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生成AIのアクセス制限・抱き合わせと独占禁止法―API,OS連携,単体購入及び乗換費用(AI作成)

第1 実態調査報告書から何を確認できるか

生成AIを既存のサービスへ組み込むことや,APIの利用条件を定めることは,それだけで独占禁止法違反になるわけではない。
しかし,有力な事業者の条件設定によって競争者の取引機会が減少し,参入や乗換えが困難になる場合には,具体的な機能と競争への作用を確認する必要がある。

公正取引委員会は令和8年4月16日,生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0を公表した。
本記事は令和8年10月3日を基準とし,同報告書27頁~32頁のモバイルOS上の専用ソフトウェアと既存サービスへの統合を中心に,弁護士が確認する事実・契約・証拠を整理する。

報告書にはヒアリングで寄せられた懸念と事業者の説明が含まれる。
懸念の掲載を特定企業の違反認定と扱わず,報告書が示す仮定的な行為と,実際に確認できた利用条件を分けて読む。

第2 アクセス制限は二つの構造を分ける

1 自社アプリと競合アプリのアクセス差

報告書27頁~29頁は,モバイルOS市場で有力な事業者が,自社アプリには利用できる専用ソフトウェアへのアクセスを競合アプリに制限し,競争者の取引機会を減少させる又は排除する場合に,独占禁止法上問題となるおそれを示している。
確認の対象は「APIが公開されているか」だけではなく,実際に使える機能,権限,応答性能,利用量及び審査条件の差である。

契約書と技術文書を突き合わせ,自社アプリと第三者アプリのアクセス条件,拒否理由,変更通知及び異議申立ての経路を確認する。
顧客を獲得できなかったことや開発が遅れたことを主張する場合も,アクセス差との因果関係を,動作記録や開発工程から説明する必要がある。

2 純正モデルに限定される場合の代替手段

報告書29頁~30頁は,専用ソフトウェアを通じて利用できるモデルが純正モデルに限定される場面を別に検討している。
他社モデルを動作させる別のソフトウェアが存在しても,複数の代替ソフトウェアを組み合わせる必要から費用が増大し,利用が困難になる場合には,競争者の排除等につながり得るとする。

そこで代替可能性は,名称又は理論上の接続可能性だけでなく,同じ用途を実現するための機能,開発費用,端末負荷,性能,安全性及び継続保守を比較する。
これはモバイルOSについて報告書が示した分析であり,あらゆるクラウドAPIについて直ちに同じ違反評価が成立するとの意味ではない。

第3 セキュリティの目的と制限手段を分ける

報告書27頁~28頁の注記は,消費者のセキュリティ確保・プライバシー保護について,目的の合理性と手段の相当性を区別する。
合理的な安全目的があっても,同じ効果をより競争制限的でない方法で実現できるかを個別に検討する必要がある。

実務上は,制限の対象リスク,技術的な根拠,自社アプリにも同じ条件が適用されるか,限定権限・監査・認証等の代替策を確認する。
「安全のため」との一般的な説明だけでなく,比較可能な技術情報と,定量・定性の評価記録を残すことが有用である。

第三者への開示が難しい機密技術を含む場合は,秘密保持契約や専門家による限定的な評価を検討する。
ただし,技術上のリスクを確認せずに全面開放を求めたり,逆に安全という語だけで制限を正当化したりしない。

第4 統合と抱き合わせを区別する

1 生成AIが「他の商品」かを確認する

報告書31頁~32頁は,複数の機能を組み合わせて新たな価値を提供することは技術革新等の手法であり,生成AIの統合自体が直ちに問題になるものではないとしている。
抱き合わせの検討では,既存サービスに組み合わされたAIが,独自性を持ち独立して取引の対象となる「他の商品」といえるかを確認する。

具体的には,それぞれの需要者,内容・機能,単品購入の可否及び通常の販売・使用単位等を総合的に考慮する。
請求書の項目が二つに分かれていること,又は価格が一つであることだけでは結論が出ない。

2 競争者の取引機会への影響を確認する

「他の商品」に当たる場合でも,それだけで違反になるわけではない。
報告書は,既存サービス市場で有力な事業者による統合によって,生成AI関連市場で利用者の確保が難しくなり,事業費用の増加,参入・新商品開発の意欲低下等の市場閉鎖効果が生じる場合を問題としている。

単体プラン,AI機能を使わない選択肢,他社モデルとの併用,割引・契約期間及び移行時の追加費用を確認する。
利用者側の不満,競争者の事業への影響及び市場全体への作用を分け,統合による利便性も具体的に評価する。

第5 導入・契約審査と証拠保全

1 導入者が質問する事項

①必要なAPI・OS機能にどのプランでアクセスできるか。
②他社モデル,外部アプリ又は競合サービスとの接続を制限するか。
③既存サービスとAIを別々に契約できるか。併用すると追加費用が生じるか。
④データ,設定,評価記録及び業務連携をどの形式で移せるか。
⑤接続条件の変更・廃止をいつ通知し,どの移行支援を提供するか。
⑥代替構成で同じ業務を実現するための開発・保守費用はいくらか。

乗換費用の確認は,導入時の事業継続対策として有用であるが,費用が高いことだけで独占禁止法違反を意味するものではない。
法的評価と,自社が受け入れられる運用上の依存度を区別して判断する。

2 開発者・競争者が保存する事項

利用規約,API仕様,料金表,審査結果,拒否通知及び変更告知を,確認日時・版とともに保存する。
同条件での動作比較,必要機能が使えなかった記録,代替構成の工数・見積り,顧客からの要望及び失注経緯も,確認できた事実と推測に分ける。

個別の相談では,対象サービス,競争関係,事業者の地位,制限内容,代替手段及び影響を一組の資料にする。
公取委の情報提供窓口への連絡と,損害賠償・差止め等の民事請求とは別であり,報告書の記載だけで民事請求の要件が満たされるわけではない。

第6 個別の制限に対する差止め・損害賠償

1 請求根拠と必要な事実を選ぶ

独占禁止法24条の民事差止めは,8条5号又は19条に違反する行為によって利益を侵害され,又は侵害されるおそれがあり,著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがある者に認められる。
「私的独占に当たる」と主張するだけでは足りず,24条の対象となる不公正な取引方法等への該当性を検討する。公取委の命令確定を待つ制度ではないが,原告が要件に対応する事実を立証する必要がある。

アクセス制限では,具体的な構造に応じ,一般指定2項の取引拒絶,4項の取引条件等の差別取扱い,14項の競争者に対する取引妨害等を検討する。抱き合わせでは10項,併用禁止では11項又は12項等が候補になるが,項番号を列挙するだけでは足りない。
取引妨害であれば,国内での競争関係,妨害される相手方との取引,制限の不当性を特定する。買い手としての不利益と競争者としての取引機会の減少を混同しない。価格への不満又は自己の依存だけから公正競争阻害性を認定しない。

2 APIの開放を求めるときの請求の限界

東京地裁平成16年4月15日判決(三光丸事件)は,薬品の出荷停止の差止めと商品の引渡しを区別し,独禁法24条による直接の引渡請求を不適法とした。他方,一部の原告については継続的供給契約上の地位を確認した。
本件は医薬品取引の下級審判決であり,AIのAPI開放を判断したものではない。また,同判決自身も24条に作為命令を含める見解の存在に言及している。したがって,作為的な救済があらゆる場合に不可能と一般化せず,請求内容の問題として検討する。

AI事案で「違法なアクセス制限を止めよ」と求めることと,「新しいAPIを開発し,特定性能・価格・期間で提供せよ」と求めることでは,義務の根拠と範囲が異なる。
既存契約がある場合は,民法414条の履行請求,契約上の地位の確認,解約・変更条項の解釈等も検討する。抽象的な全面開放ではなく,対象API・機能,拒否条件,利用量,期間及び原告の対価・安全義務を具体化する。契約があれば必ず永続提供を求められるという意味ではない。

3 著しい損害と緊急性を立証する

24条の「著しい損害」は,制限が違法かどうかとは別に検討する。通常の追加費用,売上減少又は不便だけで当然に満たすとは扱わず,事業停止,顧客基盤の不可逆的喪失,参入時期の喪失等の具体的影響を資料化する。
これは事案ごとの立証上の提案であり,上記の影響があれば必ず要件を満たすとする判例上の公式ではない。公取委の差止請求制度Q&Aも,具体的な「著しい損害」の判断は裁判所が行うと説明している。

仮処分を求める場合には,民事保全法13条,23条2項の被保全権利と保全の必要性を別々に疎明する。独禁法24条の要件を主張したことだけで,保全の必要性まで満たされるわけではない。
停止・強制購入の開始日,代替開発に必要な工数・期間,顧客の解約期限,資金繰り,安全対策の代替案を確認する。差止めで何を回復でき,どの範囲なら技術的に実行できるかも示す。

4 25条の無過失賠償と民法の賠償を分ける

独禁法25条は,同条所定の違反行為について無過失の損害賠償責任を定めるが,26条により,原則として排除措置命令の確定後でなければ裁判上請求できない。排除措置命令がされなかった場合には,同条所定の納付命令の確定を確認する。
行政調査の開始,報告書,警告又は確約認定があることだけでこの前提を満たすとはいえない。確約手続が違反を認定したものと取り扱われるわけでもない。損害と因果関係は,無過失責任でも別に必要である。

他方,民法709条の不法行為又は415条の債務不履行を根拠とする請求には,26条の命令確定要件をそのまま持ち込まない。ただし,709条では故意・過失,権利又は法律上保護される利益の侵害等を,415条では具体的な契約義務と免責の有無等を検討する。
差止めと損害賠償で要件が異なるため,24条の著しい損害を立証できないことから,賠償請求も当然にできないとはいえない。公取委への申告と民事請求は並行し得るが,申告したこと自体は違反又は損害の立証に代わらない。

5 AI事案に必要な証拠と損害計算

公取委の生成AI報告書ver.2.027頁~34頁は,アクセス差,代替ソフトウェア,安全目的と手段,商品としての独立性,市場閉鎖効果等を検討している。個別の違反や民事救済を認定する判決ではない。
実務上は,①同じ端末・モデル・用途での自社/他社アプリの機能差,②拒否通知と規約の版,③代替サービスの性能・費用・移行期間,④AIを外した購入希望と購入条件,⑤競合との併用時の追加負担,⑥失注先の説明と制限との因果関係を揃える。

安全目的には,限定権限,認証,監査,隔離環境等で同等の効果を実現できるかを技術資料で比較する。安全目的を掲げたことだけでも,競合に不利な結果があることだけでも,結論を出さない。
損害計算では,制限がなかった場合の売上・費用との比較を行う。失注額は必要費用を控除した利益として検討し,回避のために合理的に必要だった移行費用等を区分する。全開発費・全売上減を一括して損害と扱わず,価格,品質,営業力,市況等の別原因と二重計上を除く。
これらの当てはめ・証拠項目・損害整理は実務上の提案であり,個別の生成AI事案で裁判所が採用した算定方法として紹介していない。

第7 出典・確認範囲と関連記事

①生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0の公表(令和8年4月16日)。
②報告書本文:27頁~32頁。頁は本文の頁表示による。

本記事は同報告書が示した独占禁止法上の論点を説明するものであり,特定企業・特定サービスの違反を認定していない。
同報告書30頁~31頁はスマホソフトウェア競争促進法にも言及するが,指定事業者・対象機能等の固有の要件があるため,すべてのAIベンダーに同じ義務が課されるものとして扱っていない。
質問票と証拠保全の手順は,資料を踏まえた実務上の提案である。

令和8年10月3日の追補では,判例秘書で「生成AI」又は「生成AI」と「独占禁止」の組合せを検索した結果は0件であった。この検索の範囲であり,関連裁判例が存在しないことを意味しない。三光丸事件の主文・関連する判断は裁判所公開の判決原本で確認した。個別の生成AIアクセス制限・抱き合わせについて差止め又は賠償を認めた日本の判決は,本記事の調査では確認できていない。
一般の抱き合わせ・取引妨害等の裁判例を個別のAI事案に適用する検討は,具体的な事実関係を固定した上で別途行う必要がある。

導入者の継続性審査はAIサービスを導入する前のベンダー審査,横断的な事業設計はAI・データ事業を止めない法務設計,一般的な規制類型は不公正な取引方法に関する実務メモを参照されたい。