第1 削除依頼から対応完了までを管理する
1 本記事の対象
AI事業者やプラットフォームへデータの削除を求めた場合,受付の返信,学習設定の変更,提供先への連絡及び受領者の消去完了は,別の出来事である。
法律事務所・企業の担当者は,何を誰に求め,どの対象についてどの処理まで確認できたかを管理する必要がある。
本記事は,令和8年10月4日に確認した公開法令・行政資料・noteの公表説明に基づき,回答を評価し,未完了事項を追う手順を示すものである。
個人情報保護法上の請求理由や請求書の作り方は,個人データの利用停止・消去を求める方法で扱っている。
本記事の台帳,証明項目及び契約条項は実務上の提案であり,すべての情報について無条件の開示権があるという説明ではない。
2 請求の根拠と担当を先に決める
最初に,①対象データ,②そのデータの本人・権利者,③処理を決定する事業者,④契約の停止・削除条項,⑤法定請求の根拠及び⑥担当者を特定する。
個人情報保護法35条は,本人の保有個人データについて所定の理由がある場合の制度である。
著作権者であることや学習を希望しないことだけで,同条による全データの消去が認められるわけではない(現行法16条・35条)。
法務担当は根拠と要求範囲を整理し,IT担当はデータの所在・処理工程・残存範囲を確認する。
海外提供又は再委託があれば,提供元の連絡担当と受領者の実施担当を区別する。
この役割分担は本記事の運用提案であり,特定の事業者の実際の体制を認定したものではない。
第2 法上の消去と契約上の削除を区別する
1 消去は物理削除だけを意味しない
個人情報保護委員会のQ&A9-18は,消去を,保有個人データとして利用できない状態にすることと説明し,データの削除以外の方法も含めている。
したがって,法35条の対応について,すべての媒体からの物理削除だけを唯一の方法と決めることはできない。
ただし,単に画面から隠すことや氏名を外すことが十分かは,残る情報との照合可能性,管理権限及び必要な保護の内容によって検討する。
契約で原データ・全コピーの削除や特定の処理方法を約束している場合は,その約束を別に確認する。
法定の消去として許容される方法があることだけで,契約上の削除義務を履行したとはいえない。
回答が「匿名化済み」であれば,名称だけで判断せず,何を加工し,何との対応関係が残り,どの利用を止めたのかを必要な範囲で尋ねる。
2 学習済みモデルは原データと別に評価する
同Q&A1-8の学習済みパラメータに関する説明には,特定個人との対応関係が失われているという条件がある。
「モデル」という名称だけで個人情報保護法の適用対象外と判断することも,原データが個人情報であることだけでモデル全体の消去義務を認定することも適切ではない。
個人情報・個人データ・保有個人データの各要件と,契約上の取扱いを区別する必要がある。
確認事項は,使用した工程,対象モデル・版,学習又は評価に使った資料,継続利用の範囲,実施可能な処理及び残る影響である。
原文の削除,回答への表示抑制,再学習及びモデルへの影響除去を,同じ処理や同じ証明としてまとめない。
技術的な完全除去を確認できない段階では,その可否又は完了を保証しない。
第3 削除対象を工程と保存先で分ける
次の表は,照会・契約審査のための確認事項である。
すべての対象が同じ法的義務に服するという意味ではなく,実際にその種類のデータが存在するかも確認する。
| 対象 | 確認する処理 | 完了判断に必要な情報 |
|---|---|---|
| 未送信・送信待ち | 対象の選別,今後の送信・再送からの除外 | 対象の版・期間,設定が反映された時刻,未送信分への扱い |
| 受領者の原文・複製 | 利用停止,消去方法,再取得の防止 | 実施対象,実施日,除外した範囲と理由 |
| 加工物・検索用資料 | 抽出文,翻訳,注釈,索引等の取扱い | 原資料との対応,残る識別情報,利用・保持の根拠 |
| バックアップ | 利用制限,消去予定,復元時の再消去 | 最長残存期限,復元時の担当,完了報告の予定 |
| 再提供・再委託先 | 通知の送付,受領,処理の実施 | 提供元の連絡と各受領者の回答を対応させた記録 |
| モデル・派生モデル | 対象版と必要な措置の検討 | 原データの処理とは別の評価,措置と未確認の影響 |
担当者は,一つの「削除済み」という欄だけを設けず,対象・処理主体・根拠・期限・確認資料・残存範囲を対応させる。
原データの保持を認めない契約があるのに,派生データという名称へ移しただけで継続利用を許すことがないかも確認する。
第4 通知,期限及び証明を分けて確認する
1 法定通知と追加証明は異なる
法35条7項は,措置を講じた場合又は講じない決定をした場合の本人への通知を定める。
法36条による不対応等の理由説明は努力義務であり,同じ性質の義務ではない。
また,これらの条文だけから,全削除ログや第三者監査証明書を本人に交付する一般的義務まで導くことはできない。
契約で完了報告・証明・監査への協力を定めている場合は,その対象・時期・方法を確認する。
証明を交渉する場合は,秘密情報を含む全システム資料の提出より,対象を照合できる要約,機密部分を除いた記録及び責任者による確認を組み合わせる方法が考えられる。
2 一律の14日以内という期限を作らない
法35条2項・4項・6項の理由ある請求への措置と,同条7項の通知は,遅滞なく行うものとされる。
法39条が対象とする訴え等について定める請求到達後2週間は,削除完了までの一般的猶予期間ではない。
請求を拒む旨の通知があった場合など,同条の手続条件も別に検討する。
実務上は,受付回答,今後の提供停止,受領者への連絡,通常利用データの処理及びバックアップの最終処理を工程別に管理する。
希望日又は契約上の期限を設定する場合は,法定期限と区別し,未完了の工程,遅延理由及び次の回答予定日を示してもらう。
多額の費用等による困難を理由とする場合も,法35条の例外に必要な権利利益保護の代替措置を検討する。
3 四段階で回答を評価する
| 確認段階 | 分かること | それだけでは分からないこと |
|---|---|---|
| 設定・受付 | 対象設定又は請求を受け付けた | 過去の提供と受領者の処理完了 |
| 提供元の依頼 | 提供先へ停止・削除を求めた | 相手が受領し,実施したか |
| 受領者の完了報告 | 受領者が完了したと回答した | 対象・方法・残存範囲が十分か |
| 対象と対応する完了記録 | 対象,方法,実施日,残存物及び未完了先の対応 | 記録の範囲を超える技術的完全性 |
これは本記事が提案する評価方法であり,法定の証明等級ではない。
完了報告の信用性は,契約上の責任,回答者の権限,対象の特定,記録との整合性等を踏まえて判断する。
最終段階に達した場合でも,学習済みモデルへの影響が全て除去されたという結論へ広げない。
第5 バックアップと残存記録を追う
1 通常利用を止めた後の処理
バックアップが残るという説明を受けた場合は,法令上の保存義務と運用上の保存理由を分け,必要性,期間及びアクセス制限を確認する。
保存の必要性があることを無期限保持の根拠としない。
通常の検索・学習・提供へ戻らない仕組みと,復元された場合の再消去を,契約・運用上の確認項目にすることが考えられる。
台帳には,未完了の対象,消去予定日,担当者及び次回確認日を残す。
最終消去を確認する前に,バックアップを含む全処理が終了したと記録しない。
個人情報保護法22条の不要データ消去の努力義務と,35条の要件を満たす本人請求への義務は,別に判断する。
2 証拠を残すことと本文を保持すること
削除請求の証拠として,請求書,到達,受付番号,対象を識別する最小限の情報及び回答原本を保管することが考えられる。
消去対象となる原文・学習データを全て永久保存することとは区別し,保管目的,必要な期間及び閲覧権限を管理する。
第三者の秘密や個人情報を証明のために広く再配布する運用は避ける。
第6 海外受領者の処理を提供元から確認する
1 法的根拠と継続確認
外国への提供は,本人同意,指定国,基準適合体制等の根拠を特定し,第三者提供か委託等かの検討も別に行う。
外国にある第三者への提供編6は,基準適合体制の経路では,受領者による当該個人データの取扱いが続く間,法28条3項の措置等が必要と説明している。
将来の送信停止だけで,過去提供分の点検を終了しない。
同編6-2には,提供先の問題が是正されない場合に,将来の提供を止め,既提供データの削除も求めている旨を本人に説明する例がある。
この例は過去分への対応を検討する手掛かりになるが,あらゆる理由で全データ又は全モデルの削除を義務付ける一般則ではない。
定期確認の状況と,個別の削除依頼への対応を分けて尋ねることが考えられる。
2 再提供と記録開示の限界
海外の最初の受領者が処理を終えても,再提供先・再委託先まで完了したとは限らない。
提供元への回答,受領者への通知及び各処理結果を対応させ,未回答先を台帳に残す。
法28条3項の情報提供と法33条5項の第三者提供記録開示は,対象・例外の異なる制度である。
同編4-2の注記・4-2-14では,外国受領者に確保する相当措置から,日本の確認・記録義務や第三者提供記録開示等を除外している。
基準適合体制であることだけから,海外受領者に日本と同じ記録作成・本人開示を要求できるとはいえない。
提供元自身の義務,外国事業者への日本法の直接適用,外国法及び契約上の報告義務は別の根拠として検討する。
契約書を第三者提供記録の代わりに用いた場合も,Q&A9-16によれば,記録事項を抽出した別媒体等による開示が可能であり,契約全文の提出が当然の前提ではない。
必要な法定事項と,交渉で追加して求める証明を分けることが実務上有用である。
第7 noteの不参加設定を過去分の消去と混同しない
1 公表説明と実際の処理
noteの公式FAQは,プログラム不参加時の非提供と,提供時点の設定反映を説明している。
一方,クリエイター規約6条10項には,無償・有償提供の許諾と,有償提供を停止する設定という文言差がある。
FAQ・規約・適用時期を契約解釈の資料にする必要があり,文言差だけで実際の無償提供を認定することはできない。
参加設定の公式案内では,記事別設定が全体設定に優先する。
担当者は対象記事の実効設定を確認し,必要なら送信待ち分・再送分への適用時点も照会する。
これは運用確認の提案であり,noteに特定の送信キューが実在するという記述ではない。
2 個別回答なしでは確定できない事項
令和8年10月4日に確認した公表資料では,不参加へ変更すれば過去提供分が自動回収され,全コピーやモデルまで所定の日数で消去されるという一般的約束は確認できなかった。
手続・権利が存在しないという意味ではなく,適用規約,個別条件及び本人請求の根拠を別に検討する必要がある。
本記事は,noteの実際の提供履歴,海外受領者との契約,削除ログ又はモデル処理結果を確認したものではない。
記事の公開価格,noteが受け取る提供対価及びクリエイターへの還元金は別の関係である。
還元金を辞退したこと又は還元通知がないことを,無償提供・不提供の証明として扱わない。
発信前の判断は,法律事務所がnoteで発信する前の確認事項も参照されたい。
第8 完了できない場合の対応と確認限界
担当者は,対象ごとに,実施済み,期限付き残存,代替措置,拒否及び未回答を区別する。
不対応理由が法的要件,技術的困難又は対象不明のどれかを特定し,追加照会,契約上の是正要求,専門家への相談又は紛争手続を判断する。
期限付き残存又は未回答は,担当と次回確認日を決めて引き継ぐ。
本記事の法的説明は公開法令・行政資料によるものであり,台帳・証明項目はそれを踏まえた運用提案である。
令和8年10月3日の関連調査では判例秘書も検索したが,noteの過去提供分,モデルの消去又は海外受領者での処理を直接判断する判決本文を確認できたとは扱っていない。
未閲覧,検索で未発見及び不存在は別であり,本記事が提案する確認方法を裁判所が義務付けたとは述べない。
第9 出典及び関連記事
1 公開一次資料
①e-Gov・個人情報の保護に関する法律16条,22条,28条,33条,35条~39条,171条(令和8年10月1日現在施行の本文)。
②個人情報保護委員会・ガイドライン(外国にある第三者への提供編)4-2・4-2-14・4-2-16・6。
③同・ガイドラインに関するQ&A1-8,9-16及び9-18。
④note・AI学習対価還元プログラムに関するFAQ,参加設定の案内及びご利用規約6条10項。
各記載に利用した箇所を令和8年10月4日までに確認。事業者の公表資料は,記載された方針・仕様の裏付けであり,個別処理の履行証明ではない。
2 関連記事
①個人データの利用停止・消去を求める方法。
②生成AIの学習データ契約とクリエイターへの対価還元。
③法律事務所が生成AIのDPAを確認するときのチェックリスト。
④AIサービス規約の派生データ条項の読み方と弁護士の守秘義務。
⑤生成AIの学習データを開示要求する方法。