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黒川検事長の勤務延長と文書不存在――大阪地裁令和6年6月27日判決の解説(AI作成)

第1 判決が取り消したものと判断していないもの

大阪地裁令和6年6月27日判決は、黒川弘務元東京高検検事長の勤務延長をめぐる法解釈変更の検討文書について、文書不存在を理由とした不開示決定の一部を取り消した判決である。解釈変更の目的と文書の保有を認定した一方、勤務延長の閣議決定そのものを取り消したり、勤務延長自体の法的効力を判断したりした判決ではない。

事件は令和4年(行ウ)第5号・行政文書不開示決定処分取消等請求事件である。以下の文書番号は、裁判所公表の判決全文の別紙2に対応する。同全文では検事長の氏名が「A」と匿名化されている。法務省の令和6年7月12日会見資料でも、本件は黒川元検事長の定年延長に係る文書開示訴訟として説明されている。

主文は、法務大臣の令和3年11月2日付不開示決定(法務省刑総第979号)のうち、請求対象文書1ないし3を不開示とした部分を取り消した。それ以外の取消請求及び予備的な国家賠償請求は棄却された。文書4・5も含めて全ての請求が認容されたと読むことはできない。

第2 開示請求と訴訟の経緯

1 勤務延長に至る時期

判決が認定した経過によれば、法務省は令和2年1月16日に「検察官の勤務延長について(200116メモ)」を作成し、同月17日に関係機関への説明に用いる「勤務延長制度(国公法第81条の3)の検察官への適用について」を作成した。同月17日から24日までに内閣法制局、人事院及び内閣人事局との調整を行った。

法務大臣は同月29日に勤務延長の閣議を求め、内閣は同月31日、黒川検事長の勤務を同年8月7日まで延長する旨の閣議決定をした。勤務延長がなければ、黒川氏は63歳の誕生日の前日である同年2月7日に定年退官する予定であった。勤務延長の開始日は同月8日である。

2 6種類の文書と不開示決定

原告は令和3年9月2日付けで、法解釈変更の省内検討、決裁、官邸との事前相談等に関する6種類の文書の開示を請求した。法務省からの確認と求補正を経て、文書3の記載を一部補正した。

法務大臣は同年11月2日、文書1ないし4を法務省刑総第979号、文書5を法務省人検第273号により、作成又は取得しておらず保有していないとして不開示とした。文書6については、勤務延長の理由、略歴、同意書等を添付した閣議請議案を含む内部決裁文書が開示された。原告は令和4年1月13日に取消訴訟等を提起した。

第3 文書1ないし3――「閣議要請のため」の意味

1 請求書全体と補正のやり取りを読む

裁判所は、開示対象文書の意味は、請求書に記載された特定事項の文言と記載全体の趣旨から合理的に解釈して確定すべきものとした。補正や事実上の確認が行われた場合には、請求者の回答・対応も十分考慮する。請求者の内心だけで対象を決めるという枠組みは採用していない(判決14~15頁)。

国は、文書1ないし3の「閣議要請のため」を、閣議請議という手続自体を行うためという意味と主張した。裁判所は、続く文言が法解釈変更の協議・検討等の文書を指していること、法務省の求補正書も勤務延長を目的とする解釈変更という読み方をしていたことから、黒川検事長の勤務延長を目的としてという意味に解するのが自然かつ合理的であると判断した(判決18~19頁)。

2 解釈変更の目的をどう認定したか

裁判所は、次の事情を総合して、解釈変更が黒川検事長の勤務延長を目的として行われたと推認した(判決21~30頁)。

・令和元年10月末には、従来の「検察官に勤務延長制度を適用しない」という解釈を前提とした改正案の審査が進んでいたこと。

・その後、短期間で従来の解釈を変更し、法務事務次官自らの対応も含め、令和2年1月17日から24日の8日間で関係機関との調整を終えたこと。

・閣議決定が、黒川氏の定年退官予定日の7日前に行われたこと。

・制度の適用可能性や具体的な運用が全国の検察庁・検察官に周知されず、黒川氏以外の検察官に勤務延長が行われなかったこと。

・この時期に直ちに解釈変更をする具体的な必要性について、検討文書等に十分な説明が見当たらなかったこと。

その結果、法務省が保有していた上記2種類の検討文書は、文書1ないし3に該当すると認定された。文書不存在を理由とする当該部分の不開示は違法と判断された。ただし、これらの事情から、首相等による特定の指示まで認定されたと広げて読むことはできない。

第4 文書4・5――取消請求が認められなかった理由

1 文書4は実際に決裁を経た文書という請求だった

文書4は、法務省行政文書取扱規則の別表第一番号20の「法令の解釈及び運用に関すること」に該当する文書を求めるものであった。原告は、規則上該当すると解すべき文書も含むと主張した。

裁判所は、法務省が、当時同規則に該当するものとして扱われ、規則13条の決裁を経た文書という理解を示したのに対し、原告が特段の説明・異議を示さず請求を維持した経過を重視した。そのため、請求対象は実際にその扱いで決裁を経た文書と解された(判決19~21頁)。

2種類の検討文書は当時の運用により規則所定の決裁を経ていなかったので、この意味での文書4には該当しない。ほかに該当文書の保有を認める証拠もなく、文書4の不開示は適法とされた。決裁を経ない運用自体の適法性が、この判断によって全面的に認められたわけではない。

2 文書5は官邸との相談記録の保有が立証されなかった

文書5は、勤務延長について事前に内閣総理大臣等と相談・折衝・伺い等をした文書である。裁判所は、単なる連絡・通知ではなく、相手の意見や意向を踏まえた調整・協議を伴うものと解した。

しかし、本件の証拠では、相談等の実施及び行政文書の保有を認められないとした。相談があり得るという一般論や、取材源等を確認できない書籍の記載だけでは足りず、仮に相談があっても文書が作成されない場合や組織共用されない個人的メモにとどまる場合もあり得るとしたのである(判決31~33頁)。これは、官邸との相談が一切なかったと積極的に認定したこととは異なる。

文書不存在による不開示決定の取消訴訟では、不開示決定時に行政機関が対象文書を保有していたことについて、取消しを求める者が主張立証責任を負う。判決はこの点について最高裁平成26年7月14日第二小法廷判決・集民247号63頁を参照した(判決30頁)。

第5 国家賠償請求と控訴しないとの説明

1 文書作成義務と原告個人に対する義務の区別

予備的な国家賠償請求は、法令上の作成義務がある文書を情報公開回避の目的で作成しなかったという主張に基づくものであった。文書1ないし3は取消請求が認められたため、裁判所は、その部分の予備的請求について判断する必要はないとした。

文書4・5については、公文書管理法4条の文書作成義務は国民全体の一般的利益に資するものであり、それだけで原告個人に対する職務上の法的義務の根拠とはならないと判断した。また、秘密にする目的であえて作成しなかったという事実も、的確な証拠がないとした(判決33~34頁)。

したがって、この判決を「行政機関に文書作成義務はない」と一般化したり、不開示決定の取消しと国家賠償の成立を同じものとして扱ったりするのは正確ではない。

2 国が控訴しなかった理由

令和6年7月12日法務大臣閣議後記者会見で、法務大臣は、前日の11日が控訴期限であり、国は控訴しなかったと説明した。対象となり得る文書は他の情報公開請求で開示したことがあること等から、控訴して判決を是正する実益が乏しいという説明である。

同会見では、国の主張と異なる事実認定を受け止める一方、解釈変更の目的についての当時の国会説明を今回訂正すると述べているわけではないとも説明した。控訴しなかった事実と、法務省が従前の説明を明示的に訂正したかという点は区別して読む必要がある。

第6 情報公開請求を検討する際の留意点

請求する文書の範囲は、推測する目的や形式的な決裁の有無によって過度に狭めないことが有用である。例えば、検討メモを含めて求めるなら、正式な決裁を経た文書だけを指すのか、決裁の有無を問わず職務上作成・取得され組織的に用いられる検討記録を含むのかを明確にする。

行政機関から確認・補正を求められたときは、提示された理解が希望する範囲より狭い場合、その相違を具体的に書面で説明し、求補正書、回答、電話連絡の記録を保存しておく。本判決は、そのやり取りが後の対象文書の解釈に影響することを示している。

これらは本判決から得られる請求文言と記録管理の留意点であり、同じ文言を用いれば必ず開示されるという基準ではない。対象文書の保有、組織共用性及び不開示情報の有無は、それぞれの事案で判断される。

第7 関連記事と出典

・東京高検検事長の勤務延長問題:閣議書と国会答弁の資料。

・検察官の勤務延長をめぐる法解釈:当時の政府説明と筆者の検討。

・法務省・人事院の文書と作成時期の政府答弁:解釈変更の資料。

・検察官の定年・勤務延長と現行制度:令和2年案、令和3年成立法、現在の取扱い。

・質問主意書の答弁書作成過程の文書と情報公開請求:答弁書作成関係の別資料。

主要な出典は、裁判所公表の判決全文(主文1頁、事案2~6頁、判断14~34頁、別紙目録37~38頁)及び法務省の令和6年7月12日会見資料である。政府の検討内容の原資料は、勤務延長制度の検察官への適用について及び検察庁法改正案策定経緯文書を参照されたい。