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大学病院における医療等情報の提供に伴う課題と要望―全国医学部長病院長会議の提言と法務上の論点(AI作成)

第1 資料の位置付けと要点

1 大学病院側の提言を読む意味

「大学病院における医療等情報の提供に伴う課題と要望」は,全国医学部長病院長会議(AJMC)が令和8年7月8日の内閣府「医療等情報の利活用の推進に関する検討会」第13回会合に提出した資料である。大学病院が保有する医療情報を研究開発に活用する際の,費用,人材,データ品質,患者対応,知的財産及び責任分担の課題をまとめている。

提言の中心は,データ提供の推進に協力する一方で,財政・技術支援と人材確保を先行させ,電子カルテの更新時期などを考慮して段階的に進めるべきだという点にある。接続システムを作れば終わるわけではなく,抽出・修正・問い合わせ・拒否申出への対応を継続する負担がある。

本記事は,この資料と令和8年10月9日公表の正式な「とりまとめ」を対照し,大学病院の管理部門,情報部門,研究部門及び法務担当者が確認すべき事項を整理する。患者の同意と各制度の全体像は,医療情報は同意なく使われるようになるのかで説明している。

2 要望・政策方針・現行制度を区別する

AJMC資料は大学病院側の要望であり,それ自体が病院の提供義務や免責を定めるものではない。10月のとりまとめも制度改正に向けた政策方針であり,新たな提供義務が直ちに施行されたことを意味しない。とりまとめは令和9年通常国会への法案提出を目指すことを踏まえ,法制上の調整・検討を進めるべきとしている。

したがって,令和8年10月11日時点の実務では,現行の提供ルートと手続を確認する必要がある。「今後,提供義務の対象とする方針である」という記述を,「現在,すべての大学病院が,すべての研究データを提出しなければならない」という意味に読み替えてはならない。

第2 調査から分かる現場の負担

1 回答数と集計の範囲

AJMCは令和8年6月10日から24日まで,大学病院82校を対象に調査し,71校から回答を得た。資料3頁のFHIR対応やDICOM形式での画像出力に関する数値には,対応済みだけでなく対応予定が含まれる。接続可能性と,継続的に研究用途のデータを提供できる体制とは区別する必要がある。

資料4頁の負担に関する自由記述は,回答71校のうち48校によるものである。その整理では,費用負担が40件,人的負担が22件,技術的負担が21件,制度的負担が8件として示されている。これらは資料による分類数であり,排他的な回答割合や全国すべての大学病院の割合として扱うべきではない。資料5頁の提供義務化に関する自由記述は29校であり,48校の集計とは別である。

2 初期整備よりも継続運用が問題となる

負担として挙げられているのは,電子カルテ・部門システムの改修,標準コードへの対応,画像出力,共通仕様の不足,認定事業者ごとに異なる接続,専任人材の確保,医師によるデータ確認などである。診療情報,研究情報及び患者説明を複数部署が扱うため,情報システム担当者だけに任せることは難しい。

AJMC資料14頁には,1施設当たりの経費負担について次の「イメージ」が示されている。

区分資料上の金額と期間
初期整備費用数年間で2.2億円〜8.8億円
ランニングコスト年間1.7億円〜5.2億円

この金額は参考的な費用イメージであり,71校の実支出の平均値ではない。施設規模,既存設備,対象データ,接続方式などを揃えた見積りでもないため,個別病院の必要予算をこの数字だけで決定することはできない。予算協議では,初期費用と毎年の運用費を分け,追加データや仕様変更により増える費用も見積もるべきである。

第3 全国医学部長病院長会議の9つの要望

1 財政支援・制度簡素化・専門人材

AJMC資料10頁から13頁の要望は,次の9項目に整理できる。表は資料の趣旨を要約したものである。

要望求めている対応
01 財政支援継続的な支援,加工等の認定事業者負担,出力機能の標準化による病院負担の軽減
02 制度簡素化制度の整理,分かりやすい判断手順,倫理審査と出口規制の役割分担,国による周知
03 対価・知財保険診療データの提供費用の回収と,研究由来データ等の権利保護
04 対象範囲保険診療由来データと,大学が独自に蓄積したゲノム等の学術資源との区別
05 画像等法的位置付けの整理と,大量の画像データの伝送・蓄積に必要な投資への支援
06 安全性・責任被害補償,公的な安全解析環境,監視体制,サイバー保険への支援
07 患者対応国民の理解形成,オプトアウトの一元管理,苦情窓口の集約,免責条項の創設
08 研究への還元費用・研究利用の利益の還元,統合データベースの利用,倫理審査の合理化
09 専門人材医療情報・データ・セキュリティの人材育成,配置,人件費及び共同利用への支援

各要望は相互に関連する。例えば,データ出力を義務付けても,ベンダーの改修費,専任人材の人件費及び品質確認の負担を誰が負うかが決まらなければ,継続的な提供は難しい。標準化前の個別対応が費用を増大させるという指摘も,段階的な導入を求める理由である。

2 研究資源の保護と大学への還元

資料11頁は,保険診療によって得たデータと,大学が独自の研究費で蓄積したレジストリ・バイオバンク等のデータや,通常患者に提供されない元データを区別している。後者を提供義務の対象外とし,強制的な無償提供が生じない制度設計を求めている。

これはAJMCの制度設計上の主張である。すべての研究データに同じ知的財産権が成立するという法的結論ではない。提供対象を検討する際には,データの由来,研究費の条件,共同研究契約,営業秘密の管理,特許出願や成果公表の時期を個別に確認する必要がある。

資料13頁は,金銭的な利益に加え,大学病院自身が統合されたデータベースを研究に利用できることを重視している。提供側と利用側の双方を担う大学病院にとって,利用申請の条件,利用料及び研究者のアクセス環境も重要な検討事項となる。

3 セーフハーバーは創設要望である

資料12頁は,病院が二次提供を行っても患者から直接法的責任を追及されない「Safe Harbor(セーフハーバー)条項」の創設を求めている。これは責任軽減の要望であり,この資料を根拠に「法令に従って提供すれば,病院は一切責任を負わない」と説明することはできない。

提供先との契約で事故対応や費用負担を定めることと,患者に対する責任が法律上免除されることも別問題である。提供先の管理下で起きる事故と,病院の抽出・送信・除外処理の誤りを区別し,実際に管理できる範囲に応じて責任を整理することが必要となる。

第4 10月の正式なとりまとめとの関係

1 大規模病院と対象データを段階的に扱う方針

正式なとりまとめ12頁は,小規模事業者への配慮と,医療機関の機能・規模・システム整備状況を前提に,研究開発機能を持つ大規模病院,例えば特定機能病院及び臨床研究中核病院について,民間の認定事業者の求めに応じた提供を義務付ける方向を示している。それ以外の医療機関等は努力義務とする方針である。

制度導入時の義務対象については,まず保険診療に係る電子カルテ情報や画像情報を対象とし,他の医療等情報は提供の努力義務の対象とする方向が示された。複数の認定事業者へ別々に提供する負担の軽減と,二次利用を想定した出力形式の標準化も掲げられている。

この方針は,AJMCの7月資料で説明されていた「基本提供レベル」「拡張提供レベル」の構想と,そのまま同一ではない。7月段階の説明を現在の確定した義務区分として使わず,10月のとりまとめに照らして対象施設・データを読む必要がある。

2 公的支援を受けた研究は別の論点となる

同じ12頁では,AMED等の公的支援を受ける医療分野の研究について,知的財産権・営業秘密を保護しつつ,補助金等の要件として,認定事業者の求めに応じた研究データの提供を義務付ける方向を示している。

したがって,「独自の研究データを義務対象から除外してほしい」というAJMCの要望が,全面的に採用されたと評価することはできない。病院に対する提供義務の議論と,研究費の交付条件による提供の議論を分け,研究契約・助成条件を確認する必要がある。

3 費用還元・患者対応・識別子

とりまとめ12頁から13頁は,費用負担が医療機関に悪影響を及ぼさないよう留意し,提供費用が医療機関に還元される仕組み,病院自身によるデータ利用及び知財・営業秘密の保護を示している。ただし,個々の病院への補助額や提供価格が確定したわけではない。

患者対応について,17頁は,基本的な医療等情報を収集する公的データベースと,追加的な医療等情報を扱う民間の認定事業者を区別している。後者には,本人への事前通知を要しないオプトアウトと,権利行使についての十分な周知を組み合わせる方針を示し,必要な場合に国・公的機関が一元的に管理するとしている。公的機関等による公益目的の利用に関する例外なども示されており,拒否すればすべての利用が必ず停止する制度と断定してはならない。

患者の識別子については,16頁で,現時点では被保険者番号を活用する方向が現実的とされ,連結に支障が生じる場合に再検討する方針が示された。マイナンバーを使った仕組みがすでに採用されたという説明も適切ではない。

第5 提供費用とデータの対価を分けて検討する

1 現行ガイドラインが認める費用負担

次世代医療基盤法ガイドライン「Ⅱ.認定作成事業者編」4-2-6-2は,作成事業者が,提供に係る費用を超えて医療情報自体の対価となる支払いを行わないことを基本としている。他方,医療情報基盤の維持・拡充,提供や利用に伴うランニングコスト,医療従事者等の労務・役務の費用を負担することは妨げられないとしている。

したがって,「病院は一切費用を請求できない」という説明も,「データの価値に応じて自由に売却できる」という説明も正確ではない。このガイドラインの記述は次世代医療基盤法の認定作成事業の文脈にあるため,他の提供ルートにそのまま一般化せず,適用される制度を先に確認する必要がある。

2 契約と予算で明確にする項目

病院側では,接続・出力機能の整備費,標準コードへの変換費,画像転送費,専任人材費,品質確認費,問い合わせ対応費,仕様変更費及び契約終了時の処理費を区別することが有用である。提供先が増えた場合や対象項目が拡大した場合に,再見積り・費用協議を行う条件も定めるべきである。

とりまとめ13頁には,医療情報自体の対価を基本的に認めないガイドライン記載の在り方を検討した方がよいという意見が記載されている。これは今後の検討課題であり,現在の記載がすでに削除・変更されたことを意味しない。

第6 大学病院の法務担当者が整理すべき事項

1 提供対象と手続を台帳化する

以下は原資料の要望を踏まえた実務上の整理案である。まず,提供先,利用目的,適用制度,対象データ,作成時期,診療・研究の別,加工する主体及び拒否申出の反映方法を一覧にする。保険診療由来のデータに研究の付加情報が重なる場合は,抽出項目ごとに区分することが必要である。

死亡した患者の情報やゲノム・顔貌を含む画像についても,生存者の通常の診療データと同じ処理でよいと決めつけず,現在の制度上の取扱いを確認する。死者の医療情報と遺族の権利については,死者の医療情報の二次利用で説明している。

2 契約・運用・事故対応を対応させる

確認分野契約と運用で明確にする事項
データ品質抽出条件,欠損・誤記の扱い,修正手順,確認作業の範囲,受入基準
費用初期費用と運用費の負担,追加依頼の条件,仕様変更時の協議,請求の根拠
患者対応周知と窓口の役割,拒否情報の連携,除外確認,苦情・遺族対応の記録
安全管理接続先,再委託,権限管理,ログ,事故時の連絡・調査・復旧の分担
研究資源助成条件,知財・秘密情報,公表時期,病院側の研究利用,利用終了時の処理

責任分担は契約の条文だけで完結させず,誰が作業し,何を確認し,どの記録を残すかまで具体化する。AIで抽出・構造化する場合も,利用目的に応じた品質確認と修正の担当・費用を決める必要がある。診療現場がすべての研究目的について無制限に正確性を保証する設計は避け,提供する情報の状態と確認範囲を明示することが有用である。

提供義務の将来の対象になり得る病院でも,現段階からあらゆるデータの無条件提供を約束する必要はない。制度改正,助成条件及び標準仕様の具体化に応じて見直せるよう,提供範囲と条件を記録しておくことが重要である。企業側の規程・契約の点検については,令和8年改正個人情報保護法への対応事項も参照されたい。

第7 よくある疑問

1 すべての大学病院に提供義務が確定したのか

確定した現行義務として説明することはできない。10月のとりまとめは,機能・規模・システム整備状況を考慮した段階的な制度設計の方針であり,具体的な義務対象や施行条件は今後の法制化と区別する必要がある。

2 研究データはすべて提供対象から外れるのか

AJMCは独自に蓄積した研究資源等の除外を求めているが,とりまとめはAMED等の公的支援を受けた研究について,知財等の保護を前提に,補助金等の要件としての提供義務を示している。研究由来という理由だけで一律に結論を出すことはできない。

3 資料の費用イメージをそのまま予算要求に使えるか

参考資料として引用することはできるが,個別病院の見積りを代替しない。数年間の初期整備費と1年当たりの運用費を混ぜず,対象データや既存システムなどの前提を説明する必要がある。

4 セーフハーバーにより病院は免責されるのか

AJMC資料が述べているのは条項の創設要望である。要望があることと,適用できる免責制度が成立していることを区別し,現行制度と契約上の責任分担を確認する必要がある。

第8 主な参照資料

① 全国医学部長病院長会議「大学病院における医療等情報の提供に伴う課題と要望」(令和8年7月8日,第13回検討会資料1)。調査は3〜5頁,要望は10〜13頁,費用イメージは14〜18頁を参照した。

② 内閣府・第13回検討会の議事次第と配付資料。提出会合と資料の出所を確認できる。

③ 医療等情報の利活用の推進に関する検討会「とりまとめ」(令和8年10月9日公表)。対象データは11頁,収集・提供と費用・知財は12〜13頁,識別子は13〜16頁,患者関与は17頁,費用と今後の取組は23〜24頁を参照した。

④ 内閣府・検討会の開催状況。正式なとりまとめと,各回の資料・議事録の公表状況を確認できる。

⑤ 次世代医療基盤法ガイドライン「Ⅱ.認定作成事業者編」。提供費用と医療情報自体の対価については4-2-6-2(本文43頁)を参照した。

⑥ 個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」。個人情報保護法の改正と,内閣府検討会の今後の制度構想は区別して確認する必要がある。