第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,株主総会の決議に手続上の瑕疵がある場合に,その決議が「取り消すことができる決議」にとどまるのか,それとも決議が法律上「存在しない」と評価されるのかを,最高裁判所の判例に即して整理する。
決議の不存在は,取消しの訴えと異なり期間の制限がないため,招集手続の瑕疵に後から気付いた株主や解任された役員にとって重要な意味を持つ。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨(一部は判決全文)を確認したものに限って紹介している。
2 結論
①招集手続の瑕疵は原則として決議取消しの事由(会社法831条1項1号)であり,決議の日から3か月以内に訴えで主張しなければならない。
②もっとも,大部分の株主に招集通知が全くされず,一部の株主だけで決議をした場合や,招集の権限のない者が取締役会の決議を経ずに招集した場合には,株主総会の決議があったとはいえないとした最高裁判所の判例がある。
③不存在の決議で選任された取締役らが招集した後続の総会の決議も,全員出席総会であったなどの特段の事情がない限り不存在になるとした判例がある。
④招集手続を欠いても,株主全員が開催に同意して出席した全員出席総会の決議は有効であり,会社法は株主全員の同意による招集手続の省略も認めている(300条)。
⑤取消事由にとどまる決議については,遡って効力を生ずる同一内容の再決議がされると取消しの訴えの利益が失われるとした判例があるが,不存在の決議を追認して遡って有効にすることはできず,追認の決議は新たな決議として効力を持つにとどまると考えられる(本記事の解釈)。
第2 決議の瑕疵を争う三つの訴え
| 訴え | 対象となる瑕疵 | 期間 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 決議取消しの訴え | 招集手続・決議方法の法令・定款違反又は著しい不公正,決議内容の定款違反,特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議 | 決議の日から3か月 | 831条1項 |
| 決議無効確認の訴え | 決議の内容の法令違反 | なし | 830条2項 |
| 決議不存在確認の訴え | 決議が存在しないこと | なし | 830条1項 |
いずれも会社を被告とし(会社法834条16号・17号),請求を認容する確定判決は第三者に対しても効力を有する(会社法838条)。
取消しの訴えについては,招集手続・決議方法の法令・定款違反があっても,違反が重大でなく,かつ決議に影響を及ぼさないときは,裁判所は請求を棄却することができる(会社法831条2項)。
第3 決議が不存在とされる場合
1 招集通知が大部分の株主に全くされなかった場合
最高裁判所第二小法廷昭和33年10月3日判決(昭和31年(オ)第396号,民集12巻14号3053頁)は,株主9名・株式総数5000株の会社で,株主の一人である代表取締役が,自己の実子である2名の株主に口頭で招集を伝えただけで,他の6名の株主(持株2100株)には招集の通知を全くせず,親子3名だけで決議をした事案について,株主総会が成立しその決議があったものということはできないとした。
判決文は,手続に瑕疵があっても「決議取消の事由たるに過ぎず」とする上告人の主張に対し,決議は「なんら法律所定の手続によらず単に親子三名によつてなされた」として,不存在とした原審の判断を相当としている。
株式数で4割強(2100株/5000株),株主数で3分の2の株主が総会の開催を知る機会を全く与えられず,出席したのが身内だけであった点が重視されたといえる。
2 招集の権限のない者が招集した場合
最高裁判所第一小法廷昭和45年8月20日判決(昭和44年(オ)第276号,集民100号373頁)は,取締役会の決議を経ることなく,代表取締役以外の取締役によって招集された株主総会は,法律上の意義における株主総会とはいえず,そこで決議がされても,株主総会の決議があったものと解することはできないとした。
3 取消事由にとどまる場合との境界
招集手続の瑕疵のすべてが不存在をもたらすわけではない。
最高裁判所第一小法廷昭和46年3月18日判決(昭和44年(オ)第89号,民集25巻2号183頁)は,招集が取締役会の有効な決議に基づかず,招集の通知もすべての株主に対して法定の期間に2日足りない12日前にされた事案について,決議の取消請求を裁量棄却することの許されない重大な瑕疵があるとした。
この事案では,瑕疵は重大とされたが,扱いは取消しの問題であった。
招集の通知が全株主にされていたかどうかが,前記1との大きな違いである。
4 判断の視点
判例の事案からは,次のような事情が,不存在か取消しかを分ける目安になると考えられる(本記事の整理)。
①招集通知を受けなかった株主の数と持株の割合。
②出席した株主が,招集権者やその親族・役員など内部の者に限られていたか。
③招集の決定(取締役会設置会社では取締役会の決議。会社法298条4項)と,招集権限のある者による招集があったか。
④招集通知がされなかった理由(事務上の誤りか,意図的に排除したか)は,不存在の判断に直接関わるものではないが,事案の評価に影響し得る。
第4 全員出席総会と招集手続の省略
1 全員出席総会
最高裁判所第二小法廷昭和60年12月20日判決(昭和58年(オ)第1567号,民集39巻8号1869頁)は,招集手続を欠くのに株主全員が株主総会の開催に同意して出席したいわゆる全員出席総会においてされた決議は,総会の決議として有効に成立するとした。
株主の代理人が出席した場合も,株主が会議の目的事項を了知した上で委任し,決議の内容がその事項の範囲内であれば有効であるとしている。
2 会社法300条の招集手続の省略
会社法300条は,株主総会は,株主の全員の同意があるときは,招集の手続を経ることなく開催することができると定める。
ただし,書面又は電磁的方法による議決権の行使を定めた場合は,この省略はできない(同条ただし書)。
3 一部の株主しか出席していない場合
全員出席総会の法理も300条も,株主の全員が関与することが前提である。
招集通知を受けていない株主が一人でも欠席していれば,出席した株主が招集通知の欠缺を知らずに出席していたとしても,これらによって瑕疵が治ることはない。
第5 後続の決議への連鎖
1 不存在の決議で選任された取締役による招集
最高裁判所第三小法廷平成2年4月17日判決(昭和60年(オ)第1529号,民集44巻3号526頁)は,取締役を選任する株主総会の決議が不存在である場合に,その者を構成員の一員とする取締役会で選任された代表取締役が,その取締役会の招集決定に基づき招集した株主総会で取締役を選任する決議がされたときは,その決議も,全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り,不存在であるとした。
先行する決議の不存在は,招集権限を通じて後続の決議に連鎖する。
2 先行決議の存否を確認する利益
最高裁判所第一小法廷平成11年3月25日判決(平成10年(オ)第1183号,民集53巻3号580頁)は,取締役等を選任する先行決議の不存在確認請求に,先行決議が存在しないことを理由とする後任取締役等の選任決議の不存在確認請求が併合されている場合には,後の決議が全員出席総会において行われたなどの特段の事情のない限り,先行決議についても確認の利益が認められるとした。
第6 追認・再決議
1 取消事由にとどまる決議の再決議
最高裁判所第一小法廷平成4年10月29日判決(平成元年(オ)第605号,民集46巻7号2580頁)は,役員退職慰労金贈呈の株主総会決議の取消しの訴えの係属中に,同一の内容を持ち,取消判決が確定した場合には遡って効力を生ずるものとされている決議が有効に成立し確定したときは,特別の事情がない限り,取消しの訴えの利益は失われるとした。
2 不存在の決議の追認
不存在の決議には,追認の対象となる決議がそもそも存在しない。
民法119条は,無効な行為は追認によってもその効力を生じないが,当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは,新たな行為をしたものとみなすと定めている。
この考え方によれば,瑕疵を知った上でされた追認の決議は,先行決議を遡って有効にするものではなく,追認の決議の時に同じ内容の決議を新たにしたものとして効力を持つにとどまると考えられる(本記事の解釈。直接判断した最高裁判所の判例は確認していない。)。
追認の決議を適法な総会で行う場合は,議題(会社法298条1項2号)に決議の実質(例えば取締役の解任)が含まれていることを確認する必要がある(取締役会設置会社では議題以外の事項を決議できない。会社法309条5項)。
第7 不存在を主張する場面と期間
1 訴えと前提問題としての主張
決議不存在確認の訴え(会社法830条1項)には期間の制限がない。
また,決議が存在しないことは,役員の報酬請求訴訟など他の訴訟の中で,前提問題として主張することもできると考えられている。
2 解任決議が不存在の場合の報酬請求
取締役の解任決議が不存在であれば,解任の効力は生じず,その取締役は任期満了まで取締役の地位にある。
最高裁判所第二小法廷平成4年12月18日判決(平成2年(オ)第1259号,民集46巻9号3006頁)は,定款又は株主総会の決議によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には,その報酬額は会社と取締役間の契約内容となり,株主総会が無報酬とする旨の決議をしても,取締役はこれに同意しない限り報酬請求権を失わないとしている。
他方,解任が有効な場合は,解任に正当な理由がない限り,解任によって生じた損害の賠償を請求することになる(会社法339条2項)。
最高裁判所第一小法廷昭和57年1月21日判決(昭和56年(オ)第974号,集民135号77頁)は,持病の悪化により療養に専念するため株式を譲渡し代表取締役を交替した取締役を,経営陣の一新を図るために解任した事案で,正当な事由がないとはいえないとした原審の判断を是認している。
令和8年司法試験の論文式試験(民事系科目第2問)は,招集通知が一切発出されなかった総会での取締役の解任,その後の追認決議及び報酬請求を組み合わせた事例を出題している(「令和8年度司法試験民事系第2問の模範解答と予想される評価項目」)。
第8 実務上の確認事項
1 会社側
①招集の決定(取締役会決議)と,招集権限のある者(原則として代表取締役)による招集を記録に残す。
②招集通知の発送先を株主名簿と突き合わせ,発送の記録を残す(取締役会設置会社では書面等による通知が必要である。会社法299条2項2号)。
③招集通知の漏れに気付いたときは,漏れの範囲を確認し,取消事由にとどまるか不存在になり得るかを検討した上で,改めて適法に総会を開催することを検討する。
④不存在の可能性がある決議に基づいて選任された役員による後続の手続(取締役会の決議,次の総会の招集)にも瑕疵が連鎖し得ることを踏まえ,やり直しの範囲を決める。
2 株主・役員側
①招集通知を受け取っていない総会の決議を知ったら,通知を受けなかった株主の範囲と出席者を確認する。
②決議の日から3か月以内であれば,取消しの訴えを併せて検討する(不存在が認められなかった場合に備える。)。
③3か月を過ぎていれば,不存在を主張できるかが中心になる。
④解任された役員は,解任決議の効力と,報酬請求・339条2項の損害賠償の組立てを,期間ごとに分けて検討する。
第9 関連記事
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⑥見せ金(仮装払込み)による募集株式の発行―会社法213条の2・213条の3の支払義務,議決権行使の制限,新株発行の無効及び株主の対応
⑦譲渡制限株式の譲渡承認請求と「承認したものとみなされる」場合―会社法136条から145条の期間,指定買取人,撤回,売買価格及び名義書換
⑧会社法等に関する最高裁判例―裁判所HP掲載判例の論点別索引
第10 出典
1 法令
①会社法(e-Gov法令検索)
②民法(e-Gov法令検索)
2 裁判例
①最高裁判所第二小法廷昭和33年10月3日判決(昭和31年(オ)第396号,民集12巻14号3053頁)
②最高裁判所第一小法廷昭和45年8月20日判決(昭和44年(オ)第276号,集民100号373頁)
③最高裁判所第一小法廷昭和46年3月18日判決(昭和44年(オ)第89号,民集25巻2号183頁)
④最高裁判所第二小法廷昭和60年12月20日判決(昭和58年(オ)第1567号,民集39巻8号1869頁)
⑤最高裁判所第三小法廷平成2年4月17日判決(昭和60年(オ)第1529号,民集44巻3号526頁)
⑥最高裁判所第一小法廷平成11年3月25日判決(平成10年(オ)第1183号,民集53巻3号580頁)
⑦最高裁判所第一小法廷平成4年10月29日判決(平成元年(オ)第605号,民集46巻7号2580頁)
⑧最高裁判所第二小法廷平成4年12月18日判決(平成2年(オ)第1259号,民集46巻9号3006頁)
⑨最高裁判所第一小法廷昭和57年1月21日判決(昭和56年(オ)第974号,集民135号77頁)
第11 確認状態
会社法298条,299条,300条,309条5項,339条,830条,831条,834条及び838条並びに民法119条は,e-Gov法令検索(法令API)で令和8年9月28日現在の条文を確認した。
裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判示事項・裁判要旨で確認し,昭和33年判決は判決全文の該当部分も確認した。
第3の4の判断の視点,第4の3,第6の2及び第7の1の前提問題としての主張は,本記事の整理又は解釈であり,直接判断した最高裁判所の判例は確認していない。
判例秘書等の有料データベースは用いていない。