第1 最初に決めること
廃棄物の不適正処理による危険を止めたいときは,誰に何をさせるか,損害は既に発生したか,行政命令の要件は満たされるか,公金支出が問題かを先に固定する。
損害賠償を列挙するより,現在の危険に最短で効く差止め,仮処分,措置命令,義務付けを優先する。
本記事は,令和8年9月25日現在の法令,法務省公式資料,環境省の通知,裁判所ウェブサイト掲載の裁判例及び判例秘書で確認した裁判例に基づく。
第2 行政命令の名宛人を分ける
| 主体 | 主な根拠 | 確認事実 |
|---|---|---|
| 一般廃棄物の不適正処分者 | 廃棄物処理法19条の4第1項(市町村長の措置命令) | 一般廃棄物処理基準に適合しない処分,生活環境の保全上の支障又はそのおそれ,行為と支障の因果関係 |
| 実際の不適正処分者 | 廃棄物処理法19条の5第1項1号,事業停止命令 | 現場,搬入,保管,処分工程,処理基準違反,不法投棄 |
| 排出事業者等 | 19条の6第1項1号・2号 | 委託料,委託先の異常,知情,注意義務,委託・マニフェストの履行 |
| 仲介・再委託関係者 | 19条の5第1項の各号 | 名目でなく実際の処理,指示,委託基準違反。適法な再委託だけで当然に対象となるわけではない。 |
処理基準・保管基準に適合しない処理の是正には,同法19条の3の改善命令も検討する。一般廃棄物は市町村長,産業廃棄物は都道府県知事が所管する。改善命令は基準違反を是正し,生活環境上の支障の発生を未然に防ぐ手段である。支障又はそのおそれが生じた場合の除去・発生防止は,一般廃棄物なら19条の4,産業廃棄物なら19条の5・6の措置命令の要件と名宛人を別に検討する。容量超過だけから処理基準違反や支障を推定せず,違反条項,原因行為,流出経路及び影響を資料で示す。
条文は主体ごとに要件を異にする。
「排出事業者責任」という一語で全員を同じ根拠に入れず,委託契約,許可証,マニフェスト,価格,搬入記録,現場写真を対応させる。
産業廃棄物について排出事業者等に19条の6の措置命令を発するには,①処分者等だけでは支障除去等の措置が困難又は不十分であり,かつ,②当該処分が不当に低い対価で行われたこと,排出事業者等が当該処分を知り又は知ることができたことその他の事情から,排出事業者等に措置を採らせることが相当であることの双方が必要となる。適正な委託をしたという形式だけでも,処理業者が倒産したという結果だけでも直ちに命令対象とはならない。
また,生活環境の保全上の支障又はそのおそれがあり,緊急に措置を講ずる必要があるのに命令するいとまがないときは,都道府県知事は19条の8第1項4号により自ら支障除去等の措置を講ずることができる。ただし,その費用を排出事業者等に負担させるには,同条4項により19条の6第1項各号の要件を満たし,廃棄物の性状,数量,処理方法その他の事情から相当な範囲に限られる。
水質環境基準の超過は重要な判断資料であるが,それだけで廃棄物処理法上の「生活環境の保全上の支障又はそのおそれ」と当然に同義になるわけではない。流出経路,濃度,継続性,周辺住民・井戸水・農作物・生態系への具体的影響を併せて評価する。
第3 許可取消し後の未処理廃棄物
許可取消し・廃止後に未処理の産業廃棄物が残るときは,同法19条の10第2項(許可の更新を受けなかった者は同項1号,事業の廃止等を届け出た者は同項2号,許可を取り消された者は同項3号)を見落とさない。
この命令は,19条の5と異なり,生活環境保全上の支障又はそのおそれを必要とせず,処理基準に適合しない保管に対し,基準に従った保管その他必要な措置を命じる。
環境省の「行政処分の指針について(通知)」(令和3年4月14日付け環循規発第2104141号)38頁~39頁は,旧許可業者等には処理基準が適用されず改善命令の対象にならず,また少なくとも生活環境保全上の支障が生ずるおそれがあるといえる状態でなければ19条の5の措置命令の対象にならないため,強制力のない行政指導によらざるを得なかったことへの対応として設けられた規定であると説明している。
同指針は,この命令はあくまで適正な保管を担保する趣旨であり,自ら処分をすることまでは求めるものではないとしている。
第4 民事差止めと仮処分
住民又は隣接地所有者は,土地・建物所有権に基づく妨害予防請求や人格権に基づく差止めを検討する。
危険が切迫しているときは,民事保全法23条2項の仮処分を併用する。
保全すべき権利,保全の必要性,予想される被害,受忍限度,差止めの具体的内容を証拠で示す。
第5 非申請型義務付けと仮の義務付け
知事が,不適正処分者等に対し,廃棄物処理法19条の5第1項に基づき支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずる処分(措置命令)をしない場合は,その措置命令を「一定の処分」として非申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項1号・37条の2)を検討する。
名宛人,根拠条項及び命ずる措置の内容で処分を特定し,撤去作業そのものを義務付けの対象として書かない。
同法19条の8第1項の支障除去等は,同項各号のいずれかに該当する場合に知事が「自らその支障の除去等の措置の全部又は一部を講ずることができる」とする規定であり,名宛人に義務を課す措置命令とは性質も要件も異なる。
産業廃棄物処分場の周辺住民らが,主位的に知事が同条1項に基づく措置を自ら講ずべき旨を,予備的に知事が19条の5第1項に基づき事業者に措置命令をすべき旨を求めた事案で,福岡高裁平成23年2月7日判決(平成20年(行コ)第11号・判例タイムズ1385号135頁,判例時報2122号45頁)は,19条の8第1項1号は措置命令が既にされていることを前提とするから該当する余地がなく,他の号に当たる具体的事実も認められないとして主位的請求を棄却し,予備的請求を認容して知事に措置命令を命じた。
同判決は,最高裁平成23年7月27日決定(平成23年(行フ)第1号)が県の上告等を却下した福岡高裁の決定を破棄した後,最高裁平成24年7月3日決定(平成23年(行ツ)第348号・平成23年(行ヒ)第387号)による上告棄却・上告不受理により確定した。
両者を一つの「処分」として並べず,別の請求として立てる必要がある。
訴訟要件として,原告適格(行政事件訴訟法37条の2第3項・第4項),重大な損害(同条1項・2項)及び損害を避けるため他に適当な方法がないこと(同条1項)を確認する。
本案では,根拠法令から処分をすべきことが明らかであるか,処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用となるか(同条5項)が問われる。
第4の民事差止めを提起できることが,義務付け訴訟の「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」の要件を否定するかは,相手方,請求の内容,強制執行の可否及び判決の効力を比べて検討する。
前記の福岡高裁平成23年2月7日判決は,第三者に対して直接民事上の請求をすることによってある程度の権利救済を図ることが可能であっても,直ちにそのことだけで「他に適当な方法」があるとはいえないとした。
民事の差止判決は加害者を直接拘束するが,義務付け判決は行政庁を拘束するものであり(行政事件訴訟法38条1項による33条の準用),取消判決の第三者効を定める32条1項は準用されていない。
加害者への効果は,判決を受けて行政庁がする措置命令を通じて生じる。
両者の比較は,非申請型義務付け訴訟―行政に是正命令を出させる訴えの一定の処分・重大な損害・補充性・判決効で整理している。
緊急性があるときは行政事件訴訟法37条の5第1項の仮の義務付けも検討する。
自治体の相談窓口への要望は事実上の行動であり,義務付け訴訟の法定要件を満たすことと同じではない。
法令違反の是正のための処分がされていないと考えるときは,行政手続法36条の3に基づき,違反事実,求める処分の内容及び根拠条項等を記載した申出書で処分を求めることができ,申出を受けた行政庁は,必要な調査を行い,その結果に基づき必要があると認めるときは処分をしなければならない(同条3項)。
第6 住民訴訟が代替経路となる場合
事業に地方公共団体の違法な支出,契約,債務負担その他の財務会計行為が関連する場合,住民監査請求・住民訴訟が代替的な経路となり得る。
ただし,住民訴訟は許可や環境評価の違法を直接一般的に争う制度ではなく,対象は特定の財務会計行為又は怠る事実である。
住民監査請求前置,請求期間と出訴期間を見落とさない。
第7 証拠保全と優先順位
①危険の現状を日付入り写真・動画,臭気,粉塵,水質,医療記録で保存する。
②地番,所有者,占有者,排出事業者,収集運搬者,処分者を分ける。
③許可,事業停止,許可取消し,行政指導,措置命令の履歴を取得する。
④委託契約,許可証,マニフェスト,計量票,請求書,搬入ログを一覧化する。
⑤差止めの目的を,新規搬入停止,飛散防止,撤去,保管改善等に特定する。
第8 調査範囲と限界
確認済みは,廃棄物処理法19条の5~10,行政事件訴訟法3条・32条・33条・37条の2・37条の5・38条,行政手続法36条の3,民事保全法23条,地方自治法242条・242条の2,最高裁平成23年7月27日決定,環境省の行政処分の指針(令和3年4月14日付け)及び令和3年司法試験の公式資料である。
個別の自治体の発令実務,同様事案の下級審裁判例,医学的因果関係は本件の事実と地域ごとに追加確認が必要である。
福岡高等裁判所平成23年2月7日判決及び最高裁平成24年7月3日決定は,判例秘書で全文を確認した。
民事訴訟を提起できることと補充性の関係に関するその他の下級審裁判例は,第5で挙げた非申請型義務付け訴訟の記事で整理している。
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第10 出典・参考資料
①e-Gov法令検索「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」
②e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」
③e-Gov法令検索「民事保全法」
④e-Gov法令検索「地方自治法」
⑤e-Gov法令検索「行政手続法」
⑥最高裁判所第三小法廷平成23年7月27日決定(平成23年(行フ)第1号,裁判所ウェブサイト)
⑦福岡高等裁判所平成23年2月7日判決(平成20年(行コ)第11号,判例タイムズ1385号135頁,判例時報2122号45頁,判例秘書(L06620076)で全文確認)
⑧最高裁判所第三小法廷平成24年7月3日決定(平成23年(行ツ)第348号・平成23年(行ヒ)第387号,判例秘書(L06710220)で全文確認)
⑨環境省「行政処分の指針について(通知)」(令和3年4月14日付け環循規発第2104141号)
⑩令和3年司法試験問題(選択科目PDF掲載ページ)
⑪令和3年司法試験の結果(論文式試験出題の趣旨PDF掲載ページ)
⑫令和3年司法試験の採点実感(選択科目PDF掲載ページ)