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生成AIを使った本人訴訟-訴状・準備書面の作成,架空判例の確認及び裁判所への提出(AI作成)

第1 結論―生成AIは下書きの補助に限る

1 生成AIに任せやすい作業

生成AIは,本人訴訟で使う事実経過表の作成,訴状・答弁書・準備書面の下書き,相手方の主張との対応表の作成及び文章の整理に利用できる。
もっとも,生成AIが読みやすい文章を出力したことと,その内容が事実及び法律に照らして正しいことは別問題である。

生成AIを使う場合も,訴状及び準備書面は民事訴訟法及び民事訴訟規則の要件を満たす必要がある。
本人が最終的に確認すべき対象は,①記載した事実,②その事実を裏付ける証拠,③引用した法令,④引用した裁判例,⑤請求額・日付・当事者名,⑥提出先及び提出期限である。

2 生成AIに任せてはいけない作業

生成AIに,資料にない事実を補わせたり,実在を確認していない判例をもっともらしく追加させたり,証拠の内容を有利に変えさせたりしてはならない。
不明な箇所は推測で埋めず,「要確認」と表示させる必要がある。

生成AIは,請求の選択,消滅時効,管轄,訴額,立証の見通し又は和解条件について,個別事件に応じた確実な法律判断を保証するものではない。
提出後には簡単に訂正できない事項もあるため,重要な判断は弁護士への相談を検討すべきである。

本記事は,令和8年9月3日現在の法令及び裁判所資料に基づき,同年5月21日以後に提起する第一審の通常民事訴訟を中心に説明する。
保全,執行,倒産,家事,行政,刑事,控訴及び上告では手続が異なる。

第2 AIへ入力する前に事実と証拠を分ける

1 先に事実経過表を作る

訴状又は準備書面の文章から作り始めると,事実,評価及び推測が混ざりやすい。
まず,手元の契約書,メール,領収書,写真その他の資料を確認し,次の項目を持つ事実経過表を作るとよい。

日付出来事情報源相手方と争いがあるか対応する証拠未確認事項
令和○年○月○日契約を締結した契約書・メール争いなし/あり/不明甲第○号証署名者の権限を要確認

出来事は,資料に書かれている事実と,自分の記憶だけによる事実を分ける。
生成AIには,「資料にない日付,人物,合意内容又は会話を補わず,不明な箇所は要確認と表示すること」と指示する。

2 個人情報をそのまま入力しない

本人訴訟の資料には,当事者の氏名,住所,電話番号,生年月日,勤務先,口座,病歴その他の個人情報が含まれ得る。
個人情報保護委員会は,一般の利用者に対し,入力した個人情報が機械学習に利用され,他の情報と結び付いて出力されるリスクや,出力に不正確な個人情報が含まれるリスクを示し,利用規約及びプライバシーポリシーを確認するよう注意喚起している。

使用する生成AIの契約,保存,学習利用及び共有の設定を確認するまでは,実名を「原告A」「被告B」に,住所を市区町村までに置き換えるなど,入力を必要最小限にするのが安全である。
マイナンバー,口座の認証情報,秘密保持命令の対象資料又は訴訟に不要な第三者情報は入力しない。

第3 生成AIで訴状の下書きを作る

1 裁判所の公式書式から始める

民事訴訟法134条は,訴えを訴状の提出によって提起し,訴状に当事者及び法定代理人並びに請求の趣旨及び原因を記載するよう定めている。
民事訴訟規則53条は,請求を理由付ける事実を具体的に記載し,立証を要する事由ごとに重要な関連事実及び証拠を記載するよう定めている。

裁判所ウェブサイトの「民事訴訟で使う書式」には,貸金,建物明渡,売買代金,請負代金,賃金その他の訴状書式及び記載例がある。
生成AIに白紙から訴状を作らせるのではなく,事件類型に合う公式書式と,自分で確認した事実経過表を基礎にする方がよい。

訴額が140万円以下の請求は原則として簡易裁判所,それ以外の一般的な民事訴訟は地方裁判所が第一審裁判所となるが,土地管轄には被告の住所地以外の特則もある。
提出先,訴額又は請求の構成に疑問がある場合は,送信前に確認する必要がある。

2 請求の趣旨,原因及び証拠を対応させる

「請求の趣旨」は裁判所に求める判決の内容であり,「請求の原因」はその請求を成り立たせる事実である。
事情を長く書くだけでは足りず,どの事実がどの請求を支え,どの証拠がその事実を裏付けるかを対応させる必要がある。

民事訴訟規則55条2項は,立証を要する事由について重要な書証の写しを訴状に添付するよう定めている。
mintsでは新規申立てと事件登録後の証拠提出に操作上の順序があるため,具体的な提出方法は,mintsで訴訟を提起する方法も確認されたい。

生成AIへの指示は,例えば次のように限定するとよい。

以下の事実経過表と証拠一覧だけを使い,裁判所の公式書式の項目順に訴状の下書きを作成してください。
資料にない事実,日付,契約内容,証拠及び判例は追加しないでください。
請求の趣旨,請求の原因及び対応する証拠を分け,不足箇所は「要確認」と表示してください。

3 補正前提で提出しない

訴状が民事訴訟法134条2項に違反するときは,裁判長が相当の期間を定めて補正を命じ,期間内に補正しない場合は訴状を却下することになる(同法137条)。
裁判所が後で直してくれると考えて,請求内容,当事者又は必要な事実が曖昧なまま提出すべきではない。

第4 生成AIで答弁書・準備書面の下書きを作る

1 相手方の主張と一対一で対応させる

民事訴訟法161条は,口頭弁論を書面で準備し,準備書面に攻撃又は防御の方法と,相手方の請求及び攻撃又は防御の方法に対する陳述を記載するよう定めている。
相手方の書面を要約するだけでなく,段落又は主張ごとに自分の回答を対応させることが重要である。

被告側で訴状に答えるときは,裁判所の答弁書書式も確認する。
mintsへの関連付け,招待キー及びシステム送達の詳細は,mintsで被告になった本人の対応を参照されたい。

2 認める,否認する,不知を区別する

相手方の主張した事実について,①認める,②否認する,③知らない,④法的評価なので認否を要しない,のどれに当たるかを検討する。
民事訴訟規則79条3項は否認の理由を記載するよう定め,同条4項は立証を要する事由ごとに証拠を記載するよう定めている。

民事訴訟法159条1項は,相手方の主張事実を争うことを明らかにしない場合の自白擬制を定め,同条2項は,知らない旨の陳述をした者はその事実を争ったものと推定すると定めている。
自分が経験した事実を安易に「不知」とせず,否認する場合は理由及び証拠を確認する必要がある。

生成AIには,次のような認否表を先に作らせるとよい。

相手方書面の箇所相手方の主張認否案理由自分の主張対応する証拠要確認
訴状第○項令和○年○月○日に契約した認める/否認/不知具体的理由必要な場合に記載乙第○号証署名日を確認

相手方書面の各主張を順番に抜き出し,認否案,否認理由,自分の主張及び対応する証拠の表を作成してください。
私が入力していない認否及び事実は確定せず,「本人確認が必要」と表示してください。
その表で確認が終わった事項だけを準備書面の下書きにしてください。

3 提出期限を守る

裁判長は,答弁書,特定事項に関する準備書面又は証拠の申出について提出期間を定めることができる。
その期間後に提出する場合は,期間を守れなかった理由を裁判所へ説明しなければならない(民事訴訟法162条)。

故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防御方法が訴訟の完結を遅らせると認められるときは,却下されることがある(同法157条)。
生成AIで文章を整えることを優先して期限を徒過せず,裁判所が指定した提出日から逆算して,事実確認,証拠確認及び最終校正の日を決める必要がある。

第5 架空判例・誤った法令・引用を確認する

1 裁判例は五項目で照合する

生成AIは,実在しない裁判例,誤った事件番号又は原文にない判示を示すことがある。
文章が具体的で引用らしく見えても,そのまま裁判所へ提出してはならない。

AIが示した裁判例ごとに,①裁判所名,②裁判年月日,③事件番号,④原文の入手先,⑤その判例が実際に述べる法的命題及び該当頁を表にする。
一つでも確定できない場合は,未確認のまま引用せず,引用を削除するか,弁護士又は信頼できる法情報データベースで追加確認する。

裁判例は,まず裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認する。
ただし,裁判所ウェブサイトで検索結果に出ないことは,その裁判例が存在しないことの証明ではないため,「裁判所HPで確認できない」と「存在しない」を区別する必要がある。

裁判例の実在だけでなく,原文のどの箇所が自分の主張を支えるのか,事案及び結論の射程が自分の事件と合うのかも確認する。
判例確認の詳しい手順は,山中弁護士が裁判所提出書面を作成するときに行っているハルシネーション防止方法を参照されたい。

2 法令はe-Govの現行条文で確認する

法令名と条文番号だけでなく,調査時点の条文本文,項及び号までe-Gov法令検索で確認する。
改正前のウェブ記事又は古い書式を参照すると,条文番号又は手続が現在と異なることがある。

本記事の調査でも,現行の訴え提起の方式は民事訴訟法134条であり,同法133条は住所・氏名等の秘匿に関する規定であることを確認した。
AIの回答や過去の記事だけで条文を確定してはならない。

3 別のAIへの質問だけでは検証にならない

国外の裁判所利用者向け公表資料は,AIが示した判例,法令,文献及び引用について,それらが実在し,記載された法的命題を実際に支えるかを正確な資料で確認し,別の生成AIに確認を求めるだけでは足りないとしている。
これは日本の民事訴訟法上の規定ではないが,本人訴訟で架空判例を排除するための実務的な確認方法として参考になる。

第6 mints又は紙で裁判所へ提出する

1 本人の電子提出の位置付け

令和8年5月21日以後,誰でもmintsを利用して訴えを提起し,準備書面を提出できるようになった(民事訴訟法132条の10)。
委任を受けた訴訟代理人等は原則として電子提出義務者であるが,一般の本人訴訟当事者は同法132条の11の義務者には含まれない。

裁判所の民事事件Q&Aは,一般の利用者について紙の書面の提出も可能と説明している。
他方,民事訴訟規則52条の12は,電子提出義務者以外の者も,必要な情報通信機器を利用できない事情がある場合を除き,電子情報処理組織を使用する方法によるものとしている。

したがって,本人について「弁護士と同じ電子提出義務者である」と説明するのは正確ではないが,紙と電子が完全に同列の選択肢であるとだけ説明するのも現行規則を十分に表さない。
機器の利用が難しい場合は,提出先裁判所へ紙提出及び本人サポートの方法を確認するとよい。

2 mintsは期限より前に準備する

mintsを利用するには事前のアカウント登録が必要であり,誰でも登録できる。
登録,訴え提起,裁判所による事件登録,証拠提出,手数料納付等は一つの操作で同時に終わるわけではないため,期限直前に登録から始めるべきではない。

電子申立ては,申立てに係る事項が裁判所のファイルに記録された時に裁判所へ到達したものとみなされる(民事訴訟法132条の10第3項)。
送信ボタンを押したことだけで終わりとせず,画面の提出状態,受理日及び受付番号を確認し,控えを保存する。

準備書面のmints上の区分,直送及び受領書の詳細は,mintsで準備書面を提出する方法を参照されたい。
令和8年5月20日以前に訴えが提起された事件では取扱いが異なり得るため,係属裁判所の指示を確認する必要がある。

3 提出版と作業版を分ける

提出するPDFは,ファイル名,事件番号,当事者名,日付,書面番号,頁番号及び添付資料が正しいかを確認する。
別事件の資料,コメント,変更履歴,隠したつもりの文字情報又は不要な個人情報が残っていないかも確認する。

生成AIへの入力資料,AIの出力,確認後の修正及び出典照合表は,裁判所提出版とは分けて保存する。
どの箇所をどの資料で確認したかを残すと,後で誤りが見つかったときに再確認しやすい。

第7 提出前チェックリスト

1 内容の確認

①請求の趣旨,請求の原因及び証拠が対応しているか。
②当事者名,住所,金額,日付及び事件番号を原資料と照合したか。
③相手方の各主張に対し,認める,否認する又は不知を確認したか。
④否認理由と対応する証拠を記載したか。
⑤資料にない事実又は証拠をAIが追加していないか。

2 法令・裁判例の確認

①法令はe-Govの現行条文で項・号まで確認したか。
②裁判例の裁判所名,裁判年月日及び事件番号を確認したか。
③裁判例原文の該当頁と引用文を照合したか。
④その裁判例が実際に述べる命題と,自分の書面の説明が一致するか。
⑤確認できない裁判例又は引用を削除したか。

3 提出の確認

①提出先裁判所,提出方法及び期限を確認したか。
②最終PDFを開き,頁の欠落,向き,文字化け及びマスキングを確認したか。
③mintsでは正しい事件及び正しいファイル区分を選んだか。
④提出済みの状態,受理日及び受付番号を確認し,記録を保存したか。
⑤紙提出では必要な部数,手数料及び提出方法を提出先裁判所へ確認したか。

第8 弁護士へ相談した方がよい場面

消滅時効,出訴期間,控訴期間その他の期限が迫っている場合,仮差押え・仮処分等を検討する場合又は請求の選択自体が分からない場合は,生成AIで完成度を上げるより先に弁護士へ相談した方がよい。

相手方に弁護士が就いている場合,事実又は証拠が多数ある場合,専門的な契約・会社・労働・医療・知的財産の問題がある場合,住所等の秘匿を要する場合又は敗訴時の影響が大きい場合も同様である。

裁判所の本人サポートでは,電子提出に必要なPC,Wi-Fi,スキャナー等の利用支援を受けられる場合がある。
もっとも,操作支援と,どの請求・抗弁を選び,どの証拠で立証するかという法律判断は別である。

第9 出典・参考資料

1 法令・規則

①e-Gov法令検索「民事訴訟法」(令和8年9月3日現在):https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109

②最高裁判所「民事訴訟規則」52条の12,53条,55条,79条,82条及び85条(PDF22頁,24頁,25頁,28頁及び29頁):https://www.courts.go.jp/assets/080521minnsokisoku.pdf

2 所管機関の解説・Q&A・運用資料

①最高裁判所「民事裁判手続のデジタル化」:https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/index.html

②最高裁判所「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」:https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/minso_gaiyou/index.html

③最高裁判所「mintsについて」:https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/mints_gaiyou/index.html

④最高裁判所「民事訴訟で使う書式」:https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_minzi_sosyou/index.html

⑤最高裁判所「裁判手続 民事事件Q&A」:https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_minzi/index.html

⑥最高裁判所「裁判例検索」:https://www.courts.go.jp/hanrei/

⑦最高裁判所「裁判所における本人サポート態勢」:https://www.courts.go.jp/assets/saibanshoniokeruhoninsapoototaisei.pdf

⑧個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(PDF2頁及び3頁):https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf

3 国外の裁判所利用者向け公表資料

①Singapore Courts, “Guide on the Use of Generative AI Tools by Court Users”(2024年10月1日適用開始,PDF1頁~6頁):https://www.judiciary.gov.sg/docs/default-source/news-and-resources-docs/guide-on-the-use-of-generative-ai-tools-by-court-users.pdf