本記事は,会社が株主総会を招集しない場合等に,株主が裁判所の許可を得て自ら招集する手続と,その総会をめぐる争いを扱う。
会社側が招集する通常の株主総会の全体像は,株主総会とは―開催時期,出席できる人,決議事項,普通決議・特別決議及び手続(AI作成)で説明する。
第1 この記事の対象と結論
取締役が株主総会を招集しないとき,少数株主は,会社法297条4項に基づく裁判所の許可を得て,自ら株主総会を招集できる場合がある。この総会で,招集株主が自らの議案への賛成を条件に商品券その他の利益を約束した場合,開催前の差止めと決議成立後の取消しを分けて検討する必要がある。
結論を先に示すと,①会社法385条は取締役の行為を対象とするため株主の招集行為への直接適用は難しいが,類推適用の可否には両論がある,②会社法120条1項も株式会社が会社又は子会社の計算でする利益供与を直接の対象とするため,招集株主が自費でする供与への直接適用は難しい,③それでも決議方法が著しく不公正であったとして会社法831条1項1号による取消しが認められる余地は別に残る,という三段階の整理になる。
この論点について最高裁判例が結論を確立していると確認できたわけではない。以下では,条文の直接適用,類推適用及び決議取消しという順に,確立した条文要件と未解決の解釈を区別する。
第2 株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集するまで
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は,原則として,取締役に対し,株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して,株主総会の招集を請求できる(会社法297条1項)。非公開会社では6か月の保有期間要件が除かれ,定款による要件緩和も確認する必要がある(同条2項)。
招集請求後,遅滞なく招集手続が行われない場合又は請求日から8週間以内の日を開催日とする招集通知が発せられない場合には,請求株主は,裁判所の許可を得て株主総会を招集できる(同条4項)。許可を得たからといって,その後の招集手続,議決権行使の勧誘又は決議方法がすべて適法になるわけではない。
実務では,株主の議決権割合と継続保有期間,定款,取締役への招集請求書と到達日,会社側の対応,裁判所の許可決定及び許可の対象を一組で確認する。
許可の申立てを認容する裁判に対しては,不服を申し立てることができない(会社法874条4号)。また,法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会の部会資料16(令和8年9月30日)は,招集請求の要件を議決権の100分の3以上から100分の5以上に引き上げることを問題提起している。部会資料16の問いは上場会社に限定していない。詳しくは業務執行事項の株主提案の制限と株主総会の招集請求の5%への引上げ―法制審議会部会資料16のA案・B案と第16回会議の議論で扱っている。
第3 株主が招集者となることの意味
通常の株主総会では取締役が招集手続を担うのに対し,会社法297条4項の場合は,裁判所の許可を受けた株主が会社の株主総会を招集する。もっとも,招集株主が会社のために招集権限を与えられたと評価できるとしても,その株主が取締役になるわけではない。
この違いが,会社法385条と120条の直接適用を難しくする。他方,株主総会という会社の意思決定手続を自ら運営する以上,招集株主に手続の適法性と公正を無視する自由があるわけでもない。条文上の主体が異なるという入口を確認した後,制度目的と保護の必要性から類推適用の可否を検討する必要がある。
第4 監査役は開催前に差し止められるか
会社法385条1項は,取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし,又はそのおそれがあり,その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときに,監査役が取締役に対して行為の差止めを請求できると定める。条文上の対象は「取締役」であるため,招集株主の行為へそのまま直接適用することは難しい。
類推適用を肯定する方向では,①招集株主は個人のためではなく会社のために総会を招集する権限を与えられ,適法に招集する義務を負う点で取締役に準ずる,②類推適用を否定すると,監査役が違法な会社意思決定手続を事前に監査する任務を果たせない,という理由が考えられる。
反対に,否定する方向では,①株主と取締役は会社法上の地位と責任が異なる,②385条は「著しい損害」を要件とする特別の差止制度であり,条文が対象者を取締役に限定していることを軽視できない,という理由が考えられる。したがって,類推適用を当然の結論として扱わず,招集株主の会社法上の地位,問題となる違法,会社に生ずる損害及び事後救済では足りない理由を具体化する。
実例として,東京地裁令和6年9月10日決定(令和6年(ヨ)第30142号,判例秘書の判例番号 L07932609)は,上場会社の株主が会社法297条4項の許可を得て招集した臨時株主総会について,監査役が,代理人による議決権行使の制限を理由に,会社法385条の類推適用による違法行為差止請求権を被保全権利として開催禁止の仮処分を求めた事案である。同決定は,類推適用の可否には触れず,招集株主は会社法298条及び会社法施行規則63条5号に基づき代理人による議決権の行使に関する事項を決定する権限を有するとして,午前9時開会の総会について前日午後5時30分とした委任状の提出期限を合理的な裁量の範囲内とし,法人株主の代理人の本人確認書類の限定も招集通知後の対応により議決権行使の機会が実質的に確保されていたとして,法令・定款違反及び著しい損害のおそれの疎明がないとして申立てを却下した。監査役が開催禁止を求める場合も,類推適用の可否の前に,決議方法の違法と著しい損害のおそれを具体的に疎明できるかが問われることになる。
別の被保全権利を構成して民事保全法23条2項の仮処分を申し立てる可能性も考えられるが,被保全権利の根拠と,本案となる決議がまだ存在しない段階で開催自体を止めることが許されるかを独立して検討する必要がある。
第5 賛成株主への商品券等と利益供与規制
会社法120条1項は,株式会社が,何人に対しても,株主の権利の行使に関し,当該株式会社又はその子会社の計算において,財産上の利益を供与してはならないと定める。招集株主が自らの資金で商品券を贈る場合は,「株式会社」が「会社又は子会社の計算」で供与するという文言に当たらず,直接適用は難しい。
類推適用を否定する方向では,同項の中心目的を会社財産の浪費防止と捉え,会社財産を使っていない株主の自費による供与まで拡張しないと考える。肯定する方向では,同項には会社運営の公正確保という目的もあり,会社の総会を招集する株主が対価によって議決権行使を左右する行為も同様に公正を害し得ると考える。
これに対し,商品券等を会社又は子会社が負担し,後から会社が招集株主へ補填し,又は会社費用として精算する場合は,会社法120条1項の直接適用を検討する。同項の供与先は「何人」であり,名簿上の株主だけに限定されない。資金の出所,立替えと精算の有無,支出決裁者及び会計処理を確認する。
会社が自らの計算で議決権行使を条件とする贈呈をした事案として,東京地裁平成19年12月6日判決(平成19年(ワ)第16363号,判例秘書の判例番号 L06234318)がある。同判決は,会社法120条1項の趣旨を,取締役は株主の信任に基づいて会社の運営にあたる執行機関であるところ,「その取締役が,会社の負担において,株主の権利の行使に影響を及ぼす趣旨で利益供与を行うことを許容することは,会社法の基本的な仕組に反し,会社財産の浪費をもたらすおそれがあるため,これを防止することにある」とした。その上で,「株主の権利の行使に関して行われる財産上の利益の供与は,原則としてすべて禁止される」が,「株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき供与される場合であって,かつ,個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであり,株主全体に供与される総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないときには,例外的に違法性を有しないものとして許容される場合がある」と解すべきであるとした。
同判決の事案は,株主提案と会社提案が対立した株主総会で,会社が,議決権を行使した株主1名につきQuoカード1枚(500円分)を交付したものである。Quoカードは,会社提案と株主提案のどちらに賛成しても交付される仕組みであったが,判決は,案内のはがきが贈呈の記載と並べて会社提案への賛同を求めていたこと,会社が前年の定時株主総会まではこのような提供をしていなかったこと,議決権行使比率が例年より約30パーセント増加したこと等から,会社提案に賛成する議決権行使の獲得をも目的としたものと推認した。そして,額は社会通念上相当な範囲にとどまり,会社の財産的基礎に影響を及ぼすとまではいえないとしても,正当な目的によるものとはいえないとして利益供与に当たるとし,決議の方法の法令違反を理由に決議を取り消した。違反の事実は重大であり,議決権行使に少なからぬ影響を及ぼしたことがうかがわれるとして,会社法831条2項による棄却も否定している。また,会社が,贈呈は決議の前段階の事実行為であって決議の方法ではないと主張したのに対し,判決は,「議決権行使を条件としてQuoカードを贈呈するということは決議の方法というほかない」とした。
もっとも,同判決は,会社が自らの計算で贈呈した事案であり,その趣旨の理解も会社の負担と会社財産の浪費を前提としている。したがって,招集株主が自費で贈る場面に同判決の基準をそのまま当てはめることはできない。令和6年司法試験の採点実感(民事系科目第2問)も,会社法120条1項が行為の主体を「株式会社」とし,「当該株式会社又はその子会社の計算において」することを要件としている点を検討しないまま同判決を参考にする答案を,少数株主による行為であるという最も重要な点を見落とし,又は軽視したものとして低く評価している。他方,議決権行使を条件とする利益の提供について,目的,額,従前の取扱い及び議決権行使への影響を事実ごとに評価する同判決の手法は,第6の第2の主張(決議方法が著しく不公正であったとする主張)を組み立てる際にも参考になる。
同条3項は,違反して利益の供与を受けた者に,会社又は子会社への返還義務を負わせる。同条4項は,供与に関与した取締役として会社法施行規則21条が定める者に,供与価額相当額の連帯支払義務を負わせ,利益を供与した取締役以外の者には注意を怠らなかったことによる免責の余地を設けている。これは会社法423条1項による損害賠償責任とは要件と効果を分けて検討する。
どちらの見解を採る場合も,条文上の主体と計算要件を飛ばして「公正に反する」とだけ述べるのでは不十分である。供与価額,会社の損害,受領者への返還請求の回収可能額及び取締役への請求額を分け,資金の出所,供与を決めた主体,対象者,賛成票との条件関係,金額,告知方法及び投票結果への影響を確認する。
第6 決議取消しの主張をどう組み立てるか
第1の主張は,会社法120条1項の適用又は類推適用が認められることを前提に,株主総会の招集手続又は決議方法が法令に違反したとして,会社法831条1項1号による取消しを求める構成である。
第2の主張は,120条の適用又は類推適用が否定されても,利益供与の方法,金額,条件,招集株主の利害関係及び投票結果への影響から,決議方法が「著しく不公正」であったとして,同じく831条1項1号による取消しを求める構成である。賛成株主だけに利益を与えたことは肯定方向の事情となるが,利益が少額で反対投票が妨げられていないことなどは反対方向の事情となる。
第3に,会社法831条1項3号の「特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって,著しく不当な決議がされた」場合も検討対象になり得る。ただし,招集し議案を提案したことだけで招集株主を特別利害関係人とするのは足りない。商品券等を受ける賛成株主の利害関係,その議決権行使と決議内容との因果関係を具体的に検討する。
会社法831条2項の裁量棄却は,1項1号のうち法令・定款違反について,違反事実が重大でなく,かつ決議に影響を及ぼさないと認める場合の制度である。決議方法が著しく不公正な場合又は1項3号の場合に,裁量棄却を当然の主要論点として持ち込まない。
決議の取消しの訴えの原告適格(決議で株主・役員の地位を失った者を含む。),被告,3か月の提訴期間及び訴えの利益は,株主総会決議の取消しの訴えは誰が起こせるか―株主等,決議で地位を失った株主・役員(会社法831条1項後段),提訴期間及び訴えの利益で扱っている。この事例と同じ構造の司法試験の問題について,出題の趣旨・採点実感から抽出した評価項目と模範解答は,令和6年度司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目で示している。
第7 実務で保存・確認する資料
開催前は,定款,株主名簿,招集請求書,裁判所の許可決定,招集通知,議決権行使書面,株主総会参考書類,招集株主が送付した文書,商品券等の購入・発送資料及び会社・監査役との連絡を保存する。
開催後は,出席株主,議決権数,賛否別の集計,委任状,書面・電磁的方法による議決権行使,議事録,利益を受けた者の範囲及び決議前後の投票行動を確認する。決議取消しの訴えには原則として決議日から3か月の提訴期間があるため,資料収集と提訴判断を並行して進める。
第8 一次資料と確認できていない範囲
一次資料で確認済み:会社法297条,385条,120条及び831条の現行条文並びに法務省が公表した令和6年司法試験民事系科目の問題,出題の趣旨及び採点実感を確認した。
公式資料の記載:令和6年の出題の趣旨及び採点実感は,385条と120条の直接適用が難しいことを出発点とし,いずれの類推適用についても肯定・否定の両論を示している。本記事は,その問題構造を一般化したものである。
判例秘書で確認:令和8年10月4日,判例秘書で東京地裁令和6年9月10日決定(判例秘書の判例番号 L07932609)の全文を確認し,第4に追記した。令和8年10月4日,判例秘書で東京地裁平成19年12月6日判決(判例秘書の判例番号 L06234318)の全文を確認し,第5に追記した。
未確認:令和8年9月の当初調査では判例秘書の会員画面に接続できず,この論点を直接判断した裁判例の新規横断検索と判決全文確認を行っていない。したがって,本記事は,判例上確立した結論があるとは述べず,現行条文と法務省公式資料に基づく論点整理としている。
第9 出典・参考資料
①会社法120条,297条,385条,831条(e-Gov法令検索)
②令和6年司法試験民事系科目の論文式試験問題(法務省)
③令和6年司法試験論文式試験の出題の趣旨(法務省)
④令和6年司法試験の採点実感(民事系科目)(法務省)
⑤東京地裁令和6年9月10日決定(令和6年(ヨ)第30142号,判例秘書の判例番号 L07932609)
⑥法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会資料16(令和8年9月30日)
⑦会社法298条,874条及び会社法施行規則63条(e-Gov法令検索)
⑧東京地裁平成19年12月6日判決(平成19年(ワ)第16363号,判例秘書の判例番号 L06234318)