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土壌汚染地の相続税評価と浄化・改善費用―区域の種類,最も合理的な措置,求償権及び対策費用の税務(AI作成)

第1 この記事の要点

1 対象と結論

本記事は,相続税・贈与税の申告で土壌汚染地をどう評価するかについて,国税庁の「土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)」(令和6年6月21日,資産評価企画官情報第3号・資産課税課情報第11号)と土壌汚染対策法の条文を突き合わせて整理するものである。
国税庁の情報は,課税実務の取扱いを整理した資料であり,法令や通達そのものではない。

土壌汚染地の価額は,汚染がないものとした場合の価額から,浄化・改善費用に相当する金額,使用収益制限による減価に相当する金額及び心理的要因による減価に相当する金額を控除して求める(原価方式)。
このうち実務上の争点になりやすいのは浄化・改善費用であり,国税庁の情報は,見積額を「課税時期において最も合理的と認められる措置」に基づいて算定し,その地域の標準的な土地利用の実現に必要な範囲に限るとしている。

土壌汚染対策法は,汚染の存在そのものではなく,汚染による人の健康被害の防止を目的とし,区域の種類によって求める措置が大きく異なる。
そのため,汚染が判明した土地について,掘削除去(汚染土壌を掘り取って搬出する方法)の見積額をそのまま控除額にする前に,区域の種類と法が求める措置を確かめる必要がある。
本記事では,あわせて,費用が確定している場合の債務控除,汚染原因者に対する求償権・損害賠償請求権の計上及び汚染土壌対策費用の所得税・法人税の扱いを説明する。

2 前提

本記事の基準日は令和8年10月10日である。
土壌汚染対策法とその施行令・施行規則は,e-Gov法令検索の現行版(令和8年7月1日施行の改正後の版)で確認した。
この改正で変わったのは権限の委任先の名称(法63条)等であり,本記事で引用する条文の内容は,令和7年7月時点の版と同じである。

第2 土壌汚染地として評価する土地

国税庁の情報によれば,土壌汚染地として評価する土地は,課税時期において,特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないと認められる土地である(情報2頁)。
次の3点に注意する。

①汚染の可能性があるという潜在的な段階では,土壌汚染地として評価することはできない。
②土壌汚染の調査・対策が義務付けられているかどうかを問わない。
③要措置区域又は形質変更時要届出区域に指定されていれば,基準に適合しないことが明らかであるから,いずれも土壌汚染地に当たる。

区域に指定されているかどうかは,都道府県知事(政令で定める市では市長)が調製する台帳で確かめる。
台帳は,正当な理由がなければ閲覧を拒めないとされている(土壌汚染対策法15条3項)。
台帳には,形質変更時要届出区域のうち汚染が専ら自然に由来する区域(自然由来特例区域)等であるかどうかも記載される(同法施行規則58条5項)。

区域の種類は,次のとおり,健康被害が生ずるおそれの有無で分かれる。
要措置区域は,土壌の汚染状態が基準に適合せず,かつ,健康被害が生じ,又は生ずるおそれがあるものとして政令で定める基準に該当する土地である(同法6条1項)。
形質変更時要届出区域は,基準に適合しないが,その政令の基準には該当しない土地である(同法11条1項)。
政令の基準は,地下水を経由する摂取については周辺に飲用井戸等の取水口があるかどうか,土壌の直接摂取については土壌含有量基準に適合せず人が立ち入ることができる土地かどうかで判断される(同法施行令5条1号,同法施行規則30条)。

第3 評価の算式

国税庁の情報は,土壌汚染地の価額を次の算式で求めるとしている(情報4頁)。

項目内容
汚染がないものとした場合の価額汚染がないものとして路線価等に基づき評価した価額
浄化・改善費用に相当する金額土壌汚染の除去措置又は封じ込め等の措置に係る費用(所有者等の負担に属さないものを除く。)の見積額の80%相当額
使用収益制限による減価に相当する金額封じ込め等の措置を実施した場合に,その機能を維持するための利用制限から生ずる減価。個別に検討する
心理的要因による減価に相当する金額汚染の存在による心理的な嫌悪感から生ずる減価(スティグマ)。基本的には考慮しない
土壌汚染地の価額汚染がないものとした場合の価額から,上の3つを控除した金額

浄化・改善費用を見積額の80%相当額とするのは,汚染がないものとした場合の価額(路線価等)が地価公示価格水準の8割程度とされていることとのバランスによる。
控除額の合計が汚染がないものとした場合の価額を上回るときは,その価額が限度となる。
封じ込め等の措置により,その地域の標準的な土地利用が実現する場合には,原則として使用収益制限による減価は生じないとされている。

第4 浄化・改善費用の見積り―「最も合理的と認められる措置」と土壌汚染対策法

1 国税庁の情報が示す基準

国税庁の情報は,浄化・改善費用の見積額について,次の3点を示している(情報3頁)。

①土壌汚染の除去措置又は封じ込め等の措置のうち,課税時期において最も合理的と認められる措置に基づき算定する。
②指定調査機関から複数の見積りを取るなどして,最も合理的な措置かどうかを検証することが望ましい。
③路線価等が地域の標準的な画地を前提としていることから,控除するのは,その地域における標準的な土地の利用の実現に必要な範囲の費用とし,浄化・改善費用が生ずる蓋然性が低い土地では控除額はないものとして扱う。

③の例として,国税庁の情報は,現状の利用がその地域の標準的な土地の利用と合致している土地や,標準的な土地の利用を実現するのに浄化・改善費用を支出する必要のない土地を挙げている。

2 要措置区域の場合

要措置区域では,都道府県知事が,健康被害を防止するため必要な限度で,講ずべき措置(指示措置)を示して汚染除去等計画の提出を指示する(土壌汚染対策法7条1項)。
指示措置は土地の区分ごとに定められ,例えば,土壌溶出量基準に適合しないが地下水汚染が生じていない土地では地下水の水質の測定,第二種特定有害物質(鉛・砒素等)の土壌含有量基準に適合しない土地では原則として盛土である(同法施行規則36条1項・別表第六)。
掘削除去を含む土壌汚染の除去は,指示措置と同等以上の効果を有する措置の一つとして,土地の所有者等が選ぶことができるものにとどまる(同条3項・別表第六)。
環境省の施行通知(平成31年3月1日環水大土発第1903015号)も,土壌汚染の除去,とりわけ掘削除去は,汚染の拡散のリスクを防止する観点からできる限り抑制的に取り扱うこととしている(同通知52頁)。

そうすると,要措置区域の土地でも,「最も合理的と認められる措置」は,指示措置又はそれと同等の措置を基準に検討することになると考えられる。
もっとも,その地域の標準的な土地利用(例えば中高層の建物の建築)を実現するために掘削工事が避けられないときは,その工事に伴う汚染土壌の処理費用が問題となる。

3 形質変更時要届出区域の場合

形質変更時要届出区域では,汚染の除去等の措置は求められない。
土地の形質の変更をするときに,着手の14日前までの届出が必要となり(土壌汚染対策法12条1項),施行方法が基準に適合しなければ計画の変更が命じられ得る(同条5項)。
掘削した土壌を区域外へ搬出するときは,搬出の届出(同法16条1項),汚染土壌処理業者への処理の委託(同法18条1項)及び管理票の交付(同法20条1項)が必要となる。

したがって,形質変更時要届出区域の土地では,現状の利用を続ける限り法令上の対策費用は生じない。
国税庁の情報に照らすと,現状の利用がその地域の標準的な土地利用と合致していれば,浄化・改善費用が生ずる蓋然性が低いとして控除額がないとされる可能性がある。
他方,標準的な土地利用の実現に建物の基礎工事等の掘削が必要な地域では,その掘削で生ずる汚染土壌の運搬・処理の費用が,控除の対象になり得る費用の中心となると考えられる。

4 自然由来の汚染の場合

汚染が専ら自然に由来し,第二溶出量基準に適合して地質的に同質な状態で広がっている等の要件を満たす区域(自然由来等形質変更時要届出区域)の土壌は,汚染状況と地質が同様の他の自然由来等形質変更時要届出区域内の土地の形質の変更に使うための搬出であれば,汚染土壌処理業者への処理の委託を要しない(土壌汚染対策法18条1項2号・2項)。
人為的な汚染と同じ前提で処理費用を見積もると,過大になることがある。

5 見積りの点検

浄化・改善費用の見積書を受け取ったときは,次の点を確かめる。

①見積りの前提とした措置が,掘削除去か,封じ込め・地下水の水質の測定・盛土等か。
②区域の種類(要措置区域か形質変更時要届出区域か,自然由来特例区域等か)と,指示措置の内容。
③見積りの対象範囲が,その地域の標準的な土地利用の実現に必要な範囲に限られているか。
④他の措置による見積りと比べたか(複数の見積り)。
⑤費用のうち所有者等の負担に属さないもの(汚染原因者の負担等)を除いたか。

第5 費用が確定している場合と,汚染原因者に対する権利

1 浄化・改善費用の額が確定している場合

国税庁の情報は,課税時期において,都道府県知事から汚染の除去等の命令が出されて費用の額が確定している場合や,措置中の土地で費用の額が確定している場合には,未払の費用の額を土地の評価額から控除するのではなく,相続税法14条1項の「確実と認められる」債務として債務控除し,土地は浄化・改善措置を了したものとして評価するとしている(情報4頁)。
助成金が交付される場合は,債務控除の額から助成金の額を控除する。
相続税法13条1項1号は被相続人の債務で相続開始の際現に存するものを控除するとし,同法14条1項は控除すべき債務を確実と認められるものに限っている。

2 汚染原因者に対する求償権

国税庁の情報は,被相続人が汚染の除去等の措置を行い,汚染原因者にその費用を請求している場合には,土地は浄化・改善措置後の土地として評価し,求償権を相続財産に計上するとしている(情報5頁)。
求償権は,回収できない場合もあるため,財産評価基本通達204・205(貸付金債権の評価)に準じて評価するのが相当とされている。

ここで,土壌汚染対策法8条1項の請求権は,要措置区域で知事の指示を受けた土地の所有者等が実施措置を講じた場合のものであり,請求できる額は,指示措置に係る汚染除去等計画の作成・変更と指示措置に要する費用の額が限度である。
所有者等が指示措置より費用の高い掘削除去を選んだ場合でも,同条による請求は指示措置の費用の額までとなる。
求償権を計上するときは,この上限と回収可能性の両方を確かめる。

3 損害賠償請求権

国税庁の情報は,土地の所有者等が汚染原因者に損害賠償請求をしている場合には,その損害賠償請求権も相続財産に当たるとしている(情報5頁の注)。
指示を受けずに自主的に行った調査・浄化の費用は土壌汚染対策法8条の対象ではないので,民法709条その他の民事上の根拠で請求することになる。
この場合も,掘削除去費用の全額が当然に相当因果関係のある損害と認められるとは限らず,健康被害のおそれの程度や他の対策方法の費用が争点になり得る(令和7年度司法試験環境法第1問の模範解答の第5の3参照)。
相続財産として計上する価額も,請求額ではなく,認められる見込みと回収可能性から検討することになると考えられる。

第6 汚染土壌対策費用の所得税・法人税

土地の所有者が実際に対策費用を支出した場合の所得税・法人税の扱いについては,国税局の文書回答が2件公表されている。
いずれも照会された事実関係を前提とする個別の回答であり,事実関係が異なれば結論も異なり得る。

①福岡国税局の平成22年3月26日付文書回答(汚染土壌対策に要する費用に係る法人税法上の取扱いについて)は,工場跡地の遮水壁の埋設,汚染土壌の掘削除去,良質土による埋戻し及びアスファルト舗装の費用を修繕費として工事完了の事業年度の損金とし,汚染土壌の焼却処分の委託費は役務の提供に応じて損金とし,維持管理費は債務の確定した事業年度の損金とし,浄化設備の取得・設置費用は減価償却資産とする照会者の見解を,そのとおりで差し支えないとした。
②東京国税局の平成26年7月2日付文書回答(汚染土壌対策に要する費用に係る所得税法上の取扱いについて)は,不動産所得の業務用の土地について,掘削除去・埋戻し・舗装等の工事費用を修繕費として工事完了の年分の必要経費とし,処理処分の委託費は役務の提供を受けた年分の必要経費とし,地下水浄化の費用は債務の確定した年分の必要経費とする照会者の見解を,そのとおりで差し支えないとした。

掘削除去・埋戻しの費用が修繕費とされた理由は,いずれの回答でも,土地を汚染前の状態に回復するための支出であり,使用可能期間の延長や価額の増加に当たる部分がないことにある。

第7 実務上の確認事項

①都道府県等の台帳で,区域指定の有無,区域の種類,指定の理由となった物質,自然由来特例区域等かどうかを確かめる。
②土壌汚染状況調査の報告書で,土壌溶出量基準・土壌含有量基準のどちらに適合しないのか,地下水汚染の有無,汚染の深さと範囲を確かめる。
③要措置区域であれば,知事が示した指示措置と期限,汚染除去等計画の内容と進捗を確かめる。
④浄化・改善費用の見積りが,最も合理的と認められる措置と,地域の標準的な土地利用の実現に必要な範囲に基づいているかを確かめる。
⑤費用が確定している場合は,債務控除の要件(確実と認められる債務)を満たすかを確かめる。
⑥汚染原因者への求償・損害賠償の請求の有無,請求額の上限(土壌汚染対策法8条1項)と回収可能性を確かめる。
⑦遺産分割や売却では,相続税評価額と取引価格が一致するとは限らないので,評価の前提とした措置と費用を相続人の間で共有する。

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第9 出典及び確認状態

①国税庁「土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)」(令和6年6月21日)及び別添PDF
②土壌汚染対策法(e-Gov法令検索)
③土壌汚染対策法施行令(e-Gov法令検索)
④土壌汚染対策法施行規則(e-Gov法令検索)
⑤相続税法(e-Gov法令検索)
⑥環境省「土壌汚染対策法の一部を改正する法律による改正後の土壌汚染対策法の施行について」(平成31年3月1日環水大土発第1903015号)
⑦福岡国税局文書回答「汚染土壌対策に要する費用に係る法人税法上の取扱いについて」(平成22年3月26日)
⑧東京国税局文書回答「汚染土壌対策に要する費用に係る所得税法上の取扱いについて」(平成26年7月2日)

国税庁の情報は,別添PDF(全17枚。目次の次から1頁〜16頁の頁番号が印字されている。)のうち,土壌汚染地の評価の部分(1頁〜10頁)を全て読んだ。
本記事の「情報◯頁」は,この印字された頁番号による。
土壌汚染対策法・同法施行令・同法施行規則・相続税法の条文は,令和8年10月10日にe-Gov法令APIで現行版を取得して確認した。
二つの文書回答は,照会の内容と回答の本文を国税庁ウェブサイトで確認した。
財産評価基本通達204・205は,国税庁の情報が求償権の評価で準用するとしている箇所を紹介したもので,通達の本文は本記事では引用していない。
本記事では裁判例を引用していない。