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動画・デザインの元データは納品義務があるか―著作権譲渡,編集データ及び追加料金(AI作成)

第1 元データの納品義務は,まず契約の納品範囲から確認する

動画やデザインの完成版を納品した後に,「編集できる元データも渡してほしい」と求められたときは,契約書,仕様書,見積書及び発注時の説明から,何を納品する合意であったかを確認する。
完成版の納品と,制作に使った全ファイルの引渡しを一括りにしない。

「著作権を譲渡したから,手元にある制作データを例外なく無料で引き渡す」「元データという名前だから,必ず追加料金を取れる」という結論を先に置くことも避ける。
権利の移転条項,納品対象の条項,利用目的及び代金の算定範囲を対応させて,契約の内容を判断する必要がある。

公正取引委員会等の令和8年6月24日「知財取引指針」は,契約内容に含まれない中間成果物や素材データの無償提供を一方的に要請された事例や,他の事業者に再編集を依頼する目的で撮影素材データの無償提供を要請された事例を取り上げている。
これらは「問題となり得る事例」であり,「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」行われる場合に優越的地位の濫用として問題となるという行政上の整理である。
問題となるかは個別の事案ごとに判断されるものであり,すべての元データの追加要求が直ちに違法となるという意味ではない。

以下は,令和8年11月1日現在,指針,同年10月1日の取適法運用基準等の改正資料及び文化庁の契約資料を踏まえて,契約の確認と交渉の手順を整理したものである。

第2 完成版,編集データ及び撮影素材を分ける

「元データ」は,対象が曖昧になりやすい言葉である。
少なくとも,次のファイルを区別して一覧にするとよい。

① 完成版。
配信用の動画,印刷用の入稿データ,公開用の画像など,合意された用途で使うための納品物である。

② 編集用ファイル。
動画編集のプロジェクトファイル,レイヤーを保持したデザインデータ,編集可能なウェブ制作データなどである。
使用ソフトとバージョン,外部ファイルへの参照,フォント及び追加機能の有無も確認する。

③ 素材と中間成果物。
撮影した未使用の映像・写真,録音素材,絵コンテ,ラフ,不採用案などである。
完成版に使われなかった素材まで納品対象となっているかは,別に確認する。

④ 制作側の汎用資産。
過去から使っているテンプレート,独自の制作手順,他案件の素材などである。
今回の成果物と混在している場合には,納品対象を抽出し,第三者の情報や他案件の情報が含まれない形を協議する。

この分類は,納品範囲を合意するための実務上の整理である。
ファイルの拡張子や名称だけから,契約上の引渡義務や著作権の帰属が決まるものではない。

第3 著作権譲渡とファイルの引渡しを対応させる

文化庁の契約資料は,制作の報酬を支払ったことだけで依頼者が著作権を取得するわけではなく,利用許諾又は譲渡の内容を契約で定める必要があると説明している。
著作権の帰属と,どのファイルをどの形式で納めるかは,関連するが確認事項の異なる問題である。

例えば,完成した広告画像の著作権を譲渡する契約と,制作に使った全撮影素材や編集履歴まで引き渡す契約が,同じ内容であるとは限らない。
他方,発注時から他社への保守・改修の引継ぎが明示され,編集可能なデータの納品を合意していたなら,完成版を渡すだけで足りると即断することもできない。

著作権譲渡条項では,対象作品と権利の範囲を特定する。
著作権法61条2項による27条・28条の権利の留保の推定や,著作者人格権を譲渡できないことにも注意する。
これらは,編集用ファイルを渡すかどうかの条項を具体化する作業と併せて検討する必要がある。

既存の写真,音源,フォント等が含まれる場合は,それぞれの利用条件を確認する。
制作会社が利用できる素材であっても,発注者や次の編集会社に同じ条件で提供し,再利用させられるとは限らない。
権利を取得していない素材まで,一括した譲渡条項で処理済みとしない。

第4 納品後に追加要求を受けた場合の協議

最初に,当初の納品義務の履行を求められているのか,合意した範囲を超える追加提供を求められているのかを整理する。
当初から編集用ファイルを含む契約であれば,その履行を求められたことだけで追加業務と扱わず,作業範囲や代金の変更について別の合意があるかも確認する。
範囲に争いがあるときは,契約書だけでなく,仕様変更,見積条件及びやり取りを確認する。

追加提供を協議する場合は,対象ファイル,利用者,利用目的,編集・再利用の範囲,整理・変換作業,提供時期及び追加対価を一組で示す。
単に「元データ代」とするよりも,何を追加していくらになるかを双方が確認しやすくなる。

知財取引指針の44頁~45頁は,契約内容に含まれない中間成果物の無償提供の要請や,他の事業者に再編集を依頼する目的での撮影素材データの無償提供の要請などを取り上げる。
原資料である令和8年3月の実態調査報告書にも関連する聴取事例がある。
これらは事業者から聴取した事例であり,裁判所が各契約の納品義務や追加代金を確定した判決ではない。

指針53頁の実践例2-21には,ウェブ制作の事業者が,顧客から編集可能データを求められた際に,当該データの著作物該当性を主張し,制作データ譲渡代として,制作費とは別に制作費の一定の割合を乗じた額を請求している取組が紹介されている。
ただし,実践例は一方当事者の認識に基づくものであり(指針23頁注47),これを動画・デザインの全取引に適用される料金表や,当然に請求できる割合と読むことはできない。

取適法又はフリーランス法が適用される取引では,発注内容の明示や,不当な経済上の利益の提供要請等の禁止についても確認する。
各法律の適用対象,要件及び対象となる行為は同一ではない。
行政上問題となる可能性と,追加代金等の民事上の請求が認められるかは,それぞれ検討する必要がある。

第5 第三者への再編集の引継ぎで確認する事項

発注者が別の制作会社へ引き継ぐ場合は,データの引渡しだけでなく,引継先による利用と改変の範囲を具体化する。
利用許諾の契約であれば,第三者への提供,再許諾又は再編集を認める条件を確認する。
著作権の譲渡があっても,著作者人格権に関する処理は別に検討する。

実務上は,次の点を合意書又は変更発注書へ記録するとよい。

①提供するファイルの一覧と形式,受領者,使用する編集環境。
②引継先が行う編集の目的と範囲,素材を別案件へ転用することの可否。
③第三者素材について,提供できるものと,発注者側で再取得を要するもの。
④個人情報,未公表情報,他案件の情報等の削除・分離の方法。
⑤データの整理,変換,説明及び操作支援を行う範囲と対価。
⑥納品後の保守,ソフトの互換性及び修正対応の範囲。

以上は,引継ぎ時の認識違いを減らすための確認事項である。
元データを渡したという一事から,無期限の保管・技術支援や,あらゆる編集環境での動作まで約束した扱いにしない。

第6 発注前の確認事項と回答例

発注者は,次の制作会社で改修する予定があるなら,契約前に伝え,編集用ファイルの納品と利用条件を見積もりに含める。
受注者は,完成版だけを見積もるのか,編集データや撮影素材も含むのかを具体的に示す。
「制作一式」だけで済ませないことが,双方の予算と作業範囲を合わせる出発点になる。

次は,追加提供を協議する場合の回答例であり,既に合意した納品義務を否定するための文例ではない。

今回の発注書と見積書では,納品対象を完成版の動画として記載しています。ご希望のファイル,利用目的及び再編集を担当する会社をご提示ください。当初の契約範囲を確認した上で,追加提供となる部分については,第三者素材の利用条件,整理・変換作業,納期及び対価を記載した変更見積書を作成します。

契約上の納品範囲が明確でない場合は,確定していない事実を断定せず,当初の説明と交渉記録を照合する。
発注書,仕様書,見積書,変更依頼,納品一覧及び合意した回答を同じ案件の記録として残しておくとよい。

第7 関連記事

①図面・ノウハウ・生産データを無償で求められたとき―知財取引指針と契約・証拠の実務(AI作成)
②著作権全部譲渡後の改変と著作者人格権―著作権法20条・59条・61条(AI作成)
③取適法・フリーランス法で知財の譲渡・許諾を発注するとき―令和8年10月1日改正,明示及び対価(AI作成)

第8 出典・参考資料

①公正取引委員会・中小企業庁・特許庁「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」(知財取引指針)(令和8年6月24日)。
優越的地位の濫用の考え方は4頁~5頁,実践例の注記は23頁,中間成果物等の事例は44頁~45頁,取組例は49頁~54頁,関係法令の整理は75頁~76頁。
頁は冊子印刷頁である。
②公正取引委員会「知的財産権・ノウハウ・データを対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」(令和8年3月)。
48頁の事例33~35。
③公正取引委員会「取適法運用基準及びフリーランス法の考え方の改正」(令和8年10月1日)。
適用関係と発注時の明示の詳細は第7の関連記事も参照されたい。
④文化庁「誰でもできる著作権契約マニュアル」第2章3(2)B。
著作権の帰属,利用許諾,譲渡,著作者人格権及び対価。
⑤e-Gov法令検索「著作権法」。
59条,61条等。