第1 RSUは,付与・株式取得・売却を分けて確認する
RSU(Restricted Stock Unit,制限株式ユニット)は,一定の勤務継続等の条件を満たした従業員に,将来,株式等を交付する株式報酬の仕組みである。ただし,その名称だけで日本の課税時期や所得区分を決めることはできない。報酬プラン,付与契約及び実際の交付方法を読む必要がある。
本記事は,日本の居住者である従業員が外国の親会社等から株式報酬を受ける場合を中心に,申告前に確認すべき事項を説明する。勤務の対価である株式報酬については,株式を売っていなくても給与所得の問題が生じ得る。取得後の売却や配当は,その給与所得とは分けて計算する。
1 確認する日付
付与日(grant),勤務条件等の充足日(vesting),株式への転換・決済日(conversion・settlement),証券口座への実際の移管日,売却日を分けて記録する。会社やプランによって用語の意味が異なり,複数の日が一致する場合もある。
特に,vestingと表示された後にも失権・取消条件が残るのか,株式の引渡しを確定的に請求できるのはいつか,株主としての権利をいつ取得するのかを確認する。「vestingと書かれている日が,どのプランでも必ず日本の課税日になる」という処理は避けるべきである。
2 ストックオプションや譲渡制限付株式との違い
ストックオプションは,定められた価格で株式を取得する権利である。RSUの株式報酬に,税制適格ストックオプションの課税繰延べをそのまま適用できるわけではない。ストックオプションの所得税―税制適格・非適格の区別も参照されたい。
また,実際の株式を先に交付する譲渡制限付株式と,将来の株式交付を約するユニットは区別する。所得税法施行令84条の特定譲渡制限付株式等には,法令上の要件と譲渡制限解除時の評価の定めがある。社内の売却禁止期間があるという理由だけで,この特例に該当するとはいえない。
第2 課税時期は,報酬契約上の権利取得を確認する
1 所得税法36条と現金以外の報酬
所得税法28条は給与所得を定め,36条は現金以外の物・権利・経済的利益による収入と,その取得又は享受時の価額を定めている。現金が銀行口座に入っていないことや,株式をまだ売却していないことだけで,給与所得の計上を先送りできるわけではない。
確認するのは,報酬の原因となる権利がいつ確定するかである。契約に残る条件,株式引渡請求権,転換の通知及び移管の手続を照合し,取引画面の日付だけで判断しないことが重要である。
2 東京高裁平成28年5月25日判決
国税庁公表の判決本文では,外国法人のストック・ユニットが平成20年9月8日に株式へ転換した事案について,給与等の収入すべき日が問題となった。
裁判所は,当該プラン・報酬証書と通知の内容を検討し,転換日が報酬の支払日・株式の引渡日であり,従業員が同日以降に株式の引渡しを求められることを重視した。口座への後日の移管は事務手続上の連絡であり,グループの従業員取引ポリシーによる売却制限も,この事案の権利取得日の判断を変更しないとした。
この判決から学ぶべきことは,口座への移管日や売却可能日を一律に課税日とすることの危険である。異なる条件のRSUにも,判決中の「転換日」という名称だけを当てはめるべきではない。
3 東京高裁平成28年4月14日判決と公表裁決
東京高裁平成28年4月14日判決も,転換と現実の引渡しを区別し,当該事案で採用された株式の終値とTTMによる円換算を合理的とした。納税者が選んだ評価方法であれば当然に認められる,という判断ではない。
国税不服審判所平成24年2月10日裁決(公表抄)でも,vesting後に転換前の取消条件が残る仕組み,転換後の株主としての地位及び口座振替の事務手続が検討されている。裁決は個別の行政上の判断であり,裁判所の判決と同じものとして扱わない。
これらの資料は,それぞれの報酬条件と平成20年の取引に関する判断である。現在の個別プランに当てはめる際には,現行法令と契約条件を改めて確認する必要がある。
第3 給与所得の金額,円換算と申告資料
1 株数,時価,為替相場をそろえる
勤務の対価として株式を取得する場合は,課税時期に対応する株数,株価,円換算の根拠をそろえる。会社が示した外貨額,報酬明細,証券会社の画面及び日本の申告書の金額を照合し,日付や通貨の違いを説明できるようにする。
外貨建取引については,所得税法57条の3の円換算の定めも確認する。前記平成28年4月14日判決の終値・TTMに関する判断は重要であるが,異なる制度や取引について,会社の画面に表示された価格・換算額を無条件で転記してよいという意味ではない。
2 税金相当額の株式控除・売却を確認する
会社が交付株数の一部を税金相当額として控除したり,株式を売却して納税資金を確保したりすることがある。入庫した純株数だけを機械的に給与収入に用いず,報酬の総額,控除・売却された株数,その法的処理,税の支払先及び給与明細への計上を確認する。
「tax withholding」と表示されていても,どの国の,誰の税が支払われたかが不明なままでは,日本の源泉徴収税額として申告できるとは判断できない。会社・税務担当者から,徴収税目,納税国及び本人に帰属する税額の資料を取得する。
3 年末調整と確定申告
国内勤務先の源泉徴収票に株式報酬が含まれているかを確認し,既に給与に含まれている金額を再び加算しない。他方,外国親会社等から受けた報酬が源泉徴収票に含まれていない場合には,日本で申告する必要があるかを確認する。
国税庁No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」は,源泉徴収義務のない者から給与等を受ける人を挙げている。所得税法120条・121条による判定が必要であり,「会社員の副収入が20万円以下だから申告不要」という説明を,源泉徴収対象でない株式報酬に当然に当てはめない。
第4 取得後の売却と配当は別に計算する
1 売却代金の全額が利益になるわけではない
取得した株式を売却した場合は,売却収入から取得費・売却手数料等を控除して,株式の譲渡による所得を計算する。給与報酬として株式を無償で受けたという理由だけで,取得費を零とするべきではない。
国税庁No.1464「譲渡した株式等の取得費」及び所得税法施行令109条・118条を確認し,その取得方法に対応した取得価額を用いる。通常は,給与所得で把握した取得時の価額と取得費の根拠を整合させることが重要である。外国の証券会社が表示するcost basisが,日本の税法上の取得費と一致するとは限らない。
同一銘柄を複数回取得して一部を売却した場合には,No.1466「同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入している場合の取得費」も参照し,総平均法に準ずる方法による計算を確認する。付与回ごとの明細を保存するとともに,その株式の他の取得・売却も漏らさない。
2 配当と,株式交付前の配当相当額
株主となった後の配当は,株式取得時の給与報酬とは別に整理する。外国税の控除前の配当額,源泉徴収された税額及び支払日を記録する。詳しくは,米国株の配当金にかかる二重課税を解消し,税金の還付を受ける方法を参照されたい。
株式の交付前に会社から支払われるdividend equivalent(配当相当額)は,その名称だけで株主としての配当と同じ扱いにしない。実際の株主か,報酬契約上の給付かを確認し,所得区分・課税時期を別に判断する。
3 取得後の値下がりと給与課税
株式取得後に値下がりしても,それだけで取得時の給与所得が消えるわけではない。給与所得の計上と株式の売却損益は,所得区分と対象年を分けて検討する。国税庁No.2250「損益通算」が説明するとおり,申告分離課税の株式譲渡の損失を給与所得と通算することはできない。上場株式等の配当との通算や繰越控除は,No.1474の対象取引・申告要件を別に確認する。
第5 外国税額控除,海外勤務と財産報告
1 外国税が引かれていても,全額を控除できるとは限らない
外国税額控除は,外国で何らかの税金が引かれていれば当然にその全額が戻る制度ではない。本人に課された控除対象の外国所得税か,日本の課税所得に含まれる国外源泉所得か,条約による課税の限度,控除限度額及び必要書類を確認する。
国税庁No.1240「居住者に係る外国税額控除」を基礎に,給与報酬,売却所得及び配当ごとに整理する。会社が株式を差し引いたことだけでは,外国所得税の納付や控除要件が証明されたことにならない。
2 海外勤務・帰国・非永住者の場合
付与から権利取得までの間に海外勤務,帰国又は転居がある場合は,居住者区分,勤務の対価となる期間・場所,所得の国内外源泉及び租税条約の適用を個別に確認する。「外国親会社の株式だから全額が国外源泉所得」という判定はしない。
非永住者には,国外源泉所得と国内払・送金に関する課税範囲の定めがある。海外送金に税金はかかるか―自己資金,贈与,貸付返済と国外財産調書・CRSも参照されたい。勤務日数による具体的な配分や外国での課税は,勤務記録と各国の法令・条約を確認して判断する。
3 年末の保有と国外転出
取得した外国株式を海外口座で保有する場合には,国外財産調書・財産債務調書の提出要件も確認する。給与所得を申告したことだけで財産報告の検討が終わるわけではない。未転換のユニットも,株式とは異なる権利として,年末時点の条件と報告制度上の取扱いを確認する。
海外移住や非居住者への贈与・相続を予定する場合には,国外転出時課税―対象資産,納税管理人と納税猶予も確認する。交付済みの株式と,まだ株式になっていない契約上の権利を混同しないことが重要である。
第6 相談・申告時に保存する資料
1 報酬契約と権利取得の資料
報酬プラン,付与契約,award certificate,変更・繰上げ通知,退職・競業等による失権条項,vesting・conversion・settlementの履歴を保存する。社内取引ポリシーと報酬契約の取消条件は,別々に確認する。
2 金額と納税の資料
株数の総額・控除・交付の内訳,株価,為替相場とその取得元,給与明細,源泉徴収票,売買報告書,配当明細及び外国税の証明を保存する。外国の申告書・還付通知も取得し,後日還付された外国税について,控除額の見直しが必要か確認する。
3 勤務・居住の資料
勤務先,勤務場所,出入国・転居日,国内外の勤務記録及び契約上の報酬対象期間を整理する。弁護士は契約上の権利と失権条件,税理士は所得区分・計上年・円換算・控除・申告の整合を確認し,判断の前提を共有することが重要である。
第7 主要な根拠資料
本記事は,令和8年10月11日に確認した法令,国税庁の説明,国税庁公表の控訴審判決本文及び国税不服審判所の公表裁決抄を基礎とする。前記控訴審判決は,本文で引用される第一審判決の全記載まで独立に確認したという意味ではない。
– 所得税法28条・36条・57条の3・95条・120条・121条: https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
– 所得税法施行令84条・109条・118条: https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
– 東京高裁平成28年5月25日判決(税務訴訟資料・順号12857): https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2016/pdf/12857.pdf
– 東京高裁平成28年4月14日判決(税務訴訟資料・順号12842): https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2016/pdf/12842.pdf
– 国税不服審判所平成24年2月10日裁決(公表抄): https://www.kfs.go.jp/service/JP/86/08/index.html
– 国税庁No.1900: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
– 国税庁No.1464・No.1466: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1464.htm , https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1466.htm
– 国税庁No.1240: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm
– 国税庁No.2250・No.1474: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm , https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm