第1 不公正な取引方法の位置付け
不公正な取引方法は,独占禁止法2条9項に定める行為であり,事業者がこれを用いることは同法19条により禁止される。
法律が直接定める類型と,法律に基づいて公正取引委員会が告示で指定する類型がある(独占禁止法2条9項・19条)。
取引条件が厳しいことや,一方の事業者が不利益を受けたことだけで,直ちに不公正な取引方法となるわけではない。
公正取引委員会は,競争の自由を制限するおそれ,競争手段の不公正さ,競争を支える基盤の侵害という観点から,公正な競争を阻害するおそれを説明している(「独占禁止法の規制内容」6)。
具体的な行為については,該当する法定類型又は告示の要件に即して判断することになる。
これに対し,競争事業者間の受注調整又は価格調整は,独占禁止法2条6項及び3条の「不当な取引制限」として問題となる。
不公正な取引方法とは要件及び規制体系が異なる。
私的発注の指名競争見積りについて,客観的な供給可能性と競争の実質的制限を判断した例として,「リニア中央新幹線談合事件と競争の実質的制限-最高裁令和8年9月14日決定・渡邉惠理子裁判官補足意見(AI作成)」がある。
買手側でも,複数の競争事業者が原材料の購入価格や交渉方針を協調して決める場合は,まず不当な取引制限を検討する。他方,単独の買手が供給者に値下げ等を求める場合は,優越的地位の濫用等の要件を別に確認する。値下げや供給者の不利益だけで,いずれかの違反が成立するものではない。両者の区別は「共同購入・購入価格カルテルと独占禁止法(AI作成)」,供給者の損害立証の初動は「買手カルテルを疑った原材料供給者の初動(AI作成)」で整理している。
公正取引委員会は,令和8年9月28日,マンション大規模修繕工事の見積り合わせについて,設計コンサル業者を介した受注予定者の決定,見積価格等の調整及び設計予算等の提供を,独占禁止法3条の不当な取引制限として認定し,排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。
この事件は,裁判所の判決ではなく公正取引委員会の行政処分であり,不公正な取引方法とは要件及び規制体系が異なる。
事案の構造,一方の設計コンサル業者について認定された工事請負契約価格の5%を目安とする手数料,証拠保全及び管理組合による損害賠償の検討は,「マンション大規模修繕工事の受注調整と管理組合の対応―設計コンサルへの5%手数料,証拠保全及び損害賠償(AI作成)」で整理している。
第2 法定類型・一般指定・特殊指定
1 法律が直接定める5類型
独占禁止法2条9項1号から5号までは,次の類型を定めている。
表は類型を区別するための概要であり,個々の行為については各号の要件を満たす必要がある。
| 根拠 | 類型 | 規制対象の概要 |
|---|---|---|
| 1号 | 共同の取引拒絶 | 正当な理由のない,競争事業者と共同して行う供給拒絶・供給制限等 |
| 2号 | 差別対価 | 地域又は相手方による不当な供給価格の差別で,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの |
| 3号 | 不当廉売 | 正当な理由のない,供給費用を著しく下回る対価での継続供給で,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの |
| 4号 | 再販売価格の拘束 | 正当な理由なく,自己の供給する商品の購入者等の販売価格の自由な決定を拘束するもの |
| 5号 | 優越的地位の濫用 | 取引上の優越した地位を利用し,正常な商慣習に照らして不当に購入強制,利益提供要請,不利益な取引条件の設定等をするもの |
これらは,平成21年改正により,一定の不公正な取引方法への課徴金制度の導入と併せて法律に規定された類型である。
もっとも,法定類型に該当すれば常に課徴金が課されるという関係にはなく,課徴金については独占禁止法20条の2から20条の6の要件を別に検討する。
2 一般指定の15類型
独占禁止法2条9項6号に基づく一般指定「不公正な取引方法」は,業種を限定せずに適用される告示である。
現行の一般指定は,次の15類型からなる。
①共同の取引拒絶,その他の取引拒絶,差別対価,取引条件等の差別取扱い,事業者団体における差別取扱い等(1項~5項)
②不当廉売,不当高価購入,ぎまん的顧客誘引,不当な利益による顧客誘引,抱き合わせ販売等(6項~10項)
③排他条件付取引,拘束条件付取引,取引の相手方の役員選任への不当干渉,競争者に対する取引妨害,競争会社に対する内部干渉(11項~15項)
法定類型と一般指定には,同じ名称を用いるものがある。
例えば,不当廉売について,法2条9項3号が定める著しい費用割れ・継続供給の要件を満たさなくても,一般指定6項に該当する場合がある。
他方,商品の再販売価格の拘束は法2条9項4号に置かれており,一般指定12項の拘束条件付取引は,同号及び一般指定11項に該当する行為を除く類型である。
安売り自体が禁止されるわけではない。
公正取引委員会の「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」第3~第5は,競争事業者への影響を検討するとともに,品質の劣化や季節外れなどを理由とする合理的な値下げを,正当な理由が認められる例として挙げている。
3 特殊指定と令和9年4月施行の告示
特殊指定は,特定の事業者又は業界を対象とする告示である。
令和8年9月5日現在施行されているものは,次の3つであり,各告示が定める対象と要件に即して適用される。
①大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法
②特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法
③新聞業における特定の不公正な取引方法
令和9年4月1日には,「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」が施行される(令和8年公正取引委員会告示第3号附則)。
同日には物流特殊指定も改正され,名称が「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合等の特定の不公正な取引方法」となる。
これらの告示は既に公表されているが,令和8年9月5日現在,施行前である。
支払告示は,取適法2条6項の「製造委託等」と同じ取引類型を対象とするが,取適法の資本金基準又は従業員基準を単純に外へ広げるものではない。
受託事業者の取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる場合は対象外であり,その判断では,①取引依存度,②委託事業者の市場における地位,③取引先変更の可能性,④その他取引の必要性を示す具体的事実が総合考慮される。
対象となる場合,正当な理由なく受領日又は役務提供日から60日を経過した後も代金を支払わない行為が規制される。
令和8年9月2日の公正取引委員会・中小企業庁要請は,この将来施行の支払告示に備えた対応に加え,施行済みの取適法上の義務及び両制度の対象外を含む行政上の要請を併記している。
これらの法的性格と銀行実務の期限を横断的に確認する場合は,「約束手形利用廃止と支払条件の見直し―取適法・支払告示・銀行期限(AI作成)」を参照されたい。
4 交換部品・保守サービスと私的独占との境界
本体製品の販売後に必要となる交換部品,修理・保守,診断情報又はソフトウェア機能の供給条件は,取引拒絶,抱き合わせ,拘束条件付取引等の不公正な取引方法だけでなく,市場への影響が大きい場合には排除型私的独占として問題となることがある。
どの類型を検討する場合も,本体市場とアフターマーケットの関係,部品等の代替可能性,顧客の切替費用,独立系事業者への排除効果及び安全・品質・知的財産権等の合理的理由を具体化する必要がある。
公取委の排除型私的独占ガイドラインが掲げるエレベーター部品事例を含め,調査項目と証拠収集は,「交換部品・保守サービスの締出しと独占禁止法―アフターマーケットと技術的ロックアウト(AI作成)」で説明している。
なお,同事例について今回確認したのは公取委の公式指針であり,引用される大阪高判平成5年7月30日の判決本文は裁判所ウェブサイト又は判例秘書で未確認である。
5 行為の機能から不公正な取引方法を選ぶ
結論を「取引拒絶」の一語で先取りせず,価格を守らせたのか,競争者と取引させなかったのか,その実効を確保するため不利益を与えたのか,第三者による供給・販売を妨げたのかを分ける。
| 問題となる機能 | 主な候補 | 混同しやすい点 |
|---|---|---|
| 販売価格そのものを拘束する | 独占禁止法2条9項4号(再販売価格の拘束) | 流通調査,推奨価格の提示,商談支援と,実効性を伴う拘束を分ける。 |
| 指示価格に従わないことを理由に供給を止める | 一般指定2項(その他の取引拒絶)、事案により拘束条件付取引 | 拒絶の存在だけでなく,違法な価格拘束の実効確保であるかを見る。 |
| 第三者に廉売業者と取引させない,修理・部品供給を妨げる | 一般指定2項または14項(競争者に対する取引妨害) | 供給者の行為と,相手方への働きかけ,妨害の対象を特定する。 |
| 競争品を扱わないことを条件にする | 一般指定11項(排他条件付取引)または12項(拘束条件付取引) | 競争者の取引機会を減らす市場閉鎖効果があるかを見る。 |
複数事業者が関与していても,共同販売の仕組み自体を直ちに「共同の取引拒絶」とは評価できない。拒絶を決めた主体,意思の連絡,拒絶の直接性,各事業者の利害及び取引の代替可能性を確認する。一方,共同の行為がなくても,相手方への働きかけや拘束条件があれば,他の類型の検討は残る。
6 排他的リベートと競争品の取扱制限
リベートは,値引き又は販売促進として競争を促すこともあるため,供与しただけで違法になるものではない。問題となるのは,リベートの設計が,取引先に競争品を扱わせない機能を持ち,市場閉鎖効果又は価格維持効果を生じさせる場合である。
公正取引委員会の流通・取引慣行指針は,競争品の取扱制限としての機能を,リベートの水準,供与基準,累進度及び遡及性等から総合判断するとしている。実務では,これらに加え,①一定数量を超えると期間中の全購入量へ高率を遡及適用するか,②目標が取引先ごとに個別設定されるか,③競争品の取扱状況を監視し,不達成時に全額又は大部分を失うか,④対象期間と更新方法,⑤代替供給者,乗換費用及び取引先の販売余力を確認する。
| 事実 | 確認する機能 | 候補となる類型 |
|---|---|---|
| 自社品の占有率に連動する | 競争品の取扱いを事実上断念させるか。 | 一般指定4項,11項又は12項 |
| 著しく累進的・遡及的である | 少量の競争品購入により大きなリベートを失うか。 | 排他条件付取引又は拘束条件付取引 |
| 有力事業者が広範・長期に実施する | 競争者の顧客獲得機会を閉鎖し,競争を実質的に制限するか。 | 排除型私的独占も検討 |
不公正な取引方法は公正競争阻害性,排除型私的独占は競争の実質的制限まで必要であり,両者を同じ強さの効果要件として扱ってはならない。また,流通・取引慣行ガイドラインの20%超という有力性の目安は,同指針が列挙する一定の非価格制限について示されたものであり,再販売価格拘束や全ての販売方法制限に共通する適法・違法の線ではない。目安の適用対象と,問題となるブランド内・ブランド間競争を分けて確認する。
第3 再販売価格の拘束と販売方法の制限
1 推奨価格と実効性を伴う価格拘束
メーカーが希望小売価格を参考として示すことと,小売業者にその価格を守らせることは異なる。
公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」第1部第1の2は,単なる参考価格の提示と,取引停止等を通じた価格拘束を区別している。
商品の再販売価格の拘束は原則として禁止されるが,法2条9項4号の正当な理由や,同法23条4項の著作物に関する適用除外などは別途検討する。
和光堂事件の最高裁昭和50年7月10日判決は,指示価格に従わない卸売業者への歩戻金算定上の不利益を扱い,契約上の遵守義務がなくても経済上の不利益によって価格拘束の実効性が確保され得るとした(公取委年次報告)。値引きを理由とするリベート不支給は価格維持の機能を確認する。第2の6で扱う,競争品の取扱いを抑える排他的リベートとは目的と効果を区別する。
価格以外の販売方法の制限については,最高裁第三小法廷平成10年12月18日判決(平成6年(オ)第2415号,民集52巻9号1866頁,裁判所ウェブサイト)が,化粧品の対面販売に関する契約条項を判断している。
同判決は,販売方法の制限に商品の適切な販売のための合理的な理由があり,他の取引先にも同等の制限を課している場合,それ自体としては拘束条件付取引に当たらないとした(判決PDF4頁~5頁)。
ただし,同判決は,その制限が販売価格の制限等を実現するための手段として利用される場合を除外している。
合理的な販売方法という名目や,形式的に同じ契約条項を用いていることだけで,価格拘束まで適法になるわけではない。
判決当時の一般指定13項は現行の12項に対応するため,現在の条項番号と区別する必要がある。
価格そのものではなく,広告・表示の方法を制限する場合にも注意を要する。流通・取引慣行ガイドライン第1部第2の6(3)は,事業者が小売業者に対して店頭,チラシ等で表示する価格を制限し,又は価格を明示した広告を行うことを禁止すること,及び取引先である雑誌,新聞等の広告媒体に安売り広告や価格を明示した広告の掲載を拒否させることを挙げている。
ガイドラインは,これらを再販売価格維持行為の考え方に準じて,通常,価格競争が阻害されるおそれがあり,原則として一般指定12項(拘束条件付取引)に該当し違法になるとしている。
販売方法の制限として合理性が認められる場合でも,価格の表示や広告だけを狙った制限は別に扱われるため,EC・代理店向けの広告ルールでは,品質・安全に関する表示の指示と価格の表示とを分けて定め,価格の表示を制限する条項を置かないようにしておくことが考えられる。
令和8年7月8日改正の流通・取引慣行ガイドラインは,委託販売等について,メーカーが実質的に自ら販売していると認められる場合の考え方を明確にした(第1部第1の2(7))。
商品の売れ残りや信用などのリスク,販売に要する費用の負担等から判断するものであり,契約を「委託販売」と呼ぶだけで再販売価格拘束の規制を免れるものではない。売れ残り,契約不適合,滅失,回収不能の危険,保管・輸送・広告などの費用を契約と運用の両面から検査する具体的手順は,「委託販売・代理店契約でメーカーが販売価格を指定できる場合(AI作成)」を参照されたい。
2 顧客切替えの制限とスイッチングコスト
メーカーが販売代理店に対し,顧客の担当代理店を変更するときの理由書提出,事前確認又は承認を求める場合は,サービス品質を確保するために必要な範囲か,代理店間の顧客獲得競争を弱める拘束条件付取引かを検討する。形式上は「確認」にとどまっても,変更を断念させる運用,不利益措置又はメーカーによる顧客配分と結び付けば,代理店の事業活動を不当に拘束するおそれがある。
公正取引委員会の「販売代理店の顧客変更を制限すること」は,電子機器用ソフトウェアについて,顧客変更の理由書提出を義務付けるルールが販売代理店間の顧客獲得競争を阻害するおそれを指摘し,サービス改善という目的のために当該ルールが不可欠とは認められないとした。判断では,ブランド間競争だけでなく,同一ブランドの販売代理店間競争,顧客が代理店を変更する費用・手間,制限の必要性及びより競争制限的でない代替手段を確認する。
推奨価格,値引き代理店へのリベート不支給及び顧客切替えルールを一体で審査する手順は,「販売代理店の値引き・顧客切替えと独占禁止法(AI作成)」で整理している。
第4 優越的地位の濫用の判断
1 取引関係と不利益の内容を確認する
優越的地位は,市場全体を支配する地位と同じではない。
公正取引委員会の「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」第2は,取引への依存度,取引先を変更できる可能性,行為者の市場における地位などを総合して,相手方との関係で判断するとしている。
不利益な条件を受け入れさせたというだけでなく,その地位を利用し,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えたかが問題となる。
ここでいう正常な商慣習は,現実に行われている慣行がそのまま正当化されるという意味ではなく,公正な競争秩序の維持・促進の立場から評価される(同指針第3)。
対価の交渉でも,自由な交渉の結果として条件が合意されたことと,十分な協議をせず一方的に著しく低い対価を定めることを区別する。
同指針第4の3(5)アは,対価の決定方法,他の取引先との比較,需給関係等を考慮し,大量発注による費用削減を対価に反映する場合なども挙げている。
低い価格の提示だけから,一律に優越的地位の濫用と断定することはできない。
同指針の最終改正日は令和8年6月17日である。
また,同年6月24日には,公正取引委員会・中小企業庁・特許庁による「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」が公表されている。
同指針は知的財産等の取引に関する行政上の考え方を示すものであり,指針中の望ましい対応と,法令上の禁止行為とを区別して読む必要がある(同指針第1の3,3頁~4頁)。
2 知的財産権侵害責任の一方的な転嫁
知財取引指針は,発注者の指示に基づく業務について,責任の所在を考慮せず,第三者との知財紛争の責任・負担を受注者に一方的に転嫁する行為を問題としている。
発注者だけに帰責事由がある場合と,受注者にも帰責事由がある場合を分け,後者では帰責事由の内容や得た利益等に応じた分担を検討する(同指針57頁~59頁)。
| 事実関係 | 責任分担を検討する視点 |
|---|---|
| 発注者が技術・構造を指定 | 指定部分について,受注者が設計決定に関与したか |
| 受注者が独自技術を提案 | 提案の内容,調査・保証の合意と対価 |
| 双方が設計に関与 | 指示・提案・承認の経緯と各自の帰責事由 |
| 納入後の改変・組合せ | 当初の仕様・利用範囲からの変更と紛争原因 |
正当な理由なく責任の有無・割合を考慮せず受注者だけに損害賠償リスクを負わせ,受注者が将来の取引への影響を懸念して受け入れざるを得ない場合には,優越的地位の濫用等の問題となり得る。
取適法の対象取引であれば,不当な経済上の利益の提供要請の検討も必要であり,規模要件を満たさない場合でも独占禁止法の検討が終わるわけではない(同指針61頁)。
指針が示す特許保証をしない条件や賠償額の上限等は,契約上の選択肢である。
上限額がないという一事だけで違法と断定せず,一方的な責任転嫁の違法性の評価と,適切な責任条件を交渉する実務を分けて説明する必要がある(同指針60頁)。
調査範囲,通知,防御,和解及び費用の条項例は,特許保証と知財紛争の責任転嫁を参照されたい。
第5 公正取引委員会の措置
独占禁止法20条は,不公正な取引方法に対する排除措置命令を定めている。
公正取引委員会は,違反行為の差止め,契約条項の削除その他違反行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。
課徴金は,全ての不公正な取引方法に一律に課されるものではない。
法20条の2から20条の5の類型では,過去の違反に対する処分等に関する要件があり,法20条の6の優越的地位の濫用では継続して行う行為であることが要件となる。
一般指定又は特殊指定への該当だけで,当然に課徴金の対象になると理解するのは正確でない。
行政上の対応の名称も区別する必要がある。
公正取引委員会は,令和5年4月13日のみずほ証券に対する注意について,IPOの公開価格設定過程における優越的地位の濫用につながるおそれを問題としたが,直ちに独占禁止法違反と認めるものではないと明示している。
また,令和8年8月6日のルックスオティカジャパンの確約計画認定も,インターネット販売での価格等の制限に関する事例であるが,独占禁止法違反を認定したものではない。
第6 契約の効力・差止め・損害賠償
1 独占禁止法違反と契約の無効は別問題である
最高裁第二小法廷昭和52年6月20日判決(昭和48年(オ)第1113号,民集31巻4号449頁,裁判所ウェブサイト)は,独占禁止法19条に違反する契約であっても,直ちに私法上無効となるわけではないとした。
ただし,契約が民法90条の公序良俗に反する場合の無効まで否定したものではない(判決PDF7頁~8頁)。
したがって,公正取引委員会による規制と,契約又は契約条項の効力は区別して検討する。
同判決の結論は一部破棄差戻しであり,事件全体について契約の有効性がそのまま確定した判決と紹介するのは適切でない。
2 独占禁止法24条による差止請求
独占禁止法24条は,不公正な取引方法等によって利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者について,著しい損害が生じ,又は生ずるおそれがある場合の侵害の停止・予防請求を認めている。
公正取引委員会の排除措置命令の確定は,この請求の前提条件ではない。
もっとも,不公正な取引方法への該当だけで差止めが認められるわけではなく,利益侵害や著しい損害等の要件が問題となる。
契約の無効,差止め,損害賠償は,求める法的効果と要件がそれぞれ異なる。
3 独占禁止法25条と民法709条による損害賠償
独占禁止法25条は,不公正な取引方法等による被害者に対する損害賠償責任を定め,事業者が故意・過失の不存在を理由に免責されることを認めていない。
ただし,同条に基づく請求には法26条の制限があり,違反行為についての排除措置命令が確定した後でなければ,裁判上主張することができない。
排除措置命令がされなかった場合は,同条所定の課徴金納付命令の確定が基準となる(事業者団体に関する法8条1号・2号違反について,その構成事業者に対してされた納付命令は除かれる)。
法25条の請求権については,法26条2項により,これらの命令が確定した日から3年の消滅時効が定められている。
無過失責任であっても,違反行為,損害及び因果関係等の検討が不要になるわけではない。
これとは別に,民法709条に基づく不法行為の損害賠償請求をすることも考えられる。
この場合,法26条の命令確定要件は適用されないが,故意・過失,権利又は法律上保護される利益の侵害,損害及び因果関係等を検討する。
独占禁止法違反という評価と,民法上の損害賠償責任の成立を機械的に同一視することはできない。
マンション管理組合などの発注者が受注調整による損害を主張する場合,独占禁止法25条による請求は同法26条により命令確定後に限られる一方,民法709条又は契約責任に基づく請求は,それぞれの要件に即して別個に検討する。
一方の設計コンサル業者について,施工業者から工事請負契約価格の5%を目安とする金銭を受領していたとの行政認定があっても,その5%が直ちに管理組合の損害額になるわけではない。
受注調整がなければ成立したと考えられる競争価格,実際の契約価格,追加・変更工事,品質・工期及び因果関係を,案件ごとの資料から具体化する必要がある。
私法上の効果に関する議論については,青谷賢一郎「独禁法違反行為の私法上の効力を巡る裁判例と契約書起案・審査における留意点」及び鈴木悠太「優越的地位の濫用(独占禁止法)」に解説がある。
これらは弁護士による解説であり,法令や判決そのものとは区別される。
第7 取適法・景品表示法との関係
令和8年1月1日から,従来の下請法は,製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律となり,取適法又は中小受託取引適正化法と呼ばれている。
同法は,対象となる委託取引について独自の適用要件と禁止行為を定めているため,優越的地位の濫用と全く同じ要件で適用される制度ではない。
詳しくは,中小受託取引適正化法(取適法・旧下請法)に関するメモ書き(AI作成)を参照されたい。
景品表示法は,不当な景品類や表示による顧客誘引を防ぎ,一般消費者の自主的・合理的な選択を保護する制度である(消費者庁「景品表示法」)。
取引先への不利益の押付けを問題とする場面とは,規制の対象と目的が異なる。
詳しくは,景品表示法の仕組み―景品規制・不当表示・ステマ規制・法執行(AI作成)を参照されたい。
景品表示法上の景品・値引き・セット販売の区別については,「1個買うと1個無料」は適法か―景品・値引き・セット販売の違い(AI作成)で具体例を解説している。
景品表示法上の総付景品規制の見直しについては,総付景品の上限見直し――決まったことと,まだ決まっていないこと(AI作成)を参照されたい。
第8 出典
1 法令・告示
①独占禁止法2条9項,19条,20条~20条の6,23条4項,24条~26条
②民法90条・709条
③取適法1条・2条・5条,令和7年法律第41号附則
④不公正な取引方法(一般指定)(昭和57年公正取引委員会告示第15号)
⑤大規模小売業特殊指定(平成17年公正取引委員会告示第11号)
⑥物流特殊指定・令和8年9月5日現在施行版(平成16年公正取引委員会告示第1号)
⑦新聞特殊指定(平成11年公正取引委員会告示第9号)
⑧支払告示(令和8年公正取引委員会告示第3号,令和9年4月1日施行)
⑨物流特殊指定・令和9年4月1日施行版(令和8年公正取引委員会告示第2号による改正)
2 裁判例
①最高裁第三小法廷平成10年12月18日判決(平成6年(オ)第2415号,民集52巻9号1866頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁第二小法廷昭和52年6月20日判決(昭和48年(オ)第1113号,民集31巻4号449頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁第三小法廷令和8年9月14日決定(令和5年(あ)第395号,裁判所ウェブサイト。不当な取引制限との区別を参照するための関連裁判例)
3 行政機関の解釈・運用及び公表資料
①公正取引委員会「独占禁止法の規制内容」6(公正競争阻害性の説明)
②公正取引委員会「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(平成29年6月16日改正)第1~第5
③公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(令和8年7月8日改正)第1部第1の2・3,第2の6
④公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(令和8年6月17日改正)第2・第3・第4の3(5)ア
⑤公正取引委員会・中小企業庁・特許庁「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」(令和8年6月24日)第1の3,3頁~4頁
⑥公正取引委員会「みずほ証券株式会社に対する注意について」(令和5年4月13日)
⑦公正取引委員会「ルックスオティカジャパン株式会社から申請があった確約計画の認定について」(令和8年8月6日)
⑧消費者庁「景品表示法」
⑨公正取引委員会「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法の運用基準」及び公正取引委員会・中小企業庁「約束手形等の利用の廃止及び支払の適正化に向けた取組等に関する要請」(令和8年9月2日)
⑩公正取引委員会「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」第2の3(3)(リベートの供与)。
⑪公正取引委員会「販売代理店の顧客変更を制限すること」(相談事例。顧客変更理由書と代理店間競争)。
⑫公正取引委員会「関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」(令和8年9月28日)
⑬公正取引委員会別添1・排除措置命令書(リノシスコーポレーション側)
⑭公正取引委員会別添2・排除措置命令書(翔設計側)
⑮公正取引委員会別添3・大規模修繕工事の施工業者から設計コンサル業者に対して支払う手数料等について
4 弁護士による解説
①青谷賢一郎「独禁法違反行為の私法上の効力を巡る裁判例と契約書起案・審査における留意点」(BUSINESS LAWYERS,令和3年11月29日)
②鈴木悠太「優越的地位の濫用(独占禁止法)」(令和4年2月7日)