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東大総長選挙2026の結果―藤垣裕子氏の選出理由と意向投票(AI作成)

第1 東大総長選挙2026の結果と意向投票の得票数

東大総長選挙2026の結果を知りたい方に向けて,東京大学の公式資料から総長予定者の選考結果を整理する。
9月28日に藤垣裕子氏が次期総長予定者に選ばれた。第2回意向投票は染谷隆夫氏1107票,藤垣氏553票であったが,最多得票者を自動的に選出する制度ではない。
本記事でいう「東大総長選挙」は,学内の意向投票と総長選考・監察会議による選考を含む手続を指す。意向投票と会議内の最終表決は別である。
本記事では,公式資料で確認できる結果・選出理由と,候補者間の比較説明についての本記事の評価を分けて検討する。
任期の開始は2027年4月1日であり,2026年10月10日時点では次期総長予定者である。

投票できる人と選考の流れは意向投票の資格と回数,5人の運営方針は候補者の所見比較,過去の制度との違いは2020年と2026年の制度比較で確認できる。

1 意向投票の結果

(1) 第1回投票

第1回投票では,染谷隆夫氏が818票,藤垣裕子氏が400票,山本隆司氏が377票,大越慎一氏が363票,菅野暁氏が152票,白票が45票であり,総投票数は2155票であった。
第2次候補者が5人であったため,現行細則5項(2)に従い,得票上位3人を対象として第2回投票が行われた。
同細則は,候補者3人なら1回,4人以上なら2回と定めており,過半数獲得の有無によって第2回投票を行う仕組みではない。

得票数・有資格者数の出典は,東京大学の選考結果,選考理由及び選考過程2頁~3頁である。
以下の表は学内意向投票を整理したものであり,選考・監察会議内の最終表決の内訳ではない。

(2) 第2回投票

第2回投票では,染谷氏が1107票,藤垣氏が553票,山本氏が451票,白票が58票であり,総投票数は2169票であった。
有資格者2583人に対する投票率は約83・97%であり,白票を含む総投票数に占める染谷氏の得票率は約51・04%,藤垣氏の得票率は約25・50%であった。
両氏の票差は554票であり,染谷氏の得票は藤垣氏の約2・00倍であった。

候補者等第1回投票第2回投票
染谷隆夫氏818票1107票
藤垣裕子氏400票553票
山本隆司氏377票451票
大越慎一氏363票-
菅野暁氏152票-
白票45票58票
合計2155票2169票

2 総長選考・監察会議の結論

総長選考・監察会議は,意向投票と同じ令和8年9月28日,藤垣氏を次期総長予定者に選んだ。
任期は令和9年4月1日から令和15年3月31日までの6年間であり,就任すれば第32代総長となる。
東京大学が公表した選考過程では,総長予定者の決定に関する審議は非公開とされている。

3 2026年の選考はどの日程で進んだか

次の表は,選考結果,選考理由及び選考過程2頁の実施日程に基づく。
選考開始時点の予定表と,実際の実施日程を区別する。

実施日段階
4月7日総長選考開始の公示
6月19日・29日経営協議会・代議員会がそれぞれ推薦する者を選出
7月1日第1次総長候補者を決定
8月14日・17日第1次候補者の面接調査
8月19日第2次候補者5人を告示
9月28日学内意向投票と次期総長予定者の決定

候補者を絞る会議内の投票と,9月28日の学内意向投票は,実施主体も段階も異なる。
8月の絞り込み手順や正式表決の確認範囲は,制度比較記事の第5で整理している。

4 藤垣裕子氏の専門と経歴

東京大学の総長予定者の略歴によれば,藤垣氏の専門は科学技術社会論と科学計量学である。
1985年に東京大学教養学部を卒業し,1987年に同大学院総合文化研究科の修士課程,1990年に博士課程を修了した。2010年に同研究科教授となり,2021年には東京大学理事・副学長に就いた。略歴では,理事・副学長の在任は令和7年度までとされている。
これらは大学が公表した経歴である。候補者として提出した大学運営の方針は,藤垣氏の所見を含む候補者比較で扱う。

第2 東京大学が公表した選考理由

1 藤垣氏について評価した事項

東京大学は,藤垣氏について,科学技術を社会に伝えるコミュニケーション力,学術への信頼を回復する意思と能力,文理融合,学内外の対話,国際経験及びより開かれた大学への変革力を評価したと説明している。
また,壁を所与とせず,分断を乗り越えるための知見と能力を評価したとしている。
これらは,藤垣氏を適任と判断した積極的理由を示すものである。

以上は,東京大学が公式の選考理由1頁~2頁に記した評価の要約である。
候補者自身の提出所見と,会議が公表した選考理由は区別して読む必要がある。

確認する事項公表資料の説明読み取る際の限界
藤垣氏の資質学術への信頼,対話,文理融合,国際経験等を評価全候補者について同じ観点の評価を並べた資料ではない
意向投票の扱い他の資料と併せて総合的に考慮得票差をどの程度重く扱ったかまでは示していない
最終判断会議が総長予定者を選出委員別の評価や非公開審議の内容は確認できない

2 「求められる総長像」と幅広い支持

令和7年12月1日決定の「求められる総長像」は,総長に求める資質の一つとして,「組織構成員の幅広い支持を受け」て合意形成に配慮しつつリーダーシップを発揮する能力と実績を掲げている。
意向投票はこの資質を完全に測る試験ではないが,高い投票率の下で示された構成員の選好である以上,「幅広い支持」を評価するための軽い資料ともいえない。
今回確認した公式の「選考結果,選考理由及び選考過程」1頁~3頁には,1107票対553票という差をこの評価項目について具体的にどう扱ったかという比較説明は見当たらない。
選考理由の文書には意向投票を踏まえた旨の記載があるが,考慮したことの表明と,得票差の評価方法の説明は区別する必要がある。

第3 意向投票1位を選ばなくても直ちに違法とはいえない

1 学長選考・監察会議が選考主体である

(1) 国立大学法人法の仕組み

国立大学法人法12条2項は,学長選考・監察会議による選考を定め,同条6項は,人格が高潔で,学識が優れ,大学の教育研究活動を適切かつ効果的に運営できる能力を有する者のうちから,同会議が定める基準により選考することを求める。
同条7項は,選考結果その他の文部科学省令で定める事項の公表を求めている。
したがって,法令上の選考主体は学長選考・監察会議であり,その選考による法人の申出に基づき文部科学大臣が任命する。

(2) ガバナンス・コードの位置付け

令和6年改訂の国立大学法人ガバナンス・コードは,学長選考・監察会議が「意向投票によることなく」,自らの権限と責任において選考するものとしている。
同コードは,基準,選考結果,選考過程及び選考理由を公表し,人事審議であることを考慮しつつも,できる限り具体的な公表に努めるべきであるとも定めている。
もっとも,同コードは法的拘束力を有する法令ではなく,コンプライ・オア・エクスプレインを基礎とする統治原則である。

全国共通の選考・任命の関係は,国立大学の学長選考の総論で説明している。
大学別の選考規程の比較も参照すると,東大の投票回数,候補者段階及び議決方法を他大学にそのまま当てはめられないことが分かる。

2 意向投票は拘束力がないが無意味でもない

(1) 単純追認は制度の趣旨ではない

意向投票の最多得票者を自動的に選ぶのであれば,学長選考・監察会議が候補者の資質と能力を審査する制度上の責任は空洞化する。
文部科学省の実務説明及びガバナンス・コードも,意向投票結果の機械的な追認ではなく,会議体による主体的な選考を求めている。
したがって,染谷氏を選ばなかったという一点だけから,今回の選考を違法又は制度違反と断定することはできない。

(2) 現行内規も意向投票の総合考慮を定めている

東京大学総長選考・監察会議内規16条1項は,求められる総長像に照らし,候補者資料等,推薦書,調査,所信表明及び意向投票の結果を総合的に考慮して総長予定者を決めることを定める。
最多得票者の自動選出を求めない一方,意向投票の結果は明示された考慮要素である。
誰が何回投票するのか,最終表決との違いは,東京大学総長選考・監察会議の仕組みで順に説明している。

他方,東京大学の令和3年タスクフォース報告書は,意向投票を大学運営に対する構成員の参画機会であり,幅広い構成員の信任意思を集約して総長のリーダーシップを支えるプロセスとして整理している。
同報告書は,意向投票を行う場合には意味付けを明確にし,社会に対する説明責任を果たす必要があるとも述べている。
意向投票が結論を拘束しないことは,その結果をどのように考慮したのかを説明しなくてよいことを意味しない。

札幌地裁平成25年4月24日判決(判例秘書L06850262)及び高知地裁平成22年12月10日判決(判例秘書L06550689)は,当時の規程の下で,意向投票が法的に選考会議を拘束せず,投票結果を考慮する程度が会議の裁量に属することを示している。
ただし,両判決は現行の国立大学法人法12条7項の公表義務が整備される前のものであり,令和8年の東京大学による選考理由・過程の説明が十分かを直接判断するものではない。判決の位置付けは,国立大学の学長選考の総論で詳しく説明している。

第4 選考理由と候補者間の比較説明

1 適任である理由と他候補より選ぶ理由は異なる

(1) 絶対評価としての選考理由

藤垣氏の経験,能力及び将来構想を挙げれば,藤垣氏が総長予定者として適任であるとの絶対評価は説明できる。
公表文書はこの点について複数の具体的な長所を示しており,理由が全く示されていないわけではない。

(2) 相対評価として残る空白

2026年3月13日の議事録PDF14頁~15頁によれば,22項目の評価表は,項目ごとの点数を合算して機械的に選ぶ方式を定めたものではなく,委員ごとの重点を踏まえて協議するための参考資料として設計された。
したがって,説明の充実は固定配点の存在を前提にする必要はなく,会議体がどの評価軸を優先し,意向投票と他の資料をどう比較したかという判断の筋道を問うことが中心となる。
第2次候補者の絞り込みは8月13日に委員1人が選択する人数を3人から2人へ改訂したが,基本の選出人数は上位3人である。8月18日の賛成15・反対0は第2次候補者5人の承認であり,9月28日の最終表決の票数ではない。具体的な手順・運用と最終表決の確認範囲は,制度比較記事の第5で詳述する。

複数候補者から一人を選ぶ場面では,なぜその候補者が適任かだけでなく,なぜ他候補より優先されたかも結論の理解に関わる。
今回確認した公式の選考理由文書からは,評価項目ごとの候補者間比較,各項目の重み,意向投票の具体的な重み及び最終的な会議内表決の集計を確認できない。
東大新聞の会見報道には議論や会議内の意向確認投票についての説明があるが,学内意向投票と,意向確認及び規程上の最終表決を混同すべきではない。
そのため,公表された長所が554票の差と「幅広い支持」という評価項目を上回ると判断された過程を,学内外の読者が検証することは難しい。

9月29日会見の新聞書き起こしによれば,国谷議長は,協議の途中で単記無記名投票による意向確認を行い,絞り込みを経て藤垣候補に対する表決を行い,多数の賛成で選出したと説明している。
これは議長の説明として確認できることであり,正確な賛否の集計や全会一致を示すものではない。
新聞による書き起こしと,大学の正式議事録・原録音は区別する必要がある。

2 独立判断を強調するほど説明が必要になる

学長選考・監察会議が多数意思から独立して判断することには制度上の根拠がある。
しかし,独立判断と無説明は同義ではなく,独立判断を正当化するには,事前に公表した基準を一貫して適用したことを示す必要がある。
結論が高い投票率の下で示された明白な得票差と異なるときは,候補者の機微情報を開示しなくても,比較衡量の骨格を示す説明が必要であると考えられる。

2026年9月29日の文部科学大臣記者会見でも,大学が藤垣氏を選んだ理由を学内にしっかり説明すべきであり,大学の対応を注視する旨が述べられた。
この発言は説明の充実を求めるものであり,選考が違法であるとの認定や,任命を拒否するとの決定を示したものではない。

3 重みを示さなければ意向投票が儀礼化する

東京大学は意向投票を実施し,その全投票回の候補者別得票数と白票数を公表した。
それにもかかわらず,選考時に意向投票へ与えた重みを示さなければ,構成員には投票が実質的な判断材料であったのか,単なる参考情報であったのかが分からない。
投票結果の拘束力を否定する場合であっても,意向投票を続ける制度目的と考慮方法を具体化する必要がある。

第5 令和3年タスクフォース報告書から分かること

1 報告書が直接決めたことと紹介した意見を区別する

(1) 報告書自身の整理

令和3年のタスクフォース報告書は,意向投票の意味付けを明確にし,社会に対する説明責任を果たす必要があると整理した。
また,選考の各段階における会議と大学構成員の役割を整理し,意向投票の意味を明確にしておく必要があるとした。

(2) アンケートで示された意見

同報告書は,タスクフォース・アンケートにおいて,総長予定者が意向投票結果と異なる場合には十分丁寧に説明する責任があるとの意見があったことを紹介している。
これは報告書がその文言を法的義務として確定したものではなく,説明責任の具体化に向けて紹介した意見である。
報告書は,最終的には選考の各段階の意味付けと説明責任の内容を今後さらに具体的に検討することを求めた。

2 令和8年選考で残った問題

東京大学は令和8年選考で,候補者名,意向投票の全得票及び総長予定者の選考理由を公表した。
令和2年にも最終的な選考結果・理由・過程及び意向投票結果は公表されており,これらが今回初めて公開されたわけではない。
第1次候補者氏名の公表など,過去の取扱いと現行規程の違いは,2020年の検証,2021年報告書と2026年の制度比較で整理している。
他方,今回まさに問題となったのは,タスクフォース報告書が検討課題とした「考慮」がどのような重みを持つかという点である。
投票の実施と得票公表だけでは,この未解決部分に対する回答にならない。

第6 東京大学側に成り立つ三つの反論

1 選考会議の主体性を守る必要がある

意向投票の最多得票者を必ず選ぶ運用は,学長選考・監察会議の選考責任を形式化するおそれがある。
候補者の学識,倫理観,経営能力,国際性,危機対応及び将来構想は,得票数だけでは評価できない。
この反論は制度上正当であり,意向投票1位の不選出それ自体を批判の中心にすべきでない理由となる。

2 得票数は能力の完全な代理ではない

候補者の知名度,所属部局の規模,情報発信の機会及び有権者との接点は得票へ影響し得る。
意向投票の有資格者も大学の全構成員ではなく,学生を含まない。
したがって,得票結果だけを「大学全体の民意」と表現することは正確でない。

3 人事審議には守秘が必要である

候補者の弱点,面接内容及び委員個人の発言を詳細に公表すれば,候補者の名誉,率直な審議及び将来の候補者確保を損なう可能性がある。
ガバナンス・コードも,人事に関する審議であることを考慮しつつ具体的な公表に努めるという均衡を採っている。
説明責任を理由として審議内容の全面公開を求めることは相当でない。

第7 守秘と両立する説明の方法

1 会議体として公表できる事項

本記事では,東京大学が,①評価項目のおおよその優先順位,②候補者名や評点を伏せた項目別の比較構造,③意向投票をどのような資料として考慮したか,④最終選考における投票回数と集約された票数を公表することを提案する。
これらは,委員個人の発言又は候補者の機微情報を明らかにせず,結論に至った論理の骨格を伝えるための運用上の提案であり,各事項がそのまま個別の法的公表義務として定められているという意味ではない。
運営了解事項は人事に関する議事録・配付資料や音声記録の非公開を定めているため,実際の公表範囲は守秘の目的と規程を踏まえて検討する必要がある。

会議体の説明を求めることと,議事録・評価資料を個別に開示請求することは分けて検討する。
国立大学の学長選考と情報公開では,請求対象の特定,不開示事由,部分開示及び決定後の対応を整理している。
本記事で公表資料に記載を確認できなかった事項についても,内部記録の有無や開示の可否を推測で補うことはできない。

2 自主公表では慎重な取扱いを要する情報

候補者の機微情報や,委員個人の発言を自主的に全面公表するかは,人事審議への影響と個人の権利利益に配慮して検討する必要がある。
その配慮と,会議体として選考基準,意向投票及び最終結論を結ぶ理由を説明することは両立し得る。

自主公表を控える判断と,法人文書の開示請求に対する法定不開示の判断は別である。
内部の非公開ルールだけで結論を決めず,対象情報について不開示事由と部分開示の可否を個別に検討する。
請求対象の特定と記録の扱いは,国立大学の学長選考と情報公開を参照されたい。

第8 根拠の弱い批判を混ぜるべきでない

1 直ちに違法であるとの断定

現行制度は意向投票1位の選出を義務付けていないため,結果が異なることだけから違法と断定できない。
手続上の具体的な違反を示す資料がない限り,法的批判と統治上の説明不足を区別する必要がある。

2 性別が決定要因であったとの推測

藤垣氏が就任すれば東京大学初の女性総長となることには組織史上の意味がある。
しかし,公開資料上,性別が選考結果を決めたとの証拠は確認できないため,「女性枠」又は性別による優遇と断定することはできない。
初の女性総長という意義と,選考理由の十分性は別々に検討すべき問題である。

上記の会見書き起こしでは,国谷議長は藤垣氏が女性であることは選考過程で議論の対象にならなかったと説明している。
この説明は,全委員の内心や,性別の影響が全くなかったことを独立に証明する資料ではない。
公開資料の範囲を超えて優遇又は影響の不存在を断定しないことが必要である。

3 候補者個人の能力を否定する批判

公表された資料は,藤垣氏について複数の具体的な能力と経験を評価している。
今回問うべきなのは藤垣氏に総長としての能力がないということではなく,なぜ他候補より優先したのかという比較説明が足りるかである。
候補者への人格的評価へ議論を広げれば,制度上の核心である説明責任がかえって見えにくくなる。

4 財団不正と不選出理由を結び付ける推測

2026年10月7日のPRESIDENT Onlineの解説記事は,総合研究奨励会の不正と総長選考の関係について,関係者の話及び著者の見方を紹介している。
しかし,解説記事に不選出の理由についての推測が書かれていることと,選考会議がその理由によって結論を決めたと確認できることは異なる。

東京大学の9月11日公表資料1頁及び3頁~4頁は,大学・研究室・財団の活動の境界の不明確さ,大学の役職に伴う理事等への就任及び一人の業務執行理事・事務局長への権限集中という構造上の問題を示している。
また,公式の選考理由1頁~2頁は,倫理観,社会的信頼の回復及びリスクガバナンスを重視している。
ただし,この二つの公表資料から,財団の問題が特定候補者を選ばなかった決定的な理由だったとまでは確認できない。
ここで確認できないというのは公表資料の記載の限界であり,実際の審議で一切考慮されなかったという意味ではない。

元役職員による具体的な行為,他の理事・監事の監督責任,総長候補者としての適格性及び実際の不選出理由は,それぞれ別の問題である。
個人の責任を論じる場合には,在任期間,権限,認識できた情報,対応経過及び本人の説明・反証を確認する必要がある。
大学による組織構造の評価を,裁判所が個々の役員の責任又は免責を判断したものとして扱うこともできない。

財団の機関権限,利益相反及び不正支出を防ぐ資金管理は,一般財団法人で不正が発覚したときの対応―理事・監事の監督責任,利益相反取引及び資金管理で説明している。

第9 東大総長選考についてのよくある疑問

1 意向投票1位が選ばれないのは違法か

最多得票者と異なる者を選んだという結果だけで,直ちに違法とはいえない。
内規16条は複数資料の総合考慮を定めるためであり,手続違反の有無と公表理由の十分性は,別途具体的な資料で検討する。

2 1107票と553票は何の票か

学内の有資格者が行った第2回意向投票の得票数であり,総長選考・監察会議委員による最終表決の票数ではない。
学生を含む大学の全構成員による投票でもなく,投票資格は細則4項に定められている。

3 第2回投票は過半数がなかったから行われたのか

現行制度では,第2次候補者が4人以上の場合に2回行う。
2026年の候補者は5人であり,過半数獲得まで投票を繰り返す旧方式の説明をそのまま当てはめることはできない。

4 藤垣氏はすでに総長に就任したのか

2026年10月7日時点の公表事項は次期総長予定者への選出であり,発表された任期の開始は2027年4月1日である。
現在の総長と次期総長予定者を区別して読む必要がある。

第10 結論

令和8年の東京大学総長選考では,意向投票で1107票を得た染谷氏ではなく,553票を得た藤垣氏が次期総長予定者に選ばれた。
学長選考・監察会議が意向投票を単純追認せず,自らの権限と責任で判断することは現行制度に沿うため,この結論だけから違法又は不当と断定することはできない。

しかし,東京大学自身が「組織構成員の幅広い支持」を総長像に掲げ,意向投票を実施した以上,554票の差をどのように評価したかは選考理由の中核となる。
藤垣氏の長所を示す絶対評価は公表されたが,今回確認した公式の選考理由文書では,他候補との比較,評価項目の重み及び意向投票を具体的に考慮した方法までは確認できない。
今回の選考に対する最も合理的な批判は,投票結果と異なる結論そのものではなく,独立判断を検証できるだけの比較可能な説明が不足しているという点にある。

候補者5人の教育・研究・経営方針は,東大総長選考2026の候補者比較で,同じ質問への提出所見を基に整理している。
所見の比較から,非公開の面接・推薦書・委員評価を再現することはできない。

①東大総長選挙の仕組み―投票資格と総長選考・監察会議
②東大総長選考はどう変わったか―2020年の検証,2021年報告書と2026年の制度比較
③公立大学における学問の自由と大学の自治
④国立大学の学長選考とは―選考・任命,意向投票と公表義務

③は大学の自治に関する一般的な検討の参考である。
公立大学法人の地方独立行政法人法と,東京大学の国立大学法人法は別の法制であり,選考機関・任命手続の規定をそのまま移して適用しない。

京都大学の2026年の選考結果と説明責任は,京大総長選考2026-立川康人氏の選出理由,意向調査3位と説明責任を参照されたい。

第12 出典・参考資料

結果を確かめる資料,制度を確かめる資料及び候補者の提案を読む資料は,目的が異なる。
東京大学の令和8年度選考資料一覧を入口として,次の順で読むと確認しやすい。

知りたいこと最初に読む資料確認できる範囲
誰が選ばれ,何票だったか選考結果・理由・過程1~3頁予定者,任期,意向投票と大学の公表理由
なぜ投票1位が自動選出されないか内規16条,細則4項・5項資料の総合考慮,投票資格・回数
5人は何を提案していたか各候補者の提出所見への案内書面で示した方針。会議の評価とは区別する
会議で何が審議されたか令和8年度の会議活動状況回次・議題と掲載された議事要旨・議事録・資料
制度改正と評価資料の使い方改正経緯・2026年の比較と各項の原資料決定済みの規程,検討案及び実際の運用を区別する

1 法令・制度基準

①e-Gov法令検索「国立大学法人法」12条1項・2項・6項・7項(令和8年10月3日,東京大学掲載の法令抜粋でも確認)
②文部科学省・内閣府・国立大学協会「国立大学法人ガバナンス・コード」(令和6年7月1日改訂)資料15頁(PDF18頁)
③文部科学省「学校教育法及び国立大学法人法等の改正に関する実務説明会 第一部」

2 東京大学の公表資料

①東京大学「総長選考(令和8年度実施)」
②東京大学総長選考・監察会議「次期総長予定者・選考結果,選考理由及び選考過程」(令和8年9月28日)PDF1頁~5頁
③東京大学総長選考・監察会議「求められる総長像」(令和7年12月1日)PDF1頁
④東京大学総長選考会議の組織検討タスクフォース「総長選考会議の組織検討タスクフォース報告書」(令和3年3月)資料15頁~19頁(PDF18頁~22頁)
⑤東京大学「次期総長予定者に藤垣裕子氏を選出」(令和8年9月28日)

⑥総長選考・監察会議内規(令和7年12月1日改正)2条・3条・16条
⑦総長選考及び総長解任の申出に関する細則(令和8年3月13日改正)4項・5項
⑧運営に関する了解事項1項・2項
⑨令和2年の選考結果・理由・過程1頁~3頁

⑩2026年の追加確認:3月13日議事録PDF14頁~15頁,8月13日改訂の絞り込み手順PDF2頁,8月18日議事要旨。

3 会議の資料一覧を読む際の注意

令和8年度総長選考・監察会議活動状況は,会議ごとに議題と公表された資料へのリンクをまとめたページである。
2026年10月8日の確認時点では,第12回(9月28日)の欄に配付資料へのリンクがある一方,議事要旨・議事録へのリンクは掲載されていない。
その掲載状態だけから,内部記録が存在しない,又は廃棄されたと判断することはできない。

配付資料には非公開と表示された項目もある。
一覧ページ,公開PDF及び非公開の審議内容は確認できる範囲が異なるため,資料名だけで最終表決の票数や委員別評価を推測しない。

4 報道資料

①東大新聞オンライン「意向投票で染谷隆夫候補が過半数獲得」(令和8年9月28日)
②東大新聞オンライン「藤垣裕子教授の次期総長選出で会見」(令和8年9月29日)

東京大学新聞社の会見文字起こし(令和8年9月29日会見,10月1日掲載)。議長の発言内容を確認するための資料であり,大学の正式議事録又は原録音そのものではない。

裁判例として,札幌地裁平成25年4月24日判決(平成23年(行ウ)第45号,判例秘書L06850262)及び高知地裁平成22年12月10日判決(平成20年(行ウ)第9号,判例秘書L06550689)の判決全文を判例秘書で確認した。裁判所ウェブサイトでは同一判決の掲載を確認できなかった。