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執行事件の地裁本庁・拠点支部への集約-不動産執行,債権執行等の状況と理由(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 不動産執行だけを扱うものではない

地方裁判所全体の役割と他の裁判所との違いは,地方裁判所とは―扱う事件・他の裁判所との違い・管轄の調べ方で説明している。本記事では,執行事件の種類ごとに本庁・支部の取扱いと申立先を確認する。

民事執行には,不動産に対する強制執行・担保権実行だけでなく,預貯金・給与等を対象とする債権執行,自動車執行,財産開示手続,第三者からの情報取得手続,動産執行,建物明渡し等の執行がある。本記事は,令和8年9月24日現在の裁判所の公式ウェブサイト,司法行政資料,司法統計及び弁護士会の正式な決議を基礎として,これらの執行事件が地方裁判所の本庁又は拠点となる支部へ集約されている状況と,その理由を整理するものである。
集約の範囲は全国一律ではない。管轄区域が同じように支部の区域であっても,不動産執行だけを本庁で扱う地域,不動産執行と債権執行を集約する地域,財産開示手続及び第三者からの情報取得手続まで集約する地域,これらを本庁ではなく別の拠点支部へ集約する地域がある。

2 結論の要点

裁判所が明示している集約理由は,専門部による迅速かつ効率的な処理である。札幌地方裁判所委員会では,不動産競売事件及び債権執行事件を支部から本庁へ集約した理由として,専門部で迅速かつ効率的に処理することが説明され,集約後に売却率が改善し,処理期間も短縮したと報告されている。
これを全国の支部運営に関する司法行政資料と併せて読むと,集約の実質的な背景は,少数又は変動の大きい事件を各支部へ分散させるより,裁判官,書記官及び執行部門の知識・経験を本庁又は拠点支部へ集中し,担当体制を安定させることにあると考えられる。ただし,これは公開資料から導く分析であり,裁判所が秘密の目的を公表したという意味ではない。また,経費削減や支部廃止が主目的であると裏付ける一次資料は確認できない。

第2 「本庁集約」の法的な意味

1 法定管轄の変更とは限らない

地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則3条1項は,地方裁判所がその支部で取り扱う事務を自ら処理し,又は管内の他の支部で処理させることができる旨を定めている。したがって,支部区域内の事件を本庁又は別の支部で扱う集約は,法律による裁判所の管轄区域そのものの変更ではなく,同じ地方裁判所内部における事務分配として実施されることがある。
このため,申立人が民事執行法の管轄規定だけを読んでも,実際の提出先を確定できない場合がある。対象となる所在地の地方裁判所ウェブサイトにある「管轄区域表」,「民事執行事件の取扱い」又は最新のお知らせを,手続の種類ごとに確認する必要がある。

2 本庁だけでなく拠点支部への集約もある

集約先は必ずしも地方裁判所本庁ではない。広島地方裁判所尾道支部の区域では,不動産執行,債権執行,財産開示及び第三者からの情報取得を福山支部が扱い,熊本地方裁判所人吉支部の区域では不動産執行を八代支部が扱う。神戸地方裁判所豊岡支部で扱っていた不動産競売事件等も,令和8年4月1日から姫路支部へ集約された。
したがって,「本庁集約」という語は実務上便利な略称ではあるが,正確には「本庁又は拠点支部への集約」と捉えるべきである。地域単位ではなく,地方裁判所の管内全体で専門処理体制を組み替える現象だからである。

第3 執行事件の種類によって取扱庁が異なる

1 裁判所が扱う主要な手続

裁判所の民事執行案内は,金銭執行として不動産執行,動産執行,債権執行,自動車執行等を挙げるほか,財産開示手続及び第三者からの情報取得手続を案内している。不動産競売では物件の評価,現況調査,売却手続及び配当が連続する一方,債権執行では差押命令の発令,第三債務者への送達,取立て又は配当等が中心となるため,同じ「執行事件」であっても必要な事務は異なる。
財産開示手続は,債務者を裁判所へ呼び出して財産を陳述させる手続である。第三者からの情報取得手続は,登記所,金融機関等又は市町村等から一定の財産情報を取得する手続であり,取扱庁の表では債権執行と別項目にされることが多い。

2 執行官が扱う現地執行

動産執行,建物明渡し,土地明渡し等は,執行官への申立てによって現地で実施される。裁判所の管轄区域表では,裁判所が受け付ける不動産執行や債権執行等と,執行官が取り扱う事件とが区別されている。
裁判所部門の事件を本庁へ集約しても,執行官取扱事件を地域に残す例がある。令和8年10月1日から実施される青森地方裁判所及び福島地方裁判所相馬支部の集約告知も,執行官に申し立てる動産執行事件等を集約対象から除外している。この例外は,目的物の所在地で行う現地執行には,書面審査中心の事件とは異なる地理的制約があることを示している。

第4 現在確認できる集約の五つの型

1 主要四手続を本庁へ集約する型

北海道の一部の支部区域では,不動産執行,債権執行,財産開示及び第三者からの情報取得を札幌地方裁判所本庁等で扱い,その他の民事執行事件を区域の支部で扱う。千葉地方裁判所八日市場支部の区域でも,この四手続を本庁が扱い,その他の民事執行事件は八日市場支部が扱う。
この型では,裁判所内部の審査・管理を要する代表的な手続がまとめて集約される一方,すべての執行事件が本庁へ移るわけではない。「債権執行も集約されたか」だけでなく,財産開示及び第三者情報取得の欄も別に確認する必要がある。

2 不動産執行だけを集約する型

千葉地方裁判所佐倉支部,一宮支部,木更津支部,館山支部及び佐原支部の各区域では,不動産執行を本庁が扱う一方,その他の民事執行事件は各支部が扱う。熊本地方裁判所人吉支部の区域も,不動産執行は八代支部へ集約されるが,その他の民事執行事件は人吉支部で扱う。
不動産競売は,評価人,執行官,登記,売却及び配当を含む一連の処理が必要である。専門的な担当体制をまとめる効果が大きいことが,不動産執行のみを集約する地域が存在する理由の一つと考えられる。

3 不動産執行と債権執行を集約する型

熊本地方裁判所天草支部の区域では,不動産執行及び債権執行を本庁が扱い,その他の民事執行事件を天草支部が扱う。長崎地方裁判所平戸支部の区域では,不動産執行及び債権執行を佐世保支部が扱い,その他の民事執行事件は平戸支部が扱う。
長崎地方裁判所が令和7年に公表した集約案内は,執行官取扱事件,財産開示手続及び第三者からの情報取得手続を集約対象から除外すると明記している。債権執行を集約したからといって,債務者財産の調査に関する二つの手続まで当然に同じ庁へ移るわけではない。

4 本庁ではなく拠点支部へ集約する型

広島地方裁判所尾道支部の区域では,不動産執行,債権執行,財産開示及び第三者からの情報取得を福山支部が扱う。神戸地方裁判所豊岡支部の不動産競売事件等は姫路支部へ,熊本地方裁判所人吉支部の不動産執行は八代支部へ集約されている。
この型は,集約の目的が単純な「本庁への一極集中」ではないことを示す。交通圏,事件量,担当体制及び管内の地理を踏まえ,専門処理の拠点となる支部へ集める設計も採られている。

5 裁判所取扱事件を原則として全部集約する型

青森地方裁判所は,令和8年10月1日以降,弘前,八戸,五所川原及び十和田の各支部が扱ってきた民事執行事件を本庁へ集約すると公表している。福島地方裁判所も,同日以降,相馬支部が扱ってきた民事執行事件を本庁へ集約すると公表している。いずれも執行官に申し立てる動産執行事件等は対象外である。
これらは本記事の基準日には施行前であるため,現在の取扱いと将来の取扱いを混同してはならない。告知には,施行日前に支部へ申し立てられた事件でも,施行日後に本庁へ移される場合がある旨が記載されており,係属中事件についても個別確認が必要である。

第5 近年も集約先は変わっている

1 令和7年及び令和8年の変更例

沖縄県では,令和7年4月1日から,地方裁判所支部が取り扱っていた不動産競売事件が那覇地方裁判所本庁へ集約された。長崎地方裁判所平戸支部の不動産執行及び債権執行は同年10月から佐世保支部へ集約され,令和8年4月には金沢地方裁判所管内,神戸地方裁判所豊岡支部及び熊本地方裁判所人吉支部等でも取扱いの変更が公表された。
令和8年10月1日以降の取扱いについて,青森地裁の公式案内は,執行官へ申し立てる動産執行事件等を除き,民事執行事件を本庁のみで取り扱うとしている。一部の事件は同日前から本庁へ回付される場合があり,不動産競売の入札書等の必要書類は管内支部でも受け取ることができると案内されている。
また,福島地裁相馬支部のBIT案内は,同日から相馬支部の不動産競売事件を福島地裁本庁へ集約するとしている。入札先は物件の「期間入札の公告」を作成した裁判所で確認する必要があり,古い支部名だけで入札書の提出先や保証金振込先を決めてはならない。これらの案内は令和8年10月8日現在のものである。集約は過去に完了した一回限りの政策ではなく,現在も管内ごとに見直されている。

2 基準日を明示して申立先を確認する必要がある

取扱庁は,申立日だけでなく,対象物の所在地,債務者の住所,差し押さえる財産,事件の種類及び移行措置によって変わり得る。特に施行日の前後では,旧取扱庁が申立書を受け付けた後に新取扱庁へ回付する運用が告知されることがある。
過去の記事,申立書式又は競売物件情報だけを見て提出先を決めるのは危険である。提出直前に公式の管轄区域表と変更告知を確認し,不明な場合は対象手続の担当係へ照会するのが安全である。

第6 裁判所が明示した集約理由

1 専門部による迅速かつ効率的な処理

平成23年1月26日に開催された第26回札幌地方裁判所地方裁判所委員会の議事概要では,支部で取り扱っていた不動産競売事件及び債権執行事件を本庁へ集約した理由について,専門部で迅速かつ効率的に処理するためであると説明されている。集約の公式な説明として確認できる中心語は,「専門性」,「迅速性」及び「効率性」である。
執行事件では,申立ての形式審査だけでなく,差押えの競合,配当要求,物件の評価・現況,売却条件,送達,配当等の処理が連続する。事件が少数の支部へ散在するより,継続的に扱う部署へ集めた方が,判断及び定型事務の蓄積を維持しやすいという説明には合理性がある。

2 改善効果の説明とその限界

同委員会では,集約後に不動産競売事件の売却率が改善し,処理期間も短縮したと報告されている。これは,集約後の運用成果について裁判所自身が述べた重要な資料である。もっとも,議事概要には,集約前後の具体的な売却率・処理期間,比較期間,対象件数又は指標の定義までは記載されていない。そのため,改善の方向を示す資料ではあるが,集約による効果の大きさを定量的に検証できる資料ではない。
また,全国平均の不動産執行事件の平均審理期間は,平成元年の20.5月から令和7年の9.1月へ長期的には短縮したが,直近では令和5年8.4月,令和6年8.6月,令和7年9.1月と長期化している。法改正,経済状況,物件市場,事件構成,手続運用及び情報化等も影響し得るため,全国統計だけから個別の集約施策との因果関係を示すことはできない。

第7 集約の実質的な背景

1 事件量と人的資源の配分

最高裁判所の裁判迅速化検証に関する検討会では,支部の規模,事件の動向,社会経済情勢及び地域の環境等を複合的に考慮して支部運営を検討するとの説明がされている。その議論では,非常駐支部の事件数が過払金事件を除けば平均月2件程度にとどまり,複雑又は専門的な事件が少ないとの指摘や,事件数が少ない支部へ裁判官等を配置することは人的資源の有効活用の面で非効率な側面があるとの意見も記録されている。
衆議院法務委員会でも,最高裁判所の説明として,事件数,事件の複雑困難性及び事務量を考慮して司法行政上の態勢を整え,裁判官一人分の事務量に満たない非常駐支部では近隣庁から裁判官が出向いて処理する運用が述べられている。これらは執行事件だけを対象とする資料ではないが,少数事件を各支部で個別に抱えず,拠点へまとめる背景を理解する資料になる。

2 専門知識と事務処理経験の蓄積

令和7年の全国の新受件数は,不動産執行事件1万8109件,債権執行事件17万7028件,財産開示事件1万3567件,第三者からの情報取得事件8355件であった。全国合計では相当数に上るが,債権執行に比べて不動産執行,財産開示及び第三者情報取得は少なく,それを各支部へ細分すると,一庁当たりの事件数は安定しにくい。
したがって,公開資料から読み取れる集約の実質的な狙いは,単なる書類の移送ではなく,専門性を要する事件を継続的に経験する担当部署を維持し,裁判官,書記官及び執行関係者の事務処理を標準化することにあると考えられる。これは裁判所が明示した「迅速かつ効率的な処理」と,事件量・人的資源に関する司法行政資料を組み合わせた分析であり,公表された内部決裁理由そのものではない。

3 経費削減や支部廃止を本音と断定できない

人員を集約すれば設備や配置の重複が減る可能性はあるが,確認した一次資料は,経費削減を民事執行集約の主目的として掲げていない。また,執行事件の一部を集約した後も,各支部は通常訴訟,家事事件,刑事事件その他の業務を継続しており,執行事件の集約だけから支部廃止の準備であると断定することもできない。
他方で,人的資源の有効活用が支部運営全般の検討要素であることは,裁判所及び国会の公開資料に現れている。「本音の理由」を論じる場合でも,確認できる事実は専門処理,迅速性,効率性及び人的資源の配置であり,経費削減や組織縮小は可能性と証拠を区別して扱う必要がある。

第8 司法アクセス上の不利益

1 記録閲覧,書面提出及び移動の負担

東北弁護士会連合会の2019年(令和元年)7月5日付け「裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」は,その提案理由において,「執行事件の管轄を債務者の住所地や不動産所在地として債務者側に認めているのは、債務者に対し適切に手続に参加できる機会を与えたためであるにもかかわらず、本庁に集約されると、債務者は本庁まで記録の閲覧に行き、本庁に書面を提出することになり、本庁への移動や時間がかかるという負担が生じている」と述べ,執行事件の本庁への集約化を改めるよう求めている。集約先が広域の本庁又は拠点支部になるほど,支部所在地からの距離や公共交通の状況が利用者の負担に直結する。
裁判所側の迅速性・効率性と,利用者側の近接性は,同じ尺度ではない。本庁内部の処理が速くなっても,申立人,債務者,買受希望者及び地域の代理人にとっては,移動時間や照会のしにくさが増える場合があり,集約の評価には両面を見る必要がある。

大阪高等裁判所管内についても,近畿弁護士会連合会の2013年(平成25年)9月20日付け「大阪高等裁判所管内の地家裁支部の司法基盤の整備充実を求める決議」が,冒頭で,同管内の裁判所支部では「近時、不動産競売事件や債権執行事件の本庁集約化、医療過誤事件や行政事件や知的財産権事件の本庁集約化が進められている」と述べている。
同決議が最高裁判所に早急な実現を求めた4点は,支部の新設,労働審判の取扱い,民事の合議事件の取扱い及び裁判官の常駐であり,執行事件の取扱いは含まれていない。

2 地域に残る手続とデジタル化

すべての手続が一律に遠隔地へ移されているわけではない。現地実施を要する執行官取扱事件を集約対象外とする例や,一部の執行だけを地域の支部に残す例,本庁ではなく近隣の拠点支部へ移す例がある。この多様性は,専門処理の集中と地域アクセスとの調整が管内ごとに行われていることを示す。
裁判所は,民事執行手続等のデジタル化を令和10年6月までに実施する予定であると案内している。オンライン申立てや電子記録が整備されれば書面提出・記録閲覧の地理的負担を緩和し得るが,本記事の基準日には全面実施されておらず,現地執行まで不要になるわけでもない。将来のデジタル化を,過去の集約理由又は現在の完全な代替措置として扱うことはできない。

デジタル化と支部機能の関係については,弁護士会連合会から懸念も示されている。
東北弁護士会連合会の2026年(令和8年)7月3日付け「民事訴訟デジタル化に関する改正法の全面施行を受けて、より身近で利用しやすい民事司法の実現を求める決議」は,事件が係属する庁舎に裁判官がいなくてもオンラインで手続を進める「機動的審理運営」が更に進むと,支部等では「裁判官の常駐ばかりか定期的な填補すらも不要ということになりかねない」と述べ,デジタル化を契機に支部や出張所の統廃合に向かう方針を採用しないよう求めている。
近畿弁護士会連合会の2023年(令和5年)12月1日付け「最高裁判所に対し、日本弁護士連合会との間で地域司法の基盤整備に関する協議を再開するよう求める決議」も,裁判等手続がIT化しても,本人訴訟の場合など,地方で生活する市民の司法アクセスの問題を解決することはできないとしている。

3 大阪地裁堺・岸和田両支部についての検討

(1)BITの検索利便と裁判所内部の集約は別に評価すべきである。
BITの近畿地方・大阪府の検索画面では,市区町村,沿線,裁判所及び事件番号から物件を検索できる。したがって,府内の物件を一体的に見せるために物件の取扱庁まで一か所に集めることが当然に必要とはいえない。検索回数,閲覧数,入札者数,入札件数,売却率及び不売率を取扱庁別に比較し,公開画面の改善で解決できる問題と,内部事務の集約でなければ解決できない問題を分ける必要がある。

(2)公開された実際の売却日程から確認できる差は限定的である。
BITの令和8年度日程で,裁判所書記官が売却を実施させる旨の処分をした日(売却実施処分日)から開札日までを一例ずつみると,大阪地裁本庁は令和8年8月17日から10月2日までの46日,堺支部は同年9月2日から10月22日までの50日,岸和田支部は同年9月4日から10月23日までの49日である。これは各庁の一回の日程にすぎず,平均値でも処理期間全体でもないが,本庁と両支部に数か月単位の差があることを示すものではない。令和9年分として公表されている定例日程(農地専用の日程を除く。)は堺支部10回,岸和田支部8回である一方,本庁の令和9年通年日程は令和8年9月24日現在まだ公表されていないため,同一年度の単純比較はできない。集約による日程面の利点を検証するには,実施回数だけでなく,申立てから開始決定,現況調査・評価,公告,入札,売却許可,代金納付及び配当までの各期間について,中央値,件数,不売・取消し等を含む事件単位の比較が必要である。

(3)大阪府南部では「大阪地裁本庁」ではなく民事執行センターまでの交通を比較する必要がある。
堺支部は南海高野線堺東駅から徒歩約5分,岸和田支部は南海本線春木駅から徒歩約12分である。これに対し,大阪地裁の不動産執行部門が置かれる民事執行センターは大阪市北区西天満の本庁舎ではなく大阪市淀川区三国本町にあり,大阪メトロ新大阪駅から徒歩約15分,JR新大阪駅から徒歩約20分,阪急三国駅から徒歩約15分と案内されている。堺支部は堺市,高石市,大阪狭山市,富田林市,河内長野市,南河内郡(河南町,太子町及び千早赤阪村),羽曳野市,松原市,柏原市及び藤井寺市を,岸和田支部は岸和田市,泉大津市,貝塚市,和泉市,泉北郡(忠岡町),泉佐野市,泉南市,阪南市及び泉南郡(熊取町,田尻町及び岬町)を管轄する。鉄道駅から離れた地域,乗換えを要する地域,自動車依存度の高い地域では,距離だけでなく,始発地からの所要時間,乗換回数,運賃,運行頻度及び駐車の可否を市町村別に比較すべきである。例えば千早赤阪村の地域公共交通計画概要版は,公共交通空白人口を1398人,人口比28.5%とし,令和5年12月の金剛バス路線廃止後にコミュニティバス等で交通を確保した経緯を示している。高齢者,障害者,事業者でない個人,記録閲覧・謄写を要する関係人及び代理人の負担を一律に「オンライン化」で解消済みと扱うことはできない。

(4)大阪地裁の現行事務分配には,全面集約より制約の小さい調整手段が既にある。
令和8年4月7日現在の大阪地裁事務分配は,関連事件の配点調整や,個別事件を他の部又は支部へ移す仕組みを置く一方,堺支部では民事執行事件を第一民事部B係が担当し,岸和田支部でも請求異議等を除く民事執行関係事件を複数の裁判官が分担する体制を明記している。専門性の共有は,全部移管だけでなく,共通チェックリスト・書式・マニュアル,本庁による研修と助言,共同の売却日程,難件の個別移管,期間を区切った試行でも図り得る。全面集約を選ぶ前に,これらの代替策と比べて,どの工程にどれだけの時間短縮又は品質向上が見込まれるかを示すことが望ましい。
不動産の現況調査は,執行裁判所の命令により執行官が行う(民事執行法57条1項)。
集約後も目的不動産の所在地に近い支部の執行官が現況調査を担当する運用をとる場合には,執行裁判所と執行官との日常的な連絡が庁舎をまたぐことになるため,その連携の方法も検討の対象になる。

(5)職員負担を理由とする場合も,移行費用を含む実測値が必要である。
全司法新聞は,全国の裁判所職場について,欠員,人員不足,時間外労働及びデジタル化への対応負担を繰り返し指摘している。これは労働組合側の公表であって大阪地裁民事執行部門の個別事情を直接示す資料ではないが,裁判所職員の負担軽減を政策目的として正面から評価すべきことを示す。集約の検討では,本庁・両支部の定員,欠員,超過勤務,事件一件当たり作業時間,未済件数,休暇取得に加え,記録移送,スキャン,照会対応,引継ぎ,通勤・配置転換及び一時的な二重事務も測定する必要がある。大阪弁護士会の地域司法計画資料が掲げる令和4年の民事執行事件(全類型)は,本庁1万3166件,堺支部2581件,岸和田支部1712件,合計1万7459件であり,不動産執行だけの件数ではないものの,移行規模を検討する基礎となる。まず期限を区切った試行を行い,処理期間,売却率,不売率,照会件数,出張・移動負担及び職員の超過勤務を事前に定めた指標で公表し,改善が確認できない場合の見直し条件を置くことが,利用者と職員の双方に配慮した方法である。新件を先に移し,係属中の事件を後から移すような段階的な方法をとる場合も,どの期間・件数の結果を観察し,どの指標を満たしたときに次の段階へ進むのかを事前に定めておく必要がある。移行の直後は売却・配当まで終わった事件が少ないため,補正の処理の速さなど短期間で得られる指標だけで,手続全体が改善したと判断することはできない。

(6)処理期間だけでなく,補正・照会等の運用品質も検証する必要がある。
不動産執行では,申立書及び添付資料の補正,物件の表示,租税その他の公課,現況調査・評価,売却条件,配当要求等について,裁判所書記官,執行官,評価人その他の関係者の間で情報を確認しながら手続が進む。集約によって担当体制が専門化されても,照会経路が増えたり,担当者間の引継ぎに時間を要したりすれば,利用者側の手続負担が増える可能性がある。したがって,集約の効果は平均処理期間だけでなく,補正回数,照会回数,回答までの日数,担当者の変更回数,郵送・来庁回数及び現況調査から評価書提出までの期間も集約前後で比較する必要がある。

(7)買受参加への影響は,業者か個人かを問わず実測すべきである。
BITによって物件情報をオンラインで検索できることと,取扱庁の変更が買受参加に影響しないことは同じではない。公開されているBITの検索画面及び売却日程だけからは,地域別の買受希望者数や,事業者でない個人の参加状況までは分からない。集約の前後で,物件一件当たりの入札者数及び入札件数,買受人の所在地,個人・法人の別,売却率,不売率並びに売却基準価額に対する売却価額の割合を比較して初めて,買受参加及び売却結果への影響を検証できる。このうち売却率は,分母を何にするか,同じ物件について再度の売却を実施した場合をどう数えるか,取下げ・取消しで終わった事件を含めるかを先に定めておかなければ,集約の前後や庁ごとの数値を比べることができない。

(8)不動産執行以外の手続への拡大は,別の根拠と検証を要する。
全国の公式な取扱庁一覧は,不動産執行だけを集約する地域,不動産執行と債権執行を集約する地域,財産開示及び第三者からの情報取得まで集約する地域が併存することを示している。この相違からは,ある手続を集約したことだけで,別の手続も当然に同じ庁へ移すべきことにはならないと考えられる。将来,対象を債権執行,財産開示,第三者からの情報取得,倒産その他の手続へ広げる場合には,各手続について事件数,専門性,地域の利用状況,代替手段及び移行費用を別に示し,対象範囲,実施日,係属事件の取扱い,照会先並びに記録閲覧・書面提出の方法を事前に公表することが望ましい。本記事で確認した公開資料からは,堺・岸和田両支部について不動産執行以外の手続まで集約する具体的な予定は確認できない。

第9 申立先を確認する実務上の手順

1 手続名を特定して公式表を確認する

都道府県別の公式表は,裁判所の申立書提出先一覧(地方裁判所)から確認できる。管轄区域だけでなく,手続名,適用日,注記及び既存事件の移行措置まで確認されたい。

最初に,予定している手続が,不動産執行,債権執行,自動車執行,財産開示,第三者からの情報取得又は執行官取扱事件のどれに当たるかを特定する。次に,対象地域を管轄する地方裁判所の公式ウェブサイトで,管轄区域表と最新の集約告知を確認する。
同じ支部区域でも手続ごとに取扱庁が違い,財産開示と第三者情報取得を債権執行と別の庁が扱う場合がある。表題だけで判断せず,表の各列と注記,適用日,旧事件の移行措置まで読む必要がある。

2 BITだけでは債権執行等の取扱いを確認できない

裁判所の不動産競売物件情報サイトであるBITは,不動産競売の物件情報及び売却情報を確認するためのサイトである。各庁の不動産競売担当の変更告知も掲載されるが,債権執行,財産開示,第三者情報取得又は執行官取扱事件の全体的な提出先を示すものではない。
したがって,不動産競売の集約状況をBITだけで調べ,その結果を民事執行全体へ一般化してはならない。地方裁判所の公式な管轄区域表及び個別の集約告知を併用する必要がある。

3 関連する裁判所組織の記事

裁判所支部の制度全体と本庁・出張所との違いは,裁判所支部とは―本庁・支部・出張所の違いと管轄・提出先の調べ方で説明している。

地方裁判所支部の業務全体については,地方裁判所・家庭裁判所の支部で整理している。本庁への集約を民事・刑事・家事の手続別に比較する場合は,地方裁判所支部から本庁への事件集約と裁判官配置も参照されたい。
専門部・集中部という組織形態は,地方裁判所の専門部及び集中部で整理している。また,遠隔地の支部をめぐる司法アクセスの具体例は,旭川地方裁判所稚内支部と司法アクセスが参考になる。
不動産競売の申立てから配当までの手続の流れと各段階の期間は,不動産競売の手続の流れと期間―申立て,差押え,現況調査・評価,期間入札,売却許可,代金納付,引渡命令及び配当で整理している。

本庁・支部内部の事務分配と訴訟法上の移送の違いは,回付・移送・合意管轄の解説を参照されたい。執行事件の専門的な処理体制を保ちながら地域の利用負担を検討する観点は,裁判所支部の機能拡充と地域司法アクセスで整理している。

第10 出典・参考資料

1 規則及び司法行政資料

・最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会答申(地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則3条1項の説明を含む)
・第26回札幌地方裁判所委員会議事概要
・第39回裁判の迅速化に係る検証に関する検討会結果概要
・衆議院法務委員会平成25年3月22日議事録

2 裁判所の取扱庁及び変更告知

・裁判所「民事執行」
・北海道の裁判所の管轄区域
・千葉県の裁判所の管轄区域
・広島県の裁判所の管轄区域
・熊本県の裁判所の管轄区域
・長崎県の裁判所の管轄区域
・青森地方裁判所「令和8年10月1日以降における民事執行事件の取扱いについて」
・福島地方裁判所「令和8年10月1日以降における民事執行事件の取扱いについて」
・長崎地方裁判所「平戸支部の民事執行事件の集約」
・神戸地方裁判所「豊岡支部の不動産競売事件等の取扱い変更」
・大阪府内の裁判所の管轄区域
・大阪地方裁判所本庁・民事執行センターの所在地及び交通案内
・大阪地方裁判所堺支部の所在地及び交通案内
・大阪地方裁判所岸和田支部の所在地及び交通案内
・BIT・大阪地方裁判所本庁の売却スケジュール
・BIT・大阪地方裁判所堺支部の売却スケジュール
・BIT・大阪地方裁判所岸和田支部の売却スケジュール
・裁判所「民事裁判手続のデジタル化」

3 統計資料

・裁判所データブック2026・民事執行事件等の新受件数
・裁判所データブック2026・不動産執行事件の平均審理期間
・大阪地方裁判所の事務分配(令和8年4月7日現在)
・大阪弁護士会「大阪における地域司法計画2025」
・千早赤阪村地域公共交通計画(概要版)

4 職能団体・労働組合等の資料

・東北弁護士会連合会「裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」(2019年7月5日)
・近畿弁護士会連合会「大阪高等裁判所管内の地家裁支部の司法基盤の整備充実を求める決議」(2013年9月20日)
・全司法新聞第2434号
・全司法新聞第2440号
・全司法新聞第2447号
・全司法新聞第2452号

・東北弁護士会連合会「民事訴訟デジタル化に関する改正法の全面施行を受けて、より身近で利用しやすい民事司法の実現を求める決議」(2026年7月3日)
・近畿弁護士会連合会「最高裁判所に対し、日本弁護士連合会との間で地域司法の基盤整備に関する協議を再開するよう求める決議」(2023年12月1日)