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地方裁判所支部及び家庭裁判所支部(AIリライト)

第1 地家裁支部の位置付け

1 支部の設置根拠及び沿革

裁判所法31条1項は,最高裁判所が地方裁判所の事務の一部を取り扱わせるためその管轄区域内に地方裁判所の支部又は出張所を設けることができると定め,同条2項は,最高裁判所が地方裁判所の支部に勤務する裁判官を定めると規定している。これを受けて制定されたのが地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則(昭和22年12月20日最高裁判所規則第14号。以下「地家裁支部設置規則」という。)であり,同規則1条1項が地方裁判所の支部を,同規則2条1項が家庭裁判所の支部を,それぞれ別表の所在地欄の地に設けるものとしている。同規則は,制定後,支部の新設・廃止や管轄区域の変更のたびに改正を重ねており,直近の改正は平成21年1月16日最高裁判所規則第1号である。

地方裁判所の支部は,裁判所法施行の際,経過的に裁判所法施行令7条によって当時設置されていた各区裁判所の所在地に設けられたものとされ,地家裁支部設置規則も原則としてこの状態を引き継いだ。同規則の附則には,施行の際に裁判所法施行令7条の規定により設けたものとされた地方裁判所の支部(旧支部)の取扱いが定められており,家庭裁判所の支部も原則として地方裁判所の支部と同一の地に設けられることとなった。臨時司法制度調査会意見書(昭和39年8月)第八章も,支部の配置がこのような経緯によるものであることを前提として議論を組み立てている。

なお,支部勤務発令は最高裁判所裁判官会議の決議事項であり,この点は最高裁判所事務総局の文書である「裁判所の人事行政事務の実情について」第1の1(1)ウに記載がある。

2 支部は外部に対して本庁と一体である

最高裁判所は,地方裁判所の支部の法的性格について,最高裁判所昭和44年3月25日第三小法廷決定(昭和44年(し)第3号・刑集23巻3号212頁)において,支部は地方裁判所の事務の一部を取り扱うため本庁の所在地を離れて設けられたものであるが,原則として独立の司法行政権を与えられていないからそれ自体司法行政官庁ではなく,司法行政官庁としての本庁に包摂され,外部に対しては本庁と一体をなすものであって,支部の権限及び管轄区域は裁判所内部の事務分配の基準にすぎないと判示した。

同決定はさらに踏み込んで,訴訟法上の管轄は国民の基本的権利に直接関係するものとして本来法律で定められるべき事項であり,この点は下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律によって規定されているのであるから,管轄によって保護される国民の法的利益は同法をもって限度とされること,これに対し裁判所の司法事務処理に関する事項として制定された地家裁支部設置規則による管轄区域の定めは裁判所内部の事務分配の定めであるにすぎず,この定めによって国民が何らかの利益を受けるとしてもそれは単に事実上の利益にとどまり法的利益にまで高められたものとはいえないことを明らかにしている。この点は,支部の管轄区域が変更されたり事件が本庁に回付されたりしても,それだけでは訴訟法上の救済の対象とならないことを意味する。

実務書も同じ理解に立っており,岡口基一「民事訴訟マニュアル 第3版 上巻」(ぎょうせい)は,地方裁判所に提起された事件をその地方裁判所の支部で取り扱うべきかは,その地方裁判所における事務分配の問題にすぎないと説明している。

3 本庁と支部との間の回付

前記昭和44年3月25日決定は,地方裁判所の本庁と支部との間又は支部相互間の事件の回付は訴訟法上の手続ではないから,回付の措置に対して当事者が訴訟法に準拠する不服申立てをすることはできないと判示した。同決定は,事件の回付に対しても訴訟法上の抗告をなし得るとしていた従前の裁判例(東京高等裁判所昭和42年7月14日決定・昭和42年(ラ)第364号,第365号)を明示的に変更したものであり,回付に対する不服申立ての可否を巡る争いに決着を付けた判断である。家事事件の分野でも,秋武憲一ほか編著「離婚調停・離婚訴訟 四訂版」(青林書院)が,回付は管轄と似ているがこれとは異なり,司法行政上の本庁と支部又は支部と支部との事務分配に関するものであると整理している。

回付をするかどうかの判断基準は明文化されていない。東京弁護士会の会報であるLIBRA2013年8月号の「東京地裁書記官に訊く-交通部編-」には,当事者双方の住所地及び交通事故発生場所が立川支部管内にあるにもかかわらず本庁に訴訟提起されることがあり,その場合には当該事件に即して本庁で審理をする必要性を記載した上申書を提出してほしいこと,上申書の内容によっては原則どおり回付の措置をとることもあることが記載されている。

4 合意管轄条項と本庁・支部の関係

契約書の合意管轄条項との関係でも,支部が本庁と一体であることは実務上の意味を持つ。東京高等裁判所昭和51年11月25日決定(昭和51年(ラ)第510号・下級裁判所民事裁判例集27巻9~12号786頁。裁判所HP未掲載)は,①競合する法定管轄裁判所のうち1つを特定して管轄裁判所とすることを合意した契約条項は,他の裁判所の管轄を排除する趣旨が明示されていなくとも特段の事情のない限り専属的に管轄裁判所を定めたものと解すべきであること,②管轄の合意により定められる裁判所は官署としての裁判所であり,その裁判所の本庁又は支部のいずれが当該事件を処理するかは裁判所内部の事務分配によってのみ決せられることを判示している。

したがって,契約書に「東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」と定めても,それによって本庁での審理が確保されるわけではなく,立川支部管内の事件が立川支部で審理されることはあり得る。企業法務の実務解説では専属的合意管轄条項の書き方が繰り返し取り上げられているが,本庁と支部のいずれで審理されるかは合意管轄の問題ではないという点は見落とされやすいところであり,本庁での審理を求めるのであれば前記の上申書によるほかない。

5 支部の司法行政組織

地家裁支部に勤務する裁判官が1人のときはその裁判官が支部長となり,2人以上のときは最高裁判所がそのうちの1人に支部長を命ずる(下級裁判所事務処理規則3条1項)。支部には庶務課が設置され(同規則24条2項),庶務課長の上司は本庁の事務局長となる(同規則24条8項参照)。支部が独立の司法行政権を与えられていないという前記決定の説示は,この組織構造にも表れている。

第2 地家裁支部の権限

1 上訴事件及び行政事件訴訟

地家裁支部設置規則1条2項は,「地方裁判所の支部においては,上訴事件及び行政事件訴訟に係る事件に関する事務を除いて,地方裁判所の権限に属する事務を取り扱う。」と定めている。したがって,簡易裁判所の判決に対する控訴事件(レ号事件)及び簡易裁判所の決定・命令に対する抗告事件は支部では取り扱えず,行政事件訴訟に係る事件も同様である。レ号事件及び簡裁の決定・命令に対する抗告事件は必ず合議事件となり(裁判所法26条2項3号),行政事件訴訟も通常は合議体で審理されることを踏まえると,この規定は合議体を構成できる庁に上訴審機能を集約する趣旨と理解できる。

これに対し,家庭裁判所の支部については,地家裁支部設置規則2条2項が「家庭裁判所の支部においては,家庭裁判所の権限に属する事務を取り扱う。」と定めるだけで,地方裁判所の支部のような除外規定は置かれていない。

2 合議事件の取扱い

平成元年12月28日最高裁判所規則第5号による改正後の地家裁支部設置規則1条及び2条が平成2年4月1日に施行された結果,権限甲号の支部(合議事件取扱支部)と権限乙号の支部(合議事件非取扱支部)という区別は廃止された。他方,同改正により追加された同規則3条1項は,地方裁判所が当該地方裁判所の支部において取り扱う事務の一部を当該地方裁判所において取り扱い,又は当該地方裁判所の他の支部に取り扱わせることができると定め,同条2項がこれを家庭裁判所に準用している。旧乙号支部の合議事件に関する事務を本庁又は旧甲号支部に引き続き取り扱わせることが可能となったのは,この規定によるものである。

そのため,ある支部が合議事件を取り扱うかどうかは,現在では各地家裁の裁判官会議の決議に基づく事務分配によって決まる。この点について,42期の村田斉志最高裁判所事務総局総務局長は,平成31年4月18日の参議院法務委員会において,全国の地家裁支部203庁のうち合議事件を扱わない支部は140庁であると答弁した。裁判所データブック2026によれば,令和8年時点でも合議事件を取り扱う支部は地方裁判所・家庭裁判所ともに63庁であり,この状況は変わっていない。

合議体を構成できる人数の裁判官が常駐していない支部でも,他庁からの出張によって合議事件を取り扱っている例がある。前記村田総務局長は,令和元年11月21日の参議院法務委員会において,那覇地方裁判所の平良支部及び石垣支部について,常駐の裁判官は1名であるが本庁又は他の支部から裁判官が2名出張して合議事件を取り扱っていると答弁している。

3 裁判員裁判取扱支部

裁判員裁判対象事件を取り扱う支部は,次の10支部である(裁判所データブック2026第1部「裁判所の組織」の凡例)。これ以外の支部では裁判員裁判対象事件を取り扱わない。

  • 東京高裁管内 東京地方裁判所立川支部,横浜地方裁判所小田原支部,静岡地方裁判所沼津支部,静岡地方裁判所浜松支部,長野地方裁判所松本支部
  • 大阪高裁管内 大阪地方裁判所堺支部,神戸地方裁判所姫路支部
  • 名古屋高裁管内 名古屋地方裁判所岡崎支部
  • 仙台高裁管内 福島地方裁判所郡山支部
  • 福岡高裁管内 福岡地方裁判所小倉支部

取扱支部は,その支部の管轄区域の事件だけを扱うわけではない。例えば大阪地方裁判所堺支部は,堺支部管轄区域及び岸和田支部管轄区域の裁判員裁判対象事件を取り扱っている。

4 労働審判取扱支部

労働審判事件を取り扱う支部は,東京地方裁判所立川支部,静岡地方裁判所浜松支部,長野地方裁判所松本支部,広島地方裁判所福山支部及び福岡地方裁判所小倉支部の5支部である(裁判所HPの労働審判手続)。立川支部及び小倉支部が先行して取扱いを開始し,浜松支部,松本支部及び福山支部が平成29年4月から取扱いを開始したもので,その後,令和8年7月時点まで取扱支部は増えていない。

5 少年の保護事件の審判を取り扱う支部

少年法で定める少年の保護事件の審判に関する事務を取り扱う家庭裁判所の支部は,令和8年時点で102庁である(裁判所データブック2026)。家庭裁判所の支部203庁の約半数にとどまっており,日本弁護士連合会は後記のとおり少年審判を取り扱う家裁支部の拡大を求めている。

第3 全国の地家裁支部の一覧(都道府県順)

地方裁判所の支部及び家庭裁判所の支部は,いずれも全国203庁であり,同一の地に置かれている。都道府県順に並べると次のとおりである。

都道府県地方裁判所・家庭裁判所支部
北海道札幌岩見沢,室蘭,小樽,滝川,浦河,岩内,苫小牧
北海道函館江差
北海道旭川名寄,紋別,留萌,稚内
北海道釧路帯広,網走,北見,根室
青森県青森弘前,八戸,五所川原,十和田
岩手県盛岡一関,花巻,二戸,遠野,宮古,水沢
宮城県仙台古川,石巻,大河原,登米,気仙沼
秋田県秋田大館,横手,大曲,能代,本荘
山形県山形米沢,鶴岡,酒田,新庄
福島県福島郡山,白河,会津若松,いわき,相馬
茨城県水戸土浦,下妻,日立,龍ケ崎,麻生
栃木県宇都宮栃木,足利,真岡,大田原
群馬県前橋桐生,高崎,沼田,太田
埼玉県さいたま川越,熊谷,越谷,秩父
千葉県千葉松戸,木更津,八日市場,佐倉,一宮,館山,佐原
東京都東京立川
神奈川県横浜川崎,横須賀,小田原,相模原
新潟県新潟新発田,長岡,高田,三条,佐渡
富山県富山高岡,魚津
石川県金沢七尾,小松,輪島
福井県福井武生,敦賀
山梨県甲府都留
長野県長野上田,松本,諏訪,飯田,佐久,伊那
岐阜県岐阜大垣,高山,多治見,御嵩
静岡県静岡沼津,浜松,富士,下田,掛川
愛知県名古屋一宮,岡崎,豊橋,半田
三重県四日市,松阪,伊賀,伊勢,熊野
滋賀県大津彦根,長浜
京都府京都舞鶴,園部,宮津,福知山
大阪府大阪堺,岸和田
兵庫県神戸尼崎,姫路,豊岡,洲本,伊丹,明石,柏原,社,龍野
奈良県奈良葛城,五條
和歌山県和歌山田辺,御坊,新宮
鳥取県鳥取米子,倉吉
島根県松江出雲,浜田,益田,西郷
岡山県岡山津山,倉敷,新見
広島県広島呉,尾道,福山,三次
山口県山口岩国,下関,周南,萩,宇部
徳島県徳島阿南,美馬
香川県高松丸亀,観音寺
愛媛県松山西条,宇和島,大洲,今治
高知県高知須崎,安芸,中村
福岡県福岡飯塚,久留米,小倉,直方,柳川,大牟田,八女,行橋,田川
佐賀県佐賀唐津,武雄
長崎県長崎佐世保,大村,島原,平戸,壱岐,五島,厳原
熊本県熊本八代,玉名,山鹿,阿蘇,人吉,天草
大分県大分中津,杵築,佐伯,竹田,日田
宮崎県宮崎都城,延岡,日南
鹿児島県鹿児島名瀬,加治木,知覧,川内,鹿屋
沖縄県那覇沖縄,平良,石垣,名護

各支部の管轄区域は裁判所HPの裁判所の管轄区域で市町村ごとに確認でき,所在地及び電話番号は各地の裁判所の所在地・電話番号等一覧で確認できる。

第4 大規模支部及び中規模支部

支部の規模は一様ではない。支部長とは別に部総括が置かれる支部を大規模支部と整理すると,次の14支部がこれに当たる。

  • 東京高裁管内 立川,川崎,小田原,川越,松戸,沼津,浜松(7支部)
  • 大阪高裁管内 堺,尼崎,姫路(3支部)
  • 名古屋高裁管内 岡崎(1支部)
  • 福岡高裁管内 久留米,小倉,佐世保(3支部)

恒常的に部総括経験者が支部長に就任する支部を中規模支部と整理すると,次の14支部がこれに当たる。

  • 東京高裁管内 相模原,熊谷,越谷,土浦,高崎(5支部)
  • 大阪高裁管内 岸和田,葛城(2支部)
  • 名古屋高裁管内 一宮,豊橋,四日市(3支部)
  • 広島高裁管内 呉,福山(2支部)
  • 福岡高裁管内 飯塚,沖縄(2支部)

現に大規模支部長及び中規模支部長の職にある裁判官は,本ブログの現職の大規模地家裁支部長の一覧及び現職の中規模地家裁支部長の一覧で確認できる。いずれも14人である。

本ブログでは大規模地家裁支部長までを幹部裁判官として扱っている。地家裁所長経験者が就任するポストは東京地家裁立川支部長だけである。対応する検察庁についても同様の格差があり,法務省文書決裁規程(平成元年11月14日法務大臣訓令)4条及び別表によれば,立川,川崎,沼津,堺,姫路,岡崎及び小倉の地検支部長(7支部)の人事の決裁者は法務大臣であるのに対し,その余の地検支部長の人事の決裁者は法務事務次官である。

第5 裁判官及び家庭裁判所調査官の非常駐

1 裁判官非常駐支部

前記村田総務局長は,平成31年4月18日の参議院法務委員会において,地家裁支部203庁のうち裁判官が常駐していない支部は44庁であると答弁した。同人は令和元年11月21日の同委員会でも同じ数字を挙げ,非常駐支部については近隣の庁に配置されている裁判官が当該支部に出張して事件を担当していると説明している。日本弁護士連合会が令和5年10月6日の第65回人権擁護大会で採択した決議の提案理由も,家裁支部のうち44か所には裁判官が常駐しておらず,他の裁判所の裁判官が例えば週に数日又は毎月3,4日程度てん補して地裁支部の事件も併せて担当していると記載しており,この状態は長期間にわたって固定している。

令和7年4月10日の参議院法務委員会では,小野寺真也最高裁判所事務総局総務局長が,裁判官又は家庭裁判所調査官が常駐していない庁があることを認めた上で,これらの庁については事件数が少ないといった事情から近隣の庁に配置されている裁判官又は調査官が当該庁の実情に応じて出向いて事件を担当する体制をとっていると答弁し,全ての支部に裁判官を常駐させることが望ましいかどうかについては,裁判所も国の予算で運営される公的な機関であるから業務量に見合った人の配置の在り方を考えていく必要があると述べた。

2 1人支部の取扱い

下級裁判所事務処理規則3条1項により,支部に勤務する裁判官が1人のときはその裁判官が当然に支部長となる。そのため,最高裁判所人事の発令上は「支部長」という肩書が付かない。これは,最高裁判所が支部長を命ずる必要がないことによるものと考えられる。

3 非常駐支部の事務分配上の扱い

裁判官が常駐していない支部の事件は,本庁又は近隣支部の裁判官が担当する。例えば徳島地方裁判所の阿南支部及び美馬支部は裁判官が常駐していない支部であるところ,徳島地方裁判所の平成31年度事務分配においては,阿南支部の裁判事務も担当する66期の安藤巨騎裁判官及び美馬支部の裁判事務も担当する60期の園部伸之裁判官は,いずれも本庁との兼任であるため,事務分配上は支部長代理とされ,最高裁判所人事の上では支部勤務とはなっていない。非常駐支部の裁判官の所在は,最高裁判所人事の発令だけを見ても分からないということである。

4 家庭裁判所調査官の配置

家庭裁判所調査官の配置状況は,裁判官よりもさらに偏っている。清藤健一最高裁判所事務総局総務局長は,令和8年4月14日の衆議院法務委員会において,家庭裁判所調査官が配置されている支部は支部203庁のうち113庁であり,その割合は支部全体の55パーセント程度であると答弁した。同局長は,家庭裁判所調査官について平成12年以降合計80人の増員を行ったほか,令和7年度に5人,令和8年度に10人を増員したことを説明している。

第6 支部,簡易裁判所及び家裁出張所の統廃合

1 臨時司法制度調査会意見書

現在の裁判所の配置は,昭和39年8月28日付けの臨時司法制度調査会意見書に淵源を持つ。同意見書の決議要目第八「裁判所の配置等」は,①高等裁判所の支部を原則として廃止すること,②地方裁判所及び家庭裁判所の支部を整理統合して甲号・乙号の別を廃し,現在の乙号支部を原則として廃止すること,③簡易裁判所の名称を「区裁判所」(仮称)に改めること,④人口,交通事情等の社会事情の著しい変動に伴い簡易裁判所を整理統合することを考慮すること,⑤最高裁判所は簡易裁判所の調停を除く事務の全部又は一部を他の簡易裁判所に取り扱わせることができるものとすることを掲げていた。

同意見書の本文は,権限乙号の支部について,事件数が少なく限られた裁判官数ではあまねく裁判官を配置することが必ずしも合理的でないため裁判官が配置されていない庁が相当数に上ること,合議体を構成するに足りる員数の裁判官が配置されていない権限甲号の支部も相当数あること,これらの庁における事件処理のために他庁から出張する裁判官の時間的損失が訴訟遅延の原因ともなっていることを指摘した上で,裁判所全体の配置を適正化し事務処理の能率化・適正化を図る見地から整理統合を図ることが適当ではないかという問題提起をした。もっとも同意見書は,この問題について国民の利便を十分考慮して慎重に決定されるべきであるという要請も忘れてはならないと付言している。

なお,地方裁判所・家庭裁判所支部の整理統合については,審議の過程で格別の反対意見はなく,簡易裁判所の事物管轄が拡張された暁には支部における事件数,特に権限乙号の支部におけるそれが相当程度減少すると予想されることも考慮された上で,全員一致の意見により決定されたと記載されている。実際に統廃合が実現したのは,意見書から二十数年を経た昭和63年以降である。

2 昭和63年5月1日の統廃合

下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律(昭和62年9月11日法律第90号)に基づき,昭和63年5月1日,575庁の簡易裁判所のうち小規模の独立簡易裁判所(独簡)101庁が廃止され,事務移転庁が21庁廃止された。同じ日に,96庁の家庭裁判所出張所のうち37庁が廃止され,家裁出張所は59庁となった。

集約の基準については,最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む会(昭和61年5月23日開催分)に,裁判所が考えている基準は事件数と隣接簡裁への所要時間という2つの要素を基本とし,120件・60分以内,60件・120分以内,12件以下のところについては日帰り可能な範囲,というグループについて集約を検討するというものであった旨の記載がある(全国裁判所書記官協議会会報96号13頁)。ここでいう件数は民訴・刑訴・調停各事件の年間新受件数である。

廃止に伴う職員の再配置についても記録が残っている。12期の金谷利廣最高裁判所総務局長は,平成2年3月29日の参議院法務委員会において,昭和63年5月1日付けで廃止された簡易裁判所にいた職員は約280人であり,そのうち約130人は廃止簡易裁判所の土地管轄を引き継いだ受入簡易裁判所に,約70人は受入簡易裁判所以外の忙しい簡易裁判所に,約80人は忙しい地家裁支部に配置されたと答弁している。

もっとも,統廃合後も出張事件処理という形で従前の所在地における事件処理が続けられた庁があった。日本弁護士連合会の意見書「簡易裁判所及び家庭裁判所の出張事件処理について」(平成20年12月18日)によれば,統廃合された簡裁等の管轄区域のうち81か所で出張事件処理が実施されていたが,平成20年12月18日時点でそのうち41か所が廃止され,40か所(実施庁数35)の出張事件処理が存続していた。

検察庁側の事情も,統廃合の背景として無視できない。伊藤栄樹「秋霜烈日-検事総長の回想」は,101庁の独立簡易裁判所が廃止された時点で対応する区検察庁のほとんどは事実上既に店をたたんでいて,最寄りの区検察庁で事務を処理したり最寄りの区検察庁から出張して事務を処理したりしていたことを記している。同書は,昭和22年に簡裁が発足する際,各種令状請求の便宜を考えておおむね警察署2署に対して1つの割合で簡裁がつくられ,建設敷地の多くは地元市町村の寄付に頼っていたこと,その後に区検をつくる際も市町村に寄付を頼みに行ったが既に寄付したとして断られることが多く,区検の庁舎にはみすぼらしいものが少なくなかったこと,そうした区検に限って過疎地にあり,昭和40年代の初めには警察が既によそに移っていたことも記録している。

3 平成2年4月1日の地家裁支部の統廃合

平成2年4月1日,242庁の地家裁支部のうち41庁が廃止され,地家裁支部は201庁となった。その反面,20庁の家裁出張所が新設された結果,家裁出張所は79庁となった。廃止された乙号支部管内の市町村の数は昭和63年5月1日現在で262であり,管内の人口は昭和62年3月31日現在で約315万人であった(前記金谷総務局長の平成2年3月27日の衆議院法務委員会における答弁)。廃止された地家裁支部に併設されていた簡易裁判所はそのまま存続した(同人の平成2年3月29日の参議院法務委員会における答弁)。

日本弁護士連合会は,この統廃合に先立つ平成元年12月14日,会長コメント「41庁の地家裁支部の廃止にあたって」を公表している。

4 苫小牧支部及び相模原支部の新設

平成5年4月1日,札幌家庭裁判所苫小牧出張所に代えて札幌地方裁判所・家庭裁判所苫小牧支部が新設され,地家裁支部は202庁,家裁出張所は78庁となった。平成6年4月1日には横浜家庭裁判所相模原出張所に代えて横浜地方裁判所・家庭裁判所相模原支部が新設され,地家裁支部は203庁,家裁出張所は77庁となった。この2支部の新設は平成2年4月の適正配置の際に決定されたものであり,40期の中村慎最高裁判所総務局長は平成27年5月22日の衆議院法務委員会において,支部新設の比較的最近の例として,昭和47年の沖縄復帰に伴う那覇地方・家庭裁判所のコザ支部(現在の沖縄支部),名護支部,平良支部及び石垣支部の設置と,この2支部の新設を挙げている。

5 簡易裁判所の新設及び集約

平成4年1月1日に所沢簡易裁判所が,平成8年4月1日に町田簡易裁判所が,それぞれ新設された。他方,大都市部では集約が進み,平成5年4月1日に大阪市内の3簡裁(生野,西淀川,阿倍野)が大阪簡易裁判所に,平成5年4月8日に名古屋市内の2簡裁(愛知中村,昭和)が名古屋簡易裁判所に,平成6年9月1日に都内11簡裁(新宿,台東,墨田,大森,渋谷,中野,豊島,東京北,足立,葛飾,江戸川)が東京簡易裁判所に,それぞれ集約された。大阪地裁管内では,都島簡裁,東淀川簡裁及び西成簡裁が昭和22年5月3日の設立当初から大阪簡裁に事務移転していた例もある。

平成23年4月22日には,福島富岡簡易裁判所の事務が当分の間,裁判所法38条に基づき事務移転された。裁判所データブック2026によれば,令和8年時点でも事務移転は継続しており,福島富岡簡易裁判所の事務のうち刑事事件に関する事務はいわき簡易裁判所が,民事事件に関する事務を含むその余の事務は郡山簡易裁判所が,それぞれ取り扱っている。

6 矢口洪一元最高裁判所長官の回想

一連の適正配置を主導したのは,高輪1期の矢口洪一最高裁判所長官である。同人の「最高裁判所とともに」121頁には,退官時,大法廷に2つ審理中の事件があったほかやり残した仕事も多かったが,懸案だった全国の地家裁支部,簡裁の配置の見直しでも関係する法律や最高裁判所規則の改正が実現したこと,明治以来の人口分布や産業配置に対応して設けられた地家裁支部と戦後そのままの簡裁の配置を見直したものであること,地家裁41の支部を廃止する一方で苫小牧,相模原に新たに支部が設けられ,123の簡裁が統合されて町田,所沢に簡裁が新設されることになったこと,法曹三者の協力が可能にした事業であったことが記されている。

第7 家庭裁判所の出張所及び受付出張所

家庭裁判所の出張所は全国77庁であり,そのうち20庁は受付と家事事件の出張審判・出張調停に限って取り扱う受付出張所である。前記中村総務局長は,平成29年3月31日の衆議院法務委員会において,この20か所の受付出張所は平成2年4月に地家裁支部の適正配置を行った際に廃止された家裁支部の一部について様々な要因を考慮してその所在地に新設したものであり,その後数は変わっていないと答弁した上で,具体的な庁名として,前橋家裁中之条,長野家裁飯山,長野家裁木曾福島,長野家裁大町,新潟家裁村上,新潟家裁柏崎,新潟家裁南魚沼,新潟家裁糸魚川,和歌山家裁妙寺,岐阜家裁郡上,福井家裁小浜,富山家裁砺波,山口家裁柳井,岡山家裁笠岡,松江家裁雲南,福岡家裁甘木,大分家裁豊後高田,熊本家裁御船,宮崎家裁高千穂及び函館家裁寿都の各出張所を挙げている。

家裁出張所の新設が簡易裁判所ほど進まない理由についても,同局長は同じ答弁の中で,家庭裁判所の場合は簡裁のように簡裁事件のみを行う権限を有する簡裁判事という職種がなく,判事,判事補が本庁又は支部から出張して事件を処理することになるため,出張所の新設については本庁又は支部までのアクセスの困難性を中心に事件数の動向等を考慮して慎重に検討する必要があると説明した。同じ日,42期の村田斉志最高裁判所家庭局長は,受付のみを取り扱う家庭裁判所出張所においても成年後見関係事件の申立てを受理することはでき,家庭裁判所において成年後見関係事件を処理する際に必ず当事者に裁判所に来てもらわなければならないわけではなく,現に書面のみで審理している事件も少なくないこと,直接当事者から話を聞く必要がある場合で当事者が裁判所に来ることが困難な事情があるときは裁判官が出張して話を聞く対応も可能であることを答弁している。

もっとも,受付出張所の運用実態には地域差がある。令和8年4月14日の衆議院法務委員会において,西村智奈美議員は,長野家裁大町出張所では令和7年の出張回数が83件,家事調停が123件であったのに対し,新潟家裁の村上,柏崎,南魚沼及び糸魚川の各出張所は令和7年の出張審判・家事調停がいずれもゼロ件であったこと,他方でこれらの出張所も受付は少ないところで63件,多いところで173件を処理していることを指摘し,格差が生じる理由を質した。同議員は,大町の裁判所の充実を求める協議会から受付出張所ではない通常の家裁出張所とすること,裁判官及び家庭裁判所調査官を常駐させること,児童室を設置することなどを求める要望書が出ていることも紹介している。

第8 支部の新設及び機能拡充に関する国会答弁

1 支部の新設

前記中村総務局長は,平成27年5月22日の衆議院法務委員会において,支部の配置を含めた裁判所の配置は,人口動態,交通事情,事件数の動向,IT技術の進展等も考慮しながら,裁判所へのアクセス,提供する司法サービスの質等を総合した国民の利便性を確保するという見地から検討していかなければならない問題であると述べた上で,複数の地域で支部設置の要望が出されていることは承知しているが,直ちに新たな支部を設置したり廃止した支部を復活させたりしなければならない状況にあるとは考えておらず,今後とも事件動向や人口,交通事情の変化,IT技術等を注視しながら,必要があれば支部の新設,統廃合を含めて裁判所の配置について見直しを行いたいと答弁した。

具体的な要望地域としては京葉地区が取り上げられた。同局長は,平成26年6月に市川市,船橋市及び浦安市の各市議会で支部の設置を求める意見書が可決され,京葉地区は人口が多い地域であるにもかかわらず司法基盤が人的・物的に不十分,未整備であるという指摘がされていることは承知しているとしつつ,現時点において現状の京葉地区の千葉本庁までの交通事情に鑑みると他の地域に比較した場合に不便であるという実情にあるとまでは言えないと述べている。

2 合議事件取扱支部の拡大

前記中村総務局長は,平成28年3月16日の衆議院法務委員会において,地方裁判所の支部203庁のうち140庁については支部で合議事件を扱っておらず,そのような支部について合議事件の取扱いを求める要望が出ていることは承知していること,合議事件を支部で扱うかどうかは手続上は最高裁判所規則に基づき各裁判所が決めることになるが,体制整備あるいは全国的状況を検討する必要があることから最高裁判所においても検討していることを答弁した上で,合議を取り扱っていない各支部における事件数の動向,最寄りの合議取扱庁へのアクセス等を考慮すれば合議事件の取扱いをする支部を増加させる必要は現時点ではないと考えていると述べた。前記のとおり,令和8年時点でも合議事件取扱支部は63庁のままである。

3 労働審判取扱支部の拡大

37期の菅野雅之最高裁判所民事局長は,平成28年3月16日の衆議院法務委員会において,労働審判事件は当時全国の地裁本庁のほか東京地裁立川支部と福岡地裁小倉支部において取り扱っていたところ,日弁連との意見交換を重ねる中で取扱支部拡大の要望を認識してきたこと,予想される労働審判事件数や本庁に移動するための所要時間等の利便性を基本としつつ,事務処理体制,労働審判事件の運用状況及び労働審判員の安定的な確保を含めた地域的事情を総合的に勘案して検討した結果,静岡地裁浜松支部,長野地裁松本支部及び広島地裁福山支部において平成29年4月から労働審判事件の取扱いを開始できるよう準備を開始することとしたと答弁した。同局長は,それ以外の支部での取扱いを求める要望があることも認識しているが,新たに取り扱うことになる3支部における具体的な運用状況やその他の庁の運用状況等を十分に注視したいと述べており,その後,取扱支部は増えていない。

4 独立簡易裁判所の2人庁化

前記中村総務局長は,平成28年3月16日の衆議院法務委員会において,裁判所も国の予算で運営される公的な機関であるから業務量に見合った人の配置を考えていく必要があるとした上で,これまで書記官,事務官合わせて3人の配置であった独立簡易裁判所について,特に事件の少ない庁につき,人員の有効活用の観点から,利用者に対する司法サービスの低下につながるおそれがないかどうか,職員の休暇時や緊急時の応援体制等を的確に組むことができるかどうかといった業務体制の観点も踏まえつつ,事件処理に支障がないよう配慮した上で2人による執務体制をとることとしたこと,2人による執務体制をとっている庁は全国独立簡裁185庁のうち平成27年4月1日現在で28庁であることを答弁した。独立簡易裁判所の数は,裁判所データブック2026においても185庁で変わっていない。

第9 弁護士ゼロ・ワン支部

弁護士ゼロ・ワン支部とは,地家裁支部の管轄区域を単位として登録弁護士が全くいないか1人しかいない地域をいう。法務省の法曹養成制度改革連絡協議会第8回協議会(平成29年10月11日開催)の資料1-4「弁護士ゼロ・ワン地方裁判所支部数の変遷等」によれば,弁護士ゼロ支部は平成5年7月の50個から平成20年10月に0個となり,その後平成21年10月に2個へ戻ったものの平成22年10月以降は0個で推移し,弁護士ワン支部は平成15年10月の39個をピークとして減少し,平成25年10月以降は1個で推移していた。

その後の状況は,日本弁護士連合会の「弁護士ゼロワンマップ」で確認できる。令和8年4月1日現在,弁護士ゼロ支部は0か所であり,弁護士ワン支部は岡山地方裁判所新見支部の1か所のみである。同連合会によれば,ゼロワンマップを初めて作成した平成5年当時のゼロワン地域は74か所であったが,平成20年に弁護士ゼロ地域が全て解消し,平成23年12月18日には初めて弁護士ワン地域も解消した。その後は再発生と解消を繰り返しており,平成29年11月1日の紀中ひまわり基金法律事務所の開所により改めて解消された後も,再び1か所が発生している。弁護士白書2024年版も,平成5年当時50か所存在した弁護士ゼロ地域は令和6年10月1日現在0か所,ワン地域は2か所であるとしている。

政府側も同様の認識を示している。40期の小山太士法務省大臣官房司法法制部長は,平成29年4月11日の参議院法務委員会において,法テラスの司法過疎地域事務所の設置等による司法アクセス向上の取組の結果,203か所ある地方裁判所支部の管轄単位で見た弁護士ゼロワン地域は,平成16年10月当時の51か所(ゼロ16か所,ワン35か所)から平成20年10月には20か所(ゼロ0か所,ワン20か所)となり,平成29年4月には2か所(ゼロ0か所,ワン2か所)まで減少していると答弁した。

もっとも,ゼロワン地域の解消が地域の司法アクセスの改善を意味するとは限らない。支部所在地の人口減少が進めば,弁護士の側が撤退する前に支部の側が撤退することもあり得るという指摘がある。

第10 日弁連及び弁護士会連合会の要望

1 日本弁護士連合会

裁判所支部に関する日本弁護士連合会の考え方は,裁判官制度改革・地域司法計画推進本部の裁判官・検察官の大幅増員を目指して及び地域に根ざした法曹の人的・物的施設の拡充を目指しての各ページで確認できる。

現時点で最もまとまった主張は,令和5年10月6日の第65回人権擁護大会(長野市)で採択された子ども・高齢者・障害者を含む住民の人権保障のために,地域の家庭裁判所の改善と充実を求める決議である。同決議は,①判事補の増員及び弁護士からの常勤任官の推進により裁判官を大幅に増員し,事件数が多い家裁においては民事事件・刑事事件等と家事事件との兼務を解消させるとともに,速やかに全ての家裁支部に1名以上の裁判官を常駐させ非常駐の家裁支部をなくすこと,②家裁調査官を大幅に増員しててん補の負担を解消し,速やかに全ての家裁支部に1名以上の家裁調査官を常駐させること,③全ての独立簡易裁判所の所在地に家裁出張所を設置した上で全ての家裁出張所において家事事件を取り扱う体制を整備すること,④全ての家裁支部庁舎及び家裁出張所庁舎に児童室(調査室・試行面会施設)を設置すること,⑤少年審判を取り扱う家裁支部を拡大することなどを求めている。

同決議の提案理由には,支部・出張所の物的基盤に関する具体的な数字も示されている。すなわち,エレベーターが設置されていない2階建ての裁判所庁舎(独立簡裁を含む)が200以上存在すること,2階建庁舎については建替え時にしかエレベーターが設置されないという実情があり,建替えが年に1庁舎ないし2庁舎程度にすぎないことからすれば完全バリアフリー化までに100年以上を要しかねないこと,国家予算に占める裁判所予算の割合が令和5年度当初予算で初めて0.3パーセントを割り込み約0.282パーセントまで低下したことなどである。同決議の基調報告書については,令和5年11月10日の衆議院法務委員会において本村伸子議員が取り上げ,裁判官非常駐支部44か所の解消と,家庭裁判所出張所が併設されていない独立簡易裁判所108か所への出張所新設のために,速やかに数百人単位の裁判官増員が不可欠であるとされていることを紹介している。

2 弁護士会連合会の決議

各弁護士会連合会も,管内の支部の司法基盤整備を求める決議を採択している。関東弁護士会連合会の東京高等裁判所管内の司法基盤の整備充実を求める決議(平成23年9月30日)は,①東京地方・家庭裁判所立川支部を独立した地家裁本庁とすること,②市川簡易裁判所と千葉家庭裁判所市川出張所の管轄地域に地家裁支部を新設すること,③横浜地方裁判所相模原支部において民事・刑事の合議事件が扱えるようにすること,④さいたま地家裁秩父支部,前橋地家裁沼田支部,千葉地家裁館山支部,同佐原支部,水戸地家裁麻生支部及び静岡地家裁掛川支部に裁判官が常駐するようにすることの4点を早急に実現すべきであるとした。

近畿弁護士会連合会の大阪高等裁判所管内の地家裁支部の司法基盤の整備充実を求める決議(平成23年9月20日)は,①京都地家裁管内の南部地域及び和歌山地家裁管内の橋本市に各支部を新設すること,②神戸地裁姫路支部及び同尼崎支部において労働審判を取り扱えるようにすること,③奈良地裁葛城支部において民事の合議事件をより多く取り扱えるよう裁判官の増員を図ること,④京都地裁園部支部,神戸地裁柏原支部及び和歌山地裁御坊支部に裁判官が常駐するようにすることの4点を掲げた。

東北弁護士会連合会のすべての裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議(平成24年7月6日)は,①全ての地方・家庭裁判所及び地方検察庁に裁判官・検事を速やかに常駐させ支部の人的・物的基盤を整備すること,②地裁本庁に集約されている労働審判・不動産競売・債権執行事件等を含め支部管内の事件は可能な限り当該支部で取り扱うようにすること,③執行官,公証人役場,法務局出張所,検察審査会等の司法関係機関の配置を見直すことを国に要請するとした。北海道弁護士会連合会の裁判官・検察官非常駐支部の解消に向けた行動をとることの宣言(平成22年12月11日)も,裁判官・検察官が1人も常駐していない支部に少なくとも1人が常駐する体制を早急に実現するため従前にも増して主導的かつ精力的に運動を行う旨を宣言している。

3 東京地家裁立川支部の本庁化

支部の本庁化を求める運動として最も長く続いているのが,東京地家裁立川支部に関するものである。立川支部の現状については,東京弁護士会のLIBRA2009年10月号の「多摩支部の活動-裁判所本庁化への期待も-」が参考になり,東京三弁護士会多摩支部が本庁昇格に向けた取組みを続けている。京都弁護士会も,平成20年11月,京都府南部地域の司法アクセス改善のためには地家裁支部の創設が必要であるとの考えに立ち,南部地域における地家裁支部設置推進対策本部を設置した。

令和2年12月18日付けの最高裁判所事務総長の理由説明書には,日本弁護士連合会から最高裁判所に対して参考として送付された決議について,その内容も最高裁判所に対して何らかの応答を求めるものではないことから,同決議に関し最高裁判所としての検討内容を記載した文書は作成していないと記載されている。ここでいう決議は,平成30年5月25日の日弁連定期総会の「安心して修習に専念するための環境整備を更に進め,いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議」を指す。

第11 民事裁判手続のデジタル化と支部

最高裁判所は,平成27年及び令和元年の国会答弁において,支部の配置を検討する際の考慮要素として一貫して「IT技術の進展」を挙げてきた。その前提となる事情は,この10年で大きく変化している。

門田友昌最高裁判所事務総局民事局長は,令和4年5月10日の参議院法務委員会において,争点整理手続におけるウェブ会議の運用が令和2年2月に知的財産高等裁判所と高等裁判所所在地の地方裁判所8庁で開始され,同年5月に5つの地方裁判所本庁,同年12月にその他の全ての地方裁判所本庁へ拡大したこと,その後は地方裁判所の支部へ展開中であり,令和4年2月に島嶼部にある8か所の地方裁判所支部で運用を開始したのを皮切りに同年7月までに203か所ある地方裁判所支部の全てに運用を拡大する予定であること,同年11月には高等裁判所の本庁及び支部でも運用を開始する予定であることを答弁した。

さらに,民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)による民事訴訟手続の全面的なデジタル化が,令和8年5月21日から施行された。施行日を定める政令は令和7年12月17日に公布されている。これにより,訴訟代理人については電子情報処理組織を使用した申立て等が原則として義務化され,訴訟記録も電子化された。裁判所HPの民事裁判手続のデジタル化によれば,民事執行,倒産,労働審判等の非訟手続,人事訴訟手続及び家事事件手続は令和8年5月21日施行分の対象外であり,これらの手続は令和10年6月までにオンライン申立て等の対象となる予定である。

デジタル化は,遠隔地に居住する当事者にとって裁判所へのアクセスを改善する面を持つ。他方,前記の日弁連決議は,家事事件の手続には子どもの心情・意向調査のように人と人との直接対面を省いた方法では十分に目的を達成できないものが少なくないこと,ITを自ら利用することが困難な高齢者・障害者やITに不慣れな住民への配慮が重要であること,大規模災害等でITが機能しない事態においては被災者が自力で赴ける場所に家裁が必要であることを指摘し,IT化により取り残される者が生じてはならないと述べている。ウェブ会議の全支部展開とオンライン申立ての義務化が支部の配置論にどのような影響を与えるかは,今後の裁判所の配置の見直しを見るうえでの中心的な論点になると考えられる。

第12 関連記事その他

裁判所の組織に関する本ブログの記事としては,高等裁判所支部検察庁の支部下級裁判所の裁判官の定員配置裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等及び最高裁判所事務総局総務局の事務分掌がある。支部ごとの事件数を調べるときは,裁判統計報告及び最高裁判所が作成している事件数データが手掛かりになる。

裁判所の全体像を数値で把握するには,裁判所HPの裁判所データブックが便利である。裁判所データブック2026によれば,高等裁判所は本庁8庁・支部6庁(このほか東京高等裁判所に特別の支部として知的財産高等裁判所が置かれている),地方裁判所は本庁50庁・支部203庁,家庭裁判所は本庁50庁・支部203庁・出張所77庁,簡易裁判所は438庁(地方裁判所の本庁又は支部に併置されたもの253庁と独立簡易裁判所185庁),検察審査会は165庁(地方裁判所本庁所在地67庁と地方裁判所支部所在地98庁)である。裁判員裁判の運用状況は,裁判所HPの裁判員制度の実施状況等に関する資料で確認できる。

このほか,本ブログには,地家裁支部設置規則,下級裁判所事務処理規則,下級裁判所事務処理規則の運用について(平成6年7月22日付けの最高裁判所事務総長依命通達),裁判所職員の赴任期間について(平成4年4月28日付けの最高裁判所事務総長の依命通達),裁判所の組織(平成29年度支部長研究会の資料),家庭裁判所出張所設置規則,大阪地方裁判所堺支部・堺簡易裁判所及び大阪地方裁判所岸和田支部・岸和田簡易裁判所の各庁舎平面図を掲載している。廃止された裁判所及び簡易裁判所の一覧は外部ブログの「裁判所~廃止された裁判所」及び「裁判所~廃止された簡易裁判所」が,全国の裁判所庁舎の外観写真は「日本全国裁判所めぐり」が詳しい。

なお,労働審判に対し適法な異議の申立てがあったため訴えの提起があったものとみなされて訴訟に移行した場合において,当該労働審判は民事訴訟法23条1項6号にいう「前審の裁判」に当たらない(最高裁判所平成22年5月25日第三小法廷判決・平成21年(オ)第1727号・集民234号99頁)。労働審判を担当した裁判官が,異議後の訴訟を担当することは妨げられないということである。

出典・参考資料

法令・規則

  • 裁判所法(昭和22年法律第59号)26条,31条,38条(e-Gov法令検索
  • 地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則(昭和22年12月20日最高裁判所規則第14号。最終改正・平成21年1月16日最高裁判所規則第1号)1条,2条,3条,附則
  • 下級裁判所事務処理規則(昭和23年8月18日最高裁判所規則第16号)3条,24条
  • 下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律(昭和62年9月11日法律第90号
  • 民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)及び同法の施行期日を定める政令(令和7年政令第414号)

裁判例

  • 最高裁判所昭和44年3月25日第三小法廷決定・昭和44年(し)第3号・刑集23巻3号212頁(裁判所HP
  • 最高裁判所平成22年5月25日第三小法廷判決・平成21年(オ)第1727号・集民234号99頁(裁判所HP
  • 東京高等裁判所昭和51年11月25日決定・昭和51年(ラ)第510号・下級裁判所民事裁判例集27巻9~12号786頁(裁判所HP未掲載。判例秘書プラスで全文確認)

国会会議録

  • 平成2年3月27日衆議院法務委員会(会議録
  • 平成2年3月29日参議院法務委員会(会議録
  • 平成27年5月22日衆議院法務委員会(会議録
  • 平成28年3月16日衆議院法務委員会(会議録
  • 平成29年3月31日衆議院法務委員会(会議録
  • 平成29年4月11日参議院法務委員会,平成31年4月18日参議院法務委員会,令和元年11月21日参議院法務委員会,令和4年5月10日参議院法務委員会,令和5年11月10日衆議院法務委員会,令和7年4月10日参議院法務委員会,令和8年4月14日衆議院法務委員会(いずれも国会会議録検索システム

公的資料・統計

弁護士会資料

文献

  • 岡口基一「民事訴訟マニュアル 第3版 上巻」(ぎょうせい・2021年)210頁
  • 秋武憲一=岡健太郎編著「離婚調停・離婚訴訟 四訂版」(青林書院・2023年)49頁
  • 伊藤栄樹「秋霜烈日-検事総長の回想」(朝日新聞社)100頁~101頁
  • 矢口洪一「最高裁判所とともに」(有斐閣)121頁