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国立大学の学長選考とは―選考・任命,意向投票と公表義務(AI作成)

第1 学長は会議が選考し,文部科学大臣が任命する

国立大学の学長は,学長選考・監察会議が選考し,国立大学法人の申出に基づいて文部科学大臣が任命する。
教職員による投票で最多得票となった候補者が,そのまま法律上の学長になる仕組みではない。
ただし,大学の内部規程が意向投票とその結果の考慮を定めている場合には,その規程を踏まえて手続を確認する必要がある。

本記事では,令和8年10月4日現在の国立大学法人法制と,東京大学・電気通信大学の規程をもとに,選考・任命,意向投票,公表義務及び監察の関係を説明する。
公立大学・私立大学の制度や,個別候補者の能力評価,特定の選考の適法性は対象としない。

学長選考・監察会議の選考 → 国立大学法人の申出 → 文部科学大臣の任命という順序である。
選考権限,申出・公表の責任及び任命権限を区別すると,意向投票の位置付けも理解しやすい。

主体役割
学長選考・監察会議法令と選考基準に従って学長を選考する
国立大学法人会議の選考に基づいて任命を申し出,選考結果・理由・過程・基準を公表する
文部科学大臣法人の申出に基づいて学長を任命する
意向投票・調査に参加する教職員当該大学の規程に基づき意思を示す。最多得票だけで学長が決まる制度ではない

第2 選考主体,候補者の資格,任期

1 会議による選考と大臣による任命

(1) 選考・申出・任命の三段階

国立大学法人法12条1項は,法人の申出に基づいて文部科学大臣が学長を任命すると定め,同条2項は,その申出が学長選考・監察会議の選考によると定めている。
したがって,①会議による選考,②法人による申出,③大臣による任命を分けて理解する必要がある。

文部科学大臣は,2026年10月6日の記者会見で,東京大学の総長選考に関する質問に答え,法人からの申出に「明白な形式的な違法性がある場合や、また明らかに不適切と客観的に認められる場合などを除きまして、法人の申し出に基づいて任命するものとされております。」と説明している。
これは任命に関する大臣の説明であり,法律の条文が任命を拒否できる場合を列挙しているわけではない。

(2) 学外側と学内側の委員は同数

会議の委員は,経営協議会の学外委員から同協議会で選出する者と,教育研究評議会の法定範囲の評議員から同評議会で選出する者を,同数とする仕組みである。
委員総数を全国一律に定めるものではなく,議長は委員の互選により定める。

教育研究評議会側の選出元には,学長が指名する理事,教育研究上の重要な組織の長,同評議会の定めるところにより学長が指名する職員が含まれる。
全国共通の法律だけを根拠に,選考会議には理事が一切入れないと説明することはできない。

2 候補者の要件と学長の任期

(1) 法定要件と会議の選考基準

国立大学法人法12条6項は,人格が高潔で,学識が優れ,大学における教育研究を適切かつ効果的に運営できる能力を有する者のうちから,会議の定める基準により選考することを求めている。
同項自体は候補者を教授や当該大学の教職員に限定しておらず,具体的な候補資格については,同法16条の欠格事由と大学別の基準・推薦手続も確認する必要がある。

(2) 任期は2年以上6年以下,再任は大学規程も確認

同法15条1項により,学長の任期は,会議の議を経て,2年以上6年以下の範囲で法人の規則により定める。
同条5項により法律上は再任が可能であるが,大学別の再任制限を含め,実際の任期規程を確認する必要がある。

3 運営方針会議と理事長の特則

(1) 運営方針会議の意見

運営方針会議を置く法人では,国立大学法人法21条の8第2項により,同会議は学長選考・監察会議に対して,選考基準や学長選考について意見を述べることができる。
この意見を述べる権限は,学長を選考する主体を置き換えるものではない。

2026年10月20日,文部科学省高等教育局長は,東京大学の総長選考について,この規定を挙げて,運営方針会議で選考の経緯を検証するよう大学に依頼した。
もっとも,同項の文言は学長選考・監察会議に「意見を述べることができる」というものであり,選考後の検証を明文で定めた規定ではない。
依頼の内容と経緯は,東大総長選挙2026の結果の第4の4で整理している。

(2) 理事長と大学総括理事の任命

設置する国立大学の全部に大学総括理事を置く法人では,同法10条1項により,法人の長は理事長となる。
この場合,法人の長の任命と,各大学の大学総括理事の任命は別の手続である。

大学総括理事は,同法13条の2により,学長選考・監察会議の意見を聴き,文部科学大臣の承認を得て,法人の長が任命する。
ここでいう法人の長には,法律上の定義により理事長が含まれる。

第3 意向投票の位置付けは法令と大学規程で異なる

1 全国共通の法令とガバナンス・コード

(1) 法令は意向投票を必須手続としていない

本記事で確認した全国共通の法令は,意向投票を学長決定の必須手続として定めていない。
文部科学省は平成26年の改正に関する説明で,投票を実施するか,実施した場合に結果をどう考慮するかは会議の判断事項であり,結果の機械的な追認は立法の趣旨に照らして適切でないと説明している。

(2) コードは投票によらない選考を求める

国立大学法人ガバナンス・コード3-3-1①は,意向投票によることなく,会議が自らの責任で学長を選考するよう求めている。
一方,同コードは法的拘束力を持つものではなく,実施しない原則について理由を説明する方式を採っている。

そのため,法律違反の有無,コードの原則に従っているか又は不実施の理由を説明しているか,大学の内部規程に従ったかは,別々に確認する必要がある。
コードの記述を,投票結果が非拘束であるという説明だけに置き換えると,投票によらない選考という要請そのものを見落とすことになる。

2 東京大学と電気通信大学の規程例

(1) 総合考慮と参考という位置付け

2大学の規程は,いずれも意向投票結果に言及しているが,次のように定めている。

大学規程の内容根拠
東京大学候補者資料,推薦書,調査,所信表明及び意向投票結果を総合的に考慮して総長予定者を決定する総長選考・監察会議内規16条1項
電気通信大学意向調査の結果を参考として学長予定者を選考する学長選考等規程7条1項

これは2大学の取得規程の比較であり,全国の運用を網羅したものではない。
また,投票を残す規程とコードとの関係について,各大学の適合状況の説明まで確認した結論ではない。

(2) 電気通信大学の単独候補者の特例

電気通信大学の規程6条ただし書・7条3項は,候補者が1人で,会議が資格及び基準を満たすと認めた場合,意向調査を実施せず,当該候補者を学長予定者として選考すると定めている。
複数候補者の選考と単独候補者の選考では,手続が同じとは限らない。

(3) 電気通信大学の再任要請の特例

同規程8条は,任期規程上再任できる現職について,会議の出席委員の3分の2以上の賛成により再任要請を決し,本人の再任意思を確認する方式を定めている。
必要な賛成を得られない場合や本人に再任の意思がない場合には,通常の規定に基づき改めて選考する。

京都大学,鹿児島大学及び徳島大学を含む制度の違いは,国立大学の学長選考を大学別に比較で整理している。
推薦・公募,必須と任意の調査,最終表決,単独候補・再任の特例を分けて確認されたい。

3 最多得票者の不選出だけでは違法性を判断できない

最多得票者が選ばれなかったという事実だけで,選考が直ちに違法であるとは判断できない。
選考基準,投票結果の扱いを定める規程,候補者の評価及び実際の選考過程を合わせて確認する必要がある。
他方,投票に法的な決定力がないという説明だけで,規程上求められる投票結果の考慮を無視してよいともいえない。

札幌地裁平成25年4月24日判決(平成23年(行ウ)第45号,判例秘書L06850262)は,当時の国立大学法人の学長選考について,学内意向投票を考慮要素の一つとしつつ,その結果が選考会議を法的に拘束するものではないと判断した。
高知地裁平成22年12月10日判決(平成20年(行ウ)第9号,判例秘書L06550689)も,投票結果をどの程度考慮するかは,当時の規程の下で学長選考会議の裁量に委ねられるとした。
いずれも現行の国立大学法人法12条7項による結果・理由・過程の公表義務が整備される前の判決であるため,意向投票の非拘束性を考える資料にはなるが,現在の公表内容が十分かを直接判断した裁判例ではない。

具体的な選考と公表理由は,2026年の東大総長選考と,2026年の京大総長選考で検討している。
全国共通の制度,大学別の規程及び個別選考の記録を分けて読むことが必要である。

第4 結果,理由,過程,基準の公表義務

1 法律上の公表義務を負うのは法人である

(1) 選考結果・理由・過程

国立大学法人法12条7項は,選考が行われたときに,法人が結果と文部科学省令で定める事項を遅滞なく公表することを定めている。
同法施行規則1条の5第1項は,省令で定める事項として,①その者を選考した理由,②学長選考の過程を定めている。

(2) 選考基準の決定・変更

会議が選考基準を定め,又は変更した場合も,法人はその基準を遅滞なく公表しなければならない。
基準を定める会議と,法律上の公表義務を負う法人を区別して読む必要がある。

2 具体的な説明と人事情報への配慮

(1) 選考理由と評価根拠の対応

文部科学省の平成26年の説明は,候補者のどの能力を,どのような方法で確認したかを具体的に説明する方向を示している。
選考過程についても,日付を並べるだけでなく,候補者の把握や面接等の過程を説明する方向を示している。

本記事では,基準との対応,判断に用いた資料,投票を実施した場合の結果の扱いが分かる説明が望ましいと考える。
ただし,一定形式の比較表や配点表を,すべての大学が法律上必ず公表しなければならないという意味ではない。

(2) 逐語議事録の全面公開とは区別する

コードは,人事に関する審議であることに留意しつつ,選考過程と理由をできる限り具体的に公表するよう求めている。
法12条7項と施行規則1条の5から,逐語議事録や候補者に関するすべての情報の全面公開義務まで,直ちに導くことはできない。
個別の情報公開請求に対する開示・不開示の判断は,別に検討すべき問題である。

法人が自ら公表する選考理由・過程と,議事録・評価資料について行う法人文書の開示請求は別の制度である。
国立大学の学長選考と情報公開では,資料の特定,不開示事由,部分開示,文書不存在及び決定後の対応を説明している。
公開文書だけでは分からない事項を,直ちに手続違反と決め付けず,追加して確認すべき資料を特定する必要がある。

第5 選考後の監察,評価,解任

1 法定の報告と解任手続

(1) 会議による職務執行状況の報告要求

国立大学法人法17条4項は,監事から所定の報告があった場合や,所定の解任事由の疑いがある場合などに,会議が学長に職務執行状況の報告を求めることができると定めている。
学長選考・監察会議の役割は,選考した時点で終わるものではない。

(2) 監事の報告義務

同法11条の2は,役員についての所定の不正や法令違反等について,監事の報告義務を定めている。
学長に関する事案では,学長及び学長選考・監察会議への報告に加え,文部科学大臣への報告が定められている。

同じ日の文部科学省の依頼は,東京大学の監事に対しても,同法11条6項(業務の監査)と11条の2を挙げ,選考の経緯を検証して著しく不当な事実があれば文部科学大臣に報告するよう求めた。
もっとも,11条の2(特定国立大学法人については21条の7による読替え後のもの)は,役員(監事を除く。)又は運営方針委員の不正の行為(そのおそれを含む。)のほか,法令に違反する事実又は著しく不当な事実があると認めるときの報告を定めているが,合議体である学長選考・監察会議の選考がこれに当たるかは,条文の文言からは明らかでない。

(3) 会議の申出による解任

同法17条2項・3項による学長の解任は,同条5項により,会議の申出に基づいて文部科学大臣が行う。
欠格事由に基づく同条1項の解任とは区別する必要があり,本記事では個別の解任処分や訴訟上の救済までは判断していない。

会議の申出に基づく解任処分の取消しが争われた例として,札幌地裁令和6年3月13日判決(令和2年(行ウ)第36号)がある。
国立大学法人北海道大学の元総長が,当時の総長選考会議の解任の申出を受けて文部科学大臣がした解任処分の取消しと損害賠償を求めたが,判決は請求をいずれも棄却した。
判決は,総長選考会議が北海道大学の総長選考会議規程18条1項4号の「その他総長たるに適しないと認められるとき。」に該当すると認めた判断が比例原則に反するものとはいえず,解任の申出に裁量権の逸脱・濫用は認められないとした。
本記事では,この判決の控訴の有無と確定の有無は確認していない。

2 コード上の評価と大学規程による具体化

(1) 任期途中の評価と公表

コード3-3-3②は,任期途中の評価を行い,その結果を公表するよう求めている。
このコード上の要請を,選考結果等に関する法律上の公表義務と同じ法的性質のものとして扱うことはできない。

(2) 東京大学の中間評価

東京大学の内規20条1項は,総長就任後3年を経過する日までの実績に基づく中間評価を定めている。
同内規21条は,中間評価の結果とその過程の公表を定めており,大学別規程で評価を具体化した例である。

第6 大学の自治と選考資料の確認

文部科学省の2013年参考資料21頁の平成25年6月速報では,全体の回答755大学を対象とする調査で,国立大学の学長選考の95%が学内選挙と学長選考会議を組み合わせる方式とされている。
これは当時の運用調査であり,現在の実施率でも,投票順位が法的に最終決定を拘束することの証明でもない。法令,選考時点の大学規程及び実際の手続を確認する必要がある。

1 教育研究の特性への配慮

国立大学法人法3条は,国が同法の運用に当たり,教育研究の特性に常に配慮しなければならないと定めている。
本記事では,選考を法人経営の問題としてのみ理解せず,大学の教育研究を担う人を選ぶ制度として読むための手掛かりと位置付ける。

2 大学別の手続を確認する資料

(1) 選考時点の規程と公表資料

個別大学の手続を確認する際には,次の資料を分けて読むことが有用である。
①選考当時の法令と,大学の選考・監察会議規程,選考規程,細則,任期規程である。
②その選考の基準,推薦・公募等の実施告示,投票を実施する場合の資格・方法である。
③公表された結果,理由,過程及び確認できる会議記録である。
④コードの適合状況又は実施しない原則についての説明である。

現在の規程だけで過去の選考を評価すると,改正前の手続との違いを見落とすおそれがある。
選考時点の版と改正附則を確認する必要がある。

(2) 投票順位や公表文だけでは分からない事項

投票順位,結果公表の文言,会議の開催日だけでは,内部でどの基準をどう適用したかまで分かるとは限らない。
記録が不足する場合には,選考主体,基準,投票の扱い,公表内容のうち,確認できた事項と未確認の事項を分けて判断を留保する必要がある。

3 国立大学の学長選考についてのよくある疑問

(1) 学長を決めるのは誰か

学長選考・監察会議が選考し,法人が申し出て,文部科学大臣が任命する。各段階の権限を区別する必要がある。

(2) 意向投票1位が選ばれないと違法になるか

不選出だけで直ちに違法とはいえない。投票結果を考慮する規程,選考基準及び実際の過程を確認する。

(3) 学長候補者は当該大学の教授に限られるか

国立大学法人法12条6項自体は,当該大学の教授に限定していない。法定の能力要件に加え,大学ごとの基準,推薦・公募の条件を確認する。

(4) 学長の任期と再任は全国一律か

法15条は任期を2年以上6年以下の範囲とし,具体的な任期を法人規則で定める。再任の回数・審査や附則の特例も大学別に確認する。

(5) 選考会議の議事録は全部公開されるか

選考理由・過程の法定公表と議事録の開示請求を分ける。法人文書に当たる記録でも,不開示事由や部分開示を検討するため,全部開示が当然に保証されるものではない。

第7 関連記事

東京大学の具体的な手続,制度改正の経緯及び令和8年の選考結果は,次の記事で扱っている。
①東大総長選挙の仕組み―投票資格と総長選考・監察会議(AI作成)
②東大総長選考はどう変わったか―2020年の検証,2021年報告書と2026年の制度比較(AI作成)
③東大総長選挙2026の結果―藤垣裕子氏の選出理由と意向投票(AI作成)

公立大学の学問の自由と自治に関する一般論は,制度の違いに注意した上で,次の記事を参照されたい。
④公立大学における学問の自由と大学の自治―研究助成、政治的活動、成績評価及び外部圧力(AI作成)

京都大学の2026年の選考結果と説明責任は,京大総長選考2026-立川康人氏の選出理由,意向調査3位と説明責任を参照されたい。

教授会の審議と学長の決定の区別,学内規則及び意思決定記録の点検については,教授会の権限と大学ガバナンス―意見聴取,学長の決定と学内規則の点検(AI作成)を参照されたい。

第8 出典

1 法令

①国立大学法人法(平成15年法律第112号,令和7年6月1日施行版)3条,10条,11条の2,12条,13条の2,15条~17条,20条~21条,21条の8(e-Gov法令検索)。
②国立大学法人法施行規則(平成15年文部科学省令第57号,令和8年8月7日施行版)1条の5第1項(e-Gov法令検索)。

2 国立大学法人の統治原則

①文部科学省・内閣府・国立大学協会「国立大学法人ガバナンス・コード」(令和6年7月1日改訂)印刷3頁及び14頁~15頁,PDF7頁及び18頁~19頁。
法令そのものではなく,実施しない原則について理由を説明する方式のコードである。

3 文部科学省の制度説明

①文部科学省「学校教育法及び国立大学法人法等の改正に関する実務説明会 第一部」(平成26年9月2日,ウェブ本文の学長選考・意向投票・公表の説明)。
当時の説明であり,引用条番号は現行法と照合して用いた。

②文部科学省「関芳弘文部科学大臣記者会見録(令和8年10月6日)」(任命についての説明)。
③文部科学省高等教育局長「学長選考経緯の検証について(依頼)」(令和8年10月20日,8文科高第1135号。全文は東大新聞オンラインの記事に掲載)。

4 大学の内部規程

①東京大学総長選考・監察会議内規(令和7年12月1日改正)16条,20条,21条,PDF3頁~4頁及び改正附則。
②国立大学法人電気通信大学学長選考等規程(取得版の最終改正は令和6年12月16日)6条~8条,PDF2頁及び改正附則。

5 裁判例

①札幌地裁平成25年4月24日判決(平成23年(行ウ)第45号,判例秘書L06850262)。
②高知地裁平成22年12月10日判決(平成20年(行ウ)第9号,判例秘書L06550689)。
いずれも判例秘書で判決全文を確認した。裁判所ウェブサイトでは同一判決の掲載を確認できなかった。

③札幌地裁令和6年3月13日判決(令和2年(行ウ)第36号)。判決は裁判所ウェブサイトに掲載されている。