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古物商の継続買取りと後続の窃盗―民法719条1項前段・後段及び2項の責任要件(AI作成)

第1 民法719条の三つの責任構成と本記事の対象

1 継続買取りだけで責任が決まるわけではない

窃盗犯人が同じ業者に繰り返し盗品を売却していた場合,被害者は,その業者にも窃盗被害の賠償を求められるか。
本記事では,既に盗まれた物の処分に関与する場合と,継続的な換金先となることでその後の窃盗を容易にする場合を区別し,民法709条及び719条1項・2項に基づく民事責任を検討する。

本記事は,民法719条1項前段の共同不法行為,1項後段の加害者不明の場合及び2項の教唆・幇助を主軸とする。第2から第4で,それぞれの役割,責任要件,古物取引への当てはめ及び参考となる裁判例を分けて説明する。
ただし,繰り返し買い取ったことや,結果として換金が容易になったことだけから,当然に全ての窃盗被害について責任を負うとはいえない。
どの行為がどの窃盗を促したのか,業者の故意又は過失を基礎付ける事情は何か,その関与と請求する損害が結び付くかを具体的に検討する必要がある。

2 1項前段・1項後段・2項は,何を問題とするか

719条1項前段は,複数人の行為が共同の不法行為として被害を生じさせた場合の連帯責任を定める。
1項後段は,共同行為者のうち誰が損害を加えたか分からない場合を扱う。
2項は,教唆者・幇助者を共同行為者とみなして1項の規定を適用する。
したがって,業者が現場で盗まなかったから,検討できるのは2項だけである,とは限らない。
第2の3の東京高裁判決は,商品の取得と継続買受けという異なる役割を,1項前段の共同不法行為と評価した例である。

古物取引では,①実行者と業者の行為を共同の権利侵害として捉える構成,②実行者の侵害を業者が容易にしたとして2項を適用する構成,③業者自身の処分等を709条で捉える構成を,認定し得る事実に応じて検討する。
どの構成でも,同じ損害を重ねて回復することはできない。
1項後段は,これらの構成で足りない証拠を無条件に補う規定ではなく,第3の適用条件を確かめる必要がある。

3 資料と説明の範囲

基準日は令和8年10月3日である。
法令はe-Gov法令検索の現行条文,後記の裁判例は裁判所の公開判決本文又は判例秘書の判決本文による。
反復買取りの過失等を否定した東京地裁2判決に加え,過失による幇助や継続買受けの責任を認めた関連裁判例を第2及び第4で検討する。
この2判決は反復買取りの過失等を否定した事例であり,後続窃盗について民法719条2項の責任を肯定した判決ではない。

本記事で確認した資料から,継続買取りによる後続窃盗の幇助責任について,確立した判例の認定基準があるとまでは述べられない。
以下の時系列及び証拠の整理は,条文と確認済み裁判例を踏まえた検討方法であり,その各項目を裁判所が定めた一律の成立要件として示すものではない。

4 要件事実・評価・証拠を分けて読む

要件事実とは,請求権の発生等を定める法律要件に該当する具体的事実である。
「共同不法行為である」「過失で幇助した」という結論だけでは,争点となる事実が明らかにならない。誰が,いつ,どの物について,何を行い,その際に何を知り又は確認できたかを記載する。
過失等の規範的要件については,評価を支える具体的な評価根拠事実と,それと両立しながら評価を妨げる評価障害事実を整理する。司法研修所民事裁判教官室の「要件事実-応用編-」(令和7年3月)第2は,この具体的事実を主要事実とする一般的な見解を説明している(冊子2頁から4頁,PDF18頁から20頁)。

例えば,「警察から被害品の製造番号を知らされていたのに,照合せず買い取った」という事実と,その事実を裏付ける通知書・買取帳簿という証拠は区別する。
通知書があることだけを要件として挙げるのではなく,通知の内容と受領時期,照合可能性及び実際の対応を主張し,その証明に通知書等を用いる。
以下の表は,条文と確認済み判決から本記事が整理した主張・立証の対象である。裁判所が古物商の後続窃盗責任について統一的な要件事実表を示したものではない。

責任構成何を具体化するか裁判例との対応
719条1項前段各人の加害行為・故意又は過失,行為の関連共同性,共同の侵害と対象損害の結び付き。東京高裁令和元年9月19日判決。認識・過失と,犯罪継続における役割を別に判断した。第2の6で対応を示す。
719条1項後段各人の加害行為,各行為だけで損害を生じさせ得ること,行為者の範囲,加害者不明の状態。最高裁令和3年5月17日判決。直接適用の条件と類推適用を分けている。第3の6で立証負担を示す。
719条2項実行者の不法行為,教唆・幇助の具体的行為,援助と侵害の結び付き,教唆者・幇助者の故意又は過失,対象損害。知財高裁平成20年9月30日判決及び東京地裁令和3年7月7日判決。第4の10で,注意義務・促進・責任期間を分ける。
709条請求相手自身の権利・利益侵害,故意又は過失,損害とその行為との因果関係。古物商自身の処分による回収不能等を検討する。719条との関係と,同じ損害を填補する二つの債務は第5の11・12で説明する。

請求原因を基礎付ける事実は,原則として請求する被害者側が主張・立証する。これに対し,1項後段の因果関係の立証責任の転換や,規範的要件の評価障害事実には,それぞれの扱いがある。
「被害者が全てを証明する」「業者が無過失を全て証明する」という二つの説明のどちらかで一括処理することはできない。第6の4で否認と抗弁も区別する。

第2 民法719条1項前段―共同して損害を生じさせた責任

1 1項前段では,各人の行為と共同性を具体化する

「共同の不法行為」というためには,誰が何を行い,どの権利を侵害し,その行為がどの損害につながったかを示す必要がある。
実行者について窃盗の故意が認められても,それだけで買取業者の故意又は過失が認められるわけではない。
業者の買取り,注文,買受約束,加工・転売等を特定し,通常取引という説明の可否と,第5で述べる予見・確認・回避の問題を検討する。

その上で,各行為をばらばらの取引として評価すべきか,同じ被害を生じさせる一連の仕組みの中で結び付いていたと評価すべきかを検討する。
例えば,窃取する品種・量と業者の発注内容が対応する,次回の犯行前に買取りを確約する,反復的な現金化が犯罪による取得を継続する仕組みを支えている,という事情は共同性を検討する資料となる。
これらは本記事の当てはめのための例であり,一つあれば必ず成立するという判例上の公式ではない。

同じ売主と取引したこと,買取量が多いこと又は業者が利益を得たことだけでは,問題の権利侵害との具体的な結び付きを示したことにはならない。
買取りが適法な通常取引であり,権限欠如等を疑う具体的事情もなかったなら,犯人側の悪質さだけで業者の責任を導くことはできない。

2 共謀が証明できなくても成立し得るが,無過失責任ではない

民事の共同不法行為を論じる際,刑事事件の共謀と同じ証拠がなければ必ず請求できない,と考えるのは適切ではない。
東京高裁令和元年9月19日判決は,買受業者が詐欺による取得品と認識していたか,少なくとも過失で認識しなかったと判断した上で,犯罪継続への不可欠な役割から,客観的な共同の権利侵害を認めた。
意図的に協力する約束の証明だけに依存せず,実際の取引構造と業者側の認識・過失を検討した点が参考になる。

しかし,この判決は,共謀がなくてもあらゆる取引先が責任を負うとしたものではない。
「客観的に結び付いている」と述べるだけで,業者の過失や損害との関係を省略することもできない。
業者が知らなかったという主張に対しては,いつ,どの情報を得られ,どう対応すべきだったかを示す。
1項前段を選べば過失の証明が不要になる,あるいは2項で幇助が認められなければ自動的に1項前段が成立する,という関係にはない。

3 継続買受業者の責任を肯定―東京高裁令和元年9月19日判決

東京高裁令和元年9月19日判決(平成31年(ネ)第358号,判例時報2438号50頁,判例秘書L07420618)は,取り込み詐欺によって取得された商品を継続的に買い受けた業者の責任を認め,その業者への請求を棄却した原判決を取り消した。
詐欺業者から商品を買ったという一事だけでなく,仕入れた物が詐欺による取得品であることの認識又は過失と,犯罪継続に果たした役割を分けて判断している(判決「第3」の2)。

過失等の判断では,販売会社の商号・所在地が頻繁に変わる一方で,取引を持ち掛ける者や運搬者が同じであったこと,新品を約100日間に45回,メーカー希望小売価格の約30ないし35%で買い受けたこと,通常の流通ルート外と認識していたこと,会社名義の書類に対し代金は担当者個人に支払っていたこと,事務所が目張りされていたこと,過去に関連する取り込み詐欺の事情聴取を受けたこと等を総合した。
その上で,詐欺による取得品と認識していたか,少なくとも認識できたのに過失で認識しなかったと認めた。

さらに,買受業者が被害者らから納品された商品の約95%を購入しており,詐欺を継続して実行するために不可欠な存在であったことから,客観的に共同して被害者らの権利を侵害したと判断した。
在庫処分や資金繰りのための通常取引だったとの説明も,供給の継続性,量,短期間での転売等と照らして採用していない。
第5の3・4で紹介する靴・酒類の否定例との比較では,反復の回数だけでなく,不自然な事情の重なり,通常取引という説明の整合性,犯罪継続への寄与が重要になる。

もっとも,この判決の認容根拠は民法719条1項前段である。
被害者らは予備的に2項による幇助も主張したが,高裁は1項前段で認容しており,2項による過失幇助の要件を判断した判決として扱わない。
認識と過失を択一的に認めた表現であり,「盗品と全く知らなかったことが確定した事案」ともいえない。
対象は取り込み詐欺であって窃盗ではなく,45回,30ないし35%,約95%という数字を一律の成立基準にはできない。
引用された原判決及び別紙の全体は今回の確認範囲外であり,取引開始時からの全被害について責任を認めたとの拡張もしない。

4 継続買受けの肯定判決から,古物商の役割をどう検討するか

前記東京高裁判決では,詐欺業者の商品取得と買受業者の継続購入を合わせて評価している。
買取りによる現金化がどのように犯罪の継続を支えたかという問題と,買受業者が不正取得を認識し,又は認識できたかという問題を,それぞれの認定事実から判断している。
判断の詳細は本章3に示したとおりであり,単に売買契約が成立したことを共同性の根拠にした判決ではない。

後続窃盗へ当てはめるときは,例えば,業者との継続取引が成立した時点,持込品の出所を疑う具体的事情が生じた時点,その後の各犯行の日時を対応させる。
その後も確実な換金先を提供したことが,当該窃盗を続ける仕組みの一部であったといえるかを,通信,発注,入金及び持込記録から検討する。
一方,単発の購入,適法な在庫処分として合理的な説明のある取引,又は当該犯行後に初めて始まった取引という事情は,同じ評価をしてよいかを慎重に検討する材料になる。

1項前段についても,後の取引が先に終わった窃盗を発生させたという説明はできない。
事前の一連の関与があったのか,それとも窃盗後の処分によって回収不能を生じさせたのかを分ける。
東京高裁判決は取り込み詐欺の事案であり,後続窃盗について同じ責任を肯定した直接判例ではない。
また,その判決の「不可欠」という評価は当該事実関係に即した判断であって,あらゆる1項前段の事案に一律に課される要件として扱わない。

5 連帯責任の範囲と,業者間・犯人との求償

1項前段の共同不法行為が成立すれば,各責任者は,その共同不法行為と結び付く損害について連帯して賠償責任を負う。
被害者は,責任の対象となる損害の全部を一人の責任者に請求することもできる。
業者の利益が小さいことだけで,被害者への責任が当然に転売益の額に限定されるわけではない。

ただし,連帯責任という効果の前に,どの時期のどの被害が共同不法行為の範囲に入るかを確定する必要がある。
ある時点から犯罪継続への関与が認められたとしても,関与前の全ての盗難や,他の換金先との無関係な取引まで自動的に含めることはできない。
業者が買った物の価額と,共同して生じさせた損害の額も区別する。
買い取った物だけに必ず限られるとも,犯人の盗んだ全量に必ず及ぶともいえず,対象犯行と一連の関与を具体的に対応させる。

例えば,説明のために,対象損害が100万円で,犯人と業者の双方にその全額の連帯責任が成立したと仮定する。
業者が内部的には小さな割合しか負担すべきでないと考えても,それだけで被害者への支払をその割合に限定できるわけではない。
一人が100万円を支払えば,同じ損害について被害者がさらに100万円を重ねて得ることはできない。
支払った者が他の責任者に求償できるか,内部の負担をどう定めるかは,双方の関与等に応じて別に検討する。
この金額の例は裁判例の認定額ではない。

6 1項前段の主張事実と継続買受け判決の判断を対応させる

1項前段で古物商の責任を求めるなら,①被害者の権利と対象犯行,②実行者及び業者の具体的行為,③各人の故意又は過失を基礎付ける事実,④行為が共同の侵害として結び付く事実,⑤その侵害による損害と額を分けて示す。
特に,業者に不審事情を認識できたという事実は過失の問題であり,業者が犯罪継続の仕組みを支えたという事実は共同性・因果関係の問題である。一方を示すだけで他方を当然に満たすわけではない。

検討する要件・争点東京高裁判決の判断に用いられた事実古物取引で対応させる事実
認識又は過失商号・所在地の変更と同じ担当者,不自然な価格・供給,個人への代金支払,過去の事情聴取等を総合した(第3の2(1))。取引時に得られた情報,通常取引という説明の整合性,必要な出所・権限の確認とその不実施。
共同の権利侵害納品商品の約95%を購入し,詐欺継続に不可欠な役割を果たしたと評価した(同2(2))。事前注文・買取約束,反復換金の仕組み,特定の犯行・品種・数量との対応。回数だけでは足りない。
通常取引との説明在庫処分・資金繰りという説明を,継続供給,量,短期間の転売等に照らして採用しなかった(同2(3)・(4))。仕入先資料や権限資料の具体的内容。実在し確認可能な説明か,単に売主の説明を信じたというだけか。
対象損害詐欺による商品取得と継続購入を共同の侵害と評価し,納品代金未払等の損害を判断した(同2(5)・3)。対象犯行の時期と被害品,返還・既払額,関与前の被害や無関係な取引を含めていないか。

この判決が1項前段で認容したからといって,「認識可能性さえ証明すれば全窃盗被害との因果関係が推定される」と読むことはできない。
また,1項前段について,個々の行為と損害の因果関係をどのように捉え,共同行為と損害の因果関係からどの範囲の責任を導くかは,関連共同性の内容に即して検討する問題である。全ての事案について,個別因果関係が不要又は転換されると一律に断定しない。
この判決から確認できるのは,具体的な取引構造から共同の権利侵害を認めたという点である。前段で請求する側は,犯罪継続への関与と対象損害との結び付きを明示する必要がある。

第3 民法719条1項後段―誰の行為が損害を生じさせたか不明な場合

1 前段との違いは,個別の因果関係が不明である点にある

1項前段では,実行者と業者の行為を共同の権利侵害として評価できるかを検討する。
これに対し,1項後段は,複数の加害行為が特定されているのに,そのうち誰の行為によって損害が生じたかを知ることができない場合を扱う。
「犯罪に加わっていたか分からない業者をまとめて責任者にする」という理解とは異なる。

2 直接適用の条件と因果関係の立証責任の転換

最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決(平成30年(受)第1447号ほか,民集75巻5号1359頁)は,建設アスベスト事件で1項後段の適用条件を判断した。
裁判所公開本文の40頁・41頁によれば,各人の行為がそれぞれ単独で損害を生じさせ得るものの,誰の行為で生じたか不明な場合に,行為と損害の因果関係について立証責任が転換する。
行為者側が自己の行為との因果関係がないことを立証しなければ,連帯して全損害を賠償するという仕組みである。
さらに,被害者が特定した行為者以外に,単独でその損害を生じさせ得る行為をした者がいないことも,直接適用の要件とした。

この判決に沿って検討するときは,①請求する損害を特定する,②各行為者の具体的な行為と,それのみでその損害を生じさせ得る関係を示す,③特定した者以外にそのような行為者がいないことを示す,④それでも誰の行為が損害を生じさせたか不明であることを確かめる,という順序になる。
この順序は判決の判断を説明するための本記事の整理である。
因果関係の立証責任が転換することから,取引関与,故意・過失又は損害の存在まで一括して推定されるとはいえない。

3 類推適用は,直接適用と事実関係・責任範囲を分けて読む

同判決の41頁から43頁では,建材の現場への到達,累積的な粉じん曝露及び個別の影響を区分できない事情等から,後段の類推適用も認めた。
その責任は,当該建材群の損害への寄与を考慮した範囲の連帯責任である。
直接適用と類推適用は区別して読まなければならない。
石綿被害への判断を,盗品売買にそのまま移すことはできない。

4 売却先不明の古物取引に,そのまま適用できるわけではない

古物取引で,「犯人がA店かB店のどちらに売ったか分からない」というだけでは,直ちに後段を適用できるとはいえない。
どの損害を問題とし,各店がどの加害行為を行い,その行為がそれぞれ損害を生じさせ得たか,ほかに原因となる行為者がいないかを検討する必要がある。
各店への持込みの事実すら不明な場合に,取引関与や注意義務違反を全て推定する規定として使うことはできない。
窃盗実行者が判明しており,業者がその窃盗を支えたかが争点である場合には,まず前段の共同性又は2項の幇助を検討する。
単なる売却先の不明,盗難数量の不明及び実行者の無資力は,それぞれ異なる問題である。

5 業者の関与,盗難数量及び損害の原因の不明を区別する

例えば,説明用の仮定として,A店又はB店が被害品を識別不能に加工したため回収不能となったという主張を考える。
どちらの店が加工したか不明であるという点だけを見るのでなく,各店が実際に行った加害行為,その行為の故意・過失,問題となる回収不能との関係及び他の原因となる行為者の有無を確かめる必要がある。
「どちらかが買ったはず」という推測だけでは,これらの条件がそろったことにはならない。この仮定について後段の適用を認めた裁判例を紹介する趣旨でもない。

実行者による窃盗の損害を請求するのか,その後の処分による回収不能の損害を請求するのかによって,調べる加害行為と因果関係が異なる。
盗難数量が分からない問題には数量・価額の立証が必要であり,業者の参加が分からない問題には取引・関与の立証が必要である。
後段を選ぶ前に,何が不明なのかと,その不明が同規定の扱う因果関係の不明に当たるかを説明する。

6 1項後段の適用要件と,立証責任が転換する位置

前記最高裁判決の直接適用の判断に従うと,立証責任の転換は,複数の業者を被告にした時点で起こるわけではない。次の適用条件が問題となる。

主張・立証する対象被害者側で示す内容最高裁判決との対応
損害と加害行為損害の内容・額と,各行為者が実際に行った行為。各人の故意・過失等も別途検討する。40頁は,各人が損害をそれのみで生じさせ得る行為を行った場合を対象としている。
単独での惹起可能性特定した各人の行為が,それだけで請求対象の損害を生じさせ得ること。危険な取引をした可能性という抽象的な説明とは異なる。
行為者の範囲特定した者以外に,単独でその損害を生じさせ得る行為をした者がいないこと。40頁・41頁。最高裁はこの主張・立証がない原審の直接適用を誤りとした。
加害者不明特定した各人のうち,誰の行為によって対象損害が生じたか不明であること。誰が関与したか自体が不明な場合や,損害額の資料がない場合とは区別する。
条件充足後の個別因果関係上記条件が満たされれば,各行為者側が自己の行為と損害の因果関係の不存在を立証して責任を免れる。この個別因果関係についての転換であって,過失や取引関与の証明まで免除する判断ではない。

類推適用では,最高裁は,警告表示義務違反,建材の現場への相当回数の到達,累積的曝露,個別影響を区分できないこと等を検討し,寄与度に応じた範囲の連帯責任を認めた(41頁から43頁)。
したがって,直接適用が認められなかったことと,責任が全面的に否定されたことは同じではない。ただし,古物取引で類推するなら,この事案とどの点が対応し,どの損害についてどの範囲の立証困難を解消すべきかを説明する必要がある。判決の「3分の1」を古物商の責任割合に転用することはできない。

第4 民法719条2項―教唆・幇助によって侵害を支えた責任

1 教唆者・幇助者を共同行為者とみなす規定

民法719条2項は,行為者を教唆した者及び幇助した者を共同行為者とみなし,同条1項を適用すると定めている。
同条1項前段は,共同の不法行為によって他人に損害を加えたとき,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負うという規定である。
したがって,窃盗を直接実行していない業者についても,その窃盗への幇助が認められるかを検討する余地がある。

もっとも,2項は,業者と犯人との間に取引があれば責任を負わせるという規定ではない。
民法709条の故意又は過失,権利又は法律上保護される利益の侵害,損害及び因果関係と併せて,業者の関与を評価する必要がある。
共同行為者とみなすという効果から,責任対象となる損害の特定が不要になるわけでもない。

2 既に完了した窃盗と,その後の処分

ある窃盗が完了した後,業者が初めてその物を買い取ったという事実だけでは,その買取りによって既に完了した窃盗を促したことにはならない。
その窃盗への関与を主張するのであれば,犯行前の注文や買受約束など,時間的に先行する事情を確かめる必要がある。

これとは別に,盗品の転売,周旋又は加工等によって,被害者による物の回収を妨げた行為自体の責任が問題となる場合がある。
この場合は,窃盗の発生による損害と,処分によって回収が困難又は不能となったことによる損害を対応させ,同じ損害を二重に計上しないようにする。

大審院明治34年3月29日第二刑事部判決(明治34年(れ)第108号,刑録7輯3巻72頁)は,盗品であることを知りながら売買を周旋し,被害者による回収を不可能にした者について,民法719条2項による幇助者の責任を扱った歴史的裁判例である。
確認したのは名古屋大学の判決転記であり,原刊行物の画像は未確認である。
この判決を,継続買取りによって後続の窃盗を容易にした事例として引用することはできない。

3 継続取引が後続の窃盗を促したという主張

後続窃盗の幇助を主張する場合には,それまでの買取りや約束が,後の犯行に先立って存在し,その犯行を具体的に支えたという関係が問題となる。
例えば,継続的な買受約束,商品や数量の指定,犯行前の価格の提示等があったか,犯人がその業者への売却を見込んで犯行を続けたかを確認することが考えられる。
これらは証拠を探すための検討項目であり,そのような事情があれば必ず責任が成立するという意味ではない。

業者側には,通常の買取りで不審な事情がなかった,犯行は取引と無関係に計画されていた,問題となる取引は請求対象の犯行より後であった,という反論が考えられる。
犯人の「売れると思った」という供述も,それだけで業者の過失や被害全体との因果関係を証明するものとは扱わず,通信と取引記録を併せて検討する。

4 犯行前の注文・買受約束が後続の窃盗を支える場合

例えば,業者が相手の窃盗を知りながら「次も同じ商品を持ってくれば買う」と約束し,その約束を受けた犯人が次の窃盗を実行した場合を考える。
窃盗をするよう働き掛けたのであれば教唆,既にある犯行計画に換金先等を提供して実行を容易にしたのであれば幇助という構成が検討され,いずれも民法719条2項が問題となる。
商品の指定や価格提示それ自体は通常取引でも行われるので,盗品又は不法な持出しへの認識,働き掛けの内容,犯行とのつながりを併せて確かめる。

故意の場合には,業者が犯行又は権利侵害を認識しながら,どのように支えたかが焦点となる。
知らなかった場合には,業者にどのような確認・回避義務があり,その違反を幇助として評価できるかを別途検討する必要がある。
窃盗犯人の故意を,そのまま業者の故意又は過失として扱うことはできない。
過失による幇助の肯定例は,本章6及び7で検討する。
それらの判断を後続窃盗へ当てはめるには,古物取引についての具体的な義務,促進関係及び責任範囲を別途示す必要がある。

また,「この店なら売れる」という犯人側の期待と,業者の行為が特定の後続窃盗を具体的に支えたこととは区別する。
犯行前のメッセージ,注文内容,犯人の供述,それに対応する被害品と買取記録を照合し,単に売却先が存在しただけなのか,問題となる窃盗を支える関与があったのかを検討する。
この仮定を直接判断した肯定判例は,本記事では未確認である。

5 カラオケ装置のリース業者の確認義務―最高裁平成13年3月2日判決

最高裁平成13年3月2日第二小法廷判決(平成12年(受)第222号,民集55巻2号185頁)は,カラオケ装置を飲食店にリースした業者の著作権侵害に関する注意義務を判断した。
裁判所の判決本文の4頁・5頁で,侵害の危険,業者の営業利益,許諾状況及び確認の容易さを考慮し,許諾の必要性を知らせるだけでなく,契約又は申込みを確認してから装置を引き渡すべき注意義務を認めている。
警告だけで足りるとした原審の判断を退け,漫然と装置を引き渡したことと損害との相当因果関係も認めた。

これは,取引先の侵害に対し,業者に具体的な確認・防止措置が求められる場合を示す。
ただし,判決理由は民法719条2項を明示して幇助の一般要件を定式化しておらず,古物商についての判断でもない。
古物取引へ参考にするときは,同様に具体的な侵害の危険があり,確認によって危険を避けられ,確認を求めることが合理的だったかを検討する。
全ての業者が全ての客の権利関係を確認する義務を負う,という一般化はできない。

6 貸出しと複写設備による過失の幇助―知財高裁平成20年9月30日判決

知財高裁平成20年9月30日判決(平成20年(ネ)第10031号)は,法務局が土地宝典を貸し出し,利用者が有料複写機で著作物を複製した事案である。
裁判所の判決本文の13頁から17頁は,民法719条2項の幇助を検討し,侵害行為を容易にする行為について,作為又は不作為,故意又は過失による幇助があり得るとしている。
当該利用目的,貸出しと設備の管理,侵害の予見可能性等を踏まえ,許諾を得る工夫や,複写する意図・箇所を確認して注意を促すなど,具体的な措置をとる義務があったのに漫然と貸し出したとして,少なくとも過失による幇助を認めた。

この判決は,「知っていたことが証明できなければ719条2項の幇助責任はない」という説明を採っていない。
また,何もしなかったことだけを責任原因とせず,自らの貸出行為,施設の管理,利用目的及び可能な防止措置を具体的に結び付けている。
判決が当該事案で挙げた対応を,古物取引でも注意を一言伝えれば必ず免責されるという基準にはできない。
前記最高裁判決との対比は,どの対応で足りるかが,危険と予防措置の実効性によって異なることを示す。

損害の算定には著作権法上の規定と当該事案の期間の問題がある。
その算定方法を盗品の価額や後続窃盗の全被害にそのまま用いることはできない。
これは過失による幇助の肯定例であり,後続窃盗の直接判例ではない。

7 過失幇助の関与前の被害を除外―東京地裁令和3年7月7日判決

東京地裁令和3年7月7日判決(平成29年(ワ)第18394号,判例秘書L07632488)は,高配当をうたう投資の出資品を運搬していた会社について,少なくとも過失により投資スキームの実施を幇助したと認めた。
代表者は仕組みの説明を受けて継続的に関与しており,説明された運用方法で利益が生じるとは考え難く,早期に破綻しかねないことを容易に把握できたと判断した(判決「第3」の5)。
単に荷物を運んだ業者一般の責任を認めた判断ではない。

裁判所は,同社が設立された平成28年11月1日より前の出資には同社が関与できず,責任を負う余地がないとした。
その後の出資については,運搬によって実施を容易にしたとして責任を認め,被害者ごとに対象を限定した。
また,別の元代表者については,辞任後の出資まで寄与が及んだといえないとして責任を否定している(同4)。

これは,過失幇助を認めても,参加前又は関与が及ばない被害を当然に含めない具体例である。
古物取引でも,義務違反が始まった時期と,幇助が及んだ犯行・処分を対応させる必要があるという検討の参考となる。
ただし,投資詐欺の事案であり,後続窃盗についての直接判断ではない。

8 無権限の自動車担保提供を支えた例―東京簡裁平成19年12月20日判決

東京簡裁平成19年12月20日判決(平成19年(ハ)第6612号)は,所有権留保付き自動車について,融資業者が担保として預かった行為と,債務者の横領行為との共同不法行為を認めた。
裁判所の判決本文の5頁・6頁は,民法719条2項の幇助を扱い,車検証上の所有者,ローン残存の説明,融資業務の経験,残額等を調べなかったことを検討している。

ただし,具体的な認定は,少なくとも債務者に処分権限がないと知っていたというものである。
したがって,無権限を知らずに不審事情だけを看過した純粋な過失の肯定例として紹介することはできない。
担保に預けた行為が横領を成立させ,業者の受入れがこれを容易にしたという関係であって,既に終わった窃盗の後に初めて購入した事案とも異なる。
この判決は,本人確認だけでなく,対象物の所有関係と処分権限の認識を分ける必要があることの参考となる。

9 裁判例から古物取引へ当てはめる際の確認順序

以上の裁判例を踏まえ,①侵害を予見できる具体的な情報,②確認・回避措置を求める根拠とその実行可能性,③怠った措置,④実行者の侵害を容易にした関与,⑤対応していれば避けられた損害,⑥関与の時期と対象範囲,という順序で整理することが考えられる。
これは本記事による整理であり,判例がこの六項目をそのまま定式化したわけではない。
第5の5で示す番号照合や権限確認も,この順序の中で,必要性と実効性を説明する。

過失による幇助が認められ得ることと,継続買取りによる後続窃盗の幇助責任が具体的に成立することは区別する。
後者には,窃盗に先行する関与,その窃盗を予見・回避すべき義務及び具体的な促進と損害との関係が必要となる。
肯定例を参考にしても,第5の3・4の反復買取りの否定例を無視したり,犯罪継続への抽象的な寄与だけで全被害を請求できると説明したりすることはできない。

10 2項の要件事実と,過失幇助の肯定・否定判断の対応

2項による請求では,まず実行者が行った不法行為と,その侵害による損害を特定する。次に,業者のどの行為又は必要な措置の不実施が,その侵害をどのように容易にしたかを示し,業者自身の故意又は過失を基礎付ける事実を挙げる。
幇助者が実行者と同じ方法で直接侵害したことまで証明する必要はない。知財高裁判決は,被告自身が直接の不法行為者かを判断する必要はなく,幇助者かを判断すれば足りると明示している(14頁)。
他方,実行者に故意があっても,業者の過失や援助の具体的な働きが自動的に認められるわけではない。

必要となる事実の組合せ確認済み裁判例の判断古物商についての検討
実行者の侵害と援助知財高裁は第三者の違法複製と,書籍の貸出し・複写設備を利用させる仕組みを対応させた(13頁から16頁)。窃盗の日時・物品と,事前注文,継続的な換金先の提供等を対応させる。事後購入だけを過去の窃盗の原因としない。
予見・認識と回避措置同高裁は複写目的・管理状況等から違法複製を把握し得る事情を認め,許諾・意思確認・注意喚起等の対応を具体化した(15頁・16頁)。何が不審で,いつ確認でき,どの確認・取引中止等が必要だったか。その対応でどの侵害を避けられたかを示す。
侵害を容易にした働き東京地裁令和3年7月7日判決は,出資品の運搬が投資スキームを容易にしたことと,不合理な利益構造を知り得た事情から過失幇助を認めた(第3の5)。単に利益を得たというだけでなく,換金・犯行継続に果たした具体的役割を示す。
関与と損害の期間同地裁は運搬会社設立前の出資を除外した。辞任後の別の被告の責任も,その関与が後の投資まで影響したとはいえないとして否定した(同4・5)。確認義務が生じた時点,幇助行為の時点,その後の各窃盗を区分する。過去に一度関与したというだけで将来の全被害を含めない。

この対応から,過失幇助を主張する側は,「取引がなければ窃盗全般が減ったはず」という説明を,対象犯行に即した説明へ具体化する必要がある。例えば,特定品種の注文が犯行前に届き,注文に沿って窃取され,その売却・代金交付が確認できるなら,通信・物品・日時を結び付ける。
これに対し,犯行後に初めて接触した業者である場合には,過去の窃盗への幇助と,その後の処分による回収不能の責任を分ける。これらは古物取引への本記事の当てはめであり,以上の裁判例が後続窃盗そのものの成立要件を定めたという説明ではない。

第5 古物商自身の不法行為と各構成に共通する注意義務・因果関係

1 民法709条の要件と,719条の検討の土台

民法709条に基づく損害賠償では,①業者の行為が誰のどの権利・利益を侵害したか,②業者に故意又は過失があるか,③被害者にどのような損害が生じたか,④その行為と損害との間に因果関係があるかを具体的に確かめる。
盗品が店に持ち込まれたという事実だけでは,この四つを全て満たしたことにはならない。
719条2項を用いる場合には,さらに,犯人によるどの不法行為を業者が教唆又は幇助したのかを示す必要がある。

以下は,前記の条文と裁判例を踏まえた場面別の解説である。
裁判例を明示する部分を除き,具体例は説明のために設けた仮定であり,裁判所がその事実で責任を認めた実例を紹介するものではない。
「責任が問題となる」という説明は,故意・過失と因果関係を認定しないまま責任の成立を断定する趣旨ではない。

工業用薬品・貴金属含有物を専門に扱う業者では,商品名,ラベル,未開封の状態,分析結果,受入重量及び金換算量から,持込品の性質を理解し得たかを検討する。
専門性は注意義務を具体化する事情になり得るが,専門業者というだけで盗品の認識又は過失が推定されるわけではない。
当時の担当者が何を確認し,売主の説明や数量・頻度の不自然さに対してどの確認が可能だったかを,取引資料に対応させる。

現在のウェブサイトの買取品目や方針は,現在の営業内容を示す資料である。
過去の全取引でも同じ取扱いであったと認定するには,当時の掲載内容,規程,受付・分析記録及び担当者の説明等が必要である。
「相場より安い」と評価するときも,薬品重量と金換算重量,取引日,成分,回収率,精錬費,手数料及び税込・税抜をそろえる。

2 法令上の義務と民事責任の要件

古物営業法15条は,買受け等の際の相手方の真偽確認の措置を定め,同条3項は,不正品の疑いがあると認めるときに直ちに警察官へ申告する義務を定めている。
同法16条には取引等の記録義務がある。
本人確認及び記録には法律上の例外や規則への委任があるので,対象物,取引金額及び取引方法に応じて適用を確認する必要がある。

これらの義務は,業者に何を確認すべきだったかを考える資料となる。
ただし,法令違反があったこと,民事上の過失があったこと,その行為によって請求対象の損害が生じたことは,それぞれ検討する。
本人確認をしていたことだけで当然に免責されるとも,確認の一項目を欠けば当然に全損害について責任を負うともいえない。

3 靴を34回買い取った事例

東京地裁令和3年6月24日判決(令和2年(ワ)第14358号,判例秘書L07630775)は,靴販売会社が,盗まれた靴を買い取った業者に損害賠償を求めた事案で,請求を棄却した。
判決は,34回の買取り,異なるサイズの靴等の事情を検討したが,親戚から譲り受けた物やコレクションの処分であるとの説明等を踏まえ,具体的に盗品を疑う事情を認めなかった。

職業の確認を欠いていた点については,古物営業法違反を認めたものの,職業を尋ねれば通常その申告の真偽を確認できるというわけではないこと等から,その違反と当該権利侵害との結び付きを認めなかった。
これは,職業確認の義務を一般に免除した判断ではない。
反復回数や形式的な違反から,過失と因果関係を自動的に導くことを避けるべき事例である。

4 酒類を89回買い取った事例

東京地裁令和3年10月8日判決(令和2年(ワ)第7869号,判例秘書L07632622)は,従業員が会社の酒類を自分の物と偽って売却した事案で,買取会社及び役員に対する損害賠償請求を棄却した。
89回の買取り等を,他の顧客にも多数又は高額の取引があるという実態,持込みの説明,本人確認等と併せて評価し,過失を否定している。
同判決は酒類が古物営業法上の「古物」に当たるかを判断していないので,同法の適用範囲を示す根拠には用いない。

両判決から「34回又は89回までなら安全」といった基準を作ることはできない。
警告を受けた後の取引,説明の明白な矛盾,被害物品との具体的な一致など,事情が異なれば評価も異なり得る。
両判決の上訴関係は未確認であり,ここで紹介したのは各地裁の判断である。

5 盗品とは知らなかったが,不審な事情を看過した場合

(1) 「知らなかった」と「過失がない」は別の問題である

民法709条は過失による権利侵害も対象とするため,実際に盗品と知っていたことが証明できなくても,業者自身の不法行為責任を検討する余地がある。
ただし,盗品を買い取ったという結果だけで過失を認めることはできない。
取引当時の具体的な情報から,第三者の所有権等を侵害する危険を予見でき,確認や取引・処分の差控えによってその侵害を回避すべきだったのに,その対応を怠ったかを検討する。

「不審だった」という事情は,確認を必要とする根拠の一部である。
そこから直ちに「盗品だったと知るべきだった」「後の全ての窃盗にも責任を負う」と飛躍させない。
①何を知り得たか,②何をすべきだったか,③何を怠ったか,④そのためにどの被害が生じたか,という順序で説明する。
以下の古物取引への当てはめは,前記否定例と第2及び第4の関連裁判例を踏まえた検討方法であり,窃盗について裁判所が定めた統一基準ではない。

(2) 不審な事情は,具体性と組合せを確かめる

例えば,警察の品触れ等に記載された製造番号と持込み品の番号が一致する場合は,単に同じメーカーの商品である場合とは情報の具体性が異なる。
警告の対象物,番号の転記ミス,同じ番号が個体を特定する番号かロット共通の番号か,連絡を受けた日時を確かめる。
「最近この種の商品が盗まれている」という一般的な情報と,目の前の個体を被害品として特定する情報は,区別して評価する。

入手経緯についても,「説明が気に入らない」という印象ではなく,例えば「自分が購入した」と述べた売主が別の場面では「勤務先の商品」と述べていた,提示した領収書の日付と商品の発売日が整合しない,委託販売と言いながら委託者や権限の説明が変わる,といった具体的な矛盾を確認する。
これらは仮定の例であり,矛盾があれば必ず盗品になるという意味ではない。
会社名の表示がある物でも,正規の払下げ等はあり得るので,所有者,入手経緯及び処分権限を分けて確かめる。

低価格,多量の持込み,短期間の反復,多種類・多サイズの新品,振込先と売主名義の不一致などは,相互の関係と合理的な説明を検討する。
廉価であることだけを評価するのでなく,商品の状態,通常の買取相場,処分理由,数量の推移及び転売条件を確認する。
売主の職業や外見だけで盗品性を推測することは避ける。
前記靴・酒類の2判決は,回数や数量だけではなく,説明や取引実態を併せて検討した否定例である。

(3) 取引時の情報を固定し,後から分かった事実を混ぜない

被害発覚後の捜査資料に盗品の全数量や犯人の動機が記載されていても,業者が取引時にそれらを知っていたとは限らない。
業者が実際に受け取った連絡,当時利用できた番号一覧,店員が聞いた説明,その時点までの買取履歴等を整理する。
反復取引では,第1回から異常だったのか,当初は合理的に説明できたが途中で矛盾や警告が生じたのかを分ける。

担当者に届いた情報が店舗内で共有されていたか,帳簿を照合できる運用だったかも証拠に基づいて確かめる。
「会社なら全て知っていたはず」と一括して扱わず,誰がいつ何を受け取り,どの取引に対応できたかを示す。
個々の担当者の行為,会社の責任及び役員個人の責任は,それぞれの責任根拠に沿って検討する。

(4) 必要だった確認を,実行可能な行動に落とし込む

本人確認と記帳は,適用される古物営業法・規則に従って行う。
その上で,具体的な疑いが生じた場合に必要だった対応として,製造番号・写真との照合,矛盾する説明についての再質問,取得資料又は委託権限の資料の確認,具体的な権利者や警察への照会等が検討対象となる。
どの確認が必要かは,疑いの強さ,商品の性質,確認先の特定可能性,時間及び負担,取引や処分によって生じる回収困難の程度による。
全ての客について勤務先や購入先へ網羅的に照会する義務がある,とする趣旨ではない。

売主が身分証を示したことは,その人が売る権限を持つことの証明とは別である。
逆に,領収書を持っていないことだけで処分権限がないともいえない。
売主の説明を信用できた根拠と,追加確認で解消すべきだった具体的な疑問を示す。
警告により権限が問題となっているのに,同じ売主から「自分の物だ」と再度聞いただけで十分かも,警告の具体性に即して検討する。

確認中に買受け,転売,加工等を差し控えるべきだったかも,行為ごとに判断する。
被害申告者の主張だけで直ちに所有者を決めたり,売主に物を無条件で返したりする対応が常に適切とは限らない。
不正品の疑いがあると認める場合の同法15条3項の警察官への申告義務,16条の記録義務,19条の品触れに関する義務を,該当する場面で確認する。
警察への申告や照会と,業者が物を無期限に拘束できる権限とは別の問題である。

(5) 「確認すれば分かった」を証拠で支える

過失を主張する側は,必要だった確認の内容に加え,その確認が当時どのような結果をもたらしたかを具体化する。
例えば,照合できた被害品一覧に当該製造番号が載っていた,権利者に照会すれば売主に払下げをしていないことが判明した,委託者とされた者が委託を否定した,という関係を資料で支えることが考えられる。
照会先が不明だった,警告が取引後だった,番号を確認しても個体を特定できなかった等の事情も検討する。

前記靴の判決が示すように,職業を尋ねても通常はその申告の真偽を確認できないという場合には,職業の未確認と権利侵害との結び付きは別途問題となる。
形式的な違反があったことから,適切に対応すれば盗品性を見抜けたことまで自動的に証明されるわけではない。
一方,容易な番号照合や具体的な権限確認を怠ったという事情が証明されれば,単なる職業未確認とは異なる検討が必要となる。

(6) 回収を妨げた責任と,後続窃盗を助けた責任を分ける

盗品性や無権限を確認できたのに転売・加工したという場合には,適切に対応していればその物を回収できたか,業者の処分によって回収不能や価値減少が生じたかを検討する。
買受け前に既に回収不能だった,転売後も物が特定され返還された,別の原因で滅失した,といった反論に関係する事実も確かめる。
業者が行うべき確認と処分の差控えによって避けられた損害を特定することが,民法709条による責任の検討につながる。

これに対し,後続窃盗の幇助責任では,その窃盗より前の業者の対応が,犯行の実行を具体的に容易にしたかが問題となる。
換金先を維持したこと,犯行前の買受約束,商品・数量の指定等の事情を,犯人の計画・通信・売却先の利用実態と対応させる。
第1回の買取時に確認を怠ったことが証明できても,第2回以降の全ての窃盗の発生との因果関係まで当然に認められるわけではない。

「買わなければ,犯人は別の店に売った」という反論についても,仮定だけで当然に免責又は責任成立とせず,別の換金先の具体的利用状況,今回の業者への依存度,約束の内容及び各犯行の経過を検討する。
東京高裁令和元年9月19日判決は取り込み詐欺について,継続買受業者が犯罪継続に果たした重要な役割を判断しているが,後続窃盗について同じ結論を直接示した判決ではない(第2の3参照)。

(7) 不作為による幇助では,作為義務の根拠も必要である

「警察に知らせなかった」「確認しなかった」という不作為を幇助とする場合には,業者が行うべきだった行為と,その義務が生じた根拠を示す。
法令上の申告義務,具体的な危険を伴う取引への自らの関与,対象物や処分過程を管理できる立場等を,事案に即して検討する。
単に犯人と取引したことがあるというだけで,将来の全犯罪を監視・阻止する一般的な義務を導くことはできない。

申告していれば必ず犯人が直ちに逮捕され,その後の全ての窃盗を防げたと推測するのも適切ではない。
申告可能な時期,提供できた情報,対象物の特定,その後の処分や犯行との関係を確認する。
知財高裁平成20年9月30日判決では,自らの貸出行為と複写設備の設置が関係する状況で具体的な措置をとる注意義務が認められた(第4の6参照)。
この判断を古物商に用いるときは,その危険への関与と防止可能性がどの点で共通するかを説明する必要がある。

(8) 売主による故意の犯罪があっても,業者の過失の検討は残る

犯人の故意と業者の過失は,別々に判断する。
第三者による故意の侵害だから業者の過失責任は一切成立しない,という整理は,過失による幇助を認めた第4の裁判例に沿わない。
ただし,「犯人が故意で盗んだ」ことだけでは,業者の注意義務,幇助の事実又は因果関係を証明したことにはならない。

反対に,業者の認識可能性が高かったとしても,請求対象の犯行に全く寄与していない行為については,その犯行の幇助を別途基礎付ける必要がある。
侵害の予見可能性と,侵害を容易にしたという関与の評価を,それぞれ理由付きで行うことが大切である。

(9) 主張を具体化する例

次の例は説明用の仮定である。
「5月1日に,警察から製造番号Sを記載した被害情報が店舗に届いた。5月3日に番号Sの品が持ち込まれ,照合は可能だったが,店は照合せず,5月4日に識別不能となる加工をした。照合して警察へ申告し,加工を差し控えていれば,その時点で店にあった被害品を特定して回収できた」という整理であれば,義務発生の情報,怠った対応及び回収不能との関係を検討できる。
これでも,物の同一性,権利者,照合可能性及び加工前の回収可能性は証拠による確認が必要である。

「何十回も買い取ったから後の窃盗全部に責任がある」という説明だけでは,上記の関係が欠ける。
後続窃盗については,例えば5月5日の買受約束が5月6日の犯行をどのように支えたか,業者が約束時に何を予見でき,何をすべきだったかをさらに検討する。
回収不能を防げたという説明を,窃盗自体を防げたことの説明として流用しない。

6 盗品と知りながら処分に関与し,回収を妨げる場合

買取り前に査定のため預かった物を精製・混和した場合も,処分時の権限,故意又は過失,権利侵害及び損害との因果関係を,709条の独立した請求として検討する。
後の買取りにおける即時取得の成否だけで,先行した精製行為の適否を判断しない。
処分を行った時点で得ていた情報と,それに対応して行うべき確認を特定する必要がある。

例えば,業者が売主から「会社から盗んだ物である」と告げられた上で転売先を紹介し,その売却によって被害者が物を回収できなくなった場合を考える。
この場合に問題となるのは,既に終わった窃盗を後から促したという責任ではなく,盗品の処分によって被害者の権利回復を妨げた行為への責任である。
前記の大審院明治34年3月29日判決は,盗品と知った上での売買の周旋と回収不能について,窃盗犯人と周旋者の連帯した賠償責任を認めた例である。

業者自身が盗品を破壊し,又は加工によって元の物を取り戻せなくしたという仮定であれば,その破壊・加工自体が被害者の権利を侵害したとして,民法709条による責任を検討する。
犯人による処分行為を支えたという構成であれば,719条2項の幇助責任を検討する。
同じ物の同じ価値喪失について二つの構成を挙げても,賠償額を二倍にできるわけではない。

盗品であると知っていたことは,売主の説明,警察や被害者からの具体的な連絡,商品番号の一致などの証拠から検討する。
ただし,被害申告があったことだけで所有者や盗品性が必ず確定するわけではない。
いつ何を知らされ,その後どの物をどう処分し,それによって回収又は価値にどのような影響が生じたかを特定することが大切である。

7 警告後も確認・申告等をしなかった場合

警察や被害者から盗品の可能性を具体的に知らされた後も,それまでと同じ対応で買取りや転売を続けた場合には,連絡前と連絡後を分けて評価する。
被害者からの連絡の具体性・信用性,該当物品を確認できたか,業者に可能だった対応,その後に生じた被害を確かめる。
古物営業法15条3項の不正品の疑いがある場合の申告義務も,この場面で確認する。

何もしなかったという不作為を理由に民事責任を求める場合は,単に「警察に言えば窃盗が止まったはず」と主張するだけでは足りない。
業者がいつどの対応をすべきだったか,その対応を現実に行えたか,行っていれば請求対象の権利侵害又は損害を避けられたかを具体化する必要がある。
申告の遅れがあっても,それより前に完了した窃盗がその遅れによって発生したことにはならない。
連絡後の転売による回収不能と,連絡後の新たな窃盗の発生も,分けて検討する。

8 法令違反がある場合と,確認をしていた場合

本人確認,帳簿記録又は申告の義務違反が認められれば,その違反は業者の対応を評価する重要な材料となる。
しかし,違反の有無を確認した後も,どの権利侵害を防ぐための対応だったか,その対応で当該被害を防げたかという検討が残る。
前記の靴の事件は,職業確認の違反があっても,その違反と当該権利侵害との結び付きを否定した具体例である。

反対に,身分証の確認と記帳を済ませたことだけで,全ての取引が適切だったことにはならない。
売主の身元と,その人が持込み品を売る権限を持つかは別の問題である。
盗品だと知りながら転売したという場面では,本人確認を済ませたことだけでその処分への責任を否定することはできない。

9 責任が成立しても,過去の全被害を当然に負担するわけではない

例えば,第1回の窃盗後に業者が初めて買い取り,その後に第2回の窃盗を支える約束をしたという仮定では,第1回の窃盗への事前関与,第1回の盗品処分への関与,第2回の窃盗への関与を区別する。
第2回の幇助が認められたという理由だけで,第1回を含む全ての窃盗について自動的に責任が生じるわけではない。
一方,第1回の物についても回収不能を生じさせた責任が認められることはあり,窃盗への幇助がないことと処分への責任がないことを同一視しない。

賠償対象は,認定された行為と因果関係のある損害である。
業者の買取代金又は転売益が,そのまま被害者の損害額になるわけではない。
物の価値,返還の有無,処分による価値の減少,他から既に受けた賠償等を確認し,重複した回復を避ける。
719条2項による連帯責任が成立すれば,被害者はその対象損害について各責任者に賠償を求め得るが,誰がいくら支払い,最終的に誰がどれだけ負担するかは,共同不法行為者間の求償の問題として区別する。

10 刑事責任・取戻しとの関係

盗品等に関する罪が問題となることと,窃盗被害について民事の賠償責任を負うことは,それぞれの要件に従って判断する問題である。
刑事責任の議論における「窃盗等を助長するおそれ」という一般的な説明だけでは,特定の窃盗による損害との民事上の因果関係を証明したことにはならない。
刑事の知情時期については,盗品だと後から知ったときで扱っている。

また,民法193条・194条及び古物営業法20条に基づき物を取り戻せるかと,業者に損害賠償を請求できるかも区別する。
取戻しの可否から直ちに幇助責任を導くことはできず,返還や賠償によって既に回復した損害を重ねて請求することもできない。
取戻しの制度は,社員が会社の物品を買取業者に売ったときの取戻しを参照されたい。

「善意」と「無過失」は分けて判断する。盗品だと実際に知らなかった業者でも,事情に応じた確認を怠った過失が問題となることはある。他方,過失があることだけで,不当利得の悪意受益者や盗品等に関する罪の知情が当然に認められるわけではない。
即時取得,善意・悪意の不当利得及び不法行為では,問題となる認識と要件が異なるため,同じ言葉を使うだけで結論を共通化しない。

損害賠償の範囲と業者の利益額も区別する。民法709条・719条による賠償の対象は,責任の認められる行為と因果関係のある被害者の損害であり,業者の転売による純利益を当然の上限とするものではない。
加工・混和による民法248条の償金及び703条の現存利益の返還は,別の請求として要件と範囲を検討する。原物が消滅したというだけで,金銭請求が全て消えるわけではない。買取代金の控除に関する裁判例とその射程は,取戻しの記事の第5の2で説明している。

11 双方に709条の責任がある場合,なぜ不真正連帯の関係となるか

窃盗犯人に対する709条の請求と,古物商に対する709条の請求を並べたことだけで,両者の債務が不真正連帯になるわけではない。
先に,犯人について窃取行為による賠償責任が成立し,古物商についても,例えば違法な加工・転売によって回収不能を生じさせたことについて,独立に709条の責任が成立する必要がある。その上で,両者が填補すべき損害の全部又は一部が同じかを確かめる。

両者がそれぞれ同じ損害の全額を賠償すべきなら,債務の発生原因は別々でも,給付の目的は同じ損害の填補である。被害者は各人にその責任範囲の全額を請求できるが,一人から現実に賠償を受けて同じ損害が填補されれば,その限度で他方の債務も消滅する。
この「各人が自己の責任として全額を負い,同じ損害への一回の満足によって重複部分が消える」という関係が,不真正連帯債務と説明されてきた理由である。共謀や,互いの債務を保証する契約があるからではなく,各自の不法行為責任と損害の重なりが根拠となる。

例えば,説明のため,犯人が100万円相当の物を盗み,古物商の違法な処分もその物の回収不能による100万円の損害を生じさせたため,両者にその全額の賠償責任が成立したと仮定する。被害者が古物商から30万円の賠償を受ければ,同じ損害について犯人に請求できる残額は70万円となる。
他方,古物商の行為と因果関係がある損害が,盗難総額100万円のうち特定品の30万円分に限られるなら,重なるのはその30万円の範囲である。窃盗により生じた別の損害や,古物商だけが生じさせた追加の損害まで,理由なく一つにまとめない。これらは責任の成立と損害範囲を仮定した説明例であり,買い取った事実だけで物の価額全額を負担させる例ではない。

用語には債権法改正との関係もある。最高裁平成6年11月24日第一小法廷判決(平成4年(オ)第1814号)は,719条の共同不法行為債務を不真正連帯債務とし,一人への免除に改正前437条を適用しないと判断した(公開本文2頁)。これは改正前の判例であり,二つの709条請求について古物商の責任を認めた判例ではない。

現行436条は法令の規定による連帯債務も対象とし,441条は一人に生じた事由の相対的効力を原則とする。松岡久和「民法(債権関係)の改正と不真正連帯債務」は,法定連帯と個別責任の競合を区別し,改正後の概念の要否や求償等に見解の対立があることを整理している(855頁注14,857頁から860頁,863頁)。
本記事は,二つの独立した709条責任が同じ損害を填補する関係を,不真正連帯という従来の呼称で説明している。「719条は不真正,709条は分割」と条文番号だけで分類したり,改正前の連帯債務の規定をそのまま現行法の説明に用いたりはしない。免除・混同・時効・求償の個別効果は,適用法と具体的事情を別に検討する。

12 1項前段とは別に709条を主張する意味

古物商について独立に709条の要件を満たす事実があるなら,719条1項前段に加えて,又はこれが認められない場合の構成として,709条を主張する意味がある。
例えば,犯人との共同性や後続窃盗への寄与までは立証できなくても,古物商自身の違法な加工・転売によって特定品の回収を妨げたことを立証できるなら,その行為による損害を709条で追及する余地がある。共同性が否定されることと,その業者固有の不法行為が否定されることは同じではない。

比較する点709条の独立した責任719条1項前段の責任
請求の基礎古物商自身の侵害行為と故意・過失,その行為と対象損害の因果関係を示す。実行者と業者の行為,故意・過失に加え,共同の侵害と評価する具体的な結び付きを示す。
共同性が争われた場合共同性の成否だけに依存せず,個別の侵害について検討できる。共同の侵害を基礎付ける事実が必要である。個別因果関係の扱いも,共同性の内容に即して検討する。
請求できる損害当該業者自身の不法行為と因果関係がある損害。共同不法行為として認定された侵害に結び付く損害。
双方の責任が成立した場合同じ損害を填補する債務は,重なる範囲で一回の満足により消える。対象損害について各自の連帯責任となる。別構成を加えても同じ損害を二重に回復できない。

反対に,実行者と古物商の双方について,独立に709条による同じ損害全額の賠償責任が既に証明されるなら,その損害を填補するためだけに719条1項前段を追加しても,賠償額が増えるわけではない。前段の意義は,共同の侵害として捉えるべき行為と責任範囲を明らかにすることにあり,個別責任による全部賠償との重なりを意識する必要がある。
また,709条を追加しても,業者の過失やその行為との因果関係の立証不足を埋めることはできない。「719条で足りなければ709条なら当然に認められる」という関係ではない。

主張する際は,同じ取引事実を用いる部分と,709条で独自に問題とする処分行為・損害の部分を明示する。窃盗への共同関与を主張する一方で,それが認められない場合には事後処分による回収不能を主張する,という整理も考えられる。
ここでいう「別に請求する」は,法律構成とそれを支える事実を併せて又は予備的に示す趣旨であり,同じ損害の二重請求を意味しない。訴訟物や請求の併合の整理は,被告,侵害行為及び請求損害の同一性に即して行う。

第6 三つの責任構成の主張と,取引・被害の証拠を対応させる

1 前段・後段・2項の主張をどう組み立てるか

東京高裁令和元年9月19日判決では,被害者らが1項前段を主位的に,2項の幇助を予備的に主張し,高裁は前段によって認容した。
このように,同じ取引記録等を基礎としながら,実行者と業者が一連の権利侵害を共同して行ったという評価と,業者が実行者の侵害を容易にしたという評価を検討することができる。
ただし,条文番号を併記するだけでは不十分であり,どの事実が共同性又は幇助に当たるかを説明する。

具体的には,①対象犯行と被害物品,②業者の行為と関与期間,③業者の認識又は過失,④一連の侵害における役割の結び付き,⑤対象損害との関係及び既回復額を示す。
2項で構成する場合は,どの行為がどの侵害を容易にしたかも明示する。
後段又はその類推適用を主張するなら,どの点が不明であり,なぜその規定の適用条件を満たすかをさらに説明する。
この整理は本記事による実務上の検討順序であり,判例の文言をそのまま要件一覧にしたものではない。

2 責任対象の始期と物品の特定

取引開始日,盗品と認識した日,注意義務が問題となる事情を知り得た日及び各窃盗の日時を分けて整理する。
後に盗品と分かったという事実だけから,その認識前の全ての被害を責任範囲に含めることはできない。
事前の関与があったかは別途確認し,窃盗後の処分への責任とも区別する。

犯人が盗んだ物の全量,業者が買い取った物の数量,買取代金及び被害品の価額は,当然には一致しない。
別の業者への売却,盗品でない持込み,商品の取り違え及び既に返還された物を確認し,請求する損害と問題となる関与を物品ごとに結び付ける必要がある。

通知後の対応は,通知内容と受領時点,残存する品物の特定,その後の加工・転売・保管及び生じた損害を確認する。
後に認識を得たことは,認識前の購入時の過失を当然に証明せず,通知後の処分と既に完了した窃盗との因果関係も同じではない。
後続窃盗の幇助,購入・処分による独自の権利侵害及び残存品の返還を分けて検討する。

3 保存・確認する資料

査定・精製を伴う取引では,受領日,処理承諾日,精製開始日,査定報告日,査定承諾日,買取成立日及び支払日を分けて整理する。
当時の約款,預り証,権限確認資料,処理記録及び所有者からの通知の到達時刻を対応させる。
査定のために預けた原材料が買取り前に精製されたときでは,この段階ごとの検討を説明する。

被害者側では,在庫台帳,購入記録,製造番号やロット番号,持出し日時を示す映像等を確保する。
業者側では,買取帳簿,本人確認の記録,持込み時の説明,価格の算定資料,事前の連絡,警察への申告や品触れの記録等が確認対象となる。
資料を入手できるか及び保存されているかは,個別に確かめる。

古物商は,古物を買い受けたときは,その都度,取引の年月日,古物の品目及び数量,古物の特徴,相手方の住所・氏名・職業・年齢等を帳簿等に記載し,又は電磁的方法により記録しなければならない(古物営業法16条)。
ただし,対価の総額が1万円未満の取引は,一定の古物を除き,この記載等の対象外である(同条ただし書,同法15条2項1号)。
帳簿等の保存期間は,最終の記載をした日から3年間である(同法18条1項)。
継続買取りが数年に及ぶ事案では,古い取引の記録から順に保存期間を過ぎていくため,業者側の記録の有無と保存状況を早めに確認し,弁護士会照会や証拠保全の申立ての要否を検討する必要がある。

①各窃盗の日時と被害物品
②その犯行前の業者と犯人のやり取り
③持込日・買取日・数量・価格
④盗品を疑う事情と,業者がそれを知り得た時点
⑤転売・加工・返還の状況
⑥請求する損害額と,既に回復した額

この順序で一覧を作ると,窃盗前の関与と窃盗後の買取りの混同を防ぎやすい。
被害者側の主張だけでなく,通常取引という説明や,確認・申告をしても請求対象の窃盗を防げなかったという反論に関係する資料も検討する。

原材料の場合は,会社側の購入量・実在庫・実投入・回収量と,業者側の持込票・分析結果・精算明細を,日付,ロット及び単位で対応させる。
振込総額は取引規模の証拠になるが,会社の物だけの代金であることや損害額の下限を自動的に示すものではない。
資料の突合せと推計の前提は,工場の原材料が長期間盗まれていたときの被害立証―購入・在庫・工程使用量・売却記録から数量と損害額を組み立てる(AI作成)を参照されたい。

4 否認・評価障害事実・抗弁と,証拠の位置付け

「その物を買っていない」「警察の通知を受領していない」という主張は,原告が述べる取引・認識の事実を争う否認である。これに対し,通知の受領等を認めながら,当時得られた具体的な権限資料や照会回答から適法な出所と判断できた,と主張する場合には,原告の評価根拠事実と両立する評価障害事実が問題となり得る。
司法研修所の前記教材が説明する主要事実説では,この評価障害事実は評価を争う側が主張・立証し,過失が請求原因の要件である場合には抗弁に位置付けられる。どの資料確認が評価障害事実になるかは,その確認内容と実体法上の注意義務に即して判断する。
被告の「通常取引だった」という抽象的な結論を,直ちに一個の抗弁とするわけではない。原告の具体的事実と両立するかを確かめ,単なる否認,評価を妨げる別の事実,弁済等の権利消滅事実を分ける。

1項後段の適用条件が満たされた後の「自己の行為と損害に因果関係がない」という免責の立証は,通常の709条請求で因果関係を否認する場合とは立証負担が異なる。
既に返還又は賠償したという主張も別に整理する。過失がないという問題と,成立した賠償債務が填補により消滅したという問題を混ぜない。

主張する具体的事実対応する証拠の例その資料だけでは不足する点
被害者の所有・盗難日時・対象品購入資料,在庫台帳,製造番号,持出し映像。盗難総量と業者への持込量は同じとは限らない。
犯行前の援助・共同性発注や買取確約の通信,持込票,入金記録。事後の入金だけでは,事前約束や全犯行への寄与まで証明しない。
過失の評価根拠事実警察通知,価格・数量の記録,説明の変遷,照会可能性と未実施の記録。後日判明した盗品性を,取引当時の認識可能性へ遡らせない。
評価障害事実当時の権限資料,仕入先への照会と回答,具体的な確認措置の記録。本人確認をしたことだけでは,売却権限や出所を確認したことにならない。
因果関係・損害範囲・填補加工・転売・返還の履歴,物品ごとの価額,賠償の入金記録。転売益,買取代金及び被害者の損害額をそのまま同一視しない。

これらは証拠の候補であって,特定の事件で存在・内容を確認した証拠の一覧ではない。判決の認定事実を,未確認の古物取引事件の認定事実として転記することもできない。
一つの通信や帳簿が複数の要件の証拠となる場合もあるが,どの事実を,どの部分から認定するのかを対応させることが必要である。

第7 結論と裁判例を適用する際の留意点

継続買取りと後続窃盗の関係を論じるときは,民法719条1項前段の共同不法行為と2項の幇助を検討し,どの権利侵害と損害を問題とするのかを特定することが出発点となる。1項後段又はその類推適用は,因果関係等が不明であるという理由だけで適用できるものではない。
その上で,業者の故意又は過失,関与の時間的先行,具体的な促進及び請求対象の損害との結び付きを検討する。
反復買取りだけで責任を認めなかった裁判例がある以上,回数や総額だけに依拠する主張では不十分となり得る。

第2の継続買受けの判決と第4の過失幇助の判決は,責任構成,業者の行為,対象損害及び関与の時点が異なる。
継続買受けの責任を肯定したことを,後続窃盗の全被害についての幇助責任を一般的に肯定したことと同一に扱わない。
個別事件では,本文の認定事実と請求する損害を比較し,反復回数や売却総額だけで共同性・過失・因果関係を代用しない。

第8 関連記事

①共同不法行為の要件・過失相殺・求償関係
②盗品だと後から知ったとき―盗品等に関する罪の成立時期と,中古品の買取り・委託販売の注意点
③社員が会社の物品を買取業者に売ったときの取戻し―民法193条・194条と古物営業法20条,窃盗と業務上横領の区別

第9 出典

①e-Gov法令検索「民法」436条・441条・709条・719条(令和8年10月3日確認)
②e-Gov法令検索「古物営業法」15条・16条・19条(同日確認。品目等による施行規則の詳細は本記事の対象外)及び18条(令和8年10月18日確認)
③東京地裁令和3年6月24日判決・令和2年(ワ)第14358号・判例秘書L07630775(判決本文確認。上訴関係未確認)
④東京地裁令和3年10月8日判決・令和2年(ワ)第7869号・判例秘書L07632622(判決本文確認。上訴関係未確認)
⑤大審院明治34年3月29日第二刑事部判決・明治34年(れ)第108号・刑録7輯3巻72頁(名古屋大学の判決転記全文確認。原刊行物画像未確認)

⑥最高裁平成13年3月2日第二小法廷判決・平成12年(受)第222号・民集55巻2号185頁(裁判所公開本文全6頁確認。注意義務・因果関係は4頁・5頁)
⑦知財高裁平成20年9月30日判決・平成20年(ネ)第10031号(裁判所公開本文全22頁確認。幇助・過失は13頁から17頁)
⑧東京高裁令和元年9月19日判決・平成31年(ネ)第358号・判例時報2438号50頁・判例秘書L07420618(収録された本文確認。引用原判決・別紙及び上告関係は未確認)
⑨東京地裁令和3年7月7日判決・平成29年(ワ)第18394号・判例秘書L07632488(判決本文確認。幇助と責任範囲は第3の4・5。上訴関係未確認)
⑩東京簡裁平成19年12月20日判決・平成19年(ハ)第6612号(裁判所公開本文全8頁確認。幇助は5頁・6頁。上訴関係未確認)

⑪最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決・平成30年(受)第1447号・第1448号・第1449号・第1451号・第1452号・民集75巻5号1359頁(裁判所公開本文。本記事では第3の1・2,40頁から43頁の1項後段及び類推適用の判断を確認。全56頁の全論点・別紙を精査したものではない)

⑫司法研修所民事裁判教官室「要件事実-応用編-」(令和7年3月)第2(裁判所公開教材冊子2頁から4頁,PDF18頁から20頁を確認。規範的要件の一般的な主張・立証構造の説明であり,古物商の責任についての裁判例ではない)
⑬最高裁平成6年11月24日第一小法廷判決・平成4年(オ)第1814号(裁判所公開本文全3頁確認。改正前民法下の共同不法行為債務と免除についての判断)
⑭松岡久和「民法(債権関係)の改正と不真正連帯債務」立命館法学2021年5・6号(399・400号)851頁から873頁(立命館大学公開論文。本記事に用いたのは852頁から855頁,857頁から860頁,863頁及び872頁・873頁の改正と見解の整理。論文の見解を最高裁の判断又は統一的な実務基準として示してはいない)