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退職勧奨の適法性と進め方―違法となる場合,諭旨退職・解雇との違い及び配転・降格との関係(AI作成)

第1 退職勧奨の法的性質

1 退職勧奨とは何か

退職勧奨は,使用者が労働者に対し,合意による労働契約の終了(合意退職)又は労働者自身による退職を促す働きかけである。
使用者が一方的に労働契約を終了させる解雇とは異なり,退職勧奨に応じるかどうかは労働者の自由な意思に委ねられる。
解雇は,「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされている(労働契約法16条)が,同法には,退職勧奨それ自体の要件を定めた規定はない。

期間の定めのない雇用では,労働者はいつでも解約の申入れをすることができ,雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する(民法627条1項)。
退職勧奨に応じた労働者が退職届を提出した場合,それが労働者からの一方的な解約の申入れなのか,使用者の承諾によって成立する合意退職の申込みなのかによって,撤回できるかどうかが問題になることがある。
退職日や条件を明確にするためにも,後記第3の4のとおり,合意の内容を書面に残しておくことが考えられる。

2 本記事の対象

本記事は,民間企業の使用者が個々の労働者に退職を勧める場面を対象として,退職勧奨が違法となる場合,面談の進め方,諭旨退職・解雇・配転・降格との関係及び雇用保険上の扱いを説明する。
希望退職の募集や整理解雇は対象としない。
本記事の記載は,令和8年9月11日時点の法令及び公表資料に基づく。

第2 退職勧奨が違法となる場合

1 裁判例が示した判断の枠組み

東京地裁平成23年12月28日判決(日本アイ・ビー・エム退職勧奨事件)は,「退職勧奨は,勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが,これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。」とした。
その上で,使用者は,説得活動の手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,正当な業務行為として退職勧奨を行い得るとした。
他方,社会通念上相当と認められる限度を超えて,労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり,その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって,その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をした退職勧奨は,違法なものとして不法行為を構成するとした。

同判決は,退職勧奨の対象となった理由(業績不良の具体的事実等)を説明し,退職した場合の支援策を具体的に説明して再検討を求めることは,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でない限り許容されるとした。
また,労働者が消極的な意思を表明しただけで直ちに説得活動を終了しなければならないものではないが,退職勧奨に応じない意思が堅固であり,面談に応じられないことを明確に表明し,上司にその旨を確実に認識させた段階で,それ以降の説得活動は社会通念上相当な範囲を逸脱した違法なものと評価されることがあり得るとした。
同判決は,結論として,同事件の退職勧奨を違法とは認めなかった。

2 下関商業高校事件の位置付け

最高裁昭和55年7月10日第一小法廷判決(下関商業高校事件)は,市立高等学校の教員に対する退職勧奨を違法とした原審の判断について,「原判決挙示の証拠関係に照らし、是認しえないものではなく」として,上告を棄却した。
多数意見は,退職勧奨が違法となる一般的な基準を示していない。
「説得のための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り」という基準は,同判決に付された2名の裁判官の反対意見が述べたものであり,多数意見の判示ではない。

反対意見によれば,原審は,長期間にわたり勧奨を繰り返したこと,教育次長らの発言内容,宿直廃止・欠員不補充の問題と退職勧奨の交渉を関連させたこと,研究物の提出を命じたこと及び市教育委員会への配置転換を提案したことを問題とし,退職を強要したものと判断していた。
同事件は,地方公務員に対する退職勧奨について国家賠償法に基づく損害賠償が問題となった事案であり,民間企業の退職勧奨にそのまま当てはまる判示ではないが,原審が問題とした事情は,退職勧奨の態様を点検する際の手掛かりになる。

3 法令による制約

事業主は,退職の勧奨について,労働者の性別を理由として,差別的取扱いをしてはならない(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律6条4号)。
また,退職勧奨の面談での言動が,職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものに当たる場合には,事業主が雇用管理上の措置を講じなければならない職場のハラスメントの問題にもなる(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2第1項)。

第3 退職勧奨の進め方

1 面談の前に決めておくこと

本記事では,面談の前に次の3点を決めておくことを基本形とする。
①退職を勧める理由(業績,勤務態度等)を,指導記録等の資料に基づいて整理する。
②退職の条件(退職日,退職金の扱いと加算の有無,年次有給休暇の扱い,離職理由の記載等)を決める。
③面談の担当者,同席者,時間及び場所を決め,面談の内容を記録する方法を決める。

退職を勧める理由を具体的な事実で説明できないと,面談での説明が抽象的な評価や人格への言及に流れやすくなる。
退職の条件を面談の場で思い付きで示すと,後で条件をめぐる争いになるため,事前に決裁を得ておくことが考えられる。

2 面談での説明

退職勧奨に応じるかどうかは労働者の自由な意思に委ねられるから,面談では,応じるかどうかは本人が決めることであり,回答までに検討の時間があることを伝えることが考えられる。
業績不良などの具体的な事実を説明することは許容されるが,名誉感情を不当に害するような言辞は,日本アイ・ビー・エム退職勧奨事件の判断基準によっても違法の評価につながる。

解雇の要件を満たす見込みがないのに「応じなければ解雇する」と告げるなど,事実と異なる説明や威圧的な説明をして退職の意思表示をさせた場合には,その意思表示が錯誤,詐欺又は強迫を理由に取り消される可能性がある(民法95条,96条1項)。
退職勧奨の場では,解雇や懲戒処分の見通しを交渉材料として示すこと自体を避けることが考えられる。

3 労働者が拒否した場合

日本アイ・ビー・エム退職勧奨事件の判断によれば,労働者が退職勧奨に応じない意思を明確に表明し,使用者側がそれを確実に認識した後の説得活動は,違法と評価されることがあり得る。
拒否の意思が明確になった後は,同じ内容の勧奨を繰り返さず,面談を打ち切ることが考えられる。

退職勧奨を拒否したことを理由として配転や降格を行えば,不当な動機・目的による人事権の行使と主張される材料になる。
拒否の後に配転や降格を検討する場合は,業務上の必要性や処分の理由を,退職勧奨とは切り離して記録しておく必要がある。

4 合意の成立と記録

退職の合意は,退職届の提出と会社の承諾,又は退職合意書の締結によって確認する。
合意書には,退職日,退職理由(会社都合か自己都合かの別),退職金その他の支払,年次有給休暇の扱い,貸与品の返還,守秘義務等を記載し,清算条項を置くかどうかも検討することが考えられる。

最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決(山梨県民信用組合事件)は,就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無について,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,不利益の内容及び程度,行為に至った経緯及び態様,行為に先立つ情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものとした。
同判決の射程は賃金や退職金に関する労働条件の変更への同意であり,退職の合意そのものを対象とするものではない。
それでも,同意書面の有無だけでなく説明の内容や経緯が問われ得るという考え方は,退職勧奨の説明内容と経過をどのように記録するかを考える上で参考になる。

第4 諭旨退職・解雇・配転・降格との関係

1 諭旨退職は懲戒処分であること

就業規則には,懲戒処分の一種として,退職願の提出を勧告し,提出しなければ懲戒解雇とする「諭旨退職」を定める例がある。
諭旨退職は懲戒処分であるから,就業規則に懲戒の種別及び事由が定められていること(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決・フジ興産事件)と,労働契約法15条の相当性が問題となり,懲戒事由の認定を経ない退職勧奨とは性質が異なる。
退職勧奨の場で,懲戒解雇に当たる事由がないのに「応じなければ懲戒解雇になる」と告げることは,第3の2で述べた事実と異なる説明に当たる。

2 解雇との違い

解雇には労働契約法16条の規制が及ぶ。
退職勧奨に応じなかったこと自体は解雇の理由にならず,解雇を検討する場合は,解雇の理由となる事実そのものについて同条の要件を満たすかを検討することになる。
能力不足・協調性不足を理由とする普通解雇の判断については,能力不足・協調性不足による普通解雇―改善指導・配置転換・解雇回避措置と裁判例で扱っている。

3 配転・降格と同じ機会に行う場合

最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決(東亜ペイント事件)は,転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるときを,権利の濫用となる特段の事情の一つとして挙げている。
退職勧奨と同じ機会に配転や降格を告げると,配転等が退職を促すための手段であったと主張される材料になる。
下関商業高校事件でも,反対意見によれば,原審は退職勧奨の過程での配置転換の提案を問題としていた(第2の2)。

「環境を変えてもう一度機会を与える」という趣旨の配転と,「退職してほしい」という勧奨を同時に伝えると,使用者の意図が労働者に一貫して伝わらない。
配転や降格を行う場合は,退職勧奨とは時期と説明を分け,業務上の必要性や処分の理由を独立に記録しておくことが考えられる。

第5 雇用保険の離職理由

雇用保険法23条2項2号は,解雇その他の厚生労働省令で定める理由により離職した者を特定受給資格者としており,雇用保険法施行規則36条9号は,その理由の一つとして「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」を定めている。
特定受給資格者の基本手当の所定給付日数は,基準日における年齢と算定基礎期間に応じて,雇用保険法23条1項が定めている。
退職勧奨に応じた退職であることを,退職合意書の記載と離職証明書の離職理由の記載とで食い違わせないようにすることが考えられる。

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第7 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索「労働契約法」15条及び16条
e-Gov法令検索「民法」95条,96条及び627条
e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」6条
e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」30条の2
e-Gov法令検索「雇用保険法」23条
e-Gov法令検索「雇用保険法施行規則」36条

2 裁判例

最高裁昭和55年7月10日第一小法廷判決,昭和52年(オ)第405号,集民130号131頁(下関商業高校事件)
最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決,昭和59年(オ)第1318号,集民148号281頁(東亜ペイント事件)
東京地裁平成23年12月28日判決,平成21年(ワ)第17789号等(日本アイ・ビー・エム退職勧奨事件)
最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決,平成13年(受)第1709号,集民211号1頁(フジ興産事件)
最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決,平成25年(受)第2595号,民集70巻2号123頁(山梨県民信用組合事件)