」
⑨警察庁「安全運転管理者制度」
⑩国土交通省「自動車運送事業者に対する行政処分等の基準」
⑪国土交通省「トラック適正化二法について」(令和8年4月1日施行分を含む。)
3 文献
①川合智『トラック運送業の運輸局監査対策』(日本法令,2023年)172頁~184頁,203頁~206頁,325頁