第1 結論-解除条項だけでは業務を守れない
1 最優先は業務とデータを別の環境へ移せる状態にすることである
AIベンダーが倒産し,買収され,又は事業を譲渡したとき,利用者が必要とするのは契約を終了させる権利だけではない。事件記録,プロンプト,出力,検索対象資料,権限設定,監査ログ及び評価記録を取り出し,他のサービス又は手作業へ移行できなければ,解除できても業務は復旧しない。
また,倒産後に損害賠償請求権を取得しても,一般の倒産債権として十分な弁済を受けられないことがある。そのため,①平時の継続的なデータ出力,②変更前の通知,③新規データ投入を止める権利,④終了後の移行期間,⑤代替サービス又は手作業への復帰,⑥必要に応じたエスクロー又は親会社保証を組み合わせる必要がある。
2 倒産,支配権変更及び事業譲渡は法的に同じではない
株式譲渡による支配権変更では,通常,契約当事者である法人自体は変わらない。これに対し,事業譲渡では個々の契約上の地位の移転が問題となり,合併又は会社分割では法定の承継が問題となる。倒産手続では,双方未履行の双務契約について,管財人等による履行又は解除の選択が問題となる。
したがって,「契約上の地位を第三者へ譲渡できない」という条項だけでは,株式譲渡による支配権変更を捉えられず,合併又は会社分割による承継にも十分とは限らない。各事象を定義し,通知,協議,異議,解除,移行支援及び費用精算を別々に定める必要がある。
第2 四つの事象を区別する
1 株式譲渡による支配権変更
株主が変わっても,契約当事者である会社は通常そのまま存続する。このため,契約上の地位の譲渡禁止条項だけでは,競合会社又は守秘管理に懸念のある会社による買収を止めることができない。
支配権変更を契約上の発動事由とする場合は,議決権の過半数取得だけでなく,取締役の過半数を選任できる状態,親会社の変更,共同支配,重要事業の売却等を含めるかを決める。少数持分投資や通常の資金調達まで解除事由とするとベンダーの事業を過度に制約するため,「利用者の秘密保持,法令遵守,情報セキュリティ又は業務継続へ重大な悪影響を与える場合」に限定し,まず通知と協議,次に新規投入停止,最後に解除という段階を設ける方法がある。
2 事業譲渡
事業譲渡は,その事業を構成する資産,債務及び契約を個別に移転させる取引である。民法539条の2は,契約上の地位の移転について,相手方の承諾を要することを定めている。
もっとも,利用者が譲受会社と利用を続け,支払をし,移行に協力したなどの事後の行動から承諾又は信義則上の主張制限が問題となることがある。譲渡に反対する場合は,通知を受けた後も漫然と利用を続けず,権利を留保し,データの取扱い,契約上の地位及び移行期間について書面で確認する。
3 合併及び会社分割
合併又は会社分割では,会社法に基づいて権利義務が包括的又は法定に承継される。例えば,吸収分割では,承継会社が効力発生日に吸収分割契約で定めた権利義務を承継する(会社法759条1項)。
このため,単純な譲渡禁止だけに依存せず,合併,会社分割その他の組織再編を通知対象にし,承継後の再委託先,データ保存場所,セキュリティ,第三者ライセンス及びサービス水準を再審査できるようにする。
4 破産,民事再生及び会社更生
倒産手続が始まると,契約に「倒産時は解除できる」と書かれていても,必ずその文言どおりに処理されるとは限らない。破産法53条,民事再生法49条及び会社更生法61条は,双方未履行の双務契約について,管財人又は再生債務者等が契約を解除するか,履行を選択して相手方の履行を請求するかという仕組みを置いている。
最高裁平成20年12月16日判決は,フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約について,民事再生手続開始の申立てを解除事由とする部分を,民事再生手続の趣旨・目的に反して無効とした。この判決はAI又はSaaS契約についての判断ではなく,ベンダー側の倒産を扱ったものでもない。しかし,倒産申立てだけを理由とする解除条項が常に有効であるとは限らないことを示す。
一方,債務不履行,重大なセキュリティ義務違反,合意した復旧時間の超過又はサービスの恒久停止という独立の解除事由まで当然に無効になるわけではない。倒産申立てという属性だけでなく,実際に生じた履行障害を客観的な解除事由として定めることが重要である。
第3 ベンダー倒産時の契約関係
1 双方未履行かを契約全体の実態から確認する
継続的なAIサービスでは,ベンダーには将来のサービス提供義務があり,利用者には将来の利用料支払義務が残ることが多い。この場合,双方未履行の双務契約に当たる可能性がある。ただし,一括払切りのライセンス,無償サービス,保守契約,データ処理契約又は個別開発契約が一つの書面に含まれると,どの給付が対価関係にあり,何が未履行かは契約構造によって変わる。
最高裁平成12年2月29日判決は,双方未履行であっても,管財人による解除で相手方に著しく不公平な状況が生じる場合には解除権を行使できないとし,原状回復給付の均衡,不利益の回復程度及び未履行債務が本質的か付随的か等を総合考慮するとした。この判決もゴルフクラブ会員契約についてのものであり,AI契約へ直接当てはまると断定はできない。もっとも,契約を一括して「継続サービス」と呼ぶだけでなく,ライセンス,クラウド運用,保守,データ保管及び移行支援を区分しておく必要性を示す。
2 管財人等の選択を待つ間にも業務は止まり得る
利用者は,管財人等に対して相当期間を定め,契約を解除するか履行するか確答するよう催告できる場合がある。しかし,法的な回答を待つ間も,従業員の退職,クラウド料金の未払,APIキーの停止又は再委託先の離脱によってサービスが実際には動かなくなることがある。
したがって,倒産時の実務では,法的な契約存続と技術的な稼働継続を分けて考える。契約書には緊急連絡先,移行支援義務及びデータ出力を定め,運用では利用者自身が復元可能なバックアップを保持する。
3 継続的給付に関する倒産法上の規定にも限界がある
民事再生法50条及び会社更生法62条は,電気,ガスその他の継続的給付について,手続開始前の料金不払だけを理由に手続開始後の給付を拒めない旨を定める。ただし,個々のAIサービス又はクラウドサービスが当然にこれらの規定の対象になると断定することはできない。適用の有無を当てにして出口計画を省略すべきではない。
第4 支配権変更・事業譲渡・組織再編に備える
1 通知すべき事象と通知期限を列挙する
少なくとも,①支配権変更,②事業譲渡,③合併又は会社分割,④重要な再委託先又は基盤モデル提供者の変更,⑤データ保存国・地域の変更,⑥重要な第三者ライセンスの終了,⑦サービス部門の廃止を通知対象とする。通知は「速やかに」だけでなく,原則として効力発生日の一定日前とし,法令又は秘密保持上事前通知できない場合は,通知可能となった直後と定める。
通知には,新しい支配者又は承継者,承継対象,データの移転先,利用目的,保存場所,再委託先,セキュリティ認証,サービス水準,料金,第三者ライセンス及び移行窓口を含める。
2 反社・競合・国外移転等の重大事由を具体化する
利用者が無条件に解除できる条項は,交渉上受け入れられにくく,軽微な資本異動でも発動し得る。そこで,①競合者による支配,②秘密情報の分離管理ができないこと,③個人データの取扱国又は再委託構造の重大変更,④必要な許認可又は認証の喪失,⑤制裁・反社会的勢力リスク,⑥合意したサービス水準を承継者が維持しないこと等を具体的な判断事由とする。
3 個人データの事業承継は無制限の利用許可ではない
個人情報保護法27条5項2号は,合併その他の事由による事業承継に伴う個人データの提供について,提供先を第三者に当たらないものとして扱う。個人情報保護委員会の通則編は,事業譲渡もこれに含める一方,承継後も従前の利用目的の範囲内で利用しなければならないとしている。
したがって,事業承継に伴う提供が第三者提供規制の例外になることと,利用者との契約上の通知・承諾・解除・削除請求が不要になることは同じではない。契約では,個人データ以外の秘密情報,入力・出力,監査ログ及び派生データも含めて承継条件を定める。
第5 解除権を実効的に設計する
1 解除事由を三層に分ける
第一層は直ちに対応を要する事由である。重大な秘密保持違反,回復不能なデータ消失,違法な第三者提供,長時間の恒久的停止又は必要な権利の喪失等について,無催告解除又は新規データ投入停止を定める。
第二層は是正可能な契約違反である。通知後の是正期間を設け,是正されなければ解除できるようにする。第三層は倒産,支配権変更,重要な事業譲渡等の信用・構造変化であり,通知,情報提供,協議,再審査及び移行の順に権利を定める。
2 解除前にも新規投入停止と読取り専用利用を認める
本番データの投入を停止しても,既存データの閲覧・出力は必要である。そこで,解除とは別に,利用者が新規アップロード,学習,外部連携又は自動処理を停止できる権利と,移行期間中に読取り・出力だけを続ける権利を定める。
3 前払金と未利用分を精算する
ベンダーの責めに帰すべき終了又はサービス廃止では,未利用の前払額を日割り又は月割りで返還する条項を置く。ただし,倒産時の返還請求は一般の倒産債権となり,満額回収できないことがある。重要な契約では,多額の長期前払を避け,月払又は四半期払,エスクロー,保証又は信用状等も検討する。
第6 データ返還・削除・移行を具体化する
1 「顧客データを返還する」だけでは不足する
データは有体物のような所有権の対象として整理できない場合があるため,「顧客データは利用者の所有物である」とだけ定めても,終了時の処理は明確にならない。経済産業省のデータ契約ガイドラインも,データについて民法上の所有権又は占有権を当然に観念できないことを前提に,契約で利用条件を定める考え方を示している。
対象は,少なくとも次のように列挙する。
①入力した文書,画像,音声及び電子メール
②プロンプト,システムプロンプト及び会話履歴
③AIの出力,修正履歴及び利用者の評価
④検索用インデックス,埋込み表現及びファインチューニング用データ
⑤利用者,権限,ワークフロー及び安全設定
⑥監査ログ,アクセスログ,APIログ及び障害記録
⑦データ間の対応関係を復元するためのメタデータ
⑧ベンダー又は再委託先のバックアップに残る複製
ただし,モデルのパラメータ,サービス全体の統計又は他の利用者と不可分な情報まで当然に返還対象になるわけではない。何を分離して出力できるか,契約前の試験で確認する。
2 形式,期限,費用及び完全性を定める
返還条項には,①機械可読形式,②文字コード,③添付ファイル及びメタデータの保持,④一括出力又はAPI,⑤暗号化方法,⑥本人確認,⑦通常時と緊急時の所要時間,⑧追加料金,⑨差分出力,⑩完全性確認用の件数又はハッシュ値を定める。
「契約終了後30日間ダウンロード可能」とするだけでは,倒産又は突然の停止時に機能しない。重要データは,契約中から利用者側へ日次又は週次で複製し,別の環境で復元試験をする。
3 削除は本番環境,複製及び再委託先を分ける
削除条項には,本番環境からの削除期限,バックアップの上書き周期,法令上保存が必要なデータ,保存中の利用禁止,再委託先への削除指示,削除完了証明及び暗号鍵の破棄を定める。障害調査又は法的請求への対応のため例外的に保存する場合は,目的,範囲,保管期限,アクセス者及び終了後の削除を限定する。
個人情報保護委員会の通則編は,委託元に委託先の選定,契約,取扱状況の把握及び再委託先を含む監督を求めている。契約終了時にも,元請ベンダーが「当社環境から削除した」と回答するだけでなく,再委託先及びバックアップまで追跡できるようにする。
4 事業承継の交渉段階も管理する
買収又は事業譲渡のデューデリジェンスで利用者データが候補会社へ開示されることがある。個人情報保護委員会の通則編は,交渉段階で個人データを提供する場合,利用目的,取扱方法,漏えい時の措置及び交渉不成立時の措置等を定める契約を求めている。
利用者側の契約でも,実データを必要最小限とし,可能な限り匿名化又は集計し,交渉不成立時の返還・削除,閲覧者の限定及びログ保存を求める。
第7 ライセンス継続とサービス継続を区別する
1 著作権又は特許のライセンスには対抗制度がある
著作権法63条の2は,利用許諾に係る著作物利用権を,著作権の譲受人等の第三者へ対抗できるものとしている。特許法99条も通常実施権を第三者へ対抗できるものとしている。文化庁の令和2年改正解説は,著作権利用許諾の当然対抗制度と破産法56条により,著作権者が破産しても利用を継続できる場面を説明している。
もっとも,契約が単なる著作物の利用許諾なのか,クラウド上の機能提供,保守,更新,学習済みモデルへのAPIアクセス又はこれらの混合契約なのかで結論は変わる。対象著作物,許諾範囲,期間,地域,譲渡・再許諾,料金及び第三者権利を特定しておく。
2 ライセンスが残ってもSaaSは動かないことがある
知的財産権を利用できることと,サービスが稼働し続けることは別である。データセンター,クラウド契約,APIキー,認証基盤,暗号鍵,ドメイン,モデル重み,推論コード,監視,保守担当者又は第三者コンポーネントのいずれかが欠ければ,ライセンスが存続しても利用できない。
したがって,重要システムでは,次の要素を分けて確保する。
①利用許諾の存続と承継者への対抗
②ソースコード,モデル又は設定ファイルのエスクロー
③リリース時に利用できるライセンス
④ビルド・導入・復旧手順,インフラ構成及び依存関係表
⑤第三者ソフトウェア及びモデルの権利
⑥データ,秘密鍵及び認証情報の移管方法
⑦定期的な預託物の更新及び復元テスト
3 エスクローにも限界がある
基盤モデルの重み又は第三者クラウドをベンダー自身が自由に移転できない場合,エスクロー条項を置いても履行できない。預託対象の権利者,容量,更新頻度,利用に必要な計算資源及び第三者ライセンスを確認する。
一般的な生成AIサービスでは,ソースコード全体のエスクローより,利用者データ,設定,プロンプト,評価データ及び監査ログを常時出力できることの方が,現実的に重要な場合が多い。
第8 損害賠償条項と倒産時の回収可能性
1 民法上の原則と契約上の制限を分ける
民法415条は債務不履行による損害賠償,416条は通常損害及び予見可能な特別損害,545条4項は解除によって損害賠償請求が妨げられないことを定める。もっとも,実際のクラウド又はAIサービス契約では,賠償対象を直接かつ通常の損害に限定し,賠償上限を一定期間の利用料とする条項が多い。
経済産業省のAI・データ契約ガイドラインのモデル条項にも,現実に発生した直接かつ通常の損害に限定し,受領済みの対価を上限としつつ,故意又は重大な過失を除外する例がある。これは一つの交渉例であり,全てのAI契約に適切な結論ではない。
2 責任上限の例外又は別枠を検討する
利用者に重大な影響がある場合は,①秘密保持違反,②個人データ又は事件記録の漏えい・消失,③目的外利用又は学習利用,④知的財産権侵害,⑤故意又は重過失,⑥削除義務違反について,通常の利用料連動上限から除外するか,より高い別枠を設定する。
損害項目には,代替サービスの緊急調達,データ復元,再入力,フォレンジック調査,本人・当局・依頼者への通知,信用回復,追加の人件費及び合理的な移行支援費用を含めるかを検討する。ただし,損害の範囲と因果関係は個別に立証が必要であり,条項へ列挙しただけで当然に全額が認められるわけではない。
3 サービスクレジットを排他的救済にしない
稼働率違反に対する利用料控除は,短時間の障害には適するが,データ消失,秘密漏えい又は恒久的なサービス終了に対する救済としては足りない。サービスクレジットは通常のSLA違反に限り,解除,差止め,データ返還及び損害賠償を妨げないことを明記する。
4 利用者側のバックアップ不足も損害判断に影響し得る
東京地裁平成13年9月28日判決は,レンタルサーバ上のデータ消失について事業者の義務違反を認める一方,利用者が容易にバックアップできたのに行わなかったことを考慮して過失相殺をした。この判決は古いレンタルサーバ事案であり,現在のAIサービスについての先例ではない。しかし,契約でベンダーの責任を定めるだけでなく,利用者側でも独立したバックアップを維持すべきことを示す。
5 倒産時は賠償請求より事前保全が重要である
損害賠償条項が充実していても,ベンダーに資力がなければ回収できない。重要な契約では,サイバー保険及び賠償責任保険の内容,親会社保証,履行保証,前払額の抑制,分割払,エスクロー及び利用者自身のバックアップを組み合わせる。
第9 法律事務所が契約に盛り込む事項
法律事務所が未公表の事件記録又は依頼者情報を扱うAIサービスについては,少なくとも次を確認する。
①倒産,支配権変更,事業譲渡,合併,会社分割及び重要再委託先変更の定義
②事前通知期限,通知内容及び緊急連絡先
③新規データ投入停止,読取り専用利用,解除及び移行期間
④事件記録,メール,プロンプト,出力,ログ,設定及びメタデータの出力範囲
⑤通常時と緊急時の出力形式,期限,料金及び暗号化
⑥本番環境,バックアップ及び再委託先からの削除期限
⑦削除証明,法定保存例外及び保存中の利用禁止
⑧入力・出力の学習利用又はサービス改善利用の禁止又は選択
⑨知財ライセンスの存続,第三者権利及びサービス稼働に必要な要素
⑩SLA,復旧目標,サービスクレジットと他の救済の関係
⑪秘密保持,個人データ,データ消失及び知財侵害の責任上限
⑫合理的な移行費用,復旧費用及び調査・通知費用
⑬保険,保証,前払額及びエスクロー
⑭監査権,再委託先一覧及び変更時の再審査
⑮準拠法,裁判管轄及び海外倒産時の連絡・協力
実際の条項は,サービスの種類,交渉力,データの機密性,代替可能性及び海外事業者かどうかに応じて調整する。消費者契約,独占禁止法,定型約款その他の規律が問題になる場合も,別途検討する。
第10 平時から行う出口訓練
1 少なくとも年一回,データを実際に復元する
「CSVを出力できる」と表示されていても,添付ファイル,文字コード,アクセス権,データ間の関連又は監査ログが欠ければ移行できない。匿名化したテストデータ又は適切に管理したデータを用い,別環境で読み込み,検索し,必要な証跡を表示できるかを試す。
2 契約発動条件と社内判断者を決める
公表された買収,資金調達の不成立,長時間障害,モデル廃止,再委託先変更又は重大インシデントについて,誰が確認し,誰が新規投入を止め,誰が解除又は移行を決めるかを定める。通知を受けても判断期限と責任者がなければ,契約上の権利を使えない。
3 AIを使わない経路を残す
期限計算,裁判所提出,依頼者への最終助言,法令・判例の確認及び証拠保全を,一つのAIサービスだけに依存させない。公式法令,裁判所資料,判例データベース,ローカル保存資料及び人による確認へ戻れる状態を保つ。
第11 確認済み事項・推論・不明
1 一次資料で確認した事項
破産法53条・56条,民事再生法49条・50条,会社更生法61条・62条,民法539条の2,会社法759条,著作権法63条の2及び特許法99条は,e-Gov掲載の法令で確認した。
倒産申立て解除条項の効力については最高裁平成20年12月16日判決,管財人による双方未履行双務契約の解除の制約については最高裁平成12年2月29日判決,サーバデータ消失とバックアップについては東京地裁平成13年9月28日判決の裁判所公表本文を確認した。
個人データの委託先監督及び事業承継時の取扱いは個人情報保護委員会の通則編,データに関する権利設計及び損害賠償条項の例は経済産業省の契約ガイドライン,クラウド契約終了時の資料返還・削除の例は情報サービス産業協会のモデル契約で確認した。
2 実務上の推論
これらの資料から,AIサービスでは,倒産解除条項及び損害賠償条項だけでなく,平時のデータ複製,変更通知,新規投入停止,読取り専用期間,データ移行,削除証明,代替運用及び必要に応じた保証・エスクローを一体で設計する必要があると推論した。
3 現在の不明と判例調査の限界
本調査では,判例秘書へ2回接続を試みたが,いずれも接続時にタイムアウトし,データベース内の検索,ヒット件数の確認及び全文精査を実施できなかった。したがって,判例秘書にAI・SaaSベンダーの倒産,支配権変更,事業譲渡,データ返還又はライセンス継続に直接関係する裁判例がないという意味ではない。
裁判所ウェブサイトでは,「倒産解除特約」,「破産法56条 ライセンス」,「営業譲渡 譲渡禁止特約 民事再生」及び「サーバ データ消失 損害賠償」を手掛かりに公表判例を確認した。裁判所ウェブサイトに掲載されていない裁判例,和解,仲裁及び海外事例は本記事の確認範囲外である。また,本調査でAIベンダー固有の同種裁判例は確認できなかったが,これは不存在を意味しない。
第12 出典・関連記事
1 法令及び裁判例
①e-Gov法令検索・破産法(53条,56条)
②e-Gov法令検索・民事再生法(49条,50条)
③e-Gov法令検索・会社更生法(61条,62条)
④e-Gov法令検索・民法(415条,416条,539条の2,545条4項)
⑤e-Gov法令検索・会社法(759条等)
⑥e-Gov法令検索・著作権法(63条の2)
⑦e-Gov法令検索・特許法(99条)
⑧最高裁平成20年12月16日第三小法廷判決・平成19年(受)第1030号
⑨最高裁平成12年2月29日第三小法廷判決・平成8年(オ)第2224号
⑩東京地裁平成13年9月28日判決・平成12年(ワ)第18468号ほか
2 公的ガイドライン及びモデル契約
①個人情報保護委員会,個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)
②経済産業省,AI・データの利用に関する契約ガイドライン1.1版
③経済産業省,AIの利用・開発に関する契約チェックリスト
④文化庁,著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律(令和2年改正)について
⑤特許庁,通常実施権の当然対抗制度について
⑥一般社団法人情報サービス産業協会,JISAクラウドサービスモデル利用規約と利用申込書(令和3年3月)
3 関連記事
①AIサービスを導入する前のベンダー審査-資本関係,顧客集中,クラウド依存,循環的資金調達及び出口計画
②生成AIサービスの値上げ・提供終了・モデル廃止に備える契約と運用
③生成AIは2000年前後のITバブルと同じ経過をたどるのか
④米国チャプター11と知的財産ライセンス――ライセンサー・ライセンシー別の§365対応
⑤米国のチャプター11と日本の民事再生手続の徹底比較