第1 最初に確認する結論
取引先が破産して工事,製造,システム開発,役務提供又は売買が未完成のときは,契約書にある倒産解除条項だけで処理してはならない。破産手続開始時に,破産者と相手方の双方に対価関係に立つ未履行債務が残る場合,破産法53条により,破産管財人が契約を解除するか,破産者側の債務を履行して相手方の履行を請求するかを選択できる。
ただし,注文者が破産した請負では,民法642条の特則を先に確認する。
完成後の解除制限は請負人についてのものであり,仕事が完成しても引渡しと残代金支払が残る場合に,管財人による解除の検討まで不要となるわけではない。
既往の仕事の報酬,費用,既払金及び解除損害を,破産法54条の一般的な返還処理へ一括して当てはめない。
具体的な主体と効果は注文者が破産した未完成請負―民法642条と出来高・費用・解除損害(AI作成)で整理している。
請負人が破産した場合と注文者が破産した場合とを入れ替えず,契約の未履行状況と適用する特則を確定する。
初動では,①契約単位,②双方の未履行内容,③出来高・検収・引渡し,④前払金と未払代金,⑤成果物・材料の所有権,⑥違約金・相殺条項,⑦管財人の選択と裁判所許可を一つの時系列表にする必要がある。
第2 破産法53条が適用される契約
1 双方未履行かを契約単位で判断する
破産法53条1項は,双務契約について破産者と相手方が開始時に共に履行を完了していない場合を対象とする。契約名が請負か売買かだけでなく,どの給付が対価関係に立つかを確定する。
例えば,工事契約では工事完成・引渡しと請負代金,開発契約では成果物・ソースコード・移行支援と報酬,機械売買では引渡し・所有権移転と代金支払を対応させる。基本契約の下に複数の個別契約がある場合,すべてを一契約として扱うか,注文ごとに判断するかは,契約条項と清算方法による。
2 一方の履行が完了している場合
一方が中核的な債務を既に履行し終えているなら,53条の選択問題ではなく,残る代金又は引渡請求権が破産債権,財団債権,取戻権又は別除権のどれになるかを検討する。部分検収又は出来高払があるときは,履行済み部分と未履行部分を分けられるかを契約と事実から確認する。
「9割完成」「ほぼ納品済み」という評価語だけでは足りない。検収条件,補修義務,知的財産権移転,マニュアル・鍵・パスワードの引渡し等が契約目的の本質的部分か,付随的部分かを確定する。
第3 管財人の履行・解除選択
1 履行を選択した場合
管財人が破産者側の債務を履行して相手方に履行を請求する場合,相手方が有する請求権は破産法148条1項7号により財団債権となる。もっとも,履行に必要な資金,従業員,資材,ライセンス又は協力業者が確保できなければ,形式的な履行選択だけで契約目的を達成できない。
相手方は,履行内容,期限,品質保証,未完成部分の費用,契約不適合への対応,裁判所許可の有無及び財団の支払原資を具体的に確認すべきである。
このうち裁判所の許可は,履行を選択する場面に特有の手続である。破産法78条2項9号は,53条1項の規定による履行の請求を,管財人が裁判所の許可を得なければならない行為として掲げている。履行を選択すると相手方の請求権が財団債権となり,破産債権者全体の引当てとなる破産財団から優先して支払われることになるため,その選択の当否を裁判所が確認する趣旨と考えられる。
もっとも,最高裁判所規則で定める額以下の価額を有するものに関するときは,許可を要しない(同条3項1号)。破産規則25条は,この額を100万円と定めている。裁判所が許可を要しないものとしたものに関するときも同様である(同項2号)。
許可を得ないでした行為は無効となるが,その無効を善意の第三者に対抗することはできない(同条5項)。相手方は,管財人から履行の請求を受けたときは,許可の有無と許可決定の日付を確認し,記録に残しておくべきである。なお,同条2項は,契約の解除を許可を要する行為として掲げていない。
2 解除を選択した場合
管財人が解除すると,将来の履行請求関係は解消する。相手方の解除損害は破産法54条1項により破産債権となり,原則として破産手続で届出をする。
契約を解除したからといって,前払金全額が当然に優先返還されるわけではない。解除損害,原状回復,財団に現存する反対給付及び取戻権を分ける必要がある。
3 相手方から確答を催告する
相手方は管財人に対し,相当期間を定めて,解除するか履行を請求するかを確答するよう催告できる。管財人が期間内に確答しないときは,解除したものとみなされる(破産法53条2項)。
催告前には,契約番号,未完成部分,現在の保管物,緊急保全の要否,回答期限の根拠及び回答先を明確にする。稼働停止,データ消失,資材劣化等の危険がある場合,確答待ちと並行して保全措置を協議する。
第4 金銭請求を四つに分ける
1 履行選択後の代金・報酬
管財人が履行を選択した後に相手方が有する対価請求権は財団債権である。開始前に既に発生していた別の未払代金と混ぜず,契約・期間・出来高ごとに請求書を分ける。
2 解除による損害賠償
解除によって生じる代替調達費用,逸失利益その他の損害は破産債権として扱われる。損害項目,算定根拠,回避可能性及び二重計上の有無を整理し,届出期間内に届け出る。
3 反対給付の返還又は価額
相手方が既にした反対給付が破産財団中に現存するときは返還を請求でき,現存しないときはその価額について財団債権として権利行使できる(破産法54条2項)。現存性は,入金口座の残高だけでなく,材料,成果物,預け品又は代替物の識別可能性を含めて事実認定する。
請負人が破産した場合について,最高裁第一小法廷昭和62年11月26日判決(昭和59年(オ)第521号,民集41巻8号1585頁)は,仕事が破産者以外の者によって完成することのできない性質のものであるため破産管財人が履行を選択する余地がない場合でない限り,請負契約にも旧破産法59条(現行破産法53条に当たる。)が適用されるとした。そのうえで,契約が解除されたものとされる場合には,注文者は,支払済みの請負報酬の内金から工事の出来高分を控除した残額について,旧破産法60条2項(現行破産法54条2項に当たる。)に基づき財団債権として返還を求めることができるとした。同判決は,この点を審理させるために原判決を破棄して差し戻したものであり,前払金のうちどれだけが返還の対象になるかは,出来高の認定によって決まる。
4 出来高・前払金・未払代金
| 項目 | 確認資料 | 主な法的問題 |
|---|---|---|
| 出来高 | 出来高表,工程写真,検査記録,部分検収書 | 履行済み部分と未履行部分を分割できるか。 |
| 前払金 | 支払明細,使途,信託・分別管理,材料購入記録 | 解除損害か,現存反対給付の返還・価額請求か。 |
| 未払代金 | 請求書,検収,支払期,留保条項 | 破産者の財団債権との相殺又は支払義務。 |
| 材料・成果物 | 所有権条項,製造番号,保管場所,知財条項 | 破産財団帰属,取戻権,利用権及び引渡し。 |
第5 相殺と違約金
相手方が破産者に未払代金債務を負い,同時に解除違約金又は損害賠償債権を取得する場合,相殺の可否が重要になる。破産法67条以下,特に71条と72条を確認し,自働債権の取得原因,受働債務の負担原因,支払不能・支払停止・申立ての時期及び認識を別々に記録する。
最高裁令和2年9月8日判決は,支払停止前に締結された複数の請負契約における違約金債権について,契約締結時から一括清算が予定されていたこと等を踏まえ,「前に生じた原因」を認めた。事案は請負人の破産手続であり,注文者が支払停止を知った後に約定に基づいて工事未完成の契約を解除して取得した違約金債権も,破産法72条2項2号の「前に生じた原因」に基づくものとされ,報酬が未払の別の請負契約に基づく報酬債権との相殺も,同一の請負契約に基づくものであるか否かにかかわらず許されるとした。危機時期後に債権を作れば常に相殺できるという判決ではない。
第6 著しく不公平な解除の限界
最高裁平成12年2月29日判決は旧破産法59条について,管財人の選択権が公平かつ迅速な処理を目的とする一方,解除が著しく不公平な状況を生む場合,原状回復給付の均衡,相手方の不利益回復,破産者側の未履行債務が本質的か付随的か等を総合考慮すべき旨を示した。
旧法判例を現行法へ機械的に置き換えることはできないが,契約名や未履行の有無だけでなく,解除の具体的効果を比較する必要があることを示す。個別案件では,契約類型と現在の53条・54条との構造対応を確認する。
第7 受任直後の資料と時系列
- 基本契約,個別契約,仕様書,見積書,注文書及び約款
- 工程表,出来高表,検収書,納品書,補修記録及び写真
- 請求書,入出金明細,前払金の使途及び未払一覧
- 材料・預け品・成果物・データの保管場所と識別情報
- 倒産解除条項,違約金,相殺,所有権,知的財産権及び秘密保持条項
- 支払停止,申立て,開始決定,管財人選任及び催告・回答の日付
第8 相手方から管財人へ照会する事項
- 53条上の履行又は解除についての現時点の方針
- 回答予定日と,相手方からの催告に対する回答方法
- 履行を選択する場合の工程,資金,担当者,品質保証及び裁判所許可
- 解除する場合の物品・データ返還,現存反対給付及び引渡方法
- 債権届出,財団債権請求,相殺主張及び資料提出の窓口
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倒産事件全般は倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理(AIリライト),相殺禁止は相殺の抗弁に関するメモ書き(AIリライト),クラウド・AI契約の事業継続はAIベンダーの倒産・支配権変更・事業譲渡に備える契約実務(AI作成)を参照されたい。
第10 出典・参考資料
①e-Gov法令検索「破産法」53条,54条,67条~73条,78条及び148条
②e-Gov法令検索「民法」(契約解除,売買及び請負の各規定)
③最高裁第三小法廷平成12年2月29日判決(平成8年(オ)第2224号,民集54巻2号553頁,旧破産法59条)
④最高裁第三小法廷令和2年9月8日判決(平成31年(受)第61号,民集74巻6号1643頁,破産法72条2項2号)
⑤裁判所「破産規則」25条(平成20年最高裁判所規則第8号による改正までを収録した版)
⑥最高裁第一小法廷昭和62年11月26日判決(昭和59年(オ)第521号,民集41巻8号1585頁,旧破産法59条・60条2項)