被相続人が保有していた非公開会社の株式は,遺産分割が終わるまで共同相続人の準共有となる。相続人の一人が株式全部について単独で議決権を行使しても,会社が認めさえすれば有効になるとは限らない。
本記事では,会社法106条の権利行使者,準共有者間の意思決定,決議取消し及び後続総会が開かれた場合の訴えの利益を整理する。
第1 遺産分割前の株式は準共有となる
相続人が複数いる場合,相続財産は遺産分割まで共同相続人の共有に属する。株式も同様であり,各相続人が株式数を法定相続分どおりに当然取得するのではなく,一株ごとに準共有する状態になる。
そのため,株主名簿に被相続人の氏名が残っているかだけでなく,相続人の範囲,法定相続分,遺言,遺産分割の有無及び会社への通知を確認する。
第2 会社法106条の権利行使者
会社法106条本文は,株式が二人以上の共有に属するときは,共有者が権利を行使する者一人を定め,会社へその氏名又は名称を通知しなければ,株式についての権利を行使できないと定める。
権利行使者は株式の所有者になる者ではなく,準共有者全体を代表して株主権を行使する者である。会社へ通知した後も,議決権,配当,株主提案その他の権利について,準共有者間の意思決定が問題となる。
準共有者の原告適格は別に確認する
株式の準共有持分を有することと,会社訴訟を提起できる原告適格があることは同じではない。最高裁平成2年12月4日第三小法廷判決(平成元年(オ)第573号・民集44巻9号1165頁)は,旧商法203条2項の権利行使者の指定・通知を欠く共同相続人は,特段の事情がない限り,株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格を有しないとした。
同判決は不存在確認訴訟についての判例であり,具体的な訴訟類型と現行会社法の条文を確認する必要がある。それでも,準共有株式をめぐる会社訴訟では,①原告適格,②訴えの利益,③本案の取消事由・無効又は不存在を順に分け,持分保有だけで①を即断しないことが重要である。
第3 会社の同意だけでは足りない
会社法106条ただし書は,会社が同意した場合の例外を置く。しかし,会社が任意に選んだ相続人へ議決権行使を認めれば常に適法になるという規定ではない。
最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決(平成25年(受)第650号・民集69巻1号25頁)は,権利行使者の指定・通知を欠く場合,議決権行使が民法の共有に関する規定に従ったものでなければ,会社が同意しても適法にならないとした。
会社側は,出席者が相続人であることだけで受け付けず,遺産分割の有無,権利行使者の指定資料,準共有者の持分及び意思決定方法を確認する必要がある。
会社の同意の効果と,その議決権行使が適法かは分ける。
会社法106条ただし書による同意は本文の指定・通知の規律を外すものであり,民法の共有に関する意思決定まで代替するものではない。
共有者間の意思決定を欠くため議決権行使が不適法となる場合にも,そのことと会社の同意自体が効力を生じないことを同一視しない。
第4 持分価格の過半数で決める
前記最高裁判決は,議決権行使が株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなどの特段の事情がない限り,議決権行使を管理行為として,民法252条本文により各共有者の持分価格の過半数で決めるとした。
「過半数」は半数以上ではない。準共有者が各2分の1の持分を有する場合,一人だけでは過半数に達しない。会社がその一人による株式全部の議決権行使を認めても,民法上の意思決定を欠くため適法にならない。
一方,株式の処分又は内容変更に直結する行為では,管理行為とは異なる判断が必要となり得る。行使する権利の内容を具体的に特定する。
第5 株主総会決議取消し
準共有株式について,会社法106条本文の指定・通知を欠き,民法の共有に関する規定にも従わない議決権行使を会社が認めて決議した場合,その議決権行使は不適法であり,決議は決議の方法が法令に違反するものとして取消しの対象となる(会社法831条1項1号,前掲最高裁平成27年2月19日判決)。
決議取消しの訴えは決議日から3か月以内に提起する必要がある。提訴前には,招集通知,株主名簿,委任状,議決権行使書,出席票,議事録,権利行使者指定・通知書及び会社が同意した経緯を確保する。
違法な票を除いても決議結果が変わらないという事情は,取消事由の有無ではなく,会社法831条2項の裁量棄却の段階で問題となる。裁量棄却は,違反する事実が重大でなく,かつ,決議に影響を及ぼさないと認められる場合に限られ,瑕疵が重大であれば,決議の結果に影響を及ぼさないときでも裁量棄却は許されない(最高裁昭和46年3月18日第一小法廷判決(昭和44年(オ)第89号・民集25巻2号183頁))。そのため,票数と定足数の再計算に加え,違反の性質・程度も具体的に示す必要がある。
第6 後続総会と訴えの利益
最高裁昭和45年4月2日第一小法廷判決は,役員選任決議の取消訴訟中に対象役員が任期満了で退任し,後の総会で新役員が選任された場合,特別の事情がない限り,先行決議を取り消す訴えの利益を失うとした。
もっとも,後続決議があれば常に訴えが終了するわけではない。後続総会を誰が招集したか,その者の代表権が先行決議だけに依存するか,会社法346条1項の権利義務取締役又は同法351条1項の権利義務代表取締役が存在したか,後続決議自体を別訴で争っているかなどを確認する。
後続決議との関係は事案ごとの差が大きい。先行決議の瑕疵が後続決議へ連鎖すると主張する場合は,招集権限と決議の効力を時系列で具体化する。
最高裁平成2年4月17日第三小法廷判決(昭和60年(オ)第1529号・民集44巻3号526頁)は,取締役を選任する決議が不存在である場合に,その者を構成員とする取締役会で選任された代表取締役が招集した総会で取締役を選任する決議がされたときは,全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り,その決議も不存在であるとした。
また,最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決(平成元年(オ)第605号・民集46巻7号2580頁)は,決議取消しの訴えの係属中に,取消判決が確定した場合には遡って効力を生ずるものとされている同一内容の決議が有効に成立し確定したときは,特別の事情がない限り,取消しの訴えの利益は失われるとした(事案は役員退職慰労金贈呈の決議)。
決議の不存在と後続決議の関係は,株主総会決議の不存在で整理している。
死亡による退任は,任期満了又は辞任による退任と区別する必要がある。会社法346条1項及び351条1項が定める権利義務の継続事由に死亡は含まれず,死亡した取締役・代表取締役の地位や代表権が相続人へ移転するものでもない。株式の相続,取締役の選任,代表取締役の選定及び後続総会の招集権限をそれぞれ確認する。
第7 会社側・相続人側の実務対応
1 会社側
- 死亡の事実と相続人を戸籍等で確認する。
- 遺言・遺産分割・株主名簿書換えの有無を確認する。
- 権利行使者の指定・通知と,準共有者間の意思決定資料を分けて確認する。
- 総会ごとに,問題となる株式を除いた定足数と賛否を再計算する。
準共有株式の権利行使者として指定・通知された人が,そのことだけで会社を代表できるわけではない。被相続人が代表取締役でもあった場合には,株主権の処理と並行して,定款及び機関構成に応じた取締役の選任・代表者選定を進める。取締役会設置会社では取締役会による代表取締役の選定が必要であり,取締役会を設置していない会社では会社法349条及び定款等に即して代表者を確認する。不足が生じ,必要がある場合の一時役員・一時代表取締役の選任は,同法346条2項・351条2項による。
2 相続人側
- 一人で株式全部を行使できると決めつけない。
- 共同相続人間の合意内容と持分を記録し,会社へ書面で通知する。
- 決議取消しの3か月の出訴期間と,その後の総会・取締役会を継続して管理する。
- 株式の評価・換価と,総会での議決権行使を別の問題として整理する。
第8 出典・関連記事
法令:会社法106条,346条,351条,831条,民法252条,264条,898条
裁判例:前掲最高裁平成27年2月19日判決,最高裁平成2年12月4日判決,最高裁昭和45年4月2日判決,最高裁昭和46年3月18日判決
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