第1 結論の要旨
著作権を全部譲渡しても,著作者人格権は譲渡できない。したがって,譲受人が作品を改変できるかは,財産権の帰属だけでなく,著作権法20条,59条及び61条,著作者の同意・不行使合意,譲渡時に予定された利用の範囲から判断する。
本記事は令和8年9月24日現在の法令と法務省公式資料を確認して作成した。公式資料が示す解釈方向は裁判例と同じ引用強度ではない。
第2 著作権と著作者人格権を分ける
著作権は,複製権,上映権,公衆送信権,翻案権等の財産的な権利であり,譲渡できる。他方,公表権,氏名表示権と同一性保持権は著作者人格権であり,著作権法59条により著作者の一身に専属し,譲渡できない。
| 確認対象 | 主な条文 | 契約での確認 |
|---|---|---|
| 財産権の帰属 | 61条 | 譲渡対象,地域,期間,対価,再譲渡・再許諾 |
| 改変の可否 | 20条 | 改変の目的,種類,範囲,媒体,事前確認 |
| 著作者人格権 | 59条 | 不行使合意の対象行為,期間,利用主体,承継 |
第3 著作権法61条の譲渡範囲
著作権法61条2項は,著作権譲渡契約で27条の翻訳権・翻案権等又は28条の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を特掲しないとき,譲渡人に留保されたと推定する。「著作権をすべて譲渡する」とだけ書くと,後の翻案・二次利用で紛争になる。
第4 同一性保持権と改変
同法20条1項は,著作者に,その著作物と題号の同一性を保持し,その意に反して改変,切除その他の改変を受けない権利を与える。2項は学校教育の目的上やむを得ない改変,建築物の増改築,プログラムの利用上必要な改変,その他著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変を例外とする。
著作権全部譲渡時に通常予定された改変は,59条の人格権不譲渡性と61条の財産権全部譲渡の趣旨をどう調整するかが問題となる。令和3年司法試験の公式資料は,譲渡事実から改変が「意に反する」かを解釈することを重視する。ただし,これは裁判例ではないため,契約時の説明,利用目的,対価,改変可能性に関する交渉記録を保存する。
第5 不行使合意と第三者
著作者人格権は譲渡できないため,実務では不行使合意が用いられる。しかし,不行使合意は基本的に契約当事者間の債権関係である。子会社,委託先,配信平台,販売先又は二次取得者が当然に援用できるとは限らない。どの者が,どの利用で,どの種類の改変を行うかを明示する。
第6 契約作成と証拠保存
- 著作物と著作者を特定する。
- 原始的な著作権者,職務著作,共同著作の有無を確認する。
- 譲渡する支分権と27条・28条の特掲を書く。
- 予定する改変,媒体,期間,地域,後続版を例示する。
- 不行使合意の対象行為と利用主体を限定する。
- ラフ,納品版,改変版,指示,確認,対価と利用目的を保存する。
第7 差止め・損害賠償・原状回復
侵害がある場合,著作者は差止め,損害賠償,名誉声望回復等を検討する。利用停止の緊急性があるときは仮処分も問題となる。譲受人側は,改変の必要性,同意・不行使合意,20条2項の例外,著作者の意思と契約目的を資料で示す。
第8 確認済みと未確認の境界
確認済みは,著作権法20条,59条,61条の現行条文と,令和3年司法試験の問題・出題の趣旨・採点実感である。著作権全部譲渡後の改変を同じ事実関係で直接判断した最高裁判例の有無・射程は,判例秘書の網羅的検索を本記事で実施していないため未確認である。
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第10 出典・参考資料
①e-Gov法令検索「著作権法」20条,59条,61条,112条~115条
②令和3年司法試験問題(選択科目PDF掲載ページ)
③令和3年司法試験の結果(論文式試験出題の趣旨PDF掲載ページ)
④令和3年司法試験の採点実感(選択科目PDF掲載ページ)