第1 選考理由の公表と文書の開示請求を分ける
国立大学の学長選考を検討する際は,まず大学が公表した選考基準,結果,理由及び過程を読む。
それでも判断材料が足りない場合には,大学が保有する議事録や評価資料等について,法人文書の開示請求を検討する。
結果公表の文章と,内部に保有されている文書の範囲は同じとは限らない。
国立大学法人法12条7項は,法人に選考結果等の公表を求める。
同法施行規則1条の5第1項は,その者を選考した理由と選考の過程を公表事項とする。
この制度と,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律による法人文書の開示請求は,根拠と手続が異なる。
| 確認方法 | 対象・意味 | 限界 |
|---|---|---|
| 選考結果等の公表 | 法人法上の結果・理由・過程,選考基準の公表 | 逐語議事録や全評価資料の全面公開と同じではない |
| 法人文書の開示請求 | 大学が組織的に用い,保有する文書・電磁的記録等を特定して請求 | 不開示事由,部分開示及び保有の有無を判断する |
| 制度や理由の問い合わせ | 公表内容の確認や補足説明を求める | 開示請求と同じ決定・不服申立ての手続になるとは限らない |
本記事は令和8年10月4日に確認した現行法令と東京大学の公式手続案内等をもとに,資料を確認する手順を説明する。
特定大学への実際の請求結果や,個別の選考の有効性を判定するものではない。
選考・任命の権限と意向投票の位置付けは,国立大学の学長選考の総論を参照されたい。
第2 公表資料を先に集める
1 基準,規程,経過及び理由を照合する
公表資料は,①選考当時の法令と大学規程,②その回の選考基準,③推薦・公募や調査の告示,④選考結果と理由・過程,⑤公表された会議記録に分けて保存するとよい。
公表日,資料名,改正日,適用時点及びURLを記録し,後に差し替えられた版と混同しないようにする。
これは本記事が提案する記録確認の方法であり,全国共通の提出様式や法定義務ではない。
例えば京都大学は,総長選考・監察会議の議事録の掲載ページを設けている。
「議事録」という題名だけから逐語記録,候補者ごとの採点や全発言が掲載されていると推測せず,実際の本文と非公表部分を確認する必要がある。
公表ページから資料を取得できない場合も,資料不存在を意味するとは限らない。
2 候補者の長所と比較判断を区別する
公表理由に候補者の長所が記されていても,他候補者との比較や,意向調査の結果をどう扱ったかまで分かるとは限らない。
一方,比較の説明が少ないことだけから,規程違反や任命の無効を直ちに導くこともできない。
確認できた説明,追加で知りたい判断過程及び裏付けとなる保有文書を分けることが重要である。
国立大学法人ガバナンス・コード3-3-1②は,人事に関する審議であることに留意しつつ,選考過程・理由をできる限り具体的に公表することを求める。
これは法的拘束力のないコードの要請であり,情報公開法の不開示事由を置き換えるものではない。
第3 開示を求める文書を具体的に特定する
1 対象は大学が保有する法人文書である
独立行政法人等情報公開法2条2項は,役職員が職務上作成・取得し,組織的に用いるものとして法人が保有する文書,図画及び電磁的記録等を対象とする。
同法の別表第1には国立大学法人が含まれ,3条は何人も開示請求できると定める。
請求者をその大学の学生や教職員だけに限定する制度ではない。
開示請求は,既に保有されている記録を対象とする。
存在しない比較表を新たに作成させることや,記録にない選考理由を新たに文章で回答させることとは区別する必要がある。
請求書には,法人文書の名称その他,特定するに足りる事項を記載する必要がある(4条1項)。
2 文書名が分からない場合の絞り込み
| 確認したい事項 | 文書を特定する手掛かり |
|---|---|
| 適用された選考基準 | 対象の選考年度,決定・変更時期,基準を審議した会議 |
| 会議の開催と決定 | 開催期間,会議名,議事録・議事要旨・配付資料の別 |
| 意向調査の扱い | 調査の実施期間,集計表,結果の報告資料,その審議記録 |
| 候補者の評価 | 選考の段階,提出資料,面接資料,評価に用いた記録の種類 |
| 最終決定の過程 | 総長・学長予定者を決定した会議,決定文書,任命申出関係文書 |
| 会議の発言を確認する記録 | 会議名・日時,録音・文字起こし等の記録の種類,保有部署 |
| 保存・廃棄の経過 | 対象記録の管理簿,保存期間の設定や変更,移管・廃棄の経過が分かる保有記録 |
上の表は請求対象を検討するための一般的な例であり,すべての大学がこれらを作成・保有しているという意味ではない。
「選考の全資料」という広い表現だけでは対象の確認や処理に時間を要することがあるため,会議名,期間,選考の段階及び文書の種類を組み合わせて特定するのが実務上有用である。
東京大学の公式案内は,法人文書ファイル管理簿の検索,窓口,請求方法及び審査基準を案内している。
文書名が不明な場合は,管理簿と情報公開窓口の案内を確認し,特定に必要な情報の提供を求めることが考えられる。
法律4条2項も,形式上の不備の補正を求める際に,補正の参考となる情報の提供に努めることを定めている。
東京大学の運営了解事項は議事の音声記録を作成し,その音声記録を公開しない取扱いを定める。
しかし,大学内部の自主公表の取扱いだけで,法人文書の開示請求に対する結論が決まるものではない。
録音・文字起こしが法人文書に当たるか,保有されているか,不開示情報を含むか,部分開示できるかを,記録ごとに区別して検討する。
保存・廃棄の経過についても,既に保有する記録の開示と,新しい説明文書の作成を求めることを分ける。
第4 不開示,部分開示,不存在を区別する
1 人事資料だから一律に不開示とはいえない
法律5条は,対象文書に不開示情報が記録されている場合を除き,開示を求める。
学長選考の文書では,個人情報(1号),審議・検討・協議に関する情報(3号),人事管理等の事務の適正な遂行への支障(4号)などが問題となり得る。
ただし,文書の題名が「人事」「選考」「議事録」であるだけで,すべての情報が同じ不開示事由に該当するとは限らない。
個人情報には,法令又は慣行により公にされている情報等の例外がある。
審議情報についても,率直な意見交換や意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ等,条文の要件を対象情報に即して検討する必要がある。
選考が終われば必ず全開示になるとも,終了後も当然に全部不開示になるともいえない。
2 部分開示を検討する
法律6条1項は,不開示部分を容易に区分して除くことができる場合,残りを開示することを定める。ただし,残りに有意の情報がない場合の例外がある。
同条2項は,個人を識別する記述等を除いた部分についても,個人の権利利益を害するおそれがないと認められる場合の取扱いを定める。
氏名を消せば常に開示できるという単純な判断ではなく,他の情報との照合や,残りの情報の性質も確認する。
請求段階でも,個人の連絡先等と,日時・手続・基準・決定等を区別して検討してもらう趣旨を示すことは考えられる。
これは請求の検討方法であり,特定の評価表や採点結果が必ず部分開示されると保証するものではない。
3 保有していない場合と存否を答えない場合
法律9条2項は,法人文書を保有していない場合を含む不開示決定と書面通知を定める。
文書不存在の説明を受けた場合は,請求対象の解釈,作成・取得の有無,検索の対象及び保存・廃棄の説明を区別して確認することが有用である。
非公開と記されていることと,文書が存在しないことは同じではない。
また,法律8条の存否応答拒否は,文書の有無を答えるだけで不開示情報を明らかにすることになる場合の制度である。
この決定から,文書が存在する又は存在しないと断定することはできない。
不存在,不開示及び存否応答拒否を一括して「秘密だから見せない」と理解しないことが必要である。
第5 請求から決定後までの手続
1 提出先,費用及び期限
請求先は,対象文書を保有する国立大学法人である。
文部科学大臣が学長を任命するからといって,大学内のすべての審議資料の請求先が文部科学省になるわけではない。
省が保有する別の文書を求める場合は,行政機関についての制度と対象文書を別に確認する。
法律10条1項は,原則として請求から30日以内の開示決定等を定め,補正に要した日数を除く。
同条2項には正当な理由による30日以内の延長があり,11条には著しく大量な文書の場合の特例がある。
「30日で必ず全資料の写しが届く」という制度ではない。
手数料は法律17条に基づく法人の定めを確認する。
東京大学の請求方法では,開示請求1件につき300円とされ,窓口と郵送の方法が案内されている。
複数文書の件数の扱い,写し等の実施手数料及び納付方法は,請求時の公式案内を確認する必要がある。
2 決定通知を受けたら原文を保存する
決定通知では,対象文書,開示範囲,不開示の根拠と説明,実施方法・費用及び不服申立ての教示を確認する。
請求書の控え,補正のやり取り,延長通知,決定通知とその受領日を保存する。
法律15条4項は,開示実施方法等の申出について,原則として決定通知から30日以内という期間を定めている。
法律18条は,開示決定等又は請求に係る不作為について不服がある者の,法人に対する審査請求を定める。
19条は,所定の例外を除く情報公開・個人情報保護審査会への諮問を定める。
実際に争う場合は,通知の教示を確認し,決定・通知・受領の時点と適用法令に基づき,審査請求又は訴訟の要件・期間を個別に検討する必要がある。
情報公開の手続を進めることは,学長選考の効力を直接争う手続と同じではない。
選考や任命の適法性を検討する場合には,争う行為,請求内容,訴訟上の利益及び必要な記録を別に整理する。
第6 記録不足の段階で結論を急がない
公表された説明と開示資料を合わせ,どの基準を誰がどの手続で適用したかを確認する。
意向投票1位が選ばれなかったこと,公表された比較の説明が短いこと,議事録が一部黒塗りであることは,それぞれ別の検討事項である。
これらの事実を一つにまとめて,選考の無効や候補者の能力不足を推測すべきではない。
具体的な公表資料の読み方は,東大総長選考2026及び京大総長選考2026を参照されたい。
調査の実施条件や再任の手続の違いは,国立大学の学長選考の大学別比較で説明している。
個別の決定の適否は,実際の決定通知と対象記録に即して検討する必要がある。
本記事は,特定の答申・裁判例を根拠として,個々の評価資料や録音の開示・不開示の結論を判定するものではない。
第7 出典と確認範囲
①国立大学法人法12条7項,国立大学法人法施行規則1条の5第1項。令和8年10月4日にe-Gov法令APIで現行条文を確認。
②独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律2条~6条,8条~11条,15条,17条~19条,別表第1。同日の取得時点の現行条文。
③国立大学法人ガバナンス・コード(令和6年7月1日改訂)印刷3頁,14頁~15頁。
④東京大学法人文書の情報公開案内,制度の概要,開示までの流れ,請求方法。同日確認。
⑤東京大学情報公開規則及び開示決定等に係る審査基準。定義,請求,決定,部分開示及び存否応答拒否に関する該当箇所を確認。
⑥京都大学総長選考・監察会議議事録の掲載ページ。掲載先の存在を確認したもので,各年度の全記録の内容確認を意味しない。
⑦東京大学総長選考・監察会議の運営に関する了解事項1項・2項。議事の音声記録と,自主公表に関する取扱い。令和8年10月5日確認。