第1 結論の要旨
著作権を全部譲渡しても,著作者人格権は譲渡できない。したがって,譲受人が作品を改変できるかは,財産権の帰属だけでなく,著作権法20条,59条及び61条,著作者の同意・不行使合意,譲渡時に予定された利用の範囲から判断する。
本記事は令和8年10月15日現在の法令,法務省公式資料及び公正取引委員会の知財取引指針・同年10月1日改正資料を確認して作成している。行政資料が示す解釈方向及び問題となり得る事例は,裁判例又は個別の違反認定と同じ引用強度ではない。
第2 著作権と著作者人格権を分ける
著作権は,複製権,上映権,公衆送信権,翻案権等の財産的な権利であり,譲渡できる。他方,公表権,氏名表示権と同一性保持権は著作者人格権であり,著作権法59条により著作者の一身に専属し,譲渡できない。
| 確認対象 | 主な条文 | 契約での確認 |
|---|---|---|
| 財産権の帰属 | 61条 | 譲渡対象,地域,期間,対価,再譲渡・再許諾 |
| 改変の可否 | 20条 | 改変の目的,種類,範囲,媒体,事前確認 |
| 著作者人格権 | 59条 | 不行使合意の対象行為,期間,利用主体,承継 |
建物や絵画の原作品の所有権,写真データの保有と,著作権の帰属も区別する。美術の著作物等の原作品の所有者等が原作品を公に展示できる45条1項は,撮影・広告利用・商品化の著作権を一括して取得させる規定ではない。譲渡契約では,物の売買,著作権の譲渡及び利用許諾の対象と対価を分けて確認する。
第3 著作権法61条の譲渡範囲
著作権法61条2項は,著作権譲渡契約で27条の翻訳権・翻案権等又は28条の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を特掲しないとき,譲渡人に留保されたと推定する。「著作権をすべて譲渡する」とだけ書くと,後の翻案・二次利用で紛争になる。
第4 同一性保持権と改変
同法20条1項は,著作者に,その著作物と題号の同一性を保持し,その意に反して変更,切除その他の改変を受けない権利を与える。2項は学校教育の目的上やむを得ない改変,建築物の増築・改築・修繕・模様替えによる改変,プログラムの利用上必要な改変,その他著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変を例外とする。
建築物については20条2項2号の増築・改築・修繕・模様替えによる改変を,4号の「やむを得ない」改変と区別して検討する。2号の適用に4号の要件をそのまま加えたり,修繕という呼び方だけで建物以外の作品の改変まで許されると判断したりしない。また,自己の建物を改変することと,他人の建築の著作物を新築・部分改築で複製することは別であり,後者は複製権と46条2号を検討する。
著作権全部譲渡時に通常予定された改変は,59条の人格権不譲渡性と61条の財産権全部譲渡の趣旨をどう調整するかが問題となる。令和3年司法試験の公式資料は,譲渡事実から改変が「意に反する」かを解釈することを重視する。ただし,これは裁判例ではないため,契約時の説明,利用目的,対価,改変可能性に関する交渉記録を保存する。
第5 不行使合意,第三者及び著作者の死後
1 不行使合意と利用主体
著作者人格権は譲渡できないため,実務では不行使合意が用いられる。しかし,不行使合意は基本的に契約当事者間の債権関係である。子会社,委託先,配信プラットフォーム,販売先又は二次取得者が当然に援用できるとは限らない。どの者が,どの利用で,どの種類の改変を行うかを明示する。
2 著作者が死亡した後の人格的利益
著作権法60条は,著作者が死亡した後も,著作者が存していれば著作者人格権の侵害となるべき行為を原則として禁止する。ただし,行為の性質・程度,社会的事情の変動その他により著作者の意を害しないと認められる場合は例外となる。
同法116条は,60条違反の行為又はそのおそれがある場合について,一定の遺族等に差止め及び名誉回復等の請求を認める。著作者の死亡によって改変上のリスクが当然に消滅するわけではないため,譲受人は,生前の利用目的・意思・契約記録,改変の性質・程度及び遺言による請求権者の指定を確認する必要がある。
第6 契約作成と証拠保存
1 譲渡範囲と証拠を整える
- 著作物と著作者を特定する。
- 原始的な著作権者,職務著作,共同著作の有無を確認する。
- 譲渡する支分権と27条・28条の特掲を書く。
- 予定する改変,媒体,期間,地域,後続版を例示する。
- 不行使合意の対象行為と利用主体を限定する。
- ラフ,納品版,改変版,指示,確認,対価と利用目的を保存する。
2 著作権法上の効力と取引条件の適正を分ける
著作権法61条・59条は,何を譲渡できるか,著作者人格権が譲渡できないこと及び譲渡範囲の推定を定める。
これとは別に,取引上優越する発注者が著作権の無償譲渡又は広範な著作者人格権不行使を一方的に求める行為は,独占禁止法等の観点から問題となり得る。
取適法又はフリーランス法が適用され,業務委託の目的たる使用の範囲を超える著作権等の譲渡・許諾を給付の内容に含める場合は,対象と範囲を発注時の明示又は3条通知に記載し,その対価を代金又は報酬に反映する。
ただし,知財取引指針の事例は個別の裁判所判断ではなく,これだけで契約条項が民事上当然に無効となるわけではない。無効,取消し,差止め又は損害賠償の可否は,適用法と具体的事実を別に検討する。
第7 差止め・損害賠償・原状回復
侵害がある場合,著作者は差止め,損害賠償,名誉声望回復等を検討する。利用停止の緊急性があるときは仮処分も問題となる。譲受人側は,改変の必要性,同意・不行使合意,20条2項の例外,著作者の意思と契約目的を資料で示す。
第8 確認済みと未確認の境界
確認済みは,著作権法20条,21条,45条,46条,59条,60条,61条及び116条の条文と,令和3年司法試験の問題・出題の趣旨・採点実感である。著作権全部譲渡後の改変を同じ事実関係で直接判断した最高裁判例の有無・射程は,判例秘書の網羅的検索を本記事で実施していないため未確認である。
第9 関連記事
製品デザインの制作委託では,譲渡対象の形状等が著作物として保護されるかを先に確認する。量産実用品の著作物性と契約による権利処理の関係は,量産実用品のデザインはどこまで著作権で保護されるか-最高裁判決とトリップトラップ(AI作成)で説明している。
特許保証と知財紛争の責任転嫁―発注者指定の設計では誰が責任を負うか(AI作成)も参照されたい。
建物・展示美術の写真を広告や商品に使えるか―著作権法46条と写り込みの判断(AI作成)では,建築の著作物と展示美術を分け,写真の商用利用と写り込みを検討している。
第10 出典・参考資料
①e-Gov法令検索「著作権法」20条,21条,45条,46条,59条~61条,112条~116条
②令和3年司法試験問題(選択科目PDF掲載ページ)
③令和3年司法試験の結果(論文式試験出題の趣旨PDF掲載ページ)
④令和3年司法試験の採点実感(選択科目PDF掲載ページ)
⑤公正取引委員会・中小企業庁・特許庁「知財取引指針」39頁~43頁
⑥公正取引委員会「取適法運用基準及びフリーランス法の考え方の改正」(令和8年10月1日)