第1 東京大学総長選考・監察会議は誰が総長を決めるのか
東大総長選挙では,誰が投票でき,誰が総長を決めるのか。ここでいう「東大総長選挙」は,学内の意向投票と総長選考・監察会議による選考を含む手続を指す。
東京大学総長選考・監察会議は,総長予定者を選考するとともに,選考後も総長の業務執行状況の確認,中間評価及び解任の申出等を担う会議である。
学内の意向投票で最多得票となった者が自動的に総長になるのではなく,同会議が,あらかじめ示した総長像に照らし,候補者資料,推薦書,面接を含む調査,所信表明及び意向投票の結果を総合して総長予定者を選ぶ。
その選考による国立大学法人の申出に基づき,文部科学大臣が総長を任命する。
まず第4の投票資格・回数,学生の参加については学生の意見提出と投票資格の違い,意向投票1位と選出結果の関係は第5の最終表決との違いを参照されたい。
本記事は2026年10月9日現在,東京大学が令和8年度選考の関係資料として公表した規則・内規・細則に基づく制度解説である。
2026年の藤垣裕子氏の選出理由と意向投票1107票対553票の評価は,東大総長選考2026の結果と選出理由で検討している。
ここでは,委員構成,選考,意向投票,最終表決,選考理由の公表及び選考後の監察を順に説明する。
| 疑問 | 制度上の答え |
|---|---|
| 誰が選ぶのか | 総長選考・監察会議が予定者を選び,法人の申出に基づき文部科学大臣が任命する |
| 誰が意向投票をするのか | 細則4項の資格を満たす教員及び所定の管理・監督職の教職員。全教職員又は全学生による投票ではない |
| 何回投票するのか | 第2次候補者3人なら1回,4人以上なら上位3人を対象とする第2回までの2回 |
| 選考後に何を監察するのか | 総長の業務執行状況を確認し,中間評価を行う。所定の場合には職務執行状況の報告を求め,解任を申し出る |
| 知りたいこと | 読む記事・資料案内 |
|---|---|
| 誰が決め,誰が何回投票するか | 本記事の第2~第5 |
| 2026年に誰が選ばれ,なぜ選ばれたか | 選考結果・得票数と藤垣裕子氏の選出理由 |
| 候補者5人は何を提案していたか | 教育・研究・大学運営の方針を比較する |
| 2020年から制度がどう変わったか | 検証報告書・改正経緯・2026年との比較 |
| 根拠となる原資料を確かめたい | 公式資料を目的別に探す案内 |
候補者の所見の比較と,選考・監察会議が公表した選出理由は別の資料に基づく。
所見だけから,非公開の面接・推薦書・委員評価を再現することはできない。
第2 総長選考・監察会議の構成と監察の役割
1 経営協議会と教育研究評議会から各同数を選ぶ
国立大学法人法12条は,経営協議会と教育研究評議会から選出される各同数の委員による学長選考・監察会議の選考を定めている。
これを受けた東京大学総長選考・監察会議規則2条では,経営協議会の学外構成員から選出された者と,教育研究評議会の構成員のうち法人役員を除いて選出された者で構成する。
委員総数は原則16人であり,この場合は各8人となるが,両会議が一致した議決で別段の人数を定める余地がある。
構成員が選考会議全体を直接選挙で選ぶ制度ではなく,経営と教育研究のそれぞれの立場から選出母体を設けた制度である。
「学外委員だけで総長を決める」「教授会が最終決定する」という説明は,いずれも正確ではない。
2 選考後も総長を監察する
東京大学総長選考・監察会議規則5条は,総長の選考だけでなく,解任の申出,業務執行状況の確認及び中間評価,総長の任期に関する事項の審議等を会議の任務としている。
そのため,同会議は選考時だけ活動する選挙管理機関ではなく,自らが選考した総長の職務遂行を任期中も確認する機関である。
国立大学法人法17条4項は,監事から所定の報告があった場合や解任事由の疑いがある場合等に,学長選考・監察会議が学長に職務執行状況の報告を求めることができると定める。
同条5項は,同条2項・3項による学長の解任を同会議の申出に基づいて文部科学大臣が行う仕組みとしている。
欠格事由に基づく同条1項の解任とは区別する必要がある。
監事は,法11条の2に基づき役員の不正や法令違反等を監査・報告する立場であり,総長選考・監察会議そのものではない。
監事による監査・報告と,会議による選考,中間評価,報告要求及び解任申出は,相互に関係するものの,主体と権限が異なる。
第3 候補者推薦から意向投票までの流れ
大まかな流れは,代議員会・経営協議会の推薦,第1次候補者の決定,資料提出と面接を含む調査,第2次候補者の決定・公表,動画による所信表明,学内意向投票,選考・監察会議による総長予定者の選出,法人の申出に基づく文部科学大臣の任命である。
推薦,学内の投票及び会議内の表決はそれぞれ別の段階であり,票数や回数を混同しないことが必要である。
| 段階 | 主な担当 | この段階で行うこと |
|---|---|---|
| 推薦 | 代議員会・経営協議会 | 第1次候補者として推薦する者を選ぶ |
| 第1次候補者の決定 | 総長選考・監察会議 | 推薦を審議して候補者を決める |
| 調査・第2次候補者の決定 | 総長選考・監察会議 | 資料・推薦書と面接を含む調査に基づき3~5人を決める |
| 所信表明・意向投票 | 候補者・学内有資格者 | 動画の所信表明を経て,資格者が候補者へ投票する |
| 総長予定者の選出 | 総長選考・監察会議 | 総長像に照らし複数資料を総合して決める |
| 任命 | 文部科学大臣 | 会議の選考による法人の申出に基づき任命する |
1 第1次候補者の推薦と決定
内規9条・10条により,選考・監察会議は代議員会を設け,経営協議会にも推薦する者の選出を求める。
代議員会が推薦する者は原則10人を限度とし,経営協議会が推薦する者は2人程度であって,両者の重複も認められる。
推薦がそのまま第2次候補者又は総長予定者の決定になるわけではなく,選考・監察会議が審議して第1次候補者を決定し,その氏名を公表する。
代議員の選出に参加する教職員の範囲と,後の意向投票の資格者の範囲も同じではない。
細則1項には,意向投票資格を持つ所定の教員から選出する代議員のほか,それ以外の常勤教職員から選出する代議員の枠も定められている。
したがって,「意向投票ができない教職員は,推薦過程にも全く関与できない」と一括りにすべきではない。
2 第2次候補者は3人以上5人以内
内規12条では,第1次候補者に候補者資料等の提出と推薦人の指定を求め,推薦人に推薦書の提出を依頼する。
選考・監察会議は求められる総長像に照らし,これらを踏まえて面接を含む調査を行い,第2次候補者を3人以上5人以内で決定する。
第2次候補者の氏名と候補者資料等を公開し,意向投票に先立って,各候補者に動画による所信表明の機会を設ける。
2026年には第2次候補者が5人となったが,「毎回必ず5人」とするルールではない。
この候補者数の違いが,次に述べる意向投票の回数に関係する。
3 候補者となる委員と候補者接触の取扱い
現行細則3項は,推薦する者の通知に自己の氏名が含まれていた選考・監察会議委員について,第1次候補者を決定する審議に加われないと定める。
委員が第1次候補者として決定された場合は,委員を辞職する。
推薦の通知を受けた段階の審議制限と,正式な第1次候補者となった場合の辞職を区別する。
令和8年6月19日の接触申し合わせは,第1次候補者決定時から次期総長予定者決定までの間,委員としての職務遂行に疑義を生じさせる行為等を慎むよう定める。
教育・研究等の接触を一律に妨げるものではないが,その態様には留意し,判断に迷う場合は議長に確認を求める取扱いである。
これらは制度上の規律の説明であり,今回の選考で具体的な違反があったと認定するものではない。
第4 意向投票は誰が何回投票するのか
1 投票できるのは誰か―教職員の資格と学生の位置付け
細則4項が定める教員側の基本的な資格者は,所定の常勤の教授・准教授と,教授会構成員である常勤の講師である。
職員側も,管理職手当の支給を受ける所定の管理・監督職であり,全職員ではない。
職員の対象職には部長・次長・課長等のほか,細則が個別に列挙する職があるため,実際の資格は職名と根拠規程を照合して判断する必要がある。
基準日は,選考開始の公示の日が属する月の初日である。
その時点で休職中又は出向中の者は含まれず,その後投票日までに資格要件を満たさなくなった場合は資格を失う。
兼務・任用形態等についての補足規定もあるため,教授という呼称だけで一律に資格があるとは判断できない。
学生であることだけでは意向投票の資格は与えられない。
ただし,これは総長選考について学生が意見を述べる機会まで否定する意味ではなく,意向投票という特定の手続の資格を説明するものである。
投票結果を読むときも,大学の全構成員の投票結果と,制度上の有資格者による結果を区別する必要がある。
2 候補者3人なら1回,4人以上なら2回
細則5項によれば,指定されたシステムで,一人の候補者を選ぶ無記名の意向投票を行う。
第2次候補者が3人の場合は1回,4人以上の場合は2回である。
2回目の対象は1回目の得票上位3人であり,3位に同数の者がある場合にはその者も加える。
| 第2次候補者数 | 通常の意向投票回数 | 2回目の対象 |
|---|---|---|
| 3人 | 1回 | 2回目は行わない |
| 4人又は5人 | 2回 | 1回目の上位3人。3位同数の者も加える |
この通常の手続は,過半数の得票者が出るまで繰り返す方式ではない。
4人以上の場合は1回目の過半数獲得の有無を条件とせず2回実施するため,「誰も過半数を得なかったから2回目になった」という説明は現在の細則と合わない。
例外として,内規16条2項による予定者決定の取消し後の再決定については,細則6項に必要に応じて意向投票を再度行う規定がある。
3 意向投票の得票数は公表する
細則5項は,各投票回の候補者別得票数を発表するとともに,終了後速やかに全投票回の結果を公表することを定める。
公表には候補者別得票数だけでなく白票数も含まれる。
投票率,白票を含む総投票数に対する得票率,白票を除いた候補者票に対する得票率は分母が違うため,比較する際には計算の基礎を示す必要がある。
4 学生の意見提出と意向投票の資格を区別する
学生が意向投票の資格者に含まれないことと,学生が選考について意見を提出することは,手続が異なる。
教養学部学生自治会の活動記録によれば,2026年には大学本部が所信表明動画で扱う共通質問の案を4月7日から30日まで募集し,自治会も会員への周知を行った。
これは当時の質問案募集の経過であり,現在も受付中という案内ではない。
同自治会は,7月6日に第1次候補者への公開質問状を送付したと記録している。
一方,自治会が検討していた第1次候補者への自主投票は,判断材料が不足するとして7月16日に中止したとされる。
この自主的な企画を,大学の細則に基づく意向投票又は実施済みの学生投票と混同しないことが必要である。
ここで紹介した活動は自治会自身の公表記録に基づく。
学生全体の賛否を示す資料でも,提出された意見が最終選考の結論にどの程度影響したかを示す資料でもない。
第5 意向投票と会議内の最終表決はどう違うか
1 最多得票者を自動的に選ぶ規定はない
内規16条1項は,候補者資料等,推薦書,調査,所信表明及び意向投票の結果を,総長像に照らして総合的に考慮することを定める。
意向投票の結果は考慮要素に含まれるが,得票順だけで決める規定ではなく,得票数に何点又は何%を割り当てるという固定の配点も同項には書かれていない。
そのため,最多得票者と異なる候補者の選出だけを理由に,直ちに内規違反とはいえない。
逆に,会議が最終決定権を持つことを根拠に,意向投票を全く考慮しなくてよいとも説明できない。
制度の理解としては,「結果に拘束されないこと」と「結果を総合判断の材料にすること」の両方を押さえる必要がある。
個別の選考の適否は,実際の手続,考慮要素,事前の基準及び公表された理由を調べて判断する。
2 会議内では議長を除く出席委員が無記名で表決する
内規3条は,第1次候補者,第2次候補者及び総長予定者の決定を表決事項とし,議長を除く出席委員の無記名投票を定める。
内規2条によれば,会議の成立には委員の過半数の出席が必要であり,通常の議事は議長を除く出席委員の過半数で決する。
可否同数の場合は議長が決するが,これは議長が通常の無記名投票に一票を加えることとは異なる。
この会議内の表決と,前段階の学内意向投票は,投票する人,目的及び決定の効力が異なる。
会見で「投票を繰り返した」と説明されたとしても,それが学内意向投票なのか,会議内の意向確認なのか,規程上の最終表決なのかを確かめなければ,投票回数のルールに反したとは判断できない。
3 総長予定者の決定取消しと就任後の解任申出
内規16条2項・3項は,総長予定者について,17条1項1号又は4号に該当することが明らかになった場合に,選考・監察会議が予定者の決定を取り消し,改めて決定する手続を定める。
1号は心身の故障のため職務の遂行に堪えないと認められる場合,4号はその他総長たるに適しないと認められる場合である。
取消しに先立って,予定者本人に意見陳述の機会を付与しなければならない。
得票差への不満,批判的な報道又は選考のやり直しを求める意見が存在するだけで,この取消事由を満たすわけではない。
問題となる事実,その裏付け及び本人の説明を検討し,どの要件に該当するのかを具体的に確認する必要がある。
これに対し,就任後の総長については,内規17条により,選考・監察会議が理由を付して文部科学大臣へ解任を申し出る。
同条1項2号~4号による申出には,経営協議会又は教育研究評議会の発議を要し,18条は本人への事前の意見陳述機会を定める。
2条2項が解任申出について要求する出席委員の3分の2以上の多数は,16条2項の予定者決定取消しと同じ手続を意味しない。
就任前の予定者決定取消し,改めて行う選考,就任後の解任申出及び大臣による任命・解任を区別して読むことが必要である。
第6 選考理由の公表と人事情報の守秘
国立大学法人法12条7項は,選考結果その他省令で定める事項と,選考基準の設定・変更について公表を求めている。
国立大学法人ガバナンス・コードの補充原則3-3-1①・②も,人事審議への配慮と具体的な選考理由等の公表を求めるが,同コードは法的拘束力を持つ法令ではない。
法令の公表義務,コードの原則,より丁寧な説明を求める運用上の提案は区別して扱う必要がある。
運営に関する了解事項では,議事要旨,議事録,配付資料の公開を原則としつつ,人事に関する意見交換の議事録・配付資料を非公開とするなどの例外を定める。
音声記録は公開しない取扱いである。
したがって,候補者個人の評価資料が全面公開されていないことと,選考理由を公表しなくてよいことを混同してはならない。
運営了解事項による非公開の扱いは,自主公表についての内部のルールである。
法人文書の開示請求に対しては,独立行政法人等情報公開法の不開示事由,部分開示及び保有の有無を,対象記録に即して別に判断する必要がある。
音声記録が内部で非公開とされることだけで,法律に基づく請求の結論が決まるわけではない。
録音や保存・廃棄の経過も含めた請求対象の検討は,国立大学の学長選考と情報公開で説明している。
第7 総長の任期と2026年の選考結果
総長の任期に関する規則2条により,任期は6年であり,引き続いての再任はできない。
ただし,欠員時の後任については前任者の残任期間とし,その場合に一回限りの連続再任を認める別の規定がある。
一般論として「どのような場合も6年,再任は一切できない」とまとめるのは正確ではない。
2026年9月28日の東京大学発表では,藤垣裕子氏が次期総長予定者に選出され,任期は2027年4月1日から2033年3月31日までとされている。
2026年10月3日時点では総長予定者の選出についての説明であり,就任済みの総長として扱わない。
第8 総長選考・監察会議についてよくある質問
1 意向投票で1位になれば総長になるのか
意向投票の最多得票者が自動的に総長予定者となるわけではない。
東京大学総長選考・監察会議は,意向投票の結果を総合判断の材料に含めるが,候補者資料,推薦書,面接を含む調査及び所信表明等も考慮して総長予定者を選考する。
他方で,意向投票に法的な決定力がないことを理由に,規程上の考慮要素である投票結果を無視してよいわけでもない。
2 総長選考・監察会議と監事は同じか
同じではない。
監事は法人の業務を監査し,所定の不正や法令違反等を報告する。
総長選考・監察会議は総長予定者を選考し,選考後は総長の業務執行状況の確認・中間評価等を行い,所定の場合には報告要求や解任申出を行う。
2026年10月20日,文部科学省高等教育局長は,東京大学の学長に宛てて運営方針会議で,監事に宛てて監事自身で,2026年の総長選考の経緯を検証するよう依頼した。
監事への依頼は,検証して著しく不当な事実があれば文部科学大臣に報告するよう求めるものであり,2通の依頼文書はいずれも選考をやり直すことまでは求めていない。
経緯は,東大総長選挙2026の結果の第4の4で整理している。
3 総長を任命するのは誰か
総長選考・監察会議が総長予定者を選考し,その選考による国立大学法人の申出に基づいて文部科学大臣が任命する。
意向投票,会議による選考,法人の申出及び大臣の任命は,それぞれ別の段階である。
第9 関連記事と確認資料
国立大学に共通する選考・任命,意向投票,公表義務及び監察の関係は,国立大学の学長選考-誰が決めるか,意向投票と公表義務を参照されたい。
2026年選考の理由と説明責任は,藤垣裕子氏の選出理由と意向投票1107票対553票を参照されたい。
旧制度との違いは,東大総長選考はどう変わったか―2020年の検証,2021年報告書と2026年の制度比較で扱う。
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京都大学の2026年の選考結果と説明責任は,京大総長選考2026-立川康人氏の選出理由,意向調査3位と説明責任を参照されたい。
本記事の主な根拠は,国立大学法人法11条の2,12条及び17条,東京大学掲載の国立大学法人法抜粋12条・15条,会議規則2条・5条,内規2条・3条・9条~18条,細則1項・4項~6項,任期規則2条・3条及び運営了解事項1項・2項である。
規程の本文を確認する際は,東京大学の令和8年度選考資料一覧と総長選考・監察会議の公表ページから,改正日も含めて確認されたい。
補充資料:現行細則3項及び候補者との接触に関する申し合わせ(令和8年6月19日)。令和8年10月9日確認。