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株主総会決議の取消しの訴えは誰が起こせるか―株主等,決議で地位を失った株主・役員(会社法831条1項後段),提訴期間及び訴えの利益(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,株主総会決議の取消しの訴え(会社法831条)について,誰が原告になれるか,誰を被告としていつまでに訴えるか,どのような場合に訴えの利益が失われるかを,条文と最高裁判例で整理するものである。
特に,その決議によって株主や役員の地位を失った者が原告になれるかという点(会社法831条1項後段)を詳しく扱う。

結論を先に示すと,次のとおりである。
①原告になれるのは「株主等」(株主,取締役,清算人のほか,監査役設置会社では監査役,指名委員会等設置会社では執行役)である(会社法831条1項前段,828条2項1号)。
②決議の取消しによって株主又は取締役・監査役・清算人となる者も原告になれる(会社法831条1項後段)。
株式の併合等で端数となって株主でなくなった者や,解任決議で解任された取締役・監査役がこれに当たる。
「株主」となる者が加わったのは,平成26年の会社法改正(平成27年5月1日施行)である。
③被告は会社であり,訴えは決議の日から3か月以内に,会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に提起する(会社法831条1項,834条17号,835条1項)。
④取消事由は3か月以内に主張しなければならず,役員選任決議の取消しを求めている間にその役員が全員退任したとき等は,訴えの利益が失われることがある。

第2 原告になれる者

1 株主等

会社法831条1項前段は,決議の取消しの訴えを提起できる者を「株主等」としている。
「株主等」は,会社法828条2項1号の括弧書で,「株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)」と定義されている。

株主は,自分に対する招集手続に瑕疵がなくても,他の株主に対する招集手続の瑕疵を理由に取消しの訴えを提起できる。
最高裁昭和42年9月28日判決は,「株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得る」とした。

2 決議の取消しにより株主・役員となる者(会社法831条1項後段)

会社法831条1項後段は,「当該決議の取消しにより株主…又は取締役…、監査役若しくは清算人…となる者も、同様とする。」と定めている。
この「取締役」等には,任期満了又は辞任により退任した後もなお役員としての権利義務を有する者(会社法346条1項)を含む。

この規定により,次のような者も原告になれる。
①株式の併合や全部取得条項付種類株式の取得によって株式が1株に満たない端数となり,株主の地位を失った者(決議が取り消されれば株主に戻る。)
②取締役・監査役を解任する決議によって解任された者(決議が取り消されれば役員に戻る。)

決議の効力が生じた後は株主・役員でなくなっているので,前段の「株主等」だけでは原告になれないおそれがある。
後段は,決議そのもので地位を奪われた者が,その決議を争う道を閉ざされないようにする規定である。

3 平成26年改正で「株主」となる者が加わった

平成26年の会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)は,会社法831条1項後段の「取締役、監査役又は清算人(」を,「株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役…、監査役若しくは清算人(」に改めた。
同法の施行日は平成27年5月1日である(法務省「会社法の一部を改正する法律案」のページ)。
改正前の条文には,決議の取消しにより株主となる者が書かれていなかったので,株式の併合等で締め出された株主が原告になれるかは,条文上明らかではなかった。

第3 被告・管轄・期間・担保

1 被告と管轄

決議の取消しの訴えの被告は,その株式会社である(会社法834条17号)。
取締役や,議案を提案した株主を被告にするのではない。
訴えは,被告となる会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄である(会社法835条1項)。

2 決議の日から3か月以内

訴えは,株主総会等の決議の日から3か月以内に提起しなければならない(会社法831条1項)。
期間内に訴えを提起していても,期間経過後に新しい取消事由を追加することはできない。
最高裁昭和51年12月24日判決は,会社法制定前の商法の下で,「株主総会決議取消しの訴えを提起した後、商法二四八条一項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは許されないと解するのが相当である。」とし,その理由を「右所定の期間は、決議の瑕疵の主張を制限したものと解すべきであるからである。」とした。
したがって,取消事由は,招集手続・決議方法の法令定款違反,決議方法の著しい不公正,決議内容の定款違反,特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(会社法831条1項1号から3号まで)のどれに当たるかを,決議の日から3か月以内に全部主張しておく必要がある。

3 担保提供命令

株主が原告となる場合,裁判所は,被告の申立てにより,原告の株主に相当の担保を立てるよう命ずることができる(会社法836条1項本文)。
被告がこの申立てをするには,原告の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければならない(同条3項)。
原告の株主が取締役,監査役,執行役又は清算人であるときは,担保提供命令の対象にならない(同条1項ただし書)。

第4 訴えの利益が失われる場合

1 役員選任決議の取消しと役員の退任

最高裁昭和45年4月2日判決は,役員選任決議の取消しの訴えの係属中に,その決議で選任された取締役ら役員がすべて任期満了で退任し,その後の株主総会で新たに役員が選任された事案である。
同判決は,「取消を求める選任決議に基づく取締役ら役員がもはや現存しなくなつたときは、右の場合に該当するものとして、特別の事情のないかぎり、決議取消の訴は実益なきに帰し、訴の利益を欠くに至るものと解するを相当とする。」とした。
同判決は,訴えが会社のためにされたものであることについて何らの立証がない以上,特別の事情を認めることはできないとしている。

役員選任決議を争うときは,訴訟が続く間に任期満了や後続の選任決議が予定されていないかを確認し,必要であれば後続の決議も併せて争うかを検討する。

2 否決された決議の取消しは求められない

最高裁平成28年3月4日判決は,「ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えは不適法である」とし,「このことは,当該議案が役員を解任する旨のものであった場合でも異なるものではない。」とした。
その理由は,議案を否決する決議によって新たな法律関係が生ずることはなく,これを取り消しても新たな法律関係が生ずるものでもないことにある。
株主提案の役員解任議案が否決されたときは,決議の取消しではなく,役員解任の訴え(会社法854条)等の別の手段を検討することになる。

第5 判決の効力と裁量棄却

1 判決の効力

取消しを認める確定判決は,第三者に対しても効力を有する(会社法838条)。
会社の組織に関する訴えのうち,判決の効力を将来に向かってだけ生じさせる会社法839条の対象は,会社法834条1号から12号の2まで,18号及び19号の訴えに限られており,決議の取消しの訴え(同条17号)は含まれていない。
そのため,取消判決が確定すると,決議は原則として決議の時に遡って効力を失うと解されている。
株式の併合の決議が取り消された場合の株式の扱いや,取り消された決議を前提に行われた行為の効力は,個別の事案ごとに検討を要する。

2 裁量棄却

招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときでも,裁判所は,その違反する事実が重大でなく,かつ,決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは,取消しの請求を棄却することができる(会社法831条2項)。
この規定は,1号のうち法令・定款違反の場合に限られるから,決議方法の著しい不公正(1号)や,特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(3号)を理由とする場合には適用されない。
また,最高裁昭和46年3月18日判決は,「株主総会招集の手続またはその決議の方法に性質、程度等から見て重大な瑕疵がある場合には、その瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるようなときでも、裁判所は、決議取消の請求を認容すべきであつて、これを棄却することは許されない」とした。
同判決の事案では,取締役会の有効な決議に基づかない招集であったことと,招集通知が法定の期間より2日短かったことが,重大な瑕疵とされた。

第6 実務で確認すること

決議の取消しを検討するときは,次の順に確認する。
①決議の日と,そこから3か月の期限
②原告の地位(決議の時点と提訴の時点のそれぞれで株主・役員か,決議で地位を失った者か)
③取消事由(会社法831条1項1号から3号までのどれか)と,その裏付けとなる招集通知・議事録・議決権行使書面・委任状等
④裁量棄却の対象となる瑕疵か(法令・定款違反であって,重大でなく,決議に影響しないものか)
⑤訴えの利益(役員の任期満了,後続の決議,否決された決議でないか)
⑥決議の取消し以外の手段(決議の不存在・無効の確認,差止め,株式買取請求,役員解任の訴え等)との関係

株式の併合による締出しの場面では,効力が生ずる前の差止め(会社法182条の3)と株式買取請求(会社法182条の4。効力発生日の前日まで)にも期限があるので,決議の取消しと並行して検討する。

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第8 出典及び確認状態

1 法令

①会社法346条,828条,830条,831条,834条,835条,836条,838条,839条,854条,182条の3,182条の4(e-Gov法令検索で令和8年10月4日時点の条文を確認した。831条と839条は令和6年7月時点と同文)
②会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)(衆議院の制定法律のページで改正文を確認した)
③法務省「会社法の一部を改正する法律案」(公布日・施行日の記載)

2 裁判例

①最高裁昭和42年9月28日判決(昭和41年(オ)第664号,民集21巻7号1970頁)
②最高裁昭和45年4月2日判決(昭和44年(オ)第1112号,民集24巻4号223頁)
③最高裁昭和46年3月18日判決(昭和44年(オ)第89号,民集25巻2号183頁)
④最高裁昭和51年12月24日判決(昭和48年(オ)第794号,民集30巻11号1076頁)
⑤最高裁平成28年3月4日判決(平成27年(受)第1431号,民集70巻3号827頁)

3 確認状態

裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,引用した判示の文言を確認した。
①から④までは会社法制定前の商法の下での判決であり,判示の文言は当時の条文(商法248条等)を前提としている。
取消判決の遡及効は,会社法839条の対象から決議の取消しの訴えが除かれていることからの一般的な理解であり,個別の事案での後続行為の効力について判断した裁判例は,本記事では調べていない。