東京高検検事長の勤務延長問題

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目次
第1 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長(令和2年2月8日から同年8月7日まで)等
第2 検察官を含む一般職の国家公務員に関する定年の定め
第3 検察官の勤務延長に関する政府答弁の要約,及び内閣又は法務大臣による懲戒処分の実例等
第4 検察官の勤務延長に関する法務大臣の答弁
第5 検察官の勤務延長に関する内閣法制局長官の答弁
第6 検察庁法22条及び32条の2に関する法務大臣等の答弁
第7 勤務延長に関す総理府人事局及び人事院の答弁
第8 黒川弘務東京高検検事長を検事総長に任命することは法的に可能であること
第9 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長に関する弁護士会の反対意見
第10 選挙により選ばれた公職者がその職務上行った行為が弁護士会の懲戒対象となる場合
第11 河野克俊統合幕僚長の勤務延長(平成28年11月29日から平成31年4月1日まで)
第12 国会答弁資料
第13 関連記事

第1 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長(令和2年2月8日から同年8月7日まで)等
1(1) 検事長の任命権者である内閣(検察庁法15条1項)は,令和2年1月31日,下記の理由により,国家公務員法81条の3第1項に基づき,同年2月8日に63歳の定年を迎える黒川弘務東京高検検事長の勤務を半年間延長するという閣議決定を行いました(首相官邸HPの「令和2年1月31日(金)定例閣議案件」参照)。

   東京高等検察庁管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するためには,同高等検察庁検事長黒川弘務の検察官としての豊富な経験・知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監督が不可欠であり,同人には,当分の間,引き続き同検事長の職務を遂行させる必要がある。



(2) 黒川弘務東京高検検事長(平成31年1月18日就任)が検事長就任前に検察官として捜査公判に対応していたのは以下の時期だけですから,合計で11年10ヶ月半ぐらいです。
① 1983年4月7日から1991年7月24日までの約8年4ヶ月半
・ 東京地検検事,福島地検郡山支部検事,新潟地検検事,東京地検検事及び名古屋地検検事をしていました。
② 1995年7月20日から1998年10月6日までの約3年3ヶ月半
・ 青森地検弘前支部長及び東京地検検事をしていました。
③ 2010年8月10日から同年10月24日までの約2ヶ月半
・ 松山地検検事正をしていました。
・ 2010年9月21日から報道されるようになった大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件に対応するため,同年10月25日,法務省大臣官房付となりました。
(3)ア 黒川弘務東京高検検事長の定年退職は,「業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき」(人事院規則11-8(職員の定年)7条3号)に該当するため,勤務延長されました(令和2年3月6日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁参照)。
イ 「重大かつ複雑困難な事件の捜査」が何であるかについては,捜査機関の活動内容及びその体制に関する事柄でもあることから,国会答弁でも明らかにされませんでした令和2年3月6日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁参照)。

(4) 内閣は,令和2年2月7日以前に検察官の勤務延長がなされた実例を把握していません(衆議院議員奥野総一郎君提出東京高検検事長の定年が半年間延長された件に関する質問に対する答弁書(令和2年2月18日付)参照)。
(5) 勤務延長は定年延長ともいわれます。
2(1) 35期の黒川弘務と林眞琴のどちらが検事総長となるかについて,法と経済ジャーナルHPに以下の記事が載っています(ログインしない限り,途中までしか読めませんが,途中まででも読み応えのある記事です。)。
・ 官邸の注文で覆った法務事務次官人事  「検事総長人事」に影響も(2016年11月22日付)
・ 法務・検察人事に再び「介入」した官邸 高まる緊張(2017年9月17日付)
・ 上川法相が林刑事局長の次官昇格を拒否か、検事総長人事は?(2018年1月18日付)
・ 「次の検事総長は黒川氏」で決まりなのか、検察の論理は(2019年1月24日付)
・ 稲田検事総長が退官拒絶、後任含みで黒川氏に異例の定年延長(2020年1月31日付)
(2) 林眞琴は,2014年1月9日から2018年1月8日までの間,法務省刑事局長をしていました。
(3) 黒川弘務は,2011年8月26日から2016年9月4日までの間,法務省大臣官房長をしていて,2016年9月5日から2019年1月17日までの間,法務事務次官をしていました。
(4) 「法務・検察幹部名簿(平成24年4月以降)」も参照してください。
(5) 黒川弘務東京高検検事長は,賭け麻雀問題により,令和2年5月22日に依願退官しました(「黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題」参照)。
3 exciteニュースの「”真っ黒”な甘利明を検察はなぜ「不起訴」にしたのか? 官邸と癒着した法務省幹部の”捜査潰し”全内幕」(2016年6月3日付)には以下の記載があります。
   「官房長という役職自体が、予算や人事の折衝をする役割で、政界とつながりが深いのですが、とくに黒川氏は小泉政権下で法務大臣官房参事官をつとめて以降、官房畑を歩んでおり、自民党、清和会にと非常に太いパイプをもっている。官房長になったのは民主党政権下の2011年なんですが、このときも民主党政権には非協力的で、自民党と通じているといわれていました。そして、第二次安倍政権ができると、露骨に官邸との距離を縮め、一体化といっていいくらいの関係を築くようになった。とくに菅官房長官、自民党の佐藤勉国対委員長とは非常に親しく、頻繁に会っているところを目撃されています」(前出・司法担当記者)
4 以下の閣議書を掲載しています。
① 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長に関して法務省が作成し,又は取得した文書
② 黒川弘務 東京高検検事長の勤務延長に関する閣議書(令和2年1月31日付)
→ 略歴書が付いています。
③ 黒川弘務 東京高検検事長任命の閣議書(平成31年1月8日付)
→ 詳細な履歴書が付いています。
④ 林眞琴 名古屋高検検事長及び小川新二 高松高検検事長任命の閣議書(平成29年12月26日付)


第2 検察官を含む一般職の国家公務員に関する定年の定め
1 検察庁法
(1) 検察官の定年退官を定める検察庁法22条は以下のとおりです。
   検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。
(2) 検察庁法32条の2は以下のとおりです。
   この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。
2 国家公務員法
(1) 定年による退職を定める国家公務員法81条の2第1項は以下のとおりです。
   職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
(2) 定年による退職の特例を定める国家公務員法81の3は以下のとおりです。
① 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
② 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。
(3) 国家公務員法81条の2及び81条の3は,国家公務員法の一部を改正する法律(昭和56年6月11日法律第77号)によって追加されました条文であり,昭和60年3月31日に施行されました。
3 人事院規則
・ 人事院規則11-8(職員の定年)のうち,勤務延長を定める6条ないし10条は以下のとおりです。
第六条 法第八十一条の三に規定する任命権者には、併任に係る官職の任命権者は含まれないものとする。
第七条 勤務延長は、職員が定年退職をすべきこととなる場合において、次の各号の一に該当するときに行うことができる。
一 職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき。
二 勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき。
三 業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき。
第八条 任命権者は、勤務延長を行う場合及び勤務延長の期限を延長する場合には、あらかじめ職員の同意を得なければならない。
第九条 任命権者は、勤務延長の期限の到来前に当該勤務延長の事由が消滅した場合は、職員の同意を得て、その期限を繰り上げることができる。
第十条 任命権者は、勤務延長を行う場合、勤務延長の期限を延長する場合及び勤務延長の期限を繰り上げる場合において、職員が任命権者を異にする官職に併任されているときは、当該併任に係る官職の任命権者にその旨を通知しなければならない。
4 人事院の文書
・ 定年制度の実施等について(昭和59年12月25日付の人事院事務総局任用局企画課長の文書)のうち,勤務延長に関する部分は以下のとおりです。
1 規則11―8第7条の各号には、例えば、次のような場合が該当する。
(中略)

  (3) 第3号
 定年退職予定者が大型研究プロジェクトチームの主要な構成員であるため、その者の退職により当該研究の完成が著しく遅延するなどの重大な障害が生ずる場合
 重要案件を担当する本府省局長である定年退職予定者について、当該重要案件に係る国会対応、各種審議会対応、外部との折衝、外交交渉等の業務の継続性を確保するため、引き続き任用する特別の必要性が認められる場合
 2 勤務延長を行う場合及び勤務延長の期限を延長する場合の期限は、当該勤務延長の事由に応じた必要最少限のものでなくてはならない。
3 任命権者は、勤務延長職員の勤務延長の事由となった職務の遂行に支障がないと認められる場合以外は併任を行うことができない。

4 勤務延長を行う場合及び勤務延長の期限を延長する場合の職員の同意は、定年退職日又はその期限の到来の日に近接する適切な時期に書面により得るものとする。

第3 検察官の勤務延長に関する政府答弁の要約等,及び内閣又は法務大臣による懲戒処分の実例等

1 検察官の勤務延長に関する政府答弁の要約等
(1) 検察官の勤務延長に関する法務大臣及び内閣法制局長官の答弁を要約すれば,以下のとおりになると思います(私独自の要約です。)。
   一般法たる国家公務員法の懲戒,服務等の諸規定については,特に読替規定を置くこともなく,当然に検察官にも適用されているのであって,例えば,任命権者から懲戒処分を受けた職員は人事院に不服申立てを行ってその審査を受けることができるものとされているところ、これは内閣が任命する検事長についても変わらない。
  また,公務員の中の新陳代謝を図りながら,きちっとした年齢まで働けるということを前提に,安心して人生設計をさせて,しっかり職務に当たらせるという定年制度の意義自身は,同じ国家公務員たる検察官と一般の公務員とで同じであるから,そこのところについて何か検察官の特殊性がどうこうという議論は基本的にはない。
   さらに,検察庁法32条の2は,その職務執行の公正が直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすという検察官の職務と責任の特殊性は国家公務員法施行後も変わらないことから,検察庁法中,検察官の任免に関する規定を国家公務員法の特例としたというものであり,他の一般の国家公務員についても定年が定められた昭和56年の国家公務員法改正後において検察官に特別の定年が定められているのは,その職務と責任に特殊性があることによるものと解される。
   ところで,昭和55年10月の総理府人事局作成の想定問答には,検察官の場合,勤務延長が認められないと記載されているものの,その理由は必ずしも明らかではないし,大学の教員についても勤務延長が認められない理由が職務の特殊性によるものかどうかも明らかではないし,当時と比べて色々検察行政が複雑化しているといった情勢の変化からすれば,行政府の判断として責任を持って解釈変更をするのであれば問題はない。
また,司法大臣の決定により最大で3年間,引き続き検事は在職できるとしていた裁判所構成法80条ノ2と同趣旨の規定が検察庁法で定められなかった理由について帝国議会議事録等でも特段触れられていないため,その理由は必ずしも明らかではない。

   そのため,国家公務員が定年により退職するという規範そのものは,検察官であっても一般法たる国家公務員法によっているというべきであって,検察官の定年による退職は,検察庁法22条により定年年齢及び退職時期について修正された国家公務員法81条の2第1項に基づくものと解される。
   よって,前条第1項の規定により退職した場合に適用される国家公務員法81条の3は検察官にも適用されるものと解される。
(2)ア 検事総長,次長検事及び検事長の任免権者は内閣であり(検察庁法15条1項),検事及び副検事の任免権者は法務大臣であり(国家公務員法55条1項),検事及び副検事の免職権者は法務大臣です(国家公務員法61条)。
イ 検事長,検事及び副検事の補職権者は法務大臣です(検察庁法16条1項)。
(3) 検察官の勤務延長について(2020年1月16日作成の法務省刑事局のメモ)を掲載しています。
2 内閣又は法務大臣による懲戒処分の実例等
(1) 平成22年9月に発覚した「大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件」では,任命権者である内閣又は法務大臣による懲戒処分(検察庁法25条ただし書・国家公務員法84条1項)が実施されましたところ,衆議院議員浅野貴博君提出懲戒処分を受けた検察官の処遇等に関する質問に対する答弁書(平成24年6月29日付)には以下の記載があります。
 お尋ねの検察官の行為の中には、刑法(明治四十年法律第四十五号)などの法令に違反するものが含まれているところ、このうち、前田恒彦検事は、平成二十一年七月に、公判の紛糾及び上司からの叱責を避けるため、公判係属中の事件の証拠であるフロッピーディスクに記録された文書データを変造したものであり、この行為は、刑法第百四条の証拠隠滅罪に該当し、大坪弘道検事及び佐賀元明検事は、平成二十二年二月に、前田恒彦検事が証拠隠滅の罪を犯したことを知りながら、これを知った他の検事に他言を禁じ、前田恒彦検事に対し、当該データの改変は過誤によるものとして説明するよう指示するなどした上、当該データが過誤によって改変された可能性はあるが改変の有無を確定できず、改変されていたとしても過誤にすぎない旨事実をすり替えて捜査を行わず、また、次席検事及び検事正に対しても、虚偽の報告をし、検事正らをして、捜査は不要と誤信させることにより、証拠隠滅罪の犯人である前田恒彦検事を隠避させたものであり、この行為は、同法第百三条の犯人隠避罪に該当し、また、三浦正晴検事長については、前田恒彦検事による前記証拠隠滅の事実につき、同検事に対する指導監督が不適正であったものであるが、これら四名以外の行為については、法務省として、職員に対する懲戒処分の公表に当たっては、「懲戒処分の公表指針について」(平成十五年十一月十日付け総参-七八六人事院事務総長通知)を踏まえ、個人が識別されない内容のものとすることを基本としており、お尋ねの「詳しい経緯」を明らかにすることにより、特定の個人が識別されるおそれがあることなどから、お答えすることは差し控えたい。
(2) 原田明夫検事総長は,平成14年4月22日に逮捕された三井環大阪高検公安部長の収賄・詐欺事件の監督責任を問われ,同年,戦後初めて検事総長として戒告処分を受けました(産経ニュースHPの「元検事総長の原田明夫氏死去」(2017年4月7日付)参照)。
(3) 裁判官の場合,行政機関が懲戒処分を行うことはできません(憲法78条後段)。

近藤裕之検事(46期の裁判官)に対する懲戒免職の処分説明書

第4 検察官の勤務延長に関する法務大臣の答弁
1 令和2年2月25日の衆議院予算委員会第三分科会における森まさこ法務大臣の答弁
   検察官の定年による退職の特例は、定年年齢と退職時期の二点でございまして、国家公務員が定年により退職するという規範そのものは、検察官であっても一般法たる国家公務員法によっているというべきでございますので、結局、検察官の定年による退職は、検察庁法二十二条により定年年齢と退職時期につき修正された国家公務員法八十一条の二第一項に基づくものと解されます。
   したがって、前条第一項の規定により退職した場合に適用される同法八十一条の三の規定は検察官にも適用されるものと解しております。

2 令和2年3月5日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁
① 法務省においては、国家公務員一般の定年の引上げに関する検討の一環として検察官についても検討を進める過程で、昨年のうちから現行の国家公務員法と検察庁法の関係について必要な検討を行っていたところ、検察官の勤務延長について判断したものでございます。
 その上で、令和二年一月十七日から同月二十四日にかけて関係省庁と協議を行い、異論はない旨の回答を得て、最終的に結論を得たものでございます。
② 委員がお示しになりました一月十六日付けの法務省の文書でございますが、国会にももう提出をしておりますが、こちらで、先ほど委員がお示しになりました、「(本来であれば、国公法に定年制度が導入された時点で、検察庁法に必要な読替規定を置くことが望ましかったとも言えるが、)」の後に、一般法たる国公法の諸規定、懲戒、服務等については、特に読替規定を置くこともなく、当然に検察官にも適用していることからも明らかなとおり、解釈上、検察官が同法八十二条の三に規定する勤務延長制度の対象となる職員と考えることに問題はなく、その結果、検察官に同制度を適用することについても問題はないと考えられると記載されておりますとおり、他の読替規定を置くこともなく、検察官に適用されている懲戒、服務等を引きまして、そしてまた、解釈上、勤務延長制度の対象となる職員と考えることに趣旨等から問題はないというふうに考えて、ここに書いてありますとおり、結果として適用をするというふうに結論付け、そしてこの翌日の一月十七日から二十一日までの法制局との協議については、その旨記載した文書で臨んでいるということでございます。
③ 国家公務員法上、例えば懲戒処分については、任命権者から懲戒処分を受けた職員について、人事院に不服申立てを行ってその審査を受けることができるものとされておりますが、これは、内閣が任命する検事長についてもその点は変わらないところでございます。
3 令和2年3月6日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁
① 東京高等検察庁管内でおいて遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査、公判に対応するためには、黒川検事長の管内部下職員に対する指揮監督が必要不可欠であり、職務を遂行、引き続き勤務させることとしたものでございます。
② (山中注:重大かつ複雑困難な事件の捜査は何であるかという質問に対し,)個別の事件に関しましては、捜査機関の活動内容やその体制に関わる事柄でもあることから、お答えを差し控えさせていただきます。
③ 黒川検事長につきましては、東京高検、検察庁管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査、公判に対応するための管内部下職員に対する指揮監督が必要不可欠ということで、人事院規則一一―八との関係では、七条三号の業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるときに該当するところでございます。
④ 委員お示しの大正十年の衆議院の委員会におけるこの裁判所構成法の提案理由におきましては、第八十条の二を設けて検事の定年を定めた理由については、後進のために進路を開いて、新進の者をしてその位置を進めしめ、もって司法事務の改善を図るということの目的のためなどと説明されております。
 しかしながら、同条ただし書において在職期間の延長を定めた理由については、必ずしもつまびらかではございません。
⑤ お尋ね(山中注:裁判所構成法で認められていた検察官の定年延長が,昭和22年5月3日の日本国憲法の施行と同時になくなった理由)については、検察庁法が定められた昭和二十二年の帝国議会議事録等についても特段触れられておらず、理由はつまびらかではございません。
⑥ 委員の御意見のようなこと(山中注:「司法大臣が場合によっては定年延長することができるとしていたために、行政権の司法権、検察に対する行政介入が起こることができたわけです。これをさせてはならない、司法権の独立、検察の独立、中立でなくちゃいけない、だからこれを除外したんです」という意見)が記載されている資料もなく、昭和二十二年の趣旨が、必ずしもその理由はつまびらかではございません。




第5 検察官の勤務延長に関する内閣法制局長官の答弁

1 令和2年2月25日の衆議院予算委員会第三分科会における近藤正春内閣法制局長官の答弁
① 基本的には検察庁法と国家公務員法の改正の問題ですので、その内容については法務省の方で御検討されるということで私ども聞いておりまして、当時と比べていろいろ検察行政が複雑化しておって、そういった中で勤務延長という制度の趣旨を考えたときに、それを検察官に適用しないということではないのではないかということで、まさしくその後の検察行政をめぐる情勢の変化ということが今回の解釈変更の前提であるというふうにお聞きをしております。
② 国会で制定されました法律について、政府は誠実に執行していく義務を憲法上持っておりまして、その執行をしっかりやっていくということでございますけれども、その執行していく段階で、ある程度、いろいろな議論をして、解釈の変更をせざるを得ないと、これはいろいろなものがあると思います、細かいものから大きなものまであるのかもしれませんけれども、それにつきましては、あくまでも行政府の判断として責任を持ってやっていくということで、問題はないというふうに思っております。
③ ちょっと答弁の仕方が悪かったかもしれませんけれども、(山中注:昭和55年10月の総理府人事局作成の想定問答集によれば,検察官の場合,勤務の延長が)除外されるということは当時判断をされて除外をしたんです、そこの理由は必ずしもつまびらかではないと。今の時点で解釈を考えると、当時はそういう配慮をしました。ただ、そのほかにも、教育公務員なんかも適用除外にしていまして、それも勤務の特殊性なのかどうかはわかりません。

 そういう意味では、その後、教育公務員については、定年延長も、制度が認められたりしなかったりという議論、また、して、しないとかいう議論をしておりますけれども、そういう意味では、当時除外をしたというのはもう確定した解釈、当時、総理府部内でそういう解釈をしていたということではあると思いますけれども、今の段階で適用をもう一度考えた場合に、そこに、先ほど申し上げたような、検察官だからひとえに勤務延長はできないということにはならないというふうに私どもも考えたということでございます。
2 令和2年3月5日の参議院予算委員会における近藤正春内閣法制局長官の答弁
① 今回の国家公務員法の定年引上げに関する法案の検討作業は、昨年のもう夏過ぎ、秋頃からずっとやっておりまして、その段階で、検察庁法についてもどういう対応をするかは、法務省の方で御検討されながら徐々に審査を進めていったわけでございますけれども、当初は私どもも、適用が今ないというところから、現在、検察官に対して勤務延長制度は適用がないという従来の解釈は当然承知しておりましたので、その上でどういうふうにしていくのかという議論を当初していったものと思っております。その上で、ずっと議論はしてきたということでございます。
 法務省においては、そういう理解、当然、両省庁の担当者、刑事局と私どもの二部では同じ共通の認識でずっと審査をしてきたということだと思います。
② 先ほどもお答えしましたように、ずっと昨年から続けておりました審査の過程で、現在の国家公務員法と検察庁法の関係についての解釈について新しい解釈を取りたいということで一月十七日に御相談があり、担当者も、前提が変わりましたので、いろんな審査の前提が変わりますので、その段階で私まできちっと上げて、一度了解をした上で新しい審査に入る必要があるということでそういう応接録を作り、私にも報告をし、私も了解の回答をしたということでございます。
   今や国家公務員に定年も入り、定年によってやめるという規範は、一般公務員も、検察官も一般公務員ですから、そこは同じ思想のもとで、職務の特殊性等で年齢、定年の延長が一般職もいろいろ変わっておりますけれども、その中の一つとして検察官も従来規定がされておりまして、その定年と定年延長ということ自身と個々の職務の内容のどうこうということはとりあえず関係のない制度、つまり、一般的な職務、ある程度、公務員の中の新陳代謝を図りながら、きちっとした年齢まで働けるということを前提に、安心して人生設計をさせて、しっかり職務に当たらせるという定年制度の意義自身は、同じ国家公務員たる検察官も、一般の公務員、一般職の全体は同じ意味だと思いまして、そこのところについて何か検察官の特殊性がどうこうという議論は基本的にはないものというふうに考えます。

第6 検察庁法22条及び32条の2に関する法務大臣等の答弁
1 昭和24年5月11日の参議院法務委員会における高橋一郎法務庁検局長の答弁

 第三十二條の二は、檢察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴提起機関として規定せられております。從つて、檢察官の職務執行の公正なりや否やは、直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであります。
 このような職責の特殊性に鑑み、從來檢察官については、一般行政官と異り、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を與えられていたのでありますが、國家公務員法施行後と雖も、この檢察官の特殊性は何ら変ることなく、從つてその任免については、尚一般の國家公務員とは、おのずからその取扱を異にすべきものであります。
 よつて、本條は、國家公務員法附則第十三條の規定に基き、檢察廳法中、檢察官の任免に関する規定を國家公務員法の特例を定めたものとしたのであります。
2 令和2年3月5日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁
① 先ほど引用いたしました伊藤元検事総長の新版検察庁法逐条解説によりますと、二十二年の定年の趣旨(山中注:昭和22年制定の検察庁法22条で定年を定めた趣旨)は、検察自体の老化を、検察全体の老化を防ぎ後進に就任の機会を与えるためと考えられてきたが、その後、昭和五十六年の国家公務員法の改正により他の一般の国家公務員についても定年が定められた以後の趣旨については、検察官にはその特別の定年、つまり年齢が六十歳よりも高い年齢が定められているのは、その職務と責任に特殊性があるものによるものと解さなくてはならないということになろうなどと記載されております。
② 昭和二十四年の参議院法務委員会における逐条説明では、同条(山中注:検察庁法32条の2)について、検察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴機関、公訴提起機関と規定されており、その職務執行の公正が直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼす、このような職責の特殊性に鑑み、従来検察官については、一般行政官と異なり、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を与えられた、与えられていたものである、この特殊性は、国家公務員法施行後も変わらないことから、検察庁法中、検察官の任免に関する規定を国家公務員法の特例としたなどと説明をされております。

第7 勤務延長に関する総理府人事局及び人事院の答弁
1 総理府人事局の答弁
・ 昭和56年6月2日の参議院地方行政委員会における森卓也総理府人事局次長の答弁
 今日まで、国家公務員制度のもとでは、大学の教官とか、あるいは検察官等の職員を除きましては、定年制は設けられていなかったわけでございますが、これは職員の年齢構成が比較的若かったこと。後進に道を譲るという伝統もありまして、勧奨によりますところの退職が比較的円滑に行われて新陳代謝が働いていたという事情があったために、特に定年制を必要としなかったということでございます。
2 人事院の答弁
(1) 昭和56年4月28日の衆議院内閣委員会における斧誠之助人事院任用局長の答弁
 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。
(2) 昭和56年5月7日の衆議院内閣委員会における斧誠之助人事院任用局長の答弁
① 退職の特例でございますが、通称勤務延長と言っておりますので、勤務延長と言わしていただきますが、勤務延長につきましては、この法案に示されておるところによりますと、延長することについての第一次の判断者は任命権着ということにいたしております。したがいまして、第一回目の勤務延長を行う権限者は任命権者でございます。この場合は人事院の承認を要するということにはなっておりません。これは、ここにも書いてありますように、「その職員の職務の特殊性」――「職務の特殊性」として例示的に申し上げますと、非常に端的に言いますと名人芸、たとえば通産省あたりにはレンズをみがく非常に名人芸の方もおりますし、植物園で高山植物を栽培するのに非常にたけておるような職員もございます。そういうものがわかりやすいから例示いたしますが、要するに、その者の有する知識、技能、経験、そういうものが職務遂行上不可欠で、しかも代替者が直ちに得られないというようなケース、それからいま現にその職員が担当しております業務がある一定期間継続性がありまして、その職員を欠きますと、その業務の遂行に支障が生ずる、つまり業務の連続性がある、しかも非常に緊急な業務であるというような職務についておる職員、そういうことを例示として考えております。
 第二回目以降は、人事院の承認に係らしめておるわけですが、これはまさに特例でございますので、これが乱にわたるというようなことがあっては定年制の趣旨が損なわれるということになりますので、人事院で審査を必要としておるわけでございます。この場合は、当初においてその者を勤務延長した事情の説明、それが継続しているかどうかの証拠資料、そういうものを取り寄せて審査する予定にしてございます。
② 勤務延長につきましては、公務上の必要性ということが原則でございまして、属人的な要素で勤務延長を行うということは考えてございません。
③ 再任用につきましては、一たん定年退職した者をその者の技能とか経験、それが公務に非常に有用であるということで再採用しようという制度でございます。これも任命権者の裁量によって再任用を行うことができるという規定になっております。
 この場合、人事院規則で定めるのは、その基準を定めるわけでございますが、第一点は、その職員の能力、技能が公務に活用できるというその職員の経歴とか持っておる特殊技能の証明、そういうものが第一点、それから勤務実績が良好であるという証明、それから再任用する場合の官職は定年退職前の官職と同等以下の官職に限りますという、そういう三つの基準を設けまして、あとは再任用の手続などを定める予定でございます。
④ 現在の職員の在職状況から見ますと、いま先生御指摘のような将来に対する不安が生じてまいります。そういうこともありますので、今回意見を申し上げるに際しまして、準備期間を五年程度置けばよろしいという意見を申し上げておるわけでございまして、その間にそういうことも含めて長期的な人事計画あるいは要員計画というものを各省に立ててもらう、人事院と総理府はそういう各省の計画について指導をしたり援助をしたりするということで、円滑な定年制の実施を確保するようにという趣旨でございます。
 それから、なお申し上げますと、そういうことで余人をもってかえがたいような人が発生しました場合は、先ほど来申し上げております勤務延長とか再任用で業務に支障のないような措置をとっていただく、こういうことになろうかと思っております。
(3) 昭和56年5月28日の参議院内閣委員会における斧誠之助人事院任用局長の答弁
 いまおっしゃいましたのは、勤務延長と再任用の関係であろうかと思いますが、勤務延長と申しますのは、役所側の要請でなお職にとどまってもらいたいという場合でございまして、再任用の場合は、その職員が希望して、そしてその職員の能力、技能、技術、そういうものが公務に非常に有用であるというそういう場合にもう一回再採用で役所に来てもらおうと、こういうことでございまして、違いは役所側が積極的に要請して延長するか、職員が希望して、その希望者に対していろいろ能力評価をした上で有用であるという認定のもとに再任用をするか、そのところの違いでございます。
(4) 令和2年3月6日の参議院予算委員会における松尾恵美子人事院給与局長の答弁

① 国家公務員法上、勤務延長は、職員の職務の特殊性又は職員の職務の遂行上の特別の事情から見てその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときに、定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定めて行うことができるものとされております。
 詳細につきましては人事院規則一一―八第七条第一号から第三号までに規定しておりまして、職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき、二番目といたしまして、勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき、三番目といたしまして、業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるときに勤務延長を行うことができるものとされております。
② これは任用局企画課長通知というのに定められておりまして、例えば次のような場合が該当するということで、先ほど説明申し上げた第一号に該当する場合として、定年退職予定者がいわゆる名人芸的技能等を要する職務に従事しているため、その者の後継者が直ちに得られない場合、例えば第二号に該当する場合として、定年退職予定者が離島その他のへき地官署等に勤務しているため、その者の退職による欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な支障が生ずる場合、第三号に該当する場合の例といたしまして、定年退職予定者が大型研究プロジェクトチームの主要な構成員であるため、その者の退職により当該研究の完成が著しく遅延するなどの重大な障害が生ずる場合、重要案件を担当する本府省局長である定年退職予定者について、当該重要案件に係る国会対応、各種審議会対応、外部との折衝、外交交渉等の業務の継続性を確保するため、引き続き任用する特別の必要性が認められる場合というふうに規定されております。

第8 黒川弘務東京高検検事長を検事総長に任命することは法的に可能であること

1   衆議院議員奥野総一郎君提出東京高検検事長の定年が半年間延長された件に関する質問に対する答弁書(令和2年2月18日付)には以下の記載があります。
① 黒川弘務検事長の勤務期間の延長は、検察庁における業務遂行上の必要性に基づくものであるところ、検察官も一般職の国家公務員であるから、一般職の国家公務員に適用される国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第八十一条の三第一項の規定により、任命権者である内閣において閣議決定して行ったものである。
② 検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)第十九条第一項に定める資格を有し、かつ、国家公務員法第三十八条及び検察庁法第二十条に定める欠格事由に該当しない日本国籍を有する者については、年齢が六十五年に達していない限り、検事総長に任命することは可能である。
2(1) 東京高検検事長の定年が半年間延長された件に関する質問に対する答弁書(令和2年2月18日付)に関する内閣法制局の開示文書を掲載しています。
(2) 質問主意書関係事務の手引き~はじめて主意書を担当する方へ~(法務省)を掲載しています。
3 衆議院議員加藤公一君提出質問主意書に対する内閣の答弁書の効力に関する質問に対する答弁書(平成12年12月5日付)には以下の記載があります。
 一般職の国家公務員は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第九十八条第一項の規定により、その職務を遂行するについて法令及び上司の職務上の命令に従わなければならないこととされており、質問主意書に対する答弁書の中に法令の解釈が示されているような場合には、当該解釈に従い法令を執行する義務を負うものである。

第9 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長に関する弁護士会の反対意見
1 検事長の定年延長に関する閣議決定の撤回を求める会長声明(令和2年3月13日付の大阪弁護士会の会長声明)の記載

 検察庁法は、検察官の定年について「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。」と定め(同法第22条)、国家公務員法との関係については、「検察庁法第15条、第18条乃至第20条及び第22条乃至第25条の規定は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。」と定めている(同法32条の2)。これは、定年を定める検察庁法第22条が一般法である国家公務員法の特例をなすので、国家公務員法の適用を受けないことを定めたものである。したがって、本閣議決定は検察庁法に違背する。
 また、1981年(昭和56年)に国家公務員法が改正され、国家公務員の定年とその延長の制度が導入されたが、同法案を審議した当時の衆議院内閣委員会で、人事院事務総局任用局長は、「今回の法案では、別に法律で定められている者を除くことになっている。検察官については、国家公務員法の定年延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されている。」旨を答弁しており、本閣議決定まで30年近く、1981年(昭和56年)の答弁を否定する取扱いはされてこなかった。
 検察庁法第22条が国家公務員法の適用を受けないのは、検察官が、公益の代表者として 刑事事件の捜査・起訴等の検察権を行使する権限が付与されており、準司法的職務を行うことから、行政権の一部に属しながらも、他の行政権力からの独立が要請されるためである。検察官は独任制の機関とされ、訴追などの検察権の行使を公正に行うために身分保障が与えられている。
 本閣議決定は、憲法の基本原理である権力の監視・抑制の理念に沿い、長年にわたり築かれてきた検察組織の政権からの独立を侵し、憲法の精神に違背することになる。
2 検事長の勤務延長に関する閣議決定の撤回を求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明(令和2年4月6日付の日弁連の会長声明)の記載
   検察官の定年退官は、検察庁法第22条に規定され、同法第32条の2において、国公法附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、同法の特例を定めたものとされており、これまで、国公法第81条の3第1項は、検察官には適用されていない。
   これは、検察官が、強大な捜査権を有し、起訴権限を独占する立場にあって、準司法的作用を有しており、犯罪の嫌疑があれば政治家をも捜査の対象とするため、政治的に中立公正でなければならず、検察官の人事に政治の恣意的な介入を排除し、検察官の独立性を確保するためのものであって、憲法の基本原理である権力分立に基礎を置くものである。
   したがって、国公法の解釈変更による本件勤務延長は、解釈の範囲を逸脱するものであって、検察庁法第22条及び第32条の2に違反し、法の支配と権力分立を揺るがすものと言わざるを得ない。

第10 選挙により選ばれた公職者がその職務上行った行為が弁護士会の懲戒対象となる場合
1 令和元年7月8日付の日弁連懲戒委員会の議決書は,以下の判断を含む原弁護士会の決定を相当であると判断しました(2019年弁護士懲戒事件議決例集(第22集)102頁,103頁及び112頁)。
   弁護士は「職務の内外を問わず,弁護士としての品位を害する非行」があった場合は弁護士会が懲戒をなすものとされているところ,選挙により選ばれた公職者がその職務上行った行為については,選挙民がその当否を判断するのが民主主義の本筋であることからすると,かかる行為については,犯罪を構成する場合,行為の違法性が重大である場合,あるいは,違法行為と知って故意に行うといった悪質性が高い場合に,弁護士としての品位を害するものとして懲戒の対象とするのが相当である。
2 令和2年4月5日現在,森まさこ法務大臣は福島県弁護士会所属の弁護士(47期)でありますところ,東京高検検事長の勤務延長を決定した閣議決定は,「憲法の基本原理である権力の監視・抑制の理念に沿い、長年にわたり築かれてきた検察組織の政権からの独立を侵し、憲法の精神に違背することになる。」(大阪弁護士会の会長声明)ものであったり,「検察庁法第22条及び第32条の2に違反し、法の支配と権力分立を揺るがすもの」(日弁連の会長声明)であったりするわけですから,当該閣議決定を求めた法務大臣の行為の違法性は重大であるのかも知れません。




3 私は,弁護士会の懲戒基準を理解する能力を有していないことを付言しておきます「弁護士会副会長経験者に対する懲戒請求事件について,日弁連懲戒委員会に定型文で棄却された体験談(私が情報公開請求を開始した経緯も記載しています。)」参照)。

第11 河野克俊統合幕僚長の勤務延長(平成28年11月29日から平成31年4月1日まで)
1(1) 1954年11月28日生まれの河野克俊統合幕僚長(海上自衛隊出身)は,平成26年(2014年)10月14日付で第5代・統合幕僚長に就任し,平成28年(2016年)11月28日に62歳の定年を迎えたものの,自衛隊法45条3項及び4項に基づき3度の勤務延長を経て,平成31年(2019年)4月1日付で退官しました(退官時の年齢は64歳4ヶ月余りです。)。
(2) Wikipediaの「河野克俊」には以下の記載があります。
   自衛隊最高指揮官である安倍晋三内閣総理大臣が最も信頼する自衛官といわれ、歴代の防衛大臣からも厚い信頼を得ていることから、法令(自衛隊法施行令)で定める定年年齢(62歳)を越えた後も3度の定年延長を経て統合幕僚長の地位に留まり、初代統合幕僚会議議長の林敬三に次いで歴代第二位の在職(統合幕僚長としては最長)となった。
2 自衛隊法45条は以下のとおりです。
(自衛官の定年及び定年による退職の特例)
第四十五条 自衛官(陸士長等、海士長等及び空士長等を除く。以下この条及び次条において同じ。)は、定年に達したときは、定年に達した日の翌日に退職する。
② 前項の定年は、勤務の性質に応じ、階級ごとに政令で定める。
③ 防衛大臣は、自衛官が定年に達したことにより退職することが自衛隊の任務の遂行に重大な支障を及ぼすと認めるときは、当該自衛官が第七十六条第一項の規定による防衛出動を命ぜられている場合にあつては一年以内の期間を限り、その他の場合にあつては六月以内の期間を限り、当該自衛官が定年に達した後も引き続いて自衛官として勤務させることができる。
④ 防衛大臣は、前項の期間又はこの項の期間が満了する場合において、前項の事由が引き続き存すると認めるときは、当該自衛官の同意を得て、一年以内の期間を限り、引き続いて自衛官として勤務させることができる。ただし、その期間の末日は、当該自衛官が定年に達した日の翌々日から起算して三年を超えることができない。
3(1) 参議院議員古賀之士君提出統合幕僚長の定年延長に関する質問に対する答弁書(平成29年6月13日付)には以下の記載があります。
   平成二十八年十一月二十八日に発令された自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第四十五条第三項の規定による河野克俊統合幕僚長の勤務期間の延長は、我が国を取り巻く安全保障環境等を踏まえ、自衛隊の各種任務を適切に遂行するために防衛大臣が判断し行ったものであり、同様の事由が引き続き存することから、今般、同条第四項の規定により、その勤務期間を延長したものである。
(2) 参議院議員古賀之士君提出統合幕僚長の定年延長に関する再質問に対する答弁書(平成29年6月27日付)には以下の記載があります。
① お尋ねの「我が国を取り巻く安全保障環境等」とは、我が国周辺を含むアジア太平洋地域における安全保障上の課題や不安定要因がより深刻化しており、周辺国による軍事力の近代化・強化や軍事活動等の活発化の傾向がより顕著となっていること等を念頭に置いたものである。
② お尋ねの「各種任務」とは、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第三条に規定する任務である。
③ お尋ねの「自衛隊の統合幕僚長の適格者」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、河野克俊統合幕僚長の勤務期間の延長については、先の答弁書(平成二十九年六月十三日内閣参質一九三第一一九号)においてお答えしたとおりである。
4(1) 内閣の答弁書からすれば,「我が国を取り巻く安全保障環境等を踏まえ、自衛隊の各種任務を適切に遂行するため」であれば,自衛隊法45条3項の「自衛官が定年に達したことにより退職することが自衛隊の任務の遂行に重大な支障を及ぼすと認めるとき」に該当することとなります。
(2) 例えば,「令和元年版防衛白書の刊行に寄せて」(防衛白書の発行日は令和元年10月25日)には以下の記載がありますから,中国及び北朝鮮といった周辺国の活動が劇的に緩和しない限り,常に自衛隊法45条3項の事由が存在することとなる気がします。
   わが国を取り巻く安全保障環境は、かつて想定していたよりもはるかに速いスピードで厳しさと不確実性を増しております。とくに顕著な変化は、宇宙・サイバー・電磁波といった領域の軍事利用が急速に拡大していることです。近年の技術革新により、これらの領域は陸・海・空という従来の領域と並ぶ重要性を持ち始めました。また、地域に目を向けると、中国は周辺海空域における活動を拡大・活発化させており、日本海さらには太平洋に進出する戦闘機や爆撃機の飛行も増加しつつあります。北朝鮮は依然としてわが国全域を射程におさめる弾道ミサイルを数百発保有、実戦配備しております。5月以降、相次いでいる日本海への短距離弾道ミサイルなどの発射は、北朝鮮が、3度に亘る米朝首脳の会談や面会の後も、関連技術の高度化を図っていることを示すものであり、わが国として看過することはできません。

第12 国会答弁資料
① 令和2年2月    3日から同年3月2日までの分
② 令和2年3月    9月の参議院予算委員会(質問者は小西洋之)→大臣官房人事課作成分刑事局作成分
③ 令和2年3月11日の衆議院法務委員会(質問者は山尾志桜里)→大臣官房人事課作成分刑事局作成分

第13 関連記事
① 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書
② 勤務延長制度(国家公務員法81条の3)の検察官への適用に関する法務省及び人事院の文書(文書の作成時期に関する政府答弁を含む。)
③ 国家公務員法81条の3に基づき,検察官の勤務延長が認められる理由
④ 最高裁判所長官任命の閣議書
⑤ 最高裁判所判事任命の閣議書
⑥ 各府省幹部職員の任免に関する閣議承認の閣議書
⑦ 黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題

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